2022年6月29日水曜日

野党やマスコミがいう「物価高」「インフレ」は本当か 食品とエネルギー高が実態だ 真の問題は消費喚起策の不在―【私の論評】イフンレとはどういう状態なのか、日本ではそれを意識して実体験した人も正しく記憶している人もほとんどいなくなった(゚д゚)!

日本の解き方


 参院選では「物価高」が争点となり、「岸田インフレ」と呼ぶ野党やマスコミもあるが、物価の状況などを踏まえると、日本の現状は「物価高」「インフレ」といえるのだろうか。

 5月の消費者物価指数をみると、総合指数(前年同月比、以下同じ)は2・5%上昇、生鮮食品を除く総合指数は2・1%上昇した。生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数は0・8%上昇だった。4月とほぼ同じ水準だといえる。

 5月の生鮮食品は12・3%上昇、エネルギーは17・1%上昇だった。これらが大きく上がっているので、「総合指数」と「生鮮食品を除く総合指数」がそれぞれ2%超の上昇となった半面、「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」は0・8%上昇にとどまったわけだ。

 海外をみると、「食品およびエネルギーを除く総合指数」が4~6%以上の上昇になると「インフレ」と騒ぎ出す。

 この意味で、日本のマスコミが「生鮮食品を除く総合指数」の2・1%上昇をとらえて、「インフレ目標を2カ月続けて超えた」と大騒ぎするのには、かなり違和感がある。

 そもそもインフレ目標は、2%ピタリを目指すものではない。国際的には、目標値のプラスマイナス1%は許容範囲内なので、インフレ目標を超えたという言い方はしないだろう。

 しかも、インフレ率の基調を示す「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」が0・8%の上昇なら、目標をクリアしているかどうかも怪しい。少なくとも長期にわたりクリアしているとはいえない。

 いずれにしても、今の状況で「インフレ」とは言いがたい。

 もっとも、岸田文雄首相が言うように「日本のインフレ率は欧米より低く、物価対策が功を奏している」というのも難しい。インフレ率が低いのは、日本でまだGDPギャップ(総需要と総供給の差)があるからだ。GDPギャップの存在は、まだ完全雇用を達成できていないことを意味する。つまり、補正予算を渋り、失業を容認しているわけで、岸田首相が胸を張って誇れることではない。

 電気・ガス料金や食品価格上昇に対する正統派の政策は、ガソリン税や個別消費税の減税だ。その上で、コロナ禍の行動制限で消費に回らなかった「強制貯蓄」を動かすのがいい。

 4、5月の消費者物価指数を見る限り、「強制貯蓄」はまだ動いていないとみるべきだろう。これは補正予算で、強制貯蓄を動かすための「呼び水」措置を取らなかったからだ。


 補正予算で「Go To トラベル」の再開でもしておけば、夏休みの前倒しにも、旅行需要の喚起策にもなっただろうが、岸田政権は参院選後に先送りした。その不作為が、4、5月で物価統計に変化がなかった大きな要因ではないか。

 ガソリン税や個別消費税の減税、呼び水措置を実施すれば、「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」が2~3%上昇というマイルドなインフレになるだろう。これは、同時に完全雇用に近い状況も達成できるので、マクロ経済政策としては合格点だ。

(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】イフンレとはどういう状態なのか、日本ではそれを意識して実体験した人も正しく記憶している人もほとんどいなくなった(゚д゚)!

4月にも掲載しましたが、総務省統計局の消費者物価指数の表を以下に掲載します。

クリックすると拡大します

野党や、マスコミの人は、こういう一次資料にあたる習慣がないようです。インターネットで「物価 5月」などと検索すると、このページすぐでてきます。

これを見れば、「物価(全般)上昇」ではなく「エネルギー価格と一部の品目の価格上昇」が正しい見方といえます。これだけみても、現在日本で実施すべきは、政党を超えて国民生活を考えて「消費減税など財政政策」をするべきであることがわかります。

日本がインフレといういう人は、米国などのインフレの実態を知らないのではないでしょうか。

たとえば、年収を円換算で2000万と言うと日本で暮らす感覚で考えるとすごい豊かな生活と思うかもしれませんが、1〜2年前でもサンフランシスコあたりでは独身で年収800万あってもギリギリ生活です。

ごく普通の2LDKで月家賃が50万近いともいわれています。今の米国の狂乱インフレ下では特に都市部ではもう年収2000万でも生活が苦しいかもしれません。それは下のグラフをみても容易に想像がつきます。


ニュヨークではカリフラワーが1個6ドルです。NYの家賃は今年1月までの1年間で33%もアップし、今年3月までの1年間でアメリカの消費者物価は8.5%上昇、平均時給は5.6%上昇しました。

以下に今年5月の動画を掲載します。


米国は景気が良すぎてインフレで苦しんだからこそ「金利を上げて景気にブレーキ」が必要だったのです。米国では景気後退リスクは予定通りなのですです。 日本の野党が言うように今、日本で「金利を上げて景気にブレーキ」を掛けたら日本はまたデフレスパイラルのどん底に沈むだけです。

日本が米国ほど厳しいインフレになっていないのは、政府の対策が効いているからではなく、経済の実態がデフレだからにすぎないからです。

なぜマスコミや野党の人たちがこんな簡単な理屈も理解出来ないのでしょうか。

それは結局日本では、失われた30年といわれたように、あまりにも長い間デフレが続いてしまい、それが当たり前になってしまったからではないでしょうか。

これは、古今東西で日本だけが経験した異常事態です。デフレを通常の状態と認識するのは異常なことです。デフレと聴いて、景気が悪いくらいに認識している人が多いようですが、デフレとは本来正常な経済循環(景気の良い状態、悪い状態を繰り返すこと)から逸脱した異常な状態です。

若い人はもとより、現在の企業で働く中核になっているような30歳代から50歳代の人までが、インフレを知らないのです。多くの人が恒常的なデフレ状況に慣れ親しみ、それが異常であるという意識は薄れ、当たり前になっているのでしょう。

年配の人なら知っているのかもしれませんが、それにしても60 歳代の人ですら、30年以上前というと、随分昔のことです。若い頃と現在とでは、考え方も価値観も随分変わっていると思います。インフレだった頃のことをはっきり認識している人は少ないと思います。

インフレ、デフレなど経済の状況を逐一数字を見て確認する人もさほど多くないと思います。そういう人が、物価が短期間に2%上昇したなどという報道などをみれば、物価がかなり上がったと認識するのかもしれません。

それ以上の70歳代、80歳代の人の多くは、現役を退いているでしょう。現役だった頃と、引退した後では生活様式が異なるのが当たり前です。そうなると、自分の生活の変化がデフレによるものなのか、インフレによるものなのか、あるいはそのようなことには関係がないのかも区別がつきにくいでしょう。

こうして若い人は、インフレを経験したことがなく、それ以降の世代の人もインフレだったころことは遠い昔の出来事にすぎません。

良いたとえは見つかりませんが、たとえば戦後世代がだんだん少なくなり、あと50年もすれば語り継ぐ人も少くなくなり、戦争の記憶が風化してしまうかもしれません。実体経済に関しては、30年という年月はこれに近い年月なのかもしれません。

戦争の実体験や、超インフレの体験など、誰もがはっきりと認識できるのですが、緩やかなインフレやデフレなどははっきりと認識できないのでしょう。        

デフレに戻らないように、この状況はなんとしてでも是正しなければなりません。そのためにも、インフレがどういものなのか、おりに触れてこのブログでもこれからも、触れていこうと思います。    

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