2019年4月30日火曜日

「脱原発」は世界の流れに逆行する―【私の論評】「脱原発の先進国ドイツを見習え」という考えの大間違い(゚д゚)!

「脱原発」は世界の流れに逆行する

メディアが報じない欧米・アジアの大半が「原発推進」という現実

フランス中部のサン・ローラン・ヌーアンにある、サンローラン・デ・ゾー原子力発電所
  (2015年4月20日撮影、資料写真)

2018年9月12日の日本経済新聞電子版は「世界の原発発電、30年に10%以上減少 IAEA報告」という見出しの記事を報じた。

 この見出しだけを見ると、IAEA(国際原子力機関)でさえ「脱原発」を予測しており、まさに脱原発は世界の流れなのだ、と多くの読者は思い込んでしまうだろう。

メディアリテラシーとはメデイアを安易に信用しないこと

 だが、記事本文を読むと、前段で「17年に392ギガワットだった発電容量は、最も低く見積もった場合で30年に352ギガワットまで減少すると予測」と書いているものの、後段では「最も大きく見積もった場合、原子力発電の発電容量は30年に511ギガワットに拡大するとみている」と書いている。

 要するに、IAEAの予測は、「30年までに、最低だと10%以上減少、最高だと30%以上増加」なのである。

 記事本文の全体ではバランスは取れているようだが、見出しには読者を脱原発へと誘導する恣意性を感じる。多くのマスコミ報道にはそうした傾向がある。

 バイアスのかかったマスコミ報道に踊らされないためには、個人が「メディアリテラシー」を高める必要がある。筆者は今年3月、東京・八重洲ブックセンターで開かれた西澤真理子氏の出版講演会を聴きに行ってきた。リスクコミュニケ―ションの専門コンサルタントである西澤氏は、福島第一原発(1F)事故後の2011年9月から福島県の浜通りに入り、現地で放射能に関する様々な誤解の除去に努めた人物だ。

「メディアリテラシーとはメデイアを安易に信用しないことである」

 西澤氏は講演会で歯切れよくこう語った。「メデイアリテラシー」とは、一般的には「メディアが報じる情報を主体的に読み解き、理解する能力」とされるが、さらに踏み込んで「メディアを安易に信用するな」というのである。

 というのも、「日本人はメディアに接すると、なんと7割の人が信じてしまう。ドイツは4割、米国は2割しか信じない」(西澤氏)という日本人固有の性向があるからだろう。偏向報道であっても、メディアでいったん報じられれば、それをそのまま信用しやすい性向が私たち日本人にはある。

 確かに、フィンランドの原子力施設をほんのちょっと見学してきただけで、「まだ原発を進めていかなきゃいかんという勢力がいて、これに任せてはならない」と叫び始めた小泉純一郎元首相の思い付きの言説が報じられると、その後の世論調査で約6割が原発反対(=潜在的な原発ゼロ支持)といったレポートが出てくるのが日本だ。これもその性向のせいなのかもしれない。

 原子力との付き合い方を考える上でも、まずは事実を正確に把握することは何よりも大切だ。以下では、小泉元首相も誤解ないし曲解している「脱原発は世界の流れ」であるはずの海外諸国の現況を紹介しておきたい。これらは、国内メディアで報じられることがほとんどない。

脱原発は世界の流れではない

 現在も原発を利用しており、将来的にも利用しようとしている国は、米国・フランス・中国・ロシア・インド・カナダ・英国など19カ国ある。

 現在は原発を利用していないが、将来は利用しようという国は、イスラエル・インドネシア・エジプト・サウジアラビア・タイ・トルコ・ポーランド・ヨルダン・UAEなど14カ国に上る。

 そして、現在は原発を利用しようとしているが、将来は利用を止めようとしている国は、韓国(2080年閉鎖見込み)、ドイツ(2022年閉鎖予定)、ベルギー(2025年閉鎖予定)、台湾(2025年閉鎖予定)、スイス(閉鎖時期未定)の4カ国・1地域。韓国の駐日大使館員は、米朝首脳会談の行方を勝手に楽観視しているのか、ロシアの天然ガスを北朝鮮経由パイプラインの敷設を通じて韓国に導入する予定だと公言している。

 さらに現在も将来も原発を利用しない国はイタリア(1990年閉鎖済み)、オーストリア、オーストラリアの3カ国。

 この他に、スタンスを明らかにしていない国が多数ある。

 下記に掲載した資料を見れば、原発ゼロの国や、原発ゼロを目指している国がいかに少ないか、よく分かるだろう。脱原発は「世界の流れ」にはなっていないのだ。


原発輸出に熱心なロシア

 少し長くなるが、主な諸外国の実情に触れておきたい。これは筆者が駐日の各国外交官・大使館員から聴取した話などをまとめたものだ。

<米国>
 米国のエネルギー自給率は約9割(2017年)。コスト合理性あるシェールガスや石炭を保有する一方で、原子力や再エネも進めている。トランプ大統領自身の原子力に対する関心の度合いは不明だが、側近である安全保障の専門家たち原子力推進の牽引役を担っているのは間違いない。

 近年、新型原子炉である小型モジュール原子炉(SMR)に注力し始めている。現行の大型原子炉は、1基当たりのコストが高く、建設期間が6~7年と長いので資金調達面でリスクがあるからだ。

 GE日立が進める小型モジュール炉「BWRX」(30万kW)については、低コストを理由として英国が関心を寄せている。

 また、NRCは「NEXIP」(Nuclear Energy × Innovation Promotion)と称して、次世代の原子力技術開発の検討を進めている。ビル・ゲイツ氏が出資する原子力企業テラパワー社も前向きで、日本にも秋波を送っているようだ。

<ロシア>
 ロシアは、ロシア型加圧水型原子炉「VVER」(110万kW級)を携えた「原発輸出ビジネス」を展開している。その技術水準は相当高く、国際的な評価も高い。フィンランド・オルキルオト原発4号機に係る受注を受けたという情報もある。

 ロシアは、原発を導入した当初から、核燃料サイクルの完結と高速炉の開発を積極的に進めてきており、世界的にも突出して高い技術を有している。現在、BN-600(60万kW)とBN-800(88万kW)の2基の高速炉が稼働実績を重ねてきており、大型商用炉BN-1200(120万kW)の建設も計画されている。

<中国>
 中国では18年に、AP1000(三門1号)とEPR(台山1号)の最新2タイプの原発が竣工しており、国産第3世代炉である華龍1号が建設中である。中国は、今や原子力技術も先進的であり、日本としても学ぶべき国となっている。中国国務院は、原発に関して、2020年の運転中設備容量を5800万kW、建設中設備容量を3000万kW以上とする目標を掲げている。

 フランス・オラノ社が、フランス国内のラ・アーグ再処理工場とメロックスMOX燃料加工工場をモデルとして、年間処理能力800トンという再処理・リサイクル工場を中国に建設するプロジェクトを進めている。このように、中国は核燃料サイクルにも本腰を入れ始めている一方で、天然ガスを豪州やカタールから輸入し、今後は米国からも輸入していく予定であるなど、エネルギー多様化にも注力している。

<インド>
 インドでは22基の原発(大半が国産の22万kWの小型重水炉PHWR)が稼働しているが、電源比率は3%程度に過ぎない。そして、慢性的な電力不足を補うために、大規模な原発拡大を計画中で、2024年までに発電能力を3倍に増やすとしている。しかしその実現はかなり厳しいと言える。

 現時点では新たに7基が建設中。内訳は国産の重水炉4基(カルクラパー原発、ラジャスタン原発に各2基。1基当たり70万kW以上)、ロシア製の軽水炉VVERをクダンクラム原発に2基(1基は完成済み)、国産の高速増殖炉原型炉をカルパッカム原発に1基となっている。

 それでも計画の達成には程遠いのだが、原発による発電比率が低いのは、インドが原子力供給国グループ(NSG)に加盟できていないことが大きな原因になっている。NSGとは、核兵器開発への技術転用が可能な原子力関連資機材の流通規制を目的とする国際的枠組みで、現在48カ国が加盟しているが、インドは含まれていない。そのためインドは、長らく原発に関する資材や機材の輸入が出来ない状況にあったが、2008年になってNSGのガイドラインが修正され、インドに対する関連品目の供給がようやく認められるようになったという経緯がある。

 そのため原発拡大計画を目指すインドに対して、ロシア、フランス、米国は大型軽水炉の建設を目論んでいる。今年3月には、米国からインドに向けて原発6基を輸出することで合意したと、両国政府が発表している。

原子力技術が空洞化した英国

<英国>
 英国は、北海油田の枯渇を見据えて、エネルギーの安全確保・安定供給・コスト低減による経済成長・低炭素を目指している。以前、石炭の電源比率は20%を占めていたが、今は7%にまで低減、将来的に全廃する予定になっている。原発は、2030年までに既設プラントは全て閉鎖するが、その代替として新設プラントにより電源比率30%を確保していく方針だ。

 こうした努力もあって2050年までにCO2などの温室効果ガス(GHG)を80%削減するための法律が制定されているが、すでに37%削減を達成している。電力業界では温室効果ガスの62%削減を推進し、輸送部門でEV(電気自動車)化を進める方針だ。「クリーン成長戦略」を掲げて、低炭素産業での雇用を拡大し、再エネのコスト低減も進めている。エネルギー関係の投資の半分は、安定供給・低コスト・低炭素に資する原子力に振り向けるという。

 英国はかつて原子力技術先進国だったが、長きにわたって原発新設を行ってこなかった結果、国内の原子力技術が空洞化してしまった。新設するヒンクリーポイントC原発は、フランスEDF(電力公社)によって進められることになったが、工事は順調に進んでいるようだ。

 現在、原発は15基が稼働し、電源比率は2割強。原発新設だけでなく、廃炉や放射性廃棄物・バックエンド対策も年20億ポンドを投じて進めている。特に、セラフィールドではクリーンアップ(汚染除去)に取り組んでおり、地層処分も進めている。

 日立製作所が取り組んでいたホライズン社の原発計画は延期になったが、中国がアプローチを始めているとの情報がある。また、英国のロールスロイスが小型モジュール原子炉(SMR)に関心を寄せており、小型炉で英国の原発技術の再興を目指している。カナダもSMRには前向きである。

<フランス>
 フランスは資源小国であり、エネルギー輸入量を減らすために原発を積極的に利用している。原発比率は7割に上っており、周辺諸国に原発電気の輸出も行っている。それでも、エネルギー自給率は50~55%程度というのが現状だ。

 原発は安価かつ安定な電源で、安全保障水準の向上や低炭素化にも資する。EU(欧州連合)内ではもちろんのこと、世界的にも電力コスト負担は最も低い国の一つである。特に、再エネを推進する隣国ドイツと比べても、それは一目瞭然だ。

 フランスでは、使用済み核燃料は、放射性廃棄物ではなく、「再利用率95%のリサイクル資源」と考えられている。日本と同様に、使用済み核燃料をMOX燃料に転換して利用する方向で進んでいる。

 フランス国内の原発は、19カ所・58基が稼働している。最新のものは第四世代の欧州加圧水型炉(EPR)で、フラマンビル3号(156万kW)として建設中だ。

 原発の運営主体には、EDF(電力公社)、日本からの投資も受けているオラノ社やフラマトム社、CEA(原子力庁)、ASN(原子力安全機関)、IRSN(放射線防護原子力安全研究所)、ANDRA(放射性廃棄物管理機関)などがある。福島第一原発事故後の対応として、32の追加安全基準を導入し、避難基準も新設した。

 直近の電源構成は、原子力7割、水力1割、再エネ1割、化石燃料1割となっており、今後さらに低炭素化を進めようとしている。原発に関しては投資額の大きさがネックになっているが、再エネはコストが低下しつつある。石炭・石油は今後数十年でゼロ化する予定だ。

 2025年までに原発比率50%・再エネ比率30~40%とする方針を2015年に宣言したが、2018年11月になって原発比率50%とする目標年を2025年から2035年に後ろ倒しした。原発比率が低下するのは古い原発を閉鎖するからで、新設も行うので全体の設備容量は変わらない見通し。

 フランス国内世論は、原発を受け入れることを極めて重要視している。原発の地元住民への情報公開を目的としたCLI(地方情報委員会)というものがある。様々な社会の構成員で組織され、対話や討論を促す。フランス国民は原発推進を評価しており、その便益・利益も広く理解を得られている。

2022年までの「脱原発」を決めたドイツだが・・・

<ドイツ>
 ドイツでは、再生可能エネルギーの導入を進めてきた。だが、不安定な再エネ(風力・太陽光)を補完する電源として火力発電の稼働が必要であるため、温室効果ガス排出量がなかなか減少しない。またドイツ北部に大量に導入された風力発電施設から、電力大消費地であるドイツ南部を結ぶ送電線の整備が、住民の反対があって捗っていないという問題に直面も直面している。

 2020年までに温室効果ガスを40%削減し、CO2フリー電源を50%にする計画だが、2050年までに温室効果ガスを80%削減するのは困難な見通しだ。また現在の電源構成で再エネ14%、原子力12%となっているところを、2022年までに「脱原発」を実現する予定。

ドイツ南部オブリハイムで、廃炉作業が進められる原子力発電所、2014年7月1日

 ただ、この突然の政治的決定により、電子力発電を行ってきたエネルギー会社は莫大な経済的損失を被ることになる。その損失に対する補償の規定を整備しようとしてはいるが、実際にそれが実現するか予断を許さない状況になっている。脱原発に大きく舵を切り注目を集めたドイツだが、実現の見通しはかなり険しくなっていると言えるだろう。

<東欧4カ国(チェコ・スロバキア・ポーランド・ハンガリー)>
 この4カ国は、どの原子炉が最適か、どのような資金調達方法が適切かについて、IEAに検討を依頼するなど、原発導入に向けて取り組んでいる。

 こうした動きの背景には、この4カ国がロシアの天然ガス依存に危機感を強めている一方、CO2排出量増大に繋がる石炭火力を削減するようEUから圧力を受けているという事情がある。ポーランドは、高温ガス炉についても関心を寄せている。

世界の大半は「脱原発」ではなく「原発推進」

<サウジアラビア>
 サウジアラビアでは、8基の原発新設が予定されている。米国・中国・ロシア・フランス・韓国の5カ国が受注を目指している。米国はウェスチングハウス社の受注を目指しているが、「カショギ事件」の影響がどう出るか。ロシアの原発輸出も相当進展している模様。

<アセアン>
 フィリピンでは、ロシアの原発新設が進んでいる。インドネシア・タイ・カンボジアでは、中国が原発ビジネスを進めている。

――ここまで見てきたように、世界の大半の国々は「脱原発」どころか、「原発推進」だ。上記の国々の中で唯一、脱原発に取り組んでいるドイツもかなり混乱している。

 そうした中で日本の姿は、福島第一原発の事故以来、原発についてまるで「思考停止状態」に陥っているかのように見える。

 世界の潮流に逆行しながら、未来のエネルギー戦略を正しく描けるのだろうか。次回は日本の現状と、今後取るべき方策について詳しく述べてみたい。

【私の論評】「脱原発の先進国ドイツを見習え」という考えの大間違い(゚д゚)!

冒頭の記事では、「脱原発に取り組んでいるドイツもかなり混乱」としていますが、ではどのような混乱ぶりなのか、より詳細に以下に掲載します。

『FOCUS』誌の最新号によると、INSA研究所が3月19日と20日に行ったアンケート調査の結果、回答者の44.6%が、原発の稼働年数延長に賛成を表明したといいいます。一方、3分の1の人は反対。22%が「わからない」だそうです。

あれほど自分たちの脱原発計画を礼賛していたドイツ人が、今になって「稼働延長」だの、「わからない」だのと言っているとすれば、ひどい様変わりです。

ドイツは、福島第1の原発事故の後、2022年ですべての原発を停止すると決めました。多くの日本人が手放しで賞賛したメルケル首相の「脱原発」政策です。脱原発政策自体はシュレーダー前首相の時からありましたが、それをメルケル首相が急激に早めました。

さらに彼らは今、空気を汚す褐炭による火力発電もやめ、その上、2038年には石炭火力まで全部廃止するという急進的な計画に向かって突き進んでいます。

ドイツは石炭をベースとして成り立ってきた産業国なので、石炭と褐炭の火力発電がなくなれば、炭田、発電所、そして、その関連事業の林立する地域で膨大な失業者が発生して、ドイツ全体を不景気の奈落に落とすことは目に見えています。だから、石炭・褐炭火力の廃止を決めたは良いのですが、いったい、それをどうやって実行するかは検討中のままで、なかなか結論が出ません。

その上、さらに困るのは、原発と石炭・褐炭火力のすべてが無くなれば、電力の安全供給が崩れることです。原発を止めると決めた段階でさえ、すでにそれを警告していた人や機関は多くあったにもかかわらず、主要メディアはその警告を無視し続けました。その代わりに、「自然エネルギーでドイツの電気は100%大丈夫!」という緑の党や、一部の学者や、環境保護団体の主張ばかりが報道されてきたのです。

しかし、いくら何でも、2022年というリミットが近づいてくると、そんな夢物語ばかりでは済ませられなくなってきました。

いうまでもなく、太陽光や風力といった再エネ電気は天候に左右されるので、供給が不安定です。再エネ派は、「余った電気を蓄電しておけば問題なし」というが、採算の面でも、技術の面でも、まだ、それができないから困っているのです。

大々的な蓄電方法が完成しない限り、石炭と風力以外にたいした資源を持たない産業大国ドイツが、再エネだけで電気需要を賄えないことは、少し考えれば中学生でもわかります。いくら送電線が繋がっているとはいえ、産業国の動脈である電気を、他国からの輸入に依存するわけにはいかないです。

つまり、原発と石炭・褐炭火力が本当になくなれば、頼りになるのはガスしかなく、その重要性は、将来ますます高まるわけですが、建設が遅々として進まないのです。なぜかというと、ガス火力発電所を建設しても、今の状態では、これまた採算が合わないからです。揚水発電所も同じです。

採算の合わない理由は要するに、再エネが増えすぎたせいです。再エネで発電した電気は、法律により、優先的に電力系統に入ることになっているので、太陽が照り、風が順調に吹くと、系統が満杯となります。系統が満杯になると、大停電の危険が高まるので、火力など他の発電施設が発電を絞って調整しなければならないのです。

それでも電気が余れば、捨て値で外国に流します。それを緑の党などは、「ドイツが再エネ電気の輸出国になった」と喧伝していますが、赤字分は国民の電気代に乗せられています。要するに、ドイツの電力供給の現実は、時々刻々と変化する需要に合わせて計画的に発電することが叶わず、火力の発電量も、結局、お天気任せという状態なのです。

しかも、再エネ電気の氾濫で、電気の市場値段は恒常的に押し下げられていますし、当然、火力発電の総量は減っています。だから、とくに、原価の高い天然ガスは、稼働しても絶対に赤字となるため動かせないのです。こんな状態で、新規の投資が進まないのは当然です。

稼働する石炭化学発電所。昨年9月ゲルゼンキルヒェン

4月1日に、BDEW(Bundesverband der Energie- und Wasserwirtschaft = エネルギーと水経済のドイツ連合)が、現在、建設予定の2万キロワット以上の発電施設のリストを公表しました。それによれば、進行中のプロジェクトは60以上あります。すべて、将来の電力の安定供給のためのものです。

その中で、実際に建設中のものが10ヵ所。そのうち4つが天然ガスで計57万2000kW、5ヵ所がウィンドパークで計152万8000kW、残りが、なんと、石炭火力発電所で105万2000kWもあります。石炭による発電を2038年に止めると決めたのは最近のこととはいえ、これはどうなるのでしょうか。

一方、まだ建設に取り掛かっていないプロジェクトはというと、ガス火力の19ヵ所が計画中で、8ヵ所が許可申請中、3ヵ所が認可済み。ウィンドパークは、認可済みが17プロジェクト。バイオマスは2プロジェクトが計画中。揚水発電プロジェクトは、計画中が1つで、申請中が2つ。そして、石炭とバイオマスと水素のコンビ型発電所が1カ所、申請中となっています。

しかし、BDEWのCEOシュテファン・カプフェラー氏によれば、「ドイツの市場は目下のところ、必要な発電所を建設するための条件を満たしていない」。送電線建設も、電力の安定供給も、電力系統を支えるための運営資金も、すべてがドイツのエネルギー政策の不手際の下で滞ったままなのです。

そして、「ドイツはそれを知りながら、何の対策を施すことなく、遅くとも2023年にやってくる安定供給の崩壊に向かって歩んでいる」そうです。

結局、国民が負担を強いられる

しかし、現実問題として、EUのCO2規制はどんどん厳しくなります。2018年12月のポーランドのCOP(気候変動会議)において、EUは2030年までに、1990年比でCO2を40%削減という意欲的な目標を掲げました。

ドイツは2020年までのCO2削減目標は、すでに達成できないことがわかっているのですが、この2030年の目標は絶対に守れると見栄を切っています。しかし、それが達成できるかどうかは、まさにCO2の排出の少ない発電所を十分な数、新設できるかどうかにかかっています。そうでなくては、カプフェラー氏のいう通り、安定供給が崩壊し、産業が大打撃を受けます。

BDEWの試算では、石炭火力を2030年に本当に止めるなら、その時点で再エネの発電量を全体の65%まで引き上げる必要があります。

再エネの中で頼りになるのは、太陽光ではなく、ドイツ北部、あるいはバルト海、北海などの洋上風力なので、それを南の工業地帯に運んでくる送電線も早急に建設しなければならないはずです。ところが、現在、主要な超高圧送電線は、各地で巻き起こっている住民の反対運動で、そのルートさえ定まっていない状況です。

ドイツ北海での風力発電

しかも、それと並行して、風の吹かない時や、太陽の吹かない時にすぐに立ち上げられる「お天気任せではない発電所」、つまり、ガス火力発電所の増設も必要です。

ただ、ガス火力は最終的に、お天気任せの再エネのバックアップという立場であり続けることから、待機時間が多く、儲からないです。そこで建設の費用にも、その後の待機費にも、莫大な補助金が注ぎ込まれることになるでしょう。それらは税金ではなく、すべて電気代に乗せられている「再エネ賦課金」で賄われることになるのです。

結局、国民は、再エネにもガスにも多額の負担を強いられることになるのです。

ちなみに「再エネ賦課金」は、日本の電気代にもきちんと乗せられています。再エネの買取費用もここから出ているので、将来、再エネ施設が増えれば増えるほど、「再エネ賦課金」も増えていくことになります。電力系統は、日照時間の多い日はすでに満杯になっています。ドイツの話は、対岸の火事ではありません。

かつて緑の党は、エネルギー転換による電気代の増加は、国民にとって月にアイスクリーム1個分の負担でしかないといいましたが、今やドイツの電気代は天井知らずで、EU国で1番高くなってしまいました。しかも、まだまだ上がる予定です。

ドイツ国民の間では、「脱原発」決定当時の感動はすでに雲散霧消しています。これからさらに真実が明らかになるにつれ、なぜ、あのような話を丸ごと信じてしまったのかと、夢から覚める国民はますます増えるでしょう。

欧米・アジアの大半が「原発推進」という現実と、2022年までの「脱原発」を決めたドイツが大混乱している現実を考え合わせると、脱原発などと大声で絶対善であかのように単純に主張するのはいかがなものなのかと思ってしまいます。脱原発はそのように軽々しく論じることができるものではないです。

人間は常にプラス=ベネフィット(利益)とマイナス=リスク(危険性)を考えあわせながら、現実的な判断をしてきました。原子力をやるリスクとやらないリスクがありますが、国家、社会レベルで考えたとき、ある程度のリスクがあっても、それを相殺するだけのプラスがあると思われるときには、それを実行する理性的な判断力が求められるのです。

私自身は、当面まともな代替エネルギーが出現するまでは、原発を維持するのが日本の進むべき道だと思います。それまでは、完璧な脱原発などとんでもありません。

怖いから、嫌いだから、ということだけで原発ゼロにしてしまったら、日本はどうなるでしょうか。信頼できる安定的な電気が失われると、日本は沈没してしまいます。そのようなことは、事故があるからといって、日本では自動車を使わないことにしてしまえば、どうなるかを考えあわせるとすぐにわかると思います。

ちなみに、日本国内で、事故を起こさないために、自動車の運用をすべて停止したとしたら、どうなることでしょう。日本が自動車の運用をやめても、他国はそのようなことは絶対にしません。

そうなれば、いくら通信インフラが整っていたとしても、それに物流が追いつかず我々は、江戸時代のような生活を強いられることになります。とても、まともに経済発展などできません。それだけならまだしも、現在助かるような疾病でも多くの人々が亡くなることになります。

明治維新になってはじめて、政府が日本人の平均寿命の統計をとったときの日本人の平均寿命は何歳だったかご存知ですか?実は、38歳だつたのです。新生児の死亡率の高さも平均寿命の短さに寄与していますが、それにしても信じられないような短さです。脱原発をしてしまえば、このようなことも起こり得るのです。

東日本大震災の、事故後、原発の安全性はどこまで向上したでしょうか。 世界で最も厳しい新規制基準を作ったのが、極めて高い独立性と権限を持つ原子力規制委員会と原子力規制庁です。津波防護壁の設置と建屋の防水化、電源車や可搬式ポンプ・移動式ポンプ車などの配備、過酷事故への備えも万全です。福島事故の再来があっても、必ず防ぐことができます。

その上で、現在のような不安定な再生エネルーギーではなく、新たなエネルギー源がでてくる時期を待つべきです。こんなことを言うと楽天的といわれるかもしれませんが、100年前の都市の最大の環境問題は何だったか皆さんご存知ですか?

100年前というと、一部の都市などでは、大気汚染などもで初めていましたが、最大の環境問題は馬糞の処理でした。なにせ、馬が最大の交通機関であった時代です。この問題など、もう随分前から、すべての都市で解消されています。

100年後には、原発など過去の遺物になっているかもしれません。ただし、100年後そうであるからといって、現状で単純に脱原発を推進するというのは無責任というものだと思います。

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2019年4月29日月曜日

【日本の解き方】失敗続きだった平成の日銀、バブル潰し実体経済も潰す 黒田体制で大転換も道半ば…―【私の論評】日銀の平成年間の過ちを繰り返させないように、令和ではまず日銀法を改正すべき(゚д゚)!



異次元緩和で雇用を好転させた黒田総裁だが、インフレ目標達成は道半ばだ

平成の時代、金融政策をつかさどる日銀は、バブル崩壊や日銀法改正、リーマン・ショックなどを経て、現在の黒田東彦(はるひこ)総裁体制で大きく政策転換した。

 平成はバブル絶頂期で始まった。1989年(平成元年)1月の日経平均株価は3万円台でスタートし、年末には3万8915円まで上昇、これがピークだった。

 まもなくバブルは崩壊したが、その前後において、日銀はひどかった。それは、もし現在のような「2%のインフレ目標」があったら、という思考実験をしてみれば分かる。当時はインフレ率が高くなっていなかったので、金融引き締めは不要だったはずだ。

 それなのに、「平成の鬼平」とマスコミから持ち上げられた当時の三重野康総裁は、「バブル潰し」と称して、不必要で、しかも実体経済に悪影響を及ぼす金融引き締めを行った。それは、バブルを潰すばかりか、実体経済も潰した。しかも、日銀官僚は間違わないという無謬性(むびゅうせい)神話があるために、この金融引き締めは正しいものとして、その後も引き締め基調が継続した。それが、平成デフレの引き金でもあった。

三重野康氏

 90年代半ばから、いわゆるデフレ経済に日本は陥った。見た目の名目金利は低水準だったので、多くの人は金融引き締めを意識しなかったのだが、インフレ率がマイナスになるとは、古今東西を見ても前例がほぼ皆無だった。名目金利は低くても、インフレ率がマイナスなので、実質金利は高く、経済成長は望めない状態だった。

 そうしたなか、1997年(平成9年)、日銀法が全面改正された。金融引き締めが若干改善したのは、小泉純一郎政権での2001年3月から福井俊彦総裁の下で量的緩和政策が実施されてからだった。しかし、06年3月にデフレ脱却を待たずに量的緩和が終了する。その後、日本では景気が下り坂の中で、08年9月リーマン・ショックが起こった。



 ここで、白川方明(まさあき)総裁率いる民主党政権下の日銀は、痛恨の政策ミスをしてしまった。大きな経済ショックへの対応策は、まず大胆な金融緩和だ。欧米の中央銀行は猛烈な金融緩和を行い、通貨量も大きく増加した。これに対し、日銀は動かず、円は猛烈に高くなった。リーマン・ショックでは日本は欧米に比べて直接の大きなダメージを受けなかったにもかかわらず、この円の「独歩高」が日本経済を低迷させた。

 12年12月に第2次安倍晋三政権が発足した。13年3月、黒田総裁体制になり、ようやく本格的な金融緩和が実施された。雇用の回復は驚異的であり、当初の想定どおりだ。14年の消費増税がなければインフレ目標2%もとっくに達成していただろう。

 しかし、16年9月からイールドカーブコントロール(長短金利操作)を導入したことで、以前と比べると緩和の後退となっている。このため、インフレ目標2%は達成できていない。デフレからも完全脱却とは言い難く、今一歩の状況だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日銀の平成年間の過ちを繰り返させないように、令和ではまず日銀法を改正すべき(゚д゚)!

まずは、冒頭の記事の最後のほうにある、実質的緩和の後退ともなったイールドカーブコントローについて説明します。

イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)は、2016年9月の日銀金融政策決定会合で日銀が新たに導入した政策枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の柱のひとつです。

2016年1月から始めた短期金利のマイナス金利政策に加え、10年物国債の金利が概ねゼロ%程度で推移するように買入れを行うことで短期から長期までの金利全体の動きをコントロールすることです。

日銀は指定する利回りで国債買入れを行う指値オペレーションを新たに導入するとともに、固定金利の資金供給オペレーションの期間を1年から10年に延長することによりイールドカーブ・コントロールを推進します。

イールド・カーブコントロールなどせずに、インフレ目標2%になるまで、強力に量的緩和を進めれば、短期間で達成できたのでしょうが、こうしたコントロールをしてしまったため、実質的に緩和の後退となり、いつまでも達成できない状況になったといえるでしょう。

さて、その日銀ですが、令和に入ってからはどのような金融政策を行うのてしょうか。

日本銀行は25日の金融政策決定会合後の公表文で、金融政策の指針である「フォワードガイダンス」を修正し、大規模金融緩和による超低金利を「少なくとも令和2(2020)年春頃まで」続ける方針を示しました。

また、金融緩和の副作用軽減のため金融機関が日銀からお金を借りる際に差し出す担保の基準緩和などで円滑な資金供給や市場機能の確保を可能にします。

金融政策決定会合に出席するため、日銀本店に入る黒田総裁=25日午前

国内景気を下支えするため、短期金利をマイナス0・1%、長期金利を0%程度に誘導する現行の金融緩和策は維持します。国内景気の基調判断は前回3月の決定会合での見方を維持し、海外経済減速の影響を受けながらも「穏やかな拡大を続ける」と説明しました。

併せて公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では新たに示した令和3(2021)年度の物価上昇率見通しを1・6%とし、2%の物価上昇目標の達成がさらに遅れるとの見立てを示しました。実質国内総生産(GDP)成長率見通しは1・2%としました。

フォワードガイダンスでは、2%目標の達成が後ずれすることを受け、「消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間」維持するとしていた金融政策の実施時期を明確化した形です。

また、副作用の緩和措置では、日銀が保有する上場投資信託(ETF)を市場参加者に一時的に貸し付ける制度の導入も検討します。

黒田東彦(はるひこ)総裁は25日午後に記者会見を開き、フォワードガイダンス見直しの狙いや、経済、物価の見通しについて詳しく説明しました。

日銀は16年9月に、生鮮食品を除く消費者物価上昇率が安定的に2%の物価目標を超えるまで、マネタリーベース(銀行が日本銀行に預ける当座預金と日銀券発行額の合計額、金融政策の度合いを示す指標の一つ)の拡大方針を続ける「オーバーシュート型コミットメント」を導入しています。

このコミットメントから考えれば、21年度でさえ物価上昇率は2%に及ばないのだから、20年春頃どころか21年度も、いまの超金融緩和政策を維持継続するのは当然です。

2%目標の達成にメドが全く立たない以上、市場にとって今回のフォワードガイダンスの「明確化」はなんら驚きではありませんでした。

これによる市場の無反応は、日銀も予想していたと思います。効果はないにもかかわらず、なぜ日銀はフォワードガイダンスの明確化に踏み切らなければならなかったのでしょうか。

FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを休止、また償還後の国債再購入額を減らすバランスシートの縮小も停止しました。ECB(欧州中央銀行)も年内の利上げを断念しました。
世界経済の不透明感が強まるなか欧米中銀が路線修正を模索し始めるなか、日銀が何らかの政策対応をしないことで、円高などのリスクが高まる懸念がありました。

とはいえ、マイナス金利の深掘りは、金融機関からすれば収益を圧迫するという副作用があるとみられることになるでしょう。25日の記者会見で黒田東彦総裁は、この副作用を否定していましたが、国民生活より、銀行を重視する日銀の姿勢からすれば、言葉通りに受け取る向きはほとんどいないでしょう。

しかし、これは金融機関の儲けがなくなると、金融資本市場がうまく回らないという市場関係者の思い込み(自己保身)に過ぎないものです。

実際には、日銀が金融機関から「この金利水準では儲からないから何とかしてくれ」と常日頃、愚痴を聞かされているので、それを「副作用」と表現しているだけです。日銀としては金融機関のために金融政策を行うとは言えない建前があるので、市場機能の問題を前面に出して「副作用」を説明してきました。こうした複雑な背景があるので、一般の人には日銀が何を言っているのか理解できないと思います。

金融関係者は、実質的に縮小している国債買い入れ額を再び増やせば、長期金利の低下を招く。これも金融機関の経営にマイナスに作用するとみているのでしょう。

取り得る手段としては、ETF(上場投資信託)買入額の増額ですが、これは、今後、景気が後退期に入った際や、円高が進行した際の手段としてとっておきたいのが本音なのでしょう。

結局、超低金利政策の継続期間の明示しか日銀が取り得る手段はなかったのです。

今回のフォワードガイダンスの「明確化」と市場の無反応は、金融機関の意向を重視する日銀としては、物価目標達成に向けた日銀の手詰まり感を改めて浮き彫りにしたと言えるでしょう。

日銀が金融機関を重視するのは、金融政策を行う主体であるとともに、金融機関の監督という準行政的な機能もあるからです。前者をマネタリー、後者をプルーデンスといいます。

実は、日銀内の仕事としてはマネタリーの部分はごくわずかで、多くは「銀行の中の銀行」として金融機関との各種取引を通じたプルーデンスです。プルーデンスは「日銀官僚」が天下るときにも有用であるため、日銀マンの行動に金融機関重視がビルトインされているとみたほうが良いでしょう。

銀行の収益悪化は、人工知能(AI)対応が遅れたという構造的な側面もあり、必ずしも低金利だけが原因とはいえないです。

プルーデンス重視が、マネタリーに悪影響を与えては本末転倒です。マネタリーではマクロの物価と雇用だけをみていればよく、ミクロの金融機関経営は考慮されるべきではないです。

それにしても、このままでは令和に入っても、物価目標の目処がたたないことになってしまいそうです。

令和年間は、日銀法の改正をして、日本における中央銀行の独立性を世界標準のものとして欲しいものです。

ちなみに、中央銀行の独立性とは、日本では日本国の金融政策は中央銀行が政府など他から影響を受けず中央銀行が独立して行うものと解釈されているようですが、これは世界標準からみれば、全くの間違いです。

中央銀行の独立性とは、日本国の金融政策は政府が目標を定め、この目標を達成するために日銀は専門家的立場から、目標を達成するための方法を他から独立して選ぶことがきるというものです。

日銀の独立性を世界標準にすれば、日銀がプルーデンスを重視するため、まともな金融政策が実後できず、手詰まりになるということもないかもしれません。

日銀の独立性を世界標準にするのは、日銀法を変えるだけでできます。政府は、日銀法を一日もはやく改正すべきです。そうでないと、令和年間も平成年間と同じく、日銀が金融政策を間違い続けることになりかねません。

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2019年4月28日日曜日

米、WTO抗議の日本を全面支持 首脳会談で首相が謝意 改革連携で一致―【私の論評】日本は、TPP協定の規定をWTOに採用させるべき(゚д゚)!

米、WTO抗議の日本を全面支持 首脳会談で首相が謝意 改革連携で一致

夕食会を前に記念殺意するトランプ大統領とメラニア婦人(右側)、安倍首相と昭恵夫人=26日、
ワシントンのホワイトハウス

 ジュネーブで開かれた世界貿易機関(WTO)の紛争処理機関の会合で、韓国による福島など8県産水産物輸入禁止措置をめぐってWTOの上級委員会で主張が退けられ、抗議した日本の立場について、米国が全面的に支持していたことが分かった。安倍晋三首相は26日午後(日本時間27日午前)、米ワシントンで行った日米首脳会談でトランプ大統領に謝意を伝えた。両首脳はWTO改革で日米が連携していく方針も申し合わせた。

 複数の政府関係者によると、韓国のほか米国、中国など164の加盟国・地域が参加した26日のWTOの非公式会合で、米国の代表が「日本は科学的根拠に基づき、韓国の措置がWTO協定に非整合的であることを示している」と指摘した。その上で「上級委員会が実質的な理由なく判断を覆したのは遺憾だ」と述べたという。

12日、水産物輸入禁止措置を巡り、WTOで韓国勝訴の判断が出たことを喜ぶ市民団体=2019年
4月12日 ソウル

 会合で、伊原純一駐ジュネーブ国際機関政府代表部大使は「被災地の復興の努力に水を差す。極めて残念だ」などと抗議していた。

 WTOのあり方をめぐっては、首相は米国に先立ち訪問したベルギーで「産業で大きな変化が起こっているが、WTOは変化に追いついていない」と批判していた。上級委員会に関し「議論を避ける形で結論が出たり、結論が出るまでに時間がかかりすぎる」とも語り、6月に大阪市で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でWTO改革を議論する意向を示した。

◇WTO訴訟をめぐる経緯

 東京電力福島第1原発事故後、韓国が福島など8県産水産物の輸入を禁止していることに対し、日本政府は2015年8月、不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。1審に当たる紛争処理小委員会(パネル)は昨年2月、禁輸は「不当な差別」と認めて是正を勧告したが、上級委員会は今月11日、1審の判断を破棄する報告書を出し、日本側の「逆転敗訴」が確定した。

【私の論評】日本は、TPP協定の規定をWTOに採用させるべき(゚д゚)!
4月12日、WTOの紛争解決上級委員会は、日本国政府が、放射能汚染を理由に課してきた韓国政府による日本産水産物の輸入規制を不服として訴えた件について、日本国側の主張を認めた小委員会の判決を取り消す決定を下しました。


WTOの紛争解決の仕組みでは、上級委員会が最終審となりますので、現行の制度では同決定を覆すことはできないのですが、この一件から今日のWTO、否、国際経済について議論すべき幾つかの論点が見えて来るようにも思えます。
第一の論点は、言わずもがな、WTOの紛争解決メカニズムの不備です。現代国家において採用されている三審制、あるいは、二審制の司法制度では、仮に上級審において下級審の裁判過程における不備が問題とされた場合には、同訴訟は下級審に差し戻されます。

つまり、差し戻しを受けた下級審において改めて同案件は審理され、判断が下されるのです。この場合、前判決が維持されるケースもあれば、逆の判断に至るケースもあります。ところが、現行のWTOのパネル方式の仕組みでは、差し戻しの制度が設けられておらず、下級審における不備はイコール判決の取り消しを意味してしまいます。

これでは、たとえ‘原告側’の言い分が正当であり、また、多大な被害や損害が生じていても救済の道が閉ざされているに等しく、司法面においてWTOは制度改革を要すると言わざるを得ないのです。

第二の論点は、自由貿易の推進機構として設立されたはずのWTOが、国家の輸出入規制に対して寛容な態度に転じた点です。米国のトランプ政権は、グローバリズムの原動力となってきたWTOに対しては脱退を示唆するほどに批判的でしたが、今般に見られるWTOの判決は、加盟国による貿易制限に対して好意的なのです。

上級委員会の説明によれば、第一の論点で述べたように、韓国側の規制を容認した理由は第一審である小委員会の判決手続きにありますが、仮に、自由貿易の推進を最優先とするならば、小委員会の手続き上の問題点を指摘しつつも自らが判断して然るべきです。

そうして、第三の論点は、農水産物分野における貿易規制の是非です。実のところ、韓国政府による放射能汚染を理由とした日本産水産物の輸入規制は、日本国民にとりましては、必ずしもマイナスではありません。

国民の生命に関わる食糧安全保障、並びに、国民生活と直結する農水産物の市場価格といった側面からしますと、輸出の拡大は、マイナス方向に働く傾向にあるからです。GATT時代におけるケネディ・ラウンドにあって、農産物も工業製品と等しく自由化の対象となったものの、完全なる自由化には農業の壊滅や食糧依存体質の深刻化といったリスクがあります(食糧輸入が途絶えた途端、国民は飢餓状態に…)。

日本国政府も、WTOの交渉に際しては常々高関税率を維持すべく苦心惨憺をしていますが、穀物輸出国以外の諸国にとりましては、自国の存亡にも関わるいわば‘防衛線’なのです。

こうした農産物の特殊性からすると、WTOにおける‘農産物も例外扱いせず’の姿勢が現状に適しているのか疑問なところです。むしろ、方向を転換して農産物を例外化し、自国優先の原則を認めた方が、よほど、世界は安定化するかもしれないのです。

以上に幾つかの主要な論点を述べてきましたが、WTOもまた、自由貿易原理主義的な従来の方針を見直さざるを得ない局面に至っているのかもしれません。貿易とは人々を豊かにこそすれ、食糧不安や経済的な危機を招く元凶となってはならないと思うのです。

さて、WTOは上でも述べたように、明らかに大きな欠点があります。私は、WTOは、日米が主導しつつ新たなものにつくりかえていくべきものと思います。特に、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けるべきと思います。

TPPというと、現状の中国は入りたくても入れません。中国はTPPに加入するということになれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という構造改革を実施しなければなりません。これを実行しなければ、TPPには加入できません。

この構造改革を実施することになれば、中国共産党は、統治の正当性を失うことになるでしょう。それは中共の崩壊を意味します。

米国や中国がTPPに参加しない場合でも、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けることができます。これには、EUも賛成するでしょう。

TPPのルールを世界のルールにするのです。単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定をWTOに持ち込むことには中国も反対できないでしょう。

TPPのルールが世界の貿易ルートとなれば、中国は中共を解体してもTPP協定を含む新WTOに入るか、中共を解体せず新WTOにも入らず、内にこもることになります。内にこもった場合は、中国が待つ将来は、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。その時には他国に対する影響力はほとんどなくなっているでしょう。

いずれにせよ、TPPは加盟国だけではなく世界にとって、有用な協定になる可能性が高まってきたのは事実です。

ライトハイザーUSTR代表は12日、世界貿易機関(WTO)の指針は「時代遅れ」との認識を示しました。 ライトハイザー代表は、中国の台頭やインターネットの進化など、状況が変化しているにも関わらず、WTOがなお1990年代初期の指針に基づき運営されており、「時代遅れ」と指摘。

米国はこうした問題に対処するため、WTOの改革に向け取り組んでいると語りました。 また、米国が引き続き中国との貿易ルール改善に向け取り組んでいるとしたほか、貿易問題を巡り日本や英国などと進展していきたいとの考えを示しました。

米国には、このような考え方があるわけですから、日本がWTOを改革のため、TPP協定の規定をWTOに採用するように働きかければ、元々オバマ大統領時代に、米国がTPPを推進しようとしたわけですから、これに対して米国も賛同せざるを得ないと思います。



TPP協定の規定をWTOが採用することを決めた場合、トランプ大統領がTPPに入らないとする根拠は薄弱になります。

そうなると、米国はTPPに入る可能性もでてくることになります。日本としては、米国とともにTPP協定の規定をWTOに採用するように努力すべきと思います。TPPが加盟国だけではなく米国を含む世界にとって、有用な協定になるように日本は努力すべきです。

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2019年4月27日土曜日

日米首脳、蜜月“2時間”会談 米韓“2分”との差が浮き彫りに… トランプ氏、5月訪日決断のウラ―【私の論評】会談の背後に消費税問題あり(゚д゚)!


握手する安倍首相(左)とトランプ米大統領=26日、ワシントンのホワイトハウス

安倍晋三首相は26日午後(日本時間27日早朝)、ドナルド・トランプ米大統領とワシントンのホワイトハウスで会談した。北朝鮮の非核化や拉致問題、日米同盟の深化、貿易問題など、2時間近く、相当突っ込んだやりとりをしたという。トップ同士の会談がわずか2分程度だった、トランプ氏と、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との首脳会談(11日)とは、明らかに次元が違うようだ。

 安倍首相「令和時代の最初の国賓として、トランプ氏ご夫妻をお迎えできることを大変うれしく思う」

 トランプ氏「非常に素晴らしいことで名誉だ。本当に楽しみにしている」

 両首脳による10回目の会談は、打ち解けた雰囲気のなか、両国や世界の懸案事項について、一つ一つ確認する場となった。

 「北朝鮮の非核化」については、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が25日に行った露朝首脳会談の結果を踏まえながら、「国際社会が一致して『北朝鮮の非核化』に取り組むことが重要」(安倍首相)との認識を確認した。今後の非核化プロセスについて、綿密に議論したという。北朝鮮への経済制裁は継続する。

 拉致問題については、安倍首相が、トランプ氏が2月の米朝首脳再会談で、正恩氏に問題を提起したことに謝意を伝えた。トランプ氏は「(解決に向けて)全面的に協力する」と明言した。

 日米貿易交渉については、安倍首相が「ともにウィンウィンとなる交渉を進めよう。必ずその結論を出すことができる」と伝え、トランプ氏と早期に合意を目指すことで一致したという。

 トランプ氏は、新天皇即位の重要性について、安倍首相から「(米国の国民的行事であるプロフットボールNFL王者決定戦スーパーボウルの)約百倍大事だ」と説明され、5月の訪日を決断したと語った。

 安倍首相は「日米同盟はかつてないほど強固だ。そのことを世界に力強く示す機会にしたい」と述べた。

 トランプ氏は、訪日時の相撲観戦について、「ずっと興味深いと感じてきた。優勝者にトロフィーを渡す」と興奮気味に語ったという。

 この日は、メラニア大統領夫人の誕生日で、安倍首相は昭恵夫人とともに誕生日会に出席し、翌27日にはワシントン近郊のゴルフ場でトランプ氏と一緒にプレーする。

【私の論評】会談の背後に消費税問題あり(゚д゚)!

トランプ氏はすでに5月と6月の訪日が決まっているので、今回の会談は、3カ月連続の日米首脳会談の一番最初の会談です。この異例の連続会談の裏に何があるのでしょうか。北朝鮮問題や日米通商協議がテーマと報じられたましたが、果たしてそれだけなのでしょうか。

私は、消費税引き上げ問題が絡んでいるのではないかと睨んでいます。今年10月に予定されている消費増税について、安倍晋三首相の側近でもある自民党の萩生田幹事長代行が「景況感次第で延期もあり得る」と言及し、波紋を呼んだことは先日もこのブログに掲載しました。


大阪12区、沖縄3区の衆院補欠選挙で2敗した自民党が、夏の参院選に向けて立て直しに動き始める中、3回目の「消費増税延期」というカードを切る可能性が指摘されています。その場合、衆参同日選挙が現実味を帯びます。

その決断を左右する大きな要素がトランプ米大統領の出方です。安倍首相はトランプ氏から直接、大詰めを迎えている米中貿易協議の見通しと、トランプ氏自身の増税に関する考えを聞いたうえで、増税延期を決断するかもしれないです。

決断まではいかなくても、消費税凍結あるいは見送りの有力な根拠を得た可能性が大だと思います。

日本から海外に輸出する場合、輸出企業は仕入れ時に支払った消費税の還付を受けるため、消費税がかからないです。トランプ政権はこれが輸出企業への補助金にあたり、不公平だと批判してきました。4月に行われた日米貿易交渉でも、この問題が取り上げられたと報道されています。

さらに、昨年は減税などを実施し、経済面で成果をあげたトランプ大統領からみれば、10%への増税は、恐るべきアイデアであり、最悪の選択としかみえないはずです。日本経済は成長していない上にさらに増税すれば、経済成長を取り戻すことはできなくなると感じているはずです。



トランプ政権と良好な関係を持つ安倍政権が、成長政策とは真逆の方向に進もうとしていることを残念に思っているでしょうし。日本政府が今すべきことは、消費税の増税ではなく、減税であると感じているでしょう。

外交では、トランプ大統領は安倍総理を頼りにしていますし、実際インド太平洋における安倍外交は米国をかなり助けたところがあります。インド太平洋地域には、米国の覇権を嫌う国々も多くあります。

おそらく、米国単独ではインド太平洋での中国への対峙はなかなかうまくいなかったでしょう。トランプ氏は、日本の安倍総理の橋渡しに感謝していると思います。




その安倍総理が、国内で消費増税をしようとしていることを残念に思うことでしょう。米中貿易戦争の激化、イギリスのEU離脱に伴う欧州経済の悪化など、経済運営の舵取りが難しくなる中で、今回の日米首脳会談において、トランプ氏本人の口から消費増税を批判された可能性もあります。

無論、トランプ大統領としては、安倍政権が消費増税で国民からの支持を失いレームダック化することを恐れていると思います。そうなれば、今後の中国との対決にも悪影響が出ることを懸念しているでしょう。

そうして、安倍総理自身も、6月には大阪でG20(主要20カ国・地域)首脳会議を控えています。そこでホストを務める日本の首相としても、自ら増税を決めて世界経済のリスク要因を増やすわけにはいきません。となれば、10月の消費税増税はかなり難しくなります。

安倍首相は、不安定化する景気と米国からの「圧力」、参院選に向けた自民党・政権の支持率を見極めつつ、「決断」を迫られる局面を迎えています。そうして、私としては是非とも消費税凍結を決断をして衆参同時選挙を実施していただきたいです。

そうすることにより、日米関係はさらに良好になり、国内では安倍総理は念願の憲法改正をやりやすくなります。さらに安倍総裁の四選も可能性も十分でてくるものと思います。

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安倍政権「大打撃の補選二連敗」で高まる消費増税中止の可能性―【私の論評】増税凍結、衆参同時選挙の可能性がかなり濃厚に(゚д゚)!

2019年4月26日金曜日

戦争への道も拓くトランプのイラン革命防衛隊「テロ組織」指定―【私の論評】トランプ政権はイランと事を構える気は毛頭ない。最優先は中国との対決(゚д゚)!

戦争への道も拓くトランプのイラン革命防衛隊「テロ組織」指定

岡崎研究所

 4月8日、米トランプ政権はイランの革命防衛隊を「テロ組織」に指定した。それに関するホワイトハウスの発表の概要は次の通り。

    ソ連の軍事技術や核を継承すロシアだが、そのGDPは東京都を下回り
    もはや米国と直接退治することはできないだろう。

 トランプ政権は、イランのグローバルなテロ活動に対抗すべく、イスラム革命防衛隊(IRGC)を 海外テロ組織に指定した。

 政権は、イランの支援を受けた世界中のテロに向けてより広範な対処の一環として、この前例のない措置を執る。

 政権のこの行動は、イランへの金融的圧力とイランの孤立化を高め、イランの体制がテロ活動に利用し得るリソースを奪うことになる。

 この措置は、IRGCが世界中のテロに資金を与えるべくダミー企業を運営していることを、他国の政府、民間部門に知らしめることになる。

 この措置は、米国が他国の政府組織を海外テロ組織に指定した初のケースである。指定は、イランの体制によるテロの利用がいかなる他国によるものとも根本的に異なるということを、強く示すことになる。

 イランの体制は、テロを「外交手段」の中心的道具として用い、IRGCにグローバルなテロ活動を指揮させたり実行させたりしている。

 IRGCは、テロ組織に資金、装備、訓練、兵站の支援を与えている。傘下のクッズ部隊を通じて、多くの国におけるテロ計画に関与している。

 イランの体制は、世界でも第一のテロ支援国家であり、ヒズボラ、ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦などのテロ組織を支援するのに毎年10億ドル近くを費やしている。

参考:‘President Donald J. Trump Is Holding the Iranian Regime Accountable for Its Global Campaign of Terrorism’(White House, April 8, 2019)
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-donald-j-trump-holding-iranian-regime-accountable-global-campaign-terrorism/

 今回のIRGCのテロ組織指定は、イラン核合意からの脱退をはじめとする、トランプ政権の対イラン強硬策の一環、またイスラエルの総選挙直前に発表していることを考えると、ネタニヤフ首相への支援が目的と思われる。しかし、IRGCをテロ組織に指定したことで何が達成できるのか、はっきりしない。上記ホワイトハウス発表を読んでも、よく分からない。

 トランプ政権自身も認めている通り、他国の政府機関(IRGCはイランの政府機関)をテロ組織に指定するのは異例のことである。テロ組織指定制度は、国の組織全体を指定する趣旨で作られたものではない。IRGC傘下のクッズ部隊は既に2007年にテロ組織に指定されている。この指定制度をIRGCに適用すること自体大きな問題である。IRGCは正規軍であって、非正規軍ではない。イランは徴兵制であるから、IRGCには、徴兵された人が大勢いる。これを全体としてテロ組織に指定することは、イラン人であるからという理由でテロ指定するに等しい。それに、IRGCは参加希望者の多い軍種である。その一部司令官とか部隊とかを指定するのとは話が違う。

 今回の指定には、イラン側が早速反発し、直ちに、米国をテロ支援国家、米中央軍(CENTCOM)をテロ集団とみなす、と発表した。米イラン対立は当然強まるであろうし、シーア派の民兵組織等に米軍への攻撃の「大義名分」を与えることにもなる。

 エルサレムをイスラエルの首都と認めて大使館を移転し、ゴラン高原をイスラエルの領土と認めるといった、トランプ政権の一連のイスラエル寄りの行動は、イランに、パレスチナ人とアラブ人の唯一の擁護者であるとの姿勢をとることを可能にさせてしまっている。トランプ政権が肩入れしているネタニヤフがイスラエルの総選挙で勝利し続投が決まり、ネタニヤフの冒険主義も懸念される。

 トランプ政権の中東における行動は、地域の混乱をもたらすとともに、その強硬な対イランのレトリックにも拘わらず、イランの地域における勢力伸長をかえって助けている。フィナンシャル・タイムズ紙のガードナーは、4月9日付けの記事‘Trump’s move on Iran’s Revolutionary Guard raises the temperature’で、「前例のないIRGCのテロ組織指定はイランに何の経済圧力もかけない。これはイランとの緊張を解決するためのもう一つの道を閉ざす。全てのドアが閉ざされ、外交が不可能になれば、戦争が本質的に不可避になる。」と指摘している。その通りであろう。
【私の論評】トランプ政権はイランと事を構える気は毛頭ない。最優先は中国との対決(゚д゚)!
トランプ大統領は8日の声明で「米国務省が主導するこの前例のない措置は、イランがテロ支援国家だというだけでなく、IRGCが国政の手段として積極的に資金調達し、テロを助長していることを認識してのことだ」と述べました。

トランプ大統領はさらに、今回の措置はイランに対する圧力の「範囲と規模を大幅に拡大」する狙いがあると付け加えました。

国務省によると、IRGCのテロ組織指定は今月15日に発効しました。

イラン強硬派のマイク・ポンペオ米国務長官とジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はいずれも今回の決定を支持しています。一方で、全ての米政府高官が支持したわけではありません。

ポンペオとボルトン

ポンペオ国務長官は8日、記者団に対し、アメリカは今後もイランに対し「普通の国家のように振舞う」よう制裁と圧力を続けると述べ、アメリカの同盟国に同様の措置をとるよう求めました。

「イランの指導者たちは革命家ではない。国民にはより良いものを得る権利がある。指導者たちは日和見主義者だ」

国務長官はその後のツイートで、「我々はイラン国民が自由を取り戻すため支援しなければならない」と付け加えました。

ボルトン大統領補佐官は、IRGCのテロリスト指定は「正当」だとツイートしました。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長を含む国防総省の一部高官は、米軍の安全性について懸念を示したといいます。

米軍幹部は、今回の指定がイラン経済に大きな影響を与えず、中東に駐留する米軍への暴力を引き起こす可能性があると警告しました。米中央情報局(CIA)も反対していたと報じられています。

イラン国営のイラン・ニュースネットワーク(IRINN)によると、最高安全保障委員会(SNSC)は、ジャヴァド・ザリフ外相が対応を求める書簡をハッサン・ロウハニ大統領に提出した後、アメリカ中央軍(Centcom) をテロ組織に指定すると発表しました。

中央軍は国防総省の下部組織で、特にアフガニスタン、イラク、イラン、パキスタン、シリアなどの地域における米政府の安全保障上の利益を監督しています。

2015年のIRGC集会に出席したイランのハッサン・ロウハニ大統領(左)

トランプ政権がIRGCのテロ組織への指定を検討していることが報じられた後、イランは対抗措置を取ると警告していました。

国営イラン通信(IRNA)によると、イランの国会議員290人のうち255人が署名した声明では「我々はIRGCに対するいかなる措置にも、対抗措置で応じるだろう」と強調しました。

一方、9日に総選挙を控えるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、アメリカの措置への支持を表明するツイートをしました。

中国の習近平国家主席は今月20日、訪中したイランのラリジャニ国会議長と会談し、国際情勢にかかわらず、イランと親密な関係を築きたい意向に変わりはないことを伝えました。

ラリジャニ国会議長と会談した習近平

中国外務省が21日公表した文書によると、習主席は議長に対し、中国とイランは長年にわたり友好関係をはぐくみ、相互の信頼を築いてきたと発言。「国際社会や地域の情勢がどう変わろうと、イランと包括的かつ戦略的なパートナーシップを築くという中国の決意は変わらない」と述べました。

習主席はまた、中国とイランは戦略的な信頼関係をさらに深め、中核的な利益と主要な懸念について互いに支援し続けるべきとの考えを示しました。

さらに、中東地域を安定と発展に向かわせるため、国際社会と当事国は協力すべきと主張。「中国は地域の平和と安定の維持に向けてイランが建設的な役割を果たすのを支援するとともに、地域の問題において緊密に連絡を取り、協調する用意がある」と述べました。

ラリジャニ氏とともに、イランのザンギャネ石油相、ザリフ外相も中国を訪問。19日には外相会談が行われました。

中国はイランなど中東産の石油に大きく依存する一方、中東地域の紛争あるいは外交面で中国が役割を担うことはこれまでほとんどありませんでした。しかし、最近は特にアラブ諸国における存在感を強めようと動いています。

21日からはイランと長年にわたり中東の覇権争いを続けるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が中国を訪問します。

トランプ政権はイランを孤立させ、国際社会から排除することを望んでいます。今回の決定でも、それがまた強調されたわけですが、実際にIRGCの活動に重大な影響を及ぼすことはなさそうです。

IRGCが中東地域の内外のあらゆる破壊行為に関与していると、このことに異議を唱える西側諸国の専門家はほとんどいないです。

しかし米国務省や国防総省の一部高官を含む大勢は、今回の措置について、ただ裏目に出て終わるだけではないかと懸念しているようです。

IRGCや関連組織が、イラクなどで勢力が脆弱(ぜいじゃく)な米軍やその他の標的に対して、何らかの行動を起こすことにつながる可能性があるのではないかと、専門家は心配しているのです。

トランプ政権はイランとの対立をひたすら激化したい意向で、今回の措置はその意思表示です。ただ、激化した対立はいつか、あからさまな軍事衝突に発展するのではないかという懸念もあります。

中東情勢というと、トランプ大統領による米軍のシリア電撃撤退発表は、米政府高官らも驚く突然の決定でした。その背景には、シリアをめぐって「大統領とエルドアン・トルコ大統領の思惑の一致」(ベイルート筋)という“裏取引”が浮かび上がってきました。この余波で、当時のマティス国防長官が辞任したのは記憶に新しいです。

トランプとしては、エルドアン大統領のトルコをアサド政権の拮抗勢力とみなし、トルコを支援することで、アサド政権を牽制する腹であるとみています。

そうして、これは中国との対峙に力を入れるためであると解釈しました。であれば、今回なぜ革命防衛隊を 海外テロ組織に指定したのでしょうか。

私は、これにより、トランプ政権はイランと厳しく対峙して、挙げ句の果てに本格的戦争にまでエスカレートさせる意図はないと思います。

これも表向きとは異なり、中国との対峙に専念するためのトランプ政権の布石の一つではないかと思います。

米政府はイランの「イスラム革命防衛隊(IRGC)」のテロ組織指定に関し、第三国の政府や企業・非政府組織(NGO)がIRGCと接触した場合に自動的に米の制裁対象となる事態を回避するため、例外規定を設けた。現役の米当局者3人と元当局者3人の話で明らかになっています。

例外規定によって、イラクなどの諸国の当局者がIRGCと接触した場合に必ずしも米国の査証(ビザ)発給は拒否されないことになります。例外規定については、国務省の報道官がロイターの質問に答える形で説明しました。

IRGCはイランの精鋭部隊で国内の企業活動にも深く関わっています。例外規定によって、イランで事業を行う第三国の企業の幹部らやシリア北部、イラク、イエメンで活動する人道支援団体は米制裁の対象になることを恐れずに活動が継続できるようになります。

ただ、米政府は、米国が指定した外国のテロ組織(FTO)に「物質的な支援」を提供した外国政府、企業、NGOのいかなる個人にも制裁を科す権利を留保することを明確にしています。

ポンペオ国務長官は今月15日にIRGCを正式にテロ組織に指定。IRGCやその傘下企業と取引する第三国の企業や個人だけでなく、隣国のイラクとシリアに駐在する米外交官や米軍当局者などの間にも混乱が生じました。シリアやイラクでIRGCと協力関係にある人々と接触することが可能かどうかが当初は明確ではなかったからです。

米国務省の近東および南・中央アジア両局は、テロ組織指定の前に共同でポンペオ長官にメモを送り、その影響について懸念を表明しましたが、却下されたと2人の米当局者が匿名を条件に語っています。

議会筋によると、国防総省と国土安全保障省も反対していたのですが、決定を覆すには至りませんでした。

国務省の報道官はIRGCと接触した場合、同盟国はどのような影響を受けるのかとの質問に対し、「一般的に、IRGC当局者と対話するだけではテロ活動にはならない」と回答。

「最終目的は、他の諸国や民間団体にIRGCとの取引をやめさせることだ」と述べたましたが、標的とする国名や団体名は明らかにしませんでした。

このような措置をとるくらいですから、米国はイランと本格的に対峙して、戦争も辞さないということではないと考えられくます。

私としては、米国は中国との対峙を最優先にし、イランとの対峙を二の次にして中東情勢が米国に不利になるようなことがないように、革命防衛隊をテロ組織に認定することで、イランを牽制したのだと思います。

当面イランが不穏な動きを見せた場合、金融制裁などを強化し、それでもイランが不穏な動きを止めない場合は、国境を接するトルコへの支援を強化して、イランを牽制する腹であると思います。

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2019年4月25日木曜日

いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ―【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

いまだ低いファーウェイへの信頼性、求められる対抗通信インフラ

岡崎研究所

4月12日、トランプ大統領は、ホワイト・ハウスに関係者を招き、将来の通信網5Gに関する演説を行なった。その中で、トランプ大統領は、米国は5Gの分野でリーダーとなり、どの国にも負けないよう5Gの競争において「米国は勝たなければならない(America must win)」と述べた。


 5Gについては、世界最大手の通信機器会社、中国の華為技術(ファーウェイ)に対する警戒心が諸外国で広まっている。その最中、2月28日、ファーウェイは、米国のウォールストリート・ジャーナル紙に、「聴くことすべてを信じないで。我々のところに会いに来て欲しい」と題するメディアに対する公開書簡を一面広告として掲載し、攻勢に出た。ファーウェイは、今年に入って既にニュージーランドやベルリンでも広告を出し攻勢に出ているという。ニュージーランドでは、「ファーウェイのいない5Gは、ニュージーランドのいないラグビーのようなものだ」とのキャッチ・フレーズを使って注目させた。

 ファーウェイ製品への懸念は当然であり、特に5Gシステムの整備に当たって同社を使うことは避けるべきである。通信は基幹インフラであり、国家安全保障の観点から慎重な考慮と保守的な判断が必要である。残念ながら中国の信頼度は未だ高くない。米国はファーウェイに対し強い懸念を維持し、同盟国にその製品や設備を使わないよう要請している。ファーウェイを使う場合、同盟国間の情報共有にも支障をきたすとしており、事柄は深刻である。

 豪州は5G通信整備からファーウェイ排除の方針を発表した。ニュージーランドも同様の姿勢を打ち出しているが、先般アーダーン首相が訪中し、この問題も議題になったと言われている。日本も、政府調達からは事実上排除する方針であると言われ、大手キャリアも5G基地局ではファーウェイ製品を使わない方針だと報道されている。

 問題は、欧州である。3月26日、欧州委員会は、5Gでファーウェイ製品を採用するかどうかは加盟国の判断に委ねる方針を示した。仏独などは、規制を強化しながらも、ファーウェイを通信市場から排除することはしないとの方針のようだ。が、欧州域内には慎重論もあり、EUレベルでの共同政策では今後なお慎重論が出てくるのではないかと想像される。

 他方、英国については、国家サイバー・セキュリティー・センター傘下の監督委員会の報告書が3月28日に公表された。そこでは、ファーウェイを英国の通信網で使うリスクが指摘され、将来ネットワークの中心部にファーウェイを使用すべきではないと結論づけられている。しかし、英国へのファーウェイの進出は、いつの間にか既に相当進んでいるようであり、英国の立場は揺らいでいるように見える。2月にはファーウェイの参加を認めてもリスクはコントロール可能だという政府機関の一部による判断が報道されていた。残念ながら英国は、EU離脱といい、ファーウェイ問題といい、大きく変わってしまった。自国の利益と世界での役割を大事にして、慎重に考えて欲しいものである。

 通信は、将来の基幹インフラであるので、国内通信企業の育成、支援のために政府としても必要な政策や支援を一層強化していくべきだ。そのために、新たな産業政策が必要ではないか。また、ファーウェイなどと競争していくためには、欧米企業との間での国際企業連合を組むことも考慮していくべきではないだろうか。

【私の論評】5G問題の本質は、中国の「サイバー主権」を囲い込むこと(゚д゚)!

ファーウェイ製品への懸念は当然であり、最近では米国中央情報局(CIA)が、中国の通信機器メーカー・ファーウェイが中国の国家安全保障当局から資金提供を受けていると主張しています。資金提供元として名前が挙がっているのは人民解放軍、中央国家安全委員会、国家情報網"第三支部"などです。

報告によると、CIAは今年初めに英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドで構成される諜報協定(Five Eyes)国にこの情報を提供していたとのことです。ただ、HuaweiはThe Timesへの声明において「匿名情報源からの証拠も根拠もない主張」にはコメントしないとしました。

CIAの主張は必ずしも米国の同盟国の行動を左右するものでもありません。冒頭の記事にもあるとおり英国とドイツは米国からの要請があったあとも、5Gネットワークの構築にファーウェイ機器を採用するにあたってオープンな立場を維持しています。

5G到来で生じる両陣営の衝突は、米中摩擦を一段と悪化させつつあります。これが亀裂を拡大させ、世界のより多くの国々を中国のサイバースペース・モデルに近づける可能性があります。

中国は5Gネットワークを積極的に促進しています。2013年に規制当局や企業、科学者を構成メンバーとして5Gのあらゆる側面を設計・管理する団体を設立したほか、国内で5G関連機器を販売する者が必ず試験を行わなければならない国営の施設を建造しました。

1月に開かれた会議の主催者が投稿した演説記録によると、この取り組みを主導する中国工程院の鄔賀銓氏は、5Gに関する中国の目標は「優位性を勝ち取ること」だと述べました。

中国の挑戦が突然表面化したのは、ある巨大企業がパラレルワールドの垣根を飛び越えたためです。中国の通信機器大手、ファーウェイは現在、モバイル・コンピューティング・ネットワークの設備を供給する世界最大手となっています。



米連邦議員や国家安全保障や情報問題を担当する当局者の多くは、ファーウェイが通信機器を通じて世界中で偵察活動を行い、中国の影響力を拡大するための布石を打っている可能性があると警告しています。

また米国はファーウェイが企業秘密を盗み、制裁に違反していると非難しています。トランプ政権によって同社が米国製部品の入手ルートを絶たれる可能性が高まっています。ファーウェイは不正行為を否定しています。

もし米国製部品の入手ルートを絶たれれば、中国は米国の5Gネットワークと互換性のない別バージョンを構築する可能性が高いです。米調査会社ユーラシア・グループで世界テクノロジー調査を率いている元連邦政府アナリストのポール・トリオロ氏はこう指摘しています。「世界の5G向けサプライチェーンが本当に崩壊したら、われわれは全く新しい領域に踏み出すことになる」

この分断の核心にあるのは、インターネットの管理方法についての見解の違いです。米国はオープンモデルを推進。一方、中国および同様の立場を取るロシアなどの国々は、国家が検閲やスパイ活動などを通じて国内のインターネットのトラフィックを管理すべきだと主張しています。これはいわばクローズドモデルです。

中国は「デジタル版シルクロード」と呼ぶ計画の一環として、ベトナムやタンザニアなどの国々に対し、中国製通信機器とともに同国のインターネット・モデルを輸出してきました。

昨年、タンザニア当局は中国のインターネット検閲制度を公然とたたえました。それに続き、コンテンツ配信会社が政府の要請に応じて「禁止コンテンツ」を削除しなければ、罰金や投獄などの処罰を科すというルールを承認しました。

中国は「サイバー主権」という概念を唱え、それを促進するため、国連に対するロビー活動を行ってきました。インターネット規制を国家に限定すべきだと主張する一方、業界や市民社会を脇役に押しやりました。

中国で2017年6月1日、インターネットの規制を強化する「サイバーセキュリティー法」が施行されました。中国共産党は統制の及びにくいネット上の言論が体制維持への脅威となることに危機感を抱いており、「サイバー空間主権」を標榜して締め付けを強化したのです。

同法は制定目的について「サイバー空間主権と国家の安全」などを守ると規定。「社会主義の核心的価値観」の宣伝推進を掲げ、個人や組織がインターネットを利用して「国家政権や社会主義制度」の転覆を扇動したり、「国家の分裂」をそそのかしたりすることを禁止しました。

具体的には情報ネットワークの運営者に対して利用者の実名登録を求めているほか、公安機関や国家安全機関に技術協力を行う義務も明記。「重大な突発事件」が発生した際、特定地域の通信を制限する臨時措置も認めています。



こうした規制強化について、中国は「サイバー空間主権」なる概念を打ち出して正当化しています。2016年12月に国家インターネット情報弁公室が公表した「国家サイバー空間安全戦略」は、IT革命によってサイバー空間が陸地や海洋、空などと並ぶ人類活動の新領域となり、「国家主権の重要な構成部分」だと主張。インターネットを利用した他国への内政干渉や社会動乱の扇動などに危機感を示し、「テロやスパイ、機密窃取に対抗する能力」を強化すると宣言しました。

また同弁公室は今年3月に発表した「サイバー空間国際協力戦略」でも「国連憲章が確立した主権平等の原則はサイバー空間にも適用されるべきだ」と主張。「サイバー空間主権」の擁護に向けて「軍隊に重要な役割を発揮させる」とも言及しました。

中国で活動する外資系情報通信企業の経営者は「インターネットを構築したのは米国であり、その影響は避けられない。中国のネット検閲技術も米国企業が協力したとされている」と指摘。「中国当局にはインターネットの情報を完全にコントロールできないことへのいらだちがある。サイバー空間主権を掲げることで、領土内の決定権は中国にあると強調したいのだろう」と分析しました。

中国では同日、改正版の「ネットニュース情報サービス管理規定」も施行されました。ホームページやアプリ、ブログ、ミニブログなどを通じてニュース提供サービスを行う際に、許可取得が義務付けられました。

2017年11月7日に中国で開催された世界インターネット会議にはアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)やグーグルのスンダー・ピチャイCEOが出席しました。このとき中国共産党の最高指導部メンバーである王滬寧氏は、習近平国家主席がインターネットに対する中国の見方を広めたと称賛。「国際社会から幅広い承認と前向きな反応を得られた」と述べました。

世界インターネット会議開幕式でスピーチをする馬化騰氏(2018年11月7日)


今後世界は5Gを中心として、オープンモデルの世界と、クローズドモデルの世界に分断されていく可能性が大です。クローズドモデルは闇の世界となることでしょう。

私自身は5Gの問題の本質はここにあると思います。日米などの先進国は、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進することによって、中間層を多数輩出させ、彼らに自由な経済・社会活動を保証することにより、国富を蓄積して国力を増強しました。このようなことを実現した先進国では、インターネットは当然オープンなものと受け止められているのです。

先進国は、中国も経済的に豊かになれば、先進国と同じような道を歩み、経済だけでなく社会も従来よりは格段に豊かになるだろと期待して、中国を支援してきましたが、それはことごとく裏切られました。

特に米国は、もう中国がまともな国になるとは全く信用しなくなりました。そうして、現在では、貿易戦争を挑んでいます。

当の中国は、社会構造改革などをして、まともな国になることなど全く眼中にないようで、習近平は終身主席となり、事実上の皇帝になり、19世紀から18世紀の世界に戻ったかのようです。

その中国が、5Gのクローズドモデルによって、世界中にデジタル版シルクロードを展開し、多くの国々に中国の価値観である「サイバー主権」を押し付けようとしているのです。

先進国はもとより、タンザニアや北朝鮮、中国等を除くある程度まともな国であれば、中国の価値観は耐え難いものであるはずです。結局中国は最新テクノロジーで世界の多くの国々を19世紀や18世紀の遅れた社会に戻そうとしているのです。

米国はもとより、先進国は、5G問題の本質を理解し結束し、それを多くの国々に啓蒙しつつ、中国の5G覇権を封じ込めるべきです。そうして、いずれこの世から消し去るべきです。

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2019年4月24日水曜日

孤立する金正恩氏 中国すら制裁履行で…“プーチン頼み”も失敗か 専門家「露、大して支援はしないだろう」 ―【私の論評】ロシアは、朝鮮半島の現状維持を崩すような北朝鮮支援はしないしできない(゚д゚)!


ロシア・ハサン駅に到着した正恩氏=24日(ロシア極東沿海地方政府のホームページから)

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は24日、特別列車で国境を越え、ロシア極東を訪問した。国境に接するハサン駅での歓迎式典出席後、ウラジオストクに向かった。25日にウラジーミル・プーチン大統領との初の首脳会談に臨む。2月の米朝首脳会談決裂後、最大の支援国だった中国すら国際制裁を順守する姿勢を見せるなか、正恩氏にはロシアから経済的支援を引き出す狙いがあるとみられる。ただ、専門家からは厳しい見方が出ている。

 「ロシアの地を訪れることができてうれしい。これは最初の一歩にすぎない」

 正恩氏は24日午前、ハサン駅に到着した際、こう語った。ロシアのコズロフ極東・北極圏発展相らが迎えた。

 北朝鮮の最高指導者の訪露は、金正日(キム・ジョンイル)総書記による2011年8月以来、約8年ぶりで、正恩体制では初めて。

 ロシアメディアなどによると、露朝首脳会談は25日、ウラジオストク南部のルースキー島の極東連邦大学で行われる。

 北朝鮮は、ベトナムの首都ハノイで2月末に行われた米朝首脳会談が物別れに終わった後、「対話路線」から「瀬戸際外交」に戻ったような動きを見せている。

 米国には、マイク・ポンペオ国務長官を対北交渉から外すよう要求し、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を「愚か者」と罵った。韓国には、正恩氏自らが演説で「差し出がましい」と非難した。

 ただ、国際社会による対北朝鮮制裁は厳格に維持されている。

 国連安全保障理事会の制裁対象である北朝鮮の海外出稼ぎ労働者について、中国やロシアが自国で働く労働者の半数超を北朝鮮に送還したことが3月に判明した。

 韓国紙、東亜日報(日本語版)は3月28日、中国による北朝鮮労働者送還を報じた記事で、「ある消息筋によると、北朝鮮は中国の制裁履行に不満を示したという」と指摘した。

 孤立化の気配すら漂う北朝鮮だが、ロシアへの接近で経済的支援を引き出すことができるのか。

 福井県立大学の島田洋一教授は「ロシアは最近、ベネズエラに軍事顧問団を送るなど『米国が嫌がることを何でもする』という感じだ。今回の首脳会談も、米国への牽制(けんせい)になるとみているのではないか。ただ、ロシアの財政状況が厳しいことを考えても、身銭を切るような支援は大してしないだろう」と語った。

【私の論評】露は、朝鮮半島の現状維持を崩すような北朝鮮支援はしないしできない(゚д゚)!

以前このブログで朝鮮半島情勢の根幹にあるのは、現状維持(Status quo)であることを述べました。その記事のリンクを以下に掲載します。

北朝鮮『4・15ミサイル発射』に現実味!? 「絶対に許さない」米は警告も…強行なら“戦争”リスク―【私の論評】北がミサイル発射実験を開始すれば、米・中・露に圧力をかけられ制裁がますます厳しくなるだけ(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、現状の朝鮮半島の状況がまさしく現状維持(Status quo)であることを述べた部分を以下に引用します。
北朝鮮の望みは、体制維持です。金正恩とその取り巻きの独裁体制の維持、労働党幹部が贅沢できる程度の最小限度の経済力、対外的に主体性を主張できるだけの軍事力。米国に届く核ミサイルの開発により、大統領のトランプを交渉の席に引きずり出しました。間違っても、戦争など望んでいません。 
この立場は、北朝鮮の後ろ盾の中国やロシアも同じです。習近平やウラジーミル・プーチンは生意気なこと極まりない金一族など、どうでも良いのです。ただし、朝鮮半島を敵対勢力(つまり米国)に渡すことは容認できないのです。

だから、後ろ盾になっているのです。結束して米国の半島への介入を阻止し、軍事的、経済的、外交的、その他あらゆる手段を用いて北朝鮮の体制維持を支えるのです。 
ただし、絶頂期を過ぎたとはいえ、米国の国力は世界最大です。ちなみに、ロシアの軍事力は現在でも侮れないですが、その経済力は、GDPでみると東京都を若干下回る程度です。

ロシアも中国も現状打破の時期とは思っていません。たとえば、在韓米軍がいる間、南進など考えるはずはないです。長期的にはともかく、こと半島問題に関しては、現状維持を望んでいるのです。少なくとも、今この瞬間はそうなのです。 
では、米国のほうはどうでしょうか。韓国の文在寅政権は、すべてが信用できないです。ならば、どこを基地にして北朝鮮を攻撃するのでしょうか。さらに、北の背後には中露両国が控えています。そんな状況で朝鮮戦争の再開など考えられないです。
米国の立場を掲載した部分を以下に引用します。
米国・中・露とも現状維持を望んでいるのです。韓国は中国に従属しようとしてるのですが、韓国は中国と直接国境を接しておらず、北朝鮮をはさんで接しています。そうして、北朝鮮は中国の干渉を嫌っています。そのため、韓国は米国にとってあてにはならないのですが、かといって完璧に中国に従属しているわけでもなく、その意味では韓国自体が安全保障上の空き地のような状態になっています。 
この状況は米国にとって決して悪い状態ではないです。この状況が長く続いても、米国が失うものは何もありません。最悪の自体は、中国が朝鮮半島全体を自らの覇権の及ぶ地域にすることです。これは、米国にとっても我が国にとっても最悪です。
 このような最中に、韓国だけが南北統一など、現状を変更する動きをみせたため、米国はおろか、中国・露も韓国に対して良い顔はできないわけです。北朝鮮の金正恩も現状維持を旨としています。文在寅に良い顔をしていたのは、単に制裁のがれをするためです。そのために、文を利用しただけです。

南北首脳会談を前に文とてをつなぎ軍事境界線を越えた金

韓国の文在寅は朝鮮半島情勢をリードしているつもりだったのでしょうが、結局一人芝居を演じただけでした。

最近北が、ミサイル発射実験を匂わせつつ、結局「新型戦術誘導兵器」の実験をしたという発表があっただけでした。

「新型戦術誘導兵器」の詳細は不明ですが、金委員長は昨年11月中旬、国防科学院の実験場を訪れ、「新たに開発した尖端戦術兵器の試験を指導していた」(朝鮮中央通信)ことから国防科学院で研究、開発されていた兵器であることは間違いないようです。

この時の視察でも軍事関係者では李炳哲第一副部長と朴正天砲兵司令官だけが付き添っていたことから、今回テストされた兵器はロケット戦略軍(司令官:金洛謙・陸軍大将)が使用する弾道ミサイルではなく、砲兵部隊が局地的に使用する対空砲や誘導ミサイル、もしくは攻撃用兵器の可能性が高いです。弾道ミサイルでなければ、国連決議に反せず、安保理の制裁対象ともなりません。

金正恩も、米国・中・露とも現状維持を旨としていることは理解しているのでしょう。だからこそ、現状維持を破るような以前のような、核ミサイルの頻繁な発射には踏み切れなかったのでしょう。

ただし、制裁は徐々に効きつつあり、ロシアに訪問したのは、ほんの一部でも良いので、制裁を緩和して欲しいという意向があったからでしょう。

金正恩とプーチン

ロシアも現状維持を望んでいますから、現状維持を崩すような大規模な支援はしないでしょう。ブログ冒頭の記事では、福井県立大学の島田洋一教授が「ロシアの財政状況が厳しいことを考えても、身銭を切るような支援は大してしないだろう」としています。

私は仮に、ロシアの財政状況が良かったとしても、ロシアは現状維持を崩すような規模の援助はするつもりもないし、できないと思います。

現状のロシアのGDPは韓国を多少下回る程度で、韓国のGDPは東京都と同程度です。ロシアは、旧ソ連の核兵器や軍事技術を引き継いでいるということで、決して侮ることはできませんが、それにしても東京都程度のGDPではもともとできることは限られています。

ロシアは、現状維持を崩すような北朝鮮支援は絶対にしませんし、できないでしょう。

そんなことは、最初からわかっていることなのに、それでも金正恩はロシアに赴かなけば、ならなかったのです。これ事態が制裁がかなり効いていることの証です。金正恩は、自分自自身も、朝鮮半島の現状を維持することを望んでおり、米国はもとより、周辺諸国とも事を構えるつもりはないことをプーチン大統領に伝えることで、制裁がさらに強化されることを防ぐ狙いがあるものと思われます。

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2019年4月23日火曜日

「令和おじさん」菅義偉、そろい始めたポスト安倍の3条件―【私の論評】自民議員のほとんどがマクロ経済を理解しないが故にこれは党内政治において強力な武器に(゚д゚)!

「令和おじさん」菅義偉、そろい始めたポスト安倍の3条件

川上和久(国際医療福祉大学教授)

 「亥(い)年選挙のジンクス」と言われている現象がある。亥年は、春の統一地方選と参院選が12年に1度重なる。統一地方選で地方議員が「選挙疲れ」することで、参院選で地方組織がフル回転せず、自民党が議席を思ったように取れない、というジンクスだ。

 過去の亥年選挙は、比例代表制が初めて実施された1983年の参院選では自民党が68議席を獲得しているものの、95年の参院選では46議席、2007年の参院選では37議席と惨敗している。特に、07年は第1次安倍内閣の下で行われ、安倍晋三首相退陣の引き金ともなった。

 選挙は歴史であり、その時々の政治事情が色濃く反映する。地方組織がフル回転しないで自民党の議席が伸び悩む、という仮説に対しては、「言い過ぎではないか」との批判も寄せられている。

 2019年、統一地方選の前半戦では、41道府県議選で自民党が1158議席を獲得した。過半数に達し、15年の前回選挙の獲得議席を上回った。だが、「大乱の前兆」を感じ取った人も少なくないのではないか。

 統一地方選で、本人が意識していたかどうかはともかくとして、「令和(れいわ)効果」を見せつけたのが菅義偉(よしひで)官房長官だ。11道府県知事選で唯一の与野党激突となった北海道知事選。自らの主導で38歳の鈴木直道前夕張市長を担ぎ出し、反発して他の候補を模索した自民党の道議会議員らをねじ伏せた。結果は鈴木氏が約162万票を獲得し、野党統一候補となった石川知裕元衆院議員に60万票以上の大差をつけた。

 特筆すべきは投票日前日の4月6日、札幌市で行われた演説会に菅氏が登場した時だ。「あ、令和おじさんだ!」と観衆の大注目を浴び、スマートフォンのシャッターがひっきりなしに切られていたという。

 もちろん、官房長官としての在任期間は2012年12月26日に就任してから既に6年半になろうとしており、記者会見でのやりとりがしょっちゅうニュースになる。東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者とのバトルでも、ポーカーフェースで淡々とこなす印象が強かった。

2014年8月1日、閣議前の写真撮影で、安倍首相、麻生副総理らが不在のため、
首相臨時代理として中央に座り、談笑する菅義偉官房長官

 しかし、「令和」発表記者会見での笑顔がそれを一気に覆した。ふだん官房長官の記者会見を見る人の数とは次元が違う。官房長官が「令和」を掲げた写真の号外は奪い合いの人気となり、「令和おじさん」の名前が一気に広がった。

 4月13日に新宿御苑(ぎょえん)で行われた内閣主催の「桜を見る会」でも、菅官房長官との記念撮影のために並ぶ行列がひときわ目立った。

 それにひきかえ、この間、菅氏と並び「岸破義信」と言われたポスト安倍と目される自民党の岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、加藤勝信総務会長は「令和おじさん」の前に、圧倒的に存在感を欠いた。石破氏は「令和には違和感がある」というようなコメントをして、「これだから、『安倍政治ノー』などと言い続けている左派の連中から支持される野党政治家に成り下がったと言われるんだ」と、党内からもさらに顰蹙(ひんしゅく)を買った。

 一方、菅氏と安倍政権を支える「三羽ガラス」麻生太郎副総理・財務相、二階俊博幹事長はどうか。麻生氏は、自らの地元、福岡県知事選で、現職の小川洋知事の対抗馬として元厚生労働省官僚の武内和久氏をぶつけ、安倍首相に直談判して自民党の推薦までもぎ取った。小川氏には、8年前に自分が主導して知事にしたにもかかわらず、補選の際に自分が立てた候補を応援してくれなかった意趣返しといわんばかりだ。

 あげくの果てに、麻生氏の元秘書で麻生派所属の塚田一郎前国土交通副大臣が地元の道路建設をめぐり、安倍首相と麻生氏に「忖度した」と発言し、同5日に副大臣辞任に追い込まれた。

 結果は小川氏が約129万票に対し、武内氏は約35万票とトリプルスコアで惨敗した。これでは、さすがに傲慢(ごうまん)な麻生氏も「自らの不徳の致すところ」と頭を下げざるを得なかった。

 二階幹事長は、統一地方選前半で道府議選で自民党候補が過半数を得た。ところが、地元の和歌山県議選の御坊市選挙区で、鉄壁の当選8期を誇った自らの元秘書の現職が共産党新人の元同市議に敗北するというまさかの結果となった。3年前の御坊市長選で、二階氏が現職に対して長男を立てて敗れたこともあり、地元での対立が共産党候補に敗れるという結果になってしまった。

 それに追い打ちをかけたのが、二階派の櫻田義孝五輪相の失言による辞任だ。岩手県選出の高橋比奈子衆院議員のパーティーのあいさつで、「復興よりも高橋さんが大事」と口を滑らせ、事実上の更迭となった。

 元はといえば、櫻田氏を閣僚に推挙したのは派閥領袖(りょうしゅう)の二階氏だ。安倍首相は「任命責任は私にある」と殊勝に頭を下げたが、櫻田氏を押し込み、かばい立てした挙げ句にしりぬぐいさせられた二階氏への屈託は察するに余りあるものがある。

 麻生、二階の両氏が傷つき、他のポスト安倍候補が存在感を示せない中にあって、菅氏が「令和効果」でダントツのポスト安倍候補に躍り出た。

 それにひきかえ、この間、菅氏と並び「岸破義信」と言われたポスト安倍と目される自民党の岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、加藤勝信総務会長は「令和おじさん」の前に、圧倒的に存在感を欠いた。石破氏は「令和には違和感がある」というようなコメントをして、「これだから、『安倍政治ノー』などと言い続けている左派の連中から支持される野党政治家に成り下がったと言われるんだ」と、党内からもさらに顰蹙(ひんしゅく)を買った。

 一方、菅氏と安倍政権を支える「三羽ガラス」麻生太郎副総理・財務相、二階俊博幹事長はどうか。麻生氏は、自らの地元、福岡県知事選で、現職の小川洋知事の対抗馬として元厚生労働省官僚の武内和久氏をぶつけ、安倍首相に直談判して自民党の推薦までもぎ取った。小川氏には、8年前に自分が主導して知事にしたにもかかわらず、補選の際に自分が立てた候補を応援してくれなかった意趣返しといわんばかりだ。

 あげくの果てに、麻生氏の元秘書で麻生派所属の塚田一郎前国土交通副大臣が地元の道路建設をめぐり、安倍首相と麻生氏に「忖度した」と発言し、同5日に副大臣辞任に追い込まれた。

 結果は小川氏が約129万票に対し、武内氏は約35万票とトリプルスコアで惨敗した。これでは、さすがに傲慢(ごうまん)な麻生氏も「自らの不徳の致すところ」と頭を下げざるを得なかった。

 二階幹事長は、統一地方選前半で道府議選で自民党候補が過半数を得た。ところが、地元の和歌山県議選の御坊市選挙区で、鉄壁の当選8期を誇った自らの元秘書の現職が共産党新人の元同市議に敗北するというまさかの結果となった。3年前の御坊市長選で、二階氏が現職に対して長男を立てて敗れたこともあり、地元での対立が共産党候補に敗れるという結果になってしまった。

 それに追い打ちをかけたのが、二階派の櫻田義孝五輪相の失言による辞任だ。岩手県選出の高橋比奈子衆院議員のパーティーのあいさつで、「復興よりも高橋さんが大事」と口を滑らせ、事実上の更迭となった。

 元はといえば、櫻田氏を閣僚に推挙したのは派閥領袖(りょうしゅう)の二階氏だ。安倍首相は「任命責任は私にある」と殊勝に頭を下げたが、櫻田氏を押し込み、かばい立てした挙げ句にしりぬぐいさせられた二階氏への屈託は察するに余りあるものがある。

 麻生、二階の両氏が傷つき、他のポスト安倍候補が存在感を示せない中にあって、菅氏が「令和効果」でダントツのポスト安倍候補に躍り出た。

2013年10月、衆院予算委員会に臨み、二階俊博委員長(右)に話しかける麻生太郎
副総理・財務金融相

 産経新聞社とFNNが2019年4月に実施した合同世論調査では、次期首相にふさわしいとして、菅氏が5・8%の支持を集めた。自民党の小泉進次郎厚生労働部会長の25・9%、石破氏の20・7%らに次ぐ4位に浮上した。昨年10月の調査では、菅氏への支持は2・7%で、全体の6位にすぎなかった。しかも、自民党支持層に限ると、菅氏は9・4%の支持を集めている。

 そこで思い起こされるのが、長く官房長官を務めて、首相に駆け上がった福田康夫氏の例だ。福田氏は、2000年10月27日から04年5月7日まで、森喜朗内閣、小泉純一郎内閣の二つの内閣にまたがって1289日間官房長官を務め、第1次内閣での安倍首相の退陣に伴って首相となった。

 官房長官は基本的に、首相官邸から離れることがほとんどできない。したがって、外務大臣のように、外交で華々しい脚光を浴びることもないし、幹事長のように、選挙を仕切って党内からその実力を認められることも難しい。最低限、三つの条件がかみ合わないと、たとえ官房長官を長く務めても、首相になるのは至難の業だ。

 その三つの条件は「前職が、かなり急な形で首相の座を降りる形になった」「前職の首相の後を継ぐ政治家として、適材がいない」「官房長官としての手腕を認められており、幹事長経験や重要閣僚の経験がなくても、周囲がその手腕で政権を運営することを期待される」というものだ。

 菅氏は5月9日から異例の訪米を行う。もちろん、安倍首相の指示による訪米だが、「安倍首相は、自分が万が一のときに備え、米国に『この政治家もよろしく』とサインを送っている」との見立てもある。当然、米国も菅氏が自らの国益に合致する人材かどうかを徹底的にマークし始めるだろう。

 ポスト安倍として実績を伴う存在感がある政治家はいないし、菅氏は官僚への抑えも効いている。第2、第3の条件は整っていると見ていいだろう。そこに、「亥年ジンクス」で自民党の参院選大敗、安倍首相の退陣などという事態になれば、野党支持層に人気の高い石破氏などに絶対に政権は渡せない、という思いが安倍首相にはあろう。

 菅氏は秋田県湯沢市の出身だ。これまでの歴代首相の中で、東北出身の首相は岩手県に偏っている。原敬(第19代)、斎藤実(第30代)、米内光政(第37代)、鈴木善幸(第70代)と4人の東北出身の首相はいずれも岩手県出身だ。

 「秋田県から初の首相を」という期待は地元ではいやがうえにも高まっている。令和への改元効果と統一地方選による実力者の蹉跌(さてつ)で、菅氏の存在感は高まるばかりだ。

 だが、当の菅氏は「絶対にない」とポーカーフェースを貫いている。おそらく、安倍首相が首相である限りは安倍首相を支え続ける、というスタンスを貫き続けながら、ここまで支えてくれた菅官房長官なら、自分の政治を引き継いでくれる、と思ってくれるような安倍首相との信頼関係を何より大事にしているのだろう。

2018年3月31日、衆院予算委で自らの携帯電話を楽しそうに安倍晋三首相(左)に
見せる菅義偉官房長官

 天の時、地の利、人の和。「令和おじさん」への大きな流れができつつある。後継首相として解散・総選挙を打っても、「令和おじさん」のプラスのイメージは計り知れないだろう。選挙に強い、となれば、自分が落選したくない議員たちはますます「令和おじさん」に右に倣(なら)えとなる。

【私の論評】自民議員のほとんどがマクロ経済を理解しないが故に、これは党内政治において強力な武器に(゚д゚)!


過去において、平成おじさんだった小渕恵三は、後に総理大臣となっています。だから、令和おじさんの菅氏が総理大臣になることは十分にあり得ると思います。

冒頭の記事では、最低限、三つの条件がかみ合わないと、たとえ官房長官を長く務めても、首相になるのは至難の業だとしています。

その三つの条件は「前職が、かなり急な形で首相の座を降りる形になった」「前職の首相の後を継ぐ政治家として、適材がいない」「官房長官としての手腕を認められており、幹事長経験や重要閣僚の経験がなくても、周囲がその手腕で政権を運営することを期待される」というものです。

私自身としては、安倍総裁四選の声もでている昨今、菅官房長官がすぐにこの三条件を満たして、安倍総理が現在の任期を終えたときにすぐに総理大臣になることもあながちあり得ないことではないと思います。

また、安倍総理はこの「三条件」の他に、次の総理大臣になるにはもう一つの重要な条件が必要と考えていると思います。

それは、マクロ経済への理解ではないかと思います。無論マクロ経済への理解とはいっても、経済学者のように緻密に理解しなければならないということではなく、その時々の経済情勢にあわせて、どのような財政政策と金融政策を取ればよいのか、その方向性を理解できるくらいの能力は必要と考えているのではないかと思います。

あわせて、専門家の意見を聞いて、どの人物の意見が、実体経済に即したマクロ経済的な政策を提言できるのかを判断できる能力が必要と考えていると思います。

なぜそのようなことがいえるかといえば、安倍晋三氏が、第一次安倍政権が崩壊して退陣して、第二次安倍政権が成立する直前まで、何をしていたかを知れば、理解できると思います。

安倍首相といえば、安全保障や歴史認識などの保守的なイメージが強かったのですが、この間に経済・金融政策に興味を持つようになりました。

メディアでは安倍さんは経済が苦手だとしていましたが、安倍氏はもともと細かい産業政策などチマチマした話に興味がなかったようです。安倍氏は一段高いもっと大きなことをやるべきだと考えていて、実は前政権時代から「マクロ経済に興味がある」といっていたそうです。それを第一次安倍政権が崩壊した直後5年ほど、勉強し続けていたようです。

安倍さんは東北震災後からデフレ・円高解消の勉強会をやろうと言い出し、議連をつくりました。当時から、人集めに動き出していたのです。

その後、与野党いっしょに「デフレ脱却議連」をつくりました。超党派の議連で、会長をどうするかということになって、山本幸三・衆院議員に頼まれて会長まで引き受けたのです。

そのくらいマクロ経済や金融政策に関心があったし、その頃から多数派工作も考えていたんだと思います。

安倍氏は、世界標準、グローバルスタンダードにこだわっています。金融でも規制緩和でも、それから国防軍という名前まで世界標準に合わせようとしているのです。

こういう姿勢はブレていないというより、DNAのようです。細かいところに目が行く人と、そうでない人がいます。安倍氏は、大きなことに目が行くDNAなのだと思います。そうして、これは政治家として重要です。

過去の日本の例が示すしように、マクロ経済政策が失敗している最中に、ミクロ経済政策をいろいろやってもことごとく失敗します。特に、ミクロ経済政策に関しては、企業努力でもなんとかなるところがありますが、マクロ経済政策に関しては、政治家が頑張らないと、特に政権が頑張らないとどうしようもありません。

政治家によるマクロ経済の理解がなけば、経済政策はことごとく失敗してしまいます。そのため、実際平成年間の経済政策はことごとく失敗して、平成年間のほとんど時期日本は、デフレスパイラルのどん底に沈んでいました。

平成年間の末期に安倍政権ができあがり、当初はまともなマクロ経済政策で雇用も経済も順調に伸びたのですが、2014年の消費税増税でまた経済が落ち込んでしまいました。安倍総理としては、財務省や多くの政治家、エコノミストまでが「増税しても日本経済への影響は軽微」という主張に抗えず、増税してしまったものの、その悪影響は甚大で、日本経済はデフレ基調にもどってしまいました。

         マクロ経済政策の間違いにより平成年間(1989年1月8日から2019年4月30日まで)
         のほとんどはデフレだった

その後も、消費税増税をすべきという風潮がありましたが、安倍総理は二度も増税を見送りました。私は、このブログでも掲載したように、今年10月の増税を見送り、国民の信を問うため、衆院を解散し、衆参同時選挙を実行すると思います。

マクロ経済学を理解している国会議員(候補)リストをあげると、 安倍総理、 菅官房長官 、渡辺よしみ、 馬淵澄夫、金子洋一(もと参議院議員)くらいなものです。山本幸三氏は財務省の影響が強すぎるのて、このリストには掲載できないと思います。

自民党の議員は、残念ながら次期総裁候補と見られる人々の中にも、ただの一人もマクロ経済理解者が存在しません。

そうなると、安倍総理は菅官房長官を次期、総理にと考えるのは当然のことだと思います。

ただし、二階氏が「安倍四選もあり得る」と発言していること、さらには菅氏の年齢が70歳と高齢なことから、私自身は、安倍総理が四選後に、マクロ経済政策を理解している総裁候補者が現れない限りにおいて、菅氏に白羽の矢が当たることは十分あり得るシナリオだと思います。

安倍総理が四選した場合、安倍総理は、菅氏を外務大臣もしくは幹事長などの要職につけ、総裁候補として経験を積ませるのではないかと思います。

今回の参院選(もしくは衆参同時選挙)で、自民党がボロ負けすれば、菅氏が急遽総理大臣になるというシナリオも十分あり得ると思います。

本当は、ポスト安倍の有力候補が、マクロ経済政策を理解してくれれば、このようなことにはならのでしょうが、残念ながらそうはならないのが、現実です。

自民党議員の皆さんの中で本当にマクロ経済政策を理解する人が現れ、そうして、財務省に籠絡されることなく、うまく扱える能力を身につければ、誰もが総裁候補になり得ると思います。安倍総理が再び不死鳥のように総理に返り咲くことができたのは、一重にマクロ経済の理解によるものだと思います。そうでなれば、返り咲きはあり得なかったでしょう。

安倍氏がマクロ経済を理解しているので、市場がこれを好感し、安倍氏が自民党の総裁になった途端に、まだ総理大臣にもなっておらず日本経済が円高、デフレから脱していない頃から株価が上昇しはじめたことを忘れるべきではありません。

菅官房長官が、総理大臣になったとしたら、これも、無論菅氏人柄によるところも否定できませんが、何よりもマクロ経済の理解によるものと思います。

菅氏を除くポスト安倍の候補者らが、生彩を欠くのは、やはりマクロ経済を理解していなからでしょう。彼らは、そのことを理解できないので、頓珍漢な行動をしたり、生彩を欠く結果になっていますが、なぜそうなるのかその理由を理解できないようです。

自民党の議員は、国民のためにも自分のためにも、一日もはやくマクロ経済を理解すべきです。ほとんどの自民議員がマクロ経済を理解しないが故にこれは党内政治においても強力な武器になると思います。より高いポストを得るためにも、これからは、マクロ経済の理解は欠かせないです。いくら、党内政治でうまく立ち回ろうとしても、これを欠けば、総理大臣のポストは永遠にまわつてこないと考えるべきです。

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