2018年7月23日月曜日

日銀で飛び交う「消費の低下はネット通販のせい」というトンデモ論―【私の論評】物価目標未達成の理由は単純!まだまだ量的緩和が不十分なだけ(゚д゚)!

日銀で飛び交う「消費の低下はネット通販のせい」というトンデモ論
もっと別のことを話した方が…

ドクターZ



そもそも的が外れている
「ネット通販の拡大が消費を押し下げている」

このような主旨の議論を繰り広げているのは、ほかならぬ日本銀行である。

日銀は6月18日、ネット通販の拡大が消費者物価(除く生鮮食品、エネルギー)の伸び率を0・1~0・2ポイント程度押し下げるとする試算結果を発表。ネットで過熱する価格競争が実店舗の売り上げにも影響を与えていることを指摘した。

「2%」のインフレ目標達成時期を未定としたものの、依然として物価上昇は日銀の金融政策の大きな柱だ。だが、消費者がより便利で安いものを求めるのは当然のことでもある。

このギャップを日銀はどう認識しているのか。

前提として、金融緩和政策に求められるのは「雇用の確保」である。2018年5月の完全失業率は、前月比0・3ポイント低下の2・2%で'92年10月以来の低い水準だ。

有効求人倍率も44年ぶりに1・6倍となり、正社員に限った求人倍率も1・1倍と過去最高を更新した。この点において、安倍政権における金融緩和政策は一定の結果を出しているといえる。

ただ、ここで考えておきたいのは、アベノミクスで設定されたインフレ目標とは、雇用回復のために金融緩和をやりすぎて過剰な物価上昇を避けるためにあるわけで、物価が上がらないのであれば特にこだわる必要はないことだ。

それなのに、日銀が物価を遮二無二上げようとしているのは理解に苦しむところだ。

黒田東彦総裁は、ネット通販に目くじらを立てている場合ではない。というのも、技術革新とともに、安価で大量生産が可能になっているものが世の中には溢れているわけで、市場の動向としては当然のことなのである。

むしろ、国が傾くほどの急激なインフレを心配せずに、安心して金融緩和策を続けられる絶好の環境だといえる。

東京・日本橋にある日銀本店のなかには金融記者クラブがあり、全国紙や通信社、NHKなどの経済部に属するエリート記者が多数常駐する。

この記者クラブは、他省庁のクラブ以上に日銀と距離が近いといわれるが、そんな経済記者の批判の対象は、相変わらずインフレ目標の未達についてである。ほんとうに骨のある記者ならば、日銀に対してどんどん雇用の話題を振ったらどうだろうか。

日銀にしても、国民に対して物価の上昇がうんぬんと一辺倒に語り続けるよりも、いまの雇用状況がどのように変化しているかの議論をもっとすべきである。

ちなみに、海外の中央銀行では、物価もさることながら、雇用を確保することは同等かそれ以上に重要なので、雇用に関する議論をもっと活発に行っている。

物価が上がらないと頭を抱える日銀だが、じつは金融緩和の程度を緩め、「ステルス出口戦略」を採っているとみる向きが多い。当の日銀が金融緩和に本腰を入れていないのであれば、物価が上がらないのは当然のことである。

つまるところ、ネット通販が突如として俎上に載せられたのは、このステルス出口戦略をカモフラージュするためではないかとみてとれる。

実際、日銀の幹部たちは、失業率が下がっていく一方で物価が上がらないことを内心喜んでいるのだろう。

【私の論評】物価目標未達成の理由は単純!まだまだ量的緩和が不十分なだけ(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で、問題となっている、日銀の6月18日のレビューは下のリンクからご覧いただくことができます
インターネット通販の拡大が物価に与える影響
日銀の黒田総裁は、6 月の決定会合後の記者会見で「日本の物価がなぜ上がらないのか、次回の会合と展望リポートで議論する」と述べました。上記のレビューはこれに呼応するように出されています。

日銀はこれまで、大規模な金融緩和によるマクロの需給ギャップ改善によって、物価上昇率はいずれ目標の2%に達すると主張してきました。

しかし、これが5年経っても実現していません。

日銀黒田総裁

黒田総裁は会見の席上、物価が上がりにくくなっている要因として、個人的な意見として以下の4点を挙げていました。

<原因その1>
1つは労働市場の「スラック(需給の緩み)」。失業者以外にも余剰労働力があり、一般に言われるほど労働市場の需給はタイトではない可能性を指摘しました。
<原因その2>
2つに、グローバリゼーションで、新興国などとの競争が厳しくなったため、としています。
<原因その3>
3つに、技術革新効果を挙げています。今や日本ではネット通販を利用して世界の財サービスを安く手に入れられるようになった、としています。
<原因その4>
そして4つに、日本の賃金硬直性です。つまり、景気が悪い時に賃金を下げられないので、良い時に上げない、というものです。

このほか、最近の生産性上昇についても議論がなされると見られます。

これらは日銀の分析・議論に任せるとして、ここでは「需給」についてチェックしてみたいと思います。

つまり、日銀は「需給ギャップが改善している」としていますが、経済の現場では異なることが起きている可能性もあります。

第1は、黒田総裁も指摘していた労働市場の需給です。失業率が2.5%だとか、有効求人倍率が1.59倍といった数字が独り歩きして、人手不足が喧伝され、政府の「骨太」案でも外国人労働力の受け入れを大幅に緩和する方針です。

しかし、その割に賃金が上がらず、労働者の懐は楽になりません。賃金の硬直性もありますが、労働市場の需給も数字ほどタイトではないように見えます。

日本では失業保険を申請するためにハローワークに通う「有効求職者」と、完全失業者の数がほぼ一致しています。つまり、ハローワークに失業保険申請している人を「失業者」としていますが、失業保険申請している人以外にも仕事を求めている人は少なくありません。

米国では、失業者が失業保険受給者の3倍近くいます。つまり、日本でも失業保険受給者以外の失業者を調べれば、失業率は今の2.5%から2~3倍に高まる可能性があります。

これは失業率の調査方法に問題があるためで、仕事をしたい人がこの統計からかなり漏れている可能性があります。

ここではその制約から逃れるために、別の数字を見てみます。それは「労働参加率」です。これは、15歳以上の人に占める就業者と失業者の合計の割合です。


昨年の日本の労働参加率は60.5%で、10年前の60.4%とほとんど変わっていません。そしてやはり人手不足が指摘される米国の労働参加率が63%弱です。

つまり、日本には「非労働力人口」が15歳以上人口の約4割もいることになります。定義上は「働く意欲を見せていない人」となりますが、実際は働きたくて仕事を実際に探していながら、当局に把握されていない人が少なくありません。

日本は高齢者が多く、働く意思のない老人が多いと見られがちですが、高齢者でも仕事があれば働きたいという人は少なくありません。

日本で生産年齢人口が減っているのに、就業者がずっと増え続けているのは、当局が労働力と把握していない高齢者が仕事についているため、という面も大きくなっています。

因みに、失業者を除いた就業率(15歳以上人口に占める就業者の割合)は今年4月では60.1%ですが、このうち15歳から64歳で76.7%、65歳以上で24.7%となっています。

定年を過ぎた65歳以上の就業率が目立って上昇しています。また、55歳から64歳の層も75%で、定年を65歳に延長すれば確保できる労働力も多いことを示しています。

トラック運転手など、特定の業種・労働タイプによっては、確かに人手不足はあるようです。しかしマクロではまだ「スラック(ゆるみ、たるみ)」が少なくなく、それが賃金上昇を抑えている面があります。

特に高齢者をうまく取り込めば、人手不足はかなり埋まると見られます。外国人労働力の受け入れもよいのですが、そのコストを考えると、その前にできることがありそうです。

ここまで、日銀の言う需給ギャップの改善と、経済の現場では、異なることが起きているのではないか?という考えで「労働市場の需給」をチェックしてきました。

そして、「消費市場の需給」についても同じことが言えます。

日本全体では、需要面から見たGDPが潜在GDP(供給力から見た上限のGDP)を上回り、インフレ・ギャップが発生し、これがインフレにつながるはずだ、と考えられています。

しかし、消費者物価を決める消費市場では、家計の所得が増えないため、ここでの需要が供給を下回っている可能性があります。

需要全体で見れば供給を上回る計算としても、所得面で労働分配率が低下し、需要が企業の下に溜まり、家計にはあまり分配されていません(給料が上がりません)。そのため消費市場では、需要不足になっています。

企業部門では需要超過となるところを、企業は設備投資を増やしているものの、内部留保にため込んでいるため、実現しない所得もあります。

つまり、日銀が言う「需給ギャップ」が示すほど、需給はタイトではありません。少なくとも消費市場では需要不足となっている可能性があります。

しかし現在の日本では、未だその需給が労働市場で正しく把握されていない面と、労働分配率の低下によって需要が企業側に偏在しているため、消費市場では需給が緩和されていて、値上げに踏み切れない状況にあると考えられます。

つまり、企業が賃金を抑えられていることが、消費財の値上げを困難にしている面があります。

一般的に、物価は需給で決まるとされています。

しかし日本では、その需給が労働市場で正しく把握されていない面と、労働分配率の低下によって需要が企業側に偏在しているため、消費市場では需給が緩和されていて、値上げに踏み切れない状況にあると考えられます。

つまり、賃金が未だに抑えていることが、消費財の値上げを困難にしている面があるといえそうです。

従来、日銀は日本の構造的失業率は3%であるとしてきました。しかし、私は過去の推移、特にデフレになる前の失業率から2%半ばそうして高橋洋一氏による試算でも2%半ばとしていました。

ところが、このブログでも掲載したように、本年5月の失業率は2.2%となり、2.5%を下回るものとなりました。


これは、日本の完全失業率(失業率の下限)は2.5%よりも低いことを示唆しています。ひよっとすると2.2%よりもさらに低いのかもしれません。

もしそうだとすれば、そもそも現在までの金融緩和策、その中でも量的拡大はスケールが違っていた可能性があります。そもそも、量的拡大が中途半端だという可能性があります。

だとすれば、物価目標2%が達成できないのは当然といえば当然です。だからこそ、賃金は若干あがりつつはあるものの、本調子であがっていく様子がみられないとう可能性があります。

雇用の側面からみると、やはり経営者も就労者も、あまりに長い間デフレであったというか、40歳台以下の管理者や就労者などデフレの時代しか知らないため、金融緩和によって若干人手不足になった経験など生まれて始めてであるため、現状を極端な人手不足と思い込んでいるのかもしれません。

上で述べたように、まだまだ、定年を65歳に延長すれば確保できる労働力があるにもかかわらず、十分に活用していないのでしょう。女性の労働力もまだ十分活用はされていないのでしょう。

人手不足を乗り切る方法は、単純に外国人労働者に頼る以外にも、他にもいくらでもあるはずです。

日銀としては、やはり物価目標2%を達成するまでは、さらに量的緩和を拡大していく必要があるのだと思います。

やはり、物価の上昇速度をにらみながら、さらなる量的緩和を目指すべきです。物価上昇速度を睨んでいれば、景気が加熱しすぎて、ハイパーインフレになることは防ぐことができます。

物価があがらないことを「ネット通販」のせいにしているようでは、話になりまません。再度インパクトのある緩和を実施してほしいものです。

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