2018年7月10日火曜日

トランプ米大統領、最高裁判事に保守派のカバノー氏指名―【私の論評】実は平時に世界最弱の権力者米大統領の権限強化に動くトランプ大統領(゚д゚)!

トランプ米大統領、最高裁判事に保守派のカバノー氏指名

トランプ米大統領は9日、最高裁判事候補に保守派の連邦高裁判事、ブレット・カバノー氏を指名した。

トランプ米大統領は、最高裁判事候補に保守派の連邦高裁判事、ブレット・カバノー氏(左)を指名

6月27日に退任を表明したアンソニー・ケネディ判事の後任となる。ケネディ氏は7月31日付で引退する。

53歳のカバノー氏を指名することで、トランプ大統領は最高裁での保守派優位を長年にわたり守る狙いがあるとみられる。トランプ大統領による最高裁判事指名は2人目で、昨年には保守派のニール・ゴーサッチ氏を指名している。

カバノー氏は共和党のブッシュ(子)政権下のホワイトハウスで高官を務めた後、2003年に連邦高裁判事に指名された。ただ、党派色が強すぎるとの民主党の反発で、承認まで3年を要した。



トランプ大統領はカバノー氏について「法律家の間で判事の中の判事、思想的指導者とみられている」と述べ、議会上院では「速やかな承認と超党派の強い支持」を得るべきだとの考えを示した。

上院では共和党と民主党の議席が51対49と拮抗する。ただ、共和党から造反が出なければ、民主党が承認を阻止することは困難となる。

 【私の論評】実は平時に世界最弱の権力者米大統領の権限強化に動くトランプ大統領(゚д゚)!

米国のトランプ政権の連邦最高裁人事に注目が集まっています。というのも際どい判断の雌雄を決めていた中道派判事アンソニー・ケネディ氏が引退し、任命次第では過去50年間の様々な多文化的な政策が覆されていく流れが出てくるためです。

7月9日には首都ワシントン連邦巡回区控訴裁判所のブレット・カバノー判事を指名されましたが、この人事が承認されるかどうかで、アメリカ政治・社会が一変していく可能性があります。

米国最高裁

米国最高裁は、違憲か合憲かの判断を日本の最高裁よりも積極的に行い、国の政策や社会的に重要な争点に介入する傾向があります。このため最高裁判事は、米国の政策の方向性を左右し、実質的な政治のアクターとして重要な役割を担っています。

なぜアクターになりえるのかといえば、判事の政治的傾向が極めて明確であり、憲法に基づいた司法審査(judicial review、違憲審査)も頻繁に行うためです。

高度な政治的な判断を要する争点については、司法独自の判断を控える日本などの諸国と比較すると、アメリカの裁判所は「司法積極主義」であり、国の政策や社会的に重要な争点について積極的な裁定者となる傾向があります。

最高裁判事は長官を含めて9人。トランプ政権下では保守派4人、リベラル派4人、中道派が1人でした。アメリカである程度のレベルの大学生なら、この9人の名前だけでなく、イデオロギー的傾向も言い当てることができるほど、政治に深く関与しているのが米国の最高裁判事なのです。

例えばオバマケアをめぐる2012年の最高裁判決の際には保守派のロバーツ長官がオバマケアを擁護したこともあるように、保守派やリベラル派といっても判決は判事一人一人の裁量が基本だが、それでも明らかに判決に傾向があります。

というのも、そもそも任命された過程が政治的だからです。最高裁判事は大統領が任命した後、連邦議会上院が承認します(憲法上は「助言と同意」で決めます)。つまり、大統領府と議会のバランス関係で決まってくるのです。

米国の現在の最高裁判事のうち、リベラル派の4人はいずれも民主党政権(ブライヤー、ギンズバーグがクリントン政権、ソトマイヨール、ケーガンがオバマ政権)、保守派の4人はいずれも共和党政権(トーマスがG・H・Wブッシュ政権、アリトー、ロバーツがG・Wブッシュ政権、ゴーサッチがトランプ政権)のときにいずれも任命、承認されています。

中道派のケネディは共和党のレーガン政権の1988年に任命・承認されましたが、比較的自由に裁定をする傾向で知られています。例えば、同性婚の裁判など、世論を二分する「くさび争点(wedge issue)」ではケネディがスイングボートになってきました。

この中道派のケネディ判事が81歳という高齢を理由に退任を決めました。ケネディ判事の後任として今回、カバノー氏が指名されたことで、このバランスは一気に崩れるかもしれないです。

米国最高裁判事 クリックすると拡大します

カバノー氏が指名されたのには明らかな理由があります。カバノー氏は保守派として知られており、G・W・ブッシュ元大統領から高裁判事に指名される前は、同元大統領スタッフの事務方を務めたほか、人工妊娠中絶に否定的で、環境規制の緩和を支持してきたことでも知られています。

トランプ氏の支持母体であるキリスト教福音派は、最高裁がこれまで行ってきた同性婚、妊娠中絶などについてのリベラル的な判決に強い不満を表明してきました。それもあって2016年の大統領選の期間中から、減税などの政策以上に最高裁判事の任命人事は重要な争点でした。トランプ政権を生んだ原動力は国民の3割ともいわれるこの宗教保守の結束に他ならないのです。

前のオバマ政権下では保守派4人、リベラル派4人、中道派が1人でしたが、保守派のスカリア判事が2016年2月に死亡し、保守・リベラルのバランスが崩れていました。ただ、当時は、大統領は民主党だったのですが、上院は過半数が共和党であったという「ねじれ」があったため、オバマ氏が任命した判事は上院で承認されませんでした。

トランプ氏は大統領就任後、保守派のゴーサッチ氏を任命し、上院は僅差だったのですが、同氏を承認し、リベラルと保守のバランスを保ちました(ただ、その際、上院は慣例のフィリバスター制度=少数派が多数派を止めることができる制度=の適用を最高裁判事の人事を例外にしたというルールの変更もありました)。

特筆したいのは、上述のケネディ判事以降もトランプ大統領が行う可能性がある判事任命はこれだけで終わらない点です。85歳のギンズバーグ氏や、79歳のブライヤー氏など、リベラル派の立場をとる現在の判事には高齢者が多いです。健康問題も取りざたされています。いずれも「近いうちに引退するのでは」という話も出ています。

トランプ氏の大統領任期中、さらにリベラル派から保守派への転換があれば、長期的には最高裁の判決が一気に保守化していくのは火を見るよりも明らかです。

ウォーレンが最高裁長官を務めた1950年代から60年代のいわゆる「ウォーレン・コート」(1953-1969)や、バーガーが最高裁を勤めた「バーガーコート」(1969-1986)においては、最高裁の9人の裁判官の多くが政治的にはリベラル派であり、最高裁は様々な判決で連邦政府による積極的な社会改革を先導していきました。

南部諸州の人種分離法に違憲判決を下し、公民権法制定への起爆剤となった「ブラウン対教育委員会」判決(1954年)、被疑者の人権を確保する「ミランダ対アリゾナ判決」(1966年)、人工妊娠中絶を合法化させた「ロウ対ウェード」判決(1973年)など、枚挙にいとまがありません。

一方、1980年代後半から2005年まで最高裁長官を務めたレンキスト長官の時代(「レンキスト・コート」)、そして、2005年から現在までのロバーツ長官の時代(「ロバーツ・コート」)には、保守派の裁判官の数が次第に増え、リベラル派と保守派の裁判官の数が拮抗しながらも、比較的保守的な判決が増えるようになってきました。 トランプ政権が導入した複数のイスラム圏からの入国規制措置を支持する判決を6月末に下したのは象徴的です。

この延長線上に今後の司法があります。

最高裁判事で保守の勢力が強まれば、これまでのリベラルな政策が訴訟を通じて覆される可能性があります。具体的には、上述の「ロウ対ウェード」判決以来認められてきた妊娠中絶や、2015年の最高裁判決で合法化されている同性婚の容認、医療保険制度改革(オバマケア)などが争点になってくるでしょう。

妊娠中絶などの問題で女性の権利よりもキリスト教的な生命倫理を大切にすることを意味し、キリスト教的な倫理観の地域性を重視し、連邦政府ではなく州レベルの裁定を支持する「州権主義」も顕著になるとみられます。今後同性婚だけでなく、人工妊娠中絶が一部の州では非合法となる可能性すらことがかなり現実味を帯びてきました。

「小さな政府」を好む共和党の意向を受けて、政府の経済や社会活動に関する介入を控える動きが顕著になるとみられます。連邦から州への権限委譲や、企業に対して規制緩和を進める政策が認められることも考えられます。言葉を変えれば、規制緩和や小さな政府などの政策には追い風です。

アメリカの最高裁判事の場合、地位の安定の保障のために、引退や議会で罷免されない以外は「善い行いをしている間は職務につくことができます("shall hold their offices during good behavior")」。つまり、終身制です。日本のような国民審査もありません。一度就任した判事は30年以上勤める場合が多いです。トランプ大統領は45代だが、ロバーツ長官は17代です。

終身制のため、かなり長期的にアメリカ社会を変える可能性があります。これはトランプ大統領にとっては自分の政治的遺産を長く残すことができることを意味します。トランプ大統領にとっては、自分の任期を大きく超え、最高裁を通じた永続的な「保守革命」を達成できる機会でもあるのです。

これに対して、過去50年間の様々な多文化的な政策が覆されていくのは不可避であると憂慮するリベラル派も少なくないです。そもそも連邦政府を改革するために公民権運動に代表されるような市民運動などの政治活動の第一歩として、裁判闘争戦術が採用されてきたのですが、これも難しくなるでしょう。

それにしても、なぜトランプ大統領がこのような行動をとるのか、日本と米国では制度が異なるので、理解しにくい面があると思われますので、以下に簡単に解説します。

平時においては、極端に厳格な三権分立が障害となり、米国大統領にはほとんど権限がありません。それどころか、その結果として平時には司法が最も強力になるという歪な構造になっています。司法が強いというアメリカの特殊事情は、アメリカ映画などご覧になっていれば、いわゆる「司法取引」が頻繁に行われていて日本とは異なることでもお分かりになると思います。

これは、以下の図をご覧いただければ、良くお分かりになると思います。

米国完璧な三権分立と、イギリス・日本の議院内閣制度の非核

米国ではがんじがらめの三権分立で大統領の権限を著しく弱めている

アメリカは、完全な三権分立となっており、日本のように議会と内閣が協力関係にはありせん。これが、平時のアメリカ大統領の権限を極端に弱くしています。これは日本ではなかなか理解しがたいところだと思います。なぜなら、多くの日本人には、戦中終戦直後の米国の強力な権限のある大統領のイメージがあるからです。

しかし、同じ大統領であっても、平時と戦争時において米国の大統領の権限は大きく異ることを理解しなければ、米国の大統領の権限について理解でないです。米国では、戦争権限法により議会が大統領の戦争遂行を認めると、大きな権限が大統領に集中するようになっています。

これに関しては、さらに以下の動画を参照していただれれば、良くご理解いただけるものと思います。この動画は2015/06/04 に公開されたものです。



もともと、このように平時では権限がかなり制限されているのが、米国大統領なのです。だからこそ、トランプ大統領はこれから先様々な課題に挑戦していく上でも、最高裁の保守化を何としてもすすめたいと考えているのです。

私自身は、米国の厳格な三権分立に基づいた、司法制度はいずれ改めるべきとは思いますが、それにしてもすぐには変えることはできませんから、トランプ大統領上記のような行動をとるのは当然のことと考えます。

特に中国との対決は、軍事にはよらず、貿易戦争や金融制裁によって行われることになるでしょう。米国ではドラゴンスレイヤー(対中強硬派)でさえも、中国と直接軍事対決することは現実的ではないとしています。

そうなると、トランプ政権が中国と対決する際に、最高裁が最大の障害となる可能性もあるわけてす。トランプ大統領としては、それだけは避けたいと考えているのだと思います。

アメリカの政治や社会を一変させる可能性がある最高裁判事人事は今後、どうなるのでしょうか。カバノー氏に続く、トランプ大統領の任命、さらには承認を進める上院の動きが大きく注目されます。

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