2018年7月20日金曜日

貿易戦争で中国を待つ未来 外資系企業が資本を逃避、EUや韓国は投資見直しも―【私の論評】習近平が失脚しようがしまいが、米国の対中国貿易戦争は目的を達成するまで継続される(゚д゚)!

貿易戦争で中国を待つ未来 外資系企業が資本を逃避、EUや韓国は投資見直しも 

米中両国の報復合戦で苦しくなるのは一般的にみれば中国だ 写真はブログ管理人挿入以下同じ

 米国は中国に対して追加制裁を行う方針を打ち出した。中国も報復する方針だ。両国が報復合戦をすると、それぞれの国への輸出量の差から、一般的には中国が苦しくなる。

 一方、関税と言っても、米国にとっては自国民への課税であるので、中国の輸出業者が先に音を上げるか、それとも中国製品を購入する米国民が先に参るかという我慢比べの側面もある。

 中国としては、報復関税の対象を米国で政治的パワーを持つ農産物に絞るなどして政治的な揺さぶりをかけるが、それでも、輸出量の差から不利にならざるを得ない。

 中国が報復関税ではなく、人民元の為替レートを操作すると、米国が為替や資本の自由化を持ちだしてくるので、これも中国にとって分が悪くなる。こうして中国が不利な状態で米国と貿易戦争をしている限りでは、日本が漁夫の利を得る可能性もある。

 そうなると、米中貿易戦争は、欧州連合(EU)、韓国など米中以外の国にどのような影響が出てくるのか。これらの国も、基本的には米中間で報復関税をしている間は静観の姿勢であり、米中のとばっちりが自国に来ないように注意するだけだ。

 そこで、まず、米国の対中輸入品目をみよう。従来の軽工業品に加え、近年、電気機器(電話用アプリ、テレビ受像機など)、機械類(自動データ処理機械、コンピューター部品など)のシェアが増加している。これらの中国製品の大半は、中国に進出した外資系企業によって生産されている。

 トランプ大統領が中国から米国への輸出品に関税をかけ続けると、これらの外資系企業は、どうなるだろうか。もともと、安価な労働力を利用して対米輸出するために中国に進出したのであるから、その目的が達成できないとなると、中国進出をあきらめ、他の国へ資本を振り向けるだろう。

 中国の安価な労働力も、中国が経済発展するにつれてそれほど魅力的な水準ではなくなっている。しかも、中国に進出した外資系企業についても、習近平思想を強要する動きもある。企業内に共産党委員会の設置を義務付けたことだ。

 こうした状況になると、中国ではなく、東南アジアなどに進出先を変更する動きも出てくるだろう。実際、日本企業でも、中国リスクを考慮して、ベトナムで展開するという動きがある。

 対中国への投資を国別に見ると、7割が香港、次いで台湾、シンガポール、日本、韓国、米国となっている。香港を経由して多くの国から対中国投資が行われている。その中には、EUからの対中投資も少なくない。先日の本コラムで書いたように、中国は人民元を安く操作しているが、これも中国からの資本逃避を促す。

 EUや韓国などは対中投資を見直すだろう。そうした資本逃避は、中国の成長エネルギー源を失わせるので、長い目で見れば中国経済に打撃を与えるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】習近平が失脚しようがしまいが、米国の対中国貿易戦争は目的を達成するまで継続される(゚д゚)!

今月6日、トランプ米大統領が知的財産権侵害に対する報復の第1弾として340億ドル分の対中輸入品に対して25%の追加関税を発動したのに対し、習近平政権はただちに同額の対米輸入品に同率の報復関税をかけました。

報復品目には農産物が多く、大豆やトウモロコシが代表的ですが、よほど品目探しに苦労したのか、鶏の足や豚の内臓まで加えました。いずれも米国内ではほとんど消費者に見向きもされずに、廃棄されていたのですが、巨大な中国需要に合わせて輸出されるようになりました。

米国ではゴミとして捨てられていた鳥足が、中国ではごちそうになる・・・・

習政権は、屑(くず)に値がついて、ほくほく顔だった米国の養鶏農家に打撃を与え、養鶏地帯を選挙地盤とするトランプ支持の米共和党議員への政治的メッセージになると踏んで、報復リストに加えたのでしょうが、これは中国人民の胃袋も直撃することになります。

どのくらいの量の鶏足が米国から対中輸出されているのかは不明ですが、国連食料・農業機構(FAO)統計(2016年)では鶏の飼育数は中国の50億羽に対し、米国は20億羽に上ります。そのうち約1割の足が中国向けだとすると、約4億本が中国人の胃袋におさまる計算になります。

それに対して高関税が適用されると、輸入が減り、かなりの品不足に陥ることになります。13億羽の鶏を生産するブラジルが代替源になるかもしれないですが、増産態勢が整うまでには長い時間がかかるはずです。すると、需給の法則で鶏足の値が上がることになります。

さらに、中国人民全体の食にもっと広汎で深刻な影響が及びそうなのは、もちろん大豆です。米国の対中大豆輸出量は昨年3300万トンで、同5000万トンを超えるブラジルに次ぎますが、中国の国内生産は1400万トンに過ぎないです。


米国産は中国の大豆総需要のうち、約3割を占めています。輸入大豆は搾って食用油になり、粕が豚や鶏の餌になります。米国の大豆産地が鶏と同様、中西部のトランプ支持基盤とはいえ、その輸入制限は、中国人民の胃袋と家計を直撃することになります。

折も折、中国経済は減速局面に突入し、上海株価の急落が続いています。トランプ政権は10日には2000億ドルに上る追加制裁品目を発表しました。中国の対米輸入1600億ドルを大きく上回り、報復しようとすれば対米輸入全品目を対象にするしかなくなります。

17日付の産経新聞朝刊によれば、中国の国営メディアは習氏への個人崇拝批判を示唆、習氏の名前を冠した思想教育も突然中止されるなどの異変が相次いでいるといいます。米国との貿易戦争に伴って景気悪化で所得が下がるうえに、胃袋も満たせないと大衆の不満は募ることになります。そこで独裁権力を強める習氏への党内の批判が噴出する気配です。

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事にあるように、米中貿易戦争は、中国からの資本逃避を促し、中国の成長エネルギー源を失わせ、さらに人民の胃袋と家計を直撃することになります。

米中戦争がさらにエスカレートすれば、米国は金融制裁に打って出ることになります。貿易戦争でも、金融制裁でも中国には全く勝ち目はありません。勝ち目のない戦にいどまなければならなくなったのは習近平の自業自得といえるます。

こういう事態を招いた、責任の大きな部分は習近平の対米戦略を見誤ったことにあります。オバマ政権の初期が中国に対して非常に融和的であったことから、習近平政権が米国をみくびった結果、鄧小平が続けてきた「韜光養晦(とうこうようかい:「才能を隠して、内に力を蓄える)」という中国の外交・安保の方針)」戦略を捨て、今世紀半ばには一流の軍隊を持つ中国の特色ある現代社会主義強国として米国と並び立ち、しのぐ国家になるとの野望を隠さなくなりました。

オバマの戦略的忍耐は美しい空言にすぎず、中国を増長させることになった

このことが米国の対中警戒感を一気に上昇させ、トランプ政権の対中強硬路線を勢いづけることになりました。

1976年10月、毛沢東の後継者として中国の最高指導者の地位に就いた華国鋒は、自らに対する個人崇拝の提唱や独断的な経済政策を推進したため、当時の党内の実力者、鄧小平ら長老派と対立しました。

78年末に開かれた党の中央総会で華が推進する政策が実質的に否定されたあと、影響力が低下し始めました。華はその後も党内から批判され続け、側近が次々と失脚するなか、約3年後に自らが辞任する形で政治の表舞台から去りました。

華国鋒

今年7月末から8月中旬にかけて、河北省の避暑地、北戴河で党長老も参加する党の重要会議があります。習派と反習派が激しく衝突する可能性があります。

ただ、現在は、78年当時と違って、いまの党内の反対派の中に、鄧小平のような軍内でも影響力がある大物政治家がいません。直近で習近平降ろし成功するとはとても思えません。

しかし、そのことがさらに中国内での習近平派と反習近平派の争いを激化させる可能性もあります。

まもなく観光シーズンのピークを迎える北戴河 昨年7月27日

反習近平派は、米国の対中国貿易戦争を習近平叩きに利用することでしょう。ただし、それが功を奏し、習近平を失脚させたとしても、米国による貿易戦争は継続されることでしょう。

なぜなら、米国トランプ政権の今回の貿易戦争の目的は、中国の現在の体制では民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていないので、そもそも自由貿易などはできない体制であり、この体制を変えさせるか、変えないままであれば中国を経済的に凋落させ、影響力のない存在にすることだからです。

習近平体制であろうが、なかろうが、この米国の路線は継続され、中国はいずれかの道を選ばなければない状況に追い込まれます。

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