2018年7月9日月曜日

中国の急所は人民元自由化 米制裁を無効化する通貨安、トランプ政権が追及するか―【私の論評】米国の対中貿易戦争は始まったばかり!今後金融制裁も含め長期間続くことに(゚д゚)!

中国の急所は人民元自由化 米制裁を無効化する通貨安、トランプ政権が追及するか


USDCNYのチャート

 米中貿易摩擦を背景に、人民元相場の下落が起きている。

 まず、基本的な数字を押さえておこう。2016年の米国の世界に対する輸出額は1兆4500億ドル(約160兆円)、世界からの輸入額は2兆2500億ドル(約250兆円)、貿易赤字8000億ドル(約90兆円)だ。中国向けは輸出のうち8%で、金額は1160億ドル(約13兆円)、輸入のうち21%で金額は4820億ドル(約53兆円)、貿易赤字は3660億ドル(約40兆円)だ。米国の貿易赤字のうち大半は中国である。ちなみに対日赤字は700億ドル(約8兆円)にすぎない。

 米国は、こうした状況に政治的な不満があり、中国の知的財産権侵害に対する制裁関税を発動する。具体的には、500億ドル(5・5兆円)のうち、まず340億ドル分の中国製品に25%の追加関税を課す。中国も同額の追加関税との報復関税で対抗する。

 両国は水面下では交渉しているとみられるが、どうやら中国は人民元の操作も行っているようだ。人民元レートは変動相場制ではなく、中国政府がコントロールしている管理相場だ。4月以降、徐々に下落して今では6%程度も安くなっている。

 米国では利上げをしており、変動相場であってもドル高に振れやすい。実際、中国以外の新興国でも為替はドル高に向かっているので、人民元安を中国当局が容認しているともいえる。

 米国が関税をかけて中国が人民元を安くすると、米国の購入者はどうなるか。米国では中国からの輸入分のうち1割程度に25%の関税がかかるが、全品目は6%安くなる。つまり、1割程度は20%程度価格が高くなるが、残り9割で6%安くなる。その結果、中国からの輸入がどうなるか。輸入品の価格弾力性、つまり価格に応じた輸入量の変動にもよるが、かえって増える可能性もある。短期的には米国の対中貿易赤字はさらに拡大する可能性もあるのだ。

 米国としては、中国が人民元を操作して元安になると、政治目的である対中貿易赤字の削減を達成できなくなる。となると、人民元操作をやめさせるような手段にでるかもしれない。それは、人民元の自由化である。

 国際金融のトリレンマ(三すくみ)として知られているが、「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」のうち2つだけを受容することができる。中国は、「自由な資本移動」は共産党一党独裁体制を揺るがすために選択できず、「固定相場制」と「独立した金融政策」の組み合わせだ。ここで、完全な人民元の自由化を求めることは、「自由な資本移動」と同じ意味になる。

 10年ほど前、人民元改革と称して、変動相場制に移行すると思われた時期もあったが、結局資本移動の自由に立ち入ることはできなかった。

 人民元の自由化は、中国にとっては触れられたくないところだ。しかも、それを誘発する人民元安は、中国にとっても資本流出の引き金になりかねない。トランプ政権が中国の弱点をついてくるのか、それとも、中国がその前に折れて、何らかの妥協策を打ち出すのか、なかなか興味深いところだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】米国の対中貿易戦争は始まったばかり!今後金融制裁も含め長期間続くことに(゚д゚)!

米中貿易戦争悪化に伴い人民元相場が急落しました。その原因は上の記事には掲載されていませんが、キャピタルフライトであると予想できます。これに対応する形で中国当局は国有銀行に通貨防衛のための為替介入をさせました。

現状度は、貿易戦争悪化し、そのために中国の輸出の冷え込み企業業績悪化、そのため株価下落し、海外投資家が離脱、そうして人民元売りドル買いという負の連鎖が起きているわけです。

また、これに連動する形での国内勢の動きもあると考えられます。中国政府は2015年の中国株式バブル崩壊以降、外貨規制を強化し、国内からのドルの持ち出しを厳しく規制していました。

個人の両替規制を年間5万元(83万円程度)に制限し、破ったものに対して制裁を課すようにしました。企業に対しても、基本届け出制にして、500万ドル以上の取引に関しては、より厳しい審査を課すことにしました。

中国の両替所

これにより、一旦は収まったかに見えた人民元に対する不安が、再び市場を襲っているののです。中国の対外債務は1兆7,106億ドル(2017年末)、それに対して外貨準備高が3兆1106億ドル(2018年5月末)です。

外貨準備とは、自国通貨売りなどに備え、外貨が不足したときに使う保険のようなもので、これがなくなると、通貨危機が発生しやすくなります。

そうして、この外貨準備は対外債務に合わせた額が必要とされます。中国の場合、表面的な数字だけを見れば、対外債務の2倍近い外貨準備があるので、全く問題がないように見えます。

しかし、実は中国の場合、外貨準備の内容がわからず、実際に使える額が全く見えません。日本の場合、外貨準備のほぼすべてが米国債で構成され、保有者は政府と日銀であるため、全額を為替介入などに利用することができます。

それに対して、中国の場合、米国債は1,2兆ドル程度しかなく、国有銀行保有分が含まれているのです。基本的に、外貨準備というのは外貨をいくら持っているかであり、それが借金であろうとも外貨である限り、外貨準備にカウントされます。

中国では、国有銀行保有分の多くが海外からの借り入れが原資であると思われ、信用不安の際には一気に失われる可能性があります。

ちなみに、中国の対外債務1兆7106億ドルの内、1兆ドル程度が短期の債務とされており、一気に返さなくてはいけなくなる可能性もあります。

そして、中国の外貨準備の内、米国債は1兆2000億ドル程度(米国財務省)しかなく、ドルだけで見ればその差額は2000億ドル程度しかないのである。実際には他国資産をドルに換えることができるので、それ以上の規模になるが、その中身が全くわからないのです。

そして、今回の通貨防衛の介入も非常にイレギュラーな形で行われました。これは中央銀行ではなく、国有銀行がNDF市場(ドル建てデリバティブ)でドル先物を買い、ほぼ同額を現物市場に流す形で行われたのです。

これは中央銀行が自由に使える外貨準備を持っていないことの証左であるといえます。そして、これを続ける限り、外貨準備が失われ続け、通貨危機のリスクは上がってゆくことになります。

為替介入でも、自国通貨売り外貨買いの介入(通貨安)であれば、自国通貨は自由に手に入るため、何の問題もないのですが、通貨防衛のための介入は、他国の通貨を必要とするため限界があります。

そして、この状況から抜け出すには、基礎的条件の改善(対米貿易の拡大など)や通貨スワップによる他国の通貨保証が必要になるわけですが、現在の米中の状況からすれば非常に厳しいといえるでしょう。

そして、それ以外の方法としては、やはり人民元を完全に自由化し、為替介入をせず、人民元を温存するという方法がありますが、この場合、人民元は暴落し、外貨建て債務を持つ企業などの破綻と輸入品の高騰によるインフレと国内の混乱が待っているでしょう。

このように考えると、中国が経済に対するダメージをなるべく軽くし、体制維持を最優先させようとすれば、貿易戦争は避けなければならないです。つまり、中国は市場を開放し、米国産業の「よいお客さん」になるのが最善策です。

しかし、国が破たんするよりはその方が痛みは少ないと考えられます。なぜなら、米中貿易戦争に中国が屈しなければ、次のステージは金融戦争であり、これは米国が圧倒的に有利な戦いだからです。

現在でも、世界の金融市場におけるアメリカの支配体制は続いています。今も世界の債権の約60%はドル建てであり、当たり前ですが、ドルで借りたものはドルで返さなければならないです。つまり、各国の金融機関にとって、ドルが手に入らなくなるということは破綻を意味するわけです。

マカオのバンコ・デルタ・アジアという銀行は、北朝鮮の資金洗浄に関与していることが発覚し、アメリカとの送金契約が消滅、破綻危機に陥り国有化されました。また、フランス最大の銀行であるBNPパリバは、アメリカの制裁対象国との取引を理由に、1兆円近い制裁金支払いと為替関連取引の1年間の禁止を命じられ、大打撃を受けました。

マカオのバンコ・デルタ・アジア

ドル支配体制においてドルが手に入らなければ、石油や天然ガスなど資源取引の決済もできなくなります。国によっては、国家破綻の危機に直面することにもなりかねないです。

世界各国、特に先進国の中で、食料や資源を100%自給できている国は少ないです。中国の食料自給率は85%以下といわれていますが、米国から穀物を買えない事態になれば、13億の人民は飢餓に苦しむことになります。

だからこそ、中国はドル支配体制からの脱却を目指し、人民元の国際化を進めていました。IMFの特別引出権(SDR)の構成通貨入りも、そういった流れの中で推し進められたものです。

2016年、人民元はSDRの5番目の構成通貨として採用されましたが、ドルは米国の通過であるため、人民元がSDR入りしていても、米国かドル決済を禁じれば中国経済は破綻に追い込まれることになります。

ドルで資源を買うことができなければ、軍艦を出動させることもできなくなり、これまでの「中国は今後も発展していく」という幻想は根底から覆されることになります。そして、その段階においても対立が融和しない場合、アメリカは金融制裁をさらに強めるだけでしょう。

現在、世界の銀行ランキング(資産額ベース)で中国の銀行が1位、2位、4位、5位を占めており、チャイナマネーは一見強大に見えます。しかし、思い出してほしい。かつて、バブル期には日本のメガバンクが世界を席巻し、そのほとんどが世界トップ10に入っていました。今は、ゆうちょ銀行が20位内と三菱東京UFJ銀行が4位に食い込むのみです。

世界のトップ銀行ランキング

いわゆるバブルマネーによって、中国経済は本来の実力以上に大きく見られてきましたが、バブルが崩壊し、同時にアメリカが前述のような金融制裁を強めたら、どうなるでしょうか。当然、一気にこれまでの体制が瓦解し、中国は奈落の底に落ちることになります。

そうした構造をよくわかっているため、中国はアメリカのドル支配から抜け出そうとしているわけです。アジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行(BRICS銀行)の創設を主導し、さまざまな二国間投資を推進することによって、アメリカに頼らない体制をつくりたがっています。

そうして、その動きを必死に否定しているのが日米であり、同時にASEAN(東南アジア諸国連合)の各国も日米に連動するかたちで自国の権益を守ろうとしています。

そういった世界の流れを鑑みると、米中の軍事衝突で、軍事力はもとより、金融力からいっても中国に軍配があがることはありません。

ただし、米国ではドラゴンスレイヤー(対中強硬派)でさえも、中国と武力衝突するのはあまり現実的ではないとみているようですから、彼らは貿易戦争、そうして金融戦争により、中国の夢を砕くことになるでしょう。

彼らの最終目標は、現在の中国の体制を崩壊させ、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめさせることです。それは、中国の現在の共産党一党独裁、最近では習近平の独裁体制が崩壊することを意味います。いずれ中国はそのような道を辿らざるを得なくなるでしょう。

米国のドラゴンスレイヤーたちは、共和党の中にも民主党の中にも存在します。習近平が独裁政治を目指して体制を整えた現状では、パンダハガー(対中国融和派)の分はかなり悪いです。

米中貿易戦争は未だ始まったばかりですが、息の長い長期のものになることは確かです。習近平は、米国がオバマ大統領だったときに主席になっています。オバマ大統領のときには、オバマの戦略的忍耐で米国は中国が挑発しても、黙って見過ごしてきました。

しかし、トランプ以降の米国はそんなことはないでしょう。中国が自ら、体制を変え、米国が納得するまで長期わたって制裁が続くことになります。いずれ中国は南シナ海、尖閣どころではなくなるでしょう。

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