2018年7月5日木曜日

中国の横暴に甘い対応しかとらなかった日米欧 G7は保護主義中国に対して結束せよ―【私の論評】最大の顧客を怒らせてしまった中国は、その報いを受けることに!虚勢を張れるのもいまのうちだけ?

中国の横暴に甘い対応しかとらなかった日米欧 G7は保護主義中国に対して結束せよ

(注:この記事は6月15日のものです)

 今月8日から2日間、カナダで先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開かれる。鉄鋼・アルミなどの輸入制限を発動した米国に対して欧州が強く反発し、トランプ米大統領が孤立する情勢だが、仲間割れする場合ではない。

 正論は麻生太郎財務相の発言だ。麻生氏は先に開かれたG7財務相会議後の会見で、中国を名指しに「ルールを無視していろいろやっている」と批判、G7は協調して中国に対し国際ルールを守るよう促す必要があると指摘した上で、世界貿易機関(WTO)に違反するような米輸入制限はG7の団結を損ない、ルールを軽視する中国に有利に働くと説明した。

G7財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後、記者会見する
麻生財務相(左)と日銀黒田総裁=2日

 WTOについて自由貿易ルールの総本山と期待するのはかなり無理がある。麻生氏に限らず、経済産業省も外務省もWTO重視で、世耕弘成経済産業相も、米鉄鋼輸入制限をめぐるWTOへの提訴について「あらゆる可能性に備えて事務的作業を進めている」と述べているが、WTOに訴えると自由貿易体制が守られるとは甘すぎる。

 グラフは、WTOの貿易紛争処理パネルに提訴された国・地域別件数である。圧倒的に多いのは米国で、中国は米国の3分の1以下に過ぎない。提訴がルール違反容疑の目安とすれば、米国が「保護貿易国」であり、中国は「自由貿易国」だという、とんでもないレッテルが貼られかねない。事実、習近平国家主席はスイスの国際経済フォーラム(ダボス会議)や20カ国・地域(G20)首脳会議などの国際会議で臆面もなく自由貿易の旗手のごとく振る舞っている。


 実際には中国は「自由貿易ルール違反のデパート」である。知的財産権侵害は商品や商標の海賊版、不法コピーからハイテクの盗用まで数えればきりがない。おまけに、中国に進出する外国企業には技術移転を強要し、ハイテク製品の機密をこじ開ける。共産党が支配する政府組織、金融機関総ぐるみでWTOで禁じている補助金を国有企業などに配分し、半導体、情報技術(IT)などを開発する。

 習政権が2049年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げている「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」は半導体などへの巨額の補助金プログラムだらけだ。

 一連の中国の横暴に対し、日米欧はとにかく甘い対応しかとらなかった。理由は、中国市場でのシェア欲しさによる。「中国製造2025」にしても、中国による半導体の国産化プロジェクトは巨大な半導体製造設備需要が生じると期待し、商機をつかもうと対中協力する西側企業が多い。

 ハイテク覇権をめざす習政権の野望を強く警戒するトランプ政権の強硬策は中国の脅威にさらされる日本にとっても大いに意味がある。G7サミットでは、日米が足並みをそろえて、欧州を説得し対中国で結束を図るべきだ。米国と対立して、保護主義中国に漁夫の利を提供するのはばかげている。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】最大の顧客を怒らせてしまった中国は、その報いを受けることに!虚勢を張れるのもいまのうちだけ?

7月6日に米国が通商法301条を発動し中国からの輸入340億ドル分に対し25%の関税をかけることがほぼ不可避となっています。中国もこれに対し直ぐ報復措置をとると言っています。

これまで米中はこと貿易に関する限り友好的な関係を長年、築き上げてきました。ところが、ブログ冒頭の記事にもあるように、中国はさまざまなルールを無視して、貿易によって漁夫の利を独り占めにしてきました。

ウォール街の関係者は7月6日が過ぎれば売られ過ぎになっている中国株は反発するだろうと考えているようです。

トランプ大統領は、ルールを破り続ける中国を許すことはできないです。さらに、米国のドラゴンスレイヤー(対中強硬派)たちは、米国を頂点とする先進国の価値観と、中国の価値観が真っ向から対決しており、それだけでなく中国が世界に自らの価値観を押し付け、挙句の果てに米国に挑戦しようとしていることに反発しています。

ただし、ドラゴンスレイヤーたちは、中国と直接戦争することは事実上不可能とみて、他の手段で中国の現体制を崩すべきと考えています。貿易戦争はそのための手段でもあります。

7月6日に中国からの輸入340億ドル分に対する2%の関税をかけたとして、これに対して中国が報復措置をとれば、米国はすぐさま報復措置として、中国からの輸入品すべてに関して25%の関税をかけるとしています。

これでも、中国が態度を変えない場合には、今度は金融制裁を強化していくことになるでしょう。さらに、米国はWTOから脱退するかもしれません。

いずれにせよ、7月6日以降も貿易戦争が鎮静化せず、関税競争がエスカレートした場合必ず中国が敗北します。その理由は、そもそも関税をかけられる対象が、中国の場合限られているからです。

下は両国の貿易を示したチャートです。中国は米国より3.9倍も多く相手国に対して輸出している関係であり、自ずと関税の対象に出来る品目には限りが出てしまいます。

さらに、米国は中国から輸入しなくても、他から輸入できるものがほとんどです。中国からでないと輸入できないような品目はありません。ところが、中国においては、米国から輸入できなると中国では製造できない集積回路や、あるいは他の国から輸入するとかなり割高になってしまう物品などが多いです。




両国の貿易収支を見るとアメリカは大きな赤字になっています。


これは何を意味するか? といえば「米国は中国にとって最上のお客さん」だということを意味します。

無論この貿易赤字を家計の赤字と同列にみなして、悪とみなすのは間違いです。通常景気が良いと輸入が増える傾向にあります。輸入が増えても、景気が良いという状況にあれば、特に問題はありません。

米国は昨年の場合は、景気は良いほうでしたので、特に中国からの輸入が増えても本来はさほど問題ではありません。

ただし、それは、中国が様々な自由貿易貿易ルールを守っていればの話です。しかし、ブログ冒頭の記事にもあるように、中国はそうではありません。

さらに、中国は米国とはじめとする先進国からすれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が進んでおらず、もともと自由貿易になじまないところがあります。たとえ中国が貿易ルールなど完璧に守った上で、貿易をしたとしても、それでも完璧な自由貿易にはならない可能性もあります。

1970年代から80年代にかけて、米国から貿易戦争を仕掛けられる立場にあったのは日本でした。日本政府は日米貿易戦争を良く戦ったと思います。でもそれは1年や2年で決着の付くゲームではなく、「これでもか、これでもか」というような延々と続くバトルでした。

実際、今回発動される通商法301条などの政策上のツールの大半は、忌まわしい日米貿易戦争時代に成立した法案です。

しかし、当時の日本は、米国と良い関係を保つために大変心を砕いていました。「ロンヤス」などという言葉が生まれた時でもあります。さらに、当時から日本はアメリカの同盟国であり、安全保障条約もあり、ソ連という仮想的に協同して対峙していました。

レーガン米大統領・中曽根康弘首相会談=1983年11月11日

ひるがえって今日の米中関係を見ると、政界レベルでも、冷え冷えとした関係になっています。南シナ海を実行支配し、米国の価値観に真っ向から挑戦する中国をドラゴンスレイヤーたちは許すことはありません。

上でみたようにそもそも米国は中国の最上の「お客さん」です。商売をやっている人なら理解できると思いますが、客を怒らせて得なことなど、なにもありません。

そうして、日本やEU諸国も米国ではないものの、中国から輸入をしています。その意味では、「お客さん」であることには変わりありません。自由貿易においては、互いが互いのお客でもあるのです。そのことを中国は忘れています。自分だけルールを守らないというのなら、爪弾きにされても仕方ありません。

だからこそ本来中国はトランプに対抗して貿易戦争エスカレートさせてはいけないのです。お客さんが、商売のルールを守れというのなら、守るのが筋なのです。

最大の顧客を怒らせてしまった中国は、その報いを受けることになります。いままで中国まがりなりにもが豊かだったのは米国との関係によるものでしたが、トランプ政権で180度転換しました。対米貿易に依存してきた経済、米国のドルに依存してきた人民元は、米中貿易戦争で『突然死』となりかねないです。虚勢を張れるのも今のうちだけかもしれません。

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