2019年2月28日木曜日

中国の大誤算。台湾を脅すつもりが世界を敵に回した習近平の失態―【私の論評】次の選挙の勝利を確かなものにし、長期政権を狙うには蔡英文はまともなマクロ経済政策を打ち出せ(゚д゚)!




2018年に行われた台湾統一地方選挙で惨敗を喫し、支持率を10%台まで下落させてしまった蔡英文総統。次期総統選出馬は絶望的と思われていましたが、習近平中国国家主席の台湾に対する恫喝発言がきっかけとなり支持率は一気に30%台まで回復、完全に旗色は変わったようです。台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、「中国の台湾に対する脅迫はたいてい逆効果を生む」とし、さらに2020年の台湾総統選の重要性を論じています。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【台湾】習近平の失態で支持率回復した蔡英文と台湾の行方

蔡総統、台湾いじめを拒否 自身への中傷に反論 中国との差アピールも

台湾の女性タレント張瑞竹が、蔡英文総統を侮辱するようなコメントをフェイスブックで投稿したことが話題になっています。

その内容は、蔡総統は「見た目も残念、スタイルも残念な女。彼女は毎日何もせず、ただ向かいに住んでいるイケメンに犯されると毎日叫んでいる」というもの。この中に出てくる「向かいに住んでいるイケメン」とは習近平を指しているそうです。習近平を暗示するなら、「イケメン(帥哥)」ではなく「アニキ(大哥)」だと思いますが…。そして極めつけは、批判文の最後についた女性差別の文字でした。

これに対して、蔡総統は自身のフェイスブックで反論しています。
CNNの独占インタビューでも言ったように、私は数千年来の華人社会において、最初に民主的に選出された女性の総統です。これにはとても大きな意義があり、この事実は女性は性別で差別されることなく、無限の可能性を秘めていることを証明しています。 
台湾の最初の女性総統として、私はあらゆる挑戦を受けますが、私は性別、見た目、スタイルといった生まれ持ったもので能力を判断することには意味がないし、主観的だし、焦点がぼやけるだけだと思います。台湾の総統が誰であれ、中国からの脅しや威嚇に対して我々台湾は絶対に屈しないということを、大声で世界にアピールするべきです。 
この点において、性別は関係ありません。士気あるのみです。
そもそも、今回の騒ぎを引き起こした張瑞竹というタレントはどういう人物なのかをちょっとご紹介しましょう。台湾の新竹市出身の50歳、2015年に中国の宝石商と結婚し上海に住んでいます。芸能活動は中国と台湾の両方で行っている中堅タレントといったところです。

台湾の芸能界は中国市場と強い結びつきがあるため、中国で活動できなくなると困る人も多くいます。そのため、張瑞竹も含め、中国で活動しているタレントは、往々にして中国を刺激するような発言をする台湾の政治家を嫌う傾向にあります。

少し以前の話ですが、2015年、蔡英文が総統選挙で当選するきっかけとなった騒動「周子瑜謝罪事件」を起こした台湾のタレント黄安も中国在住の媚中派でした。台湾人が中国で芸能活動をするには、常に中国人であることを求められるのかもしれません。今回、張瑞竹は「台湾人だって中国人だ」という発言もしています。中国に同化したほうが、彼らにとってはメリットがあるということでしょう。

しかし、蔡英文はそんなくだらないことでブレる人ではありません。彼女の批判を一蹴しただけでなく、それと前後して、蔡総統はCNNの独占インタビューやツイッターで、2020の総統選挙に再出馬することを公言しました。民進党内の派閥も、蔡派が主流となりつつあり、民進党一丸となって蔡英文支援に動きそうです。それもあってか、蔡氏は2020の総統選に向けて「自信がある」とも述べています。

台湾総統選 蔡総統、出馬の意向表明

台湾は、蔡政権になって確実に変わっています。例えば、このメルマガでも書きましたが、議会では「中華台北」という名称についての議論が公になされるようになりました。また、最近のニュースでは、米映画評論サイトがアジア・中国で最も美しい顔を選ぶ投票イベントで、台湾出身の有名人の国籍を示すアイコンに中国の五星紅旗が表示されたことで、台湾の外交部が同サイトに訂正を求めたというのです。

台湾のスターに中国・五星紅旗 外交部、「美しい顔」投票に訂正要求

「世界で最も美しい顔」というイベントだそうで、そこには台湾のタレントのリン・チーリンやジェイチョウなどが名を連ねたそうです。ひと昔前の台湾だったら、そこに「五星紅旗」が表示されても何も言わないどころか、疑問にも思わなかったかもしれません。それが、今では抗議をするまでになりました。

こうした台湾が台湾としての存在をアピールする地道な活動が国際的に認知されると同時に、正月の習近平による「台湾への武力行使も辞さない」というスピーチに危機感を覚えた欧州議会は、台湾を支援するとの内容の声明文と、議員155名の署名を、蔡英文総統に渡しました。

欧州議会が台湾支持の声明文 蔡総統が感謝 今後の協力に期待

蔡政権はまたひとつ心強い後ろ盾を得たことになります。2020年の総統選挙ですが、国民党はまだ候補者を絞れていないようで、党内調整にまだ少し時間がかかりそうです。

蔡英文総統は、2018年11月の「九合一」地方選挙で惨敗した後、党主席を辞任し、支持率は10%台まで下落したことから、2020年の総統選挙はかなり厳しいとみられ、彭明敏や李遠哲ら台独派の長老たちに再出馬を止められていました。ずっと蔡英文の再出馬を支持していたのは100歳近い史明くらいでした。

しかし、正月の習近平の演説がその状況を劇的に変えました。習近平は、台湾に「一国二制度」「武力行使」を放棄しないと脅しをかけ、蔡英文はすぐさまそれに対して反論したのです。このことが蔡英文の支持率を30%台まで引き上げました。米中経済貿易戦争で追い込まれた習近平は、台湾を脅したつもりが、敵に塩を送る結果となったわけです。

今回だけに限らず、中国の脅迫はたいてい逆効果を生むことが多くあります。それでも懲りないのは、中国の習性でしょう。中国が台湾に圧力をかければかけるほど、台湾住民の反発力も強くなります。この現象に最も困惑しているのは、国民党を中心とする台湾内の「統一派」でしょう。国民党が、フェイクニュースまで使って選挙で大勝を果たし、民進党を退けることに成功したのに、習近平のスピーチひとつで蔡英文の人気があっという間に戻ってしまったのですから。

2020年の国政選挙は、今の台湾にとって最大の課題です。台湾人にとっては、「国家」を選ぶ真剣な選択となります。2018年の「九合一」選挙では民進党が大敗し、予想外に国民党が躍進しました。中国は、この勢いに乗って台湾を併合したいとの焦りがあったから、正月の習近平のスピーチがあったのではないでしょうか。

民進党は、この選挙結果をよく分析し、政権党として今後の進路を探る必要があります。台湾が中国との統一を拒否し続けているのは、民主と独裁という体制の違いを維持したいからです。自由民主vs独裁専制の戦いです。

もしも中国が台湾に武力行使をすれば、日米もそれなりに大義名分を持って介入せざるを得ないでしょう。日米も、2020年の国政選挙の行方を見守っているはずです。目下昂進中の米中経済貿易戦争の動向も、2020年の選挙に関わる大きな外因となります。チベット、ウイグル、香港の実例も、台湾に対する影響は極めて大きく、中国の台湾に対する恫喝はどこまで台湾の存在に影響を及ぼすのか、世界も注視しています。

2020年の選挙は、人類史にとっても世紀の選択となるでしょう。

【私の論評】次の選挙の勝利を確かなものにし、長期政権を狙うには蔡英文はまともなマクロ経済政策を打ち出せ(゚д゚)!

ブログ冒頭の黄文雄紙の記事では、たいてい逆効果を生む中国の脅迫について掲載されていますが、これは戦略の大家ルトワック氏が主張する「パラドックス」によりその背景を説明することができます。

そもそも中国は「大国は小国に勝てない」という「戦略の論理」を十分に理解していません。

ある大国がはるかに国力に乏しい小国に対して攻撃的な態度に出たとします。その次に起こることは何でしょうか。

周辺の国々が、大国の「次の標的」となることを恐れ、また地域のパワーバランスが崩れるのを警戒して、その小国を助けに回るという現象があらわれるのです。その理由は、小国は他の国にとっては脅威とはならないのですが、大国はつねに潜在的な脅威だからです。
米国は、ベトナム戦争に負けましたが、ベトナムは小国だったがために中国とソ連の支援を受けることができたのです。ベトナムは小国だったゆえに、中国やソ連の脅威とはならなかったからです。

しかも共産国だけではなく資本主義国からも間接的に支援を受けていました。たとえばイギリスは朝鮮戦争で米国側を支援しましたが、ベトナム戦争での参戦を拒否しています。米国が小さな村をナパーム弾で空爆する状況を見て、小国をいじめているというイメージが生まれ、最終的には米国民でさえ、戦争を拒絶するようになってしまったからです。

つまり強くなったら弱くなるのです。戦略の世界は、普通の生活とは違ったメカニズムが働いているのです。

近年、中国は香港で民主化運動に弾圧を加え続け、さらには激しい言論統制を行っています。

北京側が香港で誘拐したり投獄したりと極めて乱暴に振舞ったことで台湾国内の親北京派の力を削いでしまったのです。

そうして、香港に限らず世界中に強い態度でのぞんだことが、世界中から警戒されるようになり、裏目にでて、トランプ大統領から貿易戦争を挑まれるという事態も招いてしまったのです。

中国指導層にとって、香港は攻撃可能な「弱い」相手でもありました。それが台湾という「周辺国」の反発を生んだのです。

中国は過去の一時期から大国戦略をとりはじめて、強く外にでたのですが、抵抗にあうことで立場が弱くなってしまったのです。

このような国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムを、ルトワックは「パラドックス」と名づけているのです。

今回は、台湾に対して強くでたのですが、そのことがかえって台湾国内の親中派の力を弱め、世界中から反発をかってしまったのです。

2018年に行われた台湾統一地方選挙での惨敗については、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
台湾、選挙で与党敗北 習近平指導部は圧力路線に自信―【私の論評】大敗の要因は、大陸中国の暗躍だけでなく蔡総統がマクロ経済対策に無知・無関心だったこと(゚д゚)
台湾地方統一戦を終え記者の質問に答える蔡英文総統=11月24日、新北市
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事で惨敗の原因としてあげたのは、大陸中国の暗躍もあったのは確かですが、それに次いで、蔡英文総統のマクロ経済政策への無知・無関心をあげました。

その理由としては、蔡英文政権があげている経済政策は、「新南向政策」であり、要するに台湾の南の国々、すなわちASEAN諸国等との交流を活発化させるというものです。しかし、これは経済性ではなく外交政策です。

一国の経済政策においては、やはり自国のマクロ経済政策が最も重要であり、それをおろそかにして、貿易を盛んにしたとしても、国内経済は必ずしも良くなるわけではありません。

実際、台湾人々は何を気にしているのかといえば、当然のこと自分たちの生活の改善である。 その意味で蔡英文総統が誕生した当初には、民進党政権に大きな期待が寄せられました。 

しかし、結果的に民進党は人々の期待に応えられなかったといってもよいでしょう。

焦った民進党は選挙を前に慌てて基本月給や時給を引き上げる政策を打ち出したが、効果はありませんでした。

台湾住民の貯蓄率はずっと下降傾向にあるが、昨年は過去5年間で最低になるなど、家計の厳しさを示す数字は枚挙に暇がありません。

だから、私自身は、やはりマクロ政策のまずさに原因ありとみたのです。

以下にさらにデータを列挙します。以下は、インフレ率の推移(1980~2018年)を台湾と日本で比較したものです。

グラフで比較していいただけると、よくわかりますが、1982年くらいから日本と同じような動きをしています。

これは、日本が平成時代のほとんどがデフレ状況であったことさらに、最近では物価目標がなかなか達成できていないことを考慮すると、台湾も金融緩和をする余地がかなりあるといえます。台湾は金利は、長期にわたって据え置かれているのですが、それだけではなく、さらに金利を低くするかゼロ金利にして、量的緩和も実行すべきと思います。私は台湾ならば、インフレ率は3%〜4%くらいでも良いのではないかと思います。

以下は、経済成長率の推移の比較です。


過去においては、5%程度の成長をしていたものが、近年で日本とあまり変わりないようです。日本は近年では消費増税をしたので、成長率は低いです。台湾はもっと経済成長をさせ、少なくとも毎年5%くらいは維持すべきです。

やはり、台湾は量的金融緩和をし、積極財政も実行すべきです。蔡英文政権は、台湾の経済を一段高い段階にもっていくべきです。これによって、さらに台湾の経済を数年間で一段高い段階にもってくことを国民に約束し実行するのです。それも、大陸中国などに頼らなくても、台湾が自力でそれをなしとげることを国民に誓うのです。

先に述べたように、中国によるパラドックスがあるので、それに脅威を感じる国民が増えたので、次の選挙で蔡英文政権は勝てるとは思いますが、それをさらに確かなものとするとともに、長期政権を狙うためには、まずはまともな経済対策を打つことを表明すべきです。

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2019年2月27日水曜日

北朝鮮とベトナムの友情の秘密―【私の論評】友情の背景には中国の覇権主義が(゚д゚)!

北朝鮮とベトナムの友情の秘密

パスカル・ヤン (著述家)

 フレデリック・フォーサイスの『戦争の犬たち』が映画化されたのは、1980年のことだった。小説が素晴らしいので楽しみにしていると、ベルギーで友達になった米国人女性が既に観たが、がっかりでむしろ同種の傭兵映画『ワイルド・ギース』を激賞し、小説『リンガラ・コード』もいいが、『戦争の犬たち』の映画を酷評していた。

 彼女は、ザイールのキンシャサ駐在員の妻で、健康診断と休暇をかねてベルギーのブリュセルに数週間滞在しているようだった。

 彼女のお陰で、立て続けにアフリカを舞台にした映画を見ると、ソ連邦の影響なのか、キューバ兵が必ず登場する。米国の世界戦略に対して、ソ連も当時は元気いっぱいで、世界を手中に収めるべく、たとえば、イスラエルとの中東戦争では、操縦士を東ドイツからエジプトに派遣し、現地の操縦士の苦手な夜間の空中戦に備え国際化していたのだ。今で言えば中国のアフリカ進出と同じであろうか。

ソビエト社会主義共和国連邦大使館広報部が日本人向けに刊行していた月刊広報誌
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 歩兵軍団としては、ソ連の代わりにキューバ兵が共産化したアフリカ中央部に多数派遣され、上記の映画では、『怪傑ゾロ』のスペイン兵のように必ず登場し、死んでも死んでも登場していたと記憶する。

ソ連への旅

 そんな折、留学中のベルギーの大学にビラが貼られ、真冬のモスクワとレニングラード(現在のサンクトペテルスブルグ)に15日間現在の貨幣価値でも5万円程度で行けると出ていた。

 試験も終わり、真冬ではあるが、ソ連をみる絶好のチャンスだと思い参加をきめた。その間、二回ほど事前の集合があったが、手続き的な説明でビザや通貨の問題であり、洗脳教育はなかったのか、あったのか、眠っていたので不明だ。

 パスポートは、白紙でできたものをソ連の国営インツリーストが用意してくれ、旅の最後に回収とのことであった。「ソ連の入国スタンプがあると就職にも困るだろう」だと、よく知っている。

 既に、冷戦も末期になっており、軋みが生まれ始めるなか、ソ連は必死に軍備拡張と人気取りをしながら、厳しいアフガン戦争の最中であったのだ。

 1月も半ばに成り、凍え死ぬようなベルギーからアエロフロートのイリューシン62に乗って、更に極寒地モスクワのシュレメチボ第二空港に到着した。そこからは、インツリーストの手配に乗り、コンベアーに乗って盛りだくさんな旅がはじまった。

 時々、洗脳教育の時間があったが、講師はすべてフランス語が完璧に話すロシア人であり、フランス語系ベルギー大学生なので、ヒートアップした議論が展開されることになる。メンバーで外国人は、僕のほか米国人が数名いたが、「SS20配置」問題やシベリアガスパイプライン問題、アフガン問題に関する議論には、僕らは聞くだけであった。白熱して入ることはできなったと言うべきだろう。

 しかし、ロシア人はフランス語を使いながら、極めて丁寧に防戦し、社会主義がいかに素晴らしいかを教えているのだが、ハンガリー動乱やプラハの春についての話になると、さらに防戦一方になっていたようだ。

1989年 全ソビエト労働組合の水着コンペティション作品

 不思議なことに、米国人学生の一人は、三沢にとても詳しくその後、彼とは音信不通になって現在に至っている。

 そんなチームとの珍道中で、有名な大学のキャンパスや星の町も訪問し、レニングラードではコンサート三昧や食事三昧であった。食糧難のソビエト連邦で、僕らに対する見栄なのか、後半は食べ疲れてしまい、半分以上は手つかずで、残るのを見計らったかのように、ウエーターが別の容器に回収していた。その手際の良さは、神の手のようであり、バナナなど南方の果物は金貨を扱うように回収していたのを思い出す。

 米国人は、ソ連の崩壊をいっていたが、確かにその後10年は持たなかったのだ。アンドロポフ、チェルネンコ時代であり、モスクワもレニングラードにも笑いは全く存在していなかった。地下鉄の過度な美しさやシステムに驚いたが、逆に国内便の旅客機は、飛ぶのが不思議な代物で、当時禁止されていた、『ドクトル・ジバゴ』の映画、ララのテーマが何度も機内でながれていて、ちぐはぐさに全員で大笑いした。

 中でも、世界から青年を集めたパトリス・ルムンバ大学で、別のちぐはぐさを目撃した。平等のはずの社会主義で、肌の色による差別が隠然と存在していることを知り、その後、たまたまタクシーを待つことになり、僕と黒人の仲間を少し離れて待つように先方の学生からアドバイスをうけた。後で聞くと、ソ連は人種のカーストがあり、黒人、アジア人、アラブ人は、差別されてしまうとのこと。それもあからさまだそうだ。

ソ連での北朝鮮人とベトナム人の出会い

 そういえば、アフリカからの留学生も多いし、アジア人も多数いたが、フランスやベルギーの大学でよく見る、黒人と白人のカップルは皆無であったのだ。

 聞いてみると、はやりアジア人同士の結束や、ラテンアメリカ人同士のコミニティーはあるが、人種を超えての結束は皆無だとのこと。かといって同国人の結束が強いかというと違うようだ。

 各国の共産主義の度合いに応じてもカーストがあるようで、キューバは圧倒的に高いようだが、役割としては兵士をアフリカに提供することのようであった。

 そして、北朝鮮からの学生は原典を徹底して勉強し、ベトナムの学生と成績を争っているとのこと。

 当時パリの日本館や国際学生村を思い出したが、そこでも台湾からの学生と日本からの学生は旧知のようなつきあいがすぐに始り、その後終生続く場合も多い。

 ベトナムからの留学生と北朝鮮からの留学生は今でもひとたびロシア語になれば、時空を超えて、モスクワでも学生時代に戻るに違いないのだ。

 ベトナムも北朝鮮もソ連邦のお陰で、そんな財産をもっていることを,トランプ大統領は知ってのだろうか。

【私の論評】友情の背景には中国の覇権主義が(゚д゚)!
冒頭の記事では、

「ベトナムからの留学生と北朝鮮からの留学生は今でもひとたびロシア語になれば、時空を超えて、モスクワでも学生時代に戻るに違いないのだ。

ベトナムも北朝鮮もソ連邦のお陰で、そんな財産をもっている」

などとしていますが、北朝鮮とベトナムの友情の背後には、無論そういう側面もあることは否定しませんが、そのようなことよりももっと大きな背景があると思います。本日はそれについて解説します。ただし、上の記事を書いた人は、そのことは当然であり、その上でソ連のとりもつ縁を語っているのかもしれません。

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩党委員長は2月27~28日に、ベトナムの首都ハノイで2度目の首脳会談を開催中です。

握手するトランプ米大統領と金正恩労働党委員長=27日、ハノイ

昨年6月のシンガポール会談は華やかなイベントにすぎず、「取りあえず世界から脚光を浴びよう」と両首脳とも思ったのでしょうが、今回は違うはずです。米朝両国にとって、ベトナムは特別な国です。この因縁の地で長い対立に終止符を打ち、一歩前へ踏み出そうとしているのではないでしょうか。

かつてベトナムは泥沼の戦争に耐えて、米国を敗走させました。ベトナム戦争終結から20年余り後の95年に国交正常化を実現。その間、ベトナムは86年からドイモイ(刷新)政策を進めて経済発展を遂げ、国際的な孤立状態から脱出していました。米国からすれば、ベトナムは対立から和解へと移行できた建設的なパートナーといえます。

一方、朝鮮戦争で戦った北朝鮮とは53年に休戦協定を結んだ後も国交樹立には程遠く、朝鮮半島は「冷戦最後の地」と言われています。国民を飢餓に追い込みながら軍事優先で核ミサイル開発に突き進んできた北朝鮮の歴代指導者も経済発展の重要性は認識していただでしょうが、本格的な改革開放に踏み切れないでいました。実際、金が中国を訪問するたびに先端科学技術を誇る同国の工場や研究所を見学するのは、

「自国を豊かにしたい」という気持ちの表れでしょう。問題はどこを経済発展のモデルとするかです。「ベトナムに見習え」と、トランプは金に言い聞かせるかもしれないです。もはや行き詰まりを見せつつある中国流社会主義市場経済の「成功物語」よりも、対米関係において同じような歴史問題を見事に解決してきたベトナムのほうが身近な模範になりそうです。

金にとっても、ベトナムは親しみを覚える相手です。昨年12月3日、在ハノイ北朝鮮大使館は、「建国の父」金日成(キム・イルソン)国家主席のベトナム訪問60周年を記念する行事を開催して、両国の厚情を温めました。

中国の覇権主義に対抗

容姿から歩き方まで祖父そっくりの正恩にとって、ベトナム訪問を実現すれば対内的に二重の宣伝になります。祖父の「偉大な足跡」をたどっていることと、祖父でさえ解決できなかった「米帝との戦後処理」を清算した、と誇示できるからです。

ベトナムと北朝鮮の対米関係を考える場合、陰の存在となってきた大国、中国を忘れるべきではありません。

中国は「抗米援朝/援越」という歴史ドラマの主人公でした。朝鮮戦争では50年から最終的に撤退する58年まで、中国は約135万人以上の「志願軍(義勇軍)」を投入しました。犠牲者の中には最高指導者・毛沢東の息子も含まれています。中国と文字どおり「鮮血で固められた友情」を構築したことで、北朝鮮は国家の命脈を保てました。

ベトナムに対しても、中国は志願軍としての派遣こそなかったものの、数十万人規模に上る軍事技術者と労働者を送り込み、武器弾薬の提供を惜しみませんでした。社会主義体制を守るために共同戦線を組んでいました。

しかし、大国米国に勝った小国ベトナムは、温情を装った中国の覇権主義的内政干渉に果敢に異議を唱えました。中国が「恩知らずを懲罰」しようとして起きたのが79年の中越戦争です。ベトナムと同じく、歴史的に長らく陸続きの中国による支配下に置かれてきた北朝鮮はこの懲罰戦争を苦々しく傍観し、心情的にはベトナムを支援したことでしょう。

結局、中越戦争は社会主義国同士が交戦することで、冷戦体制の崩壊を促しました。イデオロギー的な対立以上に中国の覇権主義こそが脅威、という現実を国際社会に認識させたからです。

1979年に中国・ベトナム間で勃発した戦争。ポル・ポト政権を崩壊させたベトナムへの懲罰として
中国は解放軍10万人を派遣。しかし、装備・練度共に優越するベトナム軍に解放軍は
大損害を被り、1ヶ月足らずで撤退を余儀無くされた。

ベトナムも北朝鮮も中国と直接国境を接しています。ベトナムは中越戦争に勝利して中国を屈服させました。これは、同じく中国と国境を接している北朝鮮は大いに勇気づけられたでしょう。

一方の北朝鮮は、中国と戦争をしたことはありませんが、やはり中国と国境を接しており、中国に何かと干渉されていました。ところが、北朝鮮が核とミサイルを開発してからこれはずいぶんと変わりました。

北朝鮮と中国は国境を接していることから、短距離ミサイルでも中国を攻撃できます。国境付近で中国が不穏な動きをみせた場合は、短距離核ミサイルでこれを撃破することができます。

さらに、中距離核ミサイルでも、北京や上海などの大都市を攻撃することができます。ICBMでなくても、中国の要衝を叩くことができます。

これは、米国よりも中国のほうが脅威を感じていると言っても過言ではないでしょう。もし、北朝鮮が核を有していなければ、金正恩は叔父である張成沢を粛清したり、兄である金正男を暗殺することはできなかったでしょう。それを実行すれば、ただちに中国が何らかの行動に出た可能性が大です。

しかし、核を持つ北朝鮮に対して、中国はそれはできませんでした。そうして、現状をみまわしていると、北朝鮮は中国に従属しようとする韓国にかわって、今や朝鮮半島が中国に侵食されないように防波堤の役割を担っているのです。

ただし、無論私はこの金正恩の決断を支持するわけではありません。それはまた世界がより危険になることを意味するからです。混み合う空港で異母兄の殺害を命じる男ならば(韓国の情報当局が正しければ)、より多くの人々を死滅させることが自身の存続を保証すると思えば、あるいはもう失うものは何もないと感じれば、ためらうことは何もないことでしょう。

しかし、もし北朝鮮が核を有していなければ、今日米国と首脳会談を開催することなどできなかったでしょう。それどころか、金王朝は滅ぼされ、北には中国の傀儡政権が樹立され、今頃韓国を最終的に組み込もうとしていたに違いありません。

これに関しては、ベトナムを多いに勇気づけたことでしょう。北の核は、中国の注意をそれにひきつけるということで、ベトナムにとっても、安全保障上のメリットがあることはいうまでもありません。実行するしないは別にして、ベトナムも核を持つという選択肢もあり得ることを認識しているに違いありません。

2月のハノイには中国の習近平(シー・チンピン)国家主席も晴れ舞台に登場したいに違いないですが、今のところ誰からも招待されていないようです。ただ米朝会談後、金が帰途に北京詣でをするならば、習は金を「礼儀正しい、儒教精神の長幼の序をわきまえた好青年」と評価することでしょう。

ただし、核を持つ北朝鮮に対しては、習近平といえども好き勝手に干渉することはできません。その北朝鮮が米国側につくことになれば、中国の安全保障政策も大きく変わるに違いありません。

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2019年2月26日火曜日

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」―【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」

金正恩(左)とトランプ(右)

ドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金 正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は27、28日、ベトナムの首都ハノイで2回目の首脳会談を行う。

 世上では、米朝首脳会談はトランプ氏が前のめりで、正恩氏のペースで進められるのではないか-と懸念する向きが多い。

 果たして、この指摘は正しいのか、検証してみる。

 注視すべきは、同首脳会談実現に向けて繰り返された、米朝実務者協議の米側代表であるスティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表が1月31日、米スタンフォード大学で行った講演(全文3800語)である。

 注目すべき箇所は、次のフレーズだ。

 「トランプ大統領が、金正恩委員長に(シンガポールで)会ったとき、堅固な経済開発が北朝鮮にどのような意味を付与するかについてビジョンを示しました。それは、朝鮮半島の驚くべき資源を利用して構築される投資、外部との交流、そして貿易などの明るい未来と、計画の成功のためのわれわれの戦略の一部です」

 キーワードは「驚くべき資源」である。

 トランプ氏は2月8日のツイッターで、首脳会談の開催地がハノイに決まったと明らかにした。

 と同時に、かつてミサイル実験を繰り返す正恩氏を「ロケットマン」と揶揄(やゆ)したが、このツイッターでは「北朝鮮は違うロケットに、すなわち経済のロケットになるだろう」と、ヨイショしたのだ。

 では、困窮する北朝鮮経済を「経済のロケット」にする「驚くべき資源」とは、いったい何なのか。

 米地質調査所(USGS)や、日本貿易振興機構(JETRO)などの「資料」によると、半端ない量のマグネサイト、タングステン、モリブデン、レアアースなどのレアメタル(希少金属)が埋蔵されているという。

 さらに、石油の埋蔵量も有望とされる。だが、「千三つ」(=試掘井を1000カ所掘削しても3カ所出るかどうかの確率)と言われるほど投資リスクが高く、高度の掘削技術が必要である。米国が構想しているのは、エクソン・モービルなど米石油メジャーとの共同開発なのだ。

 一方のレアメタルについても、中国の習近平国家主席が進める「宇宙強国」構想に負けないためにも、宇宙・航空産業が喉から手が出るほど欲しい。

 遠くない将来、かの地で採掘・精製施設建設まで実現できれば、計り知れない「利」が期待できる。地政学的に採算ベースに合うのだ。

 トランプ、正恩両氏は同床異夢であれ、取りあえず同じ船に乗ろうとしているのだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

金正恩氏を乗せた特別列車=2019年2月26日午前、広西チワン族自治区憑祥

「朝は輝けこの山河 金銀の資源も満ち 三千里美しきわが祖国」

北朝鮮の朝鮮中央放送は、放送開始と終了時に、北の国歌「愛国歌」を流します。その歌詞にあるように、この国の地下資源は豊富です。冒頭の記事にもあるように、鉄鉱石や石炭、燐灰石、マグネサイト、ウランなど、2百種類を超える有用鉱物が確認されており、経済的な価値がある鉱物資源も40種を超えます。

近年とみに価値が高まっている希少金属のタングステン、ニッケル、モリブデン、マンガン、コバルト、チタニウムなども豊富とされています。

これらの「価値」の評価は、国際的な価格の変動や調査機関によって異なります。韓国の大韓鉱業振興公社は2008年月に総額2千2百87兆ウォン(約176兆円)と推定しましたが、韓国の統一省は09年10月に国会に提出した資料で6千9百84兆ウォン(08年基準=約5百37兆円)とまで見積もりました。評価額に差があっても鉱物資源が「宝の山」であることに変わりはありません。

米国の資源探査衛星による調査で、軍需産業などには欠かせないタングステンも世界の埋蔵量のほぼ半分がある可能性が報告されました。
さらに、ウランも約4百万トンの埋蔵量があるとされます。これは北を除く世界の採取可能な推定埋蔵量とほぼ同じ量との見方もあります。北が自前の原子力発電や核に固執する理由のひとつは、その燃料を豊富に持っていることです。原子力発電を実現できれば北のエネルギー不足は大きく改善されます。

無論石炭の埋蔵量も多く、韓国の研究者の推計によれば、北朝鮮全体の石炭埋蔵量は90億であり、そのうち61億トンが採掘可能と見られる。後者の内訳は無煙炭が16億トン、褐炭が34億トン、超無煙炭が11億トンである。なお、瀝青炭は産出されないため、鉄鋼生産などに使用する分は全量を輸入に頼っています。

日本の統治時代には、石炭は様々な産業の基盤だったこともあり、北朝鮮のほうが南よりも産業基盤が整っていました。南にはほとんど産業基盤がなく、農業が主体でした。そのため大東亜戦争終戦直後からしばらくは、北朝鮮のほうがGDPも南より大きく、韓国が北朝鮮のGDPを追い抜いたのは1970年代に入ってからことです。

ところが、現時点で北朝鮮の鉱物資源は「宝の持ち腐れ」に近いです。施設の老朽化や、機材や技術、エネルギー不足などの理由から、生産性が上がらないためです。たとえば、鉄鉱石の生産は1985年の9百80万トンをピークに減少に転じ、98年には2百89万トンまで減りました。その後の経済回復で08年には5百31万トンまで戻ったのですが、状況は他の鉱物資源も同様であり、国民は「金の山」の上で暮らしながら飢餓と闘っているのが現実です。

鉱物資源協力は資源の「貿易」以上の経済的便益を南北の両側にもたらす可能性があります。朝鮮半島は面積は狭いですが南と北の地下資源の賦存環境が大きく異なります。韓国は世界5位の鉱物資源の輸入国で鉱物自給率が極めて低く、全体鉱物の輸入依存度は88.4%にのぼります。



政治的緊張がなければ、隣接した両地域の格段の鉱物資源分布の差が経済的側面で自然と相互に鉱物資源貿易・投資をもたらした可能性もあります。

北朝鮮の鉱物資源開発の過程でまず必要なのは、鉱山開発に使われる莫大な量の電力供給を解決することです。文大統領が金委員長に渡した新経済構想の資料に「発電所」が含まれていたのは、これと無関係ではないと見られています。2007年、鉱物資源公社が端川地域の鉱山開発の妥当性の検討に乗り出すときも、北朝鮮の水力発電設備を改・補修して電力を供給する案を検討したことがありました。

経済を対外開放した国の大部分は、地下資源の採掘権を海外に与えて、国富を蓄積してきた。ミャンマーやカンボジアのように、比較的最近に民主化した国家も、中国などに鉱山開発を任せ、一定の収益を受け取ってきました。

北朝鮮が次なる経済協力案件として地下資源を本格化させれば、北朝鮮の経済成長に大きく寄与できるのは明らかです。韓国のエネルギー経済研究院によれば、北朝鮮のGDPにおいて鉱業は全体の13.4%であり、北朝鮮の輸出額の70%を鉱物が占めます。

鉱山を開発すれば、製鉄や精錬のような加工産業に対する投資が行われ、雇用拡大と付加価値創出にもつながります。南北鉱物資源開発協力がスムーズに行われれば、北朝鮮に対する財政的支援という負担がなくても、北朝鮮の経済開発と経済協力事業を同時に推進できます。

米朝首脳会談の行方を見守る必要がありますが、現在は国連による経済制裁で北朝鮮の物資を韓国へ持ち込めません。経済制裁が解除されない状況では、当然協力もないです。米朝会談ではこれも話し合われることになるでしょう。

制裁解除は北朝鮮への米国の意思が重要です。現実的な問題もあります。韓国政府は2007年に8000万ドルを借款形式で北朝鮮に提供したのですが、2010年以降、南北経済協力はほかの協力事業とともに、中断したままです。

2012年にこの借款を提供した韓国の輸出入銀行が、5年の返済猶予が終了した後に償還の開始を北朝鮮側に要求したのですが、なしのつぶてだといいます。南北経済協力事業を経験した韓国政府側関係者は「経済協力を始めるなら、まず北朝鮮が8000万ドルの借款を償還すべきだ。南北合弁で開発した鉱山の契約も履行すべき」と言います。

この関係者は「ただ今回の首脳会談が関係回復に優先順位を置いていたので、経済協力が再開されたとしても、問題が経済的な論理で解決されるとは思えない」と打ち明けます。

資源を共同開発しても、その果実を収穫できるインフラ建設と、投資への安全性保障も必要です。しかし、開城(ケソン)工業団地が突然閉鎖されたように、投資家が人質のような形に追いやられる余地が残っているのなら、経済協力の軸となる民間企業が資源開発投資を行うことはできなです。

現在、北朝鮮の地下資源投資に関する法律は、北南経済協力法と外国人投資関連法、地下資源法があります。北南経済協力法は宣言的な内容にすぎないため、投資への安全を保障することはできないです。

地下資源法によれば、廃鉱も許可制とされています。経済性がなくても投資家が自律的に廃鉱を決定できないことになります。開発主体も北朝鮮国内機関に限定されています。外国人投資法でも資源輸出を目的とする外国人企業の投資は禁止されています。北朝鮮の法意識上、最高統治者と朝鮮労働党、政府との関係が複雑であることや既存の関連法が存在するだけに、特別法やこれに準ずる具体的な協議が必要とされるでしょう。

実は北朝鮮の資源をめぐる争奪戦は、すでに始まって久しいです。2004年から11年の間に北朝鮮で合弁事業を開始した世界の企業は350社を超します。中国以外ではドイツ、イタリア、スイス、エジプト、シンガポール、台湾、香港、タイが積極的ですが、そうした国々よりはるかに先行しているのは、意外にも英国です。

英国は01年に北朝鮮と国交を回復し、平壌に大使館を開設。06年には、金融監督庁(FSA)が北朝鮮向けの開発投資ファンドに認可を与えたため、英国系投資ファンドの多くが動き出しました。

具体的には、アングロ・シノ・キャピタル社が5000万ドル規模の朝鮮開発投資ファンドを設立し、鉱山開発に名乗りを上げました。北朝鮮に眠る地下資源の価値は6兆ドルとも見積もられています。そのため、投資家からの関心は非常に高く、瞬く間に1億ドルを超える資金の調達に成功しました。また、英国の石油開発会社アミネックス社は、北朝鮮政府と石油の独占探査契約を結び、1000万ドルを投資して、西海岸地域の海と陸の両方で油田探査を行う計画を進めています。

一方、ロシアは冷戦時代に開発した超深度の掘削技術を武器に、北朝鮮に対し油田の共同探査と採掘を持ちかけています。この技術は欧米の石油メジャーでも持たない高度なものであり、ベトナムのホーチミン沖で新たな油田が発見されたのも、ロシアの技術協力の賜物といわれています。15年4月には、ロシアと北朝鮮は宇宙開発でも合意しています。両国の関係は近年急速に進化しており、ロシアは新たに北朝鮮の鉄道整備のために250億ドルの資金提供を約束しています。

韓国の現代グループは、1998年から独占的に金剛山の観光事業を行っていますが、数百億円に及ぶ赤字を出しながらも撤退しないのは、金剛山周辺に眠っているタングステン開発への足がかりを残しておきたいからでしよう。

米国からは、超党派の議員団がしばしば平壌を訪問していますが、核開発疑惑が表沙汰になる前の98年6月には、全米鉱山協会がロックフェラー財団の資金提供を受け、現地調査を行いました。その上で、5億ドルを支払い北朝鮮の鉱山の試掘権を入手しています。当面の核問題が決着すれば、すぐにでも試掘を始めたいといいます。

韓国はじめ、中国、ロシアといった周辺国や米国、英国の支援を得ることで、豊富な地下資源を開発することに成功すれば、北朝鮮は現在の中国のように急成長することが期待されます。今が安く先物買いをする絶好のチャンスだと宣伝しているのです。実は、2015年4月、北朝鮮のリスユン外相はインドを訪問し、スワラジ外相との間で北朝鮮の地下資源開発と輸出契約の基本合意に達しています。

インドにとっては、中国と北朝鮮の関係が変化するなか、北朝鮮との資源外交を強化しようとの思惑が見え隠れします。要は、国境紛争やインド洋への影響力を強めつつある中国をけん制するためにも、北朝鮮を懐柔しようとするのがインドの狙いと思われます。

日本人の大半はそのような動きにはついていけず、発想そのものに抵抗を感じるでしょうし、金儲けを最優先する投資ファンドの動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これが世界の現実なのです。

文在寅(左)と習近平(右)

さらに、これは以前からこのブログに掲載していることですから、米国側からみると、北朝鮮の核は結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。以前からこのブログに掲載しているように、北朝鮮は中国からの完全独立を希求しています。韓国は、以前から中国に従属しようとしている国です。

北朝鮮の核は、日米だけではなく、中国にとっても大きな脅威なのです。もし、北に核がなければ、はやい時期に朝鮮半島は中国のものになっていたか、傀儡政権によって南北統一がなされていたかもしれません。これは、最悪の事態です。

であれば、現在中国と対立している米国からすれば、米国に到達するICBMは別にして、北朝鮮に現在ある中短距離核ミサイルは中国に対する牽制になります。

そのため、今回の米朝首脳会談では、ICBMの撤去を最初に行い、中短距離は後でということになる可能性が高いです。

日本人の大半は金儲けを最優先する投資ファンドの動きについていけないのと同様に、軍事戦略的そのものに抵抗を感じるでしょうし、このような米国や北朝鮮の動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これも世界の現実なのです。

21日には、トランプ大統領がTwitterで「第3回目の会談開催の可能性」を示唆しました。これは、第3回目の可能性をテーブルに挙げておくことで、米国が満足する結果が得られるまで、延々と会談は続けられ、それまでは対北朝鮮制裁の締め付けは緩めないというメッセージであると考えられます。

そして、報道されない現状として、米軍の攻撃部隊がアジアに集結してきているという事実もあります。これは、第2回首脳会談の結果次第では、米国は対北朝鮮攻撃に踏み切るという無言のプレッシャーでしょう。つまり、表向きに伝えられているよりも、米朝間の関係をめぐる緊張感は思いのほか高まっているのです。

そして、その緊張感は、北朝鮮側に立っている中国やロシアの動きを封じ込める役割も果たしています。両国とも米国が北朝鮮を攻撃するという事態は最悪のシナリオとなり、さらに朝鮮戦争時と違い、とても迎え撃つことはできないため、27日までは両国とも沈黙を保っています。同時に考え得る混乱に備え、すでに中朝国境やロシア・北朝鮮国境付近には、北朝鮮からの難民の流入を阻止するために軍隊が配備されています。つまり、北朝鮮は実際には孤立しているとも言えます。

しかし、その孤立を和らげているのが、文大統領率いる韓国政府です。国連安全保障理事会で合意された対北朝鮮制裁の内容に公然と違反して、包囲網を破っていますし、同盟国であるはずの日米両国をあの手この手で激怒させて、意図的に長年の友人を遠ざける戦略を取っています。その反面、北朝鮮との融和をどんどん進め、もしかしたら朝鮮半島の統一は近いのではないか、との幻覚を抱かせる効果も出ています。

それを演出しているのは、中国でしょう。日米韓の同盟は長年、中国にとってはとても目障りな存在でしたが、このところ韓国が日米に反抗するようになり、同盟の基盤が崩れ去る中、中国にとっては国家安全保障上の懸念が薄まってきています。北東アジア地域における覇権を握るために、北朝鮮を通じて韓国に働きかけを行い、日米の影響力を削ごうとする願いが見え隠れしているように思います。

もし、米国が従来通りに北朝鮮への攻撃をためらってくれるのであれば、中国の思惑通りに進みますが、仮にトランプ大統領が攻撃にゴーサインを出してしまったら、中国は究極の選択を迫られることになります。それは、あくまでも北朝鮮の後ろ盾として米国への対抗姿勢を貫くか、もしくは、北朝鮮・韓国を見捨てて自らの安全保障・存続を選ぶかの2択です。普通に考えると後者を選択するでしょうが、今、それが許されるための手はずを整えているように思います。

では、そのような際に日本はどうでしょうか?まず拉致問題については、直接的かつ迅速な解決は望めないと思いますが、第1回首脳会談と同じく、トランプ大統領が拉致問題の解決の重要性を強調することには変わりないと思われるため、何らかのブレイクスルーが起こるかもしれません。

また、メディアでは悲観的かつ絶望的な見方が多数を占めていますが、実際には水面下で日朝首脳会談に向けた調整も行われており、北朝鮮の経済的な発展へのサポートの見返りに、拉致問題に関わる様々な問題に対する“答え”を得るという折衝も続けられていますので、第2回米朝首脳会談に対しては大いに期待していることと思います。

そして第2回米朝首脳会談が終わる2月28日は、いみじくも米中貿易戦争における報復関税猶予期間の最終日ですので、第2回米朝首脳会談の結果は、米中が様々な局面で争う新冷戦時代に大きな影響力を与えることにもなりかねません。

明日から運命の会談は開催されますが、どのような結果になるのか、固唾を飲んで見守りたいと思います。

この首脳会談の結果が出次第、日本としては国際政治経済ならびに安全保証の動きを冷静にとらえ、北朝鮮に対する戦略を練り直す必要があるでしょう。

仲が良いと思っていた金委員長と韓国の文在寅大統領がある日突然離反し、北と米国が、中国に対峙するという観点から急接近するかもしれません。あるいは、大方の予想を裏切り米国が最終的に北に対して軍事攻撃をするかもしれません。そうなれば、朝鮮戦争当時とは違い今ややり返す力のない中国やロシアは仰天することでしょう。

特に、中国にはかなりの見せしめになります。習近平は、金正恩や金正日と同じ恐怖を味わうことになります。ありとあらゆる状況を視野に入れておくべきです。「想定外」では済まされないです。

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2019年2月25日月曜日

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大原浩氏

いわゆる元徴用工の異常判決や国会議長の天皇陛下への謝罪要求など、反日なら何でも許される韓国。日本人拉致など人権侵害国家の北朝鮮。そして共産党一党独裁の中国。距離は近いが価値観が遠い3カ国と、日本は距離を置くべきだと主張するのは国際投資アナリストの大原浩氏だ。「脱・中韓北」の一方で「民主主義、人権、平等、契約」など基本的価値観を共有できる欧州やアジア各国と連携を強めるべきだと訴える。


 福沢諭吉が創刊した日刊紙「時事新報」で唱えられた「脱亜論」はあまりにも有名だが、ここで脱出すべきアジアとしたのは、現在の中国、韓国と北朝鮮の3カ国を意味しているといえるだろう。

 いまの中韓北の外交政策を見ても、「どのようなことにも謝罪しないで逆に威張る」のが通例だ。一度非を認めたら相手より立場が下になり、悲惨な状況に追い込まれると考える「自称・儒教国家」の側面だといえる。

 それぞれの国には、それぞれの文化・風習があるから、日本やその他の先進国と違うこと自体は非難すべきではない。しかし、「民主主義、人権、平等、契約」といった「基本的価値観」を共有できない国と貿易などできないことは、米中貿易戦争が明らかにした。

長年、西洋先進国は、中韓北も豊かになれば西洋の価値観を共有できると考えていたのだが、それは明らかな間違いであった。

 もちろん、日本は江戸時代のような鎖国をするべきではないから、価値観を共有できる国々とはもっと連携を強めることが必要だ。同じアジアでも、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国などは、中韓北が引き起こす厄災から日本を守るためにも協調すべき存在だといえよう。

 アベノミクスは、世間で言われているほどの効果はなかったと考えているが、民主党政権のように日本経済回復の邪魔をしなかっただけで、日本はここまでよくなった。

一方、外交面では、安倍晋三首相は明治以来の歴代首相の中でもトップクラスといえる大活躍をしているのではないか。特に、米国が離脱し空中分解しかけた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を「TPP11」という形でまとめ上げた。安倍首相はトランプ米大統領に高く評価されているだけではない。世界中の政治家をひきつける人望を持っているからこそ、難問を解決できたのである。

 実はTPP11加盟国のうち、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドは現在の英連邦16カ国に含まれる。そしてマレーシア、シンガポールはかつて英国領であった。

 TPP11の加盟国ではないが、インドもかつて英連邦に属していた。米国は独立戦争で英国と戦火を交えたが、文化的ルーツは英国にある。

 そして、戦略上最も重要な秘密情報を共有する「UKUSA協定」(ファイブアイズ)の加盟国は、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国である。

 このUKUSA協定は、もともと第二次世界大戦中にドイツの暗号システム「エニグマ」を米英共同で解読したことに端を発する。お互いの秘密情報を交換できるほどの信頼関係が英米間には今でも存在し、湾岸戦争やテロとの戦いなど今日の戦争でも米国は英国を『頼り』にしている。

 今年1月に米英海軍が、共産主義中国を牽制(けんせい)するために南シナ海で合同軍事演習を行ったことは象徴的である。

 英国は間もなく欧州連合(EU)を離れるが、そうなればTPP11に加盟することが可能だ。トランプ氏もTPP11の成功を見て、復帰の希望を持っているといわれる。

 TPP11は軍事戦略上も重要な意味を持っているし、もし米国と英国が加盟すれば世界の国内総生産(GDP)の40%に及ぶような巨大な経済圏になる。

 日本は米国とは黒船以来の付き合いだし、英国は明治維新で新政府軍を支持した。どちらの国も第一次世界大戦では「友軍」であった。日本は第一次大戦の戦勝国である。

 いいことずくめの「入英米(英連邦)」だが、懸案事項が一つある。「スパイ防止法」が整備されていない日本は、今のところ秘密情報を交換するUKUSA協定に加盟できる見込みがないということだ。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】東方の悪友を心で謝絶せよ(゚д゚)!

福沢諭吉

ブログ冒頭の大原氏が主張している考え方は、昔からありました。韓国の不実はいまに始まったことではありません。明治の傑出した知識人、福澤諭吉は当時すでにそのことを看破していました。「脱亜論」で彼はなぜ朝鮮を見限ったのでしょうか。いまこそその背景にある思想に学ぶべきです。
左れば斯る国人に対して如何なる約束を結ぶも、背信違約は彼等の持前にして毫も意に介することなし。既に従来の国交際上にも屡ば実験したる所なれば、朝鮮人を相手の約束ならば最初より無効のものと覚悟して、事実上に自ら実を収むるの外なきのみ。(『時事新報』明治三十年十月七日)
明治15年3月1日に発行された時事新報

これは福澤諭吉の言葉ですが、まさに現在の日韓関係の本質を言い当てていると思います。ただし福澤は決して「嫌韓」論者なのではありませんでした。後で引く有名な「脱亜論」もそうです。彼は西洋列強のアジアへの帝国主義的な侵略にたいして、明治維新によって近代化の道を拓いた日本こそが、中国や朝鮮にたいして力を貸して共に連帯して抗すべきであると考えていました。

また亜細亜という言葉から中国(清朝)と朝鮮を同じく捉えていたのではなく、むしろ朝鮮をアジア同胞として清韓の宗属関係から脱却させ日本のように文明化させることの必要性を説き尽力したのです。李氏朝鮮の旧体制(血族や門閥による支配)のままでは早晩、清国やロシアの植民地となり、それはそのまま日本の国難になるからです。

李朝末期のこの腐敗した絶望的な国を変革しようとした開化派を福澤は積極的に支援し、そのリーダーであった金玉均らの青年を個人的にも受け入れ指導教育を惜しみませんでした。また朝鮮に慶應義塾の門下生を派遣する行動を起こし、清朝の体制に取りこまれるのをよしとする朝鮮王朝の「事大主義」の変革をうながしました。


清仏戦争が勃発し、清国軍が京城から退却したのを機に開化派がクーデターを企てるが(甲申事件・明治十七年)、それが失敗に帰したことから、朝鮮における清国の影響力は決定的となりました。福澤のなかにあった日本による朝鮮の文明化の期待も潰えました。

日本に十年余り亡命した金玉均も明治二十七年上海で朝鮮の刺客に暗殺され、その遺体は無残に切断され国中に晒されました。福澤に「脱亜論」を書かしめたのも、朝鮮の開明派、独立派の人々への必死の支援がことごとくその固陋(ころう)な中国従属の封建体制によって無に帰したことによるものです。
我日本の国土はアジアの東辺に在りと雖ども、その国民の精神は既にアジアの固陋を脱して西洋の文明に移りたり。然るに爰に不幸なるは近隣に国あり、一を支那と云い、一を朝鮮と云う。
この近隣にある「二国」は、その古風旧慣に恋々するの情は百千年の古に異ならず……教育の事を論ずれば儒教主義と云い、学校の教旨は仁義礼智と称し、一より十に至るまで外見の虚飾のみを事として……道徳さえ地を払うて残刻不廉恥を極め、尚傲然として自省の念なき者の如し 。(「脱亜論」明治十八年三月十六日) 
福澤の文章の烈しさは、そのまま朝鮮の開化を祈念していた彼の思いの裏返しの憤怒でした。しかし福澤は「文明化」自体に絶対的な価値を置いていたのではありません。「脱亜論」の冒頭でも「文明は猶麻疹の流行の如し」といい、「有害一偏の流行病にても尚且その勢いには激すべからず」として文明化は利害相伴うものであることも語っています。

ちなみに、麻疹 とは、麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性感染症のことです。中国由来の呼称で、発疹が麻の実のようにみえます。罹患すると、医療が整った先進国であっても死亡することもあります。

むろん福澤はアジアのなかで唯一文明化に成功した日本の選択を正しい選択であったとしています。大切なのは西洋文明の波がかくも急速に高く押し寄せているときに、旧態依然の「外見の虚飾」を捨てない朝鮮の政体と人民への絶望と苛立ちをはっきりと表明してみせた言論人としての姿勢です。
左れば今日の謀を為すに我国は隣国の開明を待て共に亜細亜を興すの猶予あるべからず、寧ろその伍を脱して西洋の文明国と進退を共にし、その支那、朝鮮に接するの法も隣国なるが故にとて特別の会釈に及ばず、正に西洋人が之に接するの風に従て処分すべきのみ。悪友を親しむ者は共に悪名を免かるべからず。我れは心に於て亜細亜東方の悪友を謝絶するものなり。
当時も今も国際社会のなかで外交を「謝絶」することはできないです。問題は「心に於て」、すなわち日本はユーラシア・中華帝国の膨張の現実を前にして、この世界史に参与すべく如何なる「思想」を自ら打ち建てるかです。

韓国に関していえば日韓基本条約(一九六五年)で国交正常化をなし、日本から韓国への膨大な資金提供もあり「漢江の奇跡」と呼ばれた経済復興を成し遂げたにもかかわらず、日本のおかげというその現実を認めたくないがために慰安婦問題や戦時徴用工などの「歴史問題」を繰り出し続けてやみません。

その国家としての態度に日本は毅然とした「処分」を示さねばならないです。韓国がやっているのは、福澤のいうまさに「外見の虚飾のみを事として」の「背信違約」の狼藉三昧です。

かかる「悪友」への処し方を、われわれは今こそ明治国家の多極的な外交戦略と、その背後にあった福澤諭吉のような近代日本の思想的先達によくよく学ぶべきです。

現在の私達も「心に於て亜細亜東方の悪友を謝絶」すべきと思います。

以下に資料として、「脱亜論」の現代語訳を掲載します。

 現在、西洋人の地球規模での行動の迅速さには目を見張るものがあるが、ただこれは科学技術革命の結果である蒸気機関を利用しているにすぎず、人間精神において何か急激な進歩が起こったわけではない。したがって、西洋列強の東洋侵略に対してこれを防ごうと思えば、まずは精神的な覚悟を固めるだけで充分である。西洋人も同じ人間なのだ。とはいえ西洋に起こった科学技術革命という現実を忘れてはならない。国家の独立のためには、科学技術革命の波に進んで身を投じ、その利益だけでなく不利益までも受け入れる他はない。これは近代文明社会で生き残るための必須条件である。

 近代文明とはインフルエンザのようなものである。インフルエンザを水際で防げるだろうか。私は防げないと断言する。百害あって一利も無いインフルエンザでも、一度生じてしまえば防げないのである。それが、利益と不利益を相伴うものの、常に利益の方が多い近代文明を、どのようにして水際で防げるというのだろう。近代文明の流入を防ごうとするのではなく、むしろその流行感染を促しつつ国民に免疫を与えるのは知識人の義務でさえある。 
 西洋の科学技術革命について日本人が知ったのはペリーの黒船以来であって、これによって、国民も、次第に、近代文明を受け入れるべきだという認識を持つようになった。ところが、その進歩の前に横たわっていたのが徳川幕府である。徳川幕府がある限り、近代文明を受け入れることは出来なかった。近代文明か、それとも幕府を中心とした旧体制の維持か。この二者択一が迫られた。もしここで旧体制を選んでいたら、日本の独立は危うかっただろう。なぜなら、科学技術を利用しつつ互いに激しく競いながら世界に飛び出した西洋人たちは、東洋の島国が旧体制のなかにひとり眠っていることを許すほどの余裕を持ち合わせてはいなかったからである。 
 ここに、日本の有志たちは、徳川幕府よりも国家の独立を重んじることを大義として、皇室の権威に依拠することで旧体制を倒し、新政府をうちたてた。かくして日本は、国家・国民規模で、西洋に生じた科学技術と近代文明を受け入れることを決めたのだった。これは全てのアジア諸国に先駆けており、つまり近代文明の受容とは、日本にとって脱アジアという意味でもあったのである。 
 日本は、国土はアジアにありながら、国民精神においては西洋の近代文明を受け入れた。ところが日本の不幸として立ち現れたのは近隣諸国である。そのひとつはシナであり、もうひとつは朝鮮である。この二国の人々も日本人と同じく漢字文化圏に属し、同じ古典を共有しているのだが、もともと人種的に異なっているのか、それとも教育に差があるのか、シナ・朝鮮二国と日本との精神的隔たりはあまりにも大きい。情報がこれほど速く行き来する時代にあって、近代文明や国際法について知りながら、それでも過去に拘り続けるシナ・朝鮮の精神は千年前と違わない。この近代文明のパワーゲームの時代に、教育といえば儒教を言い、しかもそれは表面だけの知識であって、現実面では科学的真理を軽んじる態度ばかりか、道徳的な退廃をももたらしており、たとえば国際的な紛争の場面でも「悪いのはお前の方だ」と開き直って恥じることもない。 
 私の見るところ、このままではシナ・朝鮮が独立を維持することは不可能である。もしこの二国に改革の志士が現れて明治維新のような政治改革を達成しつつ上からの近代化を推し進めることが出来れば話は別だが、そうでなければ亡国と国土の分割・分断が待っていることに一点の疑いもない。なぜならインフルエンザのような近代文明の波に洗われながら、それを避けようと一室に閉じこもって空気の流れを絶っていれば、結局は窒息してしまう他はないからである。 
『春秋左氏伝』の「輔車唇歯」とは隣国同志が助け合うことを言うが、現在のシナ・朝鮮は日本にとって何の助けにもならないばかりか、この三国が地理的に近い故に欧米人から同一視されかねない危険性をも持っている。すなわちシナ・朝鮮が独裁体制であれば日本もそうかと疑われ、向こうが儒教の国であればこちらも陰陽五行の国かと疑われ、国際法や国際的マナーなど踏みにじって恥じぬ国であればそれを咎める日本も同じ穴の狢かと邪推され、朝鮮で政治犯への弾圧が行われていれば日本もまたそのような国かと疑われ、等々、例を挙げていけばきりがない。これを例えれば、一つの村の村人全員が無法で残忍でトチ狂っておれば、たとえ一人がまともでそれを咎めていたとしても、村の外からはどっちもどっちに見えると言うことだ。実際、アジア外交を評する場面ではこのような見方も散見され、日本にとって一大不幸だと言わざるを得ない。 
 もはや、この二国が国際的な常識を身につけることを期待してはならない。「東アジア共同体」の一員としてその繁栄に与ってくれるなどという幻想は捨てるべきである。日本は、むしろ大陸や半島との関係を絶ち、先進国と共に進まなければならない。ただ隣国だからという理由だけで特別な感情を持って接してはならないのだ。この二国に対しても、国際的な常識に従い、国際法に則って接すればよい。悪友の悪事を見逃す者は、共に悪名を逃れ得ない。私は気持ちにおいては「東アジア」の悪友と絶交するものである。(明治18年3月16日)
以下に原文も掲載します。

世界交通ノ道便ニシテ西洋文明ノ風東ニ漸シ到ル處草モ木モ此風ニ靡カザルハナシ蓋シ西洋ノ人物古今ニ大ニ異ルニ非ズト雖ドモ其擧動ノ古ニ遲鈍ニシテ今ニ活發ナルハ唯交通ノ利器ヲ利用シテ勢ニ乘ズルガ故ノミ故ニ方今東洋ニ國スルモノヽ爲ニ謀ルニ此文明東漸ノ勢ニ激シテ之ヲ防キ了ル可キノ覺悟アレバ則チ可ナリト雖ドモ苟モ世界中ノ現狀ヲ視察シテ事實ニ不可ナルヲ知ラン者ハ世ト推シ移リテ共ニ文明ノ海ニ浮沈シ共ニ文明ノ波ヲ掲ケテ共ニ文明ノ苦樂ヲ與ニスルノ外アル可ラザルナリ文明ハ猶麻疹ノ流行ノ如シ目下東京ノ麻疹ハ西國長崎ノ地方ヨリ東漸シテ春暖ト共ニ次第ニ蔓延スル者ノ如シ此時ニ當リ此流行病ノ害ヲ惡テ之ヲ防カントスルモ果シテ其手段アル可キヤ我輩斷ジテ其術ナキヲ證ス有害一偏ノ流行病ニテモ尚且其勢ニハ激ス可ラズ况ヤ利害相伴フテ常ニ利益多キ文明ニ於テヲヤ啻ニ之ヲ防カザルノミナラズ力メテ其蔓延ヲ助ケ國民ヲシテ早ク其氣風ニ浴セシムルハ智者ノ事ナル可シ西洋近時ノ文明ガ我日本ニ入リタルハ嘉永ノ開國ヲ發端トシテ國民漸ク其採ル可キヲ知リ漸次ニ活潑ノ氣風ヲ催フシタレドモ進歩ノ道ニ横ハルニ古風老大ノ政府ナルモノアリテ之ヲ如何トモス可ラズ政府ヲ保存セン歟、文明ハ决シテ入ル可ラズ如何トナレバ近時ノ文明ハ日本ノ舊套ト兩立ス可ラズシテ舊套ヲ脫スレバ同時ニ政府モ亦廢滅ス可ケレバナリ、然ハ則チ文明ヲ防テ其侵入ヲ止メン歟、日本國ハ獨立ス可ラズ如何トナレバ世界文明ノ喧嘩繁劇ハ東洋孤島ノ獨睡ヲ許サヾレバナリ是ニ於テカ我日本ノ士人ハ國ヲ重シトシ政府ヲ輕シトスルノ大義ニ基キ又幸ニ帝室ノ神聖尊嚴ニ依頼シテ斷シテ舊政府ヲ倒シテ新政府ヲ立テ國中朝野ノ別ナク一切萬事西洋近時ノ文明ヲ採リ獨リ日本ノ舊套ヲ脫シタルノミナラズ亞細亞全洲ノ中ニ在テ新ニ一機軸ヲ出シ主義トスル所ハ唯脫亞ノ二字ニ在ルノミ
我日本ノ國土ハ亞細亞ノ東邊ニ在リト雖ドモ其國民ノ精神ハ既ニ亞細亞ノ固陋ヲ脫シテ西洋ノ文明ニ移リタリ然ルニ爰ニ不幸ナルハ近隣ニ國アリ一ヲ支那ト云ヒ一ヲ朝鮮ト云フ此二國ノ人民モ古來亞細亞流ノ政敎風俗ニ養ハルヽヿ我日本國ニ異ナラズト雖ドモ其人種ノ由來ヲ殊ニスルカ但シハ同樣ノ政敎風俗中ニ居ナガラモ遺傳教育ノ旨ニ同シカラザル所ノモノアル歟、日支韓三國相對シ支ト韓ト相似ルノ狀ハ支韓ノ日ニ於ケルヨリモ近クシテ此二國ノ者共ハ一身ニ就キ又一國ニ關シテ改進ノ道ヲ知ラズ交通至便ノ世ノ中ニ文明ノ事物ヲ聞見セザルニ非ザレドモ耳目ノ聞見ハ以テ心ヲ動カスニ足ラズシテ其古風舊慣ニ戀々スルノ情ハ百千年ノ古ニ異ナラズ此文明日新ノ活劇塲ニ敎育ノ事ヲ論ズレバ儒教主義ト云ヒ學校ノ敎旨ハ仁義禮智ト稱シ一ヨリ十ニ至ルマデ外見ノ虚飾ノミヲ事トシテ其實際ニ於テハ眞理原則ノ知見ナキノミカ道徳サヘ地ヲ拂フテ殘刻不廉耻ヲ極メ尚傲然トシテ自省ノ念ナキ者ノ如シ我輩ヲ以テ此二國ヲ視レバ今ノ文明東漸ノ風潮ニ際シ迚モ其獨立ヲ維持スルノ道アル可ラズ幸ニシテ其ノ國中ニ志士ノ出現シテ先ヅ國事開進ノ手始メトシテ大ニ其政府ヲ改革スルヿ我維新ノ如キ大擧ヲ企テ先ヅ政治ヲ改メテ共ニ人心ヲ一新スルガ如キ活動アラバ格別ナレドモ若シモ然ラザルニ於テハ今ヨリ數年ヲ出デズシテ亡國ト爲リ其國土ハ世界文明諸國ノ分割ニ歸ス可キヿ一點ノ疑アルヿナシ如何トナレバ麻疹ニ等シキ文明開化ノ流行ニ遭ヒナガラ支韓兩國ハ其傳染ノ天然ニ背キ無理ニ之ヲ避ケントシテ一室内ニ閉居シ空氣ノ流通ヲ絶テ窒塞スルモノナレバナリ輔車唇齒トハ隣國相助クルノ喩ナレドモ今ノ支那朝鮮ハ我日本國ノタメニ一毫ノ援助ト爲ラザルノミナラズ西洋文明人ノ眼ヲ以テスレバ三國ノ地利相接スルガ爲ニ時ニ或ハ之ヲ同一視シ支韓ヲ評スルノ價ヲ以テ我日本ニ命ズルノ意味ナキニ非ズ例ヘバ支那朝鮮ノ政府ガ古風ノ專制ニシテ法律ノ恃ム可キモノアラザレバ西洋ノ人ハ日本モ亦無法律ノ國カト疑ヒ、支那朝鮮ノ士人ガ惑溺深クシテ科學ノ何モノタルヲ知ラザレバ西洋ノ學者ハ日本モ亦陰陽五行ノ國カト思ヒ、支那人ガ卑屈ニシテ耻ヲ知ラザレバ日本人ノ義俠モ之ガタメニ掩ハレ、朝鮮國ニ人ヲ刑スルノ慘酷ナルアレバ日本人モ亦共ニ無情ナルカト推量セラルヽガ如キ是等ノ事例ヲ計レバ枚擧ニ遑アラズ之ヲ喩ヘバ比隣軒ヲ並ベタル一村一町内ノ者共ガ愚ニシテ無法ニシテ然カモ殘忍無情ナルトキハ稀ニ其町村内ノ一家人ガ正當ノ人事ニ注意スルモ他ノ醜ニ掩ハレテ堙沒スルモノニ異ナラズ其影響ノ事實ニ現ハレテ間接ニ我外交上ノ故障ヲ成スヿハ實ニ少々ナラズ我日本國ノ一大不幸ト云フ可シ左レバ今日ノ謀ヲ爲スニ我國ハ隣國ノ開明ヲ待テ共ニ亞細亞ヲ興スノ猶豫アル可ラズ寧ロ其伍ヲ脫シテ西洋ノ文明國ト進退ヲ共ニシ其支那朝鮮ニ接スルノ法モ隣國ナルガ故ニトテ特別ノ會釋ニ及バズ正ニ西洋人ガ之ニ接スルノ風ニ從テ處分ス可キノミ惡友ヲ親シム者ハ共ニ惡名ヲ免カル可ラズ我レハ心ニ於テ亞細亞東方ノ惡友ヲ謝絶スルモノナリ

明治18年(1885年)3月16日
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2019年2月24日日曜日

【田村秀男の日曜経済講座】消費税増税素通りの無責任国会 デフレの悪夢を招き寄せるのか―【私の論評】IMFにも米財務省にも指摘された、日本の消費税増税の非合理(゚д゚)!

【田村秀男の日曜経済講座】消費税増税素通りの無責任国会 デフレの悪夢を招き寄せるのか

 今通常国会は小役人による厚生労働省の統計不正追及に終始し、国民経済を左右する10月からの消費税率引き上げはそっちのけだ。消費税増税はデフレという悪夢を招き寄せかねないのに、真剣な論戦がないのは国政の責任放棄ではないのか。

 「悪夢」と言えば、安倍晋三首相が先の自民党大会で旧民主党政権をそう決めつけた。首相はその前の国会施政方針演説で「デフレマインドが払拭されようとしている」と明言した。首相は、国民にとっての民主党政権時代の最大の悪夢はデフレ不況であることを念頭に、アベノミクスがデフレ病を克服しつつあると誇示したかったのだろう。

 ニュースを見ると、人件費や物流費の上昇を受けて今春以降、牛乳、ヨーグルト、カップ麺、高速バス運賃などの値上げが予定されている(18日付産経朝刊)。物価が全般的かつ継続的に下がるというのが経済学教科書でいうデフレの定義だが、生活実感には必ずしもそぐわない。

 物価がたとえ上がっていても、賃金上昇が追いつかないと、デフレ圧力というものが生じる。懐具合がよくないのだから消費需要が減退する。低販売価格を強いられる企業は賃上げを渋る。こうして物価が下落に転じ、賃金も道連れになる。それこそがデフレの正体だ。こじれると賃金が物価以上に下がる。

 政府がわざわざ国民生活をデフレ圧力にさらすのが消費税増税だ。モノやサービス全体を一挙に増税で覆いかぶせる。平成9年度、橋本龍太郎政権が消費税率を3%から5%に上げると、物価は強制的に上がったが、名目国内総生産(GDP)の成長が止まった。その後、物価下落を上回る速度で名目GDPが縮小する長期トレンドに陥った。



 上述したように、消費税増税後、産業界全体が賃金や雇用を減らすようになり、物価の全般的な下落と国民全体の所得減が同時進行する悪循環が起きた。グラフを見よう。旧民主党政権が発足した平成21年以降の名目GDP、GDP全体の物価指数であるデフレーターと日銀による資金供給(「マネタリーベース」)の前年同期比の増減率を比べている。旧民主党政権下では、リーマンショック後のデフレから抜け出せない中、23年3月の東日本大震災に遭遇するとGDP、物価ともマイナスに落ち込んだ。

 思い起こせば、旧民主党政権は確かに無策そのものだった。筆者は22年初め、経済学者の故宍戸駿太郎筑波大学名誉教授らとともに政権を奪取した旧民主党の鳩山由紀夫首相(当時)に直接会って、財政ばかりでなく金融でも量的拡大策をとるよう進言した。鳩山氏は大きな目をくるくる回しながら聞き入れ、「そうですね、金融緩和は重要ですね」と同意した。

総理大臣だった頃の鳩山由紀夫氏


 だが、日銀は一向に動かないままだ。しばらくたったあと、たまたま国会の会議室で出会った鳩山元首相に問いただすと、「官房長官を通じて、日銀に申し上げたのですが、断られました」とあっさりしたものだった。

 日銀の白川方明総裁(同)は金融政策ではデフレを直せないという「日銀理論」の権化のような存在だ。白川日銀が東日本大震災後、資金供給を増やしたのはつかの間で、資金を回収する引き締めに戻し、デフレを高進させた。

財務官僚は、うぶな旧民主党政権を消費税大幅増税の踏み台にした。野田佳彦首相(同)は言われるがままに消費税増税に向けた旧民主、自民、公明の3党合意を成立させた。税率を3%、2%の2段階で引き上げる内容だった。

 省内では「欧州でもそんな大幅な引き上げは景気への悪影響を懸念して避け、小刻みな幅にとどめる」との慎重論が出たが、幹部は「民主党政権の今こそ千載一遇の好機だ」と一蹴した。デフレを放置し、慢性デフレを悪化させる消費税増税にのめり込んだ旧民主党は、衆院総選挙で脱デフレと大胆な金融緩和を唱える安倍自民に惨敗した。

 安倍政権は異次元金融緩和を中心とするアベノミクスで景気を拡大させたが、26年度の消費税率8%への引き上げで大きくつまずいた。デフレーターもGDPも大きく落ち込んだあと、輸出主導で少し持ち直したが、昨年後半は2四半期連続で名目GDPが前年同期比マイナスになった。

 頼みの外需では米国景気拡大が止まった上、中国経済は昨年後半から減速が目立つ。トランプ米政権による対中制裁関税の追い打ちで中国の景気悪化は加速する情勢だ。安倍首相がそれでも消費税率10%を実施するなら、「悪夢」という言葉はブーメランになって自身を襲いかねない。

【私の論評】IMFにも米財務省にも指摘された、日本の消費税増税の非合理(゚д゚)!

日本の消費増税をめぐる議論は、全部嘘です。

「日本は1000兆円の借金を抱えていて財政が破綻する。財政再建のために、消費税を増税するしかない」これは、明らかな嘘です。

「日本は少子高齢化が進んでいて、社会保障の財源が足りないから、消費税を増税するしかない」これも、完璧な嘘です。

しかし日本のメディアでは、そのような「嘘の言説」だけ流します。結果として、そのような嘘が日本ではあたかも「まじめな議論」として通り、まことしやかに語られるどころか、様々な理由で増税に反対すれば、倫理的におかしいなどと批判されてしまうことすらあります。

逆に「消費税に関する議論は嘘ばかりだ」と声を上げると、白眼視される雰囲気さえあります。それは長い年月をかけて培われてきた、日本の「特殊な言論空間」以外の何者でもありません。

消費税の議論は、主に3つあります。
1 財政破綻論 
2 社会保障論 
3 景気論
このうち、1の財政破綻論が嘘であることは、2018年10月にIMF(国際通貨基金)が発表したレポートで世界中にバレてしまいました。これについては、このブログでも掲載したことがあります。
コラム:日本の純資産はプラマイゼロ、IMFの新国富論―【私の論評】財務省は解体し複数の他官庁の下部組織として組み入れ、そのDNAを絶つべき(゚д゚)!

IMFのレポートの内容は、私が従来から主張していたことと同じです。まず財政は、資産と負債の両方が書かれたバランスシート(貸借対照表)で見るものであり、資産と負債の差額である純資産(ネット資産)で判断するものです。

純資産で見ると、日本の財政はバランスが取れており、むしろ健全である、というのが私が主張してきたことです。

IMFレポートも、国の財政は負債だけでなく、資産と併せて見るべきものだと指摘しています。その観点から見ると、じつは日本の財政はG7中、カナダに次いで健全であることが示されています。

またIMFが発表するまでもなく、日本の財政が破綻状態にないことは、世界中の金融のプロたちはよく知っています。

その証拠に、世界で経済的リスクが高まると、決まって「リスク回避」や「安全資産への逃避」を理由に円通貨が買われ、円高になります。経済リスクがあるときに、財政破綻の可能性が高い国の通貨を買う人はいません。先進国のなかでも日本が財政破綻する可能性は低いと知っているから、安全な資産として円が買われるのです。

ところが、財務省は「1000兆円の国の借金」ばかりを喧伝し、マスコミも同じことしか書きません。

しかし借金の額だけを見ても、前述のバランスシートで判断しなければ国の財政のことはわかりません。増税を目論む財務省は、自分たちにとって都合の悪いIMFレポートには触れてほしくなさそうですが、このレポートは世界に向けて公表されたものであり、世界の誰でも読めるものです。

「日本の財政は破綻しそうにない」事実が世界に公開され、「財政破綻だから増税する」という財務省のロジックは、まったく根拠のないものであることが明確になりました。

次に、2 の社会保障論も全くの嘘です いま増税派は、財政破綻論から増税論を語るのは分が悪くなってきたと思ったのか、「社会保障費のための消費増税」という論点に軸足を移しています。

かいつまんでいえば「少子高齢化が進み、年金・医療などの社会保障の財源が足りなくなる。消費税を増税しなければならない」という論です。

しかし、この論も全くの嘘で、間違いといわざるをえません。なぜなら年金、医療、介護の3つの社会保障は、基本的には税ではなく「保険方式」で運営されているからです。実際、世界のいずれの国でも古今東西、社会保障を税で賄うなどという途方もない嘘を言ったのは、日本の財務省とそれに追随する日本のマスコミや識者だけです。

最後に、3 の景気論です。

安倍首相は、リーマンショック級のことがなければ消費増税を行なう、といっていますが、一ついえば世界経済、とくに英国のEU離脱の行方が心配です。

私は、英国のEU離脱は世界経済にリーマンショック級の影響を与える可能性がある、としてきました。その当時は「合意ある離脱」が前提であり、英国政府の予測では、GDPに与える悪影響は3・6~6.0%でした。

いまは「合意なき離脱」を覚悟せざるをえない状態であり、そのインパクトは二倍程度でしょう。であれば、まさにリーマンショック級になるのは避けられないと思います。

米中貿易戦争での中国の景気ダウンも心配です。

中国はまだ成長率6%台といっていますが、この数字が当てにならないのは誰でも知っています。本当に6%台なら景気対策の必要はないでしょうが、中国は20兆円台の減税をやろうとしています。

そのなかで、いま16%の消費税率(増価税率)を10%へ引き下げるとしています。あの中国ですら消費減税しようとしているのですから、これもリーマンショック級といって良いでしょう。

日本としては政策総動員を準備すべきであり、このタイミングで消費増税をするのは間違いです。リーマンショック時に「蚊に刺されたような」と楽観視し、適切な政策が打てずに大混乱したことを忘れてはいけません。

そうして、最後に米国財務省の動きも掲載しておきます。

米国財務省による米外国為替半期報告書に次のような記載があります、"In Japan, growth also has become more uncertain, with setbacks highlighted by a large, tax-induced contraction in the second quarter."

これを日本語に翻訳すると、

「第2四半期の消費税増税という政策的逆行(setback アベノミクスの経済成長路線を妨げた・逆行)のせいで景気後退してしまったので、日本の経済成長率の見通しはより不透明になりつつある」です。

この報告書の本編は以下のリンクからご覧いただけます。


第2四半期の消費税増税とは、2014年の4月の8%への消費税増税を指します。米国財務省は、これが失敗し景気後退したとはっきり述べているわけです。

米国財務省が日本に対して増税を延期しろって直接言うと内政干渉になってしまいますから、婉曲的な表現にして、その中で増税延期を迫っているとみるのが妥当な見方だと思います。これについては、日本のマスコミは完全無視です。

トランプ大統領はなぜ「日本の消費税」に怒るのか、安倍総理は理解しているのか?

このブログで過去にも述べたように、トランプ政権は、日本の消費税を日本の輸出産業に対する補助金のようにみなしていて、反対しています。さらに、米国では元々消費税は不公平な税制とみなしています。これに関しては下の【関連記事】のところに当該記事を掲載しておきますので、詳細を知りたいかたはこの記事をご覧になって下さい。

世界にリーマン級の危機が訪れているにもかかわらず、わざわざ増税するのには何か魂胆があると米国側にみられて、実際増税すれば、それへの対抗措置として日米通商交渉で関税を上げられてしまうということにもなりかねません。

以上に述べたように、これだけのリスクがあり、IMFと米国財務省からも指摘されているのに、なぜ来年消費税を10%に上げるのは異常といっても過言ではないです。

【関連記事】

コラム:日本の純資産はプラマイゼロ、IMFの新国富論―【私の論評】財務省は解体し複数の他官庁の下部組織として組み入れ、そのDNAを絶つべき(゚д゚)!

2019年2月23日土曜日

ノーベル推薦問題でも鮮明…国益もたらした安倍首相と「仕事」できずに苦境の中韓―【私の論評】「べきだ論」に拘泥すれば、まともに仕事ができなくなるどころか人生でも失敗(゚д゚)!

ノーベル推薦問題でも鮮明…国益もたらした安倍首相と「仕事」できずに苦境の中韓

安倍首相

安倍晋三首相がトランプ米大統領をノーベル平和賞に推薦したと報じられた。これについては批判もあるが、外交の手段としてどう評価できるか。

推薦をめぐり、国会で質問があったが、安倍首相は否定も肯定もせず真偽を明らかにしていない。ちなみに、誰からの推薦があったかについて、ノーベル賞委員会は推薦者を50年明かさないので、50年間は分からないだろう。

トランプ氏への推薦は他国の疑問を招きかねないとの批判もある。立憲民主党会派の小川淳也氏は「ノーベル賞はありえない。日本として恥ずかしい」と非難した。

ただし、外交の観点からは、好き嫌いの感情より国益優先だ。国家間の関係は個人感情よりビジネスライクのほうがよく、そのようなリアルな外交からすると問題はない。各国の外交関係者には、日本はうまくやっていると見えるだろう。

実際にトランプ氏から「推薦」について話が出たというのは、米大統領に効果があったわけで、日本の国益という観点で、外交上の意味があったということになる。

いずれにしても、このノーベル賞推薦報道についてのコメントをみると、外交に関する理解度がよく分かる。

この推薦に批判的な人の中には、トランプ氏とのゴルフについても「遊んでいる」と批判する人もいるようだ。

こうした「理想主義的なお花畑論」は、「リアルな外交論」との対立軸に帰着する。お花畑論の人は「べきだ論」ばかりで、推薦もゴルフも不要であり、ひたすら理想論ばかりを言っていればいいとなる。

しかし、外交は生身の人間が行うことであるので、リアルな外交論からいえば、使えるものは何でもいい。一般のビジネス社会では、昼間の会議だけではなく、夜や休日の接待も「仕事」の一環となることも多い。トータルな「仕事」でビジネスすることを考えれば、リアルな外交論の方に軍配があがる。

実際、安倍首相は日本に国益をもたらしている。分かりやすい例が経済関係だ。トランプ氏の大統領選直後の面会、ゴルフ、そして真偽不明だがノーベル賞の推薦を行ったとされ、結果として日本は高関税を免れている。日本のアキレス腱(けん)は自動車関税だが、これまでのところ猶予されている。

トランプ氏は新しい天皇に面会するために5月中に来日する。6月末にも20カ国・地域(G20)首脳会議で来日する。このように短期間で米大統領が複数回来日することは異例だが、その頃までは、米国が自動車関税で日本を揺さぶることはないだろう。これは安倍首相が「仕事」をしてきたからだ。

一方、中国の習近平国家主席は、安倍首相のような「仕事」をしていない。そのため、トランプ氏は中国製品に高関税を課し、そのせいで中国経済は大きく減速している。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も「仕事」をできず、中国とともに経済で苦境である。

これまでのところ、中韓と比べて日本はうまくやっているというのが外交関係者の見方だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「べきだ論」に拘泥すれば、まともに仕事ができなくなるどころか人生でも失敗(゚д゚)!

日本では、企業によっては「虚礼廃止」ということで、社内や取引先などへのお中元、お歳暮の付け届け、年賀状まで廃止しているところもあります。これは、癒着や不正などを未然に防ぐという意味もあります。

また、取引先から接待など受ける場合は予め必ず上司に伺いをたてないとだめなどという会社もあります。

しかし、あまりこれが行き過ぎると、本当に社内や社外でお世話になった人に対してまで、真心によるお礼ができないということにもなりかねません。私自身は、何事もほどほどというのが良いと思います。

しかし、安倍総理がトランプ大統領に対してノーベル賞を推奨するなどという行為は、特に何も規制があるわけではないので、日米関係を考えると、私は上手なやり方だと思います。

ブログ冒頭の記事にもあるように、「理想主義的なお花畑論」的思考によれば「べきだ論」ばかりで、推薦もゴルフも不要であり、ひたすら理想論ばかりを言っていればいいということになります。

しかし、生身の人間同士が行う外交ですから、そこにはある程度の潤滑油も必要です。今回の安倍総理のノーベル賞の推奨は、その潤滑油の一つといえるでしょう。今回のことは、このくらいに鷹揚に考えられないのかと、ついつい思ってしまいます。


特に「べきだ論」は始末に終えません。「べきだ論」に浸る人たちには、「良き意図」と「意思決定」の区別がついていないようです。

経営学の大家ドラッカー氏は「意思決定」について以下のようなことを主張しています。
いかなる組織構造でも意思決定が行われる。その際、正しい問題を、正しいレベルで意決定を行い、実際の仕事に移し、成果に結びつけなければならない。
組織構造がこのプロセスの阻害要因となってはならず、意思決定を強化するものでなければならない。
では、意思決定にとっての阻害要因とはどのようなものでしょうか。
ひとつは、常に上位マネジメントが意思決定を行わざるをえなくなっていること。

二つ目は、構造が複雑で、明快さに欠け、致命的に重要な問題の発生がわからなくなること。

さらに、まちがった問題や成果に関わりのない縄張り意識に対して組織の関心を向けさせること。
ドラッカーは、組織構造の在り方は、意思決定を組織や個人の仕事に移すことに大きな影響を与える、としています。

最後に、
意思決定は、それが仕事としてあるいは行動として実行に移され、成果をもたらさないかぎり、良き意図にすぎない。
 「理想主義的なお花畑論」の人たちの意思決定は、もっぱらこの「良き意図」の範疇を出ていないのです。

ドラッカー氏

「お花畑論」の人々のこの「良き意図」は「べきだ論」にまで高まり、身動きがとれないほどに彼らをがんじがらめに縛っています。

ノーベル平和賞の本質を知っていれば、そうして現実の世界情勢を知っていれば、トランプ大統領をノーベル平和賞に推奨する行為は別に特に奇異なことではないことがすぐに理解できるでしょう。それについては、以下の動画を参照して下さい。



ノーベル賞の正体を知れば、安倍総理のように、「トランプ大統領をノーベル賞候補に推奨」するという、比較的重要ではない意思決定すらできないどころか、それを「良き意図」に照らし合わせ、否定的な批判しかできなくなってしまうのです。

ここでいう「良き意図」とは、無論「マスコミなどで見る限り、トランプは異常でありまともではないから、大統領にはするべきではない」という考えです。

「良き意図」にばかり執着する人々は、ドラッカーの語る「意思決定は、それが仕事としてあるいは行動として実行に移され、成果をもたらさないかぎり、良き意図にすぎない」という言葉の意味を全く理解していないようです。

要するに、まともな仕事をしていないのです。習近平も、文在寅も仕事をしていないのです。習近平は「とにかく中国共産党は絶対正しく何が何でもまもるべき」との、そうして文在寅は「とにかく北を支援すべき、反日すべき」との「べきだ論」にこりかたまっており、まともな仕事ができない状況に陥っているのだと思います。

「べきだ論」に拘泥しまともに仕事ができない、文在寅と習近平

そこにいくと安倍総理は「べきだ論」にこだわらず、欧米では左派の政策であるといわれている、金融緩和を実行して大規模な雇用の創出に成功しています。

日本にも「べきだ論」に凝り固まって、まともな意思決定ができず、結局仕事ができない人が大勢いるようです。そもそも「べきだ論」にこだわると、思考が停止します。

「〜べき」をはじめとする言い回しは何かを断言・決定・固定化するだけの「力」を持っているため、その言葉を使うことで自分自身を縛る枷となってしまいます。

「これはそうするべき」と断定してしまえば、それを簡単に撤回することは難しいです。人間は、意見や価値観の変化はあって然るべきですが、あまりに頻繁に二転三転していては、信用を失います。かと言って、なんてもかんでも「〜べき」で固定してしまえば、それ以外の主張を明らかにすることも憚られ、どんどん息苦しくなっていく一方です。
これは、上のように極端な事例で説明すれば、理解できるのでしょうが、意外と多くの人が「べきだ論」にこだわり、実際には何も仕事らしい仕事をしていないということは良くあることではないかと思います。特に中間マネジメント以上にそのような傾向がみられると思います。実際私は、そのような事例を過去にいくつもみたことがあります。

それにあまりに拘泥しすぎると仕事ができなくなるどころか、人生にも失敗してしまうようです。
貴乃花元親方

これに関しては"誰が不幸になろうと我をとおす「貴乃花病」"という趣旨の記事を高須クリニックの院長の興味深い記事があります。この"我をとおす「貴乃花病」"というのが、「べきだ論」で凝り固まる人の陥る病なのだと思います。
「べきだ論」に拘泥し続けると、仕事だけではなく、人生においても失敗してしまうということなのでしょう。

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2019年2月22日金曜日

韓国・文政権と日本の民主党政権は似ている? 無理に最低賃金引き上げた結果…左派なのに雇用創出に失敗 ―【私の論評】文在寅・民主党政権の経済政策は「悪夢」以外の何ものでもない(゚д゚)!


文在寅大統領

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の雇用政策は、驚くほど日本の民主党政権(当時)と共通点がある。その背景は何か。

 先日関西で放送された情報番組『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』で、金明中(キム・ミョンジュン)ニッセイ基礎研究所准主任研究員から興味深いリポートがあった。

 それによれば、韓国の文政権では、最低賃金引き上げと労働時間短縮をやったが、結果として失業率が上がったという。

 この話を聞いていて、筆者は「金融緩和を行って雇用を作る前に、先に賃金を上げてしまうと、結果として雇用が失われる」という典型的な失敗政策だなと思いながら、同時に民主党政権当時の政策を思い出した。

 実は筆者は、アベノミクスの金融政策を説明するため、韓国大使館をしばしば訪問していた時期がある。文政権が誕生する前のことだ。その後、韓国では文政権が誕生した。左派政権である文政権が、民主党政権と同じような失敗をしたのは、きわめて興味深い。

 左派政党の建前は「労働者のための党」というものだ。このため、雇用を重視する。しかし、雇用を作る根本原理が分からないと、目に見えやすい賃金に話が行きがちだ。

金融緩和は一見すると、企業側が有利になるため、短絡的に労働者のためにならないと勘違いする。金利の引き下げは、モノへの設備投資を増やすとともに、人への投資である雇用を増やすことになるのを分からないからだ。その間違いをする人は、金融引き締めで金利を上げることが成長にいいとか言いがちだ。立憲民主党の枝野幸男代表のかつての発言がその典型だ。

 そうした勘違いの末、政策としてやりやすい最低賃金の引き上げになる。

 民主党もこれで失敗した。2010年の最低賃金は引き上げるべきでなかったが、左派政権であることの気負いと経済政策音痴から、前年比で2・4%も最低賃金を引き上げてしまった。前年の失業率が5・1%だったので、それから導かれる無理のない引き上げ率はせいぜい0・3%程度であるのに、民主党はもったいないことをした。

 それが、結果として雇用の悪化につながった。民主党時代、就業者数は30万人程減少したが、第2次安倍晋三政権では300万人以上も増加した。

 大学卒業者の卒業年の就職率について、民主党時代の11年は91%だったが、安倍政権の18年は98%である。社会人になっていない学生は、雇用の既得権もないので、政策による雇用創出の巧拙の影響がもろに出る。

 最近の韓国は、北朝鮮化しており、いわゆる元徴用工判決、レーダー照射事件、慰安婦像問題、天皇陛下への謝罪要求など対日関係はひどすぎる。

 しかし、旧民主党からできた野党はほとんどモノを言わない。似た者同士なので言わないのかと邪推してしまうほどだ。

 野党が政府与党を批判するのは当然だが、2年以上も「モリカケ」をやって結果が出なかった。統計不正問題もまた「モリカケ化」するのではないか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】文在寅・民主党政権の経済政策は「悪夢」以外の何ものでもない(゚д゚)!

2月10日の自民党大会で「悪夢のような民主党政権」と発言した安倍首相に対し、岡田克也元副総理が撤回を求めるなど、激しい論争になっていました。岡田氏にとっては、自分たちの時代を「悪夢」と言われて気のいいものではないことは理解できなくもありません。

一方で、国民にとって民主党政権の3年間は「悪夢」だったのかどうかは、様々な角度から検証されるべきです。

そもそもこの表現は、安倍首相だけが使っているものではありません。1月31日には、日本維新の会の馬場伸幸幹事長が衆議院代表質問を行い、その冒頭で「あの悪夢の3年間といわれた民主党政権」と発言しています。一国の首相と野党の幹事長では影響力が違うという声もあるでしょうが、首相だけの認識ではないということは、確認しておくべきでしょう。

さて、安倍首相が「悪夢のような民主党政権」と批判したのは、経済政策についてです。民主党政権時代は、安全保障分野では「普天間基地は最低でも県外」と掲げて内外の政策に大混乱を招いたこと、「尖閣諸島での中国漁船と日本の巡視船衝突事件」での中国人船長釈放、福島原発事故での「官邸による人災」など、「悪夢」と呼ぶにふさわしい出来事の連続でした。

鳩山元総理大臣

しかし、ここではあくまで安倍首相が指した民主党時代の経済政策、特に雇用に絞って議論します。

先に雇用以外について述べるなら、民主党政権が行った、震災復興増税の導入はまさに「悪夢」です。100年に一度の大災害が起きた場合、復興費用を捻出するために100年国債を発行するのが経済学の教えである。

これを増税で賄おうとしたことで、震災で大ショックを受けた上に、増税という人災で日本経済がダブルショックを受けることになったのです。地震などの自然災害を増税などで、賄うなどという、常軌を逸したことを行ったのは、古今東西日本の復興増税だけです。

私は、経済政策を評価する際、①雇用、②所得を基準に評価を下します。これは一貫して変わっていません。景気が悪くなれば、まず金融緩和(これに財政出動も加えて)によって有効需要を創出し、雇用を作るのがマクロ経済政策の手順です。

この観点から見れば、民主党時代の経済政策は「悪夢」だったと言えます。働きたい人に仕事がある状況を作るのが政治の大きな責任であり、民主党政権と安倍政権の差は、何より「雇用の創出ができたかどうか」です。

この両政権の差は、金融政策です。金融緩和を行わなかった民主党政権と金融緩和を行った安倍政権の差です。

金融政策がどうして雇用に効くかというと、一般物価の変動を通じて実質金利に作用し、モノへの設備投資とともに、ヒトへの雇用の増大へ影響するからです。他の政策では、個別物価に影響を与えても一般物価には影響を与えられません。これは金融政策がもつ、他の政策にない特徴です。

民主党は、この点の理解がまったくできていませんでした。就業者数を増やすべき時に、賃金を引き上げようとしたのですが、これはまったくの経済政策オンチだったといわざるを得ないです。

民主党議員等の中にも、馬渕氏や金子洋一氏のように、「金融政策は雇用政策であり、もっと金融緩和すれば雇用がよくなり自殺率がさらに低下する」ということを理解している人もいますが、これはほとんど例外的であって、民主党の議員のほとんど、そうして幹部は、皆無でした。これは自民党も似たようなものですが、安倍総理とその側近はこれを理解しています。

金子洋一前参議院議員

このような政策が実現しなかったのは、当時執行部にいた、現立憲民主党党首の枝野幸男氏の影響もあるでしょう。というのも、民主党が政権を取る前、あるテレビ番組で枝野氏は「金融引き締めが高成長につながる」との持論を展開していたからです。

安倍首相は政権を取る前から、金融政策のことを話していたので、やはりこれを理解していたのです。

私は、こうした話は、日本だけの話かと思っていたのですが、ブログ冒頭の記事にもあるように、「金融緩和を行って雇用を作る前に、先に賃金を上げてしまうと、結果として雇用が失われる」という典型的な失敗政策を文在寅大統領が実行して大失敗しているのです。これについては、昨年何度かこのブログにも掲載したことがあります。

実は筆者は、韓国の日本大使館にアベノミクスの説明をするためにしばしば訪問していた時期がある。文政権が誕生する前のことだ。その際、金融政策は雇用政策であることを安倍政権にも民主党政権にも説明したが、実行したのは安倍政権で、結果、雇用の確保に成功したということも説明した。

その後、韓国では文政権が誕生しました。文政権は左派政権ですが、金融緩和策を採らなかったために、民主党政権と同じような失敗をしたのは、きわめて興味深いことです。

このような失敗政策の悪影響は、大学新卒者の就職率に表れます。新卒者は限界的な雇用なので、政策による雇用創出の巧拙の影響がもろにでるからです。実際、いまの韓国で、大学の就職率はかなり悪いです。大卒の就職率は67.7%であり、若者の失業率は10.0%といわれています。

日本でも、大学卒者の卒業年の就職率について、民主党時代の2011年は91%でしたが、安倍政権の2018年は98%でした。社会人のスタートにもついていない学生は、雇用の既得権もありません。そうした若者に、将来の安心をいかに与えることができるかは、政治にとって重要なことです。この意味でも、民主党時代は酷かったと言えます。

これは大学関係者や企業の人事部の人なら誰でも知っていることです。少し前には、どの企業にとっても新卒雇用は買い手市場で、かなり楽だったはずです。しかし、今はその全く逆です。

若い人たちも民主党政権時代に就職状況が悪かったことはよく知っています。若い人の安倍政権政権支持が多いのは、右傾化ではなく、就職ができるようになったからでしょう。

経済政策においては「雇用の創出が先決で、賃金は後からついてくる」が正しいです。ただし、最低賃金をどのように設定すべきか、という問題が残るのは事実です。実は、最低賃金は前年の失業率から無理のない水準にし、賃金は後からついてくるという原則を曲げないようにさえすれば良いのです。

この点、安倍政権はかなり、手練たやり方をしています。雇用を作りつつ、失業率が下がるような環境を作っておき、最低賃金は失業率の低下に合わせて、毎年上がっていくように調整しています。

安倍首相は、このメカニズムを「政治的」に上手く利用しています。前の年の失業率低下から、無理のない最低賃金の引き上げを行うのですが、その際、「政労使会議」を利用し、あたかも安倍首相主導で最低賃金を引き上げたように見せ、政治的なプレゼンスを高めているかのようです。

いってみれば、最低賃金の引き上げは、雇用創出の成果であるが、その果実を安倍政権は政治的に上手く利用しているともいえます。

それは、次の図で明らかです。



民主党は、はじめの年の2010年の最低賃金は引き上げるべきでなかったのです。しかし、左派政権であることの気負いと経済政策音痴から、前年比で2.4%も最低賃金を引き上げてしまいました。前年の失業率が5.1%だったので、それから導かれる無理のない引き上げ率はせいぜい0.3程度であるのにです。

こうした失政は、多くの国民が(少なくとも肌感覚で)わかっているのに、元民主党の関係者は、このことについての反省がないようです。それでは、永遠に次の政権交代は起こらないでしょう。政権交代の選択肢がないということは、国民にとって大きな損失です。

最後に、①雇用と②所得(総所得と賃金)について、民主党政権と安倍政権の成果について、念のために図を掲げておきます。



これらをみれば、日本維新の会の馬場伸幸幹事長でなくても、「悪夢」といいたくなる気持ちがお分かりいただけると思います。

さらに、最近国会で、修正後もわずか0.5%とかその程度しか違わないの統計不正に関して、倒閣に利用しようとする民主党の後継である、立憲民主党等が国会での追求をみていると本当にあの「悪夢」を生み出したのは、「悪魔」ではないかと思ってしまいます。

ただし、不正は不正です。しかし、あの不正は官僚側に100%問題があるのであって、安倍政権側の問題ではありません。もし、あれで政権が崩壊するというのなら、どの政権も不正など発見しなくなってしまいます。

そうして、民主党政権のときにもあの不正はあったということを現在の立憲民主党や、国民民主党などの野党はどう考えているのでしょうか。

やはり、文在寅政権と民主党政権の経済政策は「悪夢」以外の何ものでもないです。

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2019年2月21日木曜日

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中国主席習近平

昨年7月12日付の本欄は中国国内の巨額負債問題を取り上げたが、今年1月、負債総額に関する驚くべき数字が中国の経済学者によって披露された。中国人民大学教授の向松祚氏は1月20日に上海で行った講演で、今、中国国内で各方面の抱える負債総額は「約600兆元(約9700兆円)に達していると語った。これは、日本の名目GDPの18倍に近い、天文学的な数字である。

 今の中国経済はまさに莫大(ばくだい)な負債の上に成り立つ「借金漬け経済」であるといえるが、実は近年、この国の20代の若者たちまでが「借金漬け経済」のとりことなっているのである。

 先月下旬、中国国内の各メディアは香港上海銀行(HSBC)が行った経済調査の数字を大々的に報じた。それによると、今の中国では、20代の若者たちが抱える個人負債額は1人当たり12万元で、この世代の平均月給の18倍強に相当するという。

 「12万元」となると、日本円にしては約200万円。現時点での中国国民と日本人との平均収入の格差を考慮に入れれば、「負債額12万元」は、日本での感覚で言えば、20代そこそこの若者たちが平均して「500万~600万円の借金」をかかえていることになる。まさに驚愕(きょうがく)に値する異常事態であろう。

 中国の20代が抱える負債の多くは民間の消費者金融からの借金である。例えば中国で有名な消費者金融業者「蟻金融服務集団」が運営する「花唄」という金融サービスには、20代の若者、約4500万人が登録し、利用しているという(『2017若者消費生活報告』)。つまり、全国の20代の4人に1人が、この金融サービスを利用しているという計算である。

花唄のサイト

 もちろん「花唄」以外にも若者たちをターゲットとする消費者金融が多くあって繁盛している。実際、全国で消費者金融を利用している人々の半数近くが20代の若者である、という調査結果も出ているのである。

 先月発売の『中国新聞週刊』の分析によると、20代の若者たちが消費者金融に走った理由の一つは、彼らが業者やマスコミの吹聴する「超前消費=前倒し消費」という「新概念」に洗脳され、欲望が無制限に拡大したことにある、という。その結果、彼らは自分の収入水準をはるかに超えた消費をむやみに求めることになっている。

 「花唄」を利用している20代の64%が借りたお金を電子製品や化粧品、ぜいたく品の購入に費やしているとの調査結果もあるから、20代の消費行動がまさに「身の程知らず」の不合理なものであることが分かるであろう。

 しかし、これら若者たちの不合理な消費行動によって中国経済の成長と「繁栄」が支えられている面もある。昨年の「独身の日」、例のアリババのショッピングフェスティバルは1日で310億ドルの売り上げを見せたことで世界を仰天させたが、考えてみれば何のことはない。大半が独身であろう20代の若者たちが借金をして買い物したために、驚異的な売り上げを記録しただけなのである。

 そんなのは、あくまでも砂上の楼閣だ。若者たちが20代で冒頭のような高額な負債を抱えていると、今後は借金の返済に追われていくのがオチである。経済の低迷で20代の収入も伸び悩みとなるから、これから借金の「蟻地獄(ありじごく)」に陥るのは目に見えている。

 若者たちによる無理な「超前消費」と、それを頼りにしている小売業者の商売繁盛はいずれか、砂上の楼閣のごとく崩れてしまい、ただでさえ中国経済のネックとなっている国民全体の消費不足がさらに拡大していく。多くの消費者金融の破綻も避けられない。中国流「借金漬け経済」のツケはこれから回ってくる。


【プロフィル】石平(せき・へい) 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

【私の論評】無限の闇に向かって突っ走る中国の経済・社会! 冷戦はそれを若干はやめるだけ(゚д゚)!

上の記事では、中国の拝金主義が若者をも深く蝕んでいることが書かれていましたが、どこの国でも若者の行動はその社会を反映したものであることが多く、中国も例外ではないです。

以前より問題視されている中国産食品の安全性。特に農薬の基準値オーバーなどの違反事例が多いというのも拝金主義による側面が大きいです。

さらに、“経済的な問題”の影響も大きいです。昨年頃から中国国内は経済の減速感に包まれています。トランプ米大統領の米国と相互に制裁関税を課し合う貿易戦争が、地方経済を直撃しているのです。

そもそも、中国では先にものべたように、拝金主義が強く、後先考えず“儲かればいい”とばかりにずさんな安全管理をするケースが目につきます。経済が冷え込めば、なおさらです。

たとえば昨年、出荷直前の牛の体重を水増ししようと、1頭あたり60リットルの水を強制的に飲ませた畜産農家が告発されました。また、過去にはすいかの生産量を倍増させるため「成長調整剤」を畑に撒いたところ、すいかが爆発するという事件まで起きてます。

中国で爆発したスイカ

「日本の食品会社は『食中毒を出したら会社が潰れる』という高い意識で商品管理を行っていますが、中国の場合は大きな事故を起こしたメーカーも、ほとぼりが冷めると普通に営業を続けるケースが多いのです。

なぜ中国では食品の安全が脅かされるような事件が起こり続けるのでしょうか。それには中国という国のいびつな形によるところが大きいです。

賄賂や人脈などを重視する官僚主義によって管理の不徹底が見逃されてきたり、本当の意味で不正な食品を監視するメディアがないことも指摘されています。

そもそも道徳心が欠如していることが問題です。社会主義国家であるにもかかわらず、資本主義経済が導入された中国では、拝金主義がはびこるようになりました。その上、「お天道様が見ている」というような行動を律する倫理意識も低いため、「儲かればいい」と考えがちなのです。

中国人でさえも、自国の食品に対して危機感を抱く人が増えているというのは自然な流れでしょう。

もともと中国人は他人を信用しません。食べ物に関しても同じで、農村では農薬除けのために洗濯機で野菜を洗う習慣があるし、飲食店では食器を使う前にお茶で熱湯消毒してからでないと口にしない地域もあります。

2015年に北京市が1000人の市民を対象に行った食の安全に対する満足度調査では、99.3%の人が「食品安全の知識を求めている」と回答したといいます。

食品の安全に関しては、非常に二極化しているというのが最近の特徴です。安ければ健康はどうでもいいという人もいる一方、富裕層向けの高級食材スーパーでは、QRコードを読み取ると、どこでどう作られたかがわかるトレーサビリティーの仕組みが取り入れられていたり、生産した畑の様子を動画で見ることができるものまであります。

日本の安全な食品を取り寄せる中国富裕層も珍しくなくなり、日本人が中国食品を食べ、中国人が日本食品を食べるという逆転現象さえ起きているのです。

中国では、若者どころか、社会全体が上から下まで、金儲けのために「暴走」しているといつても過言ではありません。

本来ならば、「道徳」「倫理」がその歯止めになるものですが、それが中国には存在しないのです。2011年に北京大学の林毅夫教授が「2030年の中国のGDPは米国の2倍になる」と語りました。

結局、GDPでの規模拡大を最上の「繁栄」と位置づけている社会において、最後に残されている選択肢は破綻する以外ないはずです。米国社会学者のタルッコット・パーソンズは、以下のような社会変動図式を提唱しました。
L(宗教)→I(社会)→G(政治)→A(経済)
経済(A)は最終的に宗教(L)によって規定されるのです。中国には、自己抑制するL(宗教)が存在せず、欲望を肥大化させる「道教」(長寿と金持ち)しか存在しないことが、欲望の暴走を拡大させるのです。

米国社会学者のタルッコット・パーソンズ

しかも国家指導部のトップたちが、揃いも揃って家族に美味しいビジネスチャンスを許している実態は、国民すべてに違法ビジネスですら奨励する副次的な効果をもたらしているのです。

「薄熙来・前重慶市党委書記も、親族ぐるみで蓄財した資産は1億ドル(約79億円)を超える」事態は、中国人の欲がどれだけ大きいかを天下に知らしめたといえます。中国では欲望に「ほどほど」という際限がないのでしょう。「多々ますます弁ず」なのです。

自己抑制のない社会は、暴走するのみです。最後は自滅への道があるだけなのですが、中国ではこれを逆に解釈しているようです。

北京大学の林教授の所説のように、2030年には中国のGDPが米国の2倍になるという。こういう想定が出てきた背景を考えると、中国経済の成長抑制因子は全く頭に浮かばなかったのでしょう。

普通ならば、1978年から2010年まで10%成長を続けてきたのだから、当然に成長抑制因子(例えば、環境保存コストの増大等)が登場するはずと考えるはずです。それを完全に無視しています。ここが中国社会の構造上の特色です。「欲望はすべて満たされる」という前提に立つのです。

こうした中国の「欲望無限型」の登場は、宗教的(道教)背景から言っても肯けるところがあります。欲望の自己抑制機能は存在しないからです。

中国経済を規定しているものは、明らかに道教的な欲望の「自己発散型」でしょう。一国の経済成長とイノベーションなどは相関関係にあります。経済だけでなく、あらゆる方面で、イノベーションを成し遂げなければ、国の発展などあり得ないのです。

多くの人々が、国の体制をそのままにして、拝金主義に突っ走り、自分だけ儲けられればそれで良い良いと考える国には将来はないです。

しばらく前から、中国の拝金主義が、中国国内だけでなく、多くの国々にも悪影響を与えているることは明らかになっていました。多くの国々は、数十年前から中国が経済発展すれば、まともな国になるだろうと考えていたようですが、それはことごとく裏切られました。

米国も自国が明らかに不利益を被っていることがずいぶん明らかになっていたのですがオバマ政権のときはそれを静観しましたが、トランプ政権は中国に対する制裁を開始したのです。

林毅夫教授のような経済論は、百害あって一利なしです。林毅夫教授のよる経済論は、他国の拝金主義者にも大きな影響を与え、中国幻想を生み出しましたが、さすがにその幻想から冷めた人のほうがはるかに多くなりました。

中国の経済も社会も無限の闇に向かって突き進んでいます。米国による経済制裁などは、これを若干はやめることになるだけです。これは疑いないところです。

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