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2019年3月8日金曜日

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道―【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背後に何が(゚д゚)!

米朝首脳会談は「大成功」。金正恩と北朝鮮に残された3つの道

米朝会談は米国にとっては「大成功」だった

米国が北朝鮮から「核戦力廃棄の確約を得られなかった」ことを主な理由として、「失敗」との報道がなされがちな第2回米朝首脳会談ですが、米大統領補佐官は「成功」だと反論しました。これに同調するのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北朝鮮の今後を予測した上で、米の対北政策が日本にも有益な点を詳しく解説しています。

ボルトンさん「米朝首脳会談」は【大成功】

先日行われた米朝首脳会談について、「大失敗だ!」という意見が多いです。しかし、皆さんご存知のように、REPは「大成功だ!」という立場。それで、3月1日に、こんな記事を出しました。

金正恩の姑息な作戦に乗らず。米朝首脳会談が成功と言える理由

ところで、私と同じ意見の人がいました。ボルトンさん(アメリカ大統領補佐官)です。トランプ政権中枢にいる人が、「大成功!」というのは、当たり前ですが…。
米朝首脳会談は「成功」 米大統領補佐官が擁護
3/4(月)6:32配信 
【AFP=時事】米国のジョン・ボルトン(John Bolton)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は3日、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領との間で先週行われた米朝首脳会談について、双方で合意に至らず会談が失敗だったとの見方を否定した。
「失敗だったとの見方を否定した」そうです。
ボルトン氏はCBSの報道番組「フェイス・ザ・ネーション(Face the Nation)」で、トランプ氏が北朝鮮から核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったことは、「大統領が米国の国益を守り、高めたという意味で成功」と見なされるべきだと語った。
「トランプ氏が核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったこと」=「大統領が国益を守って成功」だそうです。どういう意味でしょうか?
ボルトン氏は、争点はトランプ氏の言う「大事業」すなわち完全な非核化を北朝鮮が受け入れるかまたはそれ以下の「われわれには受け入れ難い」ことのどちらかだったと説明。「大統領は自分の考えを断固として貫いた。大統領は金正恩氏との関係を深めた。米国の国益は守られており、私はこれを失敗だとは全く見ていない」と述べた。
同感です。トランプさんは、「完全な非核化」を要求しました。その見返りは、「体制保証」「経済制裁解除」です。

まあ、アメリカはこれでカダフィを03年にだまし、丸裸にした。結果、彼は11年、アメリカが支援する反体制派に捕まり殺されました。だから金正恩がアメリカを信用しないのは当然。

一方、金正恩は、「一部非核化して、制裁解除」を狙ってきました。これは、過去の「成功体験」を繰り返したのです。1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らか。今回も「これでいける!」と思ったのですね。

このように、アメリカは北をだまそうとしている。いえ、ひょっとしたらトランプさんは、だまそうとしていないのかもしれない。しかし、カダフィの例があるので、金正恩からは「だまそうとしている」ように見える(それに、トランプ後の大統領が政策を変更するかもしれない)。そして、北はアメリカをだまそうとしている。で、結果、「トランプさんは、金正恩にだまされなかった」。だから、RPEも、ボルトンさんも「成功だ」というのです。

これが、「少し非核化して、制裁解除」となったらどうです?金は、「核兵器保有」と「経済発展」の二つを同時に成し遂げた。まさに「偉大な指導者」になることでしょう。

トランプ、金正恩の交渉決裂でどうなるのでしょう?
  • 金は、核実験、ミサイル実験を再開できません。再開したら、アメリカは、「金は交渉を断念したようだ。しかたない…」といって、北を大攻撃するでしょう
  • 北朝鮮は、豊かになりません。現状、中国、ロシアが北支援をつづけている。しかし、これは「国連制裁違反」なので、大々的に、大っぴらにできない。せいぜい「体制が細々と存続していく程度」にしか支援できない
金はこれから、
  • トランプを信じるか?つまり、「完全非核化して、体制保証、制裁解除を勝ち取る」か?(繰り返しますが、アメリカがだますリスクはあります)
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくか?
  • 核実験、ミサイル実験を再開して、アメリカに殺されるか?
いずれかを選ばなければならない。現状、もっとも可能性が高いのは、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
でしょう。そして、中国、ロシア、韓国に、「制裁違反の支援をもっと増やしてください!」と懇願するかもしれない。もしそれで中国が支援を増やせば、米中覇権戦争中なので、アメリカは、「中国は国連安保理の制裁に違反して、北を助けている!」と非難する。そして、対中制裁を強化することでしょう。中国としても悩ましいところなのです。

こう考えると、アメリカの対北政策は、実にうまくできています。アメリカも困らないし、日本も困りません。そのように見る人は、あまりいないのですが。

【私の論評】トランプ大統領「大勝利」の背景に何が(゚д゚)!

私自身は、米朝会談は米国にとっては大勝利だったと思っています。上の記事は、その私の考えをさらに補強するものでした。特に、ボルトン氏が「大成功」としていることで、私の考えは裏付けされたものと思いました。

さて、この大勝利について、「大勝利」とは掲載していないものの、失敗ではないことをこのブログも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 ―【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!
米朝決裂であてのはずれた文在寅
詳細は、この記事をご覧いただくものとして以下に一部を引用します。 
北朝鮮は、外見は中国を後ろ盾にしてはいますが、その実中国の干渉されることをかなり嫌っています。金正男の暗殺や、叔父で後見役、張成沢氏の粛清はその現れです。 
韓国は、中国に従属する姿勢を前からみせていましたが、米国が中国に冷戦を挑んでいる現在もその姿勢は変えていません。 
この状態で、北朝鮮が核をあっさり全部手放ばなすことになれば、朝鮮半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となることは明らかです。これは、米国にとってみれば、最悪です。そうして、38度線が、対馬になる日本にとっても最悪です。
もし今回北朝鮮が米国の言うとおりに、全面的な核廃棄を合意した場合、米国は、米国の管理のもとに北朝鮮手放させるつもりだった思います。まずは、米国に到達するICBMを廃棄させ、冷戦で中国が弱った頃合いをみはからい、中距離を廃棄させ、最終的に中国が体制を変えるか、他国に影響を及ぼせないくらいに経済が弱体化すれば、短距離も廃棄させたかもしれません。
しかし、これを米国が北朝鮮に実施させた場合、多くの国々から非難されることになったことでしょう。特に、日本は危機にさらされ続けるということで日米関係は悪くなったかもしれません。さらに、多くの先進国から米国が北朝鮮の言いなりになっていると印象を持たれかなり非難されることになったかもしれません。 
しかし、今回の交渉決裂により、悪いのは北朝鮮ということになりました。米国は、他国から非難されることなく、北朝鮮の意思で北の核を温存させ、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐことに成功したのです。まさに、「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という結果になったのです。
この記事にも掲載したように、本来「北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる」という点を抜きに、今回の米朝首脳会談が大成功であったと認識するのは困難でしょう。

大方のメディアにはこのような認識がないので、「失敗」と報道するしかなかったのでしょう。

今回の首脳会談後についての金正恩 選ぶ道について、ブログ冒頭の記事では、
  • 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
これは、米国にとっては、当面北が核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくにしても、核が存在すること自体には変わりはなく、それは中国の脅威となり、中国の朝鮮半島への浸透が防止されることになることには変わりありません。

これについては、米国が北を屈服させて、そこに米国が中距離核を配備すればよいではないかと考える人もいるかもしれませんが、それをやってしまえば、米国と中国、ロシアとの対立がかなり深まることになります。さらには、国際的に非難されることにもなります。

そうではなく、北の意思によって、核か北朝鮮に存在するといことが重要なのです。

現状を保てたことは、まさに米国にとって大勝利です。ただし、米国としては北朝鮮に核があることが米国にとって有利などということは、口が裂けても公言することはできません。

だから、ボルトン氏もそのことについては、特に言及しないのでしょう。そのことが、米国の大勝利を一般からは理解しにくいものにしています。

トランプ大統領は6日、北朝鮮がミサイル発射施設の復旧を進めているとの情報について、「本当なら非常に失望する」と述べました。
ボルトン補佐官は5日、非核化をめぐる今後の協議について「ボールは北朝鮮にある」と指摘、北朝鮮が本当に核計画を放棄する意思があるかどうか見極めていく考えを示した。

その上で、完全な非核化に応じなければ「経済制裁の強化を検討する」とけん制した。

これらによって、トランプ大統領もボルトン氏も、現所維持を確固なものにするとともに、「ボールを北」に投げたのです。



そうして、米朝会談は今後の中国の動向により、方向付けられるでしょう。現在米国による対中冷戦が繰り広げられています。

この冷戦は、中国が体制を変えるか、さもなくば、中国の経済力が弱体化して他国に影響をおよぽせなくなるまで、継続します。

そうして、私の見立てでは、中国は体制を変えることはしません。体制を変えるといことは、中国共産党1党独裁でなくなるのは無論のこと、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめるということです。

そうなれば、中国共産党の統治の正当性が崩れ、中国共産党は崩壊します。そのような道を中国共産党は選ぶことはないでしょう。

では、残された道は、経済を弱体化され、体制を維持したまま細々と生きていくという道です。

そのようになれば、中国は図体が大きいだけの凡庸な、アジアの独裁国家になりはて、自国のことだけで精一杯になり、朝鮮半島に影響力を及ぼす余力もなくなります。

その時に、次の本格的な米朝会談が始まることになります。というより、中国が弱体化してしまえば、朝鮮半島問題もおのずと、解決することになり、かなり楽に交渉ができるようになると思います。アジアの問題は、やはり中国が最大のものであり、その他は従属関数であるに過ぎないとみるべきなのです。

金正恩

そのことを理解したのか、金正恩は、米朝会談の帰路に、先回の会談後には帰路に習近平と会談したのですが、今回は習近平とは会談せずに北朝鮮に戻りました。一般の報道では、これについて金正恩は「会談に失敗してあわせる顔がない」からなどと報道していますが、それは上で示したような文脈を理解していないからだと思います。

金正恩としては、中国に対峙する米国に対して、当面どちら側につくかを意思表示したのでしょう。

金正恩としては、冷戦においていずれ中国が敗北すると踏んでいるのでしょう。であれば、残された道は、冷戦で中国が弱体化するまで、核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きのび、頃合いをみはからって、核を放棄し制裁解除をしてもらい、経済発展の道を模索するということしかありません。

今回の米朝首脳会談でのトランプ大統領「大勝利」の背景に何があったのかを理解することは、今後の世界情勢を理解する上でかなり重要なことだと思います。

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2019年3月1日金曜日

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決裂すべくして決裂した米朝首脳会談だが・・・

日本は過度の対米依存から脱却して自立すべし

ベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で、休憩中に散歩するトランプ大統領(右)と
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(左、2019年2月28日撮影)

2月27日・28日に米首脳会談が行われましたが、結果はドナルド・トランプ大統領が適切な決断を行ったと評価したいと思います。

首脳会談前には、トランプ大統領が成果を急ぐあまり、北朝鮮に過度の譲歩をするのではないかと多くの関係者が懸念を抱いていました。

しかし、トランプ大統領が金正恩労働党委員長の要求する「経済制裁の完全解除」を拒絶して、会談は破談となりました。

トランプ大統領は、合意に至らなかった理由について、次のように説明していますが、極めてまともな理由づけです。

「北朝鮮は制裁の完全な解除を求めたが、納得できない」

「北朝鮮は寧辺の核施設について非核化措置を打ち出したが、その施設だけでは十分ではない」

「国連との連携、ロシア、中国、その他の国々との関係もある。韓国も日本も非常に重要だ。我々が築いた信頼を壊したくない」

今回の結果を受けて一番失望しているのは金正恩委員長でしょう。彼は最小限の譲歩(寧辺の核施設について非核化措置、ミサイルの発射はしない)を提示し、最大限の成果(制裁の完全な解除)を求めすぎました。

金委員長は、トランプ大統領を甘く見過ぎて、理不尽な「経済制裁の完全解除」を要求したのは愚かな行為であり、世界の舞台で取り返しのつかない恥をかいてしまいました。

私は、今回の首脳会談の決裂は日本にとって最悪の状況が回避されて良かったと思います。一方で、朝鮮半島をめぐる環境は依然として予断を許しません。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、首脳会談開始日である27日に「日本がやるべきことは、徹底した謝罪と賠償をすることだけだ」と非常に無礼な反日的な主張をしています。

また、韓国は朝鮮半島の諸問題の交渉から日本を廃除し、朝鮮半島に反日の南北連邦国家を目指しています。我が国は自らを取り巻く厳しい状況を深刻に認識することが大切です。

そして、過度に米国に依存する姿勢を改め、自らの問題は自らが解決していくという当たり前の独立国家になるために、国を挙げて全力で取り組む必要があります。

トランプ大統領の発言に多くが懸念表明

27日の首脳会談の滑り出しをみて、「非核化交渉ではなく、単なる政治ショーに終わるのではないか」と懸念する人は多かったと思います。

27日会談当初のトランプ大統領と金正恩労働党委員長の発言には危いものを感じました。

トランプ大統領は「1回目の首脳会談は大成功だった。今回も1回目と同等以上に素晴らしいものになることを期待している」と発言し、金委員長は、「誰もが歓迎する素晴らしい結果が得られる自信があるし、そのために最善を尽くす」と述べました。

しかし、トランプ政権内のスタッフを含めて多くの専門家は、「1回目の首脳会談は失敗だった」と認めていて、トランプ大統領の自己評価の高さが際立っていました。

また、金委員長が発言した「誰もが歓迎する素晴らしい結果」など存在しません。 例えば、日本が歓迎する素晴らしい結果とは、北朝鮮が即座に核ミサイル・化学生物兵器及びその関連施設を廃棄し、拉致問題が解決されることです。

金委員長が日本が歓迎するような結果をもたらすわけがありません。

北朝鮮は核ミサイルを放棄しない

まず金委員長が核ミサイルを放棄することはないことを再認識すべきです。

金委員長は、核ミサイルの保有が自らの体制を維持する最も有効な手段であると確信しています。北朝鮮にとって核ミサイルの保有は国家戦略の骨幹であり、それを放棄すると北朝鮮の戦略は崩壊すると思っています。

一部のメディアは、金委員長の年頭の辞を引用し、「北朝鮮は核開発と経済建設の並進路線から経済建設一本の路線に移行した」と報道していますが、それを信じることはできません。

北朝鮮は、あくまでも核開発と経済建設の並進路線を今後も追求していくと認識し、対処すべきなのです。

一方で、トランプ大統領が自国のインテリジェンスを重視しない姿勢は問題だと思います。

トランプ氏は、「北朝鮮は脅威でない」と発言しましたが、米国の情報関係者や第一線指揮官の認識は正反対です。

彼らは、北朝鮮の核は脅威であり、その非核化に疑問を表明しています。

例えば、米国のインテリジェンス・コミュニティを統括するダニエル・コーツ国家情報長官は1月29日、上院の公聴会で次のように指摘しています。

「北朝鮮は、核兵器やその生産能力を完全には放棄しないであろう。北朝鮮の指導者たちは、体制存続のために核兵器が重要だと認識しているからだ。北朝鮮では非核化とは矛盾する活動が観測されている」

また、米インド太平洋軍司令官フィリップ・デイビッドソン海軍大将は2月12日、上院軍事委員会で次のように指摘しています。

「北朝鮮が、すべての核兵器とその製造能力を放棄する可能性は低いと考えている。北朝鮮が現在も米国と国際社会に与えている脅威を警戒し続けなければいけない」

25年間騙し続けてきた北朝鮮

北朝鮮は、核と弾道ミサイルの開発に関して、25年以上にわたって西側諸国を騙し続けてきました。北朝鮮は、核兵器の開発中止を約束しても、その合意をすべて反故にしてきました。

北朝鮮にとって核兵器と弾道ミサイルは、体制を維持していくために不可欠なものと認識しています。

北朝鮮と長年交渉してきた外交官によりますと、「北朝鮮と締結する合意文書に関しては一点の疑義もないように細心の注意を払わなければいけない。そうしないと、核放棄の約束は簡単に反故にされる」そうです。

2018年6月12日に実施された第1回米朝首脳会談の大きな問題点は、首脳会談までに両国で徹底的に詰めるべき核およびミサイル関連施設のリストや非核化のための具体的な工程表などを詰めていなかったことです。

第2回米朝首脳会談も同じ状況になっていました。米朝間においていまだに、「何をもって非核化というか」についてのコンセンサスができていないという驚くべき報道さえあります。

第2回の首脳会談も担当者間での調整不足は明らかでした。今回の会談では、金委員長が「制裁の完全な解除」という愚かな主張をしたために、米国からの譲歩は回避できたとも言えます。

北朝鮮は、今後とも「北朝鮮の非核化ではなく朝鮮半島の非核化」「段階的な非核化」を主張し続けていくことでしょう。

これらは、過去25年間の北朝鮮の常套句であり、米国などが騙されてきた主張です。

今後の米朝交渉では担当者レベルで徹底した議論と合意の形成に努力すべきです。それをしないで、首脳会談に任せるというのは避けるべきでしょう。

変化するトランプ政権の交渉姿勢

27日、記者団に「朝鮮半島の非核化を求める姿勢を後退させるのか」と問われると、トランプ氏は短く「ノー」とだけ答えました。

しかし、トランプ政権の北朝鮮に対する交渉姿勢はどんどん後退していました。かつては、「すべての選択肢はテーブルの上にある」「最大限の圧力」を合言葉にしていました。

北朝鮮に対しては、この「力を背景とした交渉しか効果がない」という経験則から判断して妥当な交渉姿勢でした。

ところが、この交渉姿勢はどんどん後退していきました。

2018年6月12日以前にトランプ政権が使用していた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID: Complete Verifiable Irreversible Denuclearization)」というキャッチフレーズは死語になりました。

その後にCVIDを放棄し、CVIDの「完全と不可逆的」の部分を削除し、グレードを下げたFFVD(Final Fully Verified Denuclearization)という用語を昨年後半から使い始めました。

FFVDは「最終的かつ十分に検証された非核化」という意味ですが、このFFVDは昨年までは使われていましたが、第2回米朝首脳会談を前にしてあまり使われなくなっていました。

そして、トランプ大統領やマイク・ポンペイオ国務長官は、「米国民が安全であればよい、核実験や弾道ミサイルの発射がなければ、北朝鮮の非核化を急がない」とまで発言するようになりました。

米国の対北朝鮮対応の変化が結果として、金正恩委員長の「制裁の完全排除」という過剰な要求の原因になったのかもしれません。

北朝鮮への対処法では、韓国の金大中元大統領の太陽政策は有名です。この太陽政策の起源は、旅人の外套を脱がせるのに北風が有効か太陽が有効かをテーマとしたイソップ物語です。

金大中の太陽政策は北朝鮮には通用しませんでした。

トランプ政権の交渉姿勢の後退は、北風から太陽への変化と比喩する人がいますが、太陽政策の失敗は「北朝鮮との交渉においては太陽政策による融和は通用しない」ことを明示しています。

米国の北朝鮮への対応は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」に戻るべきではないでしょうか。

トランプ大統領が主張していた「北朝鮮に対する最大限の圧力」は、2017年12月がピークでした。日本の軍事専門家の一部も「2017年12月、米軍の北朝鮮攻撃」説を唱えていました。

しかし、2018年に入りトランプ大統領は「北朝鮮に対する最大限の圧力という言葉を使いたくない」とまで発言するようになり、第1回の米朝首脳会談後の記者会見では「米韓共同訓練の中止や在韓米軍の撤退」にまで言及しました。

我が国の保守の一部には、「第2回米朝首脳会談で北朝鮮が非核化を確約しなければ、トランプ大統領は躊躇なく北朝鮮を攻撃する」と主張する人がいますが、どうでしょうか。

戦争を開始するためには大統領の強烈な意志と周到な軍事作戦準備が必要です。現在の米国には両方とも欠けています。トランプ大統領には、今後とも冷静な判断を継続してもらいたいと思います。

日本にとって厳しい状況は続く

第1回の米朝首脳会談では、「核を含む大量破壊兵器とミサイル開発に関する完全で正確なリストを提出すること」が米朝間で合意されましたが、北朝鮮はそれを実行しませんでした。

この北朝鮮の頑なな姿勢が今後も変わることはないでしょう。北朝鮮は、核ミサイルの全廃を拒否し、その大部分の温存を追求するでしょう。

トランプ大統領の「米国民が安全であればよい、核実験や弾道ミサイルの発射がなければ、北朝鮮の非核化を急がない」と発言することは、米国の国益を考えればむげに非難できません。まさに、アメリカ・ファーストの考えに則った主張です。

しかし、この米国中心の発想は、日本の国益に真っ向から対立します。

なぜなら、北朝鮮の核兵器や短距離・中距離弾道ミサイルは温存されることになり、日本にとっての脅威はなくなりません。

米国の国益は日本の国益とは違うという当たり前のことを再認識すべきです。トランプ大統領が日本のために特段のことをしてくれると期待する方が甘いのです。


結言

私は、安全保障を専門としていますが、重要なことは「最悪の事態を想定し、それに十分に備え対応すること」だと思っています。

今回の首脳会談の結末は、日本にとって厳しいもので、「北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル、化学兵器、生物兵器が残ったままになり、拉致問題も解決しない」状態です。真剣に、この厳しい事態に対処しなければいけません。

また、我が国では2020年に東京オリンピックがあり、サイバー攻撃、テロ攻撃、首都直下地震などの自然災害が予想される複合事態にも備えなければいけません。

一方、トランプ大統領にとって、米朝首脳会談後、米中の貿易戦争(覇権争い)をいかなる形で収めていくのかが最大の課題です。

この件でも米中首脳会談で決着を図ろうとしています。今回の米朝首脳会談による決着の問題点を踏まえた、適切な対応を期待したいと思います。

また、米国では2020年に大統領選挙があり、トランプ大統領の再選が取り沙汰されていますが、彼は現在、米国内において難しい状況にあります。

2018年の中間選挙において民主党が下院の過半数を確保したことにより、予算の決定権を民主党に握られ、下院の全委員会の委員長を民主党が握ることにより、厳しい政権運営を余儀なくされています。

また、トランプ大統領は複数の疑惑を追及されています。2016年大統領選挙を巡るロシアとの共謀疑惑(いわゆるロシアゲート)、その疑惑を捜査するFBIなどに対する大統領の捜査妨害疑惑、その他のスキャンダルです。

この疑惑の捜査結果いかんによっては2020年の大統領選挙における再選が危うくなることもあるでしょう。

いずれにしろ、民主主義国家において選挙は不可避です。その選挙に勝利するために対外政策への対応を誤るケースが過去に多々ありましたから、適切に対応してもらいたいと思います。

【私の論評】今回の正恩の大敗北は、トランプ大統領を見くびりすぎたこと(゚д゚)!

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は「制裁解除」ありきでトランプ米大統領とのハノイでの2回目の会談に臨んだようです。

しかも十分な実務者協議なしにトランプ氏の決断に全てを委ねる賭けに出たことが裏目に出ました。今回の会談失敗は、金氏にとって最高指導者就任以来の重大危機ともいえそうです。

「非核化の準備ができているのか」。28日の会談の合間、米記者団からこう問われると、金氏は「そのような意思がなければここに来なかった」と答えました。

「具体的措置を取る決心は」との質問には「今、話している」と応じました。これに対し、トランプ氏が下したのは「北朝鮮は準備ができていなかった」として合意を見送る結論でした。

北は、ヨンビョンだけではなく、いろいろな地点に核施設(プルトニウム工場や濃縮ウラニウム工場、加えて核弾頭作りの工場など)を保有しています。米は衛星写真などを通して、かなりの率で把握している模様です。


28日の会談でも、トランプがヨンビョン以外での濃縮ウラニウムのことを少し話しただけで金正恩が腰を抜かすほど驚いたともいわれています。米国はここ数年で北朝鮮内部の状況をかなり把握しているものとみられます。

これに加えて連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)の監視網を背景にした米国の「金融支配」により、独裁者の隠し資産は丸裸にできます。

そうして、北朝鮮や中国など、米国と敵対している国々のほとんどが、汚職で蓄財した個人資産を自国に保管しておくには適さないです。いつ国家が転覆するかわからないためで、米国やその同盟国・親密国の口座に保管をするしかありません。

米国と敵対する国々の指導者の目的は、国民の幸福ではなく、個人の蓄財と権力の拡大であるから、彼らの(海外口座の)個人資産を締め上げれば簡単に米国にひれ伏すことになります。

中央日報の報道によると、金正恩氏の海外資産は約30億〜50億ドル(約3300億〜5500億円)と言われています。

金正恩の外交力はどの国の誰にもまして素晴らしいものを持っていると考えられてもいたようですが、今回の結果を見て、あまりにも相手方を十分に値踏みできていないことが明らかになったと思います。

今後どうなっていくのでしょうか。金正恩にとっては、前が何も見えなくなったような状態にあるのではないかと思います。正恩は相当の自信をもってハノイにやってきたはずです。65時間も列車に乗ってやってきたのです。しかもその一挙手一投足を北の住民に知らせる格好でした。

今回こそ、ビッグディールに成功して、北の制裁を解き、お前たちにも楽をさせてやるぞとかなり意気込んでハノイにやってきたはずです。金氏は2月27日のトランプ氏との再会直後には「不信と誤解の敵対的な古い慣行が行く道を阻もうとしたが、それらを打ち壊してハノイに来た」と強調しました。金氏が「古い」と切り捨てたのが、北朝鮮による全ての核物質や核兵器、核施設のリスト申告に基づく非核化から進めるという本来、米側が描いていた方式です。

金氏は1月の新年の辞で「米国が一方的に何かを強要しようとし、制裁と圧迫に出るなら新たな道を模索せざるを得なくなる」と警告し、あくまで制裁解除ありきの交渉を米側に迫りました。同時に「人民生活の向上」を第一目標に掲げており、経済を圧迫する制裁は体制の将来を左右しかねない死活問題でした。

一方で、米側が求める実務者協議には応じようとせず、議題の本格協議に入ったときには会談まで1週間を切っていました。金氏はその2日後の2月23日に専用列車で平壌をたたちました。非核化と制裁に関わる重大事項はトップ同士の直談判で決めるとのメッセージでしたた。ところが、トランプ氏は会談本番で首を縦に振らなったのです。

北朝鮮は金氏の今回の長期外遊を政権高官の寄稿文などで「大長征」と持ち上げて国内向けにも大宣伝し、成果に対する住民らの期待をあおりました。28日には、両首脳の初日の会談で「全世界の関心と期待に即して包括的で画期的な結果を導き出すため、意見が交わされた」とメディアで大々的に報じていました。

米側に制裁の撤回を突き付けた新年の辞は最高指導者の公約といえ、金氏にとって制裁問題での譲歩は難しいです。金氏は退路を断つ交渉戦術で自らを窮地に追い込んだ形となりました。

金正恩体制は、恐怖政治で国民の動向を統制し、社会主義の体裁を取り繕っています。しかし実のところ、同国の計画経済はすでに崩壊しており、なし崩し的な資本主義化が進行しています。貧富の差が拡大し、良い意味でも悪い意味でも「自由」の拡大が始まっています。

それを後押ししてきたのは、実は金正恩氏自身でもあるのです。市場に対する統制を緩めたり強めたりを繰り返した父の故金正日総書記と異なり、金正恩氏は放任主義を続けてきました。この間、「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層の存在感はいっそう大きなものとなり、彼らなしでは北朝鮮の経済は成り立たなくなっているのです。

平壌市内のトンジュ向けのカフェで

北朝鮮で民主化が起きるなら、虐げられた民衆が暴政を倒す「革命」として実現する可能性が高いと多く人がしんじてきたようです。政治犯収容所などにおける現在進行形の人権侵害を止めるには、それしか方法がないからです。

しかし、北朝鮮の体制はそれほどやわではありません。民衆が本気で権力に歯向かう兆候を見せたら、当局はすぐさま残忍に弾圧してしまうだろうことを、歴史が証明しています。

その一方、北朝鮮の体制は「利権」の浸食にめっぽう弱いです。北朝鮮社会では、当局の各部門が持つ大小様々な権限が利権化しています。北朝鮮経済は、利権の集合体であると言っても過言ではないほどで、その仕組みは「ワイロ」という名の潤滑油で回っています。軍隊の中にすら、同じような仕組みが存在するほどです。

ただ、国際社会による経済制裁に頭を抑えられているため、その仕組みはなかなか大きく成長することができませんでした。しかし、ここで制裁が緩和されたらどうなるでしょうか。

韓国や中国から流れ込む投資は、北朝鮮の経済の成長を促し、同国の人々が見たこともないような巨大な利権を生み出すでしょう。また、利権の数自体も爆発的に増え、利害関係の錯綜も複雑さを増します。もはや、ひとりの独裁者の権力の下に、すべての利害を従えることなど不可能になるのです。

そして、無数の利害関係を最大公約数的に調整する多数決の仕組み、つまりは民主主義が必要になるわけです。

いずれにしても、北朝鮮経済のなし崩し的な資本主義化の流れは止まらないです。あの国は遅かれ早かれ、上述したような道を辿ることになります。

北朝鮮の経済・社会はかわりつつあるということです。今回の首脳会談の失敗により、制裁がさらに継続されることは明らかになりました。これから、経済がさら先細りしていけば、トンジュたちの中にも不満を持つものが現れることでしょう。

2017年2月にマレーシアで殺害された北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏の息子・ハンソル氏ら家族3人をマカオから安全な場所に移したとする団体「千里馬民防衛(チョンリマミンバンウィ)」は1日、同国の金正恩体制を転覆させるため、「臨時政府」の発足をウェブサイトで表明し、北朝鮮を脱出した人々や世界各国に共闘を呼び掛けました。同時に、団体名を「自由朝鮮(チャユチョソン)」に変更しました。

同団体がウェブサイトで発表した「自由朝鮮のための宣言文」の全文は以下のリンクからご覧になれます。



さて、このような動きが活発になれば、金正恩とて安穏とはしておられません。今や、金正恩でさえ、これらトンジュを完璧に自分の意のままにあつかうことはできなくなっています。

今回の首脳会談の失敗は、トランプ大統領にはほとんど悪影響はないでしょうが、金正恩にとっては、かなり悪影響がでる可能性が大きいです。またしばらく粛清の嵐が吹き荒れるかもしれないです。そうなると、ますます制裁がエスカレートするというような悪循環に至る可能性も十分にあります。

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2019年2月26日火曜日

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」―【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」

金正恩(左)とトランプ(右)

ドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金 正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は27、28日、ベトナムの首都ハノイで2回目の首脳会談を行う。

 世上では、米朝首脳会談はトランプ氏が前のめりで、正恩氏のペースで進められるのではないか-と懸念する向きが多い。

 果たして、この指摘は正しいのか、検証してみる。

 注視すべきは、同首脳会談実現に向けて繰り返された、米朝実務者協議の米側代表であるスティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表が1月31日、米スタンフォード大学で行った講演(全文3800語)である。

 注目すべき箇所は、次のフレーズだ。

 「トランプ大統領が、金正恩委員長に(シンガポールで)会ったとき、堅固な経済開発が北朝鮮にどのような意味を付与するかについてビジョンを示しました。それは、朝鮮半島の驚くべき資源を利用して構築される投資、外部との交流、そして貿易などの明るい未来と、計画の成功のためのわれわれの戦略の一部です」

 キーワードは「驚くべき資源」である。

 トランプ氏は2月8日のツイッターで、首脳会談の開催地がハノイに決まったと明らかにした。

 と同時に、かつてミサイル実験を繰り返す正恩氏を「ロケットマン」と揶揄(やゆ)したが、このツイッターでは「北朝鮮は違うロケットに、すなわち経済のロケットになるだろう」と、ヨイショしたのだ。

 では、困窮する北朝鮮経済を「経済のロケット」にする「驚くべき資源」とは、いったい何なのか。

 米地質調査所(USGS)や、日本貿易振興機構(JETRO)などの「資料」によると、半端ない量のマグネサイト、タングステン、モリブデン、レアアースなどのレアメタル(希少金属)が埋蔵されているという。

 さらに、石油の埋蔵量も有望とされる。だが、「千三つ」(=試掘井を1000カ所掘削しても3カ所出るかどうかの確率)と言われるほど投資リスクが高く、高度の掘削技術が必要である。米国が構想しているのは、エクソン・モービルなど米石油メジャーとの共同開発なのだ。

 一方のレアメタルについても、中国の習近平国家主席が進める「宇宙強国」構想に負けないためにも、宇宙・航空産業が喉から手が出るほど欲しい。

 遠くない将来、かの地で採掘・精製施設建設まで実現できれば、計り知れない「利」が期待できる。地政学的に採算ベースに合うのだ。

 トランプ、正恩両氏は同床異夢であれ、取りあえず同じ船に乗ろうとしているのだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

金正恩氏を乗せた特別列車=2019年2月26日午前、広西チワン族自治区憑祥

「朝は輝けこの山河 金銀の資源も満ち 三千里美しきわが祖国」

北朝鮮の朝鮮中央放送は、放送開始と終了時に、北の国歌「愛国歌」を流します。その歌詞にあるように、この国の地下資源は豊富です。冒頭の記事にもあるように、鉄鉱石や石炭、燐灰石、マグネサイト、ウランなど、2百種類を超える有用鉱物が確認されており、経済的な価値がある鉱物資源も40種を超えます。

近年とみに価値が高まっている希少金属のタングステン、ニッケル、モリブデン、マンガン、コバルト、チタニウムなども豊富とされています。

これらの「価値」の評価は、国際的な価格の変動や調査機関によって異なります。韓国の大韓鉱業振興公社は2008年月に総額2千2百87兆ウォン(約176兆円)と推定しましたが、韓国の統一省は09年10月に国会に提出した資料で6千9百84兆ウォン(08年基準=約5百37兆円)とまで見積もりました。評価額に差があっても鉱物資源が「宝の山」であることに変わりはありません。

米国の資源探査衛星による調査で、軍需産業などには欠かせないタングステンも世界の埋蔵量のほぼ半分がある可能性が報告されました。
さらに、ウランも約4百万トンの埋蔵量があるとされます。これは北を除く世界の採取可能な推定埋蔵量とほぼ同じ量との見方もあります。北が自前の原子力発電や核に固執する理由のひとつは、その燃料を豊富に持っていることです。原子力発電を実現できれば北のエネルギー不足は大きく改善されます。

無論石炭の埋蔵量も多く、韓国の研究者の推計によれば、北朝鮮全体の石炭埋蔵量は90億であり、そのうち61億トンが採掘可能と見られる。後者の内訳は無煙炭が16億トン、褐炭が34億トン、超無煙炭が11億トンである。なお、瀝青炭は産出されないため、鉄鋼生産などに使用する分は全量を輸入に頼っています。

日本の統治時代には、石炭は様々な産業の基盤だったこともあり、北朝鮮のほうが南よりも産業基盤が整っていました。南にはほとんど産業基盤がなく、農業が主体でした。そのため大東亜戦争終戦直後からしばらくは、北朝鮮のほうがGDPも南より大きく、韓国が北朝鮮のGDPを追い抜いたのは1970年代に入ってからことです。

ところが、現時点で北朝鮮の鉱物資源は「宝の持ち腐れ」に近いです。施設の老朽化や、機材や技術、エネルギー不足などの理由から、生産性が上がらないためです。たとえば、鉄鉱石の生産は1985年の9百80万トンをピークに減少に転じ、98年には2百89万トンまで減りました。その後の経済回復で08年には5百31万トンまで戻ったのですが、状況は他の鉱物資源も同様であり、国民は「金の山」の上で暮らしながら飢餓と闘っているのが現実です。

鉱物資源協力は資源の「貿易」以上の経済的便益を南北の両側にもたらす可能性があります。朝鮮半島は面積は狭いですが南と北の地下資源の賦存環境が大きく異なります。韓国は世界5位の鉱物資源の輸入国で鉱物自給率が極めて低く、全体鉱物の輸入依存度は88.4%にのぼります。



政治的緊張がなければ、隣接した両地域の格段の鉱物資源分布の差が経済的側面で自然と相互に鉱物資源貿易・投資をもたらした可能性もあります。

北朝鮮の鉱物資源開発の過程でまず必要なのは、鉱山開発に使われる莫大な量の電力供給を解決することです。文大統領が金委員長に渡した新経済構想の資料に「発電所」が含まれていたのは、これと無関係ではないと見られています。2007年、鉱物資源公社が端川地域の鉱山開発の妥当性の検討に乗り出すときも、北朝鮮の水力発電設備を改・補修して電力を供給する案を検討したことがありました。

経済を対外開放した国の大部分は、地下資源の採掘権を海外に与えて、国富を蓄積してきた。ミャンマーやカンボジアのように、比較的最近に民主化した国家も、中国などに鉱山開発を任せ、一定の収益を受け取ってきました。

北朝鮮が次なる経済協力案件として地下資源を本格化させれば、北朝鮮の経済成長に大きく寄与できるのは明らかです。韓国のエネルギー経済研究院によれば、北朝鮮のGDPにおいて鉱業は全体の13.4%であり、北朝鮮の輸出額の70%を鉱物が占めます。

鉱山を開発すれば、製鉄や精錬のような加工産業に対する投資が行われ、雇用拡大と付加価値創出にもつながります。南北鉱物資源開発協力がスムーズに行われれば、北朝鮮に対する財政的支援という負担がなくても、北朝鮮の経済開発と経済協力事業を同時に推進できます。

米朝首脳会談の行方を見守る必要がありますが、現在は国連による経済制裁で北朝鮮の物資を韓国へ持ち込めません。経済制裁が解除されない状況では、当然協力もないです。米朝会談ではこれも話し合われることになるでしょう。

制裁解除は北朝鮮への米国の意思が重要です。現実的な問題もあります。韓国政府は2007年に8000万ドルを借款形式で北朝鮮に提供したのですが、2010年以降、南北経済協力はほかの協力事業とともに、中断したままです。

2012年にこの借款を提供した韓国の輸出入銀行が、5年の返済猶予が終了した後に償還の開始を北朝鮮側に要求したのですが、なしのつぶてだといいます。南北経済協力事業を経験した韓国政府側関係者は「経済協力を始めるなら、まず北朝鮮が8000万ドルの借款を償還すべきだ。南北合弁で開発した鉱山の契約も履行すべき」と言います。

この関係者は「ただ今回の首脳会談が関係回復に優先順位を置いていたので、経済協力が再開されたとしても、問題が経済的な論理で解決されるとは思えない」と打ち明けます。

資源を共同開発しても、その果実を収穫できるインフラ建設と、投資への安全性保障も必要です。しかし、開城(ケソン)工業団地が突然閉鎖されたように、投資家が人質のような形に追いやられる余地が残っているのなら、経済協力の軸となる民間企業が資源開発投資を行うことはできなです。

現在、北朝鮮の地下資源投資に関する法律は、北南経済協力法と外国人投資関連法、地下資源法があります。北南経済協力法は宣言的な内容にすぎないため、投資への安全を保障することはできないです。

地下資源法によれば、廃鉱も許可制とされています。経済性がなくても投資家が自律的に廃鉱を決定できないことになります。開発主体も北朝鮮国内機関に限定されています。外国人投資法でも資源輸出を目的とする外国人企業の投資は禁止されています。北朝鮮の法意識上、最高統治者と朝鮮労働党、政府との関係が複雑であることや既存の関連法が存在するだけに、特別法やこれに準ずる具体的な協議が必要とされるでしょう。

実は北朝鮮の資源をめぐる争奪戦は、すでに始まって久しいです。2004年から11年の間に北朝鮮で合弁事業を開始した世界の企業は350社を超します。中国以外ではドイツ、イタリア、スイス、エジプト、シンガポール、台湾、香港、タイが積極的ですが、そうした国々よりはるかに先行しているのは、意外にも英国です。

英国は01年に北朝鮮と国交を回復し、平壌に大使館を開設。06年には、金融監督庁(FSA)が北朝鮮向けの開発投資ファンドに認可を与えたため、英国系投資ファンドの多くが動き出しました。

具体的には、アングロ・シノ・キャピタル社が5000万ドル規模の朝鮮開発投資ファンドを設立し、鉱山開発に名乗りを上げました。北朝鮮に眠る地下資源の価値は6兆ドルとも見積もられています。そのため、投資家からの関心は非常に高く、瞬く間に1億ドルを超える資金の調達に成功しました。また、英国の石油開発会社アミネックス社は、北朝鮮政府と石油の独占探査契約を結び、1000万ドルを投資して、西海岸地域の海と陸の両方で油田探査を行う計画を進めています。

一方、ロシアは冷戦時代に開発した超深度の掘削技術を武器に、北朝鮮に対し油田の共同探査と採掘を持ちかけています。この技術は欧米の石油メジャーでも持たない高度なものであり、ベトナムのホーチミン沖で新たな油田が発見されたのも、ロシアの技術協力の賜物といわれています。15年4月には、ロシアと北朝鮮は宇宙開発でも合意しています。両国の関係は近年急速に進化しており、ロシアは新たに北朝鮮の鉄道整備のために250億ドルの資金提供を約束しています。

韓国の現代グループは、1998年から独占的に金剛山の観光事業を行っていますが、数百億円に及ぶ赤字を出しながらも撤退しないのは、金剛山周辺に眠っているタングステン開発への足がかりを残しておきたいからでしよう。

米国からは、超党派の議員団がしばしば平壌を訪問していますが、核開発疑惑が表沙汰になる前の98年6月には、全米鉱山協会がロックフェラー財団の資金提供を受け、現地調査を行いました。その上で、5億ドルを支払い北朝鮮の鉱山の試掘権を入手しています。当面の核問題が決着すれば、すぐにでも試掘を始めたいといいます。

韓国はじめ、中国、ロシアといった周辺国や米国、英国の支援を得ることで、豊富な地下資源を開発することに成功すれば、北朝鮮は現在の中国のように急成長することが期待されます。今が安く先物買いをする絶好のチャンスだと宣伝しているのです。実は、2015年4月、北朝鮮のリスユン外相はインドを訪問し、スワラジ外相との間で北朝鮮の地下資源開発と輸出契約の基本合意に達しています。

インドにとっては、中国と北朝鮮の関係が変化するなか、北朝鮮との資源外交を強化しようとの思惑が見え隠れします。要は、国境紛争やインド洋への影響力を強めつつある中国をけん制するためにも、北朝鮮を懐柔しようとするのがインドの狙いと思われます。

日本人の大半はそのような動きにはついていけず、発想そのものに抵抗を感じるでしょうし、金儲けを最優先する投資ファンドの動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これが世界の現実なのです。

文在寅(左)と習近平(右)

さらに、これは以前からこのブログに掲載していることですから、米国側からみると、北朝鮮の核は結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。以前からこのブログに掲載しているように、北朝鮮は中国からの完全独立を希求しています。韓国は、以前から中国に従属しようとしている国です。

北朝鮮の核は、日米だけではなく、中国にとっても大きな脅威なのです。もし、北に核がなければ、はやい時期に朝鮮半島は中国のものになっていたか、傀儡政権によって南北統一がなされていたかもしれません。これは、最悪の事態です。

であれば、現在中国と対立している米国からすれば、米国に到達するICBMは別にして、北朝鮮に現在ある中短距離核ミサイルは中国に対する牽制になります。

そのため、今回の米朝首脳会談では、ICBMの撤去を最初に行い、中短距離は後でということになる可能性が高いです。

日本人の大半は金儲けを最優先する投資ファンドの動きについていけないのと同様に、軍事戦略的そのものに抵抗を感じるでしょうし、このような米国や北朝鮮の動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これも世界の現実なのです。

21日には、トランプ大統領がTwitterで「第3回目の会談開催の可能性」を示唆しました。これは、第3回目の可能性をテーブルに挙げておくことで、米国が満足する結果が得られるまで、延々と会談は続けられ、それまでは対北朝鮮制裁の締め付けは緩めないというメッセージであると考えられます。

そして、報道されない現状として、米軍の攻撃部隊がアジアに集結してきているという事実もあります。これは、第2回首脳会談の結果次第では、米国は対北朝鮮攻撃に踏み切るという無言のプレッシャーでしょう。つまり、表向きに伝えられているよりも、米朝間の関係をめぐる緊張感は思いのほか高まっているのです。

そして、その緊張感は、北朝鮮側に立っている中国やロシアの動きを封じ込める役割も果たしています。両国とも米国が北朝鮮を攻撃するという事態は最悪のシナリオとなり、さらに朝鮮戦争時と違い、とても迎え撃つことはできないため、27日までは両国とも沈黙を保っています。同時に考え得る混乱に備え、すでに中朝国境やロシア・北朝鮮国境付近には、北朝鮮からの難民の流入を阻止するために軍隊が配備されています。つまり、北朝鮮は実際には孤立しているとも言えます。

しかし、その孤立を和らげているのが、文大統領率いる韓国政府です。国連安全保障理事会で合意された対北朝鮮制裁の内容に公然と違反して、包囲網を破っていますし、同盟国であるはずの日米両国をあの手この手で激怒させて、意図的に長年の友人を遠ざける戦略を取っています。その反面、北朝鮮との融和をどんどん進め、もしかしたら朝鮮半島の統一は近いのではないか、との幻覚を抱かせる効果も出ています。

それを演出しているのは、中国でしょう。日米韓の同盟は長年、中国にとってはとても目障りな存在でしたが、このところ韓国が日米に反抗するようになり、同盟の基盤が崩れ去る中、中国にとっては国家安全保障上の懸念が薄まってきています。北東アジア地域における覇権を握るために、北朝鮮を通じて韓国に働きかけを行い、日米の影響力を削ごうとする願いが見え隠れしているように思います。

もし、米国が従来通りに北朝鮮への攻撃をためらってくれるのであれば、中国の思惑通りに進みますが、仮にトランプ大統領が攻撃にゴーサインを出してしまったら、中国は究極の選択を迫られることになります。それは、あくまでも北朝鮮の後ろ盾として米国への対抗姿勢を貫くか、もしくは、北朝鮮・韓国を見捨てて自らの安全保障・存続を選ぶかの2択です。普通に考えると後者を選択するでしょうが、今、それが許されるための手はずを整えているように思います。

では、そのような際に日本はどうでしょうか?まず拉致問題については、直接的かつ迅速な解決は望めないと思いますが、第1回首脳会談と同じく、トランプ大統領が拉致問題の解決の重要性を強調することには変わりないと思われるため、何らかのブレイクスルーが起こるかもしれません。

また、メディアでは悲観的かつ絶望的な見方が多数を占めていますが、実際には水面下で日朝首脳会談に向けた調整も行われており、北朝鮮の経済的な発展へのサポートの見返りに、拉致問題に関わる様々な問題に対する“答え”を得るという折衝も続けられていますので、第2回米朝首脳会談に対しては大いに期待していることと思います。

そして第2回米朝首脳会談が終わる2月28日は、いみじくも米中貿易戦争における報復関税猶予期間の最終日ですので、第2回米朝首脳会談の結果は、米中が様々な局面で争う新冷戦時代に大きな影響力を与えることにもなりかねません。

明日から運命の会談は開催されますが、どのような結果になるのか、固唾を飲んで見守りたいと思います。

この首脳会談の結果が出次第、日本としては国際政治経済ならびに安全保証の動きを冷静にとらえ、北朝鮮に対する戦略を練り直す必要があるでしょう。

仲が良いと思っていた金委員長と韓国の文在寅大統領がある日突然離反し、北と米国が、中国に対峙するという観点から急接近するかもしれません。あるいは、大方の予想を裏切り米国が最終的に北に対して軍事攻撃をするかもしれません。そうなれば、朝鮮戦争当時とは違い今ややり返す力のない中国やロシアは仰天することでしょう。

特に、中国にはかなりの見せしめになります。習近平は、金正恩や金正日と同じ恐怖を味わうことになります。ありとあらゆる状況を視野に入れておくべきです。「想定外」では済まされないです。

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2019年2月3日日曜日

2度目の米朝首脳会談と南北融和を優先する韓国―【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!



岡崎研究所

 北朝鮮をめぐっては2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるという大きな動きがあった。他方、南北関係は、韓国の文在寅政権は開城工業団地と金剛山観光の再開のために国連決議迂回の道を探るなど、韓国の対北宥和ぶりが目立つ。ここでは、最近の北朝鮮情勢について、これらの点を中心に紹介する。

 まず、今年の金正恩の新年の辞では、以下の諸点が注目される。

(1)「外部勢力との合同軍事演習をこれ以上許容してはならず、外部からの戦略資産をはじめとする戦争装備搬入も完全に中止」すべき。

(2)停戦協定当事者(注:中国のことか)との緊密な連携の下に朝鮮半島の現停戦体制を平和体制に転換するための多国間協商も積極的に推進していく。

(3)全同胞は「朝鮮半島平和の主は我が民族」という自覚を持って一致団結していくべき(注:文在寅の考えと同じ)。

(4)開城に進出した南側企業人の困難な事情と民族の名山を訪れたいとする南側同胞の願いを察し何の前提条件や対価なしに開城工業地区と金剛山観光を再開する用意がある。

(5)北と南が協力するなら「あらゆる制裁と圧迫」も我々の行く手を妨げることはできない。

(6)我々は「すでにこれ以上、 核兵器を作りも試験もしないし、使用も伝播もしない」(注:現水準は維持すると取れる)。

(7)米国が約束を守らず、一方的に強要し、制裁と圧力に進むのであれば、「新たな道」を模索せざるを得なくなる。

 文在寅政権は、今度は開城団地と金剛山観光の再開(昨年9月の南北首脳会談で合意)を実現しようとしている。康京和外相は1月11日、議員との会合で、多額の現金支払いによらない方法でこの問題を解決することが可能かどうか研究する必要がある、と述べている。これは政府がバルクの現金支払いを禁止している国連制裁回避の方法を探していることを示す。既に企業関係者から近々現地を訪問する申請も出されているようだ。開城団地は北による4回目の核実験を受けて2016年2月に閉鎖されたが、それまでは北にとり重要な外貨獲得の場所となっていた。韓国企業による投資、生産物の輸出の他、北の労働者には毎年総額約1億ドル以上の賃金が支払われていた。

 南北融和を優先する文在寅政権は、国際社会の努力からも外れている。非核化の進展がないにも拘らずここまで前のめりに南北融和を優先する韓国の動きには、引き続き注意が必要だ。対米関係が一層軋む可能性もある。今までの対韓不信に加え、米軍経費負担交渉の難航もあり米韓間の緊張は高まっているようである。

 国際制裁は北朝鮮に効いているものと思われる。金正恩は新年の辞でも「過酷な経済封鎖と制裁」として、それに言及している。昨年訪欧した際、文在寅は独仏英などに制裁解除を働きかけたが、当然ながら欧州首脳は賛同しなかった。

 米朝の非核化交渉は昨年7月以来膠着していた。しかし、これまで延ばされてきた2回目の米朝首脳会談開催の動きは、急速に進んだ。金正恩は1月8、9日に北京で習近平と会談した。この訪中は、今年が中朝国交樹立70周年に当たることもあろうが、核問題や米朝交渉の今後につき協議するために行われたものと思われる。朝鮮中央通信によると習近平は「北朝鮮の主張は当然の要求であり、懸念が解決されなければならない」と理解を示したという(ただし中味の説明はない)。さらに、金英哲副委員長が1月17-19日に訪米した。首脳会談の調整をしたものと見られる。それに先立ち、金正恩宛てのトランプの書簡も届けられたという。そして、2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるに至った。

 何らかの進展があったため2度目の首脳会談が開催されることになったのは間違いないだろうが、それが何であるかはまだ分からない。懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである。

【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!

冒頭の記事の結論である、「懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである」は実際に大いにあり得ることです。

私は、トランプ大統領はこのような合意を目指していると思います。なぜなら、このブログでも最近指摘しているように、結果として北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいるからです。

これは、北朝鮮が核開発をしていかなった場合どうなったかを考えてみれば、容易に理解できます。北の核は、米国を標的にしているのは無論ですが、これは当然のことながら中国も標的にし得るのです。もし、北が核開発をしていなかった場合、今頃金一族は中国に滅ぼされ、北には中国の傀儡政権が樹立され、韓国も完璧に中国に従属し、半島全体が中国の覇権の及ぶ範囲内になっていたかもしれません。そうして、将来は朝鮮半島は中国の一省が、自治区になったかもしれません。

2015年5月に、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行い、2016年1月6日には、「水爆実験」とうたった地下核実験が強行されましたた。また、同1月28日にはミサイル実験の準備が複数箇所で同時に進行中であることが報道されました。そうして、その後実際に長・中・短距離の弾道ミサイルを乱れ打ちされました。

これらの示威行動の目的は何だったのでしょうか、そもそも誰に向けた威嚇だったのでしょうか。さまざまな解説がなされていますが、そのほとんどが、アメリカを対象にしたものだということになっていました。私は、その意味合いは確かにあったと思います。

しかし、これら一連の北朝鮮の行動全体を見た場合、どう解釈すべきなのでしょうか。私は、SLBM実験以降、従来とは質的にまったく別なものになったと考えています。これらは主に中国を対象とした示威行動と見て間違いないのです。

その上で、国際社会、特に米国に対し、「中国離れ」をアピールするという持って回った構図になっています。「中国の覇権主義に反対である。場合によってはこの核は対中国の威嚇にもなる」という意味合いだったのでしょう。

2011年金正日氏がの遺体を載せた車につきそう金正恩氏(一番手前)

2011年に父。金正日総書記の死によって、北朝鮮の最高指導者の地位を継承した金正恩・国防委員会第一委員長、朝鮮労働党第一書記は、当初、父から後見としてつけられていた実力者、高官、側近らの粛清を続け、2016年以降、ほぼ国内に対抗勢力がいない状況になりました。私は、ここで彼は、ようやく中長期的な国自体のテーマに取り組むようになったと見ています。

その課題は、言うまでもなく絶望的な状況にある経済の立て直しです。それまでも、現在も北朝鮮をあらゆる意味で支えているのは中国ですが、その中国にいろいろ求めても、これまではかばかしい結果が返ってきませんでした。

金正恩第一書記は、中国の対北援助の基本方針が「生かさず殺さず」であると見切ったようです。そのため、他から援助を引き出そうとしているのでしょう。

金正恩・第一書記はこの間、側近に対し「中国は100年の敵」と言ってはばかりませんでした。2016年あたりにも、「中国相手でも臆することなく強気に出なければならない。中国がアメリカに同調し、制裁を加えるというなら、北京に核ミサイルを撃ち込むことも辞さない」という内容の話を側近にしたという情報もあります。もちろん、オフレコの内輪話ということだが、当然、中国の耳に入ることは計算の上だったのでしょう。

さらに、金正恩は当時北朝鮮ナンバー2といわれた、叔父の張成沢を処刑しています。これは、張成沢氏が中国と親しい関係があったことが関係しているといわれています。

処刑される直前の張成沢、顔と手に殴られたようにあざがある

北朝鮮がもっている唯一の対外交渉カードは、いうまでもなく核・ミサイル開発です。国際社会は、経済制裁を解き援助を行う条件として、必ずイランのように核開発を放棄することを求めています。

しかし、核を手放せば少なくとも現体制は外からの圧力、特に中国からの圧力で潰されることになります。北朝鮮、もしくは金正恩・第一書記がとりうる手段は、これまで通りの対外恐喝路線しかないのです。

しかし、2016年以降はそれまで通り、米国、そして韓国、日本にだけ向かっているわけではないのです。先の側近へのコメントだけではなく、「水爆」、SLBMを振りかざしたのも、同じ意味があります。

これまで開発した通常核ですらミサイル搭載が不確かであるのに、それよりも重い弾頭を用意しようとしていました。さらに、北朝鮮の通常動力型潜水艦では行動範囲が限られているにもかかわらずSLBMを保持しようとしています。

これらがもし開発に成功したとして、その標的はどこなのでしょうか。米国などはとても無理で、近国しかありえないです。これらの一連の開発は、米国にとってはほとんど影響のないものですが、中国にとっては直接的な脅威になるのです。

中国を標的にする背景には、南シナ海問題で、国際社会、特に米国の中国に対する風当たりが強くなっていることがあり、これに同調する姿勢をとることで少しでも自らの立場に正当性を付加しようとしていること、さらに、経済問題などの内部環境から見て、中国が今、北朝鮮を潰しかねないような厳しい制裁を行うことができない、と見切っていることがあるようです。

中国の対北朝鮮政策は、2016年以降岐路に立つことになったのです。このような「狂犬」に出会って、棍棒で叩きのめすべきか、避けて通るべきか、中国側が思い悩んでいるのは確かです。

中国は、このまま北朝鮮を放置すれば、韓国、台湾、日本と核開発ドミノが起きる可能性を懸念しています。さらに、2016年以降、米国、日本が、対北朝鮮封鎖のために軍事力を朝鮮半島周辺に集中し始めており、このことも、中国の安全保障に悪影響を与えるという理由で、中国国内では北朝鮮に対し強硬に出るべきだという意見が強くなっていました。

しかし、現実には今、北朝鮮は、隣国が大混乱に陥るような強硬手段をとる余地がないほど、足下の経済問題が深刻だとみて良いです。中国は当面、慎重な態度をとり続けなければならないようです。

中国はこれまで北朝鮮の核・ミサイル問題を「対米交渉カード」に利用してきました。ところが今や「飼い犬に手を噛まれる」の格好になっています。中国への核・ミサイル威嚇は北朝鮮の「対米交渉カード」となったのです。

2016年6月、ムスダンとみられる弾道ミサイル発射実験の様子

そうして、昨年米国は本格的に対中国経済冷戦に踏み切りました。この動きは、超党派の米国議会も同調した動きであり、次の大統領トランプであろうが、なかろうが、米国は中国が体制を変えるか、経済的にかなり弱体化するまで、制裁を続ける腹です。

そうして、その後米朝会談が開催され、今年の2月下旬には第二回米帳会談が開催される予定です。

この会談では金正恩は核の即時完全放棄ではなく、「核実験の無期限凍結」という、核カードを決して手放さない形の妥協と引き換えに、中・長期的な経済援助を引き出そうとするでしょう。

しかし、中国まで核恐喝の標的にしたことで、北朝鮮の現体制を取り巻く環境がさらに厳しいものになったことは確かです。

私としては、トランプ政権としては、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることは十分にあり得ることと思います。

米国にとっては、北朝鮮の核によって、中国に従属しようとする韓国を含む朝鮮半島に中国が浸透することを防ぎつつ、対中国冷戦をさらに継続するというのは、危険ではありますが、魅力的なシナリオでもあります。

私は、次回の米朝会談において、トランプ大統領は、金正恩がどれほど本気で中国と対峙するかを見極めた上で、今後の対中国冷戦の戦略を考える腹であるとみます。

日本としては、北の核は確かに日本にとって危機であることには違いないですが、それは中国の核とて危険であり、中国の核は北朝鮮の核よりはるかに日本にとって脅威であるという事実を思い起こすべきだと思います。

日本が周辺国の核に対処すべきことがらについては、昨日のこのブログにも掲載したので、ここでは詳細を記すことはしません。そちらを参照していただきたいと思います。

第二回米朝会談にて、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しされるようなことがあれば、日本としてはそれに対応しなければなりません。

日本としては、日朝首脳会談により、金正恩の腹を探ることがより一層重要になってくるものと思います。

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2018年6月11日月曜日

米朝首脳会談 中国の役割めぐる3つの疑問―【私の論評】正恩が中国に対抗する駒として機能するなら、トランプは条件付きで北の存続を認める(゚д゚)!


BBC News ジョン・サドワース記者 BBCニュース(北京)



ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が歴史的な首脳会談に臨もうとするなか、触れられていないものの誰もの念頭にあるのが中国だ。

中国は、北朝鮮にとって最も重要な長年にわたる同盟国なのと同時に、米国にとっては最も手ごわく、長期戦略上のライバルとなっている。

このため中国は、米朝首脳会談での合意が成功するかどうかの大きなかぎを握っている。

トランプ大統領と金委員長が脚光を浴びるなか、舞台の外で存在感を放つ影の主役をめぐる3つの疑問について考えてみる。
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中国が求めていることは?

一言で言えば安定だ。

言い換えれば、中国は国境の向こう側で核による瀬戸際政策がとられることを絶対に避けたいと考えている。

中国は、北朝鮮のパラノイアをいやというほど知っている。一方で、米国の気まぐれな大統領を信用していない。

そして、再び舌戦が始まり、軍事的な計算違いや緊張の高まりにつながるのを真剣に恐れている。

そうしたなかでは、外交と対話への復帰が中国の目的そのものになっているように思えることが時々あった。

しかし、北朝鮮に対する中国の堪忍袋の緒が切れそうになっているように近年見えるなかで、依然として北朝鮮は長年の同盟国で、米国は共通の戦略的なライバルだ。

金委員長が多大な犠牲を払って手に入れた核の抑止力を交渉によって一方的に放棄するような可能性があるのかどうか、中国はずっと現実的な考えを持っているだろう。

例えば朝鮮半島における米軍展開の変化といった何らかの妥協を、金委員長がトランプ大統領から得られたとしたら、中国にとってはもちろん好都合だ。

北朝鮮に対する中国の影響力はどの程度あるのか?

多少はある。

北朝鮮の貿易額の90%を対中国が占めている。

しかし、中国が北朝鮮を交渉の席に付かせたわけではない。

中国は隣国に対するこれまでになく厳しい制裁に同意したが、経済的に孤立化すればするほど北朝鮮は核抑止力の戦略に傾斜するだろうと、一理ある主張をしつつの同意だった。

金委員長は、自分自身の戦略的な理由から、自分自身で決めてシンガポールに向かった。

一方、中国が制裁を実施するのは主に、自国の目的に沿うからだ。

中国は協調的な姿勢によって、米国との地政学的競争という、より幅広い面で利点を得る。

さらに、中国の意向を完全には無視できないことを北朝鮮に思い出させる、限定的ながらも効果的な方法でもある。

制裁の効果はもちろん限られている。北朝鮮は、中国が恐れているのは核の現状よりも国境の向こう側で経済崩壊が起きることだと知っているからだ。

主客転倒の典型的な例だろう。

注目すべきことに、中国の習近平国家主席が金委員長と初めて会ったのは、わずか3カ月前。両首脳はその後、もう一度会談している。

一部のアナリストが言うように、一気に活発になった外交は中国が蚊帳の外に置かれるのを恐れたためだろうか。

急に制裁が少しだけ緩和されたと示唆する情報もある。

また、トランプ大統領は中国の介入を暗に指摘し、「少し失望しているとは言える。金正恩氏が習主席と会談したとき(中略)金正恩氏の態度に少し変化があったように思えるからだ。だからうれしくない」と語った。

米朝首脳会談が不調に終わったら中国はどうする?

中国にとっては、対話を続けさせるものなら、条約だろうと行程表だろうと友好的な握手とぼんやりした計画だろうと、何でも成功になる。

中国から見れば、北朝鮮の若き指導者に注目すべきなのは、曖昧な非核化に関する発言よりも、始まったばかりの国内経済の改革だ。

中国外務省によると、北朝鮮の高官らによる代表団が先月、「中国の国内経済開発の成果を学ぶため」北京を訪れたという。

それが中国が常に好んできたやり方だった。

中国からすれば、核兵器を限定的に保有する北朝鮮が終わりのない軍縮交渉を強いられるなかで、中国企業がインフラ建設や貿易拡大を進めるのは、それほどひどい状況とは言えないかもしれない。

「中国の夢」の輸出だ。繁栄による安定。もちろん相当程度の独裁も維持しつつ。

北京のカーネギー清華グローバル政策センターの北朝鮮専門家、ジャオ・トン氏は、「非核化について首脳会談でどれほど前進があるかにかかわらず、中国はより重要な長期的目標を持っている」と話した。

「それは、北朝鮮を経済成長させ、孤立したのけ者国家から、より普通で開放的な国に変化するのを助けるというものだ」

しかし、もし首脳会談がうまくいかず、米国が再び軍事攻撃を口にするようになったとき、中国はそれでも自分たちの計画を推し進めるかもしれない。

核爆弾を手に入れた北朝鮮は、今は明確に政治モードだ。

北朝鮮の「抑制的な」姿勢を評価する中国は、もし首脳会談が物別れになれば、責任はトランプ大統領にあると主張する可能性が高い。

ジャオ・トン氏は、「もし米国が首脳会談の席を立ち、最大限の圧力政策を復活させるなら、中国は外交の失敗の責任を米国に押し付けるだろう」と語った。

「もし米国が北朝鮮の非武装化に軍事攻撃をちらつかせるなら、米国に対する抑止力を示すため、中国が自国軍を動かそうとする可能性があると、私は考えている」

中国は舞台の袖で控えている。

シンガポールでの首脳会談はいずれにしろ、中国の影響力を高める可能性が高い。

(英語記事 Trump-Kim Summit: Three questions about China's role

【私の論評】金正恩が中国に対抗する駒として機能するなら、トランプは条件付きで北の存続を認める(゚д゚)!

この記事の見立てとは違い、私は、トランプ氏は当面中国の習近平皇帝に対する、盾となることを北朝鮮が認めれば、当面は北の体制を維持することにやぶさかではないのではないかと考えています。

そもそも、北朝鮮の独裁体制に関しては、かなり批判がありますが、中国とてさほど変わりありません。もともと、中国共産党一党独裁でしたが、最近では習近平が終身の主席になれるように、憲法も改正しています。習近平は、実質的に皇帝として中国を死ぬまで支配するつもりです。

北朝鮮も、中国ももうほとんど変わりがないような体制になってきました。両国とも、世界の他の先進国とは、価値観が全く異なります。そうして、これからもその価値観を変えることはないでしょう。しかも、中国のほうが、はるかに図体が大きいので、はるかにやっかいな存在です。

中国のICBM

これでは、経済力や軍事力ではるかに北朝鮮よりも大きな中国のほうが、はるかに危険です。中国はすでに米国に届くICBMを配備していますし、SLMB(潜水艦発射の核ミサイルょも配備しています。

ただし、SLMBは世界中から発射しても、米国に届く規模にはなっておらず、SLBMを米国に到達させようとすれば、SLBMを搭載した潜水艦を米国本土まで近づけそこから水中発射して米国に到達させることができます。

そうして、中国は中国付近の海底は、浅いため、すぐに潜水艦の動向が探られてしまうため、水深の深い南シナ海を中国のSLBM発射可能な戦略原潜の聖域にして、そこから西太平洋に潜水艦を発進させ、西太平洋のいずれかの地点で米国にSLBMを発射できるようにしようと目論んでいると考えられます。

だから、こそ中国はどこまでも、南シナ海にこだわるのです。現在では、そのようなことをしないとSLBMを米国に到達させることはできないのですが、いずれ時間がたてば、世界中のどこから発射しても米国に到達するSLMBを開発することでしょう。

中国のSLBMを搭載した潜水艦

たとえそうなったとしても、やはり南シナ海は中国にとって重要です。なぜなら、先程も述べたように、中国近海は水深が浅いのです、中国の戦略原潜の動向は、日米が逐一把握しています。不穏な動きがあれば、すぐに撃沈できます。

しかし、南シナ海の深海に中国の戦略原潜が深く潜行すれば、日米ともにこれをすぐに捕捉することは困難です。まさに、中国はこれを狙っているのです。

そうして、米国のトランプ政権はこれを何が何でも阻止しようとしているのです。中国が南シナ海で一線を超え、戦略原潜を派遣することになでなれば、米国はこれを絶対に許さないでしょう。

だからこそ、現在のトランプ政権には中国に対抗するため、ポンペオ氏やボルトン氏などのドラゴンスレイヤー(対中強硬派)らが跋扈しているのです。習近平が皇帝になることを宣言して以来、民主党の中にも中国に対する強硬派が目立つようになり、かつてのようなあからさまな擁護派、親中派、媚中派はいなくなりました。

そうして、トランプ大統領も、ドラゴンスレイヤーたちも、本当は北朝鮮をさほど重要視はしていません。ただし、オバマの戦略的忍耐により、北朝鮮に核開発をする余裕を与えてしまったため、オバマのこの負の遺産を払拭しようとしているだけであり、彼らの敵はあくまで中国です。

そうして、トランプ氏は金正恩をがんじがらめにして、習近平と会えない状況にしてしまいまいました。

これについては、以前このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
朝鮮半島の"再属国化"を狙う習近平の誤算―【私の論評】「習近平皇帝」を抑え込むためトランプは金正恩という駒を駆使している(゚д゚)!
正恩(左)率いる北朝鮮の属国化を目論む習近平(右)だが。5月に開かれた2度目の中朝首脳会談にて

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、“朝貢国”である北朝鮮の背後にいる“冊封国”中国にプレッシャーを与えること。これが、アメリカの本当の狙いです。

トランプ大統領にとっては、金正恩という駒を駆使して、中国にプレシャーをあたえることが、本当の狙いなのです。

以下にこの記事から、トランプが金正恩をがんじがらめにして、習近平に会えないようにした手法の部分のみを引用します。
トランプは、5月16日に北朝鮮が南北閣僚級会談をドタキャンしたり、「米朝首脳会談だって考え直さなければならない」などと「デカイ態度」を示し始めたことを、「金正恩が習近平と二度目の会談をしてからのことだ」と言い始め、5月7日と8日の大連会談に疑義を挟み始めました。 
そうして、トランプ大統領は5月16日以降の北朝鮮の態度の変化を「中国のせい」にしておいて、それもちらつかせながら米朝首脳会談を中止しました。 
これに対して、金正恩は、米朝首脳会談復活となれば、この段階でさらに習近平にSOSを出せぱ、きっとトランプがまた機嫌を悪くして「中止する」と言い出しかねないと考えたに違いありません。金正恩としては、腹の中ではどんなことをしてでも米朝首脳会談を成功させたいと考えているでしょうから、彼はもう訪中はできません。 
おまけに板門店とシンガポールの挟み撃ちで米朝実務者レベルの会談に急に追い込まれた状況で、習近平に会いに行くなどしたら、トランプの逆鱗に触れることになります。 
こうして金正恩をまず、「がんじがらめにして習近平に会わせないようにする」ことに、トランプは成功したのです。

 しかし「米朝は対話のテーブルに着け」と言い続けてきたのは中国です。今まさにそのテーブルに着こうとしているのですから、中国としては文句が言える筋合いではありません。こうしてトランプは、習近平の口をも閉ざさせてしまったのです。 
これが十分に練り上げた戦略として編み出されたものか、あるいはトランプのビジネスマンとしての「勘」が、結果的にここまで行ってしまったのかは、わからないです。いずれにしても、トランプの圧勝です。 
もしトランプが北朝鮮の「完全な非核化の程度」に満足して莫大な経済支援をしたとすれば、金正恩なら、「習近平からトランプに乗り換える」くらいのことは、やるかもしれないです。 
どんなに中朝軍事同盟があり、中朝蜜月を演じたとしても、それはアメリカへの威嚇であって、その威嚇が必要となくなれば、中国は「いざという時の後ろ盾」程度の位置づけになり、存在感を失うことになるでしょう。 
こうして、「中国の覇権」を抑え込むために、トランプは十分に金正恩という駒を駆使しているのかもしれないです。
私自身は、トランプ大統領は金正恩という駒を駆使しているのは間違いないと思います。この駒が駒として十二分に動く間は、トランプ大統領は核の完全即時廃棄、拉致問題の解決、その他人権問題での譲歩などがあれば、北の体制を許容する可能性があります。

もし、北がこれを断れば、さらに機雷封鎖なども含む制裁の最大限の強化をして、北朝鮮の社会の機能を奪い、自然崩壊するのを待つか、軍事オプションも行使することになるでしょう。

これについては、中国と本格的な対抗に備えて、あまり時間を費やすようなことはしないでしょう。今年中には間違いなく、少なくともこれからどのような方向に進んでいくか、誰の目にも明らかになると考えられます。

空母打撃群

北朝鮮問題が、ある程度収束すれば、次は台湾を巡って中国との対立が激化することでしょう。その口火は、米国が3つの空母打撃群を台湾に寄港させ、台湾海峡で本格的な軍事演習をすることなどから、本格的に口火が切られることでしょう。

このような演習は何度も行われ、日本やイギリス、フランス、オーストラリア、インドなども参考することになるでしょう。

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2018年5月10日木曜日

トランプ氏、解放米国人を出迎え 米朝首脳会談を前に北朝鮮が解放―【私の論評】政府は憲法解釈を変えてでも拉致被害者を奪還せよ(゚д゚)!

トランプ氏、解放米国人を出迎え 米朝首脳会談を前に北朝鮮が解放


北朝鮮から解放された米国人3人が10日未明、米ワシントンのアンドリューズ空軍基地に到着した。ドナルド・トランプ米大統領は基地で3人を出迎えた。

トランプ氏は3人の基地到着を受け、「この本当に最高の人たちにとって特別な夜だ」と述べた。

ホワイトハウスは3人の解放が、予定されているトランプ氏と北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談を前にした友好の意思表示だとしている。

トランプ氏は首脳会談の開催地が「3日以内に」発表されるだろうと述べた。

3人を乗せた米空軍機は、午後2時45分ごろ到着した。トランプ氏とメラニア夫人は機内に入り、数分後に3人の男性と共に姿を現し報道陣に手を振った。

トランプ氏は記者団を前に、金委員長が首脳会談前に3人を解放してくれたことを喜び、「正直言って、会談前に実現するとは思っていなかった」と明らかにした。

3人の解放が自分にとって最高に誇らしい業績かと聞かれると、「それは(朝鮮)半島の完全非核化だ」と答えた。

「(3人の解放実現は)素晴らしい名誉だ。しかし、本当の名誉は、核兵器をなくす勝利の実現だ」とトランプ氏は述べた。

トランプ氏はさらに、北朝鮮に旅行できるようになる日を期待すると話し、さらに金委員長が自分の国を「本当の世界」の一員にしたがっていると、自分は確信していると強調した。

解放されたキム・ハクソン氏、トニー・キム氏、キム・ドンチョル氏の3人は帰国に先立ち発表した声明で「米政府、トランプ大統領、(マイク・)ポンペオ米国務長官、そして我々を家へと連れ戻してくれた米国の人々に深い感謝を伝えたい」と述べた。

「神と、我々と我々の帰国を祈ってくれた全ての家族や友人に感謝する」

トランプ氏は9日、「北朝鮮から飛行機で帰国中のマイク・ポンペオ国務長官に、皆がとても会いたがっている素晴らしい紳士3人が同乗中だと報告できて嬉しい。元気なようだ。そして金正恩と良い会談だった。日取りと場所が決まった」とツイートし、3人の解放を明かしていた。



3人は反政府行為罪などで拘束され、労働収容所に勾留されていた。

解放はトランプ氏と金氏との会談の詳細を調整するためにポンペオ氏が平壌を訪問している最中に起きた。

トランプ氏は「金正恩の行動と3人の帰国を許してくれたことに感謝する」と話した。

左からキム・ハクソン氏、キム・ドンチョル氏、トニー・キム氏

解放された3人はポンペオ氏と共に、米空軍の飛行機で北朝鮮を離れた。4人は帰国途中、東京近郊の横田空軍基地で、より良い医療設備を備えた飛行機に乗り換えたという。

ポンペオ氏は「全ての数値は現在のところ、彼らの健康状態がありうる限り最高に良いと示している」と述べた。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)によると、金正恩氏は同氏が3人の拘束米国人の恩赦を求める米国の申し出を承認したとし、自身とトランプ大統領の会談が朝鮮半島の状況を前進させる「素晴らしい最初の一歩」になるだろうと述べたという。

拘束された3人のうち1人は2015年に労働収容所に収容され、残りの2人は1年余りを収容所で過ごした。3人に対する有罪判決は政治的なもので、人権侵害だと広く非難されている。

解放された3人は
  • キム・ハクソン氏は2017年5月、「敵対行為」の疑いで拘束された。同氏は自分をキリスト教伝道師だとし、平壌科学技術大学(PUST)で実験的な農場を始めようとしていると説明していた。
  • トニー・キム氏はキム・サンドクという名前でも知られ、キム・ハクソン氏と同じくPUSTで勤務していた。トニー・キム氏は2017年4月にスパイ容疑で拘束された。韓国メディアによると、同氏は北朝鮮の人道支援にかかわっていたという。
  • キム・ドンチョル氏は60代前半の牧師。2015年にスパイ容疑で拘束され、その後10年の重労働刑を言い渡されていた。

解放への反応は

韓国大統領府の青瓦台は米国人の解放を歓迎し、今後の交渉に「前向きな影響」があるだろうと述べた。

青瓦台の尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通首席秘書官はまた北朝鮮に対し、同様に拘束されている韓国人6人の解放も求めた。

尹氏は「韓国と北朝鮮の融和を促進し、朝鮮半島に平和を広めるため、拘束韓国人の速やかな送還を望む」と述べた。

トニー・キム氏の家族はBBCに提供された声明で、「彼の帰還に向けて取り組み、貢献してくれた全ての人々に感謝したい」と述べた。また家族は「北朝鮮と直接やり取りしたことについて、大統領にも感謝したい」と話した。

米国の外交責任者マイク・ポンペオ国務長官は、6週間で2回、北朝鮮の指導者である金正恩氏と会談

北朝鮮の強制収容所はどんな場所なのか

米国の人権団体「北朝鮮人権委員会」(HRNK)によると、北朝鮮では約12万人が適正な手続きなしに収監されていると考えられている。

韓国製DVD観賞から亡命未遂に至るまで、住民はあらゆる罪状で政府に拘束される恐れがあるという。

そのなかでも政治犯は、専用に収容所に送られることが多い。大抵は過酷な労働収容所で、鉱山採掘や木材伐採など厳しい肉体労働が課される。

米大学生だったオットー・ワームビア氏は、平壌での涙の告白会見から1年もせずに亡くなった

重労働罪を課されていた米国人宣教師のケネス・ベ氏は、悪い健康状態にもかかわらず牧場で週6日の労働を強制されたという。

一番最近解放された米国人、ホテルの政治宣伝ポスターを盗もうとした罪で拘束されていたオットー・ワームビア氏は、昨年解放されたが致命的な健康状態で、帰国後ほどなくして死亡した。

両親のフレッド・ワームビア氏とシンディ・ワームビア氏は、「解放された拘束者やその家族と共に喜んでいる。オットーが恋しい」と話した。

(英語記事 North Korea summit: Trump greets freed US detainees

【私の論評】政府は憲法解釈を変えてでも拉致被害者を奪還せよ(゚д゚)!

安倍首相は10日朝、アメリカのトランプ大統領と電話で会談し、北朝鮮からアメリカ人3人が解放されたことについて「大きな成果だ」と伝えました。 安倍首相「私からは、拘束されていた3名の米国人が解放されたことについて、大きな成果であるとお祝いを申し上げました。

この解放については北朝鮮の前向きな姿勢であり歓迎したい」 また、安倍首相は拉致問題について「日米韓、あるいは中国の協力も得て解決に全力を尽くしていきたい」と改めて強調しました。

さらに、トランプ大統領から、北朝鮮の金正恩委員長とアメリカのポンペオ国務長官との会談について、詳細な説明を受け、米朝首脳会談での対応についてすりあわせを行ったといいます。

 この中でトランプ大統領が「日米で緊密に連携していきたい。日本はビッグプレーヤーだ」と述べたのに対し、安倍首相は「日本の立場を共有していただいていることを感謝する」と応じました。


トランプ大統領が「日本はビッグプレイヤー」だと述べたのは、日本が米国と協同でかなりの圧力を北朝鮮にかけてきたこと、さらには安倍総理の北朝鮮と長期間にわたる交渉の経験による、トランプ大統領に対するアドバイスなどを評価したものと考えられます。

さて、米国人三人の救出と比較すると、日本の拉致被害者問題がいつまでも解決されないのが気にかかります。

拉致犯人はすでにわかっています。被害者が監禁されている国もわかっています。それなのになぜ取り戻せなかったのでしょうか。

その最大の原因として、日本には、その中でもとりわけ外務省には、国家の責任で国民を救出するという考え方自体がなかったからです。現在では事情は多少変化しているとはいえ、海外で被害に遭った国民に対しては、国家としての日本は無関心であり続ける構造になっています。

なぜそうなるかといえば、憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」させられ、そしてそれをいつの間にか後生大事に抱えて現実を直視しなくなった戦後日本国民の意識が変わっていなかったからです。「平和を愛する諸国民」は自明な存在ではありません。

拉致被害者問題が明らかになったり、5人の被害者が日本に戻ってきた時あたりまでは、この国民の意識がほとんど変わっていませんでした。当時の政府の中には、北朝鮮は日本人を一時帰国させたという考え方なので、5人の被害者を北朝鮮に返そうと考えた人もいたというのですから、驚きです。これでは、日本という国は国家の意思もないといわれても、仕方ないような状況でした。

結局、安倍氏の判断で5人は政府の意思で日本に残すと発表したのですが、当時の日本は明らかに異常でした。

横田めぐみさん
 
国際社会では当り前の「国家」という言葉さえ使えない風潮の中で、政府は非常に注意深く、タブー視されていることや言葉には、触れないできたのです。日本全体の価値観が信じ難い程、おかしくなっていたのです。国家の意思、或いは責任について語ること自体が現行憲法下ではあってはならない事柄だという国に、日本はなってしまっていたのです。であれば、外務省も当然、国民を守るために動くことなどしてはならないと考えるわけです。

しかし、現在では帰国した拉致被害者を北朝鮮に返せなどといえば、そのようなことを言い出した人は袋叩きにあうのは確実です。国民の意識も最近はかわりつつあり、この国のあり方も変わってきています。それに、世界には日本のように平和をうたう憲法典を持っている国で、軍隊を持ち自衛戦争を認めている国々もあります。

そうして、この憲法の前文だとて、決して金科玉条ではなく解釈など変えられるはずです。平和を愛する諸国民に対しては、公正と信義に信頼するのは当然です。しかし、北朝鮮の諸国民とくにその中でも支配層の公正と信義は信頼できず、わられの安全と生存を保持しようと決意などできないです。よって、この前文は平和を愛する諸国民に対するものであり、そうではない国に対してはあてはまらないという解釈も十分成り立つと思います。

そうして、内閣法制局も1960年代のはじめころまでは、憲法解釈を何度も変えていました。日本の憲法典は決して、金科玉条ではないのです。

であれば、今回は拉致被害者奪還の最後のチャンスであるとも思われますので、政府としてはギリギリの選択を迫られた場合には、憲法解釈を変えてでも拉致被害者を奪還して欲しいです。米国が三人の米国市民を奪還できた背景には、米軍の強大な軍事力があったことを忘れるべきではありません。

そうして、政府は憲法解釈の変更後に、解散総選挙を実施し国民の信を問えば良いと思います。それで、与党側が負けるような国であれば、国民が馬鹿だということです。それは、それで仕方ないです。しかし、私自身は日本国民はそれほど馬鹿ではないと思います。そのくらいのことをしてでも、今回は、拉致被害者を奪還すべきと私は思います。

そうして、我が国は新たに拉致被害者が出た場合には、自衛隊を派遣してでも自国民を救出できる当たり前の国になるべきです。

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2018年4月18日水曜日

【日米首脳会談】安倍首相「ドナルドと2人きりで相当深い話をできた」、トランプ米大統領「米朝首脳会談で拉致問題提起する」―【私の論評】金正恩が誤算すれば、戦争は不可避(゚д゚)!


トランプ米大統領と会談する安倍首相=17日、米フロリダ州パームビーチで

安倍晋三首相は17日午後(日本時間18日未明)に政府専用機で米南部フロリダ州パームビーチ国際空港に到着した。到着後、首相はトランプ米大統領の別荘「マールアラーゴ」で、トランプ氏との会談に臨み、北朝鮮情勢の分析と、5月または6月に予定される米朝首脳会談に向けた政策をすり合わせた。首相は米朝首脳会談で拉致問題を取り上げるよう要請し、トランプ氏も応じたとみられる。通商問題についても協議した。

 両首脳は最初に一対一の会談を約1時間行った。その後、行われた少人数会合の冒頭で安倍首相は記者団に「ドナルドと二人きりで北朝鮮の問題、経済について相当深い話をすることができた。それぞれ非常に重要な点で認識を一致させることができたことをうれしく思う」と述べた。

 首相は、米朝首脳会談や27日に開催予定の南北首脳会談に関し「平昌五輪から起こった大きな変化はまさにドナルドが確固たる信念と決意でこの問題に対峙した結果だ。あらためて敬意を表したい」と述べ、トランプ氏をたたえた。

 その上で「米朝首脳会談を通して核の問題、ミサイルの問題、さらには日本にとって重要な拉致問題が解決に向かって進んでいく歴史的な会談となることを期待する。そのために、真剣な、そして徹底的な話し合いをしたい」と述べた。

 首相の賛辞に対し、トランプ氏は謝意を述べた上で、米朝首脳会談で「われわれは拉致問題を提起するし、そのほかに話すべきことはたくさんある」と強調した。また、米朝首脳会談の成否について「うまくいかなければ違う手段を考えなければならないということだ」と述べ、最大限の圧力をかけ続ける方針を維持する考えを示した。

【私の論評】金正恩が誤算すれば戦争は不可避(゚д゚)!

トランプ大統領は、安倍総理をアジア問題の助言者のようにみていることは、以前このブログにも掲載したことがあります。当然のことながら、北朝鮮問題でも、トランプ氏は安倍総理を助言者のようにみていことでしょう。

そうして、5月か6月頭に見込まれる米朝首脳会談を前に安倍氏の助言はかなり重要になってきています。首脳級では、世界に安倍総理をおい他に長い期間にわたる北朝鮮との交渉の経験を持つ人はいないでしょう。そうして、安倍総理は政治家としての経験も長いです。

安倍総理のアドバイスは、北朝鮮が仕掛ける多くの罠にはまらないようトランプ氏が注意するために役立つことでしょう。

トランプ氏は、スタッフや専門家の意見を無視し、拒否することで有名です。安倍氏は、北朝鮮問題でトランプ氏を導くことができる数少ない一人であることは間違いないです。

ドラナルド・トランプ氏にとって安倍晋三氏は信頼できる助言者

南北首脳会談が予定され、トランプ氏が金正恩朝鮮労働党委員長との会談を受け入れたことで、北朝鮮は、関係国がみな北朝鮮の政策に従うために取り組んでいると思い込んでいるものと思います。

こうした状況下では北朝鮮問題の真の進展に向けた見通しは良くはありません。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は17日、次の米国務長官に指名されたポンペオ米中央情報局(CIA)長官が数週間前にトランプ米大統領の特使として北朝鮮を極秘に訪問し、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と面会していたと報じました。トランプ氏と金委員長との首脳会談に向けた調整を進めたとされています。

ポンペオCIA長官(左)と金正恩氏(右)
金正恩からすれば、親子二代にわたって米国等を恫喝してきた結果、最終段階に入り金王朝がそのまま米国から認められる日がやってくることを心待ちにしているかもしれません。

しかし、北朝鮮による拉致問題は、日本だけでなく、米国にとっても北朝鮮に関する人権問題の重大な要素であり、重要な優先事項となっています。

米朝首脳会談については、最高レベルでの会談が失敗に終わった場合、残された選択肢はなくなるリスクが非常に大きいです。トランプ氏は昨日のブログにも示したように、即断即決ではなかったものの、おそらくあまり準備ができていない状況で金氏との会談を受け入れたとみられます、おそらく首脳会談はある種の賭けのようでもあります。

トランプ氏と金氏の会談で想定される最も現実的で最良の筋書きは、交渉の開始で合意することです。しかし、交渉が始まった段階でさらに難しい局面が訪れることになるでしょう。

これまでの対北交渉を振り返ってみると、北朝鮮は要求を高め、国際社会が容認できないと言うと、われわれは被害者だと主張してエスカレーションのサイクルに戻るということを何度も繰り返してきました。

トランプ大統領は、完全で不可逆的な非核化に目標を定めた計画により、北朝鮮にだまされ、北朝鮮側の条件で早まった合意をしないということが重要です。

先日、米軍によるシリア攻撃があったばかりで、このブログにもそれに関しては掲載しました。そうして、この記事では掲載しなかったことがあります。それは、米軍のシリア攻撃が北朝鮮にどのような影響を与えたかということです。

シリアへの軍事攻撃が始まり、首都ダマスカス上空を飛ぶミサイル

対シリア化学兵器施設限定軍事攻撃ではシリアからの報復攻撃はありませんでした。しかし、北朝鮮については核施設に対する限定攻撃の実施自体が極めて難しいでしょう。北朝鮮にはソウルを狙う数千基の長距離自走砲・多連装ロケット砲による報復能力があるほか、その他多数のミサイルもあります。

これこそシリアと北朝鮮の大きな相違点です。シリアは報復しようと思っても、手段が限られますが、北朝鮮はそうではないということです。

米国の対シリア攻撃で、北朝鮮は、軍事攻撃も辞さない米国を抑止するには核兵器開発継続が不可欠との基本戦略の正しさを再認識したに違いないです。そのような状況下では、仮に米朝首脳会談が開かれても、北朝鮮核問題の解決につながる可能性は一層減少するばかりです。

以上を考えると、米国と北朝鮮は首脳会談を経て、本格的な交渉の開始が始まる可能性は高いと考えられます。しかし、この交渉は難航を極めるでしょう。米国はこれを時間稼ぎと受け取るでしょう。実際、その可能性が高いです。

そうして、結局のところ、米国は北朝鮮を攻撃するのではないかと思います。ただし、最初は北の核関連施設に限定した攻撃をすると思います。ここで、北朝鮮が反撃に出れば、地上部隊を派遣して本格的な戦争になるでしょう。

北朝鮮が反撃にでなければ、様子見をすることでしょうが、ここで金正恩が正しい判断ができる否かが分岐点になると思われます。

昨日示したように、米軍がなぜシリアの攻撃を限定的なものにしたかといえば、たとえ米国がシリアに本格的に介入して、アサド政権を崩壊させたとしても、反政府勢力が反米政権を築くか、反政府勢力同士でさらなる内乱に発展するだけで、米国に勝利はないからです。

であれば、米国としては、アサド政権と反政府勢力を拮抗させておくのがベストの戦略であり、だからこそ今回は化学兵器を持ったアサド政権側が力を強めことを阻止して、反政府勢力と拮抗させたのです。

アサド

その後は、アサド政権の力が強まれば、反政府側に武器を提供して、再度拮抗させます。反政府側の勢力が強まれば、反政府側への武器の提供をやめて、再度拮抗させます。米国は、しばらくこのような対処の仕方をするでしょう。

現在は、このような戦略をとるつもりはなかったとしても、いずれはそうなることでしょう。アサド政権も反政府勢力のいずれも生かさず、殺さずの拮抗状態にしておけば、まずは米国をはじめ西側諸国に害が及ぶことはあまりありません。

しかし、北朝鮮の場合は違います。北朝鮮では、金王朝を滅ぼせば、すぐに米国の勝利となります。北朝鮮には、強力な反米の反政府勢力などありません。金正恩を殺害しただけでは、軍部が抵抗を続ける可能性もありますが、軍部の上層部を殺害したり、拘禁して無力化すれば、それが米国の勝利となります。

このあたりを理解せずに、核武装をすれば、金王朝と北朝鮮は安泰と金正恩が考えた時、悲劇に見舞われることになるでしょう。

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