2018年6月11日月曜日

米朝首脳会談 中国の役割めぐる3つの疑問―【私の論評】正恩が中国に対抗する駒として機能するなら、トランプは条件付きで北の存続を認める(゚д゚)!


BBC News ジョン・サドワース記者 BBCニュース(北京)



ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が歴史的な首脳会談に臨もうとするなか、触れられていないものの誰もの念頭にあるのが中国だ。

中国は、北朝鮮にとって最も重要な長年にわたる同盟国なのと同時に、米国にとっては最も手ごわく、長期戦略上のライバルとなっている。

このため中国は、米朝首脳会談での合意が成功するかどうかの大きなかぎを握っている。

トランプ大統領と金委員長が脚光を浴びるなか、舞台の外で存在感を放つ影の主役をめぐる3つの疑問について考えてみる。
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中国が求めていることは?

一言で言えば安定だ。

言い換えれば、中国は国境の向こう側で核による瀬戸際政策がとられることを絶対に避けたいと考えている。

中国は、北朝鮮のパラノイアをいやというほど知っている。一方で、米国の気まぐれな大統領を信用していない。

そして、再び舌戦が始まり、軍事的な計算違いや緊張の高まりにつながるのを真剣に恐れている。

そうしたなかでは、外交と対話への復帰が中国の目的そのものになっているように思えることが時々あった。

しかし、北朝鮮に対する中国の堪忍袋の緒が切れそうになっているように近年見えるなかで、依然として北朝鮮は長年の同盟国で、米国は共通の戦略的なライバルだ。

金委員長が多大な犠牲を払って手に入れた核の抑止力を交渉によって一方的に放棄するような可能性があるのかどうか、中国はずっと現実的な考えを持っているだろう。

例えば朝鮮半島における米軍展開の変化といった何らかの妥協を、金委員長がトランプ大統領から得られたとしたら、中国にとってはもちろん好都合だ。

北朝鮮に対する中国の影響力はどの程度あるのか?

多少はある。

北朝鮮の貿易額の90%を対中国が占めている。

しかし、中国が北朝鮮を交渉の席に付かせたわけではない。

中国は隣国に対するこれまでになく厳しい制裁に同意したが、経済的に孤立化すればするほど北朝鮮は核抑止力の戦略に傾斜するだろうと、一理ある主張をしつつの同意だった。

金委員長は、自分自身の戦略的な理由から、自分自身で決めてシンガポールに向かった。

一方、中国が制裁を実施するのは主に、自国の目的に沿うからだ。

中国は協調的な姿勢によって、米国との地政学的競争という、より幅広い面で利点を得る。

さらに、中国の意向を完全には無視できないことを北朝鮮に思い出させる、限定的ながらも効果的な方法でもある。

制裁の効果はもちろん限られている。北朝鮮は、中国が恐れているのは核の現状よりも国境の向こう側で経済崩壊が起きることだと知っているからだ。

主客転倒の典型的な例だろう。

注目すべきことに、中国の習近平国家主席が金委員長と初めて会ったのは、わずか3カ月前。両首脳はその後、もう一度会談している。

一部のアナリストが言うように、一気に活発になった外交は中国が蚊帳の外に置かれるのを恐れたためだろうか。

急に制裁が少しだけ緩和されたと示唆する情報もある。

また、トランプ大統領は中国の介入を暗に指摘し、「少し失望しているとは言える。金正恩氏が習主席と会談したとき(中略)金正恩氏の態度に少し変化があったように思えるからだ。だからうれしくない」と語った。

米朝首脳会談が不調に終わったら中国はどうする?

中国にとっては、対話を続けさせるものなら、条約だろうと行程表だろうと友好的な握手とぼんやりした計画だろうと、何でも成功になる。

中国から見れば、北朝鮮の若き指導者に注目すべきなのは、曖昧な非核化に関する発言よりも、始まったばかりの国内経済の改革だ。

中国外務省によると、北朝鮮の高官らによる代表団が先月、「中国の国内経済開発の成果を学ぶため」北京を訪れたという。

それが中国が常に好んできたやり方だった。

中国からすれば、核兵器を限定的に保有する北朝鮮が終わりのない軍縮交渉を強いられるなかで、中国企業がインフラ建設や貿易拡大を進めるのは、それほどひどい状況とは言えないかもしれない。

「中国の夢」の輸出だ。繁栄による安定。もちろん相当程度の独裁も維持しつつ。

北京のカーネギー清華グローバル政策センターの北朝鮮専門家、ジャオ・トン氏は、「非核化について首脳会談でどれほど前進があるかにかかわらず、中国はより重要な長期的目標を持っている」と話した。

「それは、北朝鮮を経済成長させ、孤立したのけ者国家から、より普通で開放的な国に変化するのを助けるというものだ」

しかし、もし首脳会談がうまくいかず、米国が再び軍事攻撃を口にするようになったとき、中国はそれでも自分たちの計画を推し進めるかもしれない。

核爆弾を手に入れた北朝鮮は、今は明確に政治モードだ。

北朝鮮の「抑制的な」姿勢を評価する中国は、もし首脳会談が物別れになれば、責任はトランプ大統領にあると主張する可能性が高い。

ジャオ・トン氏は、「もし米国が首脳会談の席を立ち、最大限の圧力政策を復活させるなら、中国は外交の失敗の責任を米国に押し付けるだろう」と語った。

「もし米国が北朝鮮の非武装化に軍事攻撃をちらつかせるなら、米国に対する抑止力を示すため、中国が自国軍を動かそうとする可能性があると、私は考えている」

中国は舞台の袖で控えている。

シンガポールでの首脳会談はいずれにしろ、中国の影響力を高める可能性が高い。

(英語記事 Trump-Kim Summit: Three questions about China's role

【私の論評】金正恩が中国に対抗する駒として機能するなら、トランプは条件付きで北の存続を認める(゚д゚)!

この記事の見立てとは違い、私は、トランプ氏は当面中国の習近平皇帝に対する、盾となることを北朝鮮が認めれば、当面は北の体制を維持することにやぶさかではないのではないかと考えています。

そもそも、北朝鮮の独裁体制に関しては、かなり批判がありますが、中国とてさほど変わりありません。もともと、中国共産党一党独裁でしたが、最近では習近平が終身の主席になれるように、憲法も改正しています。習近平は、実質的に皇帝として中国を死ぬまで支配するつもりです。

北朝鮮も、中国ももうほとんど変わりがないような体制になってきました。両国とも、世界の他の先進国とは、価値観が全く異なります。そうして、これからもその価値観を変えることはないでしょう。しかも、中国のほうが、はるかに図体が大きいので、はるかにやっかいな存在です。

中国のICBM

これでは、経済力や軍事力ではるかに北朝鮮よりも大きな中国のほうが、はるかに危険です。中国はすでに米国に届くICBMを配備していますし、SLMB(潜水艦発射の核ミサイルょも配備しています。

ただし、SLMBは世界中から発射しても、米国に届く規模にはなっておらず、SLBMを米国に到達させようとすれば、SLBMを搭載した潜水艦を米国本土まで近づけそこから水中発射して米国に到達させることができます。

そうして、中国は中国付近の海底は、浅いため、すぐに潜水艦の動向が探られてしまうため、水深の深い南シナ海を中国のSLBM発射可能な戦略原潜の聖域にして、そこから西太平洋に潜水艦を発進させ、西太平洋のいずれかの地点で米国にSLBMを発射できるようにしようと目論んでいると考えられます。

だから、こそ中国はどこまでも、南シナ海にこだわるのです。現在では、そのようなことをしないとSLBMを米国に到達させることはできないのですが、いずれ時間がたてば、世界中のどこから発射しても米国に到達するSLMBを開発することでしょう。

中国のSLBMを搭載した潜水艦

たとえそうなったとしても、やはり南シナ海は中国にとって重要です。なぜなら、先程も述べたように、中国近海は水深が浅いのです、中国の戦略原潜の動向は、日米が逐一把握しています。不穏な動きがあれば、すぐに撃沈できます。

しかし、南シナ海の深海に中国の戦略原潜が深く潜行すれば、日米ともにこれをすぐに捕捉することは困難です。まさに、中国はこれを狙っているのです。

そうして、米国のトランプ政権はこれを何が何でも阻止しようとしているのです。中国が南シナ海で一線を超え、戦略原潜を派遣することになでなれば、米国はこれを絶対に許さないでしょう。

だからこそ、現在のトランプ政権には中国に対抗するため、ポンペオ氏やボルトン氏などのドラゴンスレイヤー(対中強硬派)らが跋扈しているのです。習近平が皇帝になることを宣言して以来、民主党の中にも中国に対する強硬派が目立つようになり、かつてのようなあからさまな擁護派、親中派、媚中派はいなくなりました。

そうして、トランプ大統領も、ドラゴンスレイヤーたちも、本当は北朝鮮をさほど重要視はしていません。ただし、オバマの戦略的忍耐により、北朝鮮に核開発をする余裕を与えてしまったため、オバマのこの負の遺産を払拭しようとしているだけであり、彼らの敵はあくまで中国です。

そうして、トランプ氏は金正恩をがんじがらめにして、習近平と会えない状況にしてしまいまいました。

これについては、以前このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
朝鮮半島の"再属国化"を狙う習近平の誤算―【私の論評】「習近平皇帝」を抑え込むためトランプは金正恩という駒を駆使している(゚д゚)!
正恩(左)率いる北朝鮮の属国化を目論む習近平(右)だが。5月に開かれた2度目の中朝首脳会談にて

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、“朝貢国”である北朝鮮の背後にいる“冊封国”中国にプレッシャーを与えること。これが、アメリカの本当の狙いです。

トランプ大統領にとっては、金正恩という駒を駆使して、中国にプレシャーをあたえることが、本当の狙いなのです。

以下にこの記事から、トランプが金正恩をがんじがらめにして、習近平に会えないようにした手法の部分のみを引用します。
トランプは、5月16日に北朝鮮が南北閣僚級会談をドタキャンしたり、「米朝首脳会談だって考え直さなければならない」などと「デカイ態度」を示し始めたことを、「金正恩が習近平と二度目の会談をしてからのことだ」と言い始め、5月7日と8日の大連会談に疑義を挟み始めました。 
そうして、トランプ大統領は5月16日以降の北朝鮮の態度の変化を「中国のせい」にしておいて、それもちらつかせながら米朝首脳会談を中止しました。 
これに対して、金正恩は、米朝首脳会談復活となれば、この段階でさらに習近平にSOSを出せぱ、きっとトランプがまた機嫌を悪くして「中止する」と言い出しかねないと考えたに違いありません。金正恩としては、腹の中ではどんなことをしてでも米朝首脳会談を成功させたいと考えているでしょうから、彼はもう訪中はできません。 
おまけに板門店とシンガポールの挟み撃ちで米朝実務者レベルの会談に急に追い込まれた状況で、習近平に会いに行くなどしたら、トランプの逆鱗に触れることになります。 
こうして金正恩をまず、「がんじがらめにして習近平に会わせないようにする」ことに、トランプは成功したのです。

 しかし「米朝は対話のテーブルに着け」と言い続けてきたのは中国です。今まさにそのテーブルに着こうとしているのですから、中国としては文句が言える筋合いではありません。こうしてトランプは、習近平の口をも閉ざさせてしまったのです。 
これが十分に練り上げた戦略として編み出されたものか、あるいはトランプのビジネスマンとしての「勘」が、結果的にここまで行ってしまったのかは、わからないです。いずれにしても、トランプの圧勝です。 
もしトランプが北朝鮮の「完全な非核化の程度」に満足して莫大な経済支援をしたとすれば、金正恩なら、「習近平からトランプに乗り換える」くらいのことは、やるかもしれないです。 
どんなに中朝軍事同盟があり、中朝蜜月を演じたとしても、それはアメリカへの威嚇であって、その威嚇が必要となくなれば、中国は「いざという時の後ろ盾」程度の位置づけになり、存在感を失うことになるでしょう。 
こうして、「中国の覇権」を抑え込むために、トランプは十分に金正恩という駒を駆使しているのかもしれないです。
私自身は、トランプ大統領は金正恩という駒を駆使しているのは間違いないと思います。この駒が駒として十二分に動く間は、トランプ大統領は核の完全即時廃棄、拉致問題の解決、その他人権問題での譲歩などがあれば、北の体制を許容する可能性があります。

もし、北がこれを断れば、さらに機雷封鎖なども含む制裁の最大限の強化をして、北朝鮮の社会の機能を奪い、自然崩壊するのを待つか、軍事オプションも行使することになるでしょう。

これについては、中国と本格的な対抗に備えて、あまり時間を費やすようなことはしないでしょう。今年中には間違いなく、少なくともこれからどのような方向に進んでいくか、誰の目にも明らかになると考えられます。

空母打撃群

北朝鮮問題が、ある程度収束すれば、次は台湾を巡って中国との対立が激化することでしょう。その口火は、米国が3つの空母打撃群を台湾に寄港させ、台湾海峡で本格的な軍事演習をすることなどから、本格的に口火が切られることでしょう。

このような演習は何度も行われ、日本やイギリス、フランス、オーストラリア、インドなども参考することになるでしょう。

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