2022年12月31日土曜日

2022年読まれた上位10の記事

 今年読まれた上位10の記事

以下に今年読まれた記事の上位10の記事を掲載します。一番読まれた記事から順に掲載します。

1位 2021/06/01

「コロナウイルスは武漢研究所で人工的に変造された」英研究者らが法医学的学術論文発表へ―【私の論評】もしこれが事実であれば、賠償問題が再燃するのは確実(゚д゚)! 

いっときは、事実無根とされていましたが、現状では、疑惑は払拭できていないという状況です。もしこれが事実であれば、コロナ被害による賠償問題が再び再燃するのではないかと思います。中国としては、賠償問題に応じることはないでしょうが、世界中の国々が中国の資産をおさえるなどのことも考えられます。そうなると中国はかなり厳しい状況に追い込まれることになるかもしれません。 

2位 2022/01/02

ロシアのコロナ死者、公式発表の2倍超…最多の米に次ぐ65万人とロイター報道―【私の論評】今年は、マスコミに煽られて人生を諦めるようなことがあってはならない(゚д゚)!

モスクワ市内で新年を祝う人たち(1日)

 マスコミは、ロシアのコロナによる死者数を煽る一方で、ロシアのウクライナと侵攻も煽っていました。本当に、コロナで死者数が増えて、深刻な状態になっているのなら、ロシアはウクライナ侵攻どころではなかったはずです。こうした著しい矛盾にも気づかなかったのでしょうか。マスコミの姿勢は未だ変わらないようです。

3位  2022/10/06

日本をうまく利用した中国、台湾と尖閣も必ず狙ってくる 関係を見直す時期ではないか―【私の論評】ODA と超円高と中国の日本浸透を許すことで、中国を怪物に育てあげてきた日本(゚д゚)!

日本は、ODAで中国を助け、中国の軍事を含むインフラを発展させ、日銀の金融引締による円高で、今度は中国の経済を伸ばし、その後は「統一戦線工作」を封じなかったため技術移転などを促進させ中国が産業で自立するきっかけを与えました。これによって、日本は結果的に中国を怪物に育て上げてしまったのです。

4位  2022/10/07

ロシア、トルコに冬服注文断られる 「クレムリン現政権の失敗」―【私の論評】当初の戦争目的を果たせないプーチンは海外に逃避し、ガールフレンドと平穏な余生を送るべき(゚д゚)!

ブーチン(左)とその恋人とされるアリーナ・カバエワ

現時点では、プーチンは2024年に失脚するのは間違いないと考えられます。核戦争などするなどの愚かな真似はやめて、かなりの財産を国外にドルベースなどで逃避させてあるでしょうから、海外に逃亡して、ガールフレンドと平穏な余生を送るべきだと思います。ただ、もうそれが可能な時点は過ぎており、もう無理かもしれません。

5位  2022/02/01

バイデン政権をかき乱す文在寅の北朝鮮交渉―【私の論評】文在寅5年間の対北融和政策の失敗等で、北・韓国が派手に外交の表舞台にでてくることはなくなる(゚д゚)!

米国内や米国議会における超党派での反中世論の高まり、ウクライナ戦争、中間選挙においては、共和党旋風は起きなかったものの、民主党の勝利とはいえず、2024年の大統領選挙向けての劣勢挽回のためにも、バイデン政権は中国に対する融和策を取ったり、大きな失敗はできません。北朝鮮や韓国の撹乱等を真に受けている暇などありません。

6位 2022/11/28

中国「台湾侵攻」の“大嘘”…! 日本で報じられない「米軍トップ」の“意外すぎる発言”の中身と、日本人の“低すぎる防衛意識”…!―【私の論評】少し調べれば、中国が台湾に侵攻するのはかなり難しいことがすぐわかる(゚д゚)!

台湾の東海岸

少し、台湾の地理や軍事力を調べてみれば、中国が台湾に侵攻するのは、やさしいことではないことが良く理解できます。そもそも、破壊力≒軍事力ではないのです。中国にとって、台湾をただ破壊するだけなら、さほど難しいことはないですが、侵攻して占拠するとなると全く別次元の話になります。なんでも、マスコミ報道だけを鵜呑みにしていれば、間違った判断をすることになります。

7位 

2022/01/04
世界「10大リスク」1位は中国の「ゼロコロナ政策」失敗…各国の政情不安定化も―【私の論評】今年最大の地政学的リスクは、中国の対外関係ではなく国内問題(゚д゚)!

今年も、さまざまリスク予想されていましたが、ユーラシア・グループの予測では、今年最大の地政学的リスクは、中国の国内問題であるゼロコロナ政策の失敗とされていました。この予測は、なかなか的中しないようにもみえましたが、年末になってはっきりしました。来年4月あたりには、中国は、やがて米国のGDPを追い抜くとされていたような国とは、程遠い国となっていることでしょう。 

 8位 2022/11/01

この時期に消費増税論 財務省に影響「ザイム真理教」は経済カルトか 国民生活の立て直しが最優先も―【私の論評】7つの嘘で政府・国民・マスコミを欺き続けるカルト集団財務真理教団(゚д゚)!

財務真理教の 塗り固められた嘘は以下の7つに分類することができます。 

①「財政を家計にたとえると」の嘘
②「国の借金」の嘘
③「借金1000兆円」の嘘
④「国債は後世へのつけ回し」の嘘
⑤「消費増税しかない」の嘘
⑥「健全財政が正しい」の嘘
⑦「このままでは財政は破綻する」の嘘

 9 2022/03/07

プーチンとナルイシキン(手前)

 プーチン大統領は、迅速な勝利の約束を果たせなかったこと、ロシアに深刻な損害を与え、その軍隊に恥をかかせた非難に対する弁明もできなくなり、侵攻前にウクライナとの対話を提案していたロシアのセルゲイ・ナルイシキン対外情報局長官が台頭することになるかもしれません。ただ、現状はまだ流動的で誰が、ポストプーチンとなるかはまだはっきり見えません。

 10 

ロシアは「長期的な敗戦」の可能性が高い―【私の論評】最終的にプーチンは失脚か、地位の禅譲のいずれしかなくなる(゚д゚)!

今後数年のスパンで物事を考えれば、最終的にはプーチン氏は失脚するか、そうでなければ、プーチン大統領自身による体制転換ということにならざるを得ないでしょう。そうして体制転換により、誰かに自らの地位を禅譲するしかなくなるでしょう。その際にどの程度まで、院政をできるようにするかが、プーチンの課題となるでしょう。

今年、読まれた記事は、コロナ関連と、ロシアのウクライナ侵攻と、台湾危機などでした。例年ならこのあたりで終わりにするところですが、もう一つおそらく生涯忘れられない出来事がありました。このブログに掲載したうち、最もショッキングだった記事は、やはり以下の記事です。

安倍晋三元首相が死亡 街頭演説中に銃撃―【私の論評】政権の支持率を落としても、安保法制を改正し、憲政史上最長の総理大臣となった安倍晋三氏逝く(゚д゚)!


このようなことが、自分が生きているうちに起こるとは、考えもしませんでした。この事件、風化させるべきではありません。

マスコミの印象操作や、野党の全くくだらないものの執拗な「もりかけ桜」追求などで、間違った考えを持った人も一部いるのでしょうが、安倍元総理の実体はとてつもない人気ものだったのではないでしょうか。そうでなければ、憲政史上最長の総理大臣になるはずがありません。改めて、安倍元総理のご冥福をお祈りさせていただきます。合掌。

本年も当ブログをご購読いただき有難うございます。良いお年をお迎えください。

2022年12月30日金曜日

プーチンが「戦争」を初めて認めた理由―【私の論評】戦争・コロナで弱体化する中露が強く結びつけは、和平は遠のく(゚д゚)!

プーチンが「戦争」を初めて認めた理由

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

ロシア軍へ向けて砲撃を行うウクライナ軍兵士=24日、ウクライナ・バフムート近郊


【まとめ】

・プーチン大統領がウクライナでのロシア軍の侵攻を初めて「戦争」と呼んだ。

・この表現の変更で、停戦を視野に入れる方向に傾いたとの見方も生んでいる。

・バイデン政権は、プーチンが現実を認める次の段階として、軍の撤退及び終戦を求めると表明。


 ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵略を初めて「戦争」と呼んだ。これまでは一貫して「特別軍事作戦」と呼び続けていたのだ。この言葉上の変化にどんな意味があるのだろうか。

 アメリカ側ではさまざまな読み方があるが、バイデン政権は公式には「呼称をどう変えても侵略戦争はあくまで侵略戦争」として、厳しい態度を変えていない。

だがプーチン大統領の表現の変更はウクライナでの戦闘が同大統領にとってこれまでよりも深刻さを増して、停戦を視野に入れる方向に傾いたとの見方も生んでいる

 プーチン大統領は12月22日のモスクワのクレムリンでの記者会見でウクライナでの軍事行動について「われわれの目標はこの軍事衝突を弾みを増す車輪のように回転させることとは正反対に、この戦争を終わらせることだ。そのためにわれわれは努力している」と語った。

 この言明でプーチン大統領がウクライナでのロシア軍の侵攻を公式発言としては初めて「戦争」と呼んだこととなり、幅広い関心を集めた。

 プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を始めた2022年2月24日の冒頭からこの軍事行動を「特別軍事作戦」と呼び、その動きを「北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に対する防衛的行動とウクライナのナチス勢力からロシア民族系住民を解放する努力だ」と宣言してきた。

 プーチン大統領とプーチン政権はウクライナでの自国の軍事行動に対してあくまで特別な作戦だと言明し、ロシア国内でこの「作戦」を「戦争」と呼ぶことをも新たな法律や条令で事実上、禁止してきた。プーチン政権に反対する野党側の国会議員がウクライナ侵攻を「戦争」と呼んで非難したことに対して同政権は逮捕して、懲役刑に処すという厳しい態度さえとってきた。

 プーチン政権としてはロシア国民にウクライナへの軍事侵攻はロシアの国家や国民の全体を巻き込む戦争では決してなく、限界的、一時的な特殊の軍事作戦だと印象を与えるために「戦争」という呼称を禁じてきたとされる。

 だがプーチン大統領自身がその禁句だったはずの「戦争」という言葉を公式の場で使ったのである。

 しかしこの新たな動きに対してアメリカのバイデン政権は冷淡な対応をみせただけだった。アメリカ国務省報道官は次のような声明を発表した。

 「今年2月24日以来、アメリカと全世界の多数の諸国はプーチンの『特別軍事作戦』というのはウクライナに対する一方的で不当な戦争であることをよく知ってきた。その300日も後にプーチンはついにその戦争が戦争であると認めたのだ」


 「アメリカは、プーチンが現実を認める次の段階としてウクライナからロシア軍を撤退させ、この戦争を終わらせることを求める

「プーチンの言葉の選択にかかわらず、ロシアの隣接した主権国家への侵略は多くの死、破壊、混迷を引き起こした」

「ウクライナ国民はプーチンの言葉の上での自明の表明になんの慰めも感じないだろう。プ―チンの戦争のために身内の人間を失った何万ものロシア人の家族たちも同じだろう」

以上のようなアメリカ政府の態度はこれまでも一貫してきた。バイデン政権が共和党側の支持をも得て、プーチン政権のウクライナ侵略を全面的に糾弾し、その中止をロシアに求める一方、ウクライナへの軍事支援を絶やさないという対応を保ってきたのだ。その大前提にはロシアの軍事行動の結果、ウクライナ領内で起きている事態は戦争だとする認識があった。

 だがプーチン大統領はその軍事行動を戦争とは認めず、長い期間、ロシア国内でも「戦争」を禁句とし、徹底抗戦の構えを崩さなかった。ところが侵攻開始から約300日という時点にきて、やっと戦争を戦争だと認めることに踏みきったわけだ。

 そのプーチン大統領の態度の変化についてワシントン・ポストなどの主要メディアはアメリカ側の複数の専門家たちの見解として

(1)プーチン大統領はこれまではウクライナを対等の主権国家とみなさないという前提を保ち、「戦争」という用語を使わなかったが、戦場での苦境を考慮すると、停戦への柔軟な余地を残すことが有益だと判断するようになった。

(2)国際世論のさらなる反ロシア化に対して、ある程度の譲歩を示すことが賢明だと考えるようになった。

(3)ロシア国内での国民に対する軍隊への動員令の拡大の必要性を考えると、ロシア自体がいま戦争状態にあることを明示するほうが現実的だと判断するようになった――ことなどをその理由としてあげていた。

【私の論評】戦争・コロナで弱体化する中露が強く結びつけは、和平は遠のく(゚д゚)!

プーチンは22日、ロシアはウクライナでの戦争の終結を望んでいるとし、全ての武力紛争は外交交渉で終結すると述べました。
プーチン氏は記者団に対し「われわれの目標は軍事衝突を継続することではない。逆に、この戦争を終わらせることを目標としている。この目標に向け努力しており、今後も努力を続ける」とし、「これを終わらせるために努力する。当然、早ければ早いほど望ましい」と語りました。

その上で「これまでに何度も言っているが、敵対行為の激化は不当な損失をもたらす」と指摘。「全ての武力紛争は何らかの外交交渉によって終結する」とし、「遅かれ早かれ、紛争状態にある当事者は交渉の席について合意する。ロシアに敵対する者がこうしたことを早く認識するのが望ましい。ロシアは決して諦めていない」と述べました。

米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官はオンライン形式の記者会見で、プーチン大統領は「交渉の意図があることを全く示していない」と指摘。「全く逆だ。プーチン氏が行っていることは全て、戦争をエスカレートさせる意向を示している」と述べました。

その上で、バイデン米大統領はプーチン大統領との会談を排除していないが、プーチン氏が交渉に真剣な姿勢を示し、ウクライナのほか同盟各国と協議した後のみに実現するとの見方を示しました。

ロシアはこれまでも交渉に応じる姿勢を示し、交渉を拒否しているのはウクライナだと主張。これに対しウクライナや米国などは、ロシアは戦況が思わしくないことから時間稼ぎをしようとしているのではないかと懐疑的な見方を示しています。

ウクライナのゼレンスキー氏は21日に訪米し、ホワイトハウスでバイデン大統領と会談した後、議会で演説。米政府はゼレンスキー氏の訪問にあわせ、ウクライナに対し広域防空用地対空ミサイルシステム「パトリオット」を含む18億5000万ドルの追加軍事支援を行うと発表しました。

プーチン大統領は米国が「パトリオット」供与を決めたことについて、パトリオットは「かなり古いシステム」で、ロシアの地対空ミサイルシステム「S300」のようには機能しないとし、ロシアは対抗できるとの見方を示しました。

また、ロシアの戦費調達能力を制限することを目的とした西側諸国によるロシア産石油の価格上限設定がロシア経済に打撃を与えることはないと強調。その上で、来週初めにロシアの対応を打ち出すための法令に署名すると述べました。

ドイツのシュタインマイヤー大統領は12月20日、中国の習近平国家主席と電話会談を行い、ウクライナ戦争を終結させるためロシアのプーチン大統領に対して影響力を行使するよう要請しました。

シュタンマイヤー独大統領

同会談で、シュタインマイヤー大統領はロシア軍がウクライナから撤退することは中国と欧州の共通の利益と強調したといいます。ドイツのショルツ首相が11月上旬に中国を訪問して習氏と会談した際、習氏はウクライナでの核兵器使用に明確に反対する意思を示しており、今回の電話会談もその延長線上にあり、ドイツとしてプーチン大統領と関係を保つ習氏に要請するという極めて現実的な路線を取ったといえます

仮に、習氏がプーチン大統領を説得し、同大統領をバイデン大統領やゼレンスキー大統領が待つ対話のテーブルに座らせ、ウクライナからロシア軍が撤退し、和平への兆しを主導したならば、習国家主席はノーベル平和賞ものでしょう。しかし、これについては3つのシナリオがあると考えらます。

1つは、社会主義による現代化により中国の強化を目指す習氏としては、対外的影響力を確保・拡大させるために諸外国からの評価、信頼を獲得するというシナリオです。特に、欧米との対立が激しくなるなか、習氏としてはできるだけ多くの欧米諸国と摩擦を最小化しておきたいのです。

そこで、戦争終結や和平で一役を買えば、欧米だけでなく途上国からも一定の信頼、評価を得らえられます。ロシアがウクライナに侵攻することによる中国にはメリットはほぼ皆無です。習がプーチン大統領と遠からず近からずのポジションを維持している背景には、“ウクライナ侵攻を黙認する中国”というイメージが国際社会で浸透することを回避したいという本音があります。

もう1つは、和平どころか、プーチン大統領の説得にも動かず、現在のポジションを維持するというシナリオです。習には、国内経済の勢いが低下し、反ゼロコロナなど反政権的な動向もみられ、米中対立や台湾問題など課題が山積するなか、ウクライナ問題で時間を割かれたくない、首を突っ込みたくないという想いがあると考えられます。

仮に、説得に乗り出したものの、プーチン大統領がそれを拒否すれば、中ロ関係の冷え込みに繋がる可能性すらあります。習氏も侵攻を決断したプーチン大統領を良く思わない部分もあるでしょうが、対米国という文脈でロシアが戦略的共闘パートナーであることは間違いなく、その部分で中ロ関係を悪化させたくないという本音もあるでしょう。

また、説得に失敗すれば、これまで積み上げた中国のイメージ低下に繋がる可能性もあります。欧米やグローバルサウスの中からは、“所詮、中国の国力はこんなものだ”、“3期目となっても習氏の外交交渉力は大したことない”という声が増えてくることも考えられます。米国にとってはむしろ歓迎という考えもあろうが、習氏にはそういった警戒感もあるでしょう。

以上が、中国がゼロコロナ前までのシナリオですが、もう一つのシナリオも見えてきました。

それは、中国がゼロコロナ政策をやめた後の変化によるシナリオです。

プーチンと 習近平は30日、オンライン形式で会談しました。露大統領府によると、プーチン氏は会談の冒頭、習氏に訪露を招請し、来春のモスクワ訪問に向けて準備していることを明らかにしました。ウクライナ侵略後の米欧からの圧力に対し、中露の軍事協力の拡大で対抗する姿勢も強調しました。

30日、モスクワで、中国の習国家主席(左)とオンライン形式で会談するプーチン露大統領

両首脳による会談は、9月15日に中央アジア・ウズベキスタンのサマルカンドで行った対面会談以来です。プーチン氏は習氏の訪露について、「(中露の)強固な関係を世界中に誇示することになる」と述べました。

習氏の訪露が実現すれば、2019年6月に露西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムに出席して以来となります。2月のウクライナ侵略以降、米欧との対立が先鋭化しているプーチンにとって大きな外交成果となります。

習は露側が公開した冒頭のやり取りで、「ロシアとの戦略的な協力を増大する用意がある」と表明しました。訪露には言及しませんでした。

プーチン氏は、中国との軍事協力に関し、中露関係全体で「特別な地位を占めている」と重要性を強調し、「我々はロシアと中国軍の協力強化を目指す」と語りました。ウクライナ侵略が長期化する中、中国軍との緊密な関係を誇示し、ウクライナを支援する米欧をけん制する意図があるとみらます。

プーチン氏と習氏は、中露間の貿易が記録的な水準で伸びていることを互いに指摘し、エネルギー分野を中心に連携を深める方針も確認しました。

今回の両首脳による会談は、露側が再三日程に言及するなど意欲的な姿勢が目立った。先進7か国(G7)と欧州連合(EU)が今月、海上輸送する露産原油の取引価格に上限を設定する追加制裁を発動しており、プーチン氏は年内に中国との緊密な関係を確認しておきたかったものとみられます

習の訪露が実現すれば、習にとってプーチンを説得できる、絶好の機会となります。ただ、来春というと、英医療調査会社エアフィニティーは29日、新型コロナウイルス感染者が急増する中国の死者について「来年4月末までに170万人に達する恐れがある」と警告しています。米ジョンズ・ホプキンス大の集計では、コロナによる世界の死者数は約669万人。同社の推計が正しければ、中国だけで一気に死者数が膨らみそうです。

来年の4月頃には、このブログにも以前掲載したとおり、サマーズ氏が予告したように、中国は国内生産(GDP)で米国を追い越すと言われていた国とは思えないような国になっているでしょう。その頃には、中国の最大の課題はコロナ禍からの回復に絞られているはずです。

プーチンはこのことも理解していると思われます。にもかかわらす、来春に習の訪露を招請するのでしょうか。

コロナで弱りきった中国は、西側諸国のように同盟国は存在せず、しかも現状では西側諸国と対立しており、コロナ復興は自力で行わなければなりません。コロナ前の中国なら、先あげた二番目のシナリオで、和平どころか、プーチン大統領の説得にも動かず、現在のポジションを維持をする公算が高かったと考えられます。

しかし、弱りきった中国なら、ロシアにかなり接近してくる可能性は高まるでしょう。特に、エネルギーや食料に関しては、中国はロシアにかなり頼れそうです。ロシア側とすれば、中国に武器に関しては頼れそうです。両者の利益が合致して、なりふり構わず、両者のパートナーシップは強まり、同盟関係に近くなるかもしれません。

ロシアとしては、ソ連の軍事技術を引き継いでいますから、中国に対してはこれからも、軍事技術を供与しつつ、中国に武器を製造させこれを輸入し、ロシアは中国に対してエネルギーと食料を輸出するということで、互いに密接に助け合うという構図が成立するかもしれません。

習氏に訪露を招請した、プーチンの腹にはこうした思惑があると考えられます。そうであれば、プーチンの「戦争を終わらせる」という発言は単なる時間稼ぎかもしれません。

中露関係が、パートナーシップから同盟関係に近いものになれば、ロシアはウクライナでの戦争をこれからも、安定して続けられるかもしれません。そうなれば、和平は遠のくでしょう。

西側諸国は、こうしたことを防ぐために、中露に何らかの形で楔を打ち込む必要がでてくるかもしれません。

皆様、今年も当ブログをご訪問していただき誠に有りがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。明日は、ブログを書くことができるかわからないので、念のためのご挨拶です。


プーチン大統領に〝逃げ場なし〟ウクライナの最新ドローンがモスクワを急襲も 「ロシア側は対抗できない」元陸上自衛隊・渡部悦和氏―【私の論評】ウクライナが、今回の攻撃を実施してもほとんどの国が反対しない理由とは(゚д゚)!

米国、中国も「道連れ」制裁か プーチン大統領を擁護、デフォルト迫るロシア救済…第三国の〝抜け穴〟許さない! 「二次的制裁」という伝家の宝刀も―【私の論評】中国を停戦協定に介入させれば、「蟻の一穴」の諺通り、世界はとてつもない惨禍に見舞われかねない(゚д゚)!

2022年12月29日木曜日

「増税前解散」岸田首相が初言及 求心力回復へ引き締めか―【私の論評】岸田総理は冒頭解散で最初に失敗した総理になるかもしれない(゚д゚)!

「増税前解散」岸田首相が初言及 求心力回復へ引き締めか

首相官邸に入る岸田文雄首相=2022年12月28日午前8時47分

 岸田文雄首相が衆院解散・総選挙について、防衛費増額のための増税前に踏み切ると初めて言及した。増税は早ければ2024年とされており、解散時期は同年9月の首相の自民党総裁任期切れに伴う再選戦略とも密接に絡む。この時期の首相発言について自民党内では、「常在戦場」への覚悟を示すことで、陰りの見える求心力を回復させたいとの意図を読み取る向きもある。

 防衛増税までに次期衆院選 年始の内閣改造は否定―岸田首相

 「国民に負担をお願いするスタートの時期までには選挙はあると思う」。首相は27日夜のBS番組でこう語った。

 増税について、政府は23日に閣議決定した税制改正大綱で「24年以降の適切な時期」と幅を持たせた。衆院議員の任期満了は25年10月だが、同年夏には参院選もあるため、首相発言を「増税の是非について解散・総選挙で国民の信を問う」と解釈すれば、参院選より前、24年までの解散を念頭に置いている可能性が高い。参院選イヤーの衆院解散は公明党の反対などを踏まえ、避けてきた経緯があるためだ。

 同年9月には首相の党総裁任期も切れる。総裁選前に衆院を解散して自民党を勝利に導き、無投票再選を狙う―というのは、常にささやかれる戦略パターンの一つと言える。

 発言について、首相に近い閣僚経験者は「党内の引き締め、野党のけん制、増税をする考えを貫くという国民への宣言だ」と解説。自民党中堅も「いつでも解散できることをアピールし、党内の緊張感を高める狙いだろう」との見方を示した。

 首相発言の呼び水となったのは、党内最大派閥で増税反対派の牙城である安倍派幹部の萩生田光一政調会長だ。萩生田氏は25日の民放番組で、増税について「明確な方向性が出た時は国民に判断してもらう必要も当然ある」と表明。新たな負担を強いる以上、国民に信を問うべきだというのは正論で、首相も否定できなかった可能性がある。

 萩生田氏は首相が信頼を置く党幹部だが、生前、防衛費増額の財源に赤字国債発行を唱えた安倍晋三元首相の腹心だったとあって、増税への立場は首相と異なる。首相の専権事項とされる解散権に踏み込んだ萩生田氏の発言に、別の党幹部が「あんなことを言わせていいのか」と首相に詰め寄る場面もあったという。

 首相自ら解散時期に言及する異例の事態を受け、周辺は28日、火消しに追われた。側近の木原誠二官房副長官は民放番組で「重大な決定をする時に、手前で国民に判断いただくことも、結果について判断いただくことも両方あり得る」と強調。政府高官も「税が上がる前に選挙があることも、可能性としてあり得ると言っただけだ」と沈静化を図った。

【私の論評】岸田総理は冒頭解散で最初に失敗した総理になるかもしれない(゚д゚)!

岸田文雄首相が来年1月に衆院解散・総選挙に踏み切るとの臆測がくすぶっています。閣僚の辞任ドミノで苦境に立つ首相が反転のため「伝家の宝刀」に賭けるというものです。政権内の多くは否定的だが完全に消えず、野党も警戒を強め始めました。

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を受けた被害者救済新法は成立しましたが、野党には未だ問題視するむきもあります。高齢者の負担増となる医療・介護保険見直しも決まりました。これにさらに、増税が絡む防衛費増額という課題もあります。これによって、政権が一段と弱体化する可能性もあります。実際、支持率は低下しています。

来年1月には通常国会が召集されます。2023年度予算案の審議などを通じて野党の攻勢にさらされるため、その前に岸田政権としては、立て直しが必要になります。

自民党内には内閣改造で局面転換を図るべきだとの意見もありましたが、改造は今年8月に実施したばかりで、新たに入る閣僚に問題が生じる危険を伴います。解散すれば勝てば「みそぎ」になりますが。改造ではそうはなりません。

そうして、岸田首相の解散をするというのなら、はやめにやるという判断は正しいです。政治家なら、誰でもそう思うでしょう。安倍元総理も、昨日も述べたように、総理大臣のときに冒頭解散をしています。

冒頭解散とは、首相が召集した国会の初日(冒頭)に衆議院を解散する状況です。それで何も審議せずに、国会は閉会になります。やるなら、来年始まる通常国会で冒頭解散すべきです。

ただし、総選挙では、自民党の公約には、「防衛増税」しないことを掲げるべきです。防衛増税しなくても、当面は財源は十分あることは、すでにこのブログにも掲載しましたし、多くの人の知るところです。

それに、安倍元総理が語っていたように、長期国債で賄っても将来世代へつけになることなどなく、全く問題ないことも、多くの人が知っています。

積極財政議連の設立総会のバナー

積極財政議連の城内実氏が語っていましたが、自民党の中でもマクロ経済について理解している議員が45%、理解していない議員というか、はっきりとした財政推進派、すなわち増税推進派が15%くらいと語っていたことがあます。

両方足しても、60%ですから、残りの40%はどっちつかずで、マクロ経済は理解していないのでしょうが、現状で積極財政をすべきなのか、増税すべきなのか、判断能力がないどっちつかずの議員ということなのでしょう。

それでも、現状では積極財政をすべきと考えている議員が、45%も存在するということです。であれば、まずは岸田総理が冒頭解散して、公約づくりのときに、積極財政派議員が岸田首相を説得して、「増税以外の方法で、防衛費増を賄う」ように方針転換させるべきでしょう。

増税を公約に選挙をすれば、かなり不利になることを説得すべきでしょう。

野党は、そもそも岸田総理は、当初当面は増税しないといっていたにもかかわらず、唐突に防衛増税すると言い出したことを徹底的に責め立てるでしょう。さらに、大臣四人もが辞任したことも責め立てるでしょう。

岸田総理は、大臣が辞めるたびに「任命責任は自分にある」と語っていました。その他、攻めどころは多数あります。


しかし、なんといっても「増税」は不利です。これで、選挙ということになれば、野党の不甲斐なさもあいまって、自民党が負けて下野するということにはなりませんが、かなり議席数を減らすことになるでしょう。

さらに、選挙後には支持率はかなり下がるでしょう。起死回生のために行う、解散総選挙が、岸田政権の寿命を縮めることになります。この場合、政権は最長で、広島サミット(来年5月19日から21日まで)までということになるでしょう。

「増税をしない」という公約にすれば、あまり議席数を減らさないか、議席数をほとんど減らさないですむという可能性は十分にあります。そうなれば、岸田政権は支持率はあがるでしょう。

過去に冒頭解散は4回ありましたが、いずれの場合も与党に有利になっています。


岸田総理は、この過去の冒頭解散に新たな歴史の一ページを付け加えることになるかもしれません。冒頭解散をして、「増税」という公約を掲げて、大敗し、冒頭解散ではじめて失敗した総理大臣ということになるかもしれません。

やはり「増税」はとりやめて、過去の四人の総理大臣のように、成功すべきです。

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順序が逆…増税決定後に解散選挙 ネット上で批判噴出、自民党内からも「拙速だ」の声 岸田首相、具体的時期触れず―【私の論評】新年の冒頭「増税見送り」解散で、岸田政権は長期政権になるか(゚д゚)!

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2022年12月28日水曜日

順序が逆…増税決定後に解散選挙 ネット上で批判噴出、自民党内からも「拙速だ」の声 岸田首相、具体的時期触れず―【私の論評】新年の冒頭「増税見送り」解散で、岸田政権は長期政権になるか(゚д゚)!

順序が逆…増税決定後に解散選挙 ネット上で批判噴出、自民党内からも「拙速だ」の声 岸田首相、具体的時期触れず


 岸田文雄首相は27日のBS―TBS番組「報道1930」で、防衛費増額に伴う「増税」を開始する前に衆院解散・総選挙に踏み切るとの見通しを示した。増税は2024~27年の適切な時期に始まるとしたうえで、「スタートの時期はこれから決めるが、それまでには選挙がある」と述べた。増税を決定した後で「国民の信を問う」やり方に、ネット上などで批判が噴出している。

 《増税を決める前にやれよ! 参院選の時には、何も言ってなかったろ》《勝っても負けても増税するという意味らしい》《これほど増税増税言った政権は未だかつて無かった》

 産経ニュースが27日夜に伝えた「岸田首相、防衛増税前に『総選挙あると思う』」との記事には、ツイッターでこうした批判が寄せられていた。

 いわゆる「岸田増税」の対象は、法人、所得、たばこの3つの税。増税分は防衛費増額の財源の一部となる。27年度時点で1兆円強を見込む。

 日本を取り巻く安全保障環境が悪化するなか、岸田首相は5月の日米首脳会談で「防衛力の抜本的強化」をジョー・バイデン大統領に約束した。

 ところが、7月の参院選で、財源や増税の是非が問われることはなかった。岸田首相は今月8日、与党税制調査会に「増税」の検討を指示し、1週間あまりでの結論を求めた。自民党内からも「拙速だ」などと批判が噴出していた。

【私の論評】新年の冒頭「増税見送り」解散で、岸田政権は長期政権になるか(゚д゚)!

増税を決めた後で、解散総選挙すれば、選挙で勝つことはできず、大敗して岸田総理は、その責任をとる形で辞任せざるをえなくなるでしょう。最長で、来年の広島サミットが終わったあたりで辞任ということなります。

これは、上の記事にもある通り、順番が逆です。一番良いのは、新年の国会の冒頭で、増税しない旨を公表して解散をし2月に総選挙をするというのがベストでしょう。

こうすれば、選挙が勝利し、岸田政権はさらに継続されることになるでしょう。それについては、高橋洋一氏が下の動画で述べています。


私自身は、岸田総理が、増税の決意を翻意しないという前提で、新年の国会前に、安倍派の閣僚が、「増税反対」の意思を表明しつつ、辞任する案を考えていました。これは無論、絶対に「増税」させないことを前提としています。

これは、かなりインパクトがあり、新年の国会が開催される前の、政府より防衛増税財源法案などが提出される前にこれを実行すれば、新年の国会は、財源法案の審議など吹き飛び、審議どころでなくなり、岸田総理は、増税を決める前に、解散総選挙に追い込まれることになります。

こうなると、選挙には大敗し、岸田総理は、その責任をとってやめることになります。そうして、総裁選が行われることになりますが、その有力候補は、茂木、河野、林ということになり、これでは残念ながら、岸田政権以下になりそうです。三人のうち誰が総理になっても、求心力は低下するでしょうし、支持率も上がることはないでしょう。

であれば、岸田総理が「増税」しないと宣言して、冒頭解散に踏み切れば、自民党にとっても、岸田総理にとっても最も良いやり方ではないかと思います。

冒頭解散とは、首相が召集した国会の初日(冒頭)に衆議院を解散する状況です。

1月に必ず開かれる通常国会や、それ以外の期間で召集された臨時国会では通常、冒頭で首相が施政方針演説(通常国会)や所信表明演説(臨時国会)を本会議で行います。

後に主に通常国会では重要閣僚(国務大臣)の演説があり、引き続き国会内の議員団体である会派(所属政党と必ずしも一致しない)代表による質問が行われ、舞台は委員会へと移ります。 

冒頭解散は首相の演説さえなされず、衆議院議長が召集および開会を宣言した後に解散詔書を読み上げるといった段取りになります。 

解散詔書とは閣議(首相と国務大臣の会議)で首相が解散への同意をはかり、全員が署名した閣議書を作成、皇居に運ばれて天皇陛下がサインと押印をしたもの。「詔書」とは「天皇の文書」です。慣例にしたがって紫色の袱紗(絹製の布)にくるまれて衆議院議長の下に運ばれ、議長が宣言したら解散です。厳密にいえばもう少し複雑ですが、省略します。

 では日本国憲法下で、これまでに回あった「冒頭解散」を振り返ってみます。

冒頭解散は、一番最近のものは、2017年安倍政権において行われました。同年9月28日に召集された臨時国会は、安倍晋三首相の所信表明演説や各党代表質問などを行うことなく冒頭で衆院解散となりました。これは、21年ぶりことでした。解散の理由は、当時森友問題という未だに何が問題なのかも理解できない疑惑なるものがあり、安倍政権の信を問うという意味合いでした。結局このときの解散選挙でも自民党は勝利しました。

未だに、野党は「もり・かけ・さくら」にこだわっている向きもありますが、現在に至るまで、明確に安倍総理の不正行為を証明できていません。

冒頭解散をしたため、「残業代ゼロ」カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)整備推進法の施行を踏まえ提出したギャンブル依存症対策法案なども廃案になりました。

これ以前に行われたのは三回でした。それを振り返っておきます。

(1)1966年「黒い霧解散」

1966(昭和41)年4月ごろから東京地検特捜部のメスが入った大がかりな不正融資事件の捜査過程で、自民党所属の国会議員が逮捕されたあたりから露わになってきた「政治とカネ」問題に加えて、大臣が自身の選挙区に急行が停まるよう要請した「我田引鉄」や横領疑惑などの不祥事が連発しました。

1967年、1月29日の衆院選で、勝利した佐藤栄作首相

第1次佐藤栄作第3次改造内閣が成立した12月3日から始まった臨時国会(20日閉幕)は紛糾し、事態打開を図るため27日召集の通常国会(当時は12月召集でした)冒頭に解散しました。

(2)1986年「死んだふり解散」

第2次中曽根康弘第2次改造改造内閣(1985年12月成立)が打って出た「衆参ダブル選挙」です。1983(昭和58)年の総選挙で自民党が公認候補で過半数割れしたのを解散で挽回したい思惑が首相にあるというのは誰もが察知していました。通常国会中に首相は解散風を吹かせたかと思えば、「考えていない」と発言するなど観測気球を上げ続けます。


総選挙の争点の一つとみられていたのが、現在の消費税の源流にあたる大型間接税導入でした。首相は微妙な言い回しで、やる気があるようなないような発言を繰り返し、選挙中は導入しないと断言。「この顔が嘘をつく顔に見えますか」とまで言い放ちました。結果は自民の歴史的圧勝。ところが選挙後に間接税の一種である「売上税」を導入すると豹変して87年の通常国会に法案を提出します。 

中曽根氏のあだ名は「風見鶏」。この解散にせよ間接税導入にせよ本領が存分に発揮されたといえましょう。

(3)1996年「小選挙区解散」

1993(平成5)年の総選挙で自民党が過半数割れ。長らく野党第一党の座に君臨した日本社会党(社会党)も大幅に議席を減らす中、この頃生まれた新党が躍進しました。新生党(創設は93年)、日本新党(同92年)、新党さきがけ(同93年)など。新生党を事実上率いていた小沢一郎衆院議員が、持ち前の豪腕で非自民勢力をまとめ上げ日本新党代表の細川護煕(もりひろ)衆院議員を担いだ非自民連立内閣成立を果たし、自民党を野へ追い落としました。この内閣の下で、衆議院の選挙区がこれまでの中選挙区制から小選挙区比例代表並立制へ変更されます。

巻き返したい自民は94年、非自民勢力から離れた社会党と、あっと驚く連立構想へ動き出します。同じく新党さきがけも加え、社会党トップの村山富市衆院議員を首班とする「自社さ連立内閣」をつくり、政権を奪い返しました。自民と社会は1955年以来の宿敵。そこと組んだばかりか首相の座まで用意した執念の奪還劇だったのです。 

ただ村山政権は崩壊過程にあった社会党を基盤としていて弱体でした。解散も打たないまま退陣して橋本龍太郎自民党総裁が96年1月に跡を襲いました。 

この頃、非自民勢力も集合離散を繰り返しており、小沢氏が実質的に仕切る新進党(創設は94年)と、社民党(社会党から党名変更)やさきがけの多くを糾合した96年結党の民主党などに収れんされていきます。93年の敗北から名実ともに立ち直るべく、第1次橋本内閣が96年9月27日の通常国会冒頭で解散、小選挙区比例代表並立制下で初めての総選挙で勝負に出ました。自民は議席を伸ばし第2次橋本内閣が成立します。

開票速報を見守る橋本竜太郎首相(左)と野中広務幹事長代理(1996年10月20日、自民党本部で)

さて、今回冒頭解散を行えば、しかも「増税しない」解散を打てば、岸田政権にとっては起死回生のチャンスとなるのは間違いないです。

そうして、この選挙が終れば、もともと黄金の三年間といわれていたように、選挙はありません。岸田首相は、次の総裁選で勝てる見込みもでてきます。

増税にこだわり続けて、地獄をみるのか、増税などすっぱりやめて、長期政権を狙うのか、岸田総理の決断がそれを決定します。

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2022年12月27日火曜日

騙されてはいけない、トランプは「これまで同様に強力」と有力世論調査員―【私の論評】日米のリベラルメディアの情報だけだと、日米の半分しかみえない(゚д゚)!

騙されてはいけない、トランプは「これまで同様に強力」と有力世論調査員

投稿日:2022年12月27日

トランプ大統領(現職当時)

<引用元:ワシントン・エグザミナー 2022.12.22>ポール・ベダード氏によるワシントン・シークレット論説
本コラムや他の場所で、ドナルド・トランプ前大統領に挑むロン・デサンティス知事などの浮上を大々的に宣伝する世論調査をご覧になっただろう。だが共和党では今のところ、2024年共和党大統領予備選挙への出馬を発表したのはトランプのみだ。

それらは、前大統領が多くの局面でやり玉に上げられながらも、倒れずにやり返している中で出た。

トランプと強いつながりを持つ2人の米国共和党トップ世論調査員は今、トランプが予備選挙に勝ってジョー・バイデン大統領を打ち負かすのに、引き続き「これまで同様に強力」なままである理由を説明している。

マクラフリン・アンド・アソシエイツを運営するジョン・マクラフリンとジム・マクラフリンは最近、前大統領がデサンティスに対して48パーセント対23パーセントで優位に立つことを示す世論調査を発表した。先月の選挙の時と同様の人気であり、バイデンには48パーセント対45パーセントでリードしている。

本コラムにおいて、世論調査のことは多く取り上げており、デサンティスの浮上について特に先月の知事再選の大勝後に多く強調してきた。最初の党員集会や予備選挙までまだ1年以上ある中、それらはみな、候補者が有権者の間でどのような状況であるかを提示しているが、決定的な言葉として受け取るべきではない。

マクラフリン世論調査について異なる点は、使用するサンプルについてもっと厳しいということだ。全く投票したことのない人を多く含む比較的大きなターゲットではなく、投票する可能性が最も高い人々にサンプルを絞ろうとしているのだ。

マクラフリンは、多くのメディアの世論調査における反トランプ偏向を避けようとしている。そして最後に、より最近の選挙の民主党・共和党比を再現している。

それは結果に違いを生じさせることがあると、マクラフリンは述べた。

「まず世論調査と発信元の品質に目を向けなければなりません。発表された世論調査のほとんどはリベラルの、反トランプメディアからのものであり、彼らはトランプへの投票者や献金者を抑え込むための偏向した調査を作り出すために、態度を急変させます。偏向メディアの世論調査の多くは投票しない人々で薄められており、選挙様相調査で行うような、実際に投票する人々を反映しません。また反トランプ的な質問をしてサンプルに偏見を抱かせます」とジョン・マクラフリンは述べた。

2016年と2020年の両方でも明らかだったように、世論調査はトランプの支持を少なく見積もることが多く、民主党を推進する。「有権者が2016年の『ヒラリー・ロック』」や2020年の『バイデン・ブルー・ウェイブ』の事を有権者が忘れたと彼らは思っているのでしょうか?」と2人はブログ投稿で問いかけた

「我々にとってはデジャヴの繰り返しです。2016年と2020年で学んだかもしれないことを別にして」と彼らは述べた。

Newsmaxのブログ投稿でも、次のようにいくつかのサンプル基準についてこの説明をしている。
「またもメディアがトランプ前大統領の支持者と献金者を落胆させ、抑え込むために世論調査を利用しています。なぜか?それは共和党エスタブリッシュメント、ワシントンD.C.エスタブリッシュメント、そしてメディアエスタブリッシュメントが、トランプを再び大統領にさせたくないからであるのは非常に明白です」

「サンプルを希釈したり、サンプルの25パーセントまで共和党を少なくしたり(2020年出口調査は共和党が36パーセントでした)、投票について質問する前に反トランプ的な主要な質問をしたりするこうしたメディアの世論調査と異なり、我々の調査は全体的にトランプ前大統領にとって朗報でした」
ジョン・マクラフリンは本コラムにこう付け加えた。「バイデン大統領と議会のリベラル派によるトランプに対する継続的な攻撃は、トランプの保守派支持基盤を活性化させています。結論として―トランプは依然として勝てる共和党候補であり、実際の代議員選挙への投票は1年以上先のことです」

彼らの最新調査では、トランプが依然として対立候補として有力であるだけでなく、先月の選挙以来、デサンティスへの支持が全米で4ポイント低下する一方で、トランプの支持が1ポイント上昇している。

他に追随を許していない。マイク・ペンス前副大統領は5パーセントと一桁に留まっており、最新調査では3位だ。

【私の論評】日米のリベラルメディアの情報だけだと、日米の半分しかみえない(゚д゚)!

上の記事をうらずけるような出来事もあります。米ドナルド・トランプ前大統領は、自身をモチーフにした公式NFT(非代替性トークン)デジタルトレーディングカード「CollectTrumpCards」を発売しました。

カードの価格は、「1枚たったの99ドル(約1万4千円)!」と宣伝していました。トランプ氏とゴルフができる権利などが当たる抽選付きで、45枚購入すれば同氏との夕食会に加われるそうです。

CollectTrumpCardsは15日にリリースされ、投機的な買いも集めてわずか数時間で完売しました。トランプ人気が衰えていれば、これだけ売れるはずもないと思います。

詳細は、以下の記事をご覧になってください。


イーロン・マスク氏

ご存知のように、米国ではイーロン・マスク氏がツイッターファイルとして、ツイッターが政府や官僚、メディアと連携して、トランプの不利になるような情報操作を行っていた証拠を次々暴露しました。ネット界隈では以前から言われていたことなので、今更驚くことではありませが、実際の証拠としてデータが開示されたのは重要なことです。それまで、関係者は、知らぬ存ぜぬで、事実を否定、隠蔽していました。

http://totalnewsjp.com/2022/12/11/musk-180/

この事実は、年明けから下院は共和党が握っている議会が動き出して、バイデン親子はもちろん、ペロシやヒラリーも糾弾され、2020選挙の不正が暴かれることにもなるかもしれません。

そうなると、2024の大統領選挙はトランプが返り咲く可能性も十分にあります。その場合、長年、世界統一政府を目指してたグローバリスト、民主党が、またトランプに足を引っ張られることになって、なりふり構わず動き出すかもしれません。

今後米国がどのような事になるのか、わかりませんが、このまま民主党が不正を働き続けると、ほんとに米国は腐り果てて、自由も民主主義も失われ、完全に崩壊し、それは現在の世界秩序の終焉になるかもしれません。

ただし、隠蔽されてた悪事が暴露されたということは、そう言った隠蔽工作が、できなくなるので、エスタブリッシュメント(米国支配層)にとっては動きづらくなるでしょう。

2022年12月15日15時(米国時間)にトランプ氏は、重大な発表をしました。先にあげたトレカの発売も発表しましたが、それと同時に重大な発表もしています。

トランプ氏は、「今日、私は左翼の検閲体制を打ち砕き、全ての米国人のために言論の自由の権利を取り戻す計画を発表する」と宣言し、「堕落した報道機関の邪悪な集団が、米国民を操り黙らせるために共謀していたことが、衝撃的な報道で確認されている。彼らは選挙から公衆衛生に至るまで、あらゆる重要な情報を抑圧するために協力してきた。検閲カルテルは解体され、破壊されなければならない」と述べています。

これはイーロン・マスク氏がTwitter社を買収し、2020年当時の大統領選挙で何が起きていたか、Twitter社の経営陣がトランプ氏の自由な発言の場をTwitterのプラットフォームから締め出した犯罪的行為の証拠の数々を、先にもあげたように、マスク氏が最近公にした事実を指していると思われます。

そしてトランプ氏は、次の大統領選挙で勝利した時には、「私の就任後数時間以内に、私は大統領令に署名し、連邦省庁がいかなる組織、企業、個人と共謀して、米国市民の合法的な言論を検閲、制限、分類、または妨害することを禁止する。そして私は、国内の言論に誤報や偽情報のレッテルを貼るために連邦政府の資金が使われることを禁止する。そして、国内検閲に直接的、間接的に関与した連邦官僚を、国土安全保障省、保健福祉省、FBI(連邦捜査局)、司法省、誰であろうと特定し、解雇するプロセスを開始する」と宣言しています。

さらに、「私は司法省に対し、絶対的に破壊的で恐ろしい新しいオンライン検閲体制に関わる全ての関係者を調査し、特定されたあらゆる犯罪を積極的に起訴するよう命じる」と述べ、「これには、連邦市民権法、選挙資金法、連邦選挙法、証券法、反トラスト法、ハッチ法、その他多くの潜在的な刑事、民事、規制、憲法違反の可能性がある」と指摘しています。

他にも多く語っていますが、こういうトランプ氏の発言内容を見ますと、米国は2020年の大統領選挙において、完全に言論の自由を失っていた可能性があるということであり、検閲活動、情報統制によって、全体主義国家と変わらない不公平さと差別性によって、誤報や偽情報の方がまかりとおる犯罪的な国家に陥っていたかもしれないのです。

言論の自由を失えば、もはや、健全な民主主義国家は成立しません。そのような意味で、現在、米国は民主主義国家とは言えない状態であり、専制的、統制的、抑圧的な全体主義の国家に近づいている可能性があるのです。

言論の自由を取り戻そうとするトランプ氏の真摯(しんし)な挑戦は、真の民主主義を打ち立てるための戦いであると言えますし、米国には今なお、それを信じている国民も多いのです。

このブログでは、以前から主張しているように、米国のメデイアのうち、大手新聞はすべてリベラル系であり、大手テレビ局は、FOXTVを除くすべてがリベラル系です。リベラル系メデイアがトランプ氏を悪く言うのは当然のことです。

メディア・バイアス・チャート クリックすると拡大します

大手メデイアがリベラル系であるということは、無論世論はリベラル系の価値観でかたちづくられることになります。この価値観は米国では、社会のありとあらゆるところで、幅を効かせ、職場や学校、地域社会でも当然のこととされ、この価値観に反する保守派は、変わり者か、物の道理をわきまえない人とみられてしまいます。

そのような社会において生まれた、GAFAやtwitterもリベラル系の価値観を有するようになったのは、無理からぬところもあると思います。ただし、twitterが、トランプの不利になるような情報操作を行うようなことは、許されることではありません。しかし、現実にはそれが行われていたのです。GAFAにもその疑いがあることは、否定できません。

そうなると、保守派は心の中で思っていることを公言できず、口を閉ざしてしまいます。世論調査などでも、自分の考えを正直には出さないようになってしまうでしょう。そのため、世論調査ではこのようなバイアスを取り除かなければあまり意味がなくなってしまうのです。しかし、米国の少なくとも半分は保守派であり、だからこそ、トランプ氏をはじめ共和党の大統領も誕生しています。

しかし、日本のメディアはこうした米国リベラル系メデイアの報道をほとんどそのまま日本国内で垂れ流しているだけです。こうした報道だけを見聞きするということは、日本でいえば、産経新聞は一切読まず、朝日・毎日・読売のようなリベラル系新聞の情報だけを読んで、日本を判断しているようなものです。日本でもリベラルメディアだけの情報を見ているのは、日本の一部だけをみているようなものであり、偏るのは当然です。

そのような姿勢では、米国の人口のおそらく半分は存在する保守系は無視するということになります。それでは、米国の半分しかみていないことになります。

日米ともにリベラルメディアだけをみていれば、日米の半分しかわからない

どんな人物にだって、毀誉褒貶があります。トランプ氏にだって、良いところと悪いところがあるのは当たり前です。しかし、米主要メディアと日本主要メデイアだけをみていると、トランプ氏の良いところはみえてきません。

その状態だと米国の真の姿は見えてきません。時には、米国の保守メディアの情報も見聞きして、正しい姿をみるべきと思います。

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2022年12月26日月曜日

岸田首相の失策で、アベノミクスは潰えた…ついに「失われた20年」が再来する予感―【私の論評】増税危機はかなり切迫!財源確保法案が来年国会に出されることが決まれば、その時点で試合終了(゚д゚)!

岸田首相の失策で、アベノミクスは潰えた…ついに「失われた20年」が再来する予感
髙橋 洋一 

萩生田氏はまだ粘っているが…

 先週の本コラムで、防衛増税はほぼ決まりかけており、一縷の望みは、財源確保にかかわる法案の扱いだと述べた。その法案について、政府(岸田政権・財務省)は次期通常国会に提出予定としている。

現物はこちらからご覧になれます

 実施時期は確定しないが、この法案に増税措置が盛り込まれるはずだ。次期通常国会の提出が決まれば、防衛増税は確定する。

 ただし、萩生田政調会長はまだ頑張っている。12月25日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」に出演し、防衛増税について「明確な方向性が出た時には、国民に判断してもらう必要も当然ある」と述べ、衆院の解散総選挙で信を問うべきだとの姿勢を示した。

 5年後に1兆円超を増税でまかなう方針について、「必ずしも1兆円でなくてもいいわけだから、しっかり見れば、まだまだ使える金はあるのではないかと思うので、来年、深掘りしていく」と述べ、具体的には「歳出改革の努力、あるいは特別会計など」を挙げた。

 この防衛増税は、アベノミクスの方向を大きく転換させることになる。安倍・菅政権では、民主党政権で決めた消費増税以外は、極力増税を回避してきた。本コラムにも書いたが、新型コロナ対策の100兆円予算も、政府・日銀の連合軍(安倍首相の言葉)により、増税せずに行った。

 ここで、アベノミクス10年を振り返っておこう。

 アベノミクスの最大の成果は、雇用の確保だった。筆者は安倍元首相と話す機会が多かったが、マクロ経済政策について、最低ラインは雇用の確保、その上に所得が高ければいいといつも説明した。そのために、財政政策と金融政策を使って、GDPギャップを解消しインフレを加速しない失業率(NAIRU)を目指すというシンプルなものだ。そうしたマクロ経済を表する筆者の基準もシンプルで、雇用の確保が出来れば60点、その上に所得の向上があれば40点を追加して100点満点とするものだ。

 アベノミクスでいろいろなことを言う人がおり落第点という人も少なくないが、その評価基準について筆者にはさっぱり分からない。筆者は大学教授をしているが、学生の評価について、100満点でつける。その評価基準はどこの大学でも同じで予めシラバスで公開しているが、筆者の場合、授業点(出席点)が50点、定期試験が40点、レポート提出点が10点としている。この基準では、万が一定期試験が0点であっても、まじめに出席し正しいレポートを提出していれば、60点を取ることができ、及第(60点)となる。
 
 アベノミクスの方向性が大転換

 さて、アベノミクスを採点すると、安倍政権での雇用は歴代政権で最高である。雇用は失業率低下と就業者数で測れるが、安倍政権は400万人以上の就業者数増、1.3%の失業率低下だった。こうした点から見れば、雇用は60点満点だ。


 所得の観点ではどうか。所得は実質GDP成長率で計るが、同時にインフレ率(名目GDPと実質GDPの比であるGDPデフレータ)をみておく。安倍政権は、実質GDPは0.4%、インフレ率は0.7%であり、高度成長期の歴代政権と比べると見劣りがする。戦後GDP統計のある鳩山政権以降の31政権において、安倍政権の実質GDP成長率は25位、インフレ率は2%から乖離でみると7位。


 いずれにしても、戦後政権での安倍政権のGDPパフォーマンスはほぼ中位であるので、40点満点中20点である。

 したがって、安倍政権の評価をすれば、雇用60点、GDP20点で、計80点だ。

 なお、日本がデフレに陥った1995年以降の13政権の中では、安倍政権は実質GDP成長率で8番目、インフレ率では1位(安倍政権以外はすべてマイナス)だ。安倍政権は、デフレ経済にあって唯一デフレ脱却しかけた政権だった。

 これが、数字から見たアベノミクスの評価である。

 冒頭の防衛増税で、アベノミクスの方向性が違ってきた。防衛増税については、たかだか1兆円なので、防衛国債の範囲を拡大することか埋蔵金(外為特会や債務償還費を活用)でどう考えても回避できる。財務官僚がどうして増税したいとしか考えられない。

 これで、思い出すのが、東日本大震災後の「ホップ、ステップ、ジャンプ」論だ。復興増税をホップとして、ステップ、ジャンプで二段階の消費増税を行う財務省の構想だった。実は、それを2011年6月20日の本コラムで暴露した。実際にはそのとおりになった。

日銀が現した馬脚

 今回も、防衛増税はホップであり、ステップ、ジャンプで2段階消費増税を財務省は狙っている。そして、消費税率は15%になるだろう。そのためには、ともかく「増税」したのだ。

 他方、金融政策でもアベノミクスの真逆の政策が実施されようとしている。

 日銀は、20日容認する長期金利の上限と下限を0.25%から0.5%程度まで拡大した。会見で、黒田総裁は、事実上の利上げだとの指摘に対し、利上げではないと強調した。また、金融緩和は維持しているとし、景気にプラスとした。

 市場の反応は、長期金利が0.2%程度上昇し、為替は5円程度円高になり、株価は800円程度下落した。黒田総裁は利上げでないと言ったが、市場の反応は長期金利の急騰だった。黒田総裁は9月26日の会見で、長期金利の上限引き上げは利上げに当たるのかとの質問に「それはなると思う。明らかに金融緩和の効果を阻害するので考えていない」と明言していたので、そのとおりだった。

 その結果、急な円高になったが、黒田総裁は急な為替変動は好ましくないといっていたが、今回の円高は急な為替変動だ。

 日銀事務方の説明は、イールドカーブの歪みの是正だ。

 しかし、イールドカーブを是正して「金融緩和」するなら残存8~9年の国債を買えばいいだけだ。日銀はこのあまりに稚拙な説明資料により、実際は「利上げ」したかった馬脚が現れた。いくら黒田総裁が利上げでないといっても、変動住宅ローン金利は既に上がっており、借入者の金利支払いはもうすぐなのでそろそろ誰の目にも分かるだろう。

 また、10月24日付けの本コラムで書いたように、円安は日本経済全体のGDP押し上げ要因だったが、円高になったので、株価が急落したのは当然だ。

 円安で企業の経常利益は過去最高となっており、円高が景気悪化につながるだろう。生産拠点の国内回帰の動きにも冷や水を浴びせかねない。

 今後、住宅ローンの金利も上昇し、企業が融資を受ける条件も厳しくなるだろう。一方で、銀行など金融機関の経営には恩恵が大きい。今回の事実上の利上げは、雇用、GDPなどマクロ経済よりも金融機関を優遇した政策だといえる。

 いずれにしても、市場から見れば、黒田総裁は従来の発言を翻した。しかし、これだけの政策方向の転換について、黒田総裁だけの独断とも考えにくい。岸田首相の了解があったと考えるのが自然だ。

 いよいよアベノミクスから大きく舵が切られた。筆者の予感は、再びデフレ、失われた20年の再来だ。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】増税危機はかなり切迫!財源確保法案が来年国会に出されることが決まれば、その時点で試合終了(゚д゚)!

日銀は、20日容認する長期金利の上限と下限を0.25%から0.5%程度まで拡大したことについては、イールドカープコントロールの一環であると説明しており、これは利上げではないとしており、高橋洋一氏以外のいわゆるリフレ派の方々の中にも、そのように解釈している人もいます。

ただ、これは、確かに高橋洋一氏が主張するように、まったく実施する必要のない措置でした。日銀は、今まで通りの金融緩和を継続すべきでした。

高橋氏としては、半端ではない危機感を抱いているのだと思います。上の記事には、「今回も、防衛増税はホップであり、ステップ、ジャンプで2段階消費増税を財務省は狙っている。そして、消費税率は15%になるだろう。そのためには、ともかく「増税」したのだ」という指摘があります。

これについては、高橋氏がABCテレビに出演した際にも語っています。

嘉悦大の高橋洋一教授(67)、京都大学大学院の藤井聡教授(54)は24日、レギュラー出演するABCテレビ「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」の特番「わ~るいどカップ2022 ミカタオールスターズが語ーるSP」に出演。消費税15%の可能性について言及しました。下は、その番組で用いられたテロップです。


テロップ一番下の、高橋洋一氏の発言を御覧ください。防衛増税確保法案が出てしまうと、増税が確定しまい。その時点で、後から何を言おうと、どのような手段を講じても、試合終了になってしまうのです。

自民・公明両党は先日、防衛費増額の財源をまかなうため法人税、所得税、たばこ税の増税が盛り込まれた2023(令和5)年度の税制改正大綱を決定しましたが、元財務官僚の高橋氏は「今のところ、増税の話は自民党の文書でしか書いていない。本当にゲームセットになるのは法案が次の通常国会に出たら。財源確保法案っていうのを用意している」と今後の流れを解説しました。

来年の2023年1月27日からはじまる通常国会に防衛増税確保法案が出されることが決まれば、それでほぼ防衛増税が決まり、その後は消費税増税もいずれ15%は決まりになるだろうというのが高橋洋一氏の見立てです。

これを受け、藤井氏は「今回増税になると法人税と所得税が増税になる。これが本当に通ると、確実に消費税の増税を岸田政権は仕掛けてくる。15%になるとも言われている」と指摘。高橋氏も「東日本大震災を思ってください。復興増税があったでしょ?あれがホップ。その後にステップで消費増税。もう1回狙ってるんですよ」と話し、「多分、12%とかやって、そのあと15%」と防衛増税後の消費増税を予測しました。

番組MCの東野幸治やスタジオパネラーのほんこん、「ジャニーズWEST」中間淳太らが「15%?」と唖然とするなか、藤井氏は「その布石を止めるために、今の局面が極めて大事」と強調していました。


まさに、今の局面が大事なのです。「2023(令和5)年度の税制改正大綱」にもとづく、財源確保法が、次の通常国会にだされ、その法律が通ってしまえば、人税、所得税、たばこ税の増税が本決まりになり、そこから先は、どう頑張っても取り返しがつきません。

これは、三党合意により決まった、消費税増税法案を思い起こさせます。

三党合意(さんとうごうい)とは、2012年の民主党政権(野田内閣)下において、民主党、自由民主党、公明党の三党間において取り決められた、社会保障と税の一体改革に関する合意です。

2012年(平成24年)6月21日に三党の幹事長会談が行われ、三党合意を確約する「三党確認書」が、作成されました。この三党合意にもとづき消費税増税法案が国会で審議し、成立したのです。まさに、「2023(令和5)年度の税制改正大綱」は、この三党合意のような働きをして、今のままだと、防衛増税は決まってしまいそうなのです。

三党合意とその後の消費税増税法案が決まったということがあったため、後に安倍首相は、増税を2度も延期しましたが、結局総理大臣在任中に8%と10%の増税をせざるを得なかったのです。一旦決まった法律を覆すことは、本当に難しいことなのです。

だかこそ、高橋洋一氏はかなり危機感を感じており、日銀の実質上の利上げに関しても大反対しているのでしょう。

このブログでは、英国のジョンソン、トラス両首相の辞任という大政変を例にとり、日本でも増税反対に抗議して、閣僚が自ら辞めるということをすべきではないかということを主張しました。

ただ、このときは、ここまで増税危機が切迫しているとは思っていなかったので、安倍派閣僚が4人がひとりずつ辞任して、最後の最後にそれでも、岸田総理が翻意をしなかった場合、閣僚ではないものの、萩生田光一政調会長が辞任するという具合に進めれば良いと思っていました。

ただ、状況の切迫具合からみると、それでは甘いかもしれません。岸田文雄首相が26日、秋葉賢也復興相を事実上更迭する方針を固めました。これは年内に「閣内の火種」を消し、来年1月下旬に召集される通常国会の論戦に向けて仕切り直しを図るためとみられます。

これで、人事の岸田といわれる、岸田政権の閣僚の辞任は四人目となります。これとほぼ同時に、安倍派閣僚四人も防衛増税ならびに消費税増税に反対し、増税するなら、総選挙で国民の信を問うべきと主張して、辞任すべきではないかと思います。そうなると、秋葉氏とあわせて、5人が辞任というこになり、岸田政権への打撃は半端なものではなくなります。

それこそ、国会は、防衛費財源確保法案の審議どころでなくなります。これは、かなりのインパクトがあり、野党はこれに大反発して、国会はこの話題が中心となり、マスコミもこの話題でもちきりとなり、財源確保法案のことなど、忘れさられたような状況になるでしょう。当然審議は、後回しにされることになります。

岸田首相は、5人の閣僚がほぼ同時に辞任ということになれば、内閣改造だけでは国民も野党も納得せず、解散総選挙を迫られることになるでしょう。それでも、増税の看板を下げることがなければ、それに今更下げたとしても、大敗を喫するのは目に見えています。それでも、与党の座を譲ることにはならいないとみられますが、岸田首相は辞任せざるを得なくなるでしょう。

その後の総裁選びが焦点になります。ポスト岸田の有力候補は、茂木氏、河野氏、林氏とされ、茂木氏が有力とされていましたが、これも番狂わせが起こりそうです。ここで、掲載すると、長くなってしまいそうなので、また機会を改めて掲載しようと思います。

次の総裁はマクロ経済を理解する人になっていただきたいです。いずれにせよ、現在は切迫した状況にあるのは、間違いありません。皆さんも、大反対しましょう。

そうして、有力政治家に陳情しましょう。私自身も、最近甘利氏にツイッターで陳情しました。それで、行動や考え方はかわりはしなかったようですが、このようなことをかなり多くの人が実施すれば、ある程度の影響は与えられるものと思います。最近の政治家は、SNSをかなり気にしているようです。

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2022年12月25日日曜日

岸田首相が秋葉復興相を〝切り捨て〟 年内交代を検討 政権運営「内閣改造」より「解散総選挙」が8割以上、夕刊フジ緊急アンケート実施中 厳しい声相次ぐ―【私の論評】安倍派議員は、令和維新を目指せ(゚д゚)!

岸田首相が秋葉復興相を〝切り捨て〟 年内交代を検討 政権運営「内閣改造」より「解散総選挙」が8割以上、夕刊フジ緊急アンケート実施中 厳しい声相次ぐ


 岸田文雄政権が、「政治とカネ」問題がくすぶる秋葉賢也復興相を早期に交代させる方向で検討に入った。これまで、1月召集の臨時国会前の年明けに実行するとの見方があったが、年内の交代や内閣改造も含めて最終判断する。ただ、夕刊フジでは現在、編集局公式ツイッターで、政権運営を問う緊急アンケートを実施しているが、岸田政権には「内閣改造」より、「解散総選挙」を求める声が8割以上に上っている。

 「目先を変えるのも、局面や流れを変える意味では良いかもしれない」

 二階俊博元幹事長は23日、TBSのCS番組収録で、岸田首相による内閣改造の検討について、こう語った。複数の自民党幹部も、秋葉氏について「代えた方がいい」「年内交代も選択肢だ」との見方を示した。

 岸田首相は年明けに、欧米のG7(先進7カ国)訪問を検討している。通常国会で与党は2023年度予算案の早期成立を目指す。秋葉氏だけでなく、審議の支障となりかねない要素は早めに〝切り捨てる〟との考え方だ。

 しかし、国民はこれを望んでいるのか。

 夕刊フジは現在、週明け26日朝を期限に、岸田首相の政権運営について緊急アンケートを実施している。24日午前7時時点で、「内閣改造」を求める回答は約15%で、8割以上が「解散総選挙」で国民の信を問うよう求めている。「現状維持」は約4%だった。

 公式ツイッターには厳しい声が相次いでいる。

 「重要な防衛費増額で突然『増税』を決めた。『増税しない』と嘘をついた」「ムダな予算の削減、防衛国債発行という意見に聞く耳がない。選挙で審判を受けるべき」などの意見が寄せられた。

 さらに、日銀が金融政策決定会合で、大規模緩和を修整する方針を決め、「事実上の利上げ」に踏み切ったことを批判する声もある。

 「増税、利上げ。国民を苦しめることばかり」「景気が沈んで賃上げできるのか。これで『資産倍増』とは意味不明だ」

 果たして、岸田首相は体制を立て直せるのか。

【私の論評】安倍派議員は、令和維新を目指せ(゚д゚)!

自民党の萩生田光一政調会長は25日、フジテレビの番組で、防衛費増額の財源を確保するため増税する時期を決定した際は衆院解散・総選挙で信を問うのが筋だとの認識を示しました。「財源を増税で賄うことは7月の参院選で約束していない」と指摘した上で、「明確な方向性が出た時は国民に判断してもらう必要も当然ある」と語りました。

政府・与党は防衛費増額の財源として法人税など3税を充てる方針を決めました。ただ、増税の実施時期は「2024年以降の適切な時期」として、決定を先送りしています。

萩生田氏はまた、歳出改革などで増税額の縮減に努める考えを強調した。国債の「60年償還ルール」を見直して償還費の一部を財源に充てる案にも改めて触れ、期間の80年への延長に言及しました。

萩生田政調会長がこのように主張刷るのは、当然です。以前このブログにも掲載したように、当面増税をしないで、防衛費増をする具体的な方法は、羽牛田政調会長がいう国債の「60年償還ルールの見直し」以外にも、あります。それについては、以前のこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
防衛増税で日本を守れるのか 平時の経済を弱体化させれば…有事の前に国が倒れてしまう 鳴りをひそめていた財務省でうごめく「増税虫」―【私の論評】防衛増税賛成派と財務省官僚は、そもそも資本主義を理解していない(゚д゚)!

この記事の中で、「安全保障・未来保障」危機突破5か年予算の現実的な財源として以下をあげました。

①特別会計剰余金(円安効果で外為特会増加分約30兆円)
②一般会計剰余金(昨年度は6.3兆円)
③自然増収(昨年度は9.5兆円)
④国債60年償還ルール撤廃(毎年の国債費16兆円が浮く)

 これで当面増税などすることなく、防衛費財源にすることができます。これは、いわゆる積極財政派から財政再建派など対して、増税の必要がないことを説得する上では、模範解答ともいえるものです。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では資本主義の基である貨幣循環理論からいえば、増税は財源にすらならないことも掲載しました。以下に上の記事から、さらに一部を以下に引用します。

防衛支出の財源として、増税が検討されています。しかし、貨幣循環を理解していれば、防衛支出という政府の需要こそが財源、すなわち「貨幣を生み出す源泉」であることがわかるでしょう。むしろ、税は、安定財源どころか、財源(貨幣を生み出す源泉)にすらなりえないのです。

資本主義の前提である、貨幣循環論を理解しないということは、明治維新でなぜ近代的な銀行と、日本銀行(中央銀行)が創設されたのかも理解できないということです。要するに、経済に関しては、明治時代よりも前の江戸時代の考えであるということです。

江戸時代は1868年に終了しています。今から、150年以上も前です。岸田総理、財政再建派の議員、財務省も資本主義を理解せず、経済に関しては150年以上も前の幕藩体制の中の、将軍や幕臣と同じような考えを持っているということです。

数年や、数十年のギャップなら、いずれ埋め合わせもできるでしょうが、150年以上のギャップはあまりに隔たりすぎです。

江戸時代の将軍や幕臣に対して、現在の貨幣循環論を論じたとしても、何を言っているのか誰も理解しないでしょう。坂本龍馬や中岡慎太郎のような特殊な人達は理解していたでしょうが、彼らが将軍や幕臣に説明しても全く理解できなかったでしょう。

中岡慎太郎を中心とした幕末の志士たちの人物相関図

であれば、貨幣流通論など説いても、無駄であり、先にあげた財源①〜④を根拠として、当面防衛増税を阻止するしかないでしょう。

そうして、明治維新のように財政ならびに日銀の金融政策も含む、令和財政維新をするしかないと思われます。

その主体は、やはり安倍晋三氏の遺訓を引き継ぐ、安倍派議員たちでしょう。これらが中心となり、他の無派閥の議員や他派閥の一部の議員も巻き込んで、令和財政維新を実現すべきです。

萩生田光一政調会長が、岸田政権が防衛費増額の財源を確保するため増税する時期を決定した際は衆院解散・総選挙で信を問うべきと主張するのは、筋が通っています。

もし、岸田政権が増税を決めて、防衛増税法案を国会で審議するという挙に出た場合は、安倍派は座して死を待つよりは、令和財政維新を起こすべきです。実際、岸田政権が、防衛増税法案を国家で審議できるような状況を整えたとすれば、先の内閣改造で、統一教会問題を利用して、安倍派外しの挙に出た以上の今度は安倍派粛清の挙にでることは十分に予想できることです。

安倍派の対応については、英国の最近の政変を参照して、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

財務省が完勝した防衛増税、こうすれば「大逆転」でひっくり返る―【私の論評】英国の大政変のように、日本でも安倍派が地獄の釜を岸田政権に向けて開けるときがくるか(゚д゚)!
安倍晋三元首相の葬儀に参列した儀仗隊

安倍派閣僚は、岸田首相を翻意させるために、辞任するという手もあります。いきなり四人が辞任するまでは必要ないですが、まず防衛増税に反対という意見表明をした上で、まずは一人辞める。

それでも岸田首相か翻意しな場合は、もう一人、また一人と辞任するのです。これを実施すれば、岸田内閣はかなりの窮地に追い込まれます。これに同調して、高市氏のような無派閥や他派閥の閣僚の中にも辞任するものがでてくるかもしれまん。

それでもどうしても、岸田首相が翻意しないというのなら、最後に萩生田政調会長が辞めても良いと思います。そうなると、岸田政権は、国会で野党から追求され、党内も蜂の巣をつついたような状況になるでしょう。マスコミも連日報道するでしょう。

国民の信を問うために、解散総選挙をせざるをえなくなるでしょう。しかし、増税の意思を翻意しないままで、選挙をすれば、大敗する可能性も濃厚になります。

そうして、岸田総理が翻意をして、増税をとり下げれば良いですが、そうでなければ、安倍派は国会では増税法案に対しつつ、他派閥や他党の協力もとりつけて反対し、法案を潰すべきです。

そうして、安倍派いっときの政変に満足することなく、岸田総理が翻意しようがしまいが、その後も改革を続けるべきです。

その改革の方向性として、親日家でもあるドラッカー氏の考えが参考になります。 それについてもこのブログに掲載したことがありますので、その記事のリンクを掲載します。

ただ事ではない財務省の惨状 同期ナンバーワン・ツー辞任 ちやほやされてねじ曲がり…―【私の論評】統治と実行は両立しない!政府は統治機能を財務省から奪取せよ(゚д゚)!


詳細は、ここで解説すると長くなるので、この記事を是非ご覧になってください。

一言でいってしまうと、このブログで述べたのは、ドラッカー氏の見解を参考にしつつ、政府は日本国を統治する機関であって、実行をする機関ではないので、実行する機関はすべて政府の外に出し、非営利・営利民間企業に任せるようにすべきという主張です。

その背景にあるのは、統治と実行は根本的に異なる機能であり、これを同一の組織て行うと、絶望的にパフォーマンスが低下するという経験則です。

そのため、現代の大企業では本社と子会社というように、分離されるようになり、本社は全体の統治機構を担い、小会社は実行を担うような形態となっています。

それを政府機構にも、適用すべきという主張です。財務省などの各省庁のほとんどは、政府の外に出し、民間の営利・非営利企業に任せます。従来各省庁に中途半端に存在した統治に関する機能は、政府に取り込み、政府はもっぱら統治に専念するという構想です。

このようにすれば、財務省の大部分も政府の外にでて、実行の仕事のみを担うことになり、政府内で、巨大な政治グループのように振る舞うことは不可能になります。

そもそも財務省ではなく、財務実務請負会社になります。この会社が、政府が何度もまともな財務を実行せよと警告したとしても、それができなければ、政府は財務請負会社を変更するということになるだけです。他の省庁も同じことです。

無論地方自治体も同じことで、役所が持っていた、統治の機能を知事や市長に統合したうえで、知事や市長とそのスタッフは統治に専念し、他は外に出し、民間の営利・非営利組織に請け負わせるようにするのです。

これは、日本ではあまり例がないので、ほとんど理解されませんが、米国などでは、銀行や建築会社やその他のスタッフによる、非営利団体が貧困層の住宅を、就職支援等も包括した包括支援バッケージとして提供したりしています。市役所などは、これを管理というか、こうした団体を統治しています。

これらは、すでに民営化という形で部分的に実行されています。しかし、日本が実行部分をすべて外に出すということを実現し、政府が統治に集中するということを実現すれば、世界初ということになります。大改革です。

政府は元々国民から選挙で選ばれた議員で構成されますから、民意を完全に無視するような政府は選挙で淘汰することができます。そうして、政府の実行部分である請負会社も民営であることから、民意を無視するような行動をしていれば、政府から切られることになります。

これによって、いままで世界中で政府の非効率ということがいわれてきまたが、それが劇的に改善されることになります。だからといって、何もかも改善・改革されて良くなるというわけではありませんが、それにしても政府や地方自治体のパプォーマンスは格段にあがることは間違いありません。

ただ、こうした改革には、旧幕臣や旧藩藩士らが明治維新に反対したように、財務省をはじめとした各省庁、それに頭の古い野党、自治労などは、マスコミも大反対するでしょう。これによって、彼らは革新を推進する母体などではなく、革新を妨げる守旧派であることがはっきりします。そのため、数年でこれを実現することは無理かもしれません。10年以上の年月を要するかもしれません。

それ以前に省庁再編制などを行うことが現実的ですが、それにしても最終的には何を目指すかをはっきりさせた上での改革を実施すべきです。それなしに、省庁再編を行っても、改革にはならないでしょう。省庁再編により、財務省を分解したにしても、財務省は他省庁を植民し、結局元通りになるということも考えられます。

しかし、日本が最初に令和財政維新を実現すれば、他の先進国も右に倣えをする可能性もあり、そうなれば、世界中で政府の非効率の問題が解消されることになります。これでますます、全体主義国家と民主主義国家の違いが際立ち、民主主義国家の強さがはっきりすることになります。

自民党安倍派は、安倍元総理の遺訓を守るだけではなく、この次元まて目指していただきたいものです。この次元の改革となれば、もはや財政の改革だけではなく、統治機構の抜本的に改革になるので、令和財政維新ではなく、令和維新と呼んだほうが相応しいです。そうなれば、令和維新は、無血革命であることと短期でなされたことで世界の評価が高い明治維新よりもさらに、世界の多くの国々の人々によって称賛されることになるでしょう。

そうして、ちまちましたことが嫌いで、大括りて物事を考えることが好きだった、安倍晋三氏も大満足でしょう。そうして、ドラッカー氏も生きておられたら、日本をさらに高く評価することでしょう。

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2022年12月24日土曜日

今こそ民主主義の「強さ」について語ろう―【私の論評】全体主義国家が、政府の一声で何でも短期間に成し遂げられると思い込むのは幻想に過ぎない(゚д゚)!

今こそ民主主義の「強さ」について語ろう

岡崎研究所


 12月1日付のワシントン・ポスト紙に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「民主主義の弱さについては、もう十分だ。その強さについて語ろう」と題する論説を書いている。

 過去2~3 カ月、我々は民主主義の脆さを心配してきた。米国、ブラジルからスウェーデン、イタリアまで、民主主義は挑戦に直面していると思えた。しかし事実はこれらのすべての事例で、選挙は最も非リベラルな勢力の多くをおとなしくさせる効果を持ち、少なくとも今は中道が勢力を維持した。一方、我々は、その間、世界最強の独裁国で、深い構造的弱さの証を見ている。

 最も衝撃的な例は中国である。抗議の異常な波が権力に対決している。問題の中心にはコロナ政策を変えようとしない中央政府がある。これは政策決定が閉鎖的で上意下達で説明責任がない独裁制に固有の問題である。

 ロシアでは、同じように閉鎖的で無反応な政策決定がどう破局につながるかを見た。プーチンの戦争の結果、ロシアは孤立し、貧乏になっている。プーチンは最近、予備役30万人を召集した。数十万のロシア人は祖国を離れた。目標もなくコストの高い戦争なので、常に反対がある。

 イランでは、国をイデオロギーで支配する神権専制政治が見られる。イランの統治エリートは、イスラムの原理的信条は執行されなければならないと信じている。    

 対称的に、自由民主主義は国民にイデオロギーを押し付けない。人間は自分自身の幸福のあり方を選択する自由を持ち、他の人もそうであるとの深い信条がある。

 米国は、個人の権利を保護し、指導部の定期的変更を可能にし、宗教的ヘゲモニー(覇権)を防止し、大きな変化に適応できるために十分に柔軟な構造を作り上げた。

 民主主義はそれなりに壊れやすいが、今はその強さを考えるいい時である。第二次世界大戦時の英国の首相チャーチルは、民主主義は最悪の政府の形態である、ただし他のすべての形態を除外すればとの信条を持っていたが、彼の正しさは証明済みである。

*   *   *

 このザカリアの論説は時宜を得た良い論説である。

 最近、論説が指摘するように独裁制(専制政治)と民主主義のどちらがより良いのかとの問題が論じられている。しかし、ザカリアは明確に民主主義の優れた点を指摘している。彼の論に賛成である。

 プラトンは哲人政治を理想とする考え方を打ち出したが、独裁者が哲人であれば、独裁もその効率性などを考えればメリットがある。が、独裁者が哲人や賢人である可能性は大きくはない。また、権力は腐敗するのも事実である。

 プーチンは、ウクライナへの侵略で誤算につぐ誤算を重ね、ロシアをダメな国にしているが、選挙を通じて彼を退陣させることは、操作可能なインターネット投票の活用などで選挙結果を歪めて平気なので、不可能であろう。プーチンは哲人や賢人からはほど遠い。

「中国式民主主義」は民主主義ではない

 習近平は今の中国には中国式の民主主義があると米中首脳会談で言ったようであるが、共産党支配の堅持が彼の政策の中で核心中の核心である。共産党員数は中国の人口の 1 割にも満たない。こういう支配を民主主義とは言わない。習近平は宣伝で自分への個人崇拝を進めているが、同時に中国にも民主主義があるなど、よくわからない言説である。米ソ冷戦の時代に、ソ連は共産党支配の国であったが、新民主主義、参加型民主主義を唱えていた。それを思い出す。

 イランについては、ヒジャブをかぶらずに韓国でのボルダリング競技に参加した女子選手の家を破壊するなど、そのやり方は常軌を逸している。

 プーチンや習近平やハメネイの独裁制が、米国によって作り出された人権を尊重し、平和的政権交代を組み込んだ民主主義よりも体制として劣ることに疑問の余地はない。この民主主義を時代の進展に合わせて、さらに改善することが重要であると思われる。

【私の論評】全体主義国家が、政府の一声で何でも短期間に成し遂げられると思い込むのは幻想に過ぎない(゚д゚)!

民主主義が全体主義より優れていることは、このブログでも何度か主張してきました。特に、高橋洋一氏の経済発展の度合いと民主主義の度合いとの間には、高い相関関係があることは、何度かこのブログで掲載してきました。

その記事の典型的なものの、リンクを以下に掲載します。
米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
開発経済学では「中所得国の罠」というのがしばしば話題になる。一種の経験則であるが、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないのだ。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドルあたりの国をいうことが多い。

要するに、発展途上国が経済発展を目指し、政府主導て産業の近代化等をすすめると、確かに経済発展をするのですが、一人当たりのGDPが10000ドル前後に達するとそこから先はなかなか伸びないというのが「中所得国の罠」という経験則です。

例外はあります。たとえば、日本です。日本は、発展途上国から先進国に仲間入りしました。無論、随分前に一人あたりのGDPは10000ドルを超えています。

もう一つの例外はアルゼンチンです。アルゼンチンはかつて、先進国でした。「母を訪ねて3000里」という物語は、ご存知と思いますが、これはその当時先進国だったアルゼンチンに、イタリアの少年マルコが母を訪ねに行く物語です。


「母をたずねて三千里」は時代が1882年(明治15年)という設定です。 1882年、つまり19世紀後半のアルゼンチンがどんな様子だったかというと、スペインから独立を果たし、農業と畜産業で大いに栄え、ラテンアメリカ地域で最も繁栄した国になっていました。

当時のアルゼンチンは、一人あたりのGDPは現在価値に直せば10000ドルを超えており、先進国でした。

19世紀の欧州各国は、産業革命による工業化が進み急速に経済成長を遂げました。ところが、欧州においても経済成長の恩恵が行きわたらない地域が少なくなく、貧しさを克服できない人たちにとって産業革命は、新天地を求める動きをつくり出す「移民の時代」でもあったのです。

人口密度が高いヨーロッパで賃金があまり上昇しなかったのに対し、人口密度が低い新大陸では賃金が上昇しやすい傾向がありました。

マルコの父親は診療所を経営していたのですが、貧しい人を無料で診るなどしていたため借金がかさみました。そこで母親が高賃金を求めてアルゼンチンに渡ったというわけです。

産業革命そのものも「移民の時代」を後押ししました。航海の手段が、それまでの帆船から蒸気船にとって代わったからです。当時まだすべての面で蒸気船が帆船より優れていたわけはないですが、航行の確実性が間違いなく増し、人々の移動も貨物の運搬も飛躍的に進歩することになったのです。

ただ、このアルゼンチンは様々な不運が重なり、後に先進国から発展途上国になってしまいました。

そうして、発展途上国から先進国になったのは、世界で日本だけです。先進国から、発展途上国になった国はアルゼンチンだけです。

先進国になるのはそれだけ難しいことなのです。世界から先進国として認められるには、経済がある程度の規模がなければなりませんが、もう一つの条件は、民主化です。

さて、先の記事からまた引用します。
以上のG20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。

民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。
「民主主義指数」と「一人あたりのGDP」には明らかな相関関係があり、しかも相関係数は0.71であり、これは様々な条件が複雑らからみあっている社会現象の相関係数としてはかなり高い方の部類に入ります。

これをみると、民主化とは経済発展の前提条件であり、民主主義の強さを示すものといえます。なぜそうなるかといえば、民主化により星の数ほどの中間層が輩出され、それらが、自由に社会経済活動を実施して、あらゆる地域、あらゆる階層において、イノベーションを継続的に生み出すことができるからです。

そうして、民主主義の強さといえば、最近の中国のコロナ対策のあり方がそれを、さらに裏付けています。

中国で今、かつて低評価だった「日本のコロナ対策」の評価が高まっています。

厳しい「ゼロコロナ対策」が行われていた頃、中国の国民は政府の言う通りにせざるを得ない状況でしたし、そしてそれは、成功していたように見えました。中国は都市ロックダウンなど強固な措置を講じていったんコロナを抑えこみ、それによって経済活動が順調に再開できました。

当時、日本や欧米諸国が感染防止と経済活動のバランスに頭を抱えている姿を、中国は、「政府は寝そべって国民を見捨てている」とか「我々の宿題を丸写しさえできないのだ」などと冷ややかな目で見ていました。

「アメリカは高齢者を見殺した」「日本の第7波は医療崩壊、地獄」などの報道もたびたびありました。また、今年の8月には岸田首相が感染したことが中国で大々的に報道され、「一国の首相まで感染したのか?」と話題になりました。習近平国家主席からお見舞いの電報を送られたことも報じられました。

日本でも、中国のコロナ対策を評価する声もあちこちであがっていたことは、記憶に新しいです。

ところが、ここにきて中国政府は、一気に制限を緩和。現在の中国の人々は、ハーネスをつけられた犬の状態から、突然、ハーネスを外されたようなものです。「政府の方針」というハーネスに頼って行動していれば良かった状態から、急にハーネスなしで行動する、つまり「自らの判断」で行動しなければならない状態になってしまったのです。

そこで今、中国で改めて注目され、関心が高まっているのが日本のコロナ対策です。日本のコロナ対策を紹介する中国語の記事のアクセス数が急上昇している。

民主主義国である日本は、全体主義の中国政府のように厳しいコロナ対策ができません。その中で、「自由」と「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施してきました。

中国人からみれば、日本のコロナ政策はゆるい、事実上の放棄だとみえていたようです。しかし実際には、日本は経済活動を中止せず、国民には自由もあり、その間、国が緊急ベッドの確保や医療設備の増加など、医療崩壊しないようにいろいろな措置を取っていました。

これに加えて、特筆すべきは、安倍・菅両政権において日本政府は、合計100兆円の補正予算を組み、様々なコロナ対策を実施したことです。その中でも、雇用調整助成金という制度も用いて、コロナ蔓延中であっても、失業率が2%台で推移したことです。これは、まさに平時の失業率と言ってもよく、他国の失業率が同時期には鰻上り上がったことを考えれば、大成果といえます。

日本では、若年層の失業率も、コロナ蔓延期だけが特に上がったということもありませんでした。

以下に、中国の都市部の失業率のグラフをあげます。


中国では、特に若年の失業率が高いことがわかります。失業率は典型的な遅行指標であり、現状の失業率は半年前の経済政策による悪影響とみるべきです。5月の失業率は、昨年11月の経済対策によるものです。ということは、昨年11月の中国政府による経済対策は妥当なものではなかったということです。

菅政権においては、コロナワクチンの接種スピードを飛躍的にあげ、医療村の反発にあって、コロナ病床の増床はあまりできなかったものの、それでも結果的には医療崩壊を起こすことなく、収束することに成功しました。これは、大成果といえます。これが、今中国から評価されつつあるのです。評価しないのは、日本のマスコミと一部の野党です。

しかし同じ期間で中国が何をしたかといえば、ひたすら「ロックダウン」や、街ぐるみで数千万人ものPCR検査を行うことに財力や人力を費やしていました。もし、これらの予算で医療資源を充実させたり、医薬品を開発したりしていたら、今の状況にはならなかったでしょう。

結局、準備がまったくできていないのに政策を転換したこと、しかも段階的でなく、一気に転換したことが大きな問題です。中国でこれから重症者や死者が爆発的に増えていったとしても、それは無理のないことです。

中国では、今になって、日本のコロナ政策は悪いものではないと認識されたようです。中国人のほとんどは、政府の言う通りに従っていただけだったといえます。しかし、自由と感染リスクの兼ね合いがいかに難しいかを今頃思い知らされたようです。

日本のコロナ対策の中でも関心が高いのが高齢者への感染対策で、現在中国の政府関係者らや介護業界からの質問が集中しています。特に、日本の高齢者へのワクチン接種率の高さが注目されているようです。

結局のところ、民主主義体制においては、全体主義国家のように人々の自由を制限することはできないものの、「自由」と「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施し、中国のような全体主義よりは成果をあげているのです。

民主主義には自由の確保という前提があり、これは感染症対策には障害とみられていたのですが、「感染予防」のバランスを考えながら、政府も国民も苦労しながらコロナ対策を実施してきました。それが、結果として中国という全体主義の国家のコロナ対策よりも良い結果をもたらしているのです。

これは、民主主義の強さによるものと評価すべきです。そうして、この強さは、感染症対策だけではなく、先に述べたように経済の分野でも発揮されるでしょうし、社会のありとあらゆる面で発揮されると考えられます。

多くの社会問題なども、中国などの全体主義国家では、政府が号令をかけて、資金を提供して何かの方策を実施すれば、一見すぐに解決されてしまったようにみえても、時が経つと綻びがでてきて、どうしようもなくなり、実施をとりやめるか有名無実になり、その後大混乱に至るということになるのでしょう。

中国では、建国以来毎年数万、2012年あたりからは、10万件を超える暴動が起こっているともいわれているということがそれを示しています。これを中国は、ことごとく弾圧してきました。

ただ、中国のという国は、民族、言語、社会習慣も地域ごとに異なり、地域地域による特殊事情があるため、暴動は単発で起こることが多かったので、中国はこれを今までは弾圧することができました。 

しかし、先日の「白紙革命」は、バラバラだった中国国民がはじめ中共の「ゼロコロナ政策」に対する、恐怖と憎悪という念で一つにまとまって起こされた全国同時デモであり、これには中共も弾圧はできないと判断したのでしょう。だからこそ、今回は「ゼロコロナ政策」を緩和したとみられます。

一方民主主義の国々においては、社会問題の解決もいわゆる営利・非営利の組織である民間組織が実施し、最初はその解決は困難にみえ、いつまでたっても解消しないようにみえながら、ある民間組織が何とかそれに成功し、それが最適なものであると確認されれば、同じ社会問題を抱えている他の地域の民間組織がそれを参考にして、同じような社会問題を解決したり、大きな民間組織が全国的にそれを実施したり、場合によっては政府がそうした活動に資金を割り当てたりして、加速度的に進んでいくのです。これは、全体主義国家にはできないことです。

結局、国民一人ひとりの幸福を考えた場合、経済的にも社会的にも民主主義は全体主義に勝っているし、はるかに柔軟に対応できるのです。

これこそが民主主義の強みです。全体主義国家が、政府の一声でなんでも短期間に成し遂げるられると思い込むのは幻想に過ぎないのです。

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