2022年12月12日月曜日

デモで崩壊した習近平の賢明さと力の「神話」―【私の論評】ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威は地に落ちる(゚д゚)!

デモで崩壊した習近平の賢明さと力の「神話」

岡崎研究所


 11月28日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙外交問題コメンテーターのギデオン・ラックマンが、「習近平のパンデミック勝利主義が彼を再び悩ませる。傲慢と権威主義が中国を終わりのないロックダウンの罠に貶めた」との論説を書いている。

 習近平は2021年の新年の演説で中国のゼロコロナ政策の成功を誇った。2年後、パンデミック対策を個人的、体制的勝利と描く習のキャンペーンは崩壊しつつある。ゼロコロナ政策に反対するデモは、10年前に権力を得た後、習の指導に対する最も深刻な挑戦のようだ。

 抗議デモのいくつかは習個人を目標にしている。成都ではデモ参加者は「我々は終身指導者の政治体制を望まない。我々に皇帝はいらない」と叫んだ。毛沢東の死後、党は唯一の全能の指導者を作ることを避けてきた。しかし習は中国を準皇帝支配に戻そうとしている。

 転換点は先月、共産党が習を党の指導者として前例にない3期目に任命した時であった。習の前任者の胡錦涛はテレビの前で舞台から強制的に排除された。習は個人崇拝を奨励して権力掌握を正当化した。「習近平思想」は党規約に書き込まれた。習のコロナ対策での成功は彼の神話の重要な部分である。

 中国のコロナ死者数は米国よりずっと少ないのは真実である。しかしゼロコロナ政策追求のコストはますます明らかになっている。経済が停滞する中、中国の若者の失業率は 20%近い。しかし習は党大会でロックダウンに責任のある上海の党書記、李強を共産党の2番目の地位に昇進させた。

 中国は自由に対する厳しい制限の4年目に直面している。パンデミックの初期段階での中国の対応を自分の手柄とした後、習は現在の危機への責めを避けることはできない。効果的な外国のワクチンを輸入していないことは、ロックダウン緩和を中国にとって危険なものにする。これは習近平の重要技術を「中国製」にするとの民族主義に結びついている。彼は中国人の命を救うワクチンをあまりに誇り高くて輸入できないようである。

 ゼロコロナ政策は習近平の強情な性格と権威主義の反映でもある。コロナの名の下で人の動きを追跡する技術は、恒久的で陰険な政治的・社会的支配の道具となることを、中国の人々は憂慮している。

 デモ隊が街頭に出てきた時が強権指導者にとり最大の危険の時である。習のあらゆる本能は力と抑圧で対応することであろう。これは彼が2019年の香港抗議を処理したやり方であり、共産党が1989年天安門で学生運動を粉砕したやり方である。しかし、習近平の賢明さと力の神話は彼のゼロコロナ政策の崩壊を生き延びることはできないだろう。

*   *   *   *   *   *

 このラックマンの論説は、最近の中国での諸都市で起こったロックダウンへの抗議活動を論じたものであるが、的を射ている良い論説である。中国共産党大会の直後に、このような中国各地での抗議デモが起こることは予想していなかったが、一度こういうことが起こると、弾圧するか民衆の要求にある程度答えてロックダウンを緩和するかのいずれかであろう。が、いずれの方策をとっても、習近平政権への打撃は避けられないと思われる。習近平の指導力を傷つけないでこの打撃に対応するのは難問である。

 硬軟の策を繰り出し、時間をかけて事態の沈静化を図っていくという事であろうが、習近平の無謬性(infallibility)は傷つくだろう。習近平を共産党の核心とし、唯一の指導者にすることは不都合だという党内での意見も出てきかねないと思われる。

傲慢の現れたる党規約の「習近平思想」

 鄧小平が最高指導者の任期を2期10年までと定めて集団指導体制を作ったことは、先見性に満ちた賢明な制度設計であったと評価できる。これをひっくり返した習近平のワンマン体制は脆弱性を抱えると考えられたが、それが早くも出てきたということかと思われる。

 習近平が党規約に「習近平思想」を書きいれたことは傲慢さの現れであると考えられる。「習近平思想」とは何なのか、今なおはっきりしない。中華民族の夢の実現という民族主義的願望と強国建設路線であることははっきりしているが、マルクス主義の「万国の労働者よ、団結せよ」との階級を重視した国際主義とは程遠いのに、マルクス主義者を自称するなど、支離滅裂であるように思われる。

 中国の指導者が鄧小平のような賢明さを持たないこと、中国経済のさらなる発展よりも自己の政治的権力の増大に熱心であることは、日本にとりそれほど憂うべきことではない。中国は今経済力で 2033年には国内総生産(GDP)で米国を凌駕すると言われているが、その後2050年には、少子高齢化などの影響で米国に抜き返されると日本経済研究センターは予測している。が、このゼロコロナ政策に伴う混乱、大手ITへの弾圧政策、中国の人口動態などを見ると、中国経済はもっと早く減速する可能性が高いと考えられる。

【私の論評】ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威は地に落ちる(゚д゚)!

上の記事では、傲慢の現れたる党規約の「習近平思想」と掲載されていますが、これは間違いだと思います。ただ、上の記事は「習近平思想」という言葉自体が、書き込まれたとは書いていないので、実質上「習近平思想」が党規約に書き込まれたという意味なのでしょう。

中国共産党は10月26日、同月22日に閉会した党大会が採択した改定党規約の全文を公表しました。習近平総書記(国家主席)の地位を守ることを新たに党員の義務として付け加えました。

党大会前に大きく宣伝され、大会決議でも党員に順守が求められたことから、党規約に盛り込まれるとみられていた、「習氏の核心の地位」と「習思想の指導的地位」の「二つの確立」との表現は見送られましたが、習氏の権威を強化する改定です。

新たに明記されたのは、「習氏の全党の核心の地位」と「党中央の権威と集中的・統一的指導」の「二つの擁護」です。

2017年の前回改定で「行動指針」に加えられた「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」は今回も同じ名称で明記。同思想に対し、「21世紀のマルクス主義であり、中華文化と中国精神の時代的真髄だ」との説明が加わり、「習思想」をさらに持ち上げました。

台湾を巡り、「祖国統一を完成させる」との従来の表現に加え、「『台湾独立』に断固反対し、抑え込む」との文言が盛り込まれました。

また、米欧などと異なる独自の発展モデル「中国式現代化」、中国式の民主主義としている「全過程人民民主の整備」、「世界一流の軍隊の建設」、など習氏が強調してきた文言も新たに加わりました。

一方、「いかなる形式の個人崇拝も禁止する」との文言は引き続き明記。党総書記の権限を強める規定も加わりませんでした。

党規約に習氏の名前の登場は12回で、改革開放を指揮した鄧小平(とう・しょうへい)と同じ回数。建国の父・毛沢東の名前は13回登場しました。

ということなので、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」という言葉は依然として、残っており「習近平思想」という言葉に変わっているということはありません。

なぜ、「習近平思想」という言葉そのものにこだわるのかというと、以前このブログで述べたように、粉の言葉が党規約に直接書き込まれたとすれば、中共における習近平の独裁体制が固まったとみられますが、そうでなければ、まだ完璧ではないこと示しているとみられるからです。これについては、以前このブログても述べたことがあります。

その記事のリンクと内容の一部を以下に引用します。

習氏、3期目へ権威確立 李首相は最高指導部退く 中国共産党大会が閉幕―【私の論評】習近平の独裁体制構築までには、まだ一波乱ある(゚д゚)!

10月22日、中国・北京で開かれた共産党大会の閉幕式に出席した習近平総書記(国家主席)


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを掲載します。

党規約の中の習近平の思想が「習近平思想」と書かれるようになれば、そうして習近平が現役のうちにそうなれば、習近平の独裁体制が成立したとみなせるでしょうが、まだそうはなっていません。

習近平の独裁体制が確立できるかどうか、それまでにはまだ一波乱ありそうです。また、習近平が権力を握るにしても、握れないにしても、中国経済は以前このブログでも述べたように、国際金融のトリレンマと、米国による半導体の〝対中禁輸〟という2つの構造要因でこれから、従来のように伸びることありません。それどころか、かなり落ち込むことになります。

中国経済が誰の目からみても、かなり落ち込み続けることが明らかになる前までに、習近平が独裁体制を整えなければ、それは不可能になるでしょう。期限は来年中でしょう。

中国の党規約に「習近平思想」という文字は未だに見られません。いまでも「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」と長たらしい名前で掲載されています。

この意味についいては、以下の記事でその詳細を説明しました。

中国で進められる「習近平思想」の確立と普及―【私の論評】党規約に「習近平思想」と平易に記載されたとき、習近平の野望は成就する(゚д゚)!

2019年4月中国社会科学院が編集した『習近平新時代中国特色社会主義思想学習叢書』が出版された

 もし習近平が毛沢東主席並みに偉大な思想家であれば、シンプルに「習近平思想」とすればよいのなぜ、「習近平新時代中国特色社会主義思想」としたのでしょうか。

もうひとつは「習近平新時代」の意味するところが、よくわかりません。

結論からいえば、長い思想名となったのは政治的妥協の産物だからでしょう。演説集は、出版されているものの、著作が一作もない習氏の考え方を「思想」と位置づけて良いものなのでしょうか。

党内でも様々な意見がありながらも、周到な根回しが済んでいる重要案件を、党大会で無下に却下するわけにもいかず、そこで党内の知恵者が『新しい時代をユニークな社会主義路線で指導する習近平思想』はどうか等と提議して、双方が歩み寄った結果ではないでしょうか。

今回のデモを主催した人たちにも、このような見方はあったものと見られます。おそらく、今回こそは「習近平思想」と明記されているのではないかと、改定された党規約自体をみるまではそう考えていたのでしょう。かなりの危機感を抱えていたものと思います。

ところが、蓋を開けてみれば「習近平思想」という言葉はありませんでした。これで、今回のデモ主催した人たちは、習近平の独裁体制が確立するまでは、まだ一波乱あるだろうと、考えたのでしょう。

実際、今までにないような、中国全土にわたる抗議デモは時を同じくして全国で発生したのです。

中国共産党は、かなり大きなデモが起こったにしても、それが一箇所もしくは数か所で発生したというのなら、簡単に鎮圧、弾圧できるのでしよう。

実際、天安門事件、2012年あたりに激化した愛国反日デモも、必ずといって良いほどに反政府デモになってしまうので、これを鎮圧しましたし、香港の民主化デモも弾圧して、なきものにしました。

ただ、今回のように全国一斉のデモということになると、鎮圧・弾圧は難しいのでしょう。上の記事にもあるように、習近平自身も、中国共産党大会の直後に、このような中国各地での抗議デモが起こることは予想していなかったようですが、一度こういうことが起こると、弾圧するか民衆の要求にある程度答えてロックダウンを緩和するかのいずれかでしょう。

実際緩和の動きもみられます。ただ、いずれの方策をとっても、習近平政権への打撃は避けられないと考えられます。習近平の指導力を傷つけないでこの打撃に対応するのはかなり難しいでしょう。

デモの主催者からみれば、党規約にはっきりと「習近平思想」という言葉が掲載されれば、習近平の独裁体制は最終段階に入っとみられることから、まだ掲載されなかったものの、相当の危機感があったとみえて、今回のデモということになったのてしょう。

中国の新型コロナの新規感染者は11月23日に3万人超に達し、各地で大規模なデモが相次いだ27日には4万人を上回りました。抗議デモ後、封鎖エリアの絞り込みなど、ゼロコロナ政策を緩和する動きが次々と伝えられたのですが、実は、中国政府は3週間前の11月11日に「新型コロナ対策の“最適化” 20カ条の措置」として、ゼロコロナ政策の一部緩和を発表していました。

ゼロコロナ政策を止めると3カ月で死者160万人との試算がある一方で、仮に、ゼロコロナ政策をこのまま強行すれば、米国との経済競争に不利になる懸念は否めないです。習近平政権は、ジレンマに直面しています。

 こうした「20カ条の措置」による、ゼロコロナ緩和策を発表していたにも関わらず、中国国内の不満や閉塞感を和らげることができず、大規模デモに至ったのはなぜでしょうか。

「20カ条の措置」には、「『層層加碼(ツェンツェンジャーマー)』の取り締まりを強化し、むやみに封鎖することを禁止する」とあります。『層層加碼』とは、「下に行けば行くほど割り増しをする」ことを意味する中国の言葉です。


ゼロコロナ政策の現場では、「一層ずつ、下のレベル、現場に近いレベルに行くたびに、割り増しして、封鎖を厳しくしてしまっている」のです。中央政府からの指示が現場の行政レベルに達するまで、次々と際限なく、規制を厳しくしてしまうのです。

封鎖を緩和して、感染者が増加したとき、地方政府の官僚が自らが処罰の対象となることを恐れてのことです。 こうした『層層加碼(ツェンツェンジャーマー)』が横行する組織となっていることに、中国共産党指導部の責任は、どのように考えることができるのでしょうか。

中国共産党指導体制の信頼関係の欠如。その欠如は、『恐怖』による統治からもたらされたといえます。中国は、共産党の優位性を損なわない範囲で、ゼロコロナ政策を段階的に解除せざるを得ず、難しい舵取りを迫られることになるでしょう。

そうして、ゼロコロナ政策を緩やかに解除したにしても、習近平の権威か地に落ちるのは間違いないです。中共内の権力闘争にはまだ一波乱ありそうです。

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