2021年9月16日木曜日

中国で進められる「習近平思想」の確立と普及―【私の論評】党規約に「習近平思想」と平易に記載されたとき、習近平の野望は成就する(゚д゚)!


岡崎研究所

 8月28日付の英Economistが、最近中国で多く作られている習近平の考え方を学ぶ研究センターについて、その影響などについて分析している。多くの研究者が動員され、習近平の地位の強化に利用されている。次の党大会での習近平の留任のためかもしれない。

 習近平と、そのインナーサークルが、新時代のマルクス主義、マルクス主義の中国化と称して、正に「習近平思想」を作り上げようとしていることは間違いない。理由は多々あり、長期政権を目指すためだけではない。



 まず、中国社会の現実が、新たな理念を必要していることは間違いない。鄧小平の解決すべき課題は、地に落ちた共産党の威信と国民の信頼を取り戻すために、いかにして経済を発展させるかにあった。しかし、その経済発展が作りだした中国の現実が、鄧小平理論では収まりきれなくなり、新しい理念ないし理論を必要としている。鄧小平が超大国になってから何をすべきか語ったことはない。「中国の夢」は、それへの回答でもある。

 次に、その社会を統治する共産党の現実が、新たな理念ないし理論を必要としている。そこで巨大化した組織を再構成する必要があり、その根幹に「規律」と「法治」を据えた。さらに、党内に多くの敵を作り、アメよりもムチを多用する習近平にとり、最後の支えは国民の支持となる。

 先祖返りのように「人民第一」を強調しているのは、社会の不安定化を避けると共に、国民の多数を味方につけ、党内を牛耳る算段でもある。先進大企業たたきや経済分野への積極的介入も国民対策だ。しかし、如何にして発展の原動力である民間企業のやる気を持続させるかという難問に逢着する。

小学校の必修科目にも

 最後に、それらの集大成としての「習近平思想」となる。これが完成すれば、習近平政権は長く続けることができるだけではなく、毛沢東を越えて歴史に名を残せる。毛沢東思想も鄧小平理論も、本人が生きている間だけではなく、その後も影響力を持った。

 だが毛沢東思想・鄧小平理論との本質的な違いは、この二つが毛沢東と鄧小平の頭の中で紡ぎ出され論理的一貫性を持つのに対し、現在、「習近平思想」はアイディアの寄せ集めに過ぎないという点にある。現場対応に追われ、その都度新たなアイディアを語ってきた。18の習思想研究センターの存在が、そのことを表している。

 ただ、「習近平氏の思想」の普及は、研究センターの設置というシンクタンクに留まらない。この9月1日から始まった新学期では、小学校から必修科目として、「習近平氏の思想」が導入された。小学校から高校まで教本は4冊あるとされ、大学や社会人になっても中国共産党の思想教育は継続されるようだ。既に、共産党員に対して、ネットで頻繁に教育教材が送られ、回答しないと催促されると言う。

 世界各地で影響力を行使している中国であるが、それは、経済のみならず、思想統制まで及ぶようになるのだろうか。中国国内の動きにも目が離せない。

【私の論評】習が現役で党規約に「習近平思想」と平易に記載されたとき、習近平の野望は成就する(゚д゚)!

2019年4月中国社会科学院が編集した『習近平新時代中国特色社会主義思想学習叢書』が出版された

「習近平思想」とは何かと、いえば無論「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」が原点であることは間違いないでしょう。

2012年に登場した中国共産党の習近平体制は5年の任期を終え、2017年10月に開催された中共
第19回大会で第2期習近平体制が発足しました。
 
そうして、この大会において「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」が党規約に盛り込まれたました。

約2万の漢字で構成される党規約「中国共産党章程」の構成は、総則から第十一章:党の徽章と党旗から構成されていますが、最も重要なのは総則です。

総則が規定する共産党員の「行動指針」は、これまで社会主義の先達である①マルクス、②レーニン、③毛沢東、④鄧小平、⑤江沢民、⑥胡錦濤に敬意を表し、【マルクスレーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、「三つの代表」の重要思想、科学的発展観】とあったのが、この大会のときに「習近平時代の中国の特色ある社会主義思想」という、いわゆる「習近平思想」なるものが追加されました。

まずこれは、随分長い名称であることが目を引きます。この「習近平思想」なるものの、当規約入りをどう評価すべきでしょうか。
 
まず毛・鄧・江・胡の四氏の思想は、かれらの死後ないしは引退後に規約入りした。習近平氏はバリバリの現役です。
 
「三つの代表」と「科学的発展観」には、提唱者の名前が抜けています。名がついているのは、毛沢東思想と鄧小平理論だけであり、これでは習近平は、江沢民、胡錦濤を追い抜き、毛、鄧に並んだことになります。

しかも共産主義の世界では、「思想」の方が「理論」よりも格上であることから、習近平は
「鄧小平理論」の鄧小平を追い抜き、毛沢東に並んだという考えも成り立ちます。
 
しかしここで腑に落ちないところが二点あります。
 
もし習近平が毛沢東主席並みに偉大な思想家であれば、シンプルに「習近平思想」とすればよいのなぜ、「習近平新時代中国特色社会主義思想」としたのでしょうか。
 
もうひとつは「習近平新時代」の意味するところが、よくわかりません。

結論からいえば、長い思想名となったのは政治的妥協の産物だからでしょう。演説集は、出版されているものの、著作が一作もない習氏の考え方を「思想」と位置づけて良いものなのでしょうか。

党内でも様々な意見がありながらも、周到な根回しが済んでいる重要案件を、党大会で無下に却下するわけにもいかず、そこで党内の知恵者が『新しい時代をユニークな社会主義路線で指導する習近平思想』どうかと提議して、双方が歩み寄った結果ではないでしょうか。

現役指導者にもかかわらず、党規約入りに成功したことだけみれば、習近平氏は大満足だったでしょうが、あいまいな思想名に終わってしまったことは、不本意だったに違いありません。

次に「新時代」の意味するところですが、これは2017年から国営メディアが盛んに流しているプロパガンダと辻褄を併せたもののようです。人民日報は建国以来の発展段階を3つの時代に総括しています。

中国語の表現を用いると、毛沢東は中国を「站起来(=立ち上げた)」、鄧小平は中国を「富起来(=豊かにした)」、そして習近平は中国を「強起来(=強国にした)」としています。

しかし、これは極めて乱暴な区分けではないでしょうか。毛沢東が中国を立ち上げたのは良いとしましょう。次に鄧小平が「中国を豊かにした」のも、中国を世界の最貧国から、もうちょっとで先進国に手が届くところまで引き上げたという意味では理解できます。

しかし、中国を豊かにした功績は江沢民にも胡錦濤にもあります。ここで、自分がBIG3入りしたいがために、江・胡の二人をバッサリ切り捨てるのはかなり乱暴と言わざるを得ません。

中国のビッグ・スリーを目指す習近平だが・・・

更に習近平がいう「強国」とは2035年までに「社会主義現代化を基本的に実現し」、50年までに「中国を社会主義現代化強国にする」という遠大なる目標です。

第一時代は歴史的事実、第二時代は、評価が固まりつつありますが、現在進行形です。一方、習近平の第三時代は目標・願望です。これが「中国の新時代」の正体です。

国営メディアは、奇妙なことに中国の発展段階を、過去形・現在形・未来形を混在させた形で規定しており、「富国」時代は終わっていないのに、早くも「強兵」時代がはじまったともいえるような論調です。

そうして、党規約に登場する人名は江沢民と胡錦濤が各一箇所のみです。これに比べると、習近平は11箇所も登場しますが、鄧小平は12箇所、毛沢東は13箇所です。党内の見えざる手が、しっかりバランスをとったようです。

党規約入は、習近平氏にとって大成功でしたが、①曖昧で長い思想名、②党主席制復活(習近平は国家主席)に失敗、③腹心王岐山の留任に失敗ということで、まさに2016年の党大会は、習近平にとては不本意なものであったに違いありません。

このときの失敗を取り返し、党規約に盛り込まれた「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を「習近平思想」に変えてしまうことが、習近平の野望のようです。

それを目指して、「習近平思想」なるものを小学校から必修科目として、「習近平氏の思想」が導入されたのです。小学校から高校まで教本は4冊あるとされ、大学や社会人になっても中国共産党の思想教育は継続されるようです。

習近平の野望は成就するか

これは、一つの目印になると思います。もし、党規約の中の習近平の思想が「習近平思想」と書かれるようになれば、そうして習近平が現役のうちにそうなれば、この野望は成功したとみなせるでしょう。そうして、習近平の独裁体制が成立したとみるべきです。

いくら「習近平思想」を学校などで普及させたようにみえても、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」のままであれば、成功したとはいえないでしょう。そうして、習近平の独裁体制は成立していないとみるべきです。

今後どうなるか、注目したいです。特に、今後の党大会で、どうなるのかが、見ものです。

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