2021年9月18日土曜日

北朝鮮のミサイルだけじゃない…日本周辺は先進国で最も危険 敵基地攻撃能力の徹底議論を―【私の論評】日米安保に日米潜水艦隊の有効活用は外せない!双方の協同で無敵の潜水艦打撃群ができあがる(゚д゚)!

北朝鮮のミサイルだけじゃない…日本周辺は先進国で最も危険 敵基地攻撃能力の徹底議論を

列車から撃たれた15日の北朝鮮弾道ミサイル=朝鮮中央通信

 北朝鮮が新型長距離巡航ミサイルの実験に成功したと発表した。さらに15日には、弾道ミサイル2発を発射したことがわかった。日本はどのように対処すべきなのか。

 本コラムでも紹介してきたが、国際政治学の中で最も理論らしい理論といわれる民主的平和論では、民主主義国間は、民主主義国と非民主主義国間や、非民主主義国間より戦争確率が低い。

 わが国の周りを見ると、中国、ロシアと北朝鮮という非民主主義国が隣国となっており、危険な地域だといえる。英エコノミスト誌が毎年公表している民主主義指数(0~10で、数字が高いほど民主主義)では、167カ国中、中国は2・27で151位、ロシアは3・31で124位、北朝鮮は1・08で最下位だ。先進国の中では最も危険な地域に存在しているといってもいい。しかも、やっかいなのは、非民主主義国では軍事費の実態が分かりにくい。

 軍事研究で定評のあるストックホルム国際平和研究所による世界各国の軍事費データでも、北朝鮮の軍事費の実態はさっぱり分からない。経済力と比べて相当な無理をしているのは確実だが、それでも近年着実に成果を挙げつつある。

 日本としてはどう対処すべきか。これも国際政治のセオリーからいえば、同等の軍事技術を持ち、軍事費が不均衡にならないようにすべきだ。

 一つの対処方法が、敵基地攻撃能力だ。これは昨年6月、当時の安倍晋三政権が、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回し、その代わりとして浮上したものだ。

 筆者は、イージス・アショアのアイデアはいいと思ったが、その運用を陸上自衛隊が行う点について、かねてより懸念していた。というのは、イージス艦の運用が海上自衛隊であるので、その延長線で行うのが世界の常識だからだ。

 イージス・アショアの陸上自衛隊への配備で内陸の基地となったところ、迎撃ミサイル発射のブースターの落下が問題になった。迎撃ミサイルを発射するという危機的な事態なので、本来はブースターの落下など問題とすべきではないが、問題としてしまったのが間違いだった。

 自衛隊基地内に落下させるという従来のシステムでは想定外の話となって、結局断念せざるを得なかった。

 いずれにしても、今の自民党総裁選において、敵基地攻撃能力が一つの争点になっているのは好ましい。

 岸田文雄前政調会長は、敵基地攻撃能力について、憲法問題を含めて検討するとした。高市早苗前総務相はもう少し前向きで、迅速な敵基地の無力化についてサイバー攻撃を含めて具体的な方法を考えるとしている。

 河野太郎行革担当相は、ミサイルへの対応以前に、サイバー戦などでの抑止をどうするか検討が必要としている。

 敵基地攻撃について、自民党総裁選でどのような結論になるのか、注目したい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日米安保に日米潜水艦隊の有効活用は外せない!双方の協同で無敵の潜水艦打撃群ができあがる(゚д゚)!

上の記事もそうですが、日米の大方の軍事関係の記事ではある特徴があります。それは大部分の記事には潜水艦のことが書かれていないということです。まるで、日米ともに潜水艦など存在しないような記事が多いです。

これは、米国でも同じ傾向があります。米国は強力な戦略原潜と攻撃型原潜を多数持っているにもかかわらず、なぜかこれはあまり触れられることがありません。

これは、通常潜水艦の行動や対潜戦(ASW)に関しては秘匿されるのが常なので、仕方のないところもあるでしょう。ただ例外もあります。

たとえば、昨年太平洋艦隊所属でグアム島基地を拠点とする攻撃型潜水艦(SSN)4隻をはじめ、サンディエゴ基地、ハワイ基地を拠点とする戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)など少なくとも合計7隻の潜水艦が5月下旬の時点で西太平洋に展開して、臨戦態勢の航海や訓練を実施していることを公表しました。

そうして、最近もあったように、日本は中国の潜水艦が、接続水域を航行したことを公表しています。

しかし、これは例外中の例外です。ただ、両者とも明確な意図をもって実施されています。米国の場合は、当時いくつかの空母打撃群が乗員のコロナ感染によって稼働できなくなっていたため、中国を抑止するため意図して、意識して公表したものです。

日本の事例は、未だに中国の潜水艦は日本にすぐに発見されてしまうため、いくら尖閣などで日本向けに示威行動をしても無意味であることを伝えて、中国を牽制するという目的があるとみられます。これも意図して、意識して実施したものです。特に、昨年までは「外国潜水艦」としたものを今年から「中国の潜水艦」として、意図して意識して中国を牽制しています。

そうして、最近の米国のシンクタンク「ランド研究所」は、防衛省・自衛隊に提言し、叱咤(しった)激励する衝撃的な論文を発表していますが、一読して、防衛省・自衛隊を子供扱いにしたような論文ではありますが、内容そのものは妥当です。しかし、この論文に出てくる潜水艦(submarine)という言葉はわずか一語だけでした。

この報告書の詳細は、原典をあたっていただくものとして、以下に概要を掲載します。

ランド研究所は、自衛隊に対して、「マルチドメイン(複数領域)防衛軍を目指すべきだ」と提言しています。マルチドメイン防衛軍とは、米陸軍の作戦構想「マルチドメイン作戦」が遂行できる部隊のことです。 

米陸軍マルチドメイン変革(米陸軍参謀総長文書#1)より


ランド論文が「マルチドメイン防衛軍」を創設するために提言した17の新興技術は、先進通信ネットワーク、人工知能(AI)、自律技術、ビッグデータ、最新のサイバー戦技術、量子通信、量子コンピューティング、量子センシング、3Dプリンティング、バイオ技術、指向性エネルギー兵器、最新宇宙技術、極超音速滑空体、マイクロエレクトロニクス、ナノテクノロジー、無人機です。

ランド研究所は、中国が新興技術の軍事利用を推進しているのに比し、日本の遅れを叱咤している。中国が重視する技術は、ランドの17技術とほぼ同じだ。そして、自衛隊が新興技術を軍事利用することによるメリットを列挙しています。以下にそれらを掲載します。
第1に、サイバー攻撃、電子戦、マイクロ波指向性エネルギー兵器の使用により、攻撃者は明確な証拠を残すことなく攻撃できる。

第2に、自律技術、AI、最新遠距離通信、量子コンピューティングなどを利用することで、戦争遂行を劇的にスピードアップできる。 

第3に、無人機やロボットなどは将来の戦争で中心的な役割を果たす。

第4に、長距離でターゲットを非常に正確に攻撃することができる。 

第5に、ネットワークの安全確保と相手側のネットワークの破壊が紛争時における中心テーマになるため、電子戦やサイバー攻撃に対する防御が重要になる。 

第6に、従来の空・陸・海の領域加えて、電磁波、宇宙、サイバー空間の領域を作戦成功の中核になる。 

第7に、情報ドメインに関連する技術分野がますます重要になっている。他国は、紛争のすべての段階で、日本の認知機能(頭脳など)に悪影響を及ぼし、世論を操作しようとする。日本は、敵の大規模な偽情報・誤情報作戦に対処する必要がある。
 以上みてきたように、ランド論文は軍事専門家にとっては常識に沿ったもので、適切な提言だとは思います。防衛省・自衛隊がこの提言を受けて、これをいかに活用するかが課題です。この提言を無視する選択肢はないとは、思います。

マルチドメイン防衛軍構想は、もともと米陸軍によって作成されたものなので、海戦を想定したものが少なくなるのは当然とは思いますが、それにしてもこの報告書の中にでてくる、「潜水艦」というキーワードが一つしかないというのが気になります。それに、サイバー攻撃への対応や、偽情報・誤情報作戦への対応などは、緊急の課題ですが、他のものはすぐにできるとは考えられず、いずれも将来の課題といえると思います。

しかし、潜水艦に関してはまだまだできることがあり、やればかなり成果をあげられる分野が多くあると思います。

米国の戦略家ルトワック氏は、論文「軍事におけるイノベーションをやり直す」の中で潜水艦について以下のように述べています。
過去2回の世界大戦におけるもっとも激しい軍事競争により、1915 から 1945 年 の間には戦争を変えるような多くのものが生まれ、その中から、その後の規範とな るウエポン・システムであるプラットフォームが誕生し、現在に至っている 。1945 年以降さまざまな形の科学的、技術的発展があったにもかかわらず、長期の全面戦 争から以外は生まれ得ない革命的なトランスフォーメーションがないまま、我々は 相変わらず 60 年以上前のプラットフォーム(ただし、潜水艦だけは例外)をかなり 多く使っている。

また、以下のようにも述べています。

戦争はその苛烈さに比例して、組織上、作戦上、戦術上、そして時には戦略上の イノベーションとともに、新機軸の兵器のコンセプト(例:第一次世界大戦におけ る武装航空機、第二次世界大戦における原子爆弾など)や、少なくともプラット フォームの新しいシステム構成(例:1944 年までに出現したジェット戦闘機、1918 年の空母、1916 年の戦車など)の出現を促す。軍指導部も、戦時中にイノベーショ ンを行うために必ずしもイノベーティブである必要はない。イノベーションを行う敵 を模倣するか、効果的にそれに対抗するだけでいい。ただし、いずれも行わないと 敗けは免れない。

 反対に平時には、軍事におけるイノベーションが起こることはめったにない。(平 時の軍事におけるイノベーションの、もっとも有名で最大の例外は原子力潜水艦で あろう。米国海軍のコンセンサスとして、1,200psi の蒸気ボイラーシステムはいい が、ガス・タービンや、ましてや原子力推進というハイマン・リッコーヴァー (Hyman Rickover)の突飛なアイデアには頑なに反対していたことを考えれば、実 現性はほとんど不可能に近いと言われていた。)軍事組織は、奉仕や自己犠牲といっ た重要な価値観を維持するためには総じて保守的だが、この軍の保守的傾向はこと さら非難されるべきものではない。変化に対する抵抗は、いかなる組織にも見られ るからである。  

原子力潜水艦は、軍事上の戦後のイノベーションといえる画期的なものです。そうして、ほとんど無音の通常型潜水艦である日本の潜水艦も、戦後のイノベーションといえるでしょう。そうして、潜水艦は、電磁波などマイクロ波指向性エネルギー兵器では攻撃できない可能性が大きいです。

さらに、サイバー攻撃に関しても、水中に深く潜る潜水艦には、通常の電波は届きません。ましてや、インターネットのコードも繋がっていません。

では、どうやって連絡をとるかといえば、結論からいうと超長波(VLF)を用いて連絡をします。無論、水上に浮上するか、アンテナのみを浮上させて、通常の電波で通信することもできます。ただし、そうすれば、敵にすぐに発見されてしまいます。しかし、潜水艦が水中に潜るということから、サイバー攻撃にさらされる危険はかなり低いといえます。

文春新書『ラストエンペラー習近平』において、ルトワック氏は潜水艦について以下のように趣旨のことを述べています。
現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかない。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかない。船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまう。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまえば、1発で沈められる。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、「潜水艦が本当の戦力なのだ」。

 こういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を持っていますが、潜水艦的な、水面より下の戦力は弱いです。日米は、水面より下の戦力において中国より圧倒的に強いです。

ルトワック氏

特に、日米は対潜哨戒能力が中国と比較して圧倒的に高いです。そのため、対潜戦(英語: Anti-submarine warfare, ASW)も圧倒的に強いです。さらに、日本の潜水艦は、もともとステルス性(静寂性)に優れていたものが、最新型はリチュウムイオンバッテリーを動力にしているため、ほとんど無音に近くなりました。

海上自衛隊は、敵潜水艦の行動を探知するべく、日本の近海に潜んでいます。もし、敵性潜水艦が近づいてきた場合でも、無音状態で迅速に行動することができます。視界も電波もさえぎられる水中、敵は音を探知しながら進んできますが、音を発しないこちらの姿を探知することは、ほとんどできません。まるで忍者のようにその姿を隠すことができるのが、通常動力潜水艦艦の強みです。

一方米国の攻撃型原潜は、もともと原子力潜水艦ということで、ある程度騒音は出ます。原子炉で発生させた蒸気を使ってタービンを回し、その力でプロペラ軸を回しますが、この時に使う減速歯車が騒音の原因といわれています。タービン自体は高速で回転させるほうが効率も良いのですが、そのまま海中でプロペラを回転させるとさらなる騒音を発生させるために、減速歯車を使ってプロペラ軸に伝わる回転数を落とす必要があります。

ほかにも、炉心冷却材を循環させるためのポンプも大きな騒音を発生さるといいます。このポンプは静かな物を採用することによって、かつてに比べ騒音レベルは下がってきているといいますが、頻繁に原子炉の停止・再稼動をさせることが難しい原子力潜水艦においては、基本的にこのポンプの動きを止めることはできません。

しかし、米国の攻撃型原潜は、原潜としてはステルス性が高く、対潜哨戒能力が低い中国には発見しずらいです。ただ、米国の攻撃型原潜は、速度がはやく長期間潜水していられることの他、オハイオ級攻撃型原潜は、最大で計154発のトマホークを搭載可能等、攻撃力にも優れています。

台湾有事が想定された場合、600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」とかつてトランプ氏が称した、数隻の攻撃型原潜が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないです。

米国は原潜をつくりはじめてから、通常型潜水艦を建造することをやめました。もはや日本のような静寂性の高い通常型潜水艦を製造する能力はありません。

私としては、マルチドメイン防衛軍を創設することには、やぶさかではありませんが、それよりも現実的な方法は、潜水艦隊や対潜哨戒能力、対潜能力のさらなる強化だと思います。

日本の場合は、敵基地攻撃能力の中に、潜水艦による情報収集と、攻撃も含めるべきと思います。敵基地攻撃というと、すぐに航空機などを思い浮かべる人もいるようですが、それだけではなく、潜水艦による監視と攻撃も含めるべきです。日本のステルス性の高い潜水艦は、北朝鮮や中国の港や沿岸に侵入しても発見されることはありません。

そのため、じっくりと長期間にわたり詳細に情報収集ができる可能性が高いです。さらに、ミサイルなどで敵基地を的確に迅速に攻撃できます。

米国においては、「マルチドメイン(複数領域)防衛軍」において、米原潜を活用する方法を模索すべきと思います。米攻撃型原潜は、敵に発見されることなく、局所的に破滅的な攻撃をすることができます。この能力が「マルチドメイン防衛」に役に立たないはずがありません。

日本の横須賀基地で2015年12月23日、米海軍はSSN-766「シャルロット」攻撃型原潜、SSN-775「テキサス」攻撃型原潜が同時に停泊する貴重な写真 クリックすると拡大します

米海軍においては、空母打撃群中心主義からはやく脱却すべきです。それには、水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかないということもありますが、差し迫った他の理由もあります。

それは、航空母艦の稼働率が劇的に低下するという危機的状況に陥りつつあるということです。稼働率の低下の最大の原因は、海軍工廠(こうしょう)と民間造船所を含んだ米国内における造艦・メンテナンス能力の不足にあります。

このような海軍関係ロジスティックス能力の低下は量的なものだけではなく、質的にも深刻であるという調査結果も数多く提示され、アメリカの国防上、深刻な問題となりつつあるのです。

この問題は、早急には解決できません。それまでの間は、空母よりは、メンテナンス能力を必要としない攻撃型原潜をどのように活用するのかということが、課題になるでしょう。

最後に日米の課題ですが、将来は「マルチドメイン防衛軍」を目指すにしても、当面の敵は中国であり、その中国と比較すると、海戦能力では日米が格段に勝っています。これを有効活用しない手はありません。

そうして、日米ともに対潜哨戒能力がすぐれており、米国の攻撃型潜水艦はステルス性には、難がありますが、攻撃力、速度、長期間の運用に優れています。

日本の潜水艦はステルス性に優れていますが、攻撃力は米軍に比較すると弱いですし、速度も遅く、潜航時間も米原潜には及びません。

この事実からすると、対中国ということで、日米ができることは、日米協同の潜水艦隊を創設することではないかと思います。

協同潜水艦隊により、双方の強みを活かし、双方の弱みを消してしまうのです。ステルス性に優れた日本の潜水艦隊は、主に情報収集にあたり、その情報を日米で共有して、米攻撃型原潜は、その情報に基づいて迅速に正確に敵に対して破滅的な打撃を与えるのです。

このような協同ができれば、世界最強の潜水艦打撃群ができあがることになります。そうなれば、確実に中国の海洋進出を防ぐことができます。

このようなことを考えると、防衛省・自衛隊を子供扱いにしたランド研究所の論文は、いくぶん上滑りしているように思えてなりません。彼ら自身も、もう少しに地に足のついた戦略を考えるべきと思います。そうして、安全保障の論議がまともになるように、米軍も潜水艦に関することも差し支えない範囲で公表すべきです。

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