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岡崎研究所
米国軍のアフガニスタン撤収を見て、台湾では一時「今日のアフガニスタンは明日の台湾」という見方が広まり、米国への信頼が大きく揺らぐ現象が見られた。それに対して、バイデン大統領は、8月17日の米ABC放送とのインタビューの中で、米国の同盟国へのコミットメントは、アフガニスタンと比較になるものではないとして、同盟国への米国のコミットメントの信頼性は変わるものではないと強調した。
この時、バイデンは意図的か、あるいは、勘違いによるものかはわからないが、台湾へのコミットメントを日本、韓国と同列の「同盟国」の重要性を持つものとして取り上げた。そして、「我々は、NATOの同盟国に侵略や攻撃をするものがあれば対抗措置をとるという北大西洋条約第5条に厳粛にコミットしている。日本、韓国、台湾についても同様だ」と述べた。台湾の人々はこのバイデンのインタビューの記事を歓迎し、喜んだと報道されている。
アフガン後の米国の対台湾政策は、米中台の対立を含め、これからその真価を問われることとなろう。
人民日報系の機関紙「環球時報」は社説のなかで「台湾の最良の選択肢は、米国に頼って中国大陸に反抗するという路線を大幅に軌道修正することだ」と揺さぶりをかけた。これに対し、台湾の蘇貞昌・行政院長(首相に相当)は「アフガンが陥落したのは内政が乱れたことが理由で、内政が安定している台湾は如何なる侵攻にも対抗できる」と反論した。
また、蔡英文総統は「台湾の唯一の選択肢は自らをより強くし、より団結することだ」と述べ、「民主と自由の価値を堅持し、国際社会で台湾の存在意義を高めることが重要だ」と強調した。
ここ数年間、米国政府は台湾との間の交流・接触のレベルを上げてきており、米当局者と台湾側カウンターパートとの接触制限の緩和や米軍用機の台湾への立ち寄りなどが行われた。しかし、同時に、米国としては「一つの中国」の原則の解釈をめぐり、「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」を放棄することまでは考えていないと言って良い。
日本や欧州も巻き込んだパワーゲーム
米国としては、台湾海峡の「現状」(状況が絶えず変化している中で、この言葉が如何に欺瞞的であろうとも)を変更することなく、両岸の「平和的解決」と「意味ある対話」を勧奨しつづけていく構えを見せている、というのは Taipei Times の指摘の通りである。蔡英文は最近も「圧力に屈することなく、支持を得ながらも暴走せず」、現状維持を貫くと述べている。
なお、米国家安全保障会議インド太平洋担当調整官のカート・キャンベルが本年5月に米政府が台湾に対する政策を変更すれば、「重大なマイナス面(some significant downsides)」が生じるだろう、と述べたことは台湾人の間ではよく知られている。
「一つの中国」の原則を順守していても米国は、台湾との「非公式な」関係を拡張する数多くの手段を持っており、台湾への確固たるコミットメントを示したいのであれば、より多くの現実的なことをなしうる、という本社説の指摘はそのとおりだろう。本社説は、台湾、中国、米国の関係は、いまや、これら三者だけの問題ではなく、日本、豪州、そして台湾との関係発展に熱心な欧州諸国など、多くの国々を巻き込んだ形のパワーゲームになっている、という。
2期目を3年残す蔡英文にとり、重要な任務の一つは、台湾としては、様々な国との関係を強化し、それにより、いかに制約があろうとも、出来るだけ多くの場所において台湾の影響力を拡大できるようにし続けることだ、と述べ、Taipei Timesは社説をむすんでいる。このように、本社説は、最近のアフガン情勢を踏まえ、改めて世界に占める台湾の位置を見つめなおすものとなっている。
実際、台湾の新型コロナウイルスへの対処等により、日本を含む多くの国々が台湾の世界保健機関(WHO)への参加を支持した(ただし、中国の反対によりいまだに台湾のオブザーバー参加さえ許されていない)。また、欧州からは、チェコの上院議長一行が台湾を訪問したり、リトアニアでは、Taiwanという呼名で代表事務所が開設されたりしている。
東京オリンピック・パラリンピック2020でも、台湾は、「たいわん」と呼ばれて選手団が入場した。また、それ以上に、台湾の国際的地位を高めたのは、半導体技術である。5Gさらには6Gまで視野に入れた通信技術において不可欠な技術を台湾が握っていることである。ただ、巨大化した中国がアフガン情勢においても大きな影響力を占める中、台湾がいかに国際的存在感を高めて行かれるかは、今後も課題となっていくだろう。その中で、日本の果たすべき役割は少なくない。
【私の論評】アフガンと台湾とでは、地政学的条件が全く異なり、台湾守備では圧倒的に米軍が有利(゚д゚)!
台湾とアフガニスタンにおいては、地理的状況が全く異なります。結論からいうと、米国はア国土のほとんどが険しい山岳地帯であるフガニスタンを守ることは困難ですが、海に囲まれた台湾は守るのは比較的簡単です。
アフガニスタンを米国などの超軍事大国が守備することの難しさについては、このブログでも解説したこどかあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを―【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
最貧国にあげられるこの国がなぜ超大国を屈服させられるのでしょうか。まず、国土の四分の三が「ヒンドゥー・クシュ」系の高い山で、超大国得意の機動部隊の出番がありません。ちなみに「ヒンドゥー・クシュ」とは「インド人殺し」の意味で、この山系を超えるインド人の遭難者が多かったことによるものとされています。
アフガニスタン ヒンドゥー・シュク山脈 |
次に、古くは古代ギリシャのアレクサンドロス大王やモンゴルのチンギスハーン、ティムールなどの侵略を受けて、国民が征服者に対して「面従腹背」で対応することに慣れていることです。さらに、アフガニスタン人と言っても主なパシュトゥーン人は45%に過ぎず、数多くの民族がそれぞれの言語を使っているので、征服者がまとめて国を収めるのはもともと無理なことが挙げられます。
この国を征服しようとした超大国は、なす術もなくこの国を去ることになったわけですが、この後もアフガニスタンを自らのものにしようという帝国が現れるのでしょうか。
アフガンでは、超大国が大機動部隊を出しても、大編隊で重爆撃しても、武装集団を駆逐する事はできませんでした。このような山岳地帯では、正規軍が対応しようにも、武装集団は隠れる場所が多数あるからです。
このような山岳地帯においては、正規軍よりも地元の人間で個々の山を知りぬいたというか、そこで長年生活してきた人間がゲリラ戦を展開することのほうが遥かに有利です。
正規軍は長年かけても、地元の地理を知りぬいたゲリラを掃討することはできません。掃討一歩手前までいっても、残党は必ず危機を回避して、国内の山岳地帯のいずれかに逃げるか、場合によっては国境を超えて他国に行って、また、武装を強化したり、食料弾薬を得て、仲間集めて、また正規軍にゲリラ戦を仕掛けることになります。
結局この繰り返しで、正規軍は長い時間をかけても、敵を掃討することができず、物理的にも精神的にも追い詰められ、結局撤退することになるです。
これをかつての英軍、ソ連軍、そうして米軍が繰り返して失敗というか、成果をあげられなくて、結局撤退したのです。
一方台湾はアフガニスタンとは異なる、海洋に浮かんだ島嶼です。これは、米軍に圧倒的に有利です。それについても、以前このブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国への脅威となれる日米豪印「クワッド」―【私の論評】対潜哨戒能力も同盟関係も貧弱な中国にとって、日米豪印「クワッド」はすでに脅威(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部引用します。
現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかありません。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦です。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかありません。
船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまいます。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまったら、空母だろうと何であろうと1発で撃沈です。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、その意味では現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力なのです。
現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力 |
そういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を所有していますが、潜水艦そのもや対潜戦闘などの能力、水面より下の戦力は弱いです。一方日米は、水面より下の戦力においては圧倒的に強いです。
サイズ的には中国海軍は、数も多いし脅威ではありますが、実際の戦闘態勢になったら、水中の戦力は日米のほうが圧倒的です。海戦ということになると、中国は日本単独と戦っても負け戦になってしまいます。
特に、日米が協同した場合、海戦においては世界最強です。日本の通常型潜水艦は、静寂性(ステルス性)に優れており、中国にはこれを発見することはできません。一方米国の原潜(米国製通常型潜水艦は製造されていない)は、攻撃型も戦略型も攻撃力は世界一です。
日米潜水艦隊が協同して、日本の潜水艦隊が情報収集にあたり、米原潜が攻撃をするなど双方の長所を生かした役割分担をした場合、これに勝てる海軍はありません。ロシアは無論のこと中国でも海戦では全く歯がたちません。
米国が、台湾を守るとすれば、攻撃型原潜を3隻ほど常時台湾の海域に配置しておけば、十分守ることができます。
台湾有事が想定された場合、600発の巡航ミサイルを積んだ「見えない空母」とかつてトランプ氏が称した、攻撃型原潜が、第1列島線の内側に入り込み、ピンポイントで中国のレーダーや宇宙監視の地上施設を攻撃して、まず「目」を奪うでしょう。そうなれば、中国は米空母などがどこにいるか把握できず、ミサイルを当てようがないです。攻撃型原潜には、対地ミサイルのほか、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷も多数配備されていますから、艦艇、航空機などもことごとく破壊できます。それどころか、
特に、米軍は対艦戦闘能力にすぐれていますがら、中国の潜水艦はことごとく撃沈されるおそれがあります。
そうなると、中国海軍が台湾に武力侵攻しようとして、中国の港を出て台湾に近づけば、空母を含めた艦艇も航空機もことごとく破壊されることになります。
運良く奇襲的に、中国軍が台湾に上陸できたとしても、攻撃型原潜に台湾包囲されてしまえば、上陸部隊は、武器・弾薬、食料・水などが補給できなくて、お手上げになってしまいます。
アフガニスタンとは大きな違いです。アフガンでは、無論米軍は攻撃型原潜を有効に使うことはできません。もしアフガニスタンのようなところであれば、中国軍はゲリラ戦もできるかもしれませんが、台湾ではそのようなことはできません。食料・弾薬が尽きかけたころに、台湾の地理を知りぬいた台湾軍に掃討されてしまうことでしょう。
アフガニスタンと台湾とでは、このように地政学的条件が全く異なり、圧倒的に米軍に有利なのです。このようなことから、アフガンから撤退し、東アジアの安全保障に力を振り向けようとする米軍が、その要ともいえる台湾から手を引くことなどあり得ません。
そうして、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長(陸軍大将)は6月17日、中国が必要とする軍事力を開発するには時間がかかるため、中国が近い将来、台湾を軍事的に占領しようとする可能性は低いと述べました。
マーク・ミリー統合参謀本部議長 |
先に述べてきたことと、デービッドソン司令官の発言とは、矛盾します。これはどう考えるべきなのでしょうか。
先程も述べたように、サイズ的には中国海軍は、数も多いです。デービッドソン司令官は、米軍も艦艇を増やすべきと考え、予算を獲得するために、このような発言をしたものとみられます。
さらに、日本に対して弾道ミサイルを配備すべきという「政治的メッセージ」とも受け取れます。これについては、以前このブログでも述べたことですので、これに興味のある方は、是非その記事をご覧になってください。
やはり、マーク・ミリー統合参謀本部長の見解を米軍の見解とみるべきです。
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