「過大評価」河野氏、「過小評価」高市氏
先週、河野太郎氏が自民党総裁選(19日告示、29日投開票)に出馬を表明し、岸田文雄氏、高市早苗氏と候補者が3名出そろった。19日の告示まで時間があるが、この3名が主軸になるだろう。
いうまでもなく、自民党総裁選での有権者は自民党員だ。筆者は自民党員でもないので、総裁を選ぶ資格もないので、まったく部外者であり、テキトーな評論家と変わりない。
とはいえ、「まずどうなるか」は誰でも興味があろう。新聞でも世論調査を行っている。
例えば、9月11日の日経新聞である。この調査は、「日経リサーチが全国の18歳以上の男女に携帯電話も含めて乱数番号(RDD)方式による電話で実施し984件の回答を得た。回答率は43.3%だった」と書かれており、その方法では、先週本コラムで指摘した記事の調査よりは多少信頼できる。
もっとも、自民党総裁選の有権者は自民党員であるので、自民支持層を調査しても正確なランダムサンプリングになっていない。自民党員名簿でもない限り、まともな調査は出来ないだろう。
しばしば言われることに、自民党員は保守系のコアな支持層が自民支持層より多いということだ。ということは、河野氏の31%は多少過大評価、高市氏の12%は多少過小評価の可能性がある。
いずれにしても大胆にこの数字を元に考えてみよう。現時点で石破茂氏の出馬の可能性は少なく、もし出馬しないと河野氏に回る可能性があるとしても、河野、石破氏の自民支持層の44%は自民党党員ベースで過大評価になる。
一方、岸田氏と高市氏の自民党支持層の30%は自民党員ベースで過小評価になる。となると、岸田氏と高市氏の自民党員ベースで過半数を超える可能性もあるので、今の時点で、河野氏が優位とはいえない。つまるところ、結果を予想できないという凡庸な中間結論になる。
世論調査はあてにならない
世論調査はあてにならない
自民支持層に限った世論調査としても、実際に投票するのは自民党員であるので、両者の差は必ず認識していないとマズい。まして、一般人に対する世論調査から、自民党総裁選を予測するのは無理だろう。
ここで述べていることは、自民党員(含む国会議員)による総裁選では、一般人に対する世論調査は当てにならないという指摘だけだ。そうしたマスコミ調査で、河野氏が優勢といっても、それはどうかなと指摘しただけだ。
しかし、そうした指摘をすると、河野推しではなく、他候補推しといわれる可能性もあったので、先週の本コラムでは、週刊誌の河野氏パワハラ報道も批判した。元国家公務員からみて、人事権をもたない他省庁大臣はパワハラ対象でもないし、公務員のルールとしては他省庁大臣と意見が違えば、自省の大臣に報告するだけで、週刊誌にリークするのはおかしいと書いただけだ。
これに対して、筆者は「河野推しなのか」とも、週刊誌関係者から言われた。話のロジックから言っても、河野推しとは無関係で、公務員の在り方から問題といっただけだ。
筆者は、もともと他人の批判をすることは少ない。もともと、価値観も基づいた発言はしないのをモットーとしているので、他人と事実認識で違いがあればいうが、価値観の違いで議論することはまずない。
しかし、幸いなことに、今回の自民党総裁選では、靖国参拝も争点になっており、見応えのあるやりとりも少なくなく、これらを紹介することはできる。
9月12日フジテレビ「日曜報道」において、高市早苗氏が出演し、靖国参拝について堂々と持論を述べていた。橋下徹氏が、「中国に進出している日系企業は不利益を被っても、靖国に行くか」と言われても、「そうですね」と応じた。
同時に、中国からの日系企業の回帰策や同盟国の理解を得るための努力という靖国参拝のための環境整備も主張していた。この点については、橋下氏のいう環境整備を否定しており、両者の政治スタンスの差が良く出ていた。
評価が分かれる三者の政策
高市氏は、靖国参拝を外交問題にしないといっていたが、それは多くの人が賛成だろう。ただし、1972年の日中共同声明以来の長い外交経緯もあるので、高市氏にはそうした過去もクリアするほどの期待もしたい。
筆者の個人的な経験でも、靖国参拝について内政干渉するなと中国にいうと、日本政府が中国政府へ持っている対外債権(円借款)の棒引きを要求されると噂されていた。そんなものを高市氏にぶっ飛ばしてもらいたいくらいだ。
最後に、総裁選の3候補者の政策比較をしてみよう。いちおう出そろったが、やや不完全ながら、次表のとおりだ。
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3人を評して、岸田氏は「標準人」、高市氏は日本版「鉄の女」、河野氏は「奇変人」と、ある番組で筆者は言った。
そして、自民党内での政治スタンスについては、岸田氏は「中庸」、高市氏は「やや右より」、河野氏は「やや左より」だ。もっとも、自民党内なので、広い意味での「保守」ではある。
自民党内のスタンスは幅広いが、やや右寄りが多いので、高市氏は右よりに見えるだろう。いみじくも、「鉄の女」のとおりブレずに自民党内のコアな保守に人気がある。そうしたコアの保守からみれば、河野氏は「保守」ではないとなるが、一方、柔軟に持論を軌道修正し、広いボリュームゾーンに手を伸ばしている。
こうした「ブレないこと」と「柔軟な軌道修正」が今後の総裁選でどのような効果になるのか、気になるポイントだ。
3候補の政策をみても、特に酷いというものはあまり見当たらず、価値観によって評価のわかれるものばかりだ。
「三候補」誰でもいい?
経済政策は比較的価値観の差異が少ないが、それでも岸田氏の分配重視は価値観の違いがでてくるところだ。高市氏の投資・成長戦略も、官が中心のようであるので、ここも価値観が分かれる。
「三候補」誰でもいい?
経済政策は比較的価値観の差異が少ないが、それでも岸田氏の分配重視は価値観の違いがでてくるところだ。高市氏の投資・成長戦略も、官が中心のようであるので、ここも価値観が分かれる。
今の経済情勢では、岸田氏や高市氏は相当規模の経済対策をしそうであるので、大きな差はない。一方、河野氏は、出馬声明が遅れたからなのか、マクロ経済政策への言及があまり明確になっていないが、民間経済中心の改革指向であるのは、岸田、高市の両氏とは異なっている。
アベノミクスは、もともと(1)マクロの金融政策、(2)マクロの財政政策、(3)ミクロの成長戦略から成り立っている。この三つの組み合わせは世界標準なので、誰も否定していないが、三者で力点の置き場所は少し違っている。
総裁選はまだ始まっていないが、これから各種マスコミにでて、いろいろと揉まれるはずだ。過去の総裁選では、思わぬ失言が命取りになったこともある。良くも悪くも、自民党総裁選だ。
この自民党総裁選にやきもきしているのは野党だろう。総裁選が盛り上がるほど、自民党の支持率は落ちない。しかも、新型コロナの新規感染者数はさがるので、総裁選にも各候補は専念できる。
そして、総裁選後に、衆院解散が見えている。そうなると、野党の出番がなくなる。菅首相退陣で新候補者による総裁選のストーリーを考えた知恵者が自民党にいたわけだ。その知恵者にとっては、三候補の誰でもいいのだろう。
髙橋 洋一(経済学者)
髙橋 洋一(経済学者)
【私の論評】経済対策では高市氏も欠点があるが、岸田氏は駄目、河野氏は破滅的!来年・再来年も考えるなら高市氏か(゚д゚)!
衆院解散と、その後の自民党政権の維持だけを考えた場合、確かに3候補のうち確かに誰が総裁になったとしても、その目的は達成できそうです。
総裁選後に、衆院解散ということになれば、野党の出番はなくなりますし、補正予算は衆院選後の国会においてなされることなるでしょう。そうなると、総裁選においては、各候補が大型経済予算を公約とするのは目に見えており、衆院選で勝利となれば、大型経済対策が実行されることになり、これに対してさすがの財務省も緊縮財政を主導することはできいないでしょう。
経済的にも、当面は誰が総理大臣になっても当面は、経済が順調に回復することが見込まれます。市場関係者は、それを敏感に感じ取ったとみえて、菅総理総裁選不出馬が決まってから株価も上がっています。
ただ、誰が総裁になってもこの状況は変わらないでしょうが、来年、再来年ということなれば、話は違ってきます。まともな経済対策を実行する総理であれば、来年、再来年も期待できます。
高市早苗氏 |
このブログでも以前取り上げたように、高市氏は、2%インフレ実現まではプライマリーバランス健全化を凍結するとして、拡張的な財政政策を行う考えを明言しています。岸田氏等とは異なり、経済の正常化と完全雇用実現の為に財政政策が有効な手段と、ある程度は認識しているようです。
一方、9日の記者会見では言及しなかったのですが、大企業の現金保有に対する1〜2%課税(1~2兆円の増収)、炭素税の導入、金融所得税30%への増税、を行う考えが一部メディアで報じられています。これらの新たな増税政策と、プライマリーバランス健全化凍結の整合性は曖昧といわざるをえません。
拡張的な財政政策を徹底するならば、米国のトランプ前政権が行った減税政策が手段の一つですが、それは全く高市氏の念頭にはないとみられます。増税と歳出拡大を同時並行で行えば、マクロ安定化政策としての財政政策の効果は大きく低下します。
新たな増税を行いながら、2%インフレと経済正常化を後押しする財政政策が実現できるのかは、甚だ疑問です。仮に、産業政策によって権益者に対して政府歳出を行うために増税することが政治目的になっているのであれば、「拡張的な財政政策」というのは看板倒れの政策になるリスクがあります。
ただ、高市氏は「ニューアベノミクス」を掲げており、安倍前首相の支持を得たと一部で報道されています。経済成長を最優先させるマクロ安定化政策に対する理解を深めつつ、保守的な経済官僚や既得権益としっかり対峙できる経済閣僚が登用されれば、「ニューアベノミクス」が機能する可能性は残るでしょう。
一方岸田氏は、6月11日に経済政策を検討する議員連盟を設立、これに、安倍晋三前首相と麻生太郎財務相が最高顧問に就任しています。岸田氏が、安倍前首相らの経済政策の路線に歩み寄り、またアベノミクスの生みの親として著名な山本幸三議員が、この議連を支えています。
岸田氏は9月4日に、「国債を財源に今必要とされるものには思い切って財政出動しなければいけない」「当面、消費増税にさわることは考えていない」と発言した。新型コロナという非常事態に財政支出を拡大するのは、菅政権を含めどこの国も行っている対応だし、具体策はこれまでの対応の延長が多いです。
消費増税については、当面は考えていないとのことですが、新型コロナが収束すれば、「新たな感染症対策のため」にという理由を掲げて増税政策に転じるのではないでしょうか。つまり、どの程度の大きさの拡張的財政政策を、いつまで続けるのかが明確ではないし、デフレの完全克服と2%インフレ目標実現のために、財政政策の後押しが有効な手段とは認識していないように見えます。
ただ、先に述べたように、岸田氏の経済ブレーンとして山本幸三議員の役割は強まっているとみられ、安倍・麻生派の議員とも一定の関係を持っています。閣僚人事などが現実路線で行われれば、安倍・菅政権と同様にマクロ安定化政策が継続される可能性はあります。
こうした政治活動を通じて、岸田氏は「アベノミクスによって私たちの経済は大きく変化した」と、安倍・菅政権の経済政策に対して一定の評価を行ってはいます。
一方、「これからは成長の果実を多くの人々に享受してもらうかが大変重要になってくる」とも述べており、河野氏と同様に再分配政策を重視しているとみられます。河野氏もそうなのかもしれないですが、本音では経済成長はもう十分であると考えている可能性があります。
一方、「これからは成長の果実を多くの人々に享受してもらうかが大変重要になってくる」とも述べており、河野氏と同様に再分配政策を重視しているとみられます。河野氏もそうなのかもしれないですが、本音では経済成長はもう十分であると考えている可能性があります。
岸田氏は9月4日に、「国債を財源に今必要とされるものには思い切って財政出動しなければいけない」「当面、消費増税にさわることは考えていない」と発言した。新型コロナという非常事態に財政支出を拡大するのは、菅政権を含めどこの国も行っている対応だし、具体策はこれまでの対応の延長が多いです。
消費増税については、当面は考えていないとのことですが、新型コロナが収束すれば、「新たな感染症対策のため」にという理由を掲げて増税政策に転じるのではないでしょうか。つまり、どの程度の大きさの拡張的財政政策を、いつまで続けるのかが明確ではないし、デフレの完全克服と2%インフレ目標実現のために、財政政策の後押しが有効な手段とは認識していないように見えます。
ただ、先に述べたように、岸田氏の経済ブレーンとして山本幸三議員の役割は強まっているとみられ、安倍・麻生派の議員とも一定の関係を持っています。閣僚人事などが現実路線で行われれば、安倍・菅政権と同様にマクロ安定化政策が継続される可能性はあります。
河野氏 |
一人当たりGDPの動きはGDP成長率でほぼ規定されるので、肝心の実質GDPを高めるための処方箋が重要になります。長期デフレの問題をまだ克服していない日本では、金融財政政策によるマクロ安定化政策がGDPを最も動かす具体策になりますが、同書を読む限り金融財政政策についての言及は見当たりません。
この理由は、(1)マクロ安定化政策を重視した安倍・菅路線に対する対抗意識がある、(2)国民経済に責任を持つ政治家に必要な基本的経済理論を理解していない、のいずれかが考えられます。
同書から推察すると、河野氏が抱いている日本の課題である、エネルギー関連などの規制、社会保障制度、教育制度、デジタル化の遅れ、などの問題を「前に進める」ことで経済の長期停滞は克服できる、と考えているのかもしれません。
また同書では、「株主重視の経営が求められるようになったことが賃金のあり方に変化をもたらした、という研究もあります。メインバンクとして企業を支えてきた都銀や地銀の株式保有割合が低下し、機関投資家や外国人株主の割合が高まってきています。企業統治のあり方、経済のグローバル化、競争の国際化が、経営者を賃上げに対して慎重にさせています」と書かれています。
市場経済・自由競争によって、企業と家計の分配が偏っているとの認識を持っているとみられ、経済成長を高めることよりも分配政策を重視している可能性が高いです。分配政策に関しては、韓国の文政権において、金融緩和策などせずに、機械的に最低賃金を上げ、雇用が激減して大失敗したという事例がありました。
また同書では、「株主重視の経営が求められるようになったことが賃金のあり方に変化をもたらした、という研究もあります。メインバンクとして企業を支えてきた都銀や地銀の株式保有割合が低下し、機関投資家や外国人株主の割合が高まってきています。企業統治のあり方、経済のグローバル化、競争の国際化が、経営者を賃上げに対して慎重にさせています」と書かれています。
市場経済・自由競争によって、企業と家計の分配が偏っているとの認識を持っているとみられ、経済成長を高めることよりも分配政策を重視している可能性が高いです。分配政策に関しては、韓国の文政権において、金融緩和策などせずに、機械的に最低賃金を上げ、雇用が激減して大失敗したという事例がありました。
枝野氏のように野党の幹部の中にも、分配政策に傾倒する人が多いです。こういうひとたちは、韓国の経済政策の失敗を参考にしてもらいたいものです。
ただ、こうした認識は、日本における所得格差についての一面的な見方が影響していると考えられます。日本の所得格差は、デフレを伴う長期経済停滞によって、中低所得者の所得水準が低下したことで拡大した部分が大きいものでした。それ故に、金融緩和が強化されデフレが和らいだため、2012年をピークに相対的貧困率は低下しています。
経済安定化政策を徹底することで所得格差拡大を縮小させた、という事実に対する理解が十分ではない恐れがあり、所得分配のみに傾斜する政策対応はとても危ういようにみえます。財政金融政策に対する河野氏の認識が今後明らかになるにつれ、日本の経済政策が「アベノミクス以前に逆戻り」するとの外国人投資家などの疑念が高まってもおかしくないでしょう。
以上の分析からすると、経済政策という観点からすると、高市氏、岸田氏、河野氏という順番で、まともであるといえます。
高市氏には増減などやめて、増税すべきと考えた対象には増税せずに据え置き、その他の対象は減税するという具合に改めていただきたいと思います。できれば、消費税減税をし、それだけではなく、幅広く減税をすべきです。当面実施すべきは、増税ではなく減税です。
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