■
高橋洋一 日本の解き方
新型コロナウイルス対策としての罰則を伴う行動制限や、アフガニスタンでの自衛隊の活動など、国の法整備に関する問題が相次いで浮上している。
前者の行動制限について簡単に言えば、一般人への罰則を伴う行動制限は、憲法上で規定されている移動の自由との兼ね合いで、公共の福祉で読み込むのは無理があり、憲法上に非常事態条項のような、非常時には私権制限できるとの規定が必要というものだ。
しばしば憲法を改正したくない人々は、公共の福祉で対応できるため改正不要だというが、その立場では、民主党政権時代に制定されたインフルエンザ特措法程度の私権制限しかできない。今の新型コロナ対策は、基本的にはそのインフルエンザ特措法の改正法に基づくので、私権制限は他の先進国と比べて極めて不十分だ。
また、今回のアフガニスタンへの自衛隊派遣については、自衛隊法84条の4(在外邦人輸送)に基づくものだ。この条文は「当該輸送を安全に実施することができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる」と定めている。救出に行かなければならないところが安全であるはずがないのに、安全であるとごまかして行くのは、かなり辛いと言わざるを得ない。
しかも、セットになっている84条の3(在外邦人等保護措置)では、要件として(1)当該地域が安全なこと(2)相手国の同意(3)相手国と当方との連携-が求められている。今のアフガニスタンではこれらの要件を満たしていないのは明らかだ。
それでもカブール空港に自衛隊機を派遣したのは、ある意味で超法規的な措置かもしれないが、菅義偉政権として立派な判断だった。しかし、8月26日にはカブール空港周辺でIS(イスラム国)系による自爆テロが発生し多くの死傷者が出るなど、極めて危険だ。空港までたどり着けなかった日本の関係者も多いという。
今の憲法では、自衛隊は行政機関なので、基本として国内法での規定が必要になってくる。しかし、在外邦人保護・輸送については、国際法に則って行えば足りるので、国内法で規定しなくても構わない。そのためには、憲法に非常事態条項を新設し、自衛隊の在外邦人保護・輸送については今の日本のように自国法で限定列挙で対処できる場合を規定するのではなく、他の先進国のように国際法にのっとり対処するとすべきだ。
なお、在外邦人保護・輸送について、国際法では、領域国による保護が期待できない場合、限定的な期間および目的で実施されるのであれば、国連憲章2条4項で禁じられている武力の行使にはあたらないとされている。
アフガン対応では、同月15日の首都陥落直後から、他の先進国は一刻を争って自国軍用機をカブールに向かわせ自国民を救出していた。
新型コロナ対応もアフガン対応も、その根本には有事に対応できない日本の憲法の問題がある。憲法改正しないと有事対応はできないのが実情だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】平時に、憲法の緊急事態条項を制定し、それに基づく実定法を定めておくべき(゚д゚)!
憲法記念日の5月3日に際し、各紙が世論調査結果をまとめていましたが、新型コロナウイルスなどの感染症や大規模災害に対応するため、緊急事態条項を新設する憲法改正を「必要とする」と答えた人が多く、内閣権限強化や私権制限が想定される緊急事態条項新設を容認する声が反対意見を上回っています。
緊急事態宣言をしても私権制限できないという国は、世界では日本くらいしかありません。なぜそうなるかといえば、憲法上の戒厳令や非常事態宣言などという規定がないから、私権制限ができないのです。
緊急事態宣言をしても私権制限できないという国は、世界では日本くらいしかありません。なぜそうなるかといえば、憲法上の戒厳令や非常事態宣言などという規定がないから、私権制限ができないのです。
そもそも日本では厳密には私権制限はできない |
私権制限ができないと、様々なところで歪みが起きることが国民も理解しつつあるのではないでしょうか。コロナ感染が猛威をふるった昨年の4月~5月は、ほとんどの国が私権制限を最大の100くらいにしていました。それに比較して、日本では50でした。世界でほぼ最低でした。
日本には、緊急事態、非常事態宣言、あるいは、それに規定するような憲法の規定もないし、法律もないのです。 多くの人は、「入国制限が甘い」と政府を批判していましたが、憲法上の規定がないと国内法がそれに連動して緩くなるのです。そうすると入国制限もあまり厳しいことはできなくなります。完全に渡航制限するとか、なにかに違反した場合「罰金を取る」などというようなことが実施しにくいのです。
「入国制限が甘い」と政府を批判するひとたちは、それだけではなく、日本には憲法に緊急事態条項がないことも批判していただきたいです。
日本人が海外から帰って来るときも、全部一律に止めるというのは難しいです。外国人であればできるはずだと批判する人もいますが、日本人だとできません。そのため防疫の水際対策も実施しずらくなります。
昨年2月の各国の入国制限 |
上の高橋洋一氏の記事には、「カブール空港に自衛隊機を派遣したのは、ある意味で超法規的な措置かもしれない」とありますが、自衛隊が職務で駆けつけ警護で武器使用をした場合殺人罪に問われる場合もありえるのです。
自衛隊が駆けつけ警護をする場合、自衛隊の武器使用は「警察官職務執行法7条に準じる」とあり、このなかでは「武器使用は合理的に必要と判断される限度において」とされています。つまり、防衛出動以外の職務で武器を使用したときには、殺人罪で告発される場合もあるということです。この原則は自衛隊のみならず海上保安庁、警察も同様の武器使用規則で運用されており、告発されるリスクは存在しているのです。
刑法上の違法性を阻却しうる事由として、刑法35・37条があります。「35条:正当行為」そして、公安職の公務員の皆さんがよくご存知の「36条:正当防衛」、「37条:緊急避難」です。防衛出動や治安出動以外の自衛隊員の活動においても、武器使用を「35条の正当行為」として位置付ける必要があるのではないかと考えます。もちろん、海上保安庁や警察の正当な法執行活動でも同様の措置が必要です。
憲法上に規定がないと、様々なところに影響がでてきます。憲法に規定がないということは、国内の法律は憲法を超えられないわけですから、当然法律で規制することはできなくなります。 憲法を超えるような法律をつくろうとすれば、最終的に違憲立法審査にかかってしまうことになります。それでも何とかしようとすれば、超法規的措置や、倫理観に訴えるなどの空気で縛るというようなことになります。
菅政権は、ワクチンの打ち手が集まらないという危機に見舞われたとき、医師・看護師以外の歯科医なども打てることにするという、超法規的措置をとりました。これは、ほとんど報道されませんでしたが、日本赤軍事件以来初の、超法規的措置です。
このようなことをするのは、大変です。かなりの勇気が要ります。しかし、このようなことも憲法上の規定があれば、それに基づく実定法がすぐできます。本来はそのように用意すべきものです。
平時において、予め憲法の規定をつくっておいて、それに基づく実定法のときには、どのような歯止めをするかという議論もできるはずです。そのようなことがなく、いざというときに超法規的措置を連発すれば、そちらの方がよほど危険です。
現状では、結果的に、超法規的措置に対してどう歯止めが効かせるのかという議論はありません。そのため「仕方なく超法規的措置でやる」というレベルです。これは、本来はあまり良いことではありません。
やはり、平時のときに、憲法の緊急事態条項をつくっておき、それに基づく実定法をつくっておくべきです。
やはり、平時のときに、憲法の緊急事態条項をつくっておき、それに基づく実定法をつくっておくべきです。
そうでないと、これからも様々な矛盾が生じてくることになります。
【関連記事】
0 件のコメント:
コメントを投稿