2021年9月11日土曜日

英空母「クイーン・エリザベス」が東京湾・浦賀水道で護衛艦「いせ」と並進、『防衛百景』の現場を見に行く:英海軍・海上自衛隊―【私の論評】中露にとって未だに米英空母打撃群は脅威!だからこそ、英国は空母打撃群を派遣した(゚д゚)!

英空母「クイーン・エリザベス」が東京湾・浦賀水道で護衛艦「いせ」と並進、『防衛百景』の現場を見に行く:英海軍・海上自衛隊


「クイーンエリザベス」(左手前)と並走する「いせ」(右奥)

2021年9月4日、英空母「クイーン・エリザベス」が初来航し、横須賀の米海軍基地へ入港したのはご存知のとおり。同空母は欧州からインド洋、南シナ海、東シナ海と「不安定の弧」と呼ばれたユーラシア大陸辺縁海域・地域を西から辿り、日本へ到達した。 


長い航海の目的はインド太平洋地域の平和と安定のために英国の関与意志を示すものだと言われている。相手は中国だ。日本来航の前に、同空母打撃群は各国軍との共同訓練を重ねており、新たな防衛協力体制を見せることは覇権主義的海洋進出を続ける中国を牽制する狙いがあるとみられている。

9月6日には岸信夫防衛大臣が横須賀に接岸中の同空母を視察し、今回の派遣行動には英国の強い意志を感じるとのコメントを発信している。横須賀入港期間中にはこうした政治的・軍事的な活動に専念、乗組員は新型コロナ感染症拡大防止対策のため上陸はせず、次の予定へ向けそのまま出港するとされた。これは同じく横須賀へ入港していた英補給艦「タイドスプリング」やオランダ海軍フリゲート艦「エファーツェン」も同様。前述のように来航前にも日本近海で多国間共同訓練を行なっていたが、来航後には日英米蘭加共同訓練「PACIFIC CROWN 21」が予定されていた。 

そして「クイーン・エリザベス」は予定を一日早めた9月8日に横須賀港の米海軍基地を離れ、14時には浦賀水道の航路入口へ差し掛かる。観音崎から遠望していると、同空母の異形さが際立った。暗色に見えた塗装も日光を受けると独特の白灰色が浮かび上がる。英国近海の海と空に溶け込む迷彩色なのだろう。

スキージャンプ方式の艦首を持つ飛行甲板にはSTOVL(短距離離陸垂直着陸)能力を持つステルス戦闘機F-35Bを複数駐機させている。艦載機を載せずに出入港することの多い米海軍空母の出港とはまた違う様相で興味深い。

 横須賀港外で沖止めしていた海上自衛隊護衛艦「いせ」が「クイーン・エリザベス」を待ち受け、航路上で接近し、2隻は並進し始める。上空には哨戒ヘリが滞空しており、おそらく2隻並んだ姿を撮影していると思われた。多国間共同訓練でよく行なわれる「フォトセッション」と呼ばれるものだろう、共同訓練の広報写真を撮影しているはずだ。これを中国も見ることになる。

しかし平日の午後2時である。航路の混み合う時間帯だ。そして「クイーン・エリザベス」の満載排水量は約6万7700t、「いせ」は約1万9000t。2隻の巨大船の周囲を多数・多種多様な船舶が行き交う光景は凄まじさを感じた。航路の安全航行を担当する海上保安庁と東京湾海上交通センターの確かな仕事ぶりを連想した。と同時に、巨大船の通航にも怯まず航行する民航船や遊漁船なども頼もしい。ちなみに通航量で見ると東京湾中央航路は、東京港や横浜港等へ出入港する船舶が1⽇あたり約500隻航⾏する世界有数の海上交通過密海域だという。 

その後「クイーン・エリザベス」は航路を南下し東京湾を出て、関東地方東方の沖合で行なわれた共同訓練に参加したという。

 ●英空母「クイーン・エリザベス」スペック 基準排水量:約4万5000t 満載排水量:約6万7700t 全長:284m 最大幅:73m 乗員:約670名、航空要員約600名、司令部要員約90名 主機:統合電気推進(ガスタービン発電機×2、ディーゼル発電機×4) 最高速力:約26kt(約48km/h) 武装:CIWS×3、単装機銃×4、多銃身機銃など 搭載機:F-35×約40、EH-101(AW-101)ヘリ×6など ◎日英米蘭加共同訓練「PACIFIC CROWN 21」参加部隊 

●英空母打撃群:英空母「クイーン・エリザベス」、英駆逐艦「ディフェンダー」、英補給艦「タイドスプリング」、英補給艦「フォートビクトリア」、 蘭フリゲート艦「エファーツェン」、 加フリゲート艦「ウィニペグ」、英F-35B、米F-35B ●海上自衛隊:護衛艦「いせ」、「いずも」、搭載航空機(SH-60J/K)、MCH-101 ●航空自衛隊:F-35A、E-767 ●訓練項目:戦術運動、通信訓練、発着艦訓練など

【私の論評】中露にとって未だに米英空母打撃群は脅威!だからこそ、英国は空母打撃群を派遣した(゚д゚)!

先日、このブログで以下のようなことを掲載しました。

現在、世界各国が持っている海軍の船は、実は2種類しかありません。1つは空母などの水上艦艇、もう1つが潜水艦です。水上艦艇はすべて、いざ戦争が起こったら、ターゲットでしかありません。

船が浮かんでいる時点で、レーダーなどで、どこで動いているのか存在がわかってしまいます。そこを対艦ミサイルなどで撃たれてしまったら、空母だろうと何であろうと1発で撃沈です。しかし、潜水艦はなかなか見つからないので、その意味では現代の海戦においては潜水艦が本当の戦力なのです。

そういう観点から見ると、中国はたくさんの水上艦艇を所有していますが、潜水艦そのもや対潜戦闘などの能力、水面より下の戦力は弱いです。一方日米は、水面より下の戦力においては圧倒的に強いです。

この原則は、英国海軍にもあてはまります。本当の戦力は、英国海軍でも潜水艦なのです。では、今回の英国空母打撃群にも潜水艦が随伴していたのでしょうか。

やはり、随伴していました。英海軍の原子力潜水艦1隻が2021年8月11日(水)、韓国の釜山に入港しました。

姿を見せたのはイギリス海軍のアスチュート級攻撃型原子力潜水艦で、艦名は不明であるものの、西太平洋を航行中のイギリス空母「クイーン・エリザベス」を中心とした空母打撃群(CSG21)に付き添っている潜水艦ではないかと見られています。

アスチュート級攻撃型原潜

 「クイーン・エリザベス」空母打撃群を構成する艦の中に潜水艦は含まれていないものの、常に随伴していたようで、7月上旬に同空母打撃群がスエズ運河を抜け紅海(インド洋)に入った際には、空母打撃群の構成艦であるフリゲート「リッチモンド」が、同行していた船として、アスチュート級原子力潜水艦の艦影を公式Twitter(ツイッター)に上げていました。

 今回、釜山に入港したアスチュート級原子力潜水艦が、7月にフリゲート「リッチモンド」が公開した原潜と同じ船かは不明ですが、イギリス海軍の原子力潜水艦が極東に来航することは、なかなかありません。

 なお、イギリス原潜が入港した釜山にはアメリカ海軍の基地があり、在韓米海軍の司令部が置かれています。ここは排水量10万トンを越えるアメリカ海軍の原子力空母も接岸可能な広さを有しています。

英空母打撃群は、英国のポーツマスを出港し、スエズ運河、インド洋を経て、日本に入港しました。その間インド洋までは、アスチュート級攻撃型原子力潜水艦が随伴していたわけですが、8月11日には韓国の釜山に、入港しています。

これは何を意味するのでしょうか。現在英空母打撃群の脅威となるのは、中露のみです。中露と比較すれば、世界トップクラスの日米には劣るとはいえども、英国の対潜哨戒能力は、中露よりもはるかに優れおり、英空母打撃群が中露に対応するには、空母打撃群の対潜戦闘能力と、攻撃型潜水艦1隻で十分と判断したのでしょう。

実際、英空母打撃群が、英国を出発してから、日本に入港するまで、まったく平穏無事であったというわけではありません。実際、こ2つの出来事がありました。

6月23日、ロシア国防省は黒海でイギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」に対し、国境警備隊の巡視船による警告射撃およびロシア軍のSu-24攻撃機で警告爆撃を実施したと発表しました。

ロシア国防省によると、本日11時52分に「ディフェンダー」は黒海の北西部でロシアの国境を越えた。(クリミア半島)フィオレント岬の付近3kmの領海に入った。
領海侵犯が発生した場合の武器の使用について事前に警告されていたが、イギリス艦はこれに反応しなかった。12時6分と12時8分に、ロシア国境警備隊(FSB所属)の巡視船が警告射撃を行った。
午後12時19分、黒海艦隊のSu-24M攻撃機が警告爆撃を行い、駆逐艦の進路上に4発のOFAB-250爆弾を投下した。
午後12時23分、誘導ミサイル駆逐艦ディフェンダーは、黒海艦隊とFSBの国境警備隊の共同行動によりロシア連邦の領海の国境を離れた
(元はロシア語の記事を和訳 
出典:ЧФ совместно с ФСБ остановил нарушение российской границы эсминцем Великобритании (黒海艦隊はFSB(連邦保安局)と共同で、イギリスの駆逐艦によるロシア国境侵犯を阻止した):ロシア軍広報TVズヴェズダ
イギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」とオランダ海軍のフリゲート「エファーツェン」の2隻は、極東に向けて遠征作戦を実施中のイギリス海軍の空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群CSG21の参加艦艇で、2隻はロシアを牽制する目的で一時的に分派されボスポラス海峡を通過し(モントルー条約で空母は通れない)、黒海に入ってウクライナのオデッサに寄港した後に、ロシアが占領し実効支配しているクリミア半島付近で行動中でした。

これは今年の春にロシア軍がウクライナ国境に大戦力を集結させて開戦の危機を煽っていた挑発行為への対抗策で(現在は国境線の戦力は撤収済み)、本来はCSG21の行動計画には無かった黒海での対ロシア牽制作戦が急きょ組み込まれたものです。

6月14日、ボスポラス海峡を通過し黒海に向かう英駆逐艦「ディフェンダー」(左)と蘭フリゲート「エファーツェン」(右)

また当初はイギリス海軍の護衛艦艇2隻を派遣する方針でしたが、直前になって1隻はオランダ艦と入れ替えになっています。これは2014年にウクライナ東部で起きたマレーシア航空17便撃墜事件(親ロシア武装勢力の地対空ミサイルによる犯行とされる)での犠牲者にオランダ人が多いことが関係しているのかもしれません。

CSG21の作戦計画とは別に行動していたアメリカ海軍の駆逐艦「ラブーン」も先行して黒海に入っており、米英蘭の3隻の軍艦が黒海でのロシア牽制作戦を実施中でした。その最中にロシア軍は我慢がならなかったのか、これまで過去にも行ってきた攻撃機による接近飛行での威嚇だけでは済ませず、大胆にも警告爆撃という非常に強い行動を示してきたのです。

なおイギリス当局はロシア側から警告射撃を受けた事実を否定しています。イギリス側はクリミア半島をロシア領と認めておらずウクライナ領扱いした上で「ウクライナの領海を無害通航した(つまり領海内に入った事実は認めている)」と述べています。そしてロシア軍は実弾演習していただけで英駆逐艦への警告射撃も警告爆撃も無かったという見解を提示しました。

これは射撃と爆撃はあったが、英艦への警告とは認められていないという意味になります。
HMSディフェンダーへの威嚇射撃は行われていません。

イギリス海軍の艦船は、国際法に則ってウクライナの領海を無害通航しています。

(元は英語の記事を和訳)

出典:Ministry of Defence Press Office (英国防省広報) Twitter
ロシア軍は黒海で砲撃演習を行っており、その活動を海事関係者に事前に知らせていたと信じています。

HMSディフェンダーに向けられた射撃はなく、彼女の進路に爆弾が投下されたという主張も認められていません。

(元は英語の記事を和訳)

出典:Ministry of Defence Press Office (英国防省広報) Twitter
※)英語では船のことを女性に例えます。

仮にロシア側の主張が正しい場合でも、領海内であろうと無害通航権があるので、英駆逐艦が敵対行動をしておらず単純に領海に入っただけであるならば、ロシア側の警告射撃および警告爆撃は国連海洋法条約では認められない行為です。

英空母打撃群CSG21の黒海での対ロシア牽制作戦は、ロシアの過剰な反応により緊張状態をもたらすことになりました。

英空母打撃群が日本に入港するまでに公表されている出来事で大きなものは、空母打撃群を追尾している中国潜水艦を発見したことです。

英空母クイーン・エリザベスを中心とする空母打撃群は7月末に南シナ海に入り軍事演習を実施して8月6日に米海軍のグアム基地に入港したのですが、南シナ海を離れて太平洋に入った際に23型フリゲートのリッチモンド(F239)とケント(F78)が2隻の中国海軍の商級(Type093)攻撃型原潜が空母打撃群を追尾してくるのを発見、さらに水中から空母打撃群を護衛しているアスチュート級攻撃型原潜が別の商級攻撃型原潜を発見したと英国メディアが報じました。

発見した中国海軍の攻撃型原潜に対して英海軍がどのように対処したのかは不明ですが、元英海軍のクリス・パリー少将(フォークランド紛争でアルゼンチン海軍の潜水艦を座礁に追い込んだ経験をもつ)は英国メディアの取材に対して「今回のニュースはイラクやアフガニスタンで著しく低下した対潜水艦戦能力が回復して本来の任務が遂行できるようになったことを示しており良いニュースだ」と述べています。

元英海軍のクリス・パリー少将

さらに、この海域は、対潜哨戒能力が世界トップクラスの日米潜水艦が、定期的に巡航(公表されていないが、軍事筋の常識)しており、これは英空母打撃群だけが発見したのではなく、日米も当然発見していたことでしょう。ただ、日米の発見は、当たり前ですが、英軍による発見はニュースパリューがあるので、公表したのでしょう。

以上から推察すると、英国の空母打撃群は、中露に対しては十分な対潜戦闘能力を持っており、中露両軍の艦艇から十分に防御できるし、これを護衛する攻撃型原潜は1隻で十分と考えているということです。

さらに、南シナ海、東シナ海およびその他の日本領海などでは、日米の潜水艦隊が守備しているため、空母打撃群から潜水艦を離脱させ、韓国に寄港させても、全く問題がないと考えているということです。というより、中国に対して、日米英の連携や日米の海戦能力の高さを見せつけたとも考えられます。

冒頭で、本当の戦力は、英国海軍でも潜水艦であると述べましたが、これは日米英等の対潜哨戒能力が高く、攻撃力の高い攻撃型原潜を持つ英米等、ステルス性の高い潜水艦を持つ日本等、海戦能力の高い国にはあてはまりますが、対潜哨戒能力が低く、低いステルス性しかない潜水艦しかもたないため海戦能力の低い中国にはあてはまりません。ロシアも同じです。

中露にとっては、未だに米英の空母打撃群は脅威なのです。だからこそ、英国は空母打撃群を日本に派遣したのです。

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