2021年9月26日日曜日

台湾・最大野党次期党首に習近平氏から祝電 92年合意や「統一」言及―【私の論評】国民党が原点回帰し反中姿勢に戻れば、米国よりまともな二大政党制が、台湾に根付くかもしれない(゚д゚)!

台湾・最大野党次期党首に習近平氏から祝電 92年合意や「統一」言及

習近平氏(右)と握手する朱立倫氏=2015年、北京

最大野党・国民党の新主席(党首)を決める選挙に当選した元職の朱立倫氏に26日、中国共産党の習近平総書記から祝電が送られた。習氏は「一つの中国」を前提にした「92年コンセンサス」と「台湾独立反対」に言及した上で、「国家の統一」を共に目指す考えを示した。朱氏はこれに対し、「共通点を追い求めながら、互いの違いを尊重しましょう」と呼び掛けた。

対中融和路線を打ち出してきた国民党。党勢の立て直しを目指し、92年コンセンサスの見直しに前向きな姿勢を示していた若手の江啓臣氏が昨年、党主席に選出されたが、慣例となっていた習氏からの祝電はなく、今回、党首に返り咲いた朱氏に祝電が寄せられるか注目された。

朱氏は習氏からの祝電に謝意を示し、与党・民進党が「反中」政策を取ったことで両岸(台湾と中国)の関係悪化を招いたと指摘。92年コンセンサスなどにのっとり、互いの違いを尊重しながら関係の深化を望む考えを示した。

民進党は報道資料で、民主主義国家の政党が独裁国家の指導者からの祝電を期待することはないとし、待ち遠しく思うのは国民党だけだと指摘。また、「統一」に言及した習氏に対し、台湾の主流の民意のために声を上げる勇気がないことは遺憾だとの考えを示した。

(劉冠廷、葉素萍/編集:楊千慧)

【私の論評】国民党が原点回帰し反中姿勢に戻れば、米国よりまともな二大政党制が、台湾に根付くかもしれない(゚д゚)!

昨年1月の総統選挙において、蔡英文総統は野党国民党候補(韓国瑜・高雄市長)に大差をつけて勝利しました。敗北した国民党は、総統選をめぐる過程やその後の経緯を見ても、内部分裂に近い様相を呈していました。

このような状況の中で、昨年3月7日行われた国民党内部の主席(党首)選において、それまで、台湾の政治の世界では、ほぼ無名に近かった江啓臣が選出されました。(江は馬英九政権下で行政院報道官を務めた。立法委員)。

江啓臣氏

台湾内部では、国民党は中国に接近しすぎているとの印象が強く、特に多くの若者たちの間でそのように受け止められているというのが昨年1月の総統選挙の結果が示すところでした。国民党としては、そのような台湾の世論に即応した形のなんらかの「改革」を迫られていました。江については、国民党の「改革派」であると見る向きもあり、勝利宣言のなかで「92年コンセンサス」を放棄することを示唆したとの指摘がありました。

もともと「92年コンセンサス」(「92共識」)という用語は、とくに国民党・馬英九政権下で、中台関係を律するものとして台湾側が使った曖昧な同床異夢を意味する用語です。「一つの中国、各自表述」と訳され、台湾にとっては「一つの中国」とは、「中華民国」を意味します。これに対し、中国のいう「一つの中国」の原則とは、中華人民共和国が唯一の合法政府であり、台湾はあくまでもその領土の不可分に一部にすぎない、ということを意味します。

馬英九総統は2015年5月7日、台湾海峡両岸関係は「92年コンセンサス」と合致してこそ発展すると重ねて強調

それまで約15年間にわたり、中国共産党総書記は、国民党党首が選出されるたびに祝電を発出していたのですが、当時、「92年コンセンサス」の放棄を示唆したとも受け取れる江の選出に当たり、中国共産党ははじめて祝電を出さなかったのです。

それに対し、江は声明を出し、自分としては「中国の意向を尊重する」と述べつつ、祝電が来なかったことは「台湾の国民党の改革に特段の影響を与えない」と述べました。その後、中国国務院台湾事務弁公室のスポークスマンは、江が「92年コンセンサス」を守り、台湾独立反対の立場を堅持することを望む旨の発言をしました。

中国から見ると民進党のみならず、国民党まで中国からさらに離れていくのではないかとの警戒感を強め、江に対し強硬な姿勢を示したのでしょう。中国としては、国民の目を少しでも他にそらせるために台湾に対してより強硬な方策を取ろうとする可能性があるので、今後とも要注意です。

中国共産党に中国大陸から追い出された国民党はなぜ、親中なのか、多くの人は理解に苦しむところだと思います。

戦後の国共内戦で毛沢東率いる中国共産党に敗れて1949年に台湾へ移った蒋介石は反共でした。当時の国民党は、中国共産党を匪賊扱いで「共匪」と呼んで、大陸反攻を国是とする反共政党でした。

大陸反攻を国是としたのも、台湾はあくまでも仮住まいでいずれ中国大陸を奪還し、正統政権として全土支配する意志があったからです。蒋経国総統時代になっても、中国共産党とは「接触しない、交渉しない、妥協しない」という「三不政策」が基本方針でした。

徹底した反共主義者であった蒋介石初代台湾総統

変化が生じ始めたのは80年代後半でした。台湾と大陸の通商・経済交流が徐々に拡大していきました。国民党と共産党のイデオロギーにおける本質的な相違を棚上げして経済的利益を先行させました。その結果、経済の中国依存が進み、中国大陸をなくして台湾は生きて行けない段階にまで至ったのです。

ただ問題は、「中国依存」の恩恵が広く全国民に行き渡らなかったことです。中国共産党政権の「統一戦線」は決して、相手国の一般国民を対象にしているわけではありません。政財界のいわゆるキーパーソンを味方につける手法が取られるため、結果的に一部の特権階層が利益を手にしただけで、全体的国益が軽視・無視されてきたのです。

今回国民党の新主席に選ばれた朱立倫氏は、習近平から祝電を受け、再び中国に融和的になるのでしょうか。しかし、世界中で「反中国共産党」の潮流が勢いを増した現在、その先に中国共産党政権の崩壊・交替があるかもしれないです。

そうなれば、蒋介石が夢見ていた「大陸反攻」が単なる夢ではなくなり、実現する可能性も出てきます。

無論蒋介石の夢がそのまま実現するということはないでしょうが、いざ大陸に民主主義の政体ができた時点で、国民党が民主主義国家運営のノウハウや豊富な党内人材を生かせば、与党としての貫禄を世界中に見せつけるという可能性もでてきます。

現在国民党が基本的な立場を「反中国共産党」に切り替えたところで、むしろ重荷を下ろしての原点回帰といえます。そうすれば、民進党との戦いを本格化させ、政権奪還に挑むこともできます。

晩年の李登輝元総統

このように見方を変えれば、国民党は、目先の利益よりも長期的利益に着目し、より大きなビジョンを掲げることができます。台湾民主主義の父である李登輝元総統は、「反攻大陸」のスローガンを下ろしたものの、台湾の民主化を推進した国民党の政治家であり、蒋介石を補佐していたことを思い起こすべきです。

そうして、蔡英文率いる民主進歩党も、紛れもなく、民主化の産物なのです。国民党がまともになれば、台湾にまともな二大政党制が根付くことになるかもしれません。そうなれば、米国の二大政党制よりまともなそれが、台湾に出来あがることになるかもしれません。

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