2021年9月20日月曜日

米露関係の焦点となるウクライナ―【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

米露関係の焦点となるウクライナ

岡崎研究所

 ウクライナのゼレンスキーは大統領当選後、ホワイトハウスで米大統領と会談することを求めてきたが、これが9月1日にようやく実現した。会談は2時間行われたという。

 ウクライナ側は、バイデン大統領はロシアに迎合しウクライナを軽視しているのではないかとの懸念を抱いて来た。6月に行われた米ロ首脳会談は、米政権は2014年のロシアのウクライナのドンバスへの侵攻を軽く扱っているとのウクライナの批判や懸念を招いた。7月にバイデンがメルケルと取り引きを行い、ノルドストリーム2パイプラインへの反対を取り下げた決定も同様である。


 バイデンは今回の会談で、米国の「ウクライナの主権擁護への強固な約束とロシアの〝侵略〟への反対」を打ち出し、ウクライナを安心させようとした。バイデンは、ウクライナに対する6000万ドルの安全保障支援パッケージを発表し、ペンタゴンは黒海での安全保障、サイバー安全保障、情報共有についての協力を推し進める「戦略的防衛枠組み」に署名した。

 ゼレンスキーは、訪米前に米国がウクライナのNATO加盟についてイエスかノーかの回答をバイデンより得たいとメディアに述べていたが、NATO加盟問題について米国より明確な回答は無かった模様である。ウクライナのNATO加盟は米国が単独で決められる問題ではなく、今や30か国になったNATO同盟国の全会一致で決められるべき問題であるので、ゼレンスキーの要求は過剰な要求であったように思われる。

 ホワイトハウスのサキ報道官は記者会見で「米国はウクライナのNATO加盟願望を支持しているが、そのためにウクライナにはしなければならない行動がある、ウクライナはそれが何であるかを知っている。その行動とは法の支配の前進努力、防衛産業の近代化、経済成長の拡大である」と指摘し、「(加盟希望国が)加盟国の義務を履行できるようになり、欧州大西洋地域の安全に貢献できる時のためにNATO参加の扉を開いたままにしておくことを支持している」と述べた。

 NATO加盟問題については、進展はなかったが、上述の通り、ウクライナに対する武器供与については6000万ドルの安全保障支援パッケージが合意されたこと、バイデンからウクライナの主権と領土一体性を守る米のコミットメントは「鉄の装甲のように固い」との発言を引き出したことは、ウクライナ側にとり歓迎できることであったと思われる。

行動指針を示したとも言えるプーチンの論文

 米中対立では台湾が今後焦点になるが、欧州における米ロ関係では、今後ウクライナが焦点になる可能性が最も高いと思われる。 

 本年7月21日にプーチンは自ら「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」という論文を発表している。要するに、ロシア人とウクライナ人は同じ民族であるとする主張である。これをプロパガンダと片づける人も多いが、プーチンの今後の政策、行動方針を示したものと言う人もある。後者のごとくみなして、警戒していく事が正解ではないかと考えられる。

 今年の4月、ロシアはクリミアや東部ウクライナの国境近くに10万以上の兵力を演習と称して展開、ウクライナに威圧を加えた。バイデンがプーチンとの首脳会談を持ち掛けたのはこの緊張の緩和をも狙ったものであった。ロシアはこの兵力は撤収させたが、ウクライナ側はいつでもロシアは兵力展開ができる状況が続いているとしている。ウクライナ問題はかなり大きな影響を世界情勢に与える問題であり、注視する必要がある。

【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

上の記事で、プーチンが論文を書いたことが示されています。プーチン大統領は元々節目節目で「論文」を発表する人です。もちろんそれは学術的な意味での論文ではないですが、プーチン氏の政見がうかがえるという意味で興味深くはあります。

その先駆けとなったのが、まだ首相だった1999年12月30日に発表した「千年紀の狭間におけるロシア」という論文でした。


その翌日、エリツィン大統領が電撃的に辞任し、プーチン氏は大統領代行に就任して、名実ともにロシアの最高権力者となりました。


プーチン氏


2012年3月の大統領選挙前には「論文攻勢」を仕掛けたこともありました。2012年に入ると、プーチン首相(当時)は実質的に自らの選挙綱領に相当する一連の論文を新聞紙上で次々と発表しました。週1本のペースで発表された論文は計7本に上りました。


このように、何か事を起そうという時にまず「論文」を発表して、自らのビジョンを示して見せるというのがプーチン流なのです。


そうして、2021年7月12日付の大統領の署名による「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」というタイトルの論文がクレムリンのHPに掲載されました。

ちなみに、ウクライナ国民の感情に配慮したのか、ロシア語に加え、ウクライナ語のテキストも添えられています。

以下に、論文の主要点を掲載します。
近年、ロシアとウクライナの間に出現した壁を、私は大きな共通の不幸、悲劇として認識している。それは、様々な時期に我々自身が犯した過ちの結果ではある。

しかし、我々の統一性を常に損ねようとしてきた勢力が意図的にもたらした結果でもあった。

今日のウクライナは、完全にソ連時代の産物である。ウクライナは多分に、「歴史的なロシア」を損なう形で形成された。「歴史的なロシア」は、ソビエト政権の下で、実質的に簒奪されたのである。

ウクライナ人が独立した民族だという概念を強化する上で決定的な役割を果たしたのは、ソ連当局だった。

まさにソ連の民族政策によって、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人からなる三位一体のロシア民族に代わり、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人という3つの個別のスラヴ民族が、国家レベルで固定化されたのである。

ソ連が崩壊した時、新生ロシアは新たな地政学的現実を受け入れた。それのみならず、ウクライナが独立国としてやっていけるよう、困難な1990年代にも、2000年以降も、ウクライナに巨額の支援を行ってきた。

1991~2013年に、天然ガスの値引きだけでも、ウクライナの国庫は820億ドル以上を節約できた。ウクライナ当局は、今日でもロシアから年間15億ドルのガス・トランジット収入を得ることに汲々(きゅうきゅう)としている。

ロシアとの正常な経済関係が維持されれば、ウクライナはその経済効果で年間数百億ドルを期待できたはずなのだが。

ウクライナとロシアは、数十年、数百年と、単一の経済システムとして発展してきた。30年前の協力関係の深さはEU諸国が羨むほどのものだった。

両国は、自然かつ補完的な経済パートナーである。緊密な関係は、お互いの競争力を強化し、両国の潜在能力を数倍にも発揮することを可能とする。

ウクライナには、大きな経済的ポテンシャルがあった。ソ連から遺産を継承したウクライナの指導者たちは「ウクライナの経済はヨーロッパでトップレベルになり、国民は最も高い生活水準を享受できるようになる」と約束した。

ところが、かつてウクライナとソ連全体が誇りとしたハイテク巨大企業は、今日では休眠している。過去10年間で機械産業の生産は42%減少した。過去30年間で発電量がほぼ半減していることからも、工業の衰退と経済全体の劣化の程がうかがえる。

IMFによると、2019年のウクライナの一人当たりGDPは4,000ドルを下回っており、ウクライナは欧州最貧国となっている。こうした状況に責任があるのはウクライナ国民ではなく、権力者である。

ウクライナは欧米によって危険な地政学的ゲームに引き込まれていった。その目的はウクライナをヨーロッパとロシアを隔てる障壁にし、またロシアに対する橋頭堡にすることだった。

ウクライナには、ロシアとの提携を支持する人々が数百万人もいるが、彼らは自分たちの立場を守る法的な機会を実質的に奪われている。彼らは脅迫され、地下に追いやられている。 ロシアはウクライナとの対話に前向きで、複雑な問題を議論する用意がある。

私は、ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能であると確信している。ともにあれば、これまでも、そしてこれからも、何倍も強く、成功するはずだ。結局、我々は一つの民族なのだから。
ロシア大統領府公式サイト
論文の中でプーチン氏は、ロシア人とは異なるウクライナ人の民族的独自性を否定するようなことを述べています。プーチン氏は以前もそのような主張を唱えていました。

さらに、ロシア人という包括的な民族があり、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人の三つはその支族であったという定式は、ロシアにおける伝統的な民族観を踏襲したものに過ぎません。

2010年に行われた意識調査によると、ロシア人とウクライナ人が単一の民族だと認識しているのは、ロシア側では47.1%、ウクライナ側では48.3%だったといいます。

そのため、今回プーチン氏がロシア人とウクライナ人がもともとは民族的に同一と述べたからと言って、特別新奇な問題発言というわけではありません。

ロシアの人口は200近くの異なる民族で構成されており、その中には200万~300万人のウクライナ人も含まれています。ウクライナ人とベラルーシ人は、ロシアの他の少数民族よりも文化的にロシア人に近いです。

ロシア人はウクライナの人口の17%を占めており、ロシアの文化はウクライナの文化の一部であることを意味しています。

とはいえ、いくつかの違いはありますが、それは対照的と言うよりかは連続的なものです。ウクライナ東部と南部に住むウクライナ人はロシア人とほとんど区別がつかないのに対し、ウクライナ西部のウクライナ人は文化的にはかなり違っています。

最も明白な違いは言語です。ウクライナ人のほぼ全員がロシア語を話しますが、家庭でロシア語を使うのは半数にすぎず、ロシア語を母国語としているのは30~50%にすぎません。ウクライナの西部地域では、ウクライナ語が主流です。

もう一つの違いは宗教です。ロシア人のほぼすべての民族はロシア正教の信奉者であり、特にウクライナの東部や南部のウクライナ人の大多数も同様です。しかし、ウクライナ西部ではカトリックの信者が多く、プロテスタント/福音主義者の数はロシアよりも多いです。

政治的には、強権国家を支持するロシア人よりも、無政府主義的な態度をとるウクライナ人の方が多いのではないでしょうか。また、現時点では、ウクライナ人はロシア人よりも西欧に対して好意的な態度を取っています。

しかし、ウクライナでも時代とともに独自の民族理念が浸透し、2014年の政変以降はそれがさらに強まっています。

ウクライナ領クリミアを一方的に併合し、東ウクライナ・ドンバス地方に戦乱をもたらした張本人のプーチン氏が、ロシア人とウクライナ人は同一民族というようなことを述べれば、多くのウクライナ国民が不快に感じるのは必至です。

そもそも、プーチン氏はなぜこのタイミングで、確実に物議をかもすであろう論文を発表したのでしょうか。

ロシアの専門家による分析の中で、には確かにプーチンは今回ロシア人とウクライナ人の民族的一体性を強調してみせたのですが、だからと言ってそれを根拠にプーチン政権がウクライナに対し、新たに侵略的な政策を発動することは考えにくいという指摘がありました。

今年に入ってから、ロシアが対ウクライナ国境に兵力を集結させるなどして、ドンバス情勢が緊迫化した経緯がありました。

ウクライナのドンバスの位置 色が濃い部分

しかし、強硬姿勢が思うような効果を挙げなかったため、プーチン政権としては対ウクライナおよびドンバス政策を仕切り直そうとしており、その一環としてプーチン氏は「論文」という形でロシアの立場を改めて明確化しておくことにしたのでしょう。

今回のプーチン論文をウクライナ国民がどのように受け止めているかを調べた世論調査の類は、まだ発表されていないようです。

そのため、ウクライナ国民の反応については推測するしかないのですが、今のところプーチン論文がウクライナ国民の意識を大きく変えることはないのではないようです。ウクライナの人々は、プーチン体制のロシアに対する態度を、すでに固めているからです。

ウクライナ国民の多数派は、2014年にプーチン政権が行ったクリミア併合・ドンバス介入という仕打ちを許していません。今さら、プーチン氏がロシア人とウクライナ人の民族的一体性をアピールしたところで、「なるほど、ではロシアをパートナーに選ぼう」ということにはならないでしょう。

もちろん、プーチン論文はロシア国民の琴線には触れるところがあり、プーチン政権が対ウクライナ政策を国内向けに正当化するという意味はあるでしょう。

ちなみに、プーチン論文へのコメントを求められたゼレンスキー・ウクライナ大統領は、ロシアの我が国に対する態度は真に兄弟的なものとは言えず、むしろ「カインとアベルの関係を思わせる」と指摘しました。

カインとアベルは、旧約聖書に登場するアダムとイヴの息子たちのことであり、兄がカイン、弟がアベルである。旧約聖書によれば、カインがアベルを殺してしまい、これが人類初の殺人で、さらにそのことについてカインが白を切ろうとしたことが、人類初の嘘であったとされています。

ゼレンスキー・ウクライナ大統領

ロシアは面積こそ世界一ですが、人口は約1億4000万で日本をわずかに上回る程度です。経済規模は日本の3分の1以下、米国の10分の1以下で、世界で12位。G7各国はもちろん、韓国をも下回ります。そんな国がなぜ大統領選への介入疑惑で米国をゆさぶり、中東や朝鮮半島情勢で発言権を確保できるのでしょうか。

まずは、ロシアは旧ソ連の核や軍事技術を直接継承した国であるということです。GDPが低下したからといって、この点は侮れないところがあります。さらに、それだげてはありません。

力の源泉をたどっていくと、やはり石油と天然ガスです。

この10年ほど、ロシアが戦略的に進めてきたのがアジア・太平洋方面への輸出の拡大です。日本も石油・天然ガスともに1割近くを依存。欧米からの制裁が、「東方シフト」をさらに後押ししています。


北極方面からロシアの地図を眺めると、旧ソ連時代に建設された欧州方面へのパイプラインに加えて、中国や太平洋に向けて、両腕を広げるようにパイプラインの建設が進んでいることがわかります。


欧州の命綱を握っているという自信が、国際的に孤立しても強気の姿勢を崩さない理由のひとつでしょう。さらに、どこにでも運べるLNGの生産能力を高めていくことがロシアの戦略です。


ところが、石油・天然ガスは、ロシアのアキレス腱でもあります。1991年のソ連崩壊は、85年から86年にかけて起きた原油価格の急落が引き金を引いたと指摘されています。エリツィン政権時代も安値が続き、98年には債務不履行(デフォルト)に追い込まれました。


それが、2000年のプーチン政権の誕生と機を同じくして価格は上昇に転じ、ロシアは瞬く間に債務国から債権国に。ところが、その後もリーマン・ショックなどによる原油価格下落のたびに、ロシア経済は大きく揺らぎました。


米国発のシェールガス革命は、天然ガスでのロシアの独占的な立場を脅かしています。頼みの「東方シフト」の先行きも不透明です。輸出先として期待する中国は中央アジア諸国からも輸入しており、ロシアの資源を安く買おうと揺さぶりをかけます。石油とガスは、ロシアにとって諸刃の剣になっています。


軍事技術は別にして、その他は、石油・ガスだけが、一次産品のロシアの原動力であることから、これから急激に発展する可能性は全くありません。


ロシアは、米国を除いたNATOさえ対峙できないでしょう。たとえば、ウクライナを巡ってロシアがNATOと戦争にでもなった場合、初戦においては、最新の軍事技術を用いたり、石油天然ガスをとめるなどで、大きな成果をおさめるかもしれません。


しかし、その後戦争が長引けば、NATO諸国は同盟国の力も借りることができるのて、反転攻勢にでるでしょう。


ロシアは、元々GDPが低迷していることと、他国からの援助もなく、兵站を維持できなくなるでしょう。食料・弾薬などが尽きて、お手上げになります。そうなれば、多くの兵士は自国内に敗走するしかなくなります。そうして、兵站にすぐれたNATO加盟国は追撃戦に入り、ロシア国内にまで入り込むことになるでしょう。


これが、現在のロシアの実力です。ロシアはもはや超大国ではないどころか、EUなどと比較すれば、貧しい国なのです。そのようなことはわかりきったことなので、プーチンとしては、NATO諸国と事を構えることはできないので、ウクライナに対して呼びかけをして、機会を探るという戦略に出たのでしょう。


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