2021年5月10日月曜日

ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い―【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い

岡崎研究所

 ロシア軍がウクライナとの国境地帯に集結し、ウクライナとロシアとの緊張が高まっていた。戦車、軍用機、海軍艦艇とともにロシア軍兵士約10万人が展開し、米国とNATOはこれを厳しく非難していた。


 この展開についてロシア側は、部隊は演習をしているのであり、誰に対する脅威でもない、と言ってきた。4月23日、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じた。ただし、ショイグは、NATOの年次欧州防衛演習(東欧諸国で6月まで行われている演習)で不利な状況が出て来た場合にすぐ対応できるようにロシアの全部隊は即応体制にとどまるべきである、とも述べている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領の補佐官の一人は、撤退が正確に何を意味するのか確かではないと注意喚起した。彼は「撤退は歓迎されるが、最近の数か月と過去数年の前例のないロシア軍の増強を見ると、撤退声明が何を意味するのかはっきりしない、まだこの件がどう展開するか、予見するのは難しい」と述べている。

 とはいえ、緊張は緩和されつつあると見てよいだろう。歓迎できる展開である。

 ロシアがどうして撤収に踏み切ったのかについては、4月13日にバイデン大統領が欧州のどこかで米ロ首脳会談を開くことを提案し、ウクライナ問題も話し合うことを電話でプーチン大統領に提案したことが大きな役割を果たしたという説が多い。おそらく、その通りなのだろう。

 4月22日、ロシアが2014年に一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島で、
 軍用ヘリコプターから軍事演習を視察するショイグ国防相

 ロシアの今回の演習は、ウクライナ領内に侵攻する能力を誇示し、ウクライナを恫喝することを目的にしていた。

 プーチンに敬意を示していたトランプと違い、バイデンはロシアに厳しく、クリミア併合についても認めていないし、今後も認めるつもりはないと明言している。これを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領もクリミア奪還を言うなどしている。今回の演習はそういうことも考慮したうえで、バイデン政権を試すものであったと思われる。

 今後の米ロ首脳会談がどういう話し合いになるのかが注目されるが、プーチンもバイデンも基本的な立場を変えるとは思われない。この問題は米ロ間で意見が異なる問題として残っていくことになろう。

 ロシアとウクライナの関係は、こういう演習騒ぎや東部ウクライナでの紛争の激化を受けて、どんどん悪くなっていくだろうと思われる。プーチンの支持率を80%以上に押し上げたクリミア併合は、ロシアとウクライナ関係に大きな懸案として残るだろう。

 なお、1994年に米英露は、ウクライナが非核兵器国となることの見返りに国境の尊重などをいわゆるブダペスト合意で約束した。この合意は政治的なものであるが、ロシアにより破られた。

【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

ナヴァリヌイに対する毒殺未遂、その帰国直後の拘束、執行猶予判決の実刑化、ナヴァリヌイ釈放要求デモに対する取り締まりなど、ロシアの現状は西側のパートナーになりうる国ではなく、西側との対決を選んだ国であるといえます。

3月月初めEUの外交責任者であるジョセップ・ボレルがモスクワを訪問しましたが、セルゲイ・ラブロフ外相から非礼とも受け止められる扱いを受け、ほうほうの体でブリュッセルに戻りました。

ジョセップ・ボレル

そうして同月22日に開かれたEU外相理事会は予想通りロシアに新たな制裁を科すことを決めました。ロシアのラブロフ外相はボレルに恥をかかせるために共同記者会見を利用したとしか考えられないです。

その上、ボレルがモスクワ訪問中にEU3か国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン)の外交官追放措置を、ボレルに事前に通報することなく突然発表しました。このようなロシアの振る舞いはEU=ロシア関係を今後難しいものにしていくでしょう。

EUの中では、バルト諸国やポーランドなど東側の国がロシアに厳しく、独仏伊西など西側の国がロシアに甘いという分裂がありますが、今後、東側諸国の意見がより強く反映した政策になっていく可能性が強いです。ドイツ、スウェーデン、ポーランドは自国の外交官追放に対し、ロシアの外交官を追放する措置をすぐにとりました。

プーチンのロシアは、国際法を無視するという点で、習近平の中国と同じです。中ロは最近ますます共同戦線をはっています。プーチン政権は、改正憲法で、憲法は国際法より上位の法であると勝手に規定し、ロシアをならずもの国家にしています。

こういうロシアの変化は、当然、日ロ関係にも影響を与えます。メドヴェージェフは改正憲法でロシアの領土を譲渡してはならないことになったので、日ロ間の領土交渉は終わったとの趣旨の発言をしています。

このような政権を相手に条約を結んでも意味がありません。ロシアとの外交関係のあり方を真剣に再考すべきです。日ソ共同宣言に違反するロシアの言動は厳しくとがめ、覚悟を持って、本当のロシアに日本も対峙していくべきです。

プーチン

プーチンはネオスターリン主義者であり、プーチンとの関係で日ロの諸問題を話し合いで進展させることはほぼ不可能です。プーチンは2036年まで政権の座に居られることに改正憲法でなっていますが、ロシア国内での反プーチンのデモなどを見ると、そういうことにはならないでしょう。ポスト・プーチンをにらんで、対ロ外交は考えていかざるを得ないでしょう。

ただし、このブログにも度々掲載しているように、ロシアのGDPはいまや日本の1/5であり、東京都とほぼ同じです。東京都がいくら軍事力を強化したにしても、限界があるのと同じく、現状のロシアは、米国抜きのNATOとも本格的に対峙することはできないでしょう。

とはいいながら、ロシアは旧ソ連の核や軍事技術を継承する国であり、侮ることはできませんが、それにしても限界は見えています。

ウクライナのゼレンスキー大統領の補佐官の一人は、ウクライナ付近のロシア軍の撤退が正確に何を意味するのか確かではないと注意喚起したといいますが、その意味するところは、大規模な演習にはとてつもなく大きな費用がかかるので、いつまでも続けることはできないということを意味しているのだと思います。

国内最大規模の実弾射撃訓練「富士総合火力演習」(2014年)でさえも、2時間で使った弾薬約44トンは約3・5億円相当です。燃料費の約3000万円を合わせて約4億円です。ロシアの実施する、大演習だとまさに天文学的な費用がかかるものと考えられます。

富士総合火力演習


1991年12月、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)が崩壊しました。2021年はそれから30年が経過したメモリアルイヤ ーです。連邦を構成した15の共和国はその後、いわゆる体制転換を経て現在に至っています。ウクライナもその一つです。 

 ソ連の後継国家であるロシアの経済は、この30年で10年ごとに危機と繁栄、停滞と紆余曲折を経てきました。この 間、課題であった原油依存からの脱却はあまり進みませんでした。

さらに原油価格の低迷に加えて、2014年のクリミ ア危機以降は欧米から経済制裁を受けており、経済は苦境にあえいでいます。 

 他方で、ロシア社会は近年、所得格差の是正などに成功したことなどから安定を強めています。とはいえそうした安 定は2000年代の繁栄の10年期の貯金を切り崩して実現した安定でもあります。

社会の安定が続くためにも、ロシア経済は成長の持続可能性を高めていく必要があります。 ロシア経済が今後10年で活力を取り戻すためには、引き続き資源国として歩み続けるにせよ、産業構造の多角 化を図るにせよ、外資の一段の導入が不可欠です。

そのためには、ビジネス環境の一段の整備に努めると同 時に、やはり欧米との関係改善も大きな課題となるはずでした。 

 産業政策と外交政策を両立させるためには、政治の安定が必要条件になります。つまるところ、プーチン政権から権 力がスムーズに移行されるかどうかが、今後のロシア経済のカギを握ることになるはずです。となると、ロシア経済の回復は絶望的とみるべきでしょう。

現状では、EUや日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が、最も妥当であると考えられます。その先に、プーチンの退陣、そうして西側のパートナーになりうるロシアがみえてくることになります。


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