2021年5月13日木曜日

台湾を見殺し?バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な本性―【私の論評】バイデンが中国に融和的になっても、中国は台湾に武力侵攻できない(゚д゚)!

台湾を見殺し?バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な本性

                台湾海軍の軍事演習

(北村 淳:軍事社会学者)
 
 台湾国防部によると、本年(2021年)4月だけで中国軍航空機による台湾の防空識別圏への侵入は107ソーティー(Sortie:作戦機1機による1任務1回の出撃)を数えた。本年1月から4月では283ソーティーにのぼっており、すでに昨年の75%に達している。

  【写真】台湾空軍の戦闘機。アメリカ義勇航空隊「フライング・タイガース」の塗装が施されている。 

 中国軍機による台湾ADIZ(防空識別圏)侵入は主として対潜哨戒機による南西部のバシー海峡上空方面に集中している。これは、アメリカ海軍潜水艦が西太平洋から南シナ海に侵入する際にはバシー海峡海中を通過するため、中国側はバシー海峡での対潜能力を向上させるため頻繁に同空域に対潜哨戒機を接近させていると考えられる。 

 ただし、最近はH-6Kミサイル爆撃機ならびに戦闘攻撃機のADIZ侵入回数が増加している。バシー海峡を通航する米海軍水上艦を対艦超音速巡航ミサイルで攻撃するデモンストレーションを実施し、米海軍を牽制しているものと思われる。

 ■ 台湾に対する疲弊作戦

  もちろん、中国軍機の執拗な台湾ADIZ侵入は、一義的には台湾への軍事的威嚇とりわけ台湾空軍への疲弊作戦ということができる。これは東シナ海方面で航空自衛隊に対して継続しているものと同じで、長期にわたってADIZ侵入や接近を執拗に繰り返し、台湾軍戦闘機や自衛隊戦闘機にスクランブルを強い続けることにより、台湾空軍と航空自衛隊のパイロット、整備要員、そして機体を疲弊させる作戦である。そうした疲弊作戦は、空中戦のような戦闘ではない以上、何といっても手持ちの航空機の数が決め手となる。

 そして、中国側は新鋭戦闘機だけでなく旧式戦闘機でも台湾機を誘い出すことが可能である。また、高速の戦闘機に限らず、低速の哨戒機や、場合によっては低速非武装の輸送機でも、台湾や日本の戦闘機を誘い出すには十分だ。反対に、台湾側は数に限りのある戦闘機を発進させなければならず、加速度的に疲弊してしまうのである。

  ちなみに、中国空軍はおよそ700機の近代的戦闘機とおよそ450機の旧式戦闘機、50機程度の戦闘爆撃機、120機のミサイル爆撃機、およそ50機の各種警戒機を運用している。また中国海軍は144機の近代的戦闘機、120機の戦闘攻撃機、およそ50機の旧式戦闘機、30機のミサイル爆撃機、それにおよそ40機の各種哨戒機を運用中だ。これに対して台湾空軍は新旧合わせてわずか250機の戦闘機で立ち向かうことになる。 

■ 徐々に現れ始めた「中国に融和的」な本性 

 中国軍が台湾ADIZへの侵入を急増させたのは、トランプ政権が台湾への武器輸出促進や政府高官の訪問といった露骨な「親台湾・反中国」政策を推進したことへの対応である。  そして、バイデン政権が今のところトランプ政権の対中強硬姿勢を継承しているのを威嚇するように、中国はADIZ侵入をはじめとする台湾への軍事的威圧を強化し続けている。そのため、「米中軍事衝突が勃発しかねない」といった論調も現れ始めている。

 ところが、対中強硬派の米海軍関係者たちがかねてより危惧していたとおり、バイデン政権の対中軍事姿勢が徐々に「中国に融和的」な本性を現し始めた。  バイデン政権の対中軍事政策の司令塔であるインド太平洋調整官、カート・キャンベル氏は先週、「万が一にも中国が台湾を軍事攻撃した場合、アメリカが中国と干戈(かんか)を交えてでも台湾を防衛するか否かに関して、バイデン政権が明確な立場を示すことは差し控えるべきである。そのような行動は『アメリカの国益を深刻に損なう』からだ」と述べた。

  キャンベル調整官は、オバマ政権時代に南シナ海問題を巡って中国に妥協的な政策をとった張本人として対中強硬派から「目の敵」にされていた。そのキャンベル氏が、アメリカは台湾を巡って明確な立場を示すべきではなく、かつてのように(トランプ時代以前のように)戦略的に曖昧な立場を継続することが肝要である、と主張しているのだ。

  要するに、トランプ政権のように台湾を軍事的に支援し、反中姿勢を露骨に示してしまうと、中国の台湾への軍事的強硬姿勢を加速させてしまい、やがては米中軍事対決に至るおそれがある。それはアメリカにとって最悪の事態である。したがって、アメリカとしては中国と台湾を巡ってうやむやな立場を取り続けることによって、「曖昧な安定」という現状維持を継続させるべきである、というわけだ。

 このように、バイデン政権発足後、これまではトランプの親台湾政策をあたかも踏襲するポーズを保持してきたが、かつての曖昧戦略への回帰修正が開始されたようである。

  その結果、これまで米海軍が頻繁に実施していた台湾海峡通航や南シナ海でのFONOP(公海航行自由原則維持のための作戦)は偶発的軍事衝突を引き起こしかねないという理由で徐々に減らされるか、あるいは実質的に軍事的価値のない作戦に制限される可能性が高い。

  もちろん、キャンベル調整官やバイデン政権にとって、尖閣諸島の日本主権を支持するための東シナ海での中国への軍事的圧力などは論外ということになる。

北村 淳

【私の論評】バイデンが中国に融和的になっても、中国は台湾に武力侵攻できない(゚д゚)!

上の記事のような見方は、複数の識者がしています。たとえば、古森 義久氏(産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)も、昨日冒頭の記事と同じ、JBプレスに以下の記事を掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
やはり「トランプ路線継承」ではなかったバイデン政権の対中政策
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 バイデン政権の大統領副補佐官(国家安全保障担当)、インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は5月4日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」がニューヨークで主催した、大企業代表たちが出席するシンポジウム形式の会議で演説した。

  キャンベル氏は、バイデン政権の対中・対アジア政策立案の中枢にいる人物である。演説の内容は、やはり対中政策が主体となった。

  キャンベル氏はバイデン政権の中国へのアプローチについて、「オバマ政権の対中協力という努力と、トランプ政権の“中国に対抗”という強硬路線の、両方からの借用だと特徴づけられる」と述べた。バイデン政権の高官が、同政権の対中政策の一部がオバマ政権の政策からの借用であることを認めたのだ。

  キャンベル氏はこの演説で対中政策に関して以下のような骨子を述べた。 

 ・バイデン政権の対中政策は、オバマ大統領トランプ大統領のそれぞれの中国に対する政策要素の混合である。両方の政策の合成だともいえる。

  ・オバマ、トランプ両政権のそれぞれの中国へのアプロ―チには英知が含まれているが、同時にそれぞれに矛盾も存在した。私たちバイデン政権としては、中国と共通の懸念を抱く課題について、中国と協力できる領域への関心を高めている。

 ・バイデン政権は、中国に対して「攻勢的」と「防御的」の両方の措置をとっていくだろう。中国との競合では、テクノロジー分野への投資を強め、中国で活動する米国企業への中国側からの侵害を防ぐ手段もとることになるだろう。 
       バイデン政権の大統領副補佐官(国家安全保障担当)、
       インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏

このような状況になることは、このブログではすでに随分前から予測していました。その記事のリンクを以下に掲載します。

バイデン政権、対中強硬派のキャンベル氏を起用―【私の論評】対中国強硬派といわれるカート・キャンベル氏の降伏文書で、透けて見えたバイデンの腰砕け中国政策(゚д゚)!

 この記事にも、掲載したように、キャンベル氏は今年の1月に、中国への降伏宣言ともいえる内容の論文を公表しています。この記事より、一部を引用します。詳細は、是非この記事をご覧になってください。

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そもそもキャンベル氏の主張そのものにも疑問符がつきます。キャンベル氏は、「How Can America Shore Up Asian Order ~ A Strategy for Balance and Legitimacy」と題した外交論文を1月12日にForeign Affairs(オンライン)誌に掲載しましたた。そうしてこの論文は、率直に言って中国への降伏宣言ともいえる内容だと思います。

同論文は、19世紀の勢力均衡と欧州の協調を論じたヘンリー・キッシンジャーの博士論文を引用して、アジアの秩序を形成するためには、以下が必要であると主張しています。(詳細は、この記事を御覧ください)

①バランス(勢力均衡)の修復

②レジティマシー(正統性)の回復

③連携(コアリション)の促進が重要

そうして、多くの人々がすでに指摘していることですが、同論文で「インド太平洋」という言葉は度々使われるものの、「自由で開かれたインド太平洋」は一度も引用されていないのです。

キャンベル氏の任命により、バイデン政権は、オバマ政権下での消極外交路線に回帰するのは目に見えています。米国が、対中国戦略において、他国と足並みを揃えるだけでは誰も前に出なないというか、出られません。

トランプ氏の外交政策は強引過ぎた面はあったものの、単独でも中国と対立する姿勢は、一定のリーダーシップと存在感を見せていました。キャンベル氏が論文で見せる弱腰あるいは護送船団姿勢では中国とはまともに戦えません。

アジアの新秩序は米国が他国と協調するような姿勢では樹立できません。米国がまず先頭にたたなければ、難しいです。
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このような予測をたてていたので、私自身は、バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な姿勢を見せ始めたことには、あまり驚きはしません。

冒頭の記事のタイトルには「台湾を見殺し」という、刺激的な文言がありますが、バイデン政権が中国に融和的な姿勢をみせたとしても、さすがに台湾海峡の現状変更までは許すことはないと考えられます。

ドナルド・トランプ政権が米中関係を逆転させて以来、バイデン政権も『台湾重視』の基調は踏襲しているようです。ただしバイデン政権は、台湾海峡での軍事的紛争を望まず現状を維持を望んでいるようではあります。


特に、中国が勝手に中間線をずらしたり、ましてや台湾に武力侵攻を許すようなことはしないでしょう。バイデン政権がこれを許したにしても、米国議会は共和党は無論のこと、多数の民主党議員も黙ってはいないでしょう。超党派で新たな立法をしたり、様々な働きかけをして、バイデンの尻を叩くでしょう。

台湾海峡の中間線とは、台湾海峡で中国大陸と台湾本島の中間点を結ぶ線です。米国と台湾の米華相互防衛条約締結時(1955~79年)の58年に米軍が台湾防衛のために引いた「デービス線」に由来し、中台双方の軍は平時には越えないとされています。

ただ、中国側は公式に認めておらず、中台間の「暗黙の了解」として運用されてきました。台湾の国防部は北緯27度、東経122度と北緯23度、東経118度を結ぶ直線と定めています。

中国側は、この中間線を超えることもありますが、台湾は無論のこと、米国もこの中間線を中国が勝手にずらすことは認めないでしょう。具体的には、中国がこの中間線を超えるような行為をすれば、米台もこれを超えて、中国側に入る行動をして、中国を牽制することになります。

さらに、米国はQUADに参加しています。たとえバイデンが中国に融和的な態度をとったにしても、QUADがある限り、米国は台湾危機を見過ごすことはできないでしょう。

日本では、2016年に施行された安保関連法において台湾危機を「日本の存立が脅かされる明白な危険」と見ることができる「存立危機事態」という判断が下されれば、限定的集団的自衛権を行使できる道を開いてあります。自衛隊が集団的自衛権を行使する初の事例が台湾有事になり得ます。

特に、日本単独では、この判断は難しいかもしれませんが、QUADに加盟していることから、他の加盟国から要請があれば、前向きに検討し、場合によっては「集団的自衛権」を行使することになるでしょう。

具体的には、台湾有事には、日本は潜水艦隊を台湾付近に派遣して、情報収集にあたり、米国を含むQUAD諸国に情報提供をすることになるでしょう。無論、その過程で、中国軍を攻撃する可能性もないとは言い切れません。

日本の潜水艦は静寂(ステルス)性に優れていることから、中国軍はこれを発見できません。日本の潜水艦隊は、中国に発見されることなく、中国軍の動きを把握して、原子力を用いるという構造上によりステルス性には劣る米軍の原潜に協力すれば、米軍の攻撃力が驚異的に高い原潜が、中国軍に大打撃を与えることになります。

1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級

無論中国も、超音速ミサイルなどで挑んでくるでしょうが、どんなに優れたミサイルでも、発見できない敵に対しては無効です。ここが中国の致命的弱点です。

ちなみに、日米それに豪も対潜哨戒能力が中国に比べて、非常に高いので、中国の潜水艦はすぐに日米豪に発見されてしまい、事実上行動できなくなります。行動すれば、すぐに発見され、撃沈されてしまいます。となると、中国の空母の護衛艦はすぐに撃沈されることになります。潜水艦も、護衛艦も役にたたないてのですから、当然のことながら空母も無効にできます。

仮に、中国軍が台湾に侵攻したとしても、日米の潜水艦隊がこれを包囲して、中国軍の補給を絶てば、中国軍はお手上げになります。

実際には、中国が台湾に侵攻すると発表したとたん、中国の軍港は、日米の潜水艦隊に包囲され、一歩も軍港の外にでれなくなるのではないかと思います。一歩でも出れば、撃沈されることを覚悟しなければならなくなります。

さらに、台湾は小さな国ではありますが、軍事力も整えています。最近では、通常型の潜水艦を開発し、5隻の潜水艦隊で台湾を守備する計画をたてています。

専門家の中には、これに成功すれば、台湾は今後数十年にわたって、中国の侵入を防ぐことができるだろうとしています。無論、これは開発中ですから、今すぐ役にたつというわけではありません。

さらには、日本の潜水艦と同等か、そこまでいかなくても、中国に発見できないくらいの静寂(ステルス)性を確保することが条件でしょう。台湾の技術水準からすれば、日本等の国々が支援すれば、十分可能でしょう。

ただし、すぐに役立つものもあります。それは、台湾が開発し実戦配備している、巡航ミサイルや対空ミサイルです。

台湾の巡航ミサイルは、中国の2/3を射程におさめているといわれています。これは無論、北京にも到達しますし、陸上や海上の攻撃目標を攻撃できます。あの三峡ダムにも到達します。台湾が、三峡ダムに対して巡航ミサイルで飽和攻撃を行えば、これを破壊することができるかもしれません。そうなれば、中国の2/3は水没するともいわれています。

さらに、中国の航空機はステルス性が低く、最新のものでさえ、肝心のステルス性は、米軍でいえば、第1世代のそれと同程度とされています。そうなると、中国が台湾に侵攻目的で航空機を派遣した場合、台湾が装備している対空ミサイルで多数撃墜されることになります。

台湾が単独で中国と戦ったにしても、中国側はかなりの損失を被ることになります。それに、QUADが加勢すれば、中国は台湾に侵攻することはできないでしょう。

中国は軍事力では、台湾に侵攻はできないのです。ただし、軍事力等で台湾に圧力をかけまくれば、台湾のほうから折れてくるかもしれないということで、台湾付近で大きな軍事演習をしたり、中間線を超えて艦艇や航空機を巡航させているのでしょう。

ただ、台湾にはその気は全くないようで、中国の試みは徒労に終わる可能性が高いです。


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