2021年4月6日火曜日

台湾めぐり白熱する米中の応酬 迫る有事の危機―【私の論評】中国が台湾に侵攻しようとすれば、大陸中国国内もかなりの危険に晒される(゚д゚)!


 3月26日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に、戦闘機10機、爆撃機4機を含む中国軍機合計20機が侵入した。昨年夏以来、ADIZへの侵入は度々あったが、今回の21機は最多となった。


 これに先立つ丁度1週間前の3月19日付のTaipei Times社説は、中国の習近平共産党総書記のレトリックから窺える中国の台湾に対する軍事的脅威の深刻さを指摘し、台湾政府は国民にそのことを明確に伝えるべきだ、と警告していた。

 この社説は、中国の台湾への軍事的侵攻の可能性はますます高まりつつあり、それに対処するため、台湾当局は一層の警戒心と危機意識を持ち対抗策を講じなければならない、と警鐘を鳴らすものとなっている。

 たしかに、最近、習近平は軍に対し、「戦争準備をおさおさ怠るな」との呼びかけを頻発しており、それが、台湾への攻撃を意図したものか否か必ずしも明白ではないが、本社説の言うように台湾侵攻を意味していると見ても必ずしも間違いではないだろう。

 本社説によれば、ここ1年の間に少なくとも4回、習近平は「いかなる時においても、戦闘行為をとれるよう万全の準備を行え」と指示したという。特に、その内の1回(昨年5月)では、全人代出席の人民解放軍司令官たちに対して、「台湾独立諸勢力(Taiwan Independence Forces)」を名指しして、これらに対し軍事闘争の準備を強化せよ、と命令したという。

 興味深い指摘は、習近平がこれらの指示を出した時、中国の人民解放軍の中には「平和ボケ(peace disease:平和病)」が広がっている、と習が繰り返し発言した点である。最近の中印国境紛争も解放軍兵士たちに戦闘経験をもたせるためではなかったか、との本社説の指摘はやや穿ち過ぎの観があるが、実際に中国軍が本格的な戦争体験をしたのは1979年の中越戦争が最後である。

 バイデン政権発足以降も、中国は台湾に対し軍事的、外交的圧力を強めており、台湾海峡上空に軍用機を出動させ、また、南シナ海など台湾海峡近辺でも軍事演習を繰り返している。最近は台湾の主要農産物であるパイナップルを禁輸するなど、経済面で新たに制裁を科した。

 中国にとって台湾はあくまでも、中国自身がいう「核心的利益」の筆頭に位置しているが、蔡英文政権が主張するように、2300万人を擁する自由で民主主義の「中華民国(台湾)」は中華人民共和国の施政下に入ったことはかつてない。蔡は、台湾は主権が確立した独立国である、との立場を堅持し、中国との間で対話を通じ、現状を維持しようとしている。

 「台湾関係法」によって台湾に防御用の兵器を売却することにコミットしている米国にとっては、バイデン政権下においても台湾の重要性が全く変わらないことは、先般のブリンケン=楊潔篪のアラスカ会談からも明白である。その際、楊潔篪は、台湾を含むいくつかの問題は純粋な「内政問題」であり、中国にとって妥協の余地は全くないと言い放った。

 台湾の軍関係者たちの中には、中国がもし台湾に対し軍事攻勢をしかけるとしたら、まずは南シナ海にある台湾の実効支配する東沙諸島や太平島のような離島ではないか、そして国際社会の反応を試そうとするのではないか、という見方をする人たちが少なくない。

 なお、最近、米上院の公聴会において、米インド太平洋軍司令官に指名されたアキリーノは「中国による台湾侵攻の脅威は深刻であり、多くの人が理解しているよりも差し迫っている」との考えを示している。将来、台湾周辺海域や台湾において、軍事的に一旦「有事」が発生し、米軍(主として在日駐留米軍)が台湾防衛のために出動するという事態になったとき、日本としても米軍の行動を支援するために自衛隊を出動させるという事態になるであろうことは、岸防衛大臣がオースティン国防長官に述べたと報道されているところである。

 蔡英文政権は、かかる米国、日本の動きを歓迎しているが、今後は日米台の三者間で如何なる事態に対し、如何に協力し合うか、という類の協議をおこなうべきことが急務の課題となるものと考えられる。

【私の論評】中国が台湾に侵攻しようとすれば、大陸中国国内もかなりの危険に晒される(゚д゚)!

かつて台湾は、大陸中国と戦ったことがあります。そうして、その戦いで、台湾自体が中国に侵入されることはありませんでした。大きなものではまずは、第一次台湾海峡危機(1954年 - 1955年)です。

国共内戦の結果、1949年に中国国民党率いる中華民国政府は中国大陸での統治権を喪失し、台湾に移転したのですが、中国西南部の山岳地帯及び東南沿岸部の島嶼一帯では中国共産党に対する軍事作戦を継続していました。

しかし1950年になると、舟山群島海南島が中国共産党の人民解放軍に奪取され、また西南部でも人民解放軍がミャンマー国境地帯に進攻したため、国民党は台湾及び福建省や浙江省沿岸の一部島嶼(金門島、大陳島、一江山島)のみを維持するに留まり、東シナ海沿岸での海上ゲリラ戦術で共産党に対抗していました。

朝鮮戦争の影響で沿岸部における侵攻作戦が休止しはじめ、中国の視線が徐々に朝鮮半島へ移転するのを機に国民党は反撃を幾度か試みたものの(南日島戦役東山島戦役)戦果が期待したものとはほど遠く大陸反攻への足がかりを築くことができませんでした。そして、朝鮮戦争が収束するにつれ共産党の視線は再び沿岸部へ向きはじめるようになりました。

この間人民解放軍はソ連から魚雷艇やジェット戦闘機を入手して現代的な軍としての体制を整えつつありましたた。

1954年5月、中国人民解放軍は海軍や空軍の支援の下大陳島及び一江山島周辺の島々を占領し、10月までに砲兵陣地と魚雷艇基地を設置した。9月3日から金門島の守備に当たっていた中華民国国軍に対し砲撃を行いました(93砲戦)。

11月14日に一江山島沖で人民解放軍の魚雷艇が国民党軍海軍の護衛駆逐艦『太平』(旧アメリカ海軍デッカー (護衛駆逐艦))を撃沈すると周辺の制海権を掌握しました。 1955年1月18日には解放軍華東軍区部隊が軍区参謀長張愛萍の指揮の下、一江山島を攻撃、陸海空の共同作戦により午後5時30分に一江山島は解放軍により占拠され、台湾軍の指揮官である王生明は手榴弾により自決しています。

一江山島を失った台湾側は付近の大陳島の防衛は困難と判断、2月8日から2月11日にかけて米海軍と中華民国海軍の共同作戦により大陳島撤退作戦が実施され、浙江省の拠点を放棄したことで事態は収束を迎えました。

  中国人民革命軍事博物館(北京)に展示されている旧日本軍の97式戦車。
  戦後の国共内戦で中国共産党に鹵獲されて使用された「功臣号」の塗装。

次は、第二次台湾海峡危機(1958年)でした。

1958年8月23日、中国人民解放軍は台湾の金門守備隊に対し砲撃を開始、44日間に50万発もの砲撃を加え、金門防衛部副司令官である吉星文趙家驤章傑などがこの砲撃で戦死しています。

この砲撃に対し台湾側は9月11日に中国との空中戦に勝利し、廈門駅を破壊するなどの反撃を行こないました。この武力衝突で米国は台湾の支持を表明、アイゼンハワー大統領は「中国はまぎれもなく台湾侵略」を企図しているとし、また中国をナチスになぞらえましたた。

9月22日にはアメリカが提供した8インチ砲により台湾は中国側への砲撃を開始、また金門への補給作戦を実施し、中国による金門の海上封鎖は失敗、台湾は金門地区の防衛に成功しました。9月29日、蔣介石は金門島の危機に際してはアメリカの支援なくとも中国と戦闘態勢に入ることを述べました。

10月中旬、ダレス国務長官は台湾を訪れ、台湾に対してアメと鞭の態度で臨むことを伝えた。つまり蔣介石が金門・馬祖島まで撤収することを条件に、援助をすると伝えました。蔣介石は10月21日からの三日間の会談で米国の提案を受け入れるが、大陸反撃を放棄しない旨も米国へ伝えました。

10月6日には中国が「人道的配慮」から金門・馬祖島の封鎖を解除し、一週間の一方的休戦を宣言し、米国との全面戦争を避けました。

翌1959年(昭和34年)9月、健康上の理由で首相を辞職した石橋湛山は回復後、私人として中華人民共和国を訪問し、9月17日周恩来首相との会談を行い、冷戦構造を打ち破る日中米ソ平和同盟を主張。

この主張はまだ国連の代表権を持たない共産党政権にとって国際社会への足がかりになるものとして魅力的であり、周はこの提案に同意。周は台湾(中華民国)に武力行使をしないと石橋に約束しました(石橋・周共同声明)。のちの日中共同声明に繋がったともいわれるこの声明および石橋の個人的ともいえる外交活動が、当面の危機を回避することに貢献しました。

先に、この砲撃に対し台湾側は1958年9月11日に中国との空中戦に勝利と掲載しましたが、意外かもしれませんが63年前の1958(昭和33)年9月24日、はじめて実戦で空対空ミサイルを射撃したのは台湾空軍でした。この空中戦は台湾では、「9・24温州湾空戦」と呼ば38機の台湾空軍F-86F「セイバー」と、53機の中国空軍MiG-17が激突する台湾海峡危機における史上最大の空中戦となりました。

台湾空軍のF-86F「セイバー」

そしてこの日、台湾空軍のF-86Fの一部には米海兵隊から供与された秘密兵器、のちにAIM-9B「サイドワインダー」と呼ばれる赤外線誘導型空対空ミサイルがはじめて搭載され、6発発射し実に4機のMiG-17を撃墜するという大戦果をあげました。

このAIM-9Bは現在のAIM-9X-2へと至るサイドワインダー・シリーズ最初の実用型ではありますが、実はこのAIM-9B、現代では想像もつかないほど性能の低いミサイルでした。

どのくらい性能が低かったのかというと、ミサイル先端部の赤外線検知器(シーカー)の感度が悪く、強い近赤外線を発するエンジンノズルしか捕捉できないため敵機の背後に遷移することが必須だった上に、照準可能な射角は中心線からわずか3.5度。さらに発射時は2G以上の旋回を行ってはならず、敵機は回避せず水平飛行していないと命中せず、射程は2kmしかありませんでした。

  最初期型のAIM-9B「サイドワインダー」(一番下)。傑作ミサイルとして
  ソ連にさえコピーされ世界中で使用された

それにしても、従来は戦闘機対戦闘機の戦闘においては、機銃掃射等でしか撃墜するしか術がなかった戦闘機をミサイルで撃ち落とすことができるようになったのですから、これは当時としては、軍事上の大イノベーションであると世界に受け止められました。

そのようなAIM-9Bがなぜ6発中4発も命中したのかというと、中国空軍側のMiG-17が背後の敵機に気付かず水平飛行していたからでした。しかし、それでもAIM-9Bが空中戦の歴史に与えた衝撃はすさまじいものがあり、世界中で機関砲軽視・空対空ミサイル重視のブームが発生し、機関砲を搭載しない戦闘機が多数開発されます。

最後は、第三次台湾海峡危機です。これは、1995年7月21日から1996年3月23日まで台湾海峡を含む中華民国(台湾)周辺海域で中華人民共和国(中国)が行った一連のミサイル実験により発生した軍事的危機。1950-60年代の危機と区別して「台湾海峡ミサイル危機」とも言います。

1995年半ばから後半にかけて発射された最初のミサイルは、中国の外交政策と対決すると予測されていた李登輝政権下の台湾政府に強力なシグナルを送ろうとしたものと見られた。第2波のミサイルは1996年初めに発射され、1996年中華民国総統選挙への準備段階にあった台湾に対する脅迫の意図があると見られました(ただし非公式の事前通告があったことが後に判明しています)。

これに対し、米軍はベトナム戦争以来最大級の軍事力を動員して反応しました。1996年3月にクリントン大統領はこの地域に向けて艦艇の増強を命じました。当時この地域には、空母ニミッツインディペンデンス(「独立」の意)を中心とした2つの空母打撃群がいました。そしてニミッツ打撃群は台湾海峡を通過しました。

この危機に対して、中国の首脳部は1996年に、米軍が台湾の援助に来航することを阻止できないと認めざるを得ませんでした。そうして危機はさりました。

当時の、中国軍は米軍の空母打撃群に対して対抗する術はなく、このときの悔しさから、後に空母建造や強力な空軍、ミサイルの開発へとつながったとされています。

第三次台湾危機においては、米空母打撃群がその終息の決めてになりましたが、第二次台湾海峡危機においては、台湾軍も相当活躍しています。そうして、後の航空機の戦術を変えた「サイドワインダー」のように、現在の台湾軍も隠し玉を持っています。それは以前のこのブログにも掲載したことがあります。そのブログのリンクを以下に掲載します。
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台湾の防空識別圏に飛来したH6K爆撃機の同型機(上)。下は台湾のF-16戦闘機

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
台湾は、長年かけて自主開発した中距離巡航ミサイル「雲峰」の量産を2019年から開始しています。アナリストによると、雲峰の飛行距離は2000キロで、台湾南部の高雄から北京を納める距離です。
消息筋によると、現状でも、台湾側は中近距離ミサイルによって、中国本土の三峡ダムを破壊することを含め、抑止体制を十分に整え終わっているとされています。
「雲峰」の射程距離は2000キロというのですから、北京は無論のこと三峡ダムをはじめとして、中国のかなりの部分をカバーしています。上の地図をみてもわかるように、中国の2/3
程度をカバーしています。

台湾国営NCSISTは4月15日に雲峰 (Yun Feng) LACMの発射試験を行っています。雲峰はラムジェット推進でマッハ3で飛翔し、射程は1,500~2,000kmと言われている。

しかも、これは配備計画ではなく、すでに2019年から量産体制に入っているというのですから、現在でも少なくとも数十発、もしかすると数百発を配備しているかもしれません。これは、中国にとっては脅威でしょう。しかも、それが台湾独自によって開発されたものというのですから、これも中国にとっては驚きだったでしょう。

数十発のミサイルが、三峡ダムに打ち込まれた場合、これを中国が阻止するのはほとんど不可能です。三峡ダムが破壊された場合、中国の国土の4/3が浸水するといわれており、そうなってしまえば、中国は台湾侵攻どころではなくなります。

当然のことながら、このミサイルは三峡ダムだけではなく、中国のありとあらゆる軍事基地を狙っているでしょう。空軍基地は無論のこと、軍港や、あるいは原発、その他インフラなど、爆撃すれば効果的なところはいくらでもあります。

さらに、台湾は雲峰のほかにも長距離ミサイルを開発中です。さらに、台湾は、ミサイルだけではなく、最新鋭の通常型潜水艦を建造中であり、これと最新の対潜哨戒能力をつければ台湾の守りは完璧になります。

特に潜水艦の建造に成功すれば、台湾は今後数十年は中国に侵攻されることはないと米国の専門家は指摘しています。これについては、このブログにも掲載していますので、興味のある方は是非ご覧になってください。ただし、これは建造を開始したのが、昨年ですから、完成するのは数年後のことになります。

現状でも、中国が台湾に侵攻しようとした場合、台湾単独で中国と戦ったとしても、中国も無傷ですむということはなく、大きな犠牲が出るということです。

台湾に日米やQUADなどが加勢すれば、ほとんど不可能でしょう。たとえ侵攻しても、このブログでも何度か述べているように、中国は台湾に上陸した陸上部隊を維持することは不可能です。

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