2021年4月10日土曜日

【日本の解き方】中国が狙う「一帯一路」の罠 参加国から富を吸い上げ…自国の経済停滞を脱却する魂胆も―【私の論評】国際投資の常識すら認識しない中国は、儲けるどころか世界各地で地域紛争を誘発しかねない(゚д゚)!

【日本の解き方】中国が狙う「一帯一路」の罠 参加国から富を吸い上げ…自国の経済停滞を脱却する魂胆も

習近平

 中国の習近平政権による経済圏構想「一帯一路」については、参加した途上国の債務が問題になっているほか、米国が対抗する方針を打ち出している

 中国経済は行き詰まりつつある。その根拠は1人当たり国内総生産(GDP)が1万ドルを超えないという「中所得国の罠」だ。この壁を越えるためには、一部の産油国などを例外とすれば、一定の民主主義が必要だ。英エコノミスト誌の公表している民主主義指数でいえば、少なくとも香港と同程度の「6」以上を要するが、しかし、中国の民主主義指数は「2・3」程度しかない。

 中国が、非民主的な専制国家でありながら、1人当たりGDPが1万ドルを長期にわたって突破するのは、これまでの社会科学の理論からみると難しい。そこで、短期的には台湾侵攻など政治的な不満のはけ口を求める懸念もある。

 一方、産油国が中所得国の罠の例外になっているのは国内に莫大(ばくだい)な石油資源があるからだ。これと似たような環境としては、海外に中国依存の経済圏を作ることが考えられる。軍事的な侵攻ではなく、経済的に領土を拡大し、その富を中国に吸い上げるというものだ。もちろん中国が軍事的に優位な地域が条件となる。

 筆者は中国の一帯一路は、こうした戦略に基づいていると考えている。その結果、中国は世界の覇権を狙っているともいえる。

 しかし、一帯一路は、同様に中所得国の罠に陥ったアジアや中東、アフリカの途上国を相手にせざるを得ないが、それらの国を借金漬けにしたあげく、闇金まがいの取り立ても辞さない。こうした形で覇権をうかがう中国に対抗するため、バイデン米政権はジョンソン英首相との会談で経済圏構想を提案した。

 中国は、以前からアジアや中東、アフリカの途上国に経済支援を行い、2014年に習氏が一帯一路構想を提唱する前から影響力を強めてきた。15年にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立し、金融面で一帯一路構想を後押しした。

 しかし、AIIBは、日米の参加が得られず、まだ十分に機能していない。19年末の融資残高は、約23億ドルしかなく、日米主導のアジア開発銀行(ADB)の約1100億ドルに見劣りしている。

 アジアや中東、アフリカの途上国では、インフラ整備が不十分なのは事実だ。日米は国内でのインフラ整備を進めるとともに、その力を海外にも活用すべきだ。日米で国内と世界のインフラ整備を提唱していくのがよく、そのための枠組み作りが必要だろう。

 中国が中所得国の罠に陥りながら、民主化せずに同じ環境の国を利用してそれを脱しようとすることがそもそも間違いだ。それでは、他の国にも希望はない。長期的な経済発展のためには民主化が必要なので、まずは中国自らが民主化してこの「罠」から脱すべきだ。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】国際投資の常識すら認識しない中国は、儲けるどころか世界各地で地域紛争を誘発しかねない(゚д゚)!

かつて欧米列強と言われていた国々(英米独仏露)の国々は、18世紀以降植民地を持っていました。そうして、本格植民地化によって、現地人を搾取して、利益を収奪したという一般的なイメージがありますが、植民地経営はそれほど簡単なものではなかったですし、収奪する程の利益など、植民地にはほとんどありませんでした。

海外を植民地化することは莫大な初期投資がかかり、費用対効果という観点からは、とても受け入れられるようなものではありません。常時、軍隊を駐屯させる費用、行政府の設置・運用とその人件費、各種インフラの整備、駐在員の医療ケアなど、莫大な費用がかかります。その上行政的手続きも極めて煩雑になってきます。

初期コストや投資金を無事に回収し、安定的に利益が出せるかどうかの保証などもありません。植民地ビジネスはリスクが大きく、割に合わないのです。「植民地=収奪」という根拠のない「つくられたイメージ」を一度、捨てるべきです。

教科書や概説書では、植民地経営の成功例ばかりが書かれています。例えば、オランダはインドネシアを支配し、藍やコーヒー、サトウキビなどの商品作物を現地のジャワの住民に作らせ(強制栽培制度)、大きな利益を上げていたというようなことです。

オランダ東インド株式会社に所属していたアムステルダム号

しかし、このような成功例はごく一部であって、ほとんどの場合、投資金を回収できず、損失が拡大するばかりでした。実際、19世紀、ヨーロッパのアフリカの植民地経営などはほとんど利益が上がりませんでした。

これは、当然といえば、当然です。今日の国際投資の常識は、「自国より成長率の高い国や地域に投資すれば利益をあげられる」と教えています。過去の植民で成功したのは、たまたま、投資した地域が、自国よりも経済成長をしていたか、多少投資することによって経済成長ができたからでしょう。それ以外の植民地は成功するはずもありませんでした。

では、なぜ、欧米は大きなリスクをとりながらも、植民地化に取り組んだのでしょうか。それは経済的な動機というよりも、思想的な動機が強くあったからでした。

近代ヨーロッパでは、啓蒙思想が普及しました。啓蒙とは「蒙を啓く」つまり無知蒙昧な野蛮状態から救い出す、という意味です。啓蒙は英語でEnlightenment、光を照らす、野蛮の闇に光を照らす、という訳になります。啓蒙思想に基づき、西洋文明を未開の野蛮な地域に導入し、文明化することこそ、ヨーロッパ人の使命とする考えがあったのです。

イギリスのセシル・ローズ(Cecil John Rhodes、1853年~1902年、は南アフリカのケープ植民地首相)などはこうした考え方を持っていた典型的な人物でした。

セシル・ローズ

ローズは、アングロ・サクソン民族こそが最も優れた人種であり、アングロ・サクソンによって、世界が支配されることが人類の幸福に繋がると考えていました。この独善的考えが、植民地の人々に嫌われたという面は否めないです。

開明化された地域が資本主義市場の一部に組み込まれれば、利益をもたらすという狙いも最終的にはあったかもしれないですが、「文明化への使命」という考え方が割に合わない植民地経営のリスク負担を補っていたのです。

当時のヨーロッパ人は、今日の我々が考える以上に非合理的であり、昔ながらの精神主義に拘泥していたと言ってよいです。

実は、日本の植民地政策にも、このような啓蒙思想を背景とする思想的動機が強くありました。韓国や台湾を植民地化しても、当時の日本に利益など全くありませんでした。元々、極貧状態であった現地に、日本は道路・鉄道・学校・病院・下水道などを建設し、支出が超過するばかりでした。それでも、日本はインフラを整備し、現地を近代化させることを使命と感じていました。

特に、プサンやソウルでは、衛生状態が劣悪で、様々な感染症が蔓延していたため、日本の統治行政は病院の建設など、医療体制の整備に最も力を入れたのです。

李王朝末期頃の韓国

日本人はヨーロッパ流の啓蒙思想をいち早く取り入れ、近代化に成功し、今から考えると、何の儲けにもならないことのために、植民地の近代化を前提として、植民地政策を展開しました。

「植民地=収奪」というのはつくられたイメージと言わざるを得ないです。植民地支配によって、我が国は「多大の損害と苦痛」を「与えた」のではなく、「被った」のです。特に経済的にはそうでした。日本の植民は期間も短く、儲けにまでいたったものはありません。

このような経験をしているからこそ、現在ではかつての西洋列強も我が国も、植民地など持とうとしません。そうして、投資するにしても、儲けるためであれば、自国より経済成長している国や地域に投資するのです。

日本では、デフレが酷くて経済が停滞していた頃から、民間企業が米国やEUなどにかなり海外に投資していました。これは合理的な判断です。これはまだ名残があり、昨年5月末に財務省から公表された「本邦対外資産負債残高の状況(2019年末時点)」によれば、日本の対外純資産残高は前年比23兆円増の364兆5250億円と2年連続で増加し、29年連続で世界最大の対外債権国の座を維持する結果となりました。金額的には5年ぶりに過去最高を更新しました。

しかし、植民地経営というネガティブな経験をしたことのない中国は、かつての西洋列強などと同じ間違いをしようとしています。

一帯一路は、中所得国の罠に陥ったアジアや中東、アフリカの途上国を相手にせざるを得ないのですが、それらに投資しても儲かることはありません。少なくとも、中国より経済発展している国や地域に投資すれば良いのでしょうが、そもそもそのような国や地域は中国の助けをあまり必要としません。

仮に、中所得国を借金漬けにしたあげく、闇金まがいの取り立ても辞さないようにしたとしても、元々富がないのですから、そこから簒奪できる利益はわずかです。これは、どう考えても成功しようにありません。

ただ、中国が借金をかたに、弱小国の社会を自分の都合の良いように作り変える危険性は否定できません。そうなると、それらの国々の社会は不安定化することになり、地域紛争などに繋がる可能性はあります。

そのため、米国が対抗する方針を打ち出しているのは良いことです。無論米国は、これで儲けるのではなく、中国の影響力を排除するのが狙いです。いくらバイデンであっても、習近平ほど愚かではありません。

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