まとめ
- 今回の中国の輸出禁止措置は、我が国の防衛産業を直ちに麻痺させるものではない。しかし、代替調達や再認証の負担を通じて確実に体力を削る“摩耗型圧力”である点にこそ意味がある。
- 習近平体制下では体制維持が経済合理性より優先されるという現実を、過去の豪州制裁や巨大IT企業規制の事例から具体的に読み解く。今回の措置もその延長線上にある。
- そして何より重要なのは、高市政権がすでに安全保障と経済の構造転換を打ち出したからこそ、この圧力が発動された可能性である。依存は相互であり、日本が本格的に動けば中国側の打撃も小さくない。その構造を知れば、見える景色は変わる。
Kyodo Newsが報じたところによれば、中国政府は日本の防衛関連20の企業・団体を輸出管理リストに追加し、軍民両用品の輸出を禁止すると発表した。対象には、三菱重工業、川崎重工業、防衛大学校などが含まれる。中国側は「日本の再軍事化と核開発の野望を抑制するため」と説明している。
まず冷静に問うべきは、これは我が国にとってどれほどの打撃なのかという点である。
結論から言えば、直ちに防衛産業が麻痺する類の致命的措置ではない。日本の防衛産業は米国および国内サプライヤーとの結びつきが強く、中国依存度は限定的である。しかし軽微とも言い切れない。防衛装備は部材変更に厳格な再認証と試験を伴う。代替調達には時間と費用がかかる。今回の措置は破壊ではなく摩耗を狙うものである。即死ではないが、確実に体力を削る。
だが問題の本質はそこではない。
1️⃣体制が最優先である国家
習近平体制下の中国では、体制維持が常に最優先である。経済合理性はその下に置かれる。これは観念ではなく、事実が示している。
2020年、オーストラリアが新型コロナ起源調査を求めた際、中国は豪州産大麦やワインに高関税を課し、石炭や牛肉の輸入を制限した。その結果、中国国内で価格上昇や供給混乱が生じた。それでも措置は続いた。政治的威圧が優先されたのである。
2021年には教育産業とIT企業への大規模規制が断行され、アリババやテンセントの時価総額は急落した。外資は動揺し、成長率は鈍化した。それでも統制は強化された。党の支配が市場より上位にあるからである。
反スパイ法強化やデータ規制の拡大も同じ構造である。投資環境の悪化より統治安定が優先された。
中国を「高度に設計された柔軟な戦略国家」と見るのは正確ではない。より正確に言えば、優先順位が固定された国家である。体制維持を最上位に置いた設計であり、そこに柔軟性は少ない。
体制優先の国家は一見強く見える。しかしその強さは、硬直性と表裏一体である。
今回の措置も、この優先順位の延長線上にある。
2️⃣中国の日本依存は消えていない
| 日本製五軸加工機 |
中国は半導体自立を掲げる。しかし 日本への依存は色こく残っている。
半導体材料や装置分野で日本企業が握る技術は、歩留率と量産安定性を左右する核心部分である。フォトレジスト、ウエハー、洗浄装置、検査装置などは微細加工の精度を決める。歩留率が数%低下するだけで、投資回収は遅れ、単位コストは上昇する。中国製への置き換えは可能でも、同等品質での安定量産は容易ではない。
依存は半導体に限らない。高精度工作機械、航空宇宙向け加工技術、炭素繊維などの先端材料、高耐久ベアリングや高度制御技術といった産業基盤の深部で、日本の技術は重要な役割を担っている。代替できるかどうかではない。同じ品質と信頼性で代替できるかが問題である。
もし我が国が本格的対抗措置に踏み切り、戦略物資規制や投資制限を強化すれば、中国側の影響は小さくない。歩留率低下、開発遅延、資本コスト上昇が重なれば、不動産不況や地方債務問題を抱える経済にとって重い負担となる。経済戦は一方向ではない。依存は相互である。
3️⃣高市政権という転換
| 第二次高市政権 |
ここで時間軸を見る必要がある。
高市政権は、防衛費増強、反撃能力整備、経済安全保障の制度化、対中依存低減を明確に打ち出している。理念ではなく、実行段階である。
中国が見ているのは迷う日本ではない。方向を定めた日本である。
依存縮小が進めば、経済カードの効力は低下する。だからこそ牽制が必要になる。今回の措置は覚悟を試す圧力というより、すでに示された転換に対する反応と見るのが自然である。
同時にこれは地域への示威でもある。安全保障で対抗すれば経済的代償があるというメッセージである。しかし経済を武器化する国家という印象は、サプライチェーン分散を加速させる。短期的威圧は、長期的信頼を削る。
ここに構造的ジレンマがある。
結語
今回の輸出禁止措置は、日本にとって即時の壊滅的打撃ではない。しかし摩耗は生じる。一方で、日本が本格的対抗措置に踏み切れば、中国側が受ける産業的・資本的影響は決して軽くない。
中国は体制国家である。体制維持が最優先である。その構造を理解しなければ、恐れすぎるか、軽視しすぎるかのどちらかに陥る。
問われているのは覚悟の有無ではない。
示した方向を、貫く力があるかどうかである。
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