まとめ
- ホルムズ危機で世界の原油・石油製品価格が跳ね上がる中、日本の製油所稼働率は70%台へ回復した。これは偶然ではなく、備蓄放出と代替調達を実際に動かした国家対応の結果である。
- 高市政権は、ガソリン価格を一時的にごまかすだけの対策に逃げなかった。原油を確保し、製油所を動かし、物流・電力・産業を止めないという、エネルギー安全保障の本筋に踏み込んだ。
- コロナの時と同じく、海外比較なしでは日本の危機対応は正しく見えない。世界が燃料危機に揺れる中で、なぜ日本はまだ止まっていないのか。その答えを、備蓄と調達網から読み解く記事である。
日本の製油所稼働率が5月に70%台へ戻った。一見すると、石油業界の地味なニュースに見える。だが、実はそうではない。ロイターは2026年5月13日、日本の製油所が3月以来初めて70%を超える稼働率に回復したと報じた。背景には、イランをめぐる戦争、ホルムズ海峡を通る原油輸送の制約、代替原油の調達、そして国家備蓄の放出がある。5月2日までの週には稼働率77.3%、その翌週も73.3%を維持した。これは単なる数字ではない。我が国が危機の中でも、燃料供給を完全には止めなかったという事実である。
エネルギー安全保障を、ガソリン価格の話だけに閉じ込めてはならない。問われているのは、危機のときに物流が止まらないか、食品が届くか、救急車が走るか、工場が動くか、発電所に燃料が届くか、自衛隊が動けるかである。燃料が止まれば、国民生活は一気に細る。今回の製油所稼働率70%回復は、我が国がまだ動ける国であることを示した。同時に、それは偶然ではなく、備蓄、調達網、精製能力、港湾、船舶、同盟国との関係があって初めて成り立つものだった。
石油備蓄とは、どこかのタンクに眠る油ではない。国家の予備エンジンである。必要なときに放出し、製油所に送り、精製し、国内に配るところまで動いて初めて、備蓄は国家機能になる。今回、我が国が製油所稼働率を70%台へ戻せたのは、備蓄放出と代替調達が現実に機能したからである。ロイターによれば、日本は消費量75日分に相当する規模の備蓄を放出し、米国、カスピ海地域、ラテンアメリカ、制裁対象ではないロシア産原油などから代替原油を調達した。原油は、欲しいと言えば翌日に届く商品ではない。契約、船、保険、港湾、製油所の対応力が要る。つまり、エネルギー安全保障とは、倉庫の問題ではなく、国家システムの問題なのである。
ここで注目すべきは、高市政権が単なる価格対策に逃げなかった点である。ガソリン価格を一時的に抑えるだけなら、政治的には分かりやすい。しかし、それだけでは燃料そのものは増えない。価格を抑えても、タンカーが来なければ意味がない。補助を出しても、製油所が動かなければ社会は回らない。今回、政権が取ったのは、備蓄放出と代替調達を組み合わせ、製油所を動かし続けるという現実的な対応だった。これは、エネルギーを人気取りの価格問題ではなく、国家機能を止めないための安全保障問題として扱ったという点で意味がある。
もちろん、今回の回復を「高市政権だけの手柄」と書くのは正確ではない。実際に原油を調達し、船を手配し、製油所を動かしたのは、石油会社、商社、港湾、製油所の現場である。しかし、その前提として、政府が国家備蓄を動かし、代替調達へ政策を切り、エネルギー危機を安全保障問題として扱ったことは大きい。民間の現場力と政府の危機対応がつながったからこそ、製油所稼働率70%回復は実現したのである。
2️⃣ホルムズ危機は石油製品価格危機である――だから調達網を設計する国にならねばならないホルムズ海峡危機は、遠い中東の話ではない。ロイターによれば、IEAはイランをめぐる戦争とホルムズ海峡の閉鎖により、2026年の世界の石油供給が需要を下回ると警告している。供給の混乱は日量1400万バレルを超え、IEAは2026年の供給不足を日量178万バレルと見込んでいる。これは、燃料価格、物流、発電、化学製品、食品包装、製造業コストに連鎖する危機である。
価格の跳ね上がりも深刻だ。ドイツでは2026年4月の卸売物価が前年同月比6.3%上昇し、3年ぶりの高い伸びとなった。特に石油製品は37.3%上昇している。先進工業国であるドイツでさえ、ホルムズ危機によって石油製品価格がここまで押し上げられているのである。エネルギー危機はガソリンだけで終わらない。物流費、包装材、肥料、食品価格、製造業コストへ波及する。
日本でも影響は遅れて現れる。電気料金や都市ガス料金は、原油価格のように即日で動くわけではない。政府補助や燃料費調整制度もある。だが、国際エネルギー価格の上昇は、いずれ電力会社、企業、家計を圧迫する。ロイターは、日本政府が中東危機によるエネルギーコスト上昇に備え、7月から9月までの電気・都市ガス料金補助を検討しており、予算規模は最大5000億円に達する可能性があると報じている。価格上昇が起きていないのではない。政府がそれを家計に直撃させないよう、財政で受け止めようとしているのである。
だからこそ、高市政権が単なるガソリン価格対策に逃げなかった意味は大きい。原油価格が上がる。石油製品が上がる。電力会社の調達費が上がる。物流費が上がる。最後には食品や生活必需品の価格に跳ね返る。必要なのは、一時的に価格を隠す政策ではない。原油を確保し、製油所を動かし、代替調達を進め、供給網そのものを守る政策である。
日本はよく「資源小国」と呼ばれる。たしかに、地下から大量の原油が湧き出る国ではない。だが、資源小国だから弱いのではない。調達網を設計しない国が弱いのである。今回注目すべきは、高市政権がすでにその方向で動き始めていることだ。ホルムズ海峡を通らない原油調達を増やし、米国、カスピ海地域、ラテンアメリカなどから代替供給を確保し、必要に応じて国家備蓄を放出する。これは、足りない分を市場で買うという話ではない。供給源、輸送路、備蓄、製油所を一体で動かす政策である。
本当に重要なのは、地下資源の有無だけではない。どの国とどのような契約をするのか。どの海峡を通らずに運べるのか。どの港で受けるのか。どの製油所で処理するのか。どの備蓄をいつ放出するのか。どの産業を優先するのか。ここまで設計して初めて、エネルギー政策は国家戦略になる。高市政権の対応は、まさにこの方向にある。
3️⃣海外比較なき報道では、危機対応は正しく評価できない
ここで問題になるのが報道である。日本の大手マスコミは、国内のガソリン価格、補助金、家計負担、政権批判は大きく扱う。しかし、海外でどれほど価格が跳ね上がり、供給網が詰まり、各国政府が必死に対応しているかを、十分な比較材料として示すことは少ない。その結果、多くの国民は、日本の対応が世界の中でどの程度機能しているのかを判断しにくくなる。
これはコロナのときと似ている。安倍政権は2020年度第1次補正予算25.7兆円、第2次補正予算31.9兆円を組み、約60兆円規模の財政対応を行った。菅政権も、2020年12月に事業規模73.6兆円、財政支出40兆円の総合経済対策を決定し、第3次補正予算を含めて対応した。つまり、安倍・菅両政権は合わせて100兆円規模の財政対応を行い、コロナ危機に正面から向き合ったのである。
その結果、我が国は全国規模の医療崩壊を避け、失業率の急騰も抑えた。もちろん、医療現場の逼迫、飲食・観光・非正規雇用への打撃はあった。そこを軽く見るべきではない。だが、危機対応の評価は欠点だけを並べるものではない。実際、OECDは日本の失業率を2020年、2021年とも2.8%と示している。欧米と比較し、何を守れたのか、何を失わずに済んだのか、どの政策が効いたのかまで見なければならない。そういう見方をすれば、我が国のコロナ対策は海外と比較すれば、成功したといえる。
にもかかわらず、当時の大手マスコミは、安倍・菅両政権の財政対応や雇用維持の効果を十分に評価しなかった。むしろ、日本だけがコロナ対策に失敗したかのような印象を広げた。そのため、いまだに日本のコロナ対策は正当に評価されていない。今、ホルムズ危機でも同じ構図が進行している。海外比較を欠けば、「なぜ高いのか」という不満だけが残り、「なぜ日本はまだ止まっていないのか」という大事な問いが消えてしまう。
今回のホルムズ危機で見るべきなのは、一部の価格が上がっていることだけではない。世界の供給網が揺らぎ、石油製品も電気代も物価も上がる中で、日本がまだ物流を止めず、製油所を動かし、電力と燃料の供給を維持していることである。危機対応は、海外比較なしには評価できない。さらに価格についても、石油関連製品の価格だけ見て、物価高と騒ぐべきではない。
2026年4月の東京都区部CPI(一般物価)は、総合で前年比1.5%、生鮮食品を除く総合でも1.5%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合でも1.9%にとどまり、主要指数はいずれも2%に達していなかった。少なくとも4月時点では、東京の一般物価が全面的に加速していたとは言いにくい。
確かに石油関連製品の価格は上がっているが、それだけを見て単純に物価高と断定することはできない。にもかかわず、マスコミは相変わらず、石油関連製品の物価高を喧伝している。
結論
製油所稼働率が70%台へ戻ったことは、明るいニュースである。だが、それは安心してよいという意味ではない。むしろ、備蓄、代替調達、製油所、港湾、船舶、同盟国との関係がなければ、我が国は簡単に止まりかねないという現実を示した。今回評価すべきなのは、政府が単なる価格対策だけに逃げず、備蓄放出と代替調達を組み合わせ、製油所を動かし続ける方向へ舵を切ったことだ。
エネルギー防衛とは、石油、LNG、原子力、送電網、港湾、製油所、備蓄基地を一体で見ることである。どれか1つを神のように扱うのではない。危機時にも電力と燃料を止めない仕組みを作ることだ。製油所、備蓄基地、港湾、発電所、送電網、防衛関連施設は、今日使って終わる消耗品ではない。10年、20年、50年にわたり、国民生活と産業を支える国家資産である。
原発再稼働も、SMRも、送電網の強化も、単なる電力政策ではない。国家生存の基盤である。もちろん、SMRがすぐに日本の主力電源になるわけではない。だが、平時の分散型電源や有事の重要施設電源として活用する発想は、真剣に検討すべきである。重要なのは、流行語としてのSMRではなく、有事にも国家機能を止めないエネルギー基盤を作ることだ。
エネルギーを市場任せにする国は、有事に国民を守れない。備蓄を持ち、備蓄を動かし、代替調達を準備し、製油所を維持し、港湾を強くし、原発を使い、将来のSMRも視野に入れ、送電網を国家資産として整備する。そして有事には、国家機能を優先して電力と燃料を割り当てる。これが、我が国に必要なエネルギー防衛である。
日本は資源小国だと言われてきた。だが、資源が少ないことと、国家として無力であることは同じではない。調達網を設計し、備蓄を動かし、インフラを整え、現場を支える技術者を育てる国は、危機の中でも生き残る。エネルギーを単なる商品としてではなく、国家を動かす血液として扱うことだ。その覚悟を持つ国だけが、次の危機を越えられる。
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