まとめ
- 日加共同備蓄は、単なる資源外交ではない。中国に握られてきたレアアース・重要鉱物の供給網を、自由主義陣営の側へ取り戻す安全保障戦略である。
- 中国はすでにレアアースを兵器化している。輸出管理、密輸摘発、通報制度、富士電機社員拘束は、日本企業を萎縮させる「法律戦」として見るべきである。
- 日本には反撃の手段がある。備蓄、国内精製、日加・日豪協力、南鳥島の海底資源、リサイクル、代替素材を総動員すれば、我が国は中国依存を断ち、資源技術国家へ進める。
日本とカナダが、重要鉱物の供給網強化に向けて動き出した。ロイターによれば、両国は黒鉛やガリウムなどの重要鉱物について、共同採掘、オフテイク契約、共同備蓄を含む協力を検討しているという。これは単なる資源外交ではない。中国に握られてきた重要鉱物の供給網を、自由主義陣営の側へ取り戻す動きである。
この日加協力が重要なのは、中国がすでにレアアースを外交上の兵器として使い始めているからだ。中国は重要鉱物の輸出管理を強め、密輸摘発の通報ホットラインまで設けようとしている。さらに大連では、富士電機の日本人社員2人が拘束されたと報じられた。詳細はまだ明らかではない。個別事件を断定的に語るべきではない。しかし、この出来事が日本企業に与えた心理的衝撃は大きい。
中国で重要鉱物に関わる仕事をすれば、いつ「国家安全保障」や「密輸」の名で拘束されるかわからない。これが、世界の企業に突きつけられた現実である。
だが、今回は2010年とは違う。尖閣沖中国漁船衝突事件の際、日本は中国のレアアース圧力に大きく揺さぶられた。しかし今は、日加協力、日豪協力、日米協力、G7の供給網再構築、国内精製施設の整備、海底資源開発、リサイクル、代替素材開発が同時に動いている。G7も、レアアースと永久磁石について、2030年までに単一の非G7供給国への依存を60%未満に下げる目標を掲げた。これは事実上、中国依存を下げる国際宣言である。
中国はレアアースを兵器化した。ならば日本は、資源技術、備蓄、同盟、環境技術を武器にすればよい。
レアアース戦争は、すでに始まっている。だが、日本はもう黙っていない。
1️⃣日加共同備蓄は「資源外交」ではなく安全保障である
今回の日加関係強化で重要なのは、カナダが資源国であり、日本が技術国であるという点だ。
カナダは、黒鉛、ニッケル、コバルト、リチウム、レアアースなどの重要鉱物を持つ。日本は、それらを半導体、電池、高性能磁石、精密機械、防衛装備に変える技術と需要を持つ。つまり、カナダが上流、日本が中流・下流を担うことで、中国を経由しない供給網を作ることができる。
今回検討されているのは、単に「カナダから買う」という話ではない。共同採掘、オフテイク契約、共同備蓄という形で、供給そのものを政治的に安定させる仕組みである。これは極めて重要だ。
これまで日本企業は、資源を市場で買えばよいと考えてきた。安いところから買う。必要なときに調達する。企業会計だけを見れば、それが合理的に見える。しかし、重要鉱物に関しては、その考え方はもはや通用しない。なぜなら、供給を止める国が存在するからである。
| 写真はAI生成画像 以下同じ |
ロイターは6月21日、強力な磁石に使われる複数のレアアースについて、中国から日本向けの輸出が5月にごくわずかだったと報じた。対象にはジスプロシウム、テルビウム、イットリウムなどの重希土類が含まれる。これらは高性能磁石に不可欠であり、EV、産業用モーター、発電機、医療機器、防衛装備に使われる。これが止まれば、単なる部品不足では済まない。我が国の産業基盤そのものが揺らぐ。
だからこそ、日加共同備蓄は大きい。備蓄とは、倉庫に鉱物を積んでおくだけの話ではない。それは「いざとなれば中国なしで回せる」という国家意思の表明である。共同採掘も、オフテイク契約も同じだ。市場で買えなくなったときに備え、政治的に信頼できる国と供給網を作る。それが、これからの資源安全保障である。
G7も同じ方向へ動いている。6月17日のG7首脳宣言では、レアアースと永久磁石について、2030年までに単一の非G7供給国への依存を60%未満に下げ、さらに時間をかけて低下させ、できるだけ早く50%に到達するとの目標が示された。これは、中国依存を減らすための国際的な枠組みである。
ここで日本が主導的に動く意味は大きい。我が国は資源に乏しい。しかし、技術はある。精製、加工、リサイクル、代替素材、海底資源開発、環境負荷の低い処理技術。これらを同盟国の資源と組み合わせれば、日本は単なる資源輸入国ではなく、資源技術国家になれる。
2️⃣中国はレアアースを「法律戦」の武器にした
中国は、レアアースを単なる輸出品として扱っていない。国家の支配下に置く戦略物資として扱っている。
輸出許可、用途確認、エンドユーザー審査、軍民両用品指定、密輸摘発、通報制度。これらは、すべて一体である。中国の狙いは、必要なときに供給を止め、必要なときに相手国の企業活動を萎縮させることだ。
特に不気味なのは、密輸摘発の強化である。中国は、重要鉱物の密輸を取り締まるため、通報ホットラインを設ける方針を示した。市民や企業に通報を促し、違反の疑いがあれば当局が動く。これは、通常の輸出管理を超え、社会全体を監視網に組み込む発想である。
ここに、富士電機社員拘束の件が重なる。
報道によれば、中国・大連で拘束された日本人2人は富士電機の社員であるとされる。木原稔官房長官は、2人が5月18日と25日に、それぞれ「国家輸出入禁止貨物密輸罪」に抵触した疑いで拘束されたと明らかにした。拘束理由の詳細は不明だが、レアアースの輸出管理規制違反の容疑をかけられたとの見方が有力と報じられている。
ここで注意すべきは、個別事件の事実関係と、政治的意味を分けることである。現時点で、何が違法とされたのかは明らかでない。したがって、富士電機側に違法行為があったかのように断定することはできない。
しかし、政治的意味はすでにはっきりしている。これは、日本企業に対する警告である。
中国で活動するなら、中国の法律に従え。重要鉱物に関わるなら、いつでも摘発対象になり得る。そういうメッセージである。これは、法律の名を借りた威嚇であり、法律戦である。
しかも、この拘束は、G7で重要鉱物の供給網再構築が打ち出され、日本とカナダが共同備蓄へ動き出す流れの中で起きている。中国から見れば、日本が同盟国と組んでレアアース支配に正面から挑もうとしている。その動きを牽制する意図があったとしても、不思議ではない。
もちろん、富士電機の社員を拘束したからといって、中国が日本の先端技術を一挙に手に入れられるわけではない。ここを過大評価すべきではない。この事件の本質は、技術獲得というより、日本企業への心理的圧力である可能性が高い。
日本企業を萎縮させる。日本政府に対中姿勢の再考を迫る。中国国内向けには「外国勢力による重要鉱物の密輸を取り締まっている」と宣伝する。そうした複数の狙いが重なっていると見るべきである。
さらに中国は、日本の20団体を軍民両用品の輸出管理リストに追加した。ロイターによれば、防衛研究機関や三菱重工、三菱電機、川崎重工の関連団体などが対象に含まれ、中国製の軍民両用品を輸出する際に中国政府の承認が必要になる。これは、レアアースだけでなく、重要物資全体を対日圧力の道具にしていることを示している。
だが、中国はここで重大な失敗もしている。なぜなら、この一連の動きによって、中国がいかに危険なビジネス環境になったかを、世界中に再確認させたからである。
レアアースを握る国であり、同時に外国企業の社員をいつでも拘束し得る国。そんな国に、重要物資を依存してよいのか。答えは明らかだ。
中国は日本を脅したつもりかもしれない。しかし結果として、中国リスクを世界に再宣伝したのである。
3️⃣日本は備蓄・精製・技術で反撃せよ
日本の反撃は、感情論であってはならない。必要なのは、静かで、徹底した、国家戦略としての脱中国依存である。
第1に、備蓄である。
JOGMECは、レアメタルの短期的な供給障害に備える国家備蓄を担っている。緊急時や需給逼迫時には、本邦企業に対してレアメタルを放出・売却し、安定供給に寄与する仕組みである。だが、これからは短期的な供給途絶対策だけでは足りない。レアアース、ガリウム、ゲルマニウム、黒鉛、アンチモン、タングステンなど、半導体、防衛、電池、AI、エネルギーに関わる重要鉱物を、安全保障物資として体系的に備蓄する必要がある。
日加共同備蓄は、その第一歩である。今後は、カナダ、オーストラリア、米国、欧州との間で、共同備蓄、共同投資、共同調達を広げるべきだ。重要鉱物は、石油備蓄と同じく国家の生命線である。
第2に、精製である。
鉱石を持つだけでは足りない。中国が強いのは、採掘そのものよりも、分離、精製、加工の中流工程を握っているからである。ここを取り戻さなければ、中国依存は終わらない。
この点で、信越化学が福井県に新たなレアアース精製施設を建設する方針を示したことは重要である。ロイターによれば、同社にとって2008年以来の新たなレアアース精製施設となり、レアアース磁石事業の原料確保と供給網強化を狙うものだという。これは単なる企業投資ではない。国家の供給網を取り戻す一歩である。
日豪協力も重要だ。双日は、オーストラリアのLynasからのレアアース輸入を拡大する方針を示している。Lynasは中国以外の有力なレアアース供給源であり、日本が中国依存を下げるうえで欠かせない存在である。日本はカナダ、オーストラリア、米国、欧州と重層的な供給網を作るべきだ。
しかも、日本には中国とは違う強みがある。環境基準を守りながら精製する技術である。
中国のレアアース支配は、安さによって成立してきた。しかし、その安さの裏には、汚染水、廃棄物、放射性を帯びた残渣、土壌汚染がある。中国は、環境コストを国内の地方や周辺地域に押しつけることで、世界市場を支配してきた。
つまり、中国製レアアースの安さは、自由市場の勝利ではない。環境破壊を価格に織り込まない、歪んだ安さである。
本来、環境保護派こそ、中国のレアアース支配を最も厳しく批判すべきである。中国製の太陽光パネル、EV、蓄電池、風力発電部材に依存しながら「環境に良い」と語るのは矛盾である。環境を守ると言いながら、中国や周辺国の水と土壌が汚染される現実を見ないなら、それは環境保護ではない。環境汚染の外部化である。
日本がやるべきことは明白だ。環境を破壊しない形で、採掘、精製、リサイクル、代替素材開発を進めることである。日本がこの分野で本気を出せば、世界に「清潔で信頼できる重要鉱物供給網」を示すことができる。
第3に、技術である。
日本は、省レアアース磁石、代替素材、リサイクル、海底資源開発、低環境負荷の採掘・精製技術で世界をリードできる。特に南鳥島周辺の海底レアアース泥は、我が国にとって重要な戦略資源になり得る。日本は2026年2月、南鳥島沖の水深5700メートルの海底から、重希土類を含む泥の回収に成功した。これは中国依存を下げるための重要な一歩である。
もちろん、海底資源はすぐに商業化できるものではない。採掘コスト、環境影響、分離・精製、輸送、採算性という課題がある。だが、ここにこそ国家が投資すべきである。使用済み製品からの回収、磁石の高性能化、防衛産業との連動、海底資源の開発。これらを一体として進めれば、日本は単なる資源消費国ではなく、資源技術国家になれる。
ここで重要なのは、民間企業任せにしないことである。
企業は短期の採算を見ざるを得ない。中国産が安ければ、中国から買うのが合理的に見える。しかし国家全体で見れば、その安さは危険である。供給を止められた瞬間、工場が止まり、防衛装備が作れず、半導体も医療機器も影響を受ける。これは企業会計の問題ではない。国家安全保障の問題である。
したがって、政府がやるべきことは明白だ。国債発行を当然の前提として、備蓄、国内精製、代替技術、海底資源開発、同盟国との共同投資に資金を流すべきである。これを「補助金漬け」と批判するのは見当違いである。防衛費と同じく、重要鉱物の供給網は国家の生存インフラである。これは支出ではない。供給力再建であり、国家資産形成である。
結語 中国依存の時代は終わる
中国は、レアアースを兵器化した。
供給を絞り、輸出管理を強め、密輸摘発を掲げ、通報制度まで整え、日本企業を萎縮させようとしている。富士電機社員拘束の件も、その大きな流れの中で見るべきである。詳細は今後の確認が必要だが、少なくともこの事件は、中国でビジネスを続けることの危うさを世界に示した。
だが、それは同時に、中国依存から抜け出す号砲でもある。
中国がレアアースを外交兵器として使えば使うほど、日本、カナダ、オーストラリア、米国、欧州は代替供給網を本気で作らざるを得なくなる。中国が脅せば脅すほど、世界は中国を信用しなくなる。
日本は、もう2010年の日本ではない。あのときは、中国のレアアース圧力に驚き、慌てて代替調達を探した。しかし今は違う。日加共同備蓄が動き、日豪協力が動き、日米協力が動き、G7が動き、日本企業も国内精製に戻り始めている。
政府が本気になれば、我が国はこの分野でとてつもないことができる。
中国はレアアースを兵器化した。ならば日本は、資源技術、備蓄、同盟、環境技術を武器にすればよい。
中国の支配に怯える時代は終わった。これからは、日本が静かに、しかし確実に、資源戦略を取り戻す時代である。
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