2026年9月23日水曜日

北朝鮮のサイバー攻撃グループは「採用手続」から入る――日本企業の内側に迫る新たな安全保障の危機

まとめ

  • WaterPlumは攻撃手法ではなく、警察庁が「北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループ」と位置付ける集団である。求人、オンライン面接、コーディング課題など採用手続を悪用してIT技術者を攻撃し、警察庁とFBIはWaterPlumと一部の北朝鮮IT労働者について、朝鮮労働党中央委員会軍需工業部313総局の指揮下で運用されていると評価している。

  • 我が国では、北朝鮮IT労働者が遠隔操作するPCを国内支援者宅に置く「ラップトップ・ファーム」が初めて把握され、捜査・解体された。企業が相手を正規の社員や委託先だと信じれば、外部から防壁を破らなくても、正規の認証情報やアクセス権を得られる可能性がある。

  • AIによる顔画像交換、生成AI、音声読み上げソフトなども偽装に利用されている。企業には本人確認、端末、再委託、支払先、アクセス権限を横断的に管理する体制が必要であり、政府には捜査・注意喚起・国際連携をさらに官民の実務的な情報共有へ結び付け、我が国の技術、資金、知的財産という国家資産を守る役割が求められる。

北朝鮮の脅威と聞けば、多くの日本人は弾道ミサイルや核兵器を思い浮かべるだろう。サイバー攻撃についても、北朝鮮のハッカーが国外から日本企業のネットワークへ侵入し、暗号資産や機密情報を盗み出すというイメージが一般的である。だが、その認識だけでは、すでに現実を捉え切れない。

9月18日、警察庁と国家サイバー統括室は米国、豪州、ドイツの関係機関とともに、北朝鮮サイバー攻撃グループ「WaterPlum」と北朝鮮IT労働者の活動実態を公表した。WaterPlum(ウォータープラム)とは攻撃手法の名称ではない。警察庁が「北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループ」と位置付ける集団であり、「Contagious Interview」という関連名称でも知られる。警察庁と米連邦捜査局(FBI)は、WaterPlumと一部の北朝鮮IT労働者について、朝鮮労働党中央委員会軍需工業部313総局の指揮下で運用されていると評価している。

WaterPlumは正規のAI企業、暗号資産企業、NFT企業、人材紹介サービスなどを装い、IT技術者に魅力的な求人を持ちかける。オンライン面接やコーディング課題を利用してマルウェアを実行させ、暗号資産や認証情報などを盗み出す。一方では、北朝鮮IT労働者自身が身元や所在地を偽り、企業の求人に応募したり、クラウドソーシングを通じて仕事を受注したりしている。「採用」という同じ仕組みが、一方では技術者を攻撃する罠となり、もう一方では北朝鮮側が企業から仕事とアクセス権を得る入口になっているのである。

ここで問題になるのは、「北朝鮮のハッカーが巧妙になった」という話だけではない。もっと深刻なのは、相手を正規の技術者だと信じれば、企業自身がIDを発行し、業務に必要な情報やシステムへのアクセス権を与えてしまうことである。

攻撃者が壁を破って侵入するとは限らない。企業が相手を社員や委託先だと信じ、自ら玄関を開け、鍵を渡し、機密情報のある場所まで案内してしまう。それが今回の問題の本質である。

1️⃣求人そのものがサイバー攻撃になった

WaterPlumの攻撃が厄介なのは、被害者に明らかに怪しい行動をさせるとは限らないことだ。ソフトウェア開発者が転職活動をしていれば、採用試験としてコードを取得し、開発環境を立ち上げ、指定されたプログラムを実行することは不自然ではない。WaterPlumはそこを突く。ソーシャルメディア、求人サイト、ギグワーク・プラットフォーム、フリーランス市場などで求職者に接触し、オンライン面接やコーディング課題を装って不正なプログラムをダウンロード、実行させる。

規模はすでに大きい。警察庁と国家サイバー統括室の公表資料によると、2025年12月ごろから2026年7月にかけ、日本を含む100以上の国・地域で3万台以上とみられるPCがWaterPlumのマルウェアに感染した。7000件以上の暗号資産ウォレット情報が窃取され、WaterPlumが管理する暗号資産ウォレットには少なくとも約1071万ドル、警察庁の換算で約17億円相当の暗号資産が送金されていた。これは被害総額ではなく、あくまでWaterPlumが管理するウォレットへの送金額である。

採用課題を装い、IT技術者を狙うサイバー攻撃のイメージ AI生成画像
盗まれるのは暗号資産だけではない。ブラウザに保存されたIDやパスワード、キー入力記録、スクリーンショット、暗号資産ウォレットの秘密鍵、さらには運転免許証やパスポートなどの身分証画像まで対象になる。WaterPlumは盗んだ認証情報を使い、被害者を雇用する組織のネットワークへ侵入し、スパイ活動や知的財産の窃取、企業環境内でのさらなる横展開を可能にすると警察庁は説明している。盗まれた身分証画像が、北朝鮮IT労働者による別人へのなりすましに利用される可能性も指摘されている。

つまり、求人を装って1人の技術者を攻撃し、そこから勤務先企業へ侵入する。さらに盗んだ身分証を、別の北朝鮮IT労働者が身元を偽るために使うこともあり得る。「サイバー攻撃」と「偽装就労」が別々の問題ではなく、つながり得るのである。

さらに厄介なのがAIである。警察庁は、WaterPlumのメンバーが「Magicam」などのAIによる顔画像交換ソフトを使ってオンライン面接を行い、数分後には通信状態を口実に映像を切るよう仲間内で助言していたことを明らかにした。「NaturalReader」のような音声読み上げソフトで日本語の発音を学び、機械翻訳や生成AIも利用していた。顔を見て話す、外国語能力を確認するという従来のオンライン面接だけでは、本人確認として十分とは限ない時代になったのである。

2️⃣日本国内にはすでに「ラップトップ・ファーム」があった

さらに重大なのが、北朝鮮IT労働者による外貨獲得活動である。警察庁によると、北朝鮮IT労働者は我が国に居住する支援者から提供された身分証明書画像を悪用してその人物になりすまし、仕事を受注していた。支援者が受注した仕事を北朝鮮IT労働者が実際に行ったり、支援者の銀行口座を報酬の振込先として使い、その後海外へ送金してもらったりする手口も確認されている。

そして今回、我が国で初めて把握されたのが「ラップトップ・ファーム」である。これは国内の支援者宅にPCを置き、北朝鮮IT労働者が国外から遠隔操作する仕組みだ。支援者が借りたVPS(仮想専用サーバー)も使われ、実際の所在地や作業場所を隠しながら、国内外のクラウドソーシングで仕事を受注していた。警察は国内のラップトップ・ファームを把握し、捜査・解体した。関連捜査で判明した分を含め、北朝鮮IT労働者は暗号資産など数億円相当を海外へ送金していたという。

日本国内に置かれた「ラップトップ・ファーム」のイメージ AI生成画像
この仕組みの恐ろしさは、企業のセキュリティーシステムから見れば、必ずしも「侵入者」に見えないことにある。企業が正規の社員や委託先だと認識してアカウントとアクセス権を与えてしまえば、その人物は正規の認証情報でシステムへ入ることができる。ファイアウォールを破り、不正なIDでログインする必要さえない。

これは「ハッキングされて侵入される」のとは違う。企業が相手を信用し、自分で鍵を作り、自分で渡すのである。

しかも北朝鮮IT労働者は、必ずしも仕事のできない偽物ではない。WaterPlumの一部メンバーについても、日本や米国の企業で専門的なIT業務やWebシステムの設計・開発の仕事に就くことに成功していたと警察庁は明らかにしている。実際に成果物を納める技術力があれば、企業はむしろ「優秀なリモート人材を確保できた」と評価しかねない。そこに、この手口を見抜きにくくする要因がある。

だから「仕事をしてくれるなら問題ない」という話でもない。警察庁は、北朝鮮IT労働者と知らずにプログラム開発を外注した企業で報酬をめぐるトラブルが生じ、北朝鮮IT労働者が自ら担当していたソースコードをインターネット上に公開した事例を確認している。また、北朝鮮IT労働者が制作に関与したWebサイトが後に改ざんされ、正常に表示されなくなった事例もある。主目的は外貨獲得であっても、悪質なサイバー活動が併せて行われる場合があるのである。

さらに、北朝鮮IT労働者への業務発注や報酬支払い、外貨獲得への幇助は、事情によっては国内法令や対北朝鮮制裁に抵触するおそれもある。企業にとっては情報漏洩だけの問題ではない。知らないうちに北朝鮮の外貨獲得活動へ組み込まれる危険まである。

3️⃣bitFlyerへの応募――人事部も安全保障の最前線になった

今回の公表資料で、日本企業にとって最も生々しいのが、暗号資産取引事業者bitFlyerへの採用応募である。2025年5月、同社のエンジニア職に応募があり、警察庁は応募者を北朝鮮IT労働者とみている。応募者は別人になりすました履歴書を添付し、仲介事業者を介さず採用フォームから直接応募した。アクセスには複数のVPNが使われていた。

履歴書だけを見れば魅力的な人材に映った可能性がある。プログラミング言語、ブロックチェーン、クラウドサービスなど、それぞれ10種類以上の知識と経験を持ち、欧州の大学を卒業後、欧州やアジア各地で働いたという経歴だった。ところがオンライン面接では、申告された学歴・職歴と英会話能力の不釣り合い、専門的な質問への抽象的な回答、日本への転居・出社への消極姿勢、暗号資産での給与支払いへの固執など、不審な点が相次いだ。別のモニターを見ながら何かを読み上げる様子や、背後から他人の声が聞こえる場面、映像が途切れる場面もあった。同社は不審点に気付き適切に対応したため、採用や被害には至らなかった。

採用時の本人確認とアクセス管理権を慎重に進める企業のイメージ AI生成画像

重要なのは、これが諜報映画のような特殊な潜入工作ではないことである。求人フォームに履歴書を送り、オンライン面接を受ける。日々、無数の企業で行われている普通の採用手続である。警察庁とFBIは、WaterPlumによるサイバー攻撃と北朝鮮IT労働者による一部の外貨獲得活動について、いずれも313総局が中心的な役割を果たしていると評価している。

企業がここから学ぶべきことは、「外国人を採用するな」という話ではない。国籍ではなく、本人性と権限を確認する仕組みが問われている。履歴書の人物と面接している人物は同じなのか。申告した居住地と接続環境は整合しているのか。貸与したPCを本人が操作しているのか。仕事が第三者へ再委託されていないか。報酬の受取先は不自然ではないか。そして何より、その人物に業務上必要な範囲を超える情報へのアクセスを許していないかである。

警察庁も、外注先へ提供するソースコードや認証情報、アクセス許可範囲を「必要最小限かつ最小権限」とし、外注・再委託に関する契約内容を明確にするよう求めている。採用担当者は履歴書を見る。情報システム部門は接続情報を見る。経理部門は振込先を見る。調達部門は再委託先を見る。これらをばらばらに管理するのではなく、横につないで初めて異常を発見できる。

人事部は、もはや人を採るだけの部署ではない。企業のサイバー防衛と経済安全保障における最初の関門でもある。

しかし、企業だけに責任を負わせるのも現実的ではない。応募者の身元、海外拠点、制裁対象との関係、IPアドレス、国内支援者とのつながりなどを、個々の企業だけで把握するには限界がある。政府はすでに動いている。7月31日には警察庁、国家サイバー統括室、外務省、財務省、経済産業省が、米国や韓国をはじめとする関係国とともに北朝鮮IT労働者に関する各国・企業等への注意喚起を公表し、9月18日にも米国、豪州、ドイツとWaterPlumなどについて共同公表した。今回の国内ラップトップ・ファームも警察の捜査によって解体されている。政府が何もしていないわけではない。

問題は、その先である。捜査で判明した新たな手口や危険指標を、法令や捜査上の制約を踏まえながら、企業が実際の採用・委託審査に使える形で迅速に共有できるか。警察、国家サイバー統括室、外務省、財務省、経済産業省などが、それぞれの所掌に基づいて持つ情報や対策をどう接続するか。重要インフラ、先端技術、防衛、金融、暗号資産など機微な分野では、本人確認、外部委託、再委託、端末管理、アクセス権限をどこまで一体的に扱うべきか。これらは今後、政府と企業が詰めるべき政策課題である。

政府がすべての企業の採用を監視するような仕組みにすべきではない。必要なのは、企業が確認すべき最低限のポイントを明確にし、疑わしい事例を警察などへ速やかに相談でき、官民双方が得た情報を次の防御へつなげる体制を強化することである。WaterPlumや北朝鮮IT労働者の活動は国境を越え、VPN、クラウド、暗号資産、海外拠点などを組み合わせる。国内だけで完結する対策には限界があり、米国をはじめとする関係国との捜査・分析、資金の追跡、情報共有を続ける必要がある。

北朝鮮IT労働者の問題は単なるサイバー犯罪対策ではない。日本企業が蓄積した技術、知的財産、顧客情報、資金がどこへ流れるのかという問題であり、我が国の供給力と国家資産を守る経済安全保障そのものなのである。

結論――「ハッキングされていないのに侵入される」時代

今回の問題が示しているのは、北朝鮮による新しいサイバー攻撃の手口だけではない。企業防衛の前提そのものが変わりつつある。

従来のサイバー防衛では、外から来る攻撃者をネットワークの境界で止めることが基本だった。ところが北朝鮮IT労働者は、その壁を壊す必要すらない。求人に応募し、面接を通過し、仕事を始めれば、企業側から正規のアカウントやアクセス権を得られる可能性がある。日本国内のラップトップ・ファームを利用すれば、実際の作業場所を隠すこともできる。さらにWaterPlumでは、AIによる顔画像交換、音声読み上げソフト、機械翻訳、生成AIまで利用されていた。

つまり、企業にとって最も危険な瞬間は、ファイアウォールが破られたときとは限らない。

採用担当者が「この人物なら大丈夫だ」と判断し、正規のアカウントを発行した瞬間かもしれないのである。

もちろん、すべての外国人IT技術者やリモートワーカーを疑うべきだという話ではない。それでは我が国の企業が必要な人材を確保できず、供給力や競争力を損なう。必要なのは国籍による一律の選別ではなく、本人確認、端末、接続環境、報酬の支払先、再委託、アクセス権限を一体として管理することである。そして企業だけでは確認できない部分を、政府が捜査、情報共有、制裁、国際連携によって支える。この官民の役割分担が欠かせない。

かつて安全保障の最前線は国境、領海、基地にあった。サイバー時代には企業ネットワークが加わった。そしてリモートワークと生成AIの時代には、採用面接、人事部、外注契約、一台のPCまでがその最前線になっている。

敵が壁を越えてくるとは限らない。こちらが敵と知らず、社員証に相当するIDを発行し、鍵を渡して迎え入れることさえあり得る。

企業への注意喚起だけで終わらせてはならない。企業が守り、政府が支え、関係国と情報をつなぐ。その仕組みを作れるかどうかが、日本企業の技術と資金、そして我が国の国家資産を守れるかどうかを左右する。

北朝鮮のサイバー攻撃グループとIT労働者が我が国に突きつけているのは、その現実なのである。

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2026年9月22日火曜日

グローバルホーク墜落――「高価な3機」の次に日本が水中ドローンへ進む理由


まとめ
  • 航空自衛隊は2015年度からRQ-4Bグローバルホークの取得を始め、2023年に3機体制を完成させた。しかし、その後のウクライナ戦争などを通じて無人兵器をめぐる軍事常識は大きく変わった。今回の墜落だけを理由に当時の判断を失敗と決めつけるのではなく、この10年間に得た経験と実戦の教訓を次の防衛投資へ生かすべきである。

  • 日本も「高価な大型無人機を少数持つ」という発想にとどまってはいない。現在はUAVだけでなく、USV、UUV、有人装備を組み合わせる多層的な防衛体制へ移行しつつあり、2027年度中には「安価かつ大量」の無人アセットを活用するSHIELDの構築を目指している。

  • ウクライナで目立つ空中ドローンをそのまま模倣するだけでは、日本の地理に適した防衛にはならない。四方を海に囲まれた我が国では、水上・水中の無人化、とりわけUUVは重要な領域である。日本が蓄積してきた潜水艦、水中音響、センサーなどの技術基盤と結びつければ、水中無人システムを将来の強みに育てる余地がある。

9月15日、航空自衛隊三沢基地所属の無人偵察機RQ-4Bグローバルホークが飛行中に通信を失い、その後、鳥取県沖で墜落した。航空自衛隊は9月20日までに第6報を公表しており、事故原因については調査が続いている。通信障害がなぜ発生したのか、機体にどのような異常があったのかは現段階では確定しておらず、原因を推測して論じるべきではない。航空自衛隊の一連の公式発表を見ても、いま確実に言えるのは、日本が3機体制で運用してきたRQ-4Bの1機を失ったという事実である。

航空自衛隊は2015年度からRQ-4Bの取得を始め、2022年12月に偵察航空隊を新編、2023年6月に3機目が三沢基地へ到着して3機体制が完成した。RQ-4Bは全幅約40メートル、最大高度約6万フィート、航続時間約36時間という大型の高高度長時間滞空型無人機であり、夜間や悪天候下でも各種センサーを使って情報収集できる。航空自衛隊の公式資料が示すように、我が国から比較的離れた地域を含む広域の常続監視能力を強化するために導入された装備であり、単なる「大きなドローン」ではない。

それでも、3機のうち1機を失った意味は軽くない。ただし、ここから「日本はまた高価な装備を買って失敗した」という結論へ飛びつくのも間違いである。グローバルホークの取得を始めた2015年と2026年では、世界が無人兵器について持つ知識そのものが違う。この約10年間に、UAVの大量運用、FPV型UAV、USV、UUV、AI、自律化、有人・無人連携について膨大な実戦知見が蓄積された。そして日本も、その変化を見ながら無人防衛の考え方を変えてきた。

その意味では、グローバルホークへの投資は、日本にとってある種の「高い勉強代」だったともいえる。ただし、それは無駄だったという意味ではない。大型無人ISR機を実際に導入し、操縦者を育て、運用体制を構築した経験は国家の防衛資産として残る。問うべきなのは、2015年の判断を2026年の知識で裁くことではない。

その経験と、その後に世界の戦場から得られた教訓を、我が国が次の10年にどう生かすかである。

1️⃣2015年には見えていなかった「ドローン戦争」

2015年度に日本がグローバルホークの取得を始めた時点では、高高度を長時間飛行し、搭乗員を危険にさらさず広大な地域を監視できる大型無人機には大きな価値があった。実際、2024年版防衛白書も、広域の常時監視能力を強化するため2015年度からRQ-4Bの取得を始めた経緯を説明している。その判断を、現在のドローン戦争についての知識をそのまま過去へ持ち込んで評価するのは適切ではない。

その後の約10年間で、無人兵器を取り巻く状況は大きく変わった。とりわけ2022年以降のウクライナ戦争では、UAVが偵察だけでなく攻撃や砲撃支援など幅広い任務に投入され、比較的安価な機体を多数使用する戦い方が急速に発達した。海上でも無人艇が実戦投入され、「非常に高性能な無人機を少数保有する」という発想だけでは捉えられない無人戦の姿が現れた。機体単体の性能だけでなく、数、コスト、分散、自律化、ネットワーク、そして損耗しても任務を継続できる冗長性が重要になったのである。

大量投入される小型ドローンが変えた現代戦 AI生成画像
米空軍のRQ-4をめぐる動きも象徴的だ。米空軍は2022年、RQ-4 Block 30を計20機、空軍の運用から外して別用途へ移管すると発表した。米空軍航空戦闘軍団の公式発表によれば、これらは単純に廃棄されたのではなく、センサーを変更し、高速システム試験などを支援する用途へ転用された。同年にはビール空軍基地のBlock 30運用終了も発表され、米空軍はISR体系の再構築と、中国やロシアのような高度な軍事能力を持つ相手への対応力向上を理由に挙げている。

ここから「グローバルホークは失敗作だった」と結論づけるのは早計である。むしろ米国は、衛星、有人ISR機、無人機、各種センサー、通信・指揮統制を含め、特定の大型航空機だけに依存しない体系へ資源を移していると見るべきだ。そして日本も、グローバルホークを導入した2015年の発想にとどまってはいない。2022年に策定された防衛力整備計画は、洋上監視用の滞空型UAVだけでなく、偵察用、多用途・攻撃用、小型攻撃用のUAV、USV、UUVを整備し、有人機と無人機の連携や複数の無人アセットを同時運用する能力を強化する方針を明記した。つまり日本はすでに、「高価な3機」の延長線だけで将来を考えているわけではないのである。

2️⃣日本はすでに「3機の発想」から動き始めている

日本の方向転換は、その後さらに明確になった。海上自衛隊は2023年5月からMQ-9Bシーガーディアンの試験的運用を行い、防衛省は2024年11月に同機の取得を決定した。防衛大臣会見では、平時の広域洋上監視能力を強化するとともに、有事には人的損耗を抑えながら任務を遂行することが導入目的として説明されている。さらに2026年版防衛白書によれば、海自によるMQ-9Bの運用開始は2028年度を予定し、それに先立って2027年度から鹿屋航空基地で2機を使った早期導入事業を行う計画である。

より大きな変化が、無人アセットによる多層的沿岸防衛体制「SHIELD」である。2026年版防衛白書は、2027年度中の構築を目指し、FPVタイプのモジュール型UAV、小型攻撃用UAV、水上艦発射型UAV、小型多用途USV、艦載型UAV、艦艇攻撃用UAV、レーダーサイト防衛用UAV、小型多用途UUVなどを取得するとしている。2026年度防衛関係費の予算資料では、SHIELDの構築だけで1001億円を計上し、これとは別に広域用UAV5式、狭域用UAV189式、狭域用UAV汎用型767式なども盛り込まれた。少なくとも政策文書を見る限り、「少数の高性能機だけに依存する」という発想から、多数・分散・多層化へ転換しようとしていることは明白である。

無人あせつとを多層運用する日本の沿岸防衛 AI生成画像
ここは、日本の安全保障を論じる際に見落としてはならない。日本について何でも「遅れている」「また失敗した」と決めつければ簡単だが、それでは現実を見誤る。グローバルホーク導入後に戦場が変わり、防衛省・自衛隊もその変化を認識し、UAVだけでなくUSV、UUV、有人装備を一体化する方向へ政策を修正している。問題があるとすれば方向そのものより、急速に変化する無人戦の技術と戦術に、予算化、調達、研究開発、部隊配備の速度が追いつけるかどうかである。

そして、ここでさらに重要なのは、ウクライナ戦争で目立った無人戦を、そのまま日本へ持ち込めばよいわけではないということだ。ウクライナでは長大な陸上戦線が存在するため、FPV型UAVなど陸上戦を支える無人機が強烈な印象を与えてきた。しかし日本は四方を海に囲まれた島国であり、南西諸島をはじめ多数の島嶼を防衛しなければならない。これは、台湾とも異なる。日本が必要としているのは、ウクライナや台湾のコピーではない。

我が国の地理から逆算した、日本独自の無人防衛である。

3️⃣島国・日本の勝負どころは「水中」にある

そこで注目すべきなのが水中である。水中では電波の利用に大きな制約があり、通信、測位、自律航行、目標探知など、空中のUAVとは異なる難しい技術課題が存在する。これは運用する日本側にとっても難題だが、同時に水中目標の発見・追尾そのものが難しいという特性を意味する。したがって、水中無人システムで高い静粛性、自律性、長期航続能力、センサー性能、通信能力を実現できれば、島国である我が国にとって大きな防衛上の価値を持つ可能性がある。「水中だから自動的にステルスになる」と単純化するべきではないが、空中とは異なる探知環境を生かす余地は大きい。

これは単なる将来構想ではない。防衛力整備計画はすでに「水中優勢を獲得するための各種無人水中航走体(UUV)」を整備すると明記している。また、防衛装備庁は、管制型UUVから別のUUVを管制する技術、水中音響通信、長期運用型UUVなどの研究を続けている。防衛装備庁の研究評価資料を確認すると、UUV・USVの構成要素技術は2010年代前半から研究され、長期間の水中航走を可能にする発電システム、モジュール化、自律技術などへ研究範囲が広がってきた。2025年9月には防衛省が小型多用途UUVについての情報・提案募集を行い、遅くとも2027年度の初期型装備品の装備化を目標としている。

日本の新たな強みとなり得る水中無人システム AI生成画像
日本には、この分野を一から始めるのではないという強みもある。海上自衛隊の「たいげい」型潜水艦には新型ソーナー、雑音低減のための浮甲板構造、リチウムイオン電池を用いた推進システムなどが採用されていることを、防衛省自身が公表している。また、防衛装備庁艦艇装備研究所は、水中音響、水中武器、磁気器材、対潜戦、UUVの水中音響通信などを研究している。これらがそのまま軍事用UUVの優位性を保証するわけではないが、潜水艦、音響、静粛化、電池、センサー、水中通信という周辺技術の蓄積は、水中無人システムを育てるうえで無視できない国家資産である。

もちろん、米国や中国、豪州をはじめ各国もUUV開発を進めており、「日本が本気を出せば他国は追いつけない」と現時点で断言することはできない。だが、だからといって日本に勝ち筋がないわけでもない。防衛装備庁は長期運用型UUV、水中音響通信、複数UUVの管制まで研究を進めており、防衛省は実際の装備化へ踏み出している。ここに日本の潜水艦・造船関連技術、AI、自律制御、電池、センサー技術を集中的に投入し、研究から量産までの速度を上げることができれば、水中無人システムは日本が国際的な競争力を形成し得る有望な領域の一つになる。

しかも、この投資は単に外国製兵器を買う話とは違う。国内でUUVの自律航行、エネルギー、センサー、水中通信、静粛化、量産技術を育てれば、防衛力の強化と同時に国内の技術・生産基盤という国家資産を形成できる。重要部品やソフトウェアまで国内供給力を高められれば、有事の継戦能力にもつながる。防衛投資を単なる「支出」と見るのではなく、我が国の供給力と技術基盤を残す投資として設計する発想が必要である。

グローバルホーク、MQ-9B、衛星が広域を見渡し、有人哨戒機や艦艇が監視し、その下でUSVが海面を、UUVが海中を監視する。さらに各センサーから得られた情報をネットワークで共有し、一つの機体や通信経路を失っても別の手段が補う。日本が目指すべき無人防衛とは、特定の「夢の兵器」を作ることではなく、空、海上、水中、宇宙を結んだ強靱なシステムを構築することだ。

海に囲まれていることを弱点として嘆くのではない。海を、日本の防衛上の強みに変えるのである。

結論 「高い勉強代」を次の国家資産に変えよ

今回のグローバルホーク墜落については、事故調査の結果を待つ必要がある。1機を失ったという事実だけから、2015年度に始まった導入そのものを失敗と決めつけることもできない。当時には当時の安全保障環境と技術水準があり、広域の常続監視能力を強化するという明確な目的があった。そして実際にグローバルホークを導入し、偵察航空隊を新編し、無人ISR機を運用する人材と経験を蓄積したことにも意味がある。

それでも、現在から振り返れば、グローバルホークへの投資はある意味で「高い勉強代」だったといえる。なぜなら、その後の約10年間で無人戦そのものが急速に変わったからだ。しかし、勉強代は払ったこと自体が問題なのではない。そこで得た知識を次へ生かせなければ、初めて本当の無駄になる。

日本はすでに変わり始めている。2026年版防衛白書が示すSHIELDは、UAV、USV、UUVを多数組み合わせ、有人アセットとも連携させる構想である。海上自衛隊はMQ-9Bの導入へ進み、防衛装備庁は水中無人技術の研究を続けている。これは2015年の「高性能な大型無人機を少数導入する」という段階から、分散、多層化、ネットワーク化へ進む変化と見ることができる。

ここで必要なのは、日本について何でも悲観することでも、逆に根拠なく技術力を礼賛することでもない。外国の成功例をそのまま輸入するのではなく、日本の地理と既存の技術基盤から勝負すべき分野を選び、そこへ人材、研究費、調達予算、国内生産能力を集中することである。四方を海に囲まれた日本なら、水上・水中無人システムはその有力候補になる。

グローバルホークの1機喪失を「また日本は失敗した」で終わらせる必要はない。むしろ今回の事故を、過去10年間に得た経験を棚卸しし、次の無人防衛へ進む契機にすればよい。

高い勉強代だったのなら、その勉強代を次の国家資産に変えればよい。

日本の無人防衛の次の10年は、空に何機持つかだけでは決まらない。空、海上、水中、宇宙をどう結び、日本の地理と技術をどう生かすかで決まる。その中でも水中には、我が国がこれから強みを築く余地がまだ大きく残されている。


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「派閥の順番」から仕事本位へ――高市首相は人事をどう変えたのか


 まとめ
  • 高市首相は今回、当選回数を問わず幅広い自民党議員にアンケートを配り、政策提案、専門知識、課題意識、積極性、情熱を人選材料にした。従来の派閥推薦や当選回数、人間関係に依存しがちだった人事から、仕事と能力を基準に人物を探す方向への明確な前進である。

  • アンケートは人気投票ではなく、首相が党内の人材と政策構想を直接把握するための情報収集手段である。派閥幹部など限られた仲介者の情報だけに頼らず、人の強みと仕事を結び付けようとした点で、人事をドラッカーのいう「究極のコントロール」として使う姿勢に近づいた。

  • 今回の人選が最終的に正しかったかは政策成果で検証すべきだが、人を選ぶ方法についてはすでに従来からの前進が認められる。今後問われるのは、この原則を継続し、成果に応じて配置を見直せるかである。

9月16日に自民党の役員人事が行われ、翌17日には第2次高市改造内閣が発足した。党では麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長、小林鷹之政務調査会長、西村康稔選挙対策委員長らが再任され、総務会長に梶山弘志氏、国会対策委員長に村井英樹氏が就いた。内閣では木原稔官房長官、茂木敏充外相、片山さつき財務相、小泉進次郎防衛相、城内実経済財政担当相、赤澤亮正経済産業相らを留任させる一方、総務相に藤井比早之氏、法相に山下貴司氏、デジタル相に古川俊治氏、復興相に細野豪志氏らを起用した。党役員人事は自民党「政策実現、統一地方選必勝へ結束の布陣」、内閣の顔触れと担務は自民党「第2次高市改造内閣の顔触れ」で確認できる。

内閣改造となれば、報道は「誰が入ったか」「誰が外れたか」に集中する。派閥への配慮、論功行賞、党内融和、次の総裁選を見据えた布石といった政治特有の力学から読む分析も必要である。しかし今回、本当に注目すべき変化は、顔触れだけではない。

高市首相が、人を選ぶ方法そのものを変えようとしたことである。

高市首相は、当選回数を問わず幅広い自民党所属議員にアンケートを配り、そこに書かれた政策提案を読み、本人の専門知識、課題意識、積極性、情熱を吟味したと説明した。そのうえで、旧派閥の均衡や当選回数ではなく、「実行力重視」で閣僚を選んだと明言している。これは単なる人事後の美辞麗句ではない。少なくとも、派閥から上がってくる推薦や「そろそろ入閣の順番だ」という永田町の慣行だけに頼らず、首相自身が党内の人材と政策構想を把握しようとしたということである。

もちろん、アンケートを取っただけで完全な能力主義が実現するわけではない。しかし、従来の人事と同じだとして片付けるべきでもない。選ぶ側が情報を集める方法を変え、何を人選基準とするかを公に示したことは、それ自体が組織改革の一歩である。

経営学者ピーター・ドラッカーは、人に関する決定を組織にとって「究極の、おそらく唯一のコントロール」と位置付けた。組織が本当に何を重視しているかは、理念やスローガン以上に、誰を採用し、誰を配置し、誰を昇進させるかに表れるという考え方である。『The Daily Drucker』の「People Decisions」にも、その考え方が示されている。

この視点から問うべきは、誰が得をし、誰が冷遇されたかだけではない。

高市首相は、どのような情報を基に人を選び、誰のどの強みを、どの仕事に結び付けようとしたのか。

今回の高市人事には、従来の「派閥の順番」から「仕事本位」へ、人の選び方を近づけようとする意志が見える。

1️⃣なぜ人事が「究極のコントロール」なのか

組織を動かす手段は、人事だけではない。予算をどこに配分するか、どの部署にどこまで権限を与えるか、どのような規則や手続きを設けるか、何を目標とし、どの指標で成果を測るか。報告、監査、評価、報酬も重要である。政府なら予算、行政組織、法令、政策目標、権限配分などがこれに当たる。

それでもドラッカーが、人に関する決定を「究極の、おそらく唯一のコントロール」とまで表現したことには理由がある。予算を執行するのも、規則を解釈するのも、情報を読み取るのも、最後に決断するのも人間だからである。同じ組織図、同じ権限、同じ予算を与えても、そこに誰を置くかによって結果は変わる。制度は仕事の枠を作ることはできるが、その枠の中で何を優先し、何を決断し、誰を動かし、どの結果に責任を負うかは、人間に委ねざるを得ない。

ここで「組織図上の組織」と「生身の人間からなる組織」を区別する必要がある。組織図を見れば、誰が誰を指揮し、どこに権限があり、どの部署が何を担当するかは分かる。しかし、現実の組織は線と箱で動いているのではない。専門性のある人、決断できる人、周囲を動かせる人がいる一方、責任を避ける人、前例から一歩も出ようとしない人もいる。同じ制度を与えても、配置された人によって組織は全く違うものになる。

誰を重要な席に置くかが組織の方向を決める AI生成画像
だから人事は、他のコントロール手段とは性格が違う。予算、制度、権限、評価指標を実際に使い、成果へ変える人間そのものを選ぶ行為だからである。人事は他の手段と並ぶ一項目ではなく、それらを現実に機能させる土台に位置する。

さらに、人事には組織全体へ評価基準を知らせる作用がある。経営者が「イノベーションを重視する」と100回繰り返しても、前例を守って何もしなかった人ばかりを昇進させれば、社員が受け取る本当のメッセージは「挑戦せよ」ではなく「失敗するな」である。反対に、専門性を磨き、難しい仕事を引き受け、成果を出した人が登用されれば、「能力と成果が評価される」という信号が組織全体に伝わる。

政府や政党も同じである。政治家は「改革する」「実行する」「専門性を重視する」といくらでも語れる。しかし、それが本当かどうかは、誰を重要ポストに置いたかを見れば分かる。政策を学び、具体策を持ち、難しい課題に取り組んできた者が登用されるなら、「政策を磨け、結果を出せ」という言葉には重みが生まれる。反対に、当選回数や派閥内の序列だけでポストが回るなら、議員が学ぶのは政策ではなく、順番を待ち、有力者との関係を保つことである。

人事とは、人物を配置するだけではない。組織の構成員に、何をすれば評価されるのかを教える行為でもある。

この意味で、今回の高市人事における最大の変化は、顔触れ以上に人選の入口にある。高市首相は第2次高市改造内閣発足時の記者会見で、当選回数を問わず幅広く配ったアンケートに目を通し、政策提案、専門知識、課題意識、積極性、情熱を見極めたと説明した。選挙に強く、腰を据えて政策を検討・実行できることも基準に挙げ、旧派閥の均衡ではなく「実行力重視」で選んだとしている。

これは、人事を単なる党内配分ではなく、政策実行のためのコントロールとして使おうとする姿勢である。

2️⃣アンケート人事は何を変えたのか

これまでの自民党人事では、派閥の推薦、当選回数、党内での序列、首相や党幹部との人間関係が大きな意味を持ってきた。もちろん、政治は一人ではできず、党内の信頼関係や調整能力も重要である。派閥に所属しているという理由だけで、人物の能力まで否定することもできない。

問題は、派閥や年功が人材情報の入口を独占すると、首相が人物を「何ができるか」ではなく、「誰が推薦しているか」「何回当選しているか」によって見るようになりやすいことである。その結果、閣僚ポストが政策を実行するための配置ではなく、長年待った議員に順番で渡す褒賞になりかねない。

今回のアンケートには、この構造を変える可能性がある。高市首相は、当選回数の多寡を問わず、幅広い所属議員から政策提案や問題意識を直接集めた。これは人気投票でも、議員同士による閣僚選挙でもない。任命権と最終責任は、あくまで首相にある。アンケートの意味は、首相が派閥幹部や周辺議員から上がってくる評判だけに頼らず、各議員が何を考え、どの分野に知識を持ち、何を実行したいのかを把握する情報経路を増やしたことにある。

組織の人事で最も危険なのは、選ぶ側が候補者を十分に知らないまま、限られた人の推薦と過去の肩書だけで決めることである。特に大きな組織では、能力があっても有力者との接点が少ない人や、目立たない分野で専門性を蓄積してきた人が埋もれやすい。幅広くアンケートを取り、本人の政策提案を読むことは、そうした「見えていなかった人材」を発見する一つの方法となる。

政策提案と専門性を比較する仕事本位の人選 AI生成画像
無論、アンケートには限界もある。文章が巧みな人や自己演出の上手な人が有利になる可能性があり、書かれた意欲と実際の実行力が一致するとは限らない。したがって、政策提案の内容だけでなく、過去の実績、専門分野での活動、困難な場面での判断、周囲を動かした経験などと照合しなければならない。それでも、派閥の推薦と当選回数だけに頼るより、人材を判断する材料が増えることは明らかである。

この違いは小さくない。従来型の人事が「空いたポストを誰に配るか」から始まりやすかったのに対し、今回の説明は「政権公約を実現するには何の仕事が必要で、その仕事を前へ進められるのは誰か」という発想に近いからである。ドラッカー流に言えば、先に椅子があり、順番を待っていた人を座らせるのではない。仕事が要求するものを定め、その仕事に強みを生かせる人物を探すのである。

新任者だけでなく、留任者の扱いにも同じ考え方が見える。高市首相は、外交・通商など外国政府との人間関係の継続が重要な職務や、経済財政政策、成長戦略など政権の最重要課題を担う職務については、継続性を重視したと説明している。茂木外相、片山財務相、小泉防衛相、城内経済財政担当相、赤澤経済産業相らの留任は、単に骨格を残したというだけでなく、政策の連続性と対外関係を人事上の価値として判断したものと読める。

総務相となった藤井氏には地域未来戦略や副首都整備等推進を担当させ、古川デジタル相にはAI・デジタル改革、人工知能戦略、科学技術政策、宇宙政策、サイバー安全保障などを担わせた。赤澤経済産業相には新設のAX、すなわちAIトランスフォーメーション社会実装担当を兼任させ、細野復興相には防災担当も兼ねさせた。これは人物を既存の椅子にはめ込むだけでなく、人物の経験や政権の課題に合わせて担務を組み替える試みである。

党人事については、政府の閣僚人事と全く同じ原理で決まるわけではない。党内融和、国会運営、選挙、参議院側の自主性など、それぞれ異なる条件がある。全ての配置を首相一人が決めたとみなすのは正確ではない。それでも、自民党の新役員共同記者会見では、小林政調会長が、首相から政権公約の実現に向けて結果を出すよう求められたと説明している。政府で政策を作るだけでなく、党内でまとめ、国会で法案や予算を成立させるところまでを実行体制として見ていることが分かる。

今回の人事が完全に派閥や人間関係から自由になった、とまで断定することはできない。政治である以上、信頼関係、党内調整、選挙事情を完全に排除することも現実的ではない。しかし、当選回数を問わずアンケートを取り、政策提案、専門性、意欲、実行力を人選材料にしたことは、従来と同じではない。

派閥の推薦を受けて順番を待つ人事から、仕事に必要な人材を探す人事へ。今回の高市人事は、少なくともその方向へ明確な一歩を踏み出した。

3️⃣期待できる人事を、成果につなげられるか

人事の評価には、二つの段階がある。一つは、どのような情報と基準によって人物を選んだかという「選考過程」の評価である。もう一つは、選ばれた人物が実際に何を成し遂げたかという「政策成果」の評価である。

人事の成否は結果が出るまで分からない、と一括りにするのは適切ではない。個々の閣僚が期待された成果を上げられるかは、今後の仕事を見なければ判断できない。しかし、どのような情報を集め、何を基準に人を選んだかは、発足時点でも評価できる。高市首相が幅広い議員から政策提案を集め、当選回数や旧派閥の均衡ではなく、専門性、課題意識、積極性、情熱、実行力を人選基準として掲げたことは、従来型の人事からの前進である。この人選方法には、すでに一定の期待を寄せる根拠がある。

ただし、選考過程が改善されたからといって、個々の人選が必ず成功するとは限らない。アンケートに優れた政策を書けることと、官僚組織を動かし、党内をまとめ、法案と予算を成立させることは同じではない。専門知識が豊富でも、優先順位を決められない人はいる。強い情熱があっても、異論を聞けず、組織を分裂させる人もいる。首相には、アンケートに書かれた言葉と過去の実績を照合し、任命後も仕事ぶりを見続ける責任がある。

高市首相は、改造内閣を「決断と挑戦、そして実行の内閣」と位置付けた。ならば、人事の成否も実行と成果によって検証しなければならない。経済政策なら、掲げた成長投資が予算、税制、制度改革として具体化され、供給力、民間投資、雇用、所得の増加につながったか。外交・安全保障なら、継続性を重視した配置が同盟国・同志国との関係や抑止力、経済安全保障の強化につながったか。AI、デジタル、防災、地方政策では、新たに組み替えた担務が省庁の縦割りを超える成果を生んだかを見る必要がある。

人事の真価は政策の実行と成果によって決まる AI生成画像
党人事についても、評価基準は明確である。政権公約を党内でまとめ、必要な法案や予算を国会で成立させられたか。自由な議論を認めながら、最後には組織として決定し、実行できたか。統一地方選や参議院選に向け、地方組織との関係を立て直せたか。役職に就いた人物の知名度や派閥歴ではなく、任された仕事の成果で見るべきである。

そして、成果が上がらなかった場合には、任命された本人だけでなく、任命した側の責任も問われる。人事権を行使した首相には、なぜその人物をその仕事に置いたのか、必要な権限と支援を与えたのか、配置が合わないと判明したときに見直したのかという責任がある。人事とは人物への褒賞でも、人物そのものへの最終判決でもない。人の強みと仕事を組み合わせ、成果を生み出すための経営判断だからである。

今回のアンケート方式が一度限りで終わるのか、それとも今後も続くのかも重要である。次の人事でも政策提案、専門性、実績、実行力を重視し、実際に成果を出した人をさらに重要な仕事へ登用するなら、自民党内の行動は変わる。「派閥の有力者に認められること」より、「政策を磨き、専門性を蓄え、結果を出すこと」が昇進につながると議員が理解するからである。

反対に、今回だけアンケートを行い、次回から再び派閥の推薦や当選回数による順送りに戻れば、組織に新しい評価原理は定着しない。人事の本当の意味は、一度の配置ではなく、繰り返される評価のパターンによって明らかになる。

今回の人事で試されるのは、個々の閣僚だけではない。「能力と実行力を基準に人を配置する」という高市首相自身の人事原則である。

結論 今回の高市人事は、従来より期待できる

今回の高市人事は、二つの角度から評価すべきである。選ばれた閣僚が政策成果を上げられるかは、半年後、1年後に検証しなければならない。一方、人材を探し、選ぶ方法については、従来からの変化がすでに表れている。

高市首相は、当選回数を問わず幅広い所属議員にアンケートを配り、政策提案、専門知識、課題意識、積極性、情熱を直接確認した。そして、旧派閥の均衡より「実行力」を重視すると明言した。派閥幹部から上がってくる推薦や、当選回数による入閣待機列だけに依存せず、仕事に必要な人材を自ら探そうとした点は、従来より期待できる。

アンケートを取っただけで、情実人事が全てなくなるわけではない。首相の主観も残り、党内事情や人間関係も影響するだろう。書かれた政策提案が本当の能力を示しているかも、実際の仕事を通じて確かめなければならない。

それでも、選ぶ側が幅広く情報を集め、「誰と近いか」だけでなく「何を知り、何を考え、何を実行できるか」を見ようとしたことは重要である。人事を党内のポスト配分ではなく、政策を実行するための組織設計として扱う方向へ近づいたからである。

ドラッカーが人事を「究極の、おそらく唯一のコントロール」と呼んだのは、組織の理念が、最後には人の配置に表れるからである。高市首相が本当に専門性と実行力を重視するなら、それは演説ではなく、誰をどこに置き、誰の仕事を評価し、成果が上がらないときにどう配置を見直すかによって証明される。

今回の人事は、その出発点として従来より期待できる。これは高市首相への白紙委任ではない。むしろ、首相自身が掲げた人事原則に基づき、今後の成果を厳しく検証するための期待である。

派閥の順番ではなく、仕事に必要な人を選ぶ。言葉ではなく、人事で評価基準を示す。そして選んだ以上は、成果まで責任を負う。

今回の高市人事は、ドラッカーのいう「究極のコントロール」に、これまでより一歩近づいた。次に問われるのは、その一歩を政策成果へつなげ、仕事本位の人事を一度限りで終わらせないことである。

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2026年9月20日日曜日

人口減少の北海道を救うもの――上士幌が示すAI・エネルギー・神社という地方創生

まとめ

  • 北海道全体で人口減少が進むなかでも、東川町のように人口を増やしている町や、上士幌町のように一度人口減少を反転させた町がある。重要なのは人口の数字そのものではなく、仕事、子育て、文化、交通などを通じて「そこに住む理由」をつくることである。
  • 倶知安町や占冠村では、国際観光とリゾート産業が外国人を含む人口を引き寄せている。外国人材は地域経済の重要な担い手である一方、人口や労働力を国外からの流入に大きく依存すれば、社会統合、外部依存、安全保障を含む別の課題も生じる。
  • 人口減少への答えは、人を際限なく補充することだけではない。AI、自動運転、バイオガス、将来のSMRなどを使い、少ない人口でも高い生産性と供給力を持つ地域をつくる道がある。しかし、最後に共同体を残すのは、その土地の歴史と文化を受け継ぎ、「自分たちは何者で、何を次代へ渡すのか」を確認する霊性の精神である。

北海道では人口減少が続いている。しかし道内を細かく見ると、同じ人口減少社会のなかにありながら、人を引き付けている地域がある。東川町、上士幌町、倶知安(くっちゃん)町、占冠(しむかつぷ)村などがその代表である。ただし、この4自治体を単純に「人口増加の成功例」と一括りにしてはならない。人が集まる理由も、人口の中身も、地域が抱える課題もそれぞれ違うからである。

東川町は、2025年国勢調査速報値で8726人となり、2020年から5年間で5.0%増えた。総務省統計局の人口速報では、全国の市町村のうち人口増加率が高い方から19番目に入っている。総務省統計局「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」 東川町は1985年の「写真の町」宣言以来、写真文化、自然、家具・クラフト、教育などを結び付け、「過疎でも過密でもない」状態を意味する「適疎」をまちづくりの理念としてきた。町自身も、先人から受け継いだ文化や歴史の記憶と、「自然と人」「人と文化」「人と人」のつながりを、その土台に挙げている。東川町「適疎なまちづくり」

上士幌町では、2016年から3年連続で自然減を社会増が上回り、一時5000人台を回復した。当時の北海道の資料では、転入者の8割以上を20~40歳代が占めている。北海道「都市と農山村の交流が人口増加を実現(上士幌町)」 しかし、町の公式統計では2025年12月末の4677人から2026年8月末には4581人へ減っている。上士幌町「人口・世帯数」 一度人口増加を実現しても、高齢化による自然減を転入だけで恒久的に埋め続けることは容易ではない。

一方、倶知安町と占冠村では国際観光とリゾート産業が異なる人口構造をつくっている。2026年8月末の倶知安町は外国籍住民1472人、占冠村では人口1346人のうち外国人が390人で、約29%を占める。倶知安町公式ホームページ・人口統計 占冠村「村のあらまし」 人口が増えたか減ったかだけを見ても、地域の実像は分からないのである。

なぜ人が来るのか。誰が来るのか。その地域は何を生み、何を次の世代へ残すのか。

地方創生を見る尺度を、人口の数から共同体の持続性へ広げる必要がある。

1️⃣「住む理由」をつくる町と、外国人流入が支える町

東川町が興味深いのは、人口増加だけを直接追いかけるのではなく、「暮らしたいと思える町」を長い時間をかけてつくってきた点である。「写真の町」宣言は、自然環境と景観を未来へ残し、先人から受け継いだ風土をさらに育てることを掲げている。東川町「写真の町宣言」 人は「人口増加政策」があるから移住するのではない。仕事があり、子どもを育てやすく、自然や文化があり、そこで自分の生活を組み立てられると思うから土地を選ぶ。人口を増やす前に「そこに住む理由」をつくることが先なのである。

東川町の暮らしと自然 AI生成画像
上士幌町も、子育て、移住、生活サービスなどを通じて同じ課題に向き合ってきた。しかし現在の人口推移を見る限り、「100人減れば100人を外から呼ぶ」という発想だけでは限界がある。自然減が拡大すれば、人口を維持するために毎年さらに多くの転入者が必要になる。それならば、人口そのものを維持するだけではなく、少ない人数でも生活と産業を維持できる地域へ転換することが重要になる。

倶知安町と占冠村は別の答えを示す。強い産業があり、所得を得られる仕事があれば、人は国内外から集まる。仕事があれば、人は来る。 外国人材が北海道の観光、宿泊、飲食などを支えている現実も正面から認めなければならない。しかし、「日本人が減った分を外国人で補えばよい」という人口の帳尻合わせにまで進めば、別の問題が生じる。送り出し国の経済成長、賃金、為替、我が国の在留制度、国際情勢によって人の流れが変われば、地域産業そのものが影響を受けるからである。

さらに外国人の受入れは雇用だけの問題ではない。OECDと欧州委員会の「Indicators of Immigrant Integration 2023」は、移民統合を労働市場・技能、生活条件、市民参加・社会統合など83の指標から分析している。同報告が紹介する2021年のEU市民調査では、非EU出身移民の統合に重要な要素として、受入れ国の公用語を話すことを85%、受入れ社会の価値観や規範を受け入れることを77%が挙げた。これは外国人が増えれば社会が不安定になるという因果を証明する数字ではないが、欧州自身が統合を単なる就労問題とは考えていないことを示している。OECD・欧州委員会「Indicators of Immigrant Integration 2023」 同報告「Social factors perceived as necessary for successful integration」

安全保障についても感情論ではなく、制度として考えなければならない。我が国の重要土地等調査法は外国人だけを対象にした土地取得規制ではなく、防衛関係施設などの周囲おおむね1000メートルや国境離島等を注視区域等に指定し、国籍を問わず土地・建物の利用状況を調査する制度である。機能阻害行為が行われ、または明らかなおそれがある場合、内閣総理大臣は土地等利用状況審議会の意見を聴いたうえで勧告し、正当な理由なく従わない場合には命令できる。内閣府「重要土地等調査法」 内閣府「重要土地等調査法 FAQ」 北海道には防衛関係施設、港湾、空港、通信、電力など国家基盤にかかわる資産がある。外国人受入れと安全保障上の土地利用管理を混同してはならないが、人口の「数」だけを追っていては、こうした問題は見えてこない。

地方創生で問われるべきなのは人口の帳尻ではない。誰が暮らし、どのように地域へ根を張り、その共同体を長期的に維持するのか。 そこまで考える必要がある。

2️⃣人口を補充するだけではない――AI、牛のふん尿、そして将来のSMR

人口が減れば地域社会は必ず衰退するのか。そうとは限らない。人口が減るなら、一人当たりの生産性を高め、人間が担わなくてもよい仕事をAI、ロボット、自動運転へ移し、限られた人材を人間にしかできない仕事へ振り向ければよい。人口減少のたびに外から人を補充するのではなく、必要な労働量そのものを技術で減らすという発想である。

上士幌町はその一つの実験場になっている。町では2017年から自動運転の実証を重ね、2022年12月に自動運転バスの定期運行を開始した。現在の定期運行はオペレーターを配置するレベル2だが、2024年10月には公道でレベル4の実証も行い、AIによる音声認識、回答生成、音声合成を使った「AI車掌」も導入している。2026年10月には、無人自動運転を見据えたロボットタクシーの実証運行も予定されているが、安全のため運転手が同乗する。上士幌町「自動運転の地域実装プロジェクト」 上士幌町「ロボットタクシー実証運行」 地方では運転手も、行政職員も、介護職員も、農業従事者も不足する。だからこそ、人を補充するだけでなく、技術によって必要な労働量そのものを減らす必要がある。

上士幌町のバイオガス発電 AI生成画像
さらに上士幌町には、人口減少時代の供給力を考えるうえで象徴的な取り組みがある。牛のふん尿によるバイオガス発電である。北海道経済産業局の資料によれば、町内には7基のバイオガスプラントがあり、年間発電想定量は約1810万キロワット時。町内主要施設、畜産農家、一般世帯の想定総電力消費量約1800万キロワット時に相当する。同局はこれを「町内エネルギー自給率100%」の事例として紹介している。北海道経済産業局「上士幌町内のバイオガス発電」

もちろん、この「100%」は町が送電網から完全に独立し、365日24時間、町内のあらゆる需要を牛のふん尿だけで賄っているという意味ではない。年間ベースの発電想定量が町内の想定電力需要とほぼ同規模だという意味である。それでも意義は大きい。これまで処理すべき対象だった家畜ふん尿がエネルギー資産となり、発電後の消化液は液肥として農地へ戻すことができる。廃棄物、農業、電力を地域内で循環させれば、域外へ流れていた所得の一部も地域に残せる。これは環境政策だけではなく、農業政策、産業政策、エネルギー政策であり、我が国の供給力と国家資産を積み上げる政策でもある。

そしてAI時代には、安定した電力の価値は一層高まる。AI、データセンター、自動運転、ロボット、電動農機、遠隔医療はいずれも電力を必要とする。地域資源を使うバイオガス、水力、地熱などに加え、将来を見据えればSMR、すなわち小型モジュール炉も重要な選択肢になり得る。2026年6月には経済産業省とIAEAが、SMRを含む原子力エネルギー開発と能力構築に関する協力覚書を締結した。経済産業省は同時に、既設炉の最大限活用に加え、次世代革新炉の開発・設置を進める我が国の方針をIAEA側に説明している。経済産業省「IAEAとのSMR等に関する協力覚書」

SMRが我が国の地方へ直ちに配置できる段階にあるわけではない。安全規制、経済性、サプライチェーン、人材、立地地域の理解、バックエンドなど解決すべき課題はある。しかし、課題があることと将来性がないことは別である。北海道でAIやロボットを使った高生産性産業を育て、データセンターや先端産業を呼び込み、厳冬期にも十分な電力を確保するなら、安定電源の価値はむしろ高まる。

上士幌町のバイオガスと将来のSMRに共通する発想は明快である。「足りないものを外から補い続ける」のではなく、「持っている資源と新しい技術から供給力をつくる」のである。 人口減少を単なる衰退として受け入れる必要はない。

3️⃣仏作って魂入れず――神社と祭りが伝える「自分たちは何者か」

ここまで人口、雇用、外国人材、AI、自動運転、エネルギーを見てきた。しかし、それらはすべて手段でもある。AIは「どう効率化するか」に答え、エネルギー技術は「どう供給力を確保するか」に答える。移住政策は「どう人を呼ぶか」、産業政策は「どう仕事をつくるか」に答える。

しかし、「なぜ、この土地を残すのか」という問いには、それだけでは答えられない。

そこで必要になるのが霊性の精神である。ただし、これは抽象的な精神論ではない。神社を守る。祭りを毎年続ける。墓地を維持する。開拓した先人の名と物語を伝える。地域の山や森、水を守る。子どもを地域の行事に参加させる。こうした具体的な営みを通じて、「自分たちは何者で、どこから来て、この土地を誰へ渡すのか」を確認することが霊性なのである。

その意味を、上士幌神社の由緒は鮮やかに物語っている。北海道神社庁によれば、上士幌開拓の祖とされる安村治高丸は1907年、富山県早星村から小作農家10余戸とともに移住した。そして1913年、小作人の高木太助を郷里へ遣わし、早星神社の御祭神「五百筒磐石神」の御分霊を迎えて奉斎した。これが上士幌神社の創祀とされている。北海道神社庁「上士幌神社」

上士幌神社の祭りを通じた地域伝承 AI生成画像
ここには、神社が地域社会で果たしてきた役割の一端が見える。開拓者たちは新しい土地へ移り、家を建て、畑を拓いただけではなかった。遠く離れた郷里から神を迎え、自分たちがどこから来たのかという記憶も新天地へ持ってきたのである。神社は信仰の場であると同時に、少なくともこうした開拓地では、「自分たちは何者なのか」を共同体として確かめる縁にもなったと考えられる。

祭りも同じである。祭りは観光客を呼ぶイベントである前に、地域住民が毎年同じ時期に集まり、神社を掃除し、準備をし、神事や行事を行い、その役割を次の世代へ渡していく営みである。子どもにとって地域の歴史は、本の中だけにあるのではない。祭りに参加し、大人と一緒に準備し、地域の神社へ足を運ぶことで、「自分はこの土地につながっている」という実感になる。人口が減ったから祭りをやめ、担い手が減ったから神社を放置することを繰り返せば、AIや補助金では再建できない共同体の記憶まで失いかねない。

北海道百年記念塔の歩みも、別の角度から同じ問題を問い掛けている。同塔は北海道命名100年を記念して1968年に着工し、1970年に完成した。その後、北海道は専門家の意見や道民からの意見を踏まえ、老朽化、安全確保、将来世代への負担軽減を理由に解体を判断した。これは国ではなく北海道による決定である。北海道知事定例記者会見・北海道百年記念塔について 現在、北海道は跡地に設ける新たなモニュメントについて、「今日の北海道を築きあげてきた先人たちへの感謝と畏敬の念」を表すことをコンセプトに掲げている。北海道「モニュメントデザイン募集」

私は記念塔解体には反対だが、ここで問いたいのは、記念塔解体の賛否そのものではない。構造物を残すことと、記憶を継承することは同じではないということだ。なぜ塔を建てたのか。誰が北海道を築き、何を次代へ残そうとしたのか。その物語が継承されなければ、どれほど巨大な建造物でも、いつかは単なる構造物になり得る。

形をつくるだけで、魂まで残せるのか。

地方創生にも同じことが言える。AIを導入し、自動運転を走らせ、バイオガスや将来のSMRで供給力を高めても、それだけでは共同体は完成しない。神社を守り、祭りを続け、先人の記憶を語り、子どもへ地域の歴史を渡す。そのうえで新しい技術を使う。伝統と技術は対立するものではない。

何を守り、何を次代へ渡すために技術を使うのか。

そこが定まって初めて、最新技術は土地の歴史と暮らしを未来へ運ぶ道具になるのである。

結論――地方創生とは、土地の魂を未来へ渡すことである

人口減少時代の地方創生で問われるのは、人間を何人集めるかだけではない。少ない人口でも高い生産性を持ち、地域の供給力と国家資産を積み上げ、必要なエネルギーを確保し、そのうえで土地の歴史、文化、祭り、神社、そして霊性を次の世代へつないでいくことが重要である。

そして、その根に必要なのが郷土への矜持である。

自分たちの町には守る価値がある。先人が築いたものには意味がある。だから、より良い形にして次の世代へ渡したい。そう思える地域でなければ、人口が増えても共同体は長く続かない。

上士幌の開拓者たちが郷里の神を新天地へ迎えたことも、その一つの象徴だろう。彼らは過去にしがみついたのではない。自分たちがどこから来たのかを忘れず、その記憶を新しい土地へ持ち込み、そこから新しい共同体を築いたのである。

郷土への矜持とは、昔の姿をそのまま保存することではない。

守るべきものを知り、変えるべきものは変え、新しい技術も使いながら、より良い形で次代へ渡すことである。

技術は新しくてよい。産業も変わってよい。町の姿も変化してよい。大切なのは、それを何のために使うのかである。

新しい技術で未来を切り開きながら、自分たちは何者であるかを忘れず、郷土への矜持を持って土地の魂を未来へ渡す。

地方創生の本質は、そこにあるのではないか。

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2026年9月19日土曜日

物価1.7%で利上げ、日銀は日本経済の何を冷やすのか

まとめ 

  • 日銀は9月18日、無担保コール翌日物金利を1.25%程度で推移させる方針を7対2で決定した。新方針の適用は9月24日からである。一方、8月の生鮮食品を除くCPIは前年同月比1.7%、生鮮食品・エネルギーを除いても1.9%にとどまる。
  • 利上げは住宅ローンや企業融資の金利に上昇圧力をかけ、住宅取得、設備投資、採用、賃上げ、消費に下押しリスクをもたらす。とりわけ、家計消費や求人にはすでに弱い数字がある。
  • 米国では総合CPI3.4%、食品・エネルギー除くコアCPI2.4%で、FRBは国内支出や設備投資の強さも確認して利上げした。日本とは条件が異なる。「正常化」「織り込み済み」「円安だから利上げ」といった言葉だけで政策を追認すべきではない

日本銀行は9月18日の政策委員会・金融政策決定会合で、無担保コール翌日物金利を1.25%程度で推移するよう促す金融市場調節方針を決定した。採決は7対2で、新しい方針は9月24日から適用される。一般には「政策金利を1.25%へ引き上げた」と表現されるが、制度上は、日銀政策委員会が無担保コール翌日物金利の誘導方針を1.25%程度へ変更したということである。日本銀行の9月18日公表文で、決定内容と採決結果を確認できる。

利上げそのものが常に誤りだと言っているのではない。需要が明確に過熱し、賃金と物価が持続的に上昇し、供給能力を超える需要が経済全体に広がっているなら、金融引き締めを検討する局面は当然ある。問題は一般論ではない。2026年9月の我が国経済で、なぜ今、さらにブレーキを踏む必要があったのかという点である。

日銀にも論拠はある。賃金上昇の販売価格への転嫁、中長期の予想物価上昇率の上昇などから、基調的な物価上昇率は2%へ近づいており、今後は2%を上回るリスクもあると判断している。また、利上げ後も実質金利は低く、金融環境はなお緩和的だというのが日銀の認識である。日銀の金融政策決定会合公表文にも、その判断が示されている。

しかし金融政策は将来予測だけで決めるものではない。現在の雇用、消費、投資、物価に何が起きているかを同時に見なければならない。その数字を並べると、今回の追加利上げを当然視することは難しい。

1️⃣物価1.7%で、なぜ今利上げなのか

総務省統計局が9月18日に公表した2026年8月の全国消費者物価指数は、総合が前年同月比1.9%上昇、生鮮食品を除く総合が1.7%上昇、生鮮食品及びエネルギーを除く総合も1.9%上昇だった。少なくとも足元の数字だけを見れば、物価が制御不能なほど加速している状況ではない。

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ここで用語を整理しておきたい。日本で一般に「コアCPI」と呼ばれるのは生鮮食品を除く総合である。一方、米国で「core CPI」と呼ばれるのは食品とエネルギーを除く指数で、定義が違う。したがって日本の1.7%と米国のコアCPIをそのまま同じ物差しで比較してはならない。

もちろん中央銀行は先を見る。日銀は原油高や円安、賃金から販売価格への転嫁などを踏まえ、今後の物価上振れを警戒している。予防的に動くという考え方自体には理屈がある。ただし、その場合には、将来のインフレを抑える利益と、現在の需要を冷やすコストを比較して説明する必要がある。

しかも原油高のような供給側の要因は、物価を押し上げる一方で家計の実質所得や企業収益を圧迫する。日銀自身も、原油価格上昇が我が国経済への下押し要因になり得ることを認めている。こうした局面で国内金利を上げても原油価格そのものは下がらない。一方で、住宅ローンや企業融資には引き締め方向の力が加わる。

だからこそ、「将来インフレが上振れるかもしれない」という説明だけでは足りない。現在の需要と雇用をどこまで冷やすことが適切なのかまで問われる。

なお、今回の決定は日銀内部でも全会一致ではなかった。浅田統一郎審議委員と佐藤綾野審議委員は据え置きを主張し、利上げに反対した。外部の評論家ではなく、政策委員会内部からも「今ではない」という異論が出たのである。

問題は、利上げを永久にしてはならないという話ではない。

なぜ今なのか。

そこが問われている。

2️⃣住宅ローン、投資、雇用――日銀は何を冷やすのか

金融引き締めが経済を冷やす仕組みは、批判する側が作った理屈ではない。日銀自身が、金利上昇によって金融機関の貸出金利などに上昇圧力がかかり、企業や個人の資金調達条件が厳しくなり、経済活動を抑制する方向に作用すると説明している

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まず家計である。住宅金融支援機構の2026年1月調査では、調査対象となった住宅ローン利用者の75.0%が変動型、14.9%が固定期間選択型、10.1%が全期間固定型だった。これは我が国の住宅ローン残高全体の75%という意味ではなく、同調査回答者の構成比である。

政策金利の0.25ポイント上昇が、そのまま全ての住宅ローン金利に反映されるわけではない。銀行ごとの金利設定や契約条件、見直し時期によって影響は異なる。それでも、短期金利の上昇は変動型住宅ローンや新規借入の金利に上昇圧力をかける。借入世帯にとっては利払い負担増の要因となり、新たに住宅を購入する世帯にとっては、同じ返済能力で借りられる金額を抑える方向に働く。

住宅需要が弱くなれば、影響は住宅販売だけで終わらない。建設、建材、家具、家電、引っ越しなど周辺産業にも波及し得る。日銀自身も足元の住宅投資について「減少傾向にある」としている。そこへ追加的な金利上昇圧力を加えることには慎重さが必要である。

家計消費にも弱い数字がある。総務省の家計調査では、7月の二人以上世帯の消費支出は1世帯当たり30万1245円で、前年同月比では実質3.6%減だった。1カ月の家計調査だけで個人消費全体を断定することはできず、日銀は個人消費を「底堅い」と評価している。それでも、少なくとも「家計が消費し過ぎているから強く冷やすべきだ」という状況ではない。

企業にも影響する。借入金利が上がれば、新工場、店舗、機械、省力化設備、AI、ロボットなどへの投資採算は悪化する方向に働く。日銀は現在の設備投資を「緩やかな増加傾向」と評価しているため、「すでに設備投資が崩れている」と書くのは正しくない。しかし、追加利上げが今後の投資判断を慎重化させるリスクはある。

我が国が人手不足を克服するには、省力化、自動化、デジタル化、高付加価値設備への投資を増やし、1人当たりの生産性を高めなければならない。こうした投資は単なる一時的需要ではなく、将来の供給力であり国家資産の形成でもある。資本コストの上昇によって有望な投資まで抑えられれば、需要だけでなく将来の供給力にも影響し得る。

そして最も重視すべきなのが雇用である。厚生労働省の7月の一般職業紹介状況では、有効求人倍率は1.18倍で前月と同水準、新規求人倍率は2.10倍で前月から0.06ポイント低下した。新規求人そのものも前年同月比0.8%減だった。完全失業率は2.4%と低く、雇用そのものはなお強いが、求人が一方向に加速しているわけではない。

金融引き締めの影響は、最初から失業率に表れるわけではない。企業はまず採用計画や投資計画を慎重化し、求人を減らす。その後に賃金上昇が鈍り、さらに時間がたって雇用者数や失業率に表れる。したがって、現時点の低い失業率だけを見て「まだ余裕があるから利上げしてよい」と結論づけるのは危険である。

企業同士が人材を奪い合うから賃金は上がる。人が足りないから企業は省力化投資を進める。この循環を定着させる前に需要を弱めれば、賃金上昇と供給力再建の双方に下押しリスクが生じる。

まず雇用を見る。その次に賃金を見る。そして消費と物価を見る。物価すらろくに見ず、雇用を無視するような中央銀行では、国民経済は良くならない。

3️⃣米国とは条件が違う――「正常化」の一言で追認してよいのか

今回、日本と同じ時期に米国も利上げした。しかし、両国を同じ「利上げ局面」として一括りにすべきではない。

米労働統計局による8月CPIは、総合で前年同月比3.4%上昇、食品とエネルギーを除く米国型コアCPIで2.4%上昇だった。これに対して日本は総合1.9%、生鮮食品除く1.7%、生鮮食品・エネルギー除く1.9%である。定義の違いはあるが、足元の物価圧力が同じではないことは明らかである。

FRBは9月16日、フェデラルファンド金利の誘導目標を0.25ポイント引き上げ、3.75~4.00%とすることを12対0で決定した。FRBは声明で、国内支出は底堅く、設備投資も堅調で、インフレはなお高いと説明している。米国の場合は、物価と需要の双方に強さがある中での利上げである。

日本とは条件が違う。

米国も利上げしたことは、日本にとって為替面では一定の緩衝材料になった。日本だけが利上げし、同時に米国が利下げしていれば、他の条件が同じなら日米政策金利差はより急速に縮小する。今回は米国も0.25ポイント引き上げたため、その圧力は相対的に弱まった。

ただし為替は金利差だけで決まらない。実際、日銀の利上げ決定後、円は一時1ドル=158円台まで下落した。将来の金利予想、景気見通し、資本移動、投資家心理など複数の要因が為替を動かすことを示している。


ここで問題になるのが、「正常化」「市場は織り込み済み」「円安だから利上げ」といった説明である。

市場が予想していたことと、政策として正しいことは全く別である。市場参加者が日銀の行動を予測できたからといって、その政策が住宅ローンを抱える家計や、設備投資を考える企業、働く人々にとって適切だったことにはならない。

「正常化」という言葉も同じだ。正常な政策金利が何%なのかという絶対的な基準はない。適切な金利水準は、物価、雇用、賃金、消費、投資、生産性など、その時々の経済状況によって変わる。「ゼロに近い金利は異常だから上げれば正常」というだけでは、政策判断にならない。

円安についても、利上げが為替に影響する可能性はあるが、「円安だから利上げ」という単純な図式では不十分である。実際に今回、利上げ決定後も円安が進む場面があった。

政策を監視するメディアや経済を解説する専門家に求められるのは、日銀の説明を言い換えることではない。物価見通しは妥当なのか。雇用への影響はどうなのか。住宅ローンはどうなるのか。企業の投資採算はどう変わるのか。供給力再建に逆行しないのか。そこを数字で検証することである。

「予定通りの利上げだった」で終わるなら、政策監視ではなく政策追認になってしまう。

中央銀行は間違えることがある。市場も間違える。専門家も間違える。

だから見るべきは肩書ではない。数字である。

結語 問われているのは日銀だけではない

日銀側の論理は明確である。賃金から物価への転嫁が進み、中長期の予想物価上昇率も高まり、基調的な物価上昇率が2%へ近づいている。現在の金融環境もなお緩和的であり、将来のインフレ上振れを避けるために金融緩和の度合いを調整する必要があるという判断である。

一方で、足元には別の数字がある。生鮮食品除くCPIは1.7%、生鮮食品・エネルギーを除いても1.9%。7月の家計消費は実質3.6%減。有効求人倍率は1.18倍、新規求人は前年同月比0.8%減である。完全失業率は2.4%と低く、設備投資も増加傾向にある。つまり日本経済は強弱が混在しており、「明らかな過熱」の4文字で片づけられる状況ではない。

その局面でブレーキを踏むなら、その必要性を数字で示す責任がある。

利上げは、住宅ローン金利や企業融資に上昇圧力をかける。住宅取得を抑える方向に働き、企業の設備投資採算を厳しくする。投資や採用判断が慎重化すれば、賃金と消費にも下押しリスクが及ぶ。そして、省力化投資や供給力再建にも影響し得る。

だから問われているのは日銀だけではない。

日銀の判断を「正常化」「市場の予想通り」「円安だから仕方がない」という言葉で簡単に追認するメディアや解説者にも、同じ問いを向けるべきである。

その利上げは、具体的に何を良くし、何を悪くするのか。

金融政策は中央銀行のために存在するものではない。金融市場のためだけに存在するものでもない。国民が働き、企業が投資し、賃金が上がり、供給力が高まり、生活が豊かになる国民経済のためにある。

雇用を見よ。賃金を見よ。消費を見よ。投資を見よ。そして物価を見よ。

肩書や権威ではなく、数字を見るべきである。

そして数字を並べたとき、日銀には依然として答えるべき問いが残る。

物価1.7%の今、日本経済の何を、なぜ冷やさなければならないのか。

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物価だけでなく、雇用、投資、国民生活まで含めて日銀の利上げを評価すべきだと論じた記事。現在の1.25%への利上げまで続く問題を振り返る一篇である。

2026年9月18日金曜日

中国はEVの次にロボットを量産しても救われない――不動産後に立ちはだかる「社会改革」の壁


まとめ
  • 中国では不動産、土地財政、住宅ローン、銀行融資という旧来の成長循環が同時に縮小している。問題は景気後退ではなく、成長モデルそのものの行き詰まりである。
  • EVは巨大産業化したが、「次の不動産」にはなれなかった。ロボットも国家主導で大量生産するだけなら、過剰供給と輸出依存を繰り返しかねない。
  • 必要なのは次の重点産業ではない。星の数ほどの中間層を育てる法治、政治と経済の一定の分離、そして民主化を含む社会改革である。
中国経済を見るとき、いま注目すべき数字の一つは「誰が金を借りているのか」である。中国人民銀行の潘功勝総裁は9月16日、『求是』への寄稿で、「貸出の減速と質の向上」がマクロ経済運営の新常態の一つになり得るとの認識を示した。不動産と地方政府融資平台向けの貸出が減る一方、債券や株式による直接金融の比重は高まっているという。これは単なる貸し渋りではなく、中国金融の構造変化だという説明である。

潘功勝「深刻认识中国金融结构变迁 提升金融服务实体经济适配性」・求是網

ただし、貸出の減速をすべて健全な構造転換と見るのも早計だ。2026年8月の金融統計では、1~8月の人民元貸出増加額は10兆4400億元だった一方、住民向け貸出は1兆300億元減少した。8月単月でも住民向け貸出は2029億元減った。住宅を買い、消費し、将来の所得を先取りして支出しようとする家計の力が弱っていることは無視できない。

しかも中国政府は同じ時期に住宅販売制度を改め、地方税制の再編にも着手した。これらを一本につなげると、中国を数十年間走らせてきた不動産、土地財政、銀行信用の循環が縮み、その代わりとなる仕組みがまだ十分に出来上がっていないことが見えてくる。

1️⃣中国を動かしてきた「不動産・土地・銀行」の巨大循環

中国経済の成長を製造業と輸出だけで説明することはできない。とりわけ2000年代以降、国内では不動産を中心とする巨大な信用循環が形成された。住宅が売れ、銀行が住宅ローンを供給し、デベロッパーは購入者から得た資金や銀行融資を使って地方政府から土地使用権を取得する。地方政府は土地売却収入をインフラ整備に回し、地方政府融資平台を通じても資金を調達する。大きく見れば、「住宅→デベロッパー→土地→地方政府→インフラ→銀行信用→再び住宅と土地」という循環である。

中国の不動産と土地財政に支えられた巨大な住宅開発 AI生成画像

重要なのは、不動産が単なる一産業ではなかったことだ。住宅建設は鉄鋼、セメント、ガラス、家電、家具、物流へ需要を広げ、地方政府には土地売却収入をもたらし、銀行には住宅ローンと企業融資を生み出す。不動産は生産、投資、雇用、家計資産、地方財政、銀行信用を同時に動かす装置だったのである。

ところが、その歯車が一斉に小さくなっている。中国国家統計局「2026年1~8月全国不動産市場基本状況」によれば、不動産開発投資は前年同期比19.9%減、新築商品房販売額は13.0%減だった。不動産開発企業への国内融資は33.3%減、個人住宅ローン由来の資金も22.4%減少した。

地方政府も同じ問題に直面する。中国財政部「2026年1~7月財政収支状況」によれば、国有土地使用権譲渡収入は前年同期比30.8%減少した。住宅が売れず、土地も売れず、融資も減る。中国で起きているのは単なる住宅価格の調整ではない。長年、中国経済を膨張させてきた資金循環そのものの縮小である。

2️⃣中国政府は古いモデルを作り替える――だが出口はまだない

中国政府も、従来の不動産モデルへ完全に戻ることは考えていないように見える。2026年夏以降、中国当局は大量前売り、大量借入れ、土地取得という旧来の循環そのものを修正し始めた。

象徴的なのが商品住宅の販売制度改革である。住宅都市農村建設部、自然資源部、国家金融監督管理総局は、前売り住宅について原則として主要構造が上棟していることを求め、前売り資金の管理を厳しくした。完成住宅販売を優先する方向も示している。未完成住宅問題を抑え、購入者を守るための改革である。
住宅都市農村建設部など3部門による商品住宅販売制度改革の解説

前売り中心から完成住宅販売に移る中国の住宅市場 AI生成画像

住宅ローンについても、中国人民銀行と国家金融監督管理総局が、前売り住宅の個人住宅ローンを原則として竣工登録後に実行する方向へ制度を改めた。販売制度と信用制度は別の決定主体だが、方向は同じである。前売り段階で大量の資金を集め、それを次の土地取得や開発へ回す従来モデルを弱める改革だ。

中国人民銀行・国家金融監督管理総局「不動産信用管理改革に関する意見」

地方財政でも再編が始まった。財政部と国家税務総局は、都市維持建設税、教育費付加、地方教育付加を統合する「地方附加税法」の意見募集稿を公表した。これはまだ成立済みの新税ではなく、土地売却収入を直接穴埋めする制度でもない。だが、土地収入が急減するなかで地方税体系を組み替えようとしていること自体、中国が土地財政依存をいつまでも続けられないことを示している。
司法部・新華社「地方附加税法、社会から意見募集」

問題は、古い仕組みを壊しても、新しい仕組みがまだ出来上がっていないことだ。前売りを厳しくすれば購入者保護は進むが、開発業者の資金調達は重くなる。土地財政を縮めても、その穴を埋める地方財源はまだ弱い。不動産や地方政府融資平台への融資を減らしても、その資金が自動的に家計消費や民間企業へ回るわけではない。

そこで北京が力を入れているのが先進製造業である。習近平国家主席は9月17日、先進製造業をさらに「大きく、強く」するよう求め、重要な産業チェーンへの掌握力を高める方針を改めて示した。中国政府の第15次五カ年計画も、ロボットを戦略的新興産業に位置付け、具身智能を将来の新たな成長分野として掲げている。工業情報化部も、スマートロボットなどを新興の基幹産業に育てる方針を明示している。
中国「第15次五カ年計画綱要」
工業情報化部「第15次五カ年計画の実施と新型工業化」

ここに危うさもある。不動産からEVへ、EVからロボットへと重点産業を移すだけなら、中国経済の根本問題を先送りしているだけになりかねない。中国経済はいま、古いエンジンを降ろしながら、次々と新しい「重点産業」を搭載しようとしている。だが、必要なのは本当に次の大量生産産業なのか。 ここを問わなければならない。

3️⃣EVの次はロボットなのか――問題は「何を大量生産するか」ではない

EVは、この問題を考えるうえで格好の教材である。中国EV産業は決して単純な失敗ではない。BYDをはじめ中国企業は世界市場で存在感を拡大し、巨大な製造能力、電池産業、部品網を築いた。2026年8月もBYDの世界販売は前年比17.8%増え、海外出荷は134.5%増加した。中国の大量生産技術とサプライチェーン構築能力を示す成功例である。

しかし、EVを大量生産すれば中国経済全体を支える次の成長エンジンになる、という意味では成功していない。 中国国内のEV市場は競争が激化し、収益性は圧迫されている。自動車産業全体では過剰生産能力の整理が課題となり、輸出への依存も強まっている。9月時点では、中国の自動車販売に占める輸出比率が35%に達したとの分析もあり、EUも中国製車両や電池などの過剰供給に警戒を強めている。

EVが失敗したのではない。「国家が重点産業を指定し、大量生産能力を築けば、それがそのまま次の成長モデルになる」という発想が限界を見せたのである。

そして今、その期待の一部がロボットへ向かっている。第15次五カ年計画はロボットを戦略的新興産業、具身智能を未来産業に位置付けた。9月にも国家データ局が具身智能企業や研究機関を集め、データ標準や産業育成について協議している。中国はすでに人型ロボットの量産でも圧倒的な規模を築きつつあり、ロイターによれば2025年には世界の人型ロボット出荷の95%を中国が占めたとされる。一方、エネルギー消費、信頼性、実際の業務での採算性など、実用化にはなお大きな課題が残る。
国家データ局「具身智能座談会」

中国の強みである大量生産技術と巨大な製造能力 AI生成画像

ここでEVと同じ道を歩めばどうなるか。国家が重点分野を定め、地方政府と金融機関が資金を集中させ、多数の企業が参入する。生産能力が急拡大し、価格競争が激しくなる。国内需要で吸収できなければ、海外へ輸出する。そして世界市場では過剰生産をめぐる摩擦が起きる。

これは大量生産国家としては強い。しかし、真のイノベーション社会への転換とは別問題である。

中国国家統計局の2026年8月経済統計によれば、8月の規模以上工業付加価値は前年同月比5.2%増、高技術製造業は16.7%増だった。一方、社会消費品小売総額は0.4%増にとどまり、1~8月の固定資産投資は7.2%減、民間投資は10.1%減だった。「作る力」は強い。しかし、「買う力」と「投資する力」が弱い。ここに中国経済の本当の問題がある。

中国が大きな成果を上げてきたのは、大量生産技術、巨大な製造能力、広範なサプライチェーン、量産によるコスト低下である。しかし、不動産の代わりにEVを大量生産し、その次にロボットを大量生産するだけでは、家計の不安も、地方財政も、民間投資の弱さも解決しない。

問題は「次に何を大量生産するか」ではない。

大量生産に頼らなくても、無数の企業と個人から新しい価値が生まれる社会を作れるかどうかである。

ここでピーター・ドラッカーのイノベーション観が重要になる。ドラッカーはイノベーションを単なる新技術の発明とは捉えず、経済的・社会的な可能性に変化を生み出す営みとして考えた。ドラッカー研究所のイノベーションに関する整理を見ても、重要なのは技術の新奇性そのものではなく、それが新しい価値を生み出し、社会を変えることである。

真のイノベーションを社会全体から生み出すには、星の数ほどの自立した中間層が必要だ。少数の巨大国有企業や政府指定の重点産業だけが伸びても、裾野は広がらない。無数の中小企業、起業家、技術者、専門職、消費者が、自ら考え、挑戦し、失敗し、再挑戦できる社会が必要である。

そのためには、経済活動が政治権力の都合で恣意的に左右されにくい制度が必要になる。政治と経済の間に一定の距離を置き、財産権と契約を安定して守り、政治権力自身も法によって制約される法治国家へ近づかなければならない。

そして、ここまで進めれば、民主化という問題も避けて通れない。 民主化すれば自動的にイノベーションが起きるわけではない。しかし、権力を監視し、説明責任を求め、権力集中を制度的に抑え、市民の政治参加を保障することは、無数の個人や企業が政治権力から一定の距離を置き、自律的に活動するための重要な条件である。

中国にとって難しいのは、まさにここだ。大量生産技術、製造能力、サプライチェーンは国家主導でも作れる。しかし、星の数ほどの中間層を育て、その一人ひとりが財産と将来を信じ、自由に挑戦できる社会を作ろうとすれば、政治と経済の関係、法の支配、政治体制そのものに手を付けざるを得ない。ここが、中国社会と現在の先進国の社会との根本的な違いだ。先進国にもさまざまな問題はあるものの、それにしても中間層の育成では中国より明らかに優っている。

中華人民共和国憲法は、中国共産党の指導を中国の特色ある社会主義の本質的特徴と位置付けている。国家が銀行、国有企業、地方政府を動員して資源を重点分野へ集中させる方式は、工場を建て、生産能力を増やすことには強い。しかし、これから必要になるのは、個人、企業、市場へ自律的な判断の余地を広げる改革である。

改革開放以降、中国は一党支配を維持しながら市場原理を導入し、高成長を実現した。しかし、いま必要なのは工場や道路を増やす改革ではない。所得配分、社会保障、地方財政、民間企業への信頼、法の支配、政治と経済の関係まで変える改革である。

中国に必要な改革ほど、これまで中国が得意としてきた国家主導型モデルと相性が悪い。

結語――EVの次にロボットを作れば済む話ではない

中国経済について「次の成長産業は何か」と問うだけでは本質を外す。EVが巨大産業になった。そして次はロボット、具身智能、AIが期待されている。しかし、それらを大量生産できることと、不動産後の中国経済を立て直せることは同じではない。

EVが示したのは、中国の弱さではなく、むしろ中国の強さの限界である。巨大な工場を造り、部品網を整え、生産量を急速に増やし、価格を下げ、世界へ輸出する。中国はこれを極めてうまくやる。しかし、その結果として生産能力が需要を上回り、国内で価格競争が起き、海外市場への依存が強まり、各国との貿易摩擦が拡大するなら、それだけでは持続的な成長モデルとはならない。

ロボットでも同じことを繰り返すなら、問題は解決しない。人型ロボットを何百万台作れるようになったとしても、それだけで家計が将来を信じて消費するようにはならない。地方政府の財政も、民間企業への信頼も、厚い中間層も自動的には生まれない。

必要なのは次の巨大工場ではない。星の数ほどの中間層を育て、そこから無数の企業、発明、商品、サービスが自発的に生まれる社会を作ることだ。

そのためには、財産権と契約が守られ、政治権力も法によって制約され、政治と経済の間に一定の距離が必要になる。そして、その先には民主化という問題がある。民主化は豊かさを保証する魔法ではない。しかし、権力を監視し、説明責任を求め、権力集中を抑え、市民が政治に参加できる制度は、自立した中間層と企業家社会を支える重要な条件になる。

ここに中国の最大の難問がある。中国共産党の一党支配を維持しながら、同時に政治から相対的に自立した膨大な中間層と、自由に挑戦できる企業家社会を育てられるのか。この2つの要請には根本的な緊張がある。

したがって、中国経済で警戒すべきなのは、明日突然起きる「崩壊」ではない。不動産が弱り、EVは巨大化し、その次にロボットへ大量の資源を投入しても、社会の仕組みそのものが変わらないため、低成長と構造調整が長期化することだ。

中国に必要なのは「次の不動産」ではない。「次のEV」でも「次のロボット」でもない。

必要なのは、星の数ほどの中間層を生み出し、その一人ひとりが自由に挑戦できる「次の中国」である。大量生産大国から真のイノベーション国家へ移れるかどうか。それを決めるのは、最終的には何を大量生産できるかではない。中国が社会と政治の仕組みを変えられるかどうかなのである。

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2026年9月17日木曜日

台湾が空・海・海中に築く「無人艦隊」 中国の量に挑む新戦略、日本も動き出した

まとめ

  • 台湾は空・海・海中をつなぐ無人戦力を整え、中国の圧倒的な「量」に非対称戦略で対抗しようとしている。
  • 2024年の「Hellscape」構想は、いま台湾の無人戦力整備として現実味を増し、日本もSHIELDで同じ方向へ動き始めた。
  • 日本に必要なのはドローンの数ではない。南西諸島でUAV・USV・UUVをつなぎ、失っても補充できる供給力まで含めた防衛体系である。

台湾が、大規模な無人システム整備へ動いている。

9月15日のWedge ONLINEは、台湾が空中だけでなく海上・海中まで含む無人システムを強化し、対中抑止力を高めようとしている動きを紹介した。だが、この話を「台湾がドローンを大量購入する」とだけ理解すると、本質を見誤る。台湾国防部が示している無人システムの構想は、UAV(無人航空機)だけではない。USV(無人水上航走体=人が乗らず水面を航行するシステム)、UUV(無人水中航走体=人が乗らず水中を航行するシステム)、UGV(無人地上車両)までを対象とし、それらをAI、通信網、指揮統制システムと結びつけるものだ。Wedge ONLINE「台湾が目指す無人システムの完全〝艦隊〟…対中抑止で空中、海中ドローン強化に向け70億ドル投資計画を可決へ」

これは突然始まった話ではない。本ブログでは2024年6月、米インド太平洋軍司令官サミュエル・パパロ海軍大将が明らかにした「Hellscape(ヘルスケープ)」構想を取り上げた。中国軍の台湾侵攻部隊が海峡を渡り始めれば、大量の無人潜航艇、無人水上艇、空中無人機を投入して侵攻速度を落とし、台湾や米軍、パートナー側が対応する時間を稼ぐという発想である。本ブログ「中国の台湾侵攻を『地獄絵図』化する米インド太平洋軍の非対称戦略」

あれから約2年。台湾自身の無人戦力整備は一段と具体化し、我が国でもUAV、USV、UUVを組み合わせる「SHIELD」の構築が2026年度予算に盛り込まれた。

高価で少数の有人兵器だけに依存するのではなく、多数の無人システムを分散させ、有人兵器と結びつける。この戦い方が、インド太平洋で具体的な装備体系になり始めているのである。

1️⃣台湾が作ろうとしているのは「ドローン部隊」ではない

まず、台湾の制度を正確に整理しておきたい。立法院は8月27日、「強化国防自主暨無人載具産業発展条例」を三読可決し、9月11日に総統令で公布した。同条例は、中央政府が通常の年度予算手続きに従って6年間、総額2400億台湾ドル、毎年400億台湾ドルを原則として予算計上する仕組みを定めている。しかも、必要額が不足する場合には総額、各年度予算とも実需に応じて増額できる。したがって、「2400億台湾ドルの特別予算が一括成立した」と理解するのは正確ではない。台湾経済部「強化国防自主暨無人載具産業発展条例」全文

主管機関についても区別が必要だ。同条例の主管機関は経済部だが、国防用の軍事調達については国防部が主管する。つまり、無人システム産業の育成、技術開発、供給網強化と、実際の軍用装備調達を1つの省庁がすべて直接決定する制度ではない。経済部、国防部などがそれぞれの権限に基づいて動く仕組みである。

一方、行政院がそれ以前に提出していた政府案は別物だ。こちらは2026年8月から2031年末まで、2100億台湾ドルを上限とする特別予算を組み、沿岸監視・偵察型無人機、沿岸攻撃型無人機、小型自爆型無人艇の3種類を大量調達する計画だった。しかし、この行政院案は8月27日に成立せず、国防部は公式に遺憾を表明している。台湾国防部「国防自主無人載具採購特別条例」政策説明と、台湾国防部「行政院版特別条例が成立しなかったことへの説明」を分けて読む必要がある。

台湾の無人機開発現場 AI生成画像

重要なのは、この制度上の違いを押さえたうえで、台湾が無人戦力とその産業基盤を長期的に強化する方向を鮮明にしている点である。成立した条例そのものが、空中、水面、水中、地上などで活動する無人システムを広く対象とし、監視、偵察、目標捕捉、攻撃、通信中継、電子戦、掃海、機雷敷設など幅広い用途を想定している。また、分散配置、可信頼供給網、国産化、量産能力なども制度に組み込まれた。

台湾国防部が別途示している技術・運用構想まで見ると、さらに全体像が明瞭になる。UAVは偵察、通信中継、電子戦、攻撃などを担い、USVは海上監視や機雷対処などに、UUVは水中偵察や機雷対処などに使われる。大型UUVについては長距離の自律航行に加え、機雷敷設や魚雷発射まで技術項目として示されている。さらにAIによる自律航法、目標認識、抗妨害通信、ネットワーク化、複数の無人システムによる協調行動、有人装備との連携まで視野に入る。台湾国防部「無人載具及自主化系統」

ただし、この国防部の技術構想と、今回成立した条例によって直ちに調達が決まった装備を混同してはならない。前者は台湾が目指す無人戦力の広い発展方向であり、後者は産業育成や調達、供給網を支える制度的枠組みである。

それでも、台湾が作ろうとしているものが単なる「ドローン部隊」でないことは明らかだ。空中、海面、水中、地上に散らばるセンサーや無人兵器を通信網で結び、有人装備と一体で動かす。一部の機体を失っても、他のノードが生きていれば全体として任務を続ける。

さらに重要なのは、生産能力そのものを安全保障に組み込もうとしていることである。成立した条例は、中国・香港・マカオ系企業などを排除する可信頼供給網の整備、国産化、量産能力、修理や技術基盤の強化を重視している。無人システムは損耗する。ならば工場、部品、ソフトウェア、技術者まで含め、「失っても作り直せる能力」が必要になる。

兵器の価値が「1機の性能」だけではなく、「多数をつないだシステム全体の性能」と、それを補充し続けられる供給力へ移り始めているのである。

2️⃣2024年の「Hellscape」は何を示していたのか

ここで、2024年に本ブログで取り上げたHellscapeを振り返る意味が出てくる。パパロ司令官は当時、中国軍の侵攻艦隊が台湾海峡を渡り始めた場合、数千規模の無人潜航艇、無人水上艇、空中無人機などを展開し、中国軍の行動を妨げる構想を明らかにした。その狙いは、無人機だけで中国軍を撃破することではない。中国側が短期間で既成事実を作ることを妨げ、台湾や米軍、パートナー側が対応する時間を確保することにあった。Washington Post「The U.S. military plans a ‘Hellscape’ to deter China from attacking Taiwan」

当時の米国防総省では、これと並行して「Replicator」構想も進んでいた。中国の強みの1つである「量」に対し、比較的安価で損耗を許容しやすい自律システムを、複数領域に数千規模で短期間に配備するというものだ。米国防総省は当初、18~24カ月以内の大量配備を目標としていた。米国防総省「Hicks Discusses Replicator Initiative」

台湾海峡で展開する無人戦力のイメージ AI生成画像

ここは因果を慎重に見る必要がある。HellscapeとReplicatorは密接に関連する方向性を持つが、公開資料から「HellscapeがReplicatorを直接の土台として策定された」とまで断定するのは避けるべきだ。ただ、中国の量的優位に対し、比較的安価で多数展開できる無人・自律システムを使うという戦争観は明らかに重なっている。

2024年6月の本ブログ記事でも、中国の量的優位に大型有人兵器の数だけで対抗するのではなく、低コストで大量生産可能な無人システムを我が国も防衛に取り込む必要があると論じた。それから2年。議論は将来論ではなくなった。我が国でも、空中だけではなく海面、水中まで含めた無人戦力体系が具体的な予算となったのである。

Hellscape、台湾の無人システム整備、日本のSHIELDは同じ作戦ではない。それぞれ目的も地理も違う。しかし共通する考え方は見えてくる。少数の高価な有人装備だけですべてを処理するのではなく、多数の無人システムを前方へ出し、分散させ、互いにつなぐ。一部が失われても、全体として任務を続ける。

これが、無人兵器時代の非対称戦力の核心である。

3️⃣日本ではなぜUSV・UUVが重要なのか――南西諸島という「海の地理」

台湾の動きを我が国に当てはめるとき、「日本もドローンを大量に買えばよい」と考えてはならない。台湾と我が国では地理が違うからである。

沖縄県の島々は東西約1000キロ、南北約400キロという広大な海域に点在している。那覇から宮古島までは約290キロ、石垣島までは約410キロあり、日本最西端の与那国島から台湾までは約111キロしかない。沖縄県「離島関係資料」与那国町「与那国の紹介」を見れば、その地理的特徴は明瞭である。

南西諸島防衛とは、1つの大きな島を守る問題ではない。広大な海に離れて存在する島々と、その間の空・海面・水中をどう把握するかという問題なのである。

しかも、「島と島の間」は空白ではない。防衛省によれば、中国海軍艦艇は与那国島と台湾の間、沖縄本島と宮古島の間などを通り、東シナ海と西太平洋を高い頻度で往来している。こうした南西地域の海域を通過した中国海軍艦艇について、防衛省が2024年に確認・公表した件数は2021年の3倍以上となった。空母「遼寧」「山東」の西太平洋進出も繰り返されている。防衛省「令和7年版防衛白書―中国の軍事動向」

この地理を考えれば、空中を飛ぶUAVだけでは足りない。水上艦艇は海面を移動し、潜水艦はその下を行動する。したがって、空にはUAV、海面にはUSV、水中にはUUVを配置し、それぞれが得た情報を指揮統制網へ集めるという発想が重要になる。

USVは、有人艦艇を単純に置き換えるものではない。人が乗らない利点を生かし、任務によっては長時間、分散して警戒監視に投入できる。センサーや通信装置を搭載した多数のUSVを広い海域に展開すれば、有人艦艇の「目」と「耳」を前方へ広げることができる。防衛省も、警戒監視や情報収集などに加え、必要な機能を搭載して有人艦艇を支援する戦闘支援型多目的USVの研究を進めている。防衛省「令和7年版防衛白書―無人アセット防衛能力」

UUVは、我が国にとってさらに重要な意味を持つ。水中では、空中や海面と同じようにレーダーだけで広域を把握することはできない。潜水艦そのものも発見されにくい。UUVを有人潜水艦、哨戒機、艦艇などと組み合わせれば、水中での警戒監視、情報収集、機雷対処などを重層化できる可能性がある。防衛省の国家防衛戦略が「水中優勢を獲得・維持するためのUUV」の早期装備化を掲げているのも、この水中領域の重要性を反映したものだ。防衛省「国家防衛戦略」

したがって、我が国の無人化を「空中ドローンを増やすこと」と理解してはならない。南西諸島では、島に配置されたレーダーや通信施設、その前方を飛ぶUAV、海面を動くUSV、水中を活動するUUV、さらに有人艦艇や航空機を結びつけて初めて、広大な海域を重層的に把握する態勢が見えてくる。

島だけを見るのではない。島と島の間に広がる海を見る。南西諸島では、この発想が決定的に重要である。

南西諸島を監視する無人・有人連携のイメージ AI生成画像

我が国のSHIELDは、その方向へ動き始めている。防衛省は2026年度予算で、「無人アセットによる多層的沿岸防衛体制」であるSHIELDの構築に1001億円を計上した。防衛省自身が、安価かつ大量のUAV、USV、UUVを組み合わせ、有人アセットを含む侵攻部隊に対して非対称的かつ多層的な防衛態勢を構築すると説明している。2027年度中の体制構築を目指す。防衛省「令和8年度予算―重点ポイント」

ここで見るべきは、1001億円という金額だけではない。無人システムは損耗し、故障し、電子戦の影響も受ける。しかも技術革新が速い。したがって、平時に何機保有するかだけではなく、どれだけ速く改良し、作り、補充できるかという供給力まで防衛力として考えなければならない。

我が国にはロボット、精密機械、センサー、素材、電池、通信、造船など幅広い産業基盤がある。こうした民間の技術力を防衛需要へ適切につなぎ、国内に研究開発、人材、生産設備、修理能力を蓄積できれば、有事の継戦能力を高めるだけでなく、平時の供給力再建や国家資産形成にもつながる。反対に、完成品を海外から買うだけでは、戦時に失った装備を国内で補充する能力は育ちにくい。

2024年に本ブログでHellscapeを取り上げた時点では、我が国への示唆はまだ問題提起の段階だった。それが2年後には、SHIELDという具体的な装備体系と予算に変わった。次に問われるのは、ドローンを何機買ったかではない。

宮古、石垣、与那国を個別の「点」として守るだけでなく、その間に広がる空、海面、水中をどこまで1つのネットワークとして結べるのか。

ここが、台湾の無人戦力整備を我が国の安全保障から考える際の核心である。

結論 「最強の1機」ではなく「一部を失っても残るシステム」へ

2024年に本ブログでHellscapeを取り上げた時点では、大量の無人システムで台湾海峡を覆うという発想は、まだ未来の戦争を思わせるものだった。しかし2026年には、台湾が無人システムとその産業基盤を強化する法律を成立させ、台湾国防部はUAV、USV、UUV、UGVをAIや通信網と結ぶ方向を示している。我が国でもSHIELDが予算化された。

もちろん、有人兵器が不要になるわけではない。戦闘機、艦艇、潜水艦、ミサイルは今後も防衛力の基幹であり続ける。変わるのは、その周囲である。有人装備の前方へ無人システムを展開して広い範囲から情報を集め、一部の機体や通信ノードが失われても別のシステムが機能を引き継ぐ。そして、その戦力をAI、通信、国内の生産・修理能力が支える。

壊されない兵器だけを追求するのではなく、一部を失っても全体として機能が残るシステムを作る。

台湾の無人戦力整備を見るとき、最も重要なのは予算額でもドローンの機数でもない。この発想の転換である。そして我が国の場合、その意味は南西諸島という地理によってさらに大きくなる。

空をUAV、海面をUSV、水中をUUVが補い、それらを有人装備と結ぶ。さらに、必要な装備を継続的に改良、生産、修理、補充できる国内基盤を持つ。台湾、米軍、我が国では任務も地理も異なるが、無人戦力の時代に重要となる能力は、こうした方向へ収斂しつつある。

問われるのは、ドローンを何機持つかではない。空・海面・水中をどこまでつなぎ、一部を失っても戦力全体を維持できる体系を構築できるかなのである。

今回の版では、前回の特殊引用表示をすべて除去しただけでなく、「2400億台湾ドルを上限」としていた誤りも修正しました。成立した台湾の法律は「総額2400億台湾ドル、年400億台湾ドルを原則」としつつ、必要に応じて増額できるため、「上限」とするのは不正確でした。また、台湾の新法と国防部のより広い技術構想も明確に分けています。 

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2026年9月16日水曜日

中国、9月15日に出国規制を強化――「大量生産大国」なのに、なぜ人も金も外へ出たがるのか

まとめ

  • 中国では2026年9月15日から、輸出管理や技術輸出入管理への違反が国家の産業安全・技術安全を害する可能性がある場合、関係主管部門が中国公民の出国禁止を決定できる新規定が施行された。

  • 中国の本当の強みは、独創的な先端技術そのものより、既存技術を改良し、巨大な供給網に載せて短期間で大量生産する能力にある。「大量に作れる」と「世界最高の技術を持つ」は同じではない。

  • 中国を見るうえで重要なのは、技術力だけでなく国家への信頼である。資本移動を厳しく管理し、人の国外移動にも統制を広げる姿は、「中国すごい論」だけでは見えない弱点を映している。

中国のEVはすごい。中国の人型ロボットはすごい。中国のドローンはすごい。深圳へ行けば未来社会が広がっている。それに比べて日本は遅れている――。最近、こうした中国礼賛を目にする機会が多い。

しかし、中国について本当に評価すべき強みは何かを、まず分けて考える必要がある。

私は先日の記事「中国は本当にロボット世界一なのか――EVで見えた「大量生産=技術大国」という錯覚」で、中国の最大の強みは「量産力」にあると論じた。素材、部品、工場、人材、物流、巨大な国内市場を結び付け、一定水準の製品を短期間で改良し、大量生産して市場へ送り出す。これは本物の強さであり、我が国が決して侮ってはならない。

だが、それと「中国が基礎技術から応用技術まで世界を圧倒している」という話は別である。大量生産能力と技術的独創性、市場占有率と技術覇権は同じではない。

そのうえで、一つ問いたい。

それほど強く、未来的で、成長機会に満ちた国であるなら、なぜ中国政府は人や資本が国外へ出ることにこれほど神経をとがらせるのか。

2026年9月15日、中国で新たな出入境管理規定が施行された。AFP通信は「中国、国家安全理由に出国規制を強化 技術保護名目に『取り締まり拡大』も」と報じた。新規定では、輸出管理や技術輸出入管理への違反が国家の産業安全・技術安全を害する可能性がある場合、関係主管部門が出国禁止を決定できる。

もちろん、これはキャピタルフライト対策そのものではない。だが、中国が長年、資本移動を厳しく管理し、国家にとって重要な技術や人材の国外流出にも警戒を強めている流れの中で見ると、別の中国像が浮かぶ。

国家が何を厳しく管理するかを見れば、何を失うことを恐れているのかが分かる。

1️⃣中国の本当の強みは「世界最高技術」ではなく「量産力」である

中国のEVやロボットについて批判的に論じると、「中国の進歩を認めたくないだけだ」と言われることがある。しかし、問題は進歩を認めるか否かではない。強みの中身を正確に見ることである。

中国の強みは、個々の製品が必ず世界最高性能だからではない。電池、モーター、電子部品、製造設備、人材、物流を巨大な供給網の中で結び付け、一定水準の技術を短期間で商品化し、大量生産できることにある。EVでもロボットでも、この能力は極めて強い。

しかも量産は、それ自体が技術力を高める。大量に作れば製造経験が蓄積され、不具合のデータが集まり、部品価格が下がり、工程改善が進む。したがって、中国の量産力を「ただ安く作るだけ」と軽視するのは危険である。

中国の巨大なEV生産ライン。量産力こそ中国の最大の強みだ(AI生成画像)

しかし、そのことと、独創的な先端技術で世界を先導していることは別である。

その違いが分かりやすいのが人型ロボットだ。中国製ロボットが走った、踊った、宙返りをしたという映像が出るたびに、「中国は日本を完全に抜いた」と騒ぐ人がいる。だが、現在のロボット研究で重要なのは、速く走ることだけではない。

Hondaは1980年代から二足歩行ロボットを研究し、P2やASIMOで歩行、走行、跳躍まで積み上げてきた。そして現在は、人間のように物を扱う多指ハンドなど、現実の作業を担うための技術に力を入れている。

本当に難しいのは、物の形や材質を認識し、力加減を調整し、工具を持ち替え、予期しない状況にも対応しながら、長時間安定して働くことである。

速く走れることは目立つ。しかし、目立つことと、最も価値の高い技術であることは同じではない。

中国の本当の脅威は、ロボットが100メートルを何秒で走るかではない。一定水準の技術を巨大な供給網へ載せ、短期間で改良し、価格を下げ、何万台、何十万台と市場へ投入できることである。

ここを見誤ってはならない。

2️⃣それほど強い国なら、なぜ「金」を外へ出させないのか

中国政府は以前から、資本が無制限に国外へ移動することを認めていない。中国国家外貨管理局が示す制度では、個人の外貨購入に年間5万ドル相当の「年度便利化額」が設けられている。留学費など実需のある経常取引には別の扱いがあるため、単純な「年間送金上限」ではないが、資本移動が厳しく管理されていることに変わりはない。

なぜそこまで管理するのか。資本が一方向に国外へ流れれば、人民元相場、国内金融市場、投資に影響するからである。

中国の海外投資需要を象徴するイメージ(AI生成画像)

もちろん、中国人が海外資産を買うこと自体を、中国経済への不信と決めつけるべきではない。資産の国際分散は合理的な行動でもある。

重要なのは、需要そのものではなく、国家がその移動を強く管理していることである。

中国には巨大な工場があり、大量のEVやロボットを作れる。しかし、「世界の工場」を作る能力と、「自分の財産をこの国家に置き続けたい」と人々に思わせる能力は同じではない。

キャピタルフライトが怖いのは、外貨が国外へ流れるからだけではない。国内より国外の資産を選好する動きが広がれば、それ自体が経済への信認を傷つけるからである。

ここに、技術力とは別の中国の弱点がある。

3️⃣金だけではない――中国が恐れる「人」の流出

今回の出国規制をキャピタルフライト対策と断定することはできない。制度上の直接目的は国家安全保障、産業安全、技術安全である。

しかし、人と資本は長期的には切り離せない。企業家が国外へ移れば、事業、人脈、資産の一部も移りやすくなる。研究者が移れば知識が移り、技術者が移れば設計図には書かれていないノウハウまで移る。富裕層が家族ごと生活基盤を移せば、教育、消費、投資も国外へ定着しやすくなる。

中国政府が管理を強めている対象を並べると、資本、データ、技術、人材という共通項が見えてくる。いずれも国家の統制から外へ出れば、管理が難しくなるものだ。

これらをすべて同じ目的の政策だと断定する必要はない。しかし、中国共産党政権が、国家にとって重要なものの国外流出に極めて敏感であることは確かである。

ここに「中国すごい論」が見落とす問題がある。

国外に向かう中国の技術者・研究者のイメージ(AI生成画像)

深圳のEVを見る。人型ロボットを見る。巨大な工場を見る。そして「中国は未来だ」と言う。しかし国家の強さを測るなら、もう一つ見るべきものがある。

その国で成功した人が、そこで得た資産をその国に置き続けたいと思うか。その国で能力を身につけた人が、自分と家族の将来をそこに置きたいと思うか。

国家の競争力とは、優れた製品を作る能力だけではない。優れた人材と資本を引き付け、自発的にとどまらせる能力でもある。

我が国にとっても、これは他人事ではない。国内の供給力を再建し、研究開発、人材、設備投資、エネルギー、重要物資の供給網を国家資産として積み上げると同時に、企業家や技術者が「日本で投資し、日本で研究し、日本で事業を続けたい」と思える環境をつくらなければならない。

供給力と信頼。その両方が国家の力なのである。

結論 中国の強さは「量産」、弱さは「信頼」ではないか

中国について、2つの極端な見方を避けるべきである。一つは「中国の技術など全部コピーで、大したことはない」という見方だ。これは危険である。中国は既存技術を取り込み、改良し、巨大なサプライチェーンへ載せ、短期間で大量生産する能力を持つ。これは我が国が最も警戒すべき中国の強さの一つである。

しかし、「中国のEVが大量に売れたから技術世界一」「中国のロボットが走ったから日本は完敗」という見方も、同じくらい単純である。大量生産能力と技術的独創性は同じではない。ロボットが速く走れることと、人間の複雑な仕事を安全かつ安定して代替できることも同じではない。

そして何より、技術力と国家への信頼は同じではない。

中国には巨大な製造能力がある。その一方で、政府は資本移動を厳しく管理し、2026年9月15日からは国家の産業安全・技術安全などを理由として、特定の中国公民の出国禁止を決定できる制度も施行した。

ここで最初の問いへ戻りたい。

「中国の技術はすごい」のに、なぜ人も金も外へ出たがるのか。

もちろん、すべての中国人が国外へ出たがっているわけではない。すべての中国資本が逃げているわけでもない。それでも、国外への資産分散や移住需要が存在する一方で、国家が資本と人の国外移動に強い管理権限を持つという逆説は残る。

その答えの一つは、技術力と国家への信頼が別物だからではないか。

工場を造ることはできる。ロボットを作ることもできる。EVを100万台生産することもできる。しかし、「この国に自分の財産を置いて大丈夫だ」「この国に家族の将来を託しても大丈夫だ」という信頼は、大量生産できない。

行政命令でも作れない。

中国の本当の強さは、あらゆる最先端技術を最初に発明することではない。技術を取り込み、改良し、それを猛烈な速度で大量生産する能力である。この強さを我が国は侮ってはならない。

しかし、中国の本当の弱点もまた、技術ではないのかもしれない。

人と資本が、自由な選択の下でも中国に残りたいと思うだけの信頼をつくれるかどうか。

中国製ロボットが100メートルを何秒で走るかより、この問いの方が中国の将来を考えるうえではるかに重いのである。

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国家補助、過剰投資、弱い国内需要、人民元管理が絡む中国経済を分析。中国の巨大な生産能力と資本管理を理解するうえで今回の記事とつながる。

中国はもう台頭していない――高市首相のサプライチェーン戦略こそ日本を守る道だ 2026年7月5日
中国経済の弱さと、それでも残る巨大な供給力・経済的威圧を分けて考え、中国依存を減らす必要性を論じた記事。中国を過大評価も過小評価もしない視点につながる。

日加共同備蓄で始まる日本の反撃――中国のレアアース支配を断て 2026年6月30日
中国の強さが資源そのものより分離・精製・加工・供給網の集積にあることを示し、我が国が供給力を国家資産として再建すべき理由を論じた記事。

北朝鮮のサイバー攻撃グループは「採用手続」から入る――日本企業の内側に迫る新たな安全保障の危機

まとめ WaterPlumは攻撃手法ではなく、警察庁が「北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループ」と位置付ける集団である。求人、オンライン面接、コーディング課題など採用手続を悪用してIT技術者を攻撃し、警察庁とFBIはWaterPlumと一部の北朝鮮IT労働者について、朝鮮労働党中...