まとめ
航空自衛隊は2015年度からRQ-4Bグローバルホークの取得を始め、2023年に3機体制を完成させた。しかし、その後のウクライナ戦争などを通じて無人兵器をめぐる軍事常識は大きく変わった。今回の墜落だけを理由に当時の判断を失敗と決めつけるのではなく、この10年間に得た経験と実戦の教訓を次の防衛投資へ生かすべきである。
日本も「高価な大型無人機を少数持つ」という発想にとどまってはいない。現在はUAVだけでなく、USV、UUV、有人装備を組み合わせる多層的な防衛体制へ移行しつつあり、2027年度中には「安価かつ大量」の無人アセットを活用するSHIELDの構築を目指している。
ウクライナで目立つ空中ドローンをそのまま模倣するだけでは、日本の地理に適した防衛にはならない。四方を海に囲まれた我が国では、水上・水中の無人化、とりわけUUVは重要な領域である。日本が蓄積してきた潜水艦、水中音響、センサーなどの技術基盤と結びつければ、水中無人システムを将来の強みに育てる余地がある。
9月15日、航空自衛隊三沢基地所属の無人偵察機RQ-4Bグローバルホークが飛行中に通信を失い、その後、鳥取県沖で墜落した。航空自衛隊は9月20日までに第6報を公表しており、事故原因については調査が続いている。通信障害がなぜ発生したのか、機体にどのような異常があったのかは現段階では確定しておらず、原因を推測して論じるべきではない。航空自衛隊の一連の公式発表を見ても、いま確実に言えるのは、日本が3機体制で運用してきたRQ-4Bの1機を失ったという事実である。
航空自衛隊は2015年度からRQ-4Bの取得を始め、2022年12月に偵察航空隊を新編、2023年6月に3機目が三沢基地へ到着して3機体制が完成した。RQ-4Bは全幅約40メートル、最大高度約6万フィート、航続時間約36時間という大型の高高度長時間滞空型無人機であり、夜間や悪天候下でも各種センサーを使って情報収集できる。航空自衛隊の公式資料が示すように、我が国から比較的離れた地域を含む広域の常続監視能力を強化するために導入された装備であり、単なる「大きなドローン」ではない。
それでも、3機のうち1機を失った意味は軽くない。ただし、ここから「日本はまた高価な装備を買って失敗した」という結論へ飛びつくのも間違いである。グローバルホークの取得を始めた2015年と2026年では、世界が無人兵器について持つ知識そのものが違う。この約10年間に、UAVの大量運用、FPV型UAV、USV、UUV、AI、自律化、有人・無人連携について膨大な実戦知見が蓄積された。そして日本も、その変化を見ながら無人防衛の考え方を変えてきた。
その意味では、グローバルホークへの投資は、日本にとってある種の「高い勉強代」だったともいえる。ただし、それは無駄だったという意味ではない。大型無人ISR機を実際に導入し、操縦者を育て、運用体制を構築した経験は国家の防衛資産として残る。問うべきなのは、2015年の判断を2026年の知識で裁くことではない。
その経験と、その後に世界の戦場から得られた教訓を、我が国が次の10年にどう生かすかである。
1️⃣2015年には見えていなかった「ドローン戦争」
2015年度に日本がグローバルホークの取得を始めた時点では、高高度を長時間飛行し、搭乗員を危険にさらさず広大な地域を監視できる大型無人機には大きな価値があった。実際、2024年版防衛白書も、広域の常時監視能力を強化するため2015年度からRQ-4Bの取得を始めた経緯を説明している。その判断を、現在のドローン戦争についての知識をそのまま過去へ持ち込んで評価するのは適切ではない。
その後の約10年間で、無人兵器を取り巻く状況は大きく変わった。とりわけ2022年以降のウクライナ戦争では、UAVが偵察だけでなく攻撃や砲撃支援など幅広い任務に投入され、比較的安価な機体を多数使用する戦い方が急速に発達した。海上でも無人艇が実戦投入され、「非常に高性能な無人機を少数保有する」という発想だけでは捉えられない無人戦の姿が現れた。機体単体の性能だけでなく、数、コスト、分散、自律化、ネットワーク、そして損耗しても任務を継続できる冗長性が重要になったのである。
| 大量投入される小型ドローンが変えた現代戦 AI生成画像 |
ここから「グローバルホークは失敗作だった」と結論づけるのは早計である。むしろ米国は、衛星、有人ISR機、無人機、各種センサー、通信・指揮統制を含め、特定の大型航空機だけに依存しない体系へ資源を移していると見るべきだ。そして日本も、グローバルホークを導入した2015年の発想にとどまってはいない。2022年に策定された防衛力整備計画は、洋上監視用の滞空型UAVだけでなく、偵察用、多用途・攻撃用、小型攻撃用のUAV、USV、UUVを整備し、有人機と無人機の連携や複数の無人アセットを同時運用する能力を強化する方針を明記した。つまり日本はすでに、「高価な3機」の延長線だけで将来を考えているわけではないのである。
2️⃣日本はすでに「3機の発想」から動き始めている
日本の方向転換は、その後さらに明確になった。海上自衛隊は2023年5月からMQ-9Bシーガーディアンの試験的運用を行い、防衛省は2024年11月に同機の取得を決定した。防衛大臣会見では、平時の広域洋上監視能力を強化するとともに、有事には人的損耗を抑えながら任務を遂行することが導入目的として説明されている。さらに2026年版防衛白書によれば、海自によるMQ-9Bの運用開始は2028年度を予定し、それに先立って2027年度から鹿屋航空基地で2機を使った早期導入事業を行う計画である。
より大きな変化が、無人アセットによる多層的沿岸防衛体制「SHIELD」である。2026年版防衛白書は、2027年度中の構築を目指し、FPVタイプのモジュール型UAV、小型攻撃用UAV、水上艦発射型UAV、小型多用途USV、艦載型UAV、艦艇攻撃用UAV、レーダーサイト防衛用UAV、小型多用途UUVなどを取得するとしている。2026年度防衛関係費の予算資料では、SHIELDの構築だけで1001億円を計上し、これとは別に広域用UAV5式、狭域用UAV189式、狭域用UAV汎用型767式なども盛り込まれた。少なくとも政策文書を見る限り、「少数の高性能機だけに依存する」という発想から、多数・分散・多層化へ転換しようとしていることは明白である。
| 無人あせつとを多層運用する日本の沿岸防衛 AI生成画像 |
そして、ここでさらに重要なのは、ウクライナ戦争で目立った無人戦を、そのまま日本へ持ち込めばよいわけではないということだ。ウクライナでは長大な陸上戦線が存在するため、FPV型UAVなど陸上戦を支える無人機が強烈な印象を与えてきた。しかし日本は四方を海に囲まれた島国であり、南西諸島をはじめ多数の島嶼を防衛しなければならない。これは、台湾とも異なる。日本が必要としているのは、ウクライナや台湾のコピーではない。
我が国の地理から逆算した、日本独自の無人防衛である。
3️⃣島国・日本の勝負どころは「水中」にある
そこで注目すべきなのが水中である。水中では電波の利用に大きな制約があり、通信、測位、自律航行、目標探知など、空中のUAVとは異なる難しい技術課題が存在する。これは運用する日本側にとっても難題だが、同時に水中目標の発見・追尾そのものが難しいという特性を意味する。したがって、水中無人システムで高い静粛性、自律性、長期航続能力、センサー性能、通信能力を実現できれば、島国である我が国にとって大きな防衛上の価値を持つ可能性がある。「水中だから自動的にステルスになる」と単純化するべきではないが、空中とは異なる探知環境を生かす余地は大きい。
これは単なる将来構想ではない。防衛力整備計画はすでに「水中優勢を獲得するための各種無人水中航走体(UUV)」を整備すると明記している。また、防衛装備庁は、管制型UUVから別のUUVを管制する技術、水中音響通信、長期運用型UUVなどの研究を続けている。防衛装備庁の研究評価資料を確認すると、UUV・USVの構成要素技術は2010年代前半から研究され、長期間の水中航走を可能にする発電システム、モジュール化、自律技術などへ研究範囲が広がってきた。2025年9月には防衛省が小型多用途UUVについての情報・提案募集を行い、遅くとも2027年度の初期型装備品の装備化を目標としている。
| 日本の新たな強みとなり得る水中無人システム AI生成画像 |
もちろん、米国や中国、豪州をはじめ各国もUUV開発を進めており、「日本が本気を出せば他国は追いつけない」と現時点で断言することはできない。だが、だからといって日本に勝ち筋がないわけでもない。防衛装備庁は長期運用型UUV、水中音響通信、複数UUVの管制まで研究を進めており、防衛省は実際の装備化へ踏み出している。ここに日本の潜水艦・造船関連技術、AI、自律制御、電池、センサー技術を集中的に投入し、研究から量産までの速度を上げることができれば、水中無人システムは日本が国際的な競争力を形成し得る有望な領域の一つになる。
しかも、この投資は単に外国製兵器を買う話とは違う。国内でUUVの自律航行、エネルギー、センサー、水中通信、静粛化、量産技術を育てれば、防衛力の強化と同時に国内の技術・生産基盤という国家資産を形成できる。重要部品やソフトウェアまで国内供給力を高められれば、有事の継戦能力にもつながる。防衛投資を単なる「支出」と見るのではなく、我が国の供給力と技術基盤を残す投資として設計する発想が必要である。
グローバルホーク、MQ-9B、衛星が広域を見渡し、有人哨戒機や艦艇が監視し、その下でUSVが海面を、UUVが海中を監視する。さらに各センサーから得られた情報をネットワークで共有し、一つの機体や通信経路を失っても別の手段が補う。日本が目指すべき無人防衛とは、特定の「夢の兵器」を作ることではなく、空、海上、水中、宇宙を結んだ強靱なシステムを構築することだ。
海に囲まれていることを弱点として嘆くのではない。海を、日本の防衛上の強みに変えるのである。
結論 「高い勉強代」を次の国家資産に変えよ
今回のグローバルホーク墜落については、事故調査の結果を待つ必要がある。1機を失ったという事実だけから、2015年度に始まった導入そのものを失敗と決めつけることもできない。当時には当時の安全保障環境と技術水準があり、広域の常続監視能力を強化するという明確な目的があった。そして実際にグローバルホークを導入し、偵察航空隊を新編し、無人ISR機を運用する人材と経験を蓄積したことにも意味がある。
それでも、現在から振り返れば、グローバルホークへの投資はある意味で「高い勉強代」だったといえる。なぜなら、その後の約10年間で無人戦そのものが急速に変わったからだ。しかし、勉強代は払ったこと自体が問題なのではない。そこで得た知識を次へ生かせなければ、初めて本当の無駄になる。
日本はすでに変わり始めている。2026年版防衛白書が示すSHIELDは、UAV、USV、UUVを多数組み合わせ、有人アセットとも連携させる構想である。海上自衛隊はMQ-9Bの導入へ進み、防衛装備庁は水中無人技術の研究を続けている。これは2015年の「高性能な大型無人機を少数導入する」という段階から、分散、多層化、ネットワーク化へ進む変化と見ることができる。
ここで必要なのは、日本について何でも悲観することでも、逆に根拠なく技術力を礼賛することでもない。外国の成功例をそのまま輸入するのではなく、日本の地理と既存の技術基盤から勝負すべき分野を選び、そこへ人材、研究費、調達予算、国内生産能力を集中することである。四方を海に囲まれた日本なら、水上・水中無人システムはその有力候補になる。
グローバルホークの1機喪失を「また日本は失敗した」で終わらせる必要はない。むしろ今回の事故を、過去10年間に得た経験を棚卸しし、次の無人防衛へ進む契機にすればよい。
高い勉強代だったのなら、その勉強代を次の国家資産に変えればよい。
日本の無人防衛の次の10年は、空に何機持つかだけでは決まらない。空、海上、水中、宇宙をどう結び、日本の地理と技術をどう生かすかで決まる。その中でも水中には、我が国がこれから強みを築く余地がまだ大きく残されている。
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