まとめ
- 北海道全体で人口減少が進むなかでも、東川町のように人口を増やしている町や、上士幌町のように一度人口減少を反転させた町がある。重要なのは人口の数字そのものではなく、仕事、子育て、文化、交通などを通じて「そこに住む理由」をつくることである。
- 倶知安町や占冠村では、国際観光とリゾート産業が外国人を含む人口を引き寄せている。外国人材は地域経済の重要な担い手である一方、人口や労働力を国外からの流入に大きく依存すれば、社会統合、外部依存、安全保障を含む別の課題も生じる。
- 人口減少への答えは、人を際限なく補充することだけではない。AI、自動運転、バイオガス、将来のSMRなどを使い、少ない人口でも高い生産性と供給力を持つ地域をつくる道がある。しかし、最後に共同体を残すのは、その土地の歴史と文化を受け継ぎ、「自分たちは何者で、何を次代へ渡すのか」を確認する霊性の精神である。
北海道では人口減少が続いている。しかし道内を細かく見ると、同じ人口減少社会のなかにありながら、人を引き付けている地域がある。東川町、上士幌町、倶知安(くっちゃん)町、占冠(しむかつぷ)村などがその代表である。ただし、この4自治体を単純に「人口増加の成功例」と一括りにしてはならない。人が集まる理由も、人口の中身も、地域が抱える課題もそれぞれ違うからである。
東川町は、2025年国勢調査速報値で8726人となり、2020年から5年間で5.0%増えた。総務省統計局の人口速報では、全国の市町村のうち人口増加率が高い方から19番目に入っている。総務省統計局「令和7年国勢調査 人口速報集計結果」 東川町は1985年の「写真の町」宣言以来、写真文化、自然、家具・クラフト、教育などを結び付け、「過疎でも過密でもない」状態を意味する「適疎」をまちづくりの理念としてきた。町自身も、先人から受け継いだ文化や歴史の記憶と、「自然と人」「人と文化」「人と人」のつながりを、その土台に挙げている。東川町「適疎なまちづくり」
上士幌町では、2016年から3年連続で自然減を社会増が上回り、一時5000人台を回復した。当時の北海道の資料では、転入者の8割以上を20~40歳代が占めている。北海道「都市と農山村の交流が人口増加を実現(上士幌町)」 しかし、町の公式統計では2025年12月末の4677人から2026年8月末には4581人へ減っている。上士幌町「人口・世帯数」 一度人口増加を実現しても、高齢化による自然減を転入だけで恒久的に埋め続けることは容易ではない。
一方、倶知安町と占冠村では国際観光とリゾート産業が異なる人口構造をつくっている。2026年8月末の倶知安町は外国籍住民1472人、占冠村では人口1346人のうち外国人が390人で、約29%を占める。倶知安町公式ホームページ・人口統計 占冠村「村のあらまし」 人口が増えたか減ったかだけを見ても、地域の実像は分からないのである。
なぜ人が来るのか。誰が来るのか。その地域は何を生み、何を次の世代へ残すのか。
地方創生を見る尺度を、人口の数から共同体の持続性へ広げる必要がある。
1️⃣「住む理由」をつくる町と、外国人流入が支える町
東川町が興味深いのは、人口増加だけを直接追いかけるのではなく、「暮らしたいと思える町」を長い時間をかけてつくってきた点である。「写真の町」宣言は、自然環境と景観を未来へ残し、先人から受け継いだ風土をさらに育てることを掲げている。東川町「写真の町宣言」 人は「人口増加政策」があるから移住するのではない。仕事があり、子どもを育てやすく、自然や文化があり、そこで自分の生活を組み立てられると思うから土地を選ぶ。人口を増やす前に「そこに住む理由」をつくることが先なのである。
| 東川町の暮らしと自然 AI生成画像 |
倶知安町と占冠村は別の答えを示す。強い産業があり、所得を得られる仕事があれば、人は国内外から集まる。仕事があれば、人は来る。 外国人材が北海道の観光、宿泊、飲食などを支えている現実も正面から認めなければならない。しかし、「日本人が減った分を外国人で補えばよい」という人口の帳尻合わせにまで進めば、別の問題が生じる。送り出し国の経済成長、賃金、為替、我が国の在留制度、国際情勢によって人の流れが変われば、地域産業そのものが影響を受けるからである。
さらに外国人の受入れは雇用だけの問題ではない。OECDと欧州委員会の「Indicators of Immigrant Integration 2023」は、移民統合を労働市場・技能、生活条件、市民参加・社会統合など83の指標から分析している。同報告が紹介する2021年のEU市民調査では、非EU出身移民の統合に重要な要素として、受入れ国の公用語を話すことを85%、受入れ社会の価値観や規範を受け入れることを77%が挙げた。これは外国人が増えれば社会が不安定になるという因果を証明する数字ではないが、欧州自身が統合を単なる就労問題とは考えていないことを示している。OECD・欧州委員会「Indicators of Immigrant Integration 2023」 同報告「Social factors perceived as necessary for successful integration」
安全保障についても感情論ではなく、制度として考えなければならない。我が国の重要土地等調査法は外国人だけを対象にした土地取得規制ではなく、防衛関係施設などの周囲おおむね1000メートルや国境離島等を注視区域等に指定し、国籍を問わず土地・建物の利用状況を調査する制度である。機能阻害行為が行われ、または明らかなおそれがある場合、内閣総理大臣は土地等利用状況審議会の意見を聴いたうえで勧告し、正当な理由なく従わない場合には命令できる。内閣府「重要土地等調査法」 内閣府「重要土地等調査法 FAQ」 北海道には防衛関係施設、港湾、空港、通信、電力など国家基盤にかかわる資産がある。外国人受入れと安全保障上の土地利用管理を混同してはならないが、人口の「数」だけを追っていては、こうした問題は見えてこない。
地方創生で問われるべきなのは人口の帳尻ではない。誰が暮らし、どのように地域へ根を張り、その共同体を長期的に維持するのか。 そこまで考える必要がある。
2️⃣人口を補充するだけではない――AI、牛のふん尿、そして将来のSMR
人口が減れば地域社会は必ず衰退するのか。そうとは限らない。人口が減るなら、一人当たりの生産性を高め、人間が担わなくてもよい仕事をAI、ロボット、自動運転へ移し、限られた人材を人間にしかできない仕事へ振り向ければよい。人口減少のたびに外から人を補充するのではなく、必要な労働量そのものを技術で減らすという発想である。
上士幌町はその一つの実験場になっている。町では2017年から自動運転の実証を重ね、2022年12月に自動運転バスの定期運行を開始した。現在の定期運行はオペレーターを配置するレベル2だが、2024年10月には公道でレベル4の実証も行い、AIによる音声認識、回答生成、音声合成を使った「AI車掌」も導入している。2026年10月には、無人自動運転を見据えたロボットタクシーの実証運行も予定されているが、安全のため運転手が同乗する。上士幌町「自動運転の地域実装プロジェクト」 上士幌町「ロボットタクシー実証運行」 地方では運転手も、行政職員も、介護職員も、農業従事者も不足する。だからこそ、人を補充するだけでなく、技術によって必要な労働量そのものを減らす必要がある。
| 上士幌町のバイオガス発電 AI生成画像 |
もちろん、この「100%」は町が送電網から完全に独立し、365日24時間、町内のあらゆる需要を牛のふん尿だけで賄っているという意味ではない。年間ベースの発電想定量が町内の想定電力需要とほぼ同規模だという意味である。それでも意義は大きい。これまで処理すべき対象だった家畜ふん尿がエネルギー資産となり、発電後の消化液は液肥として農地へ戻すことができる。廃棄物、農業、電力を地域内で循環させれば、域外へ流れていた所得の一部も地域に残せる。これは環境政策だけではなく、農業政策、産業政策、エネルギー政策であり、我が国の供給力と国家資産を積み上げる政策でもある。
そしてAI時代には、安定した電力の価値は一層高まる。AI、データセンター、自動運転、ロボット、電動農機、遠隔医療はいずれも電力を必要とする。地域資源を使うバイオガス、水力、地熱などに加え、将来を見据えればSMR、すなわち小型モジュール炉も重要な選択肢になり得る。2026年6月には経済産業省とIAEAが、SMRを含む原子力エネルギー開発と能力構築に関する協力覚書を締結した。経済産業省は同時に、既設炉の最大限活用に加え、次世代革新炉の開発・設置を進める我が国の方針をIAEA側に説明している。経済産業省「IAEAとのSMR等に関する協力覚書」
SMRが我が国の地方へ直ちに配置できる段階にあるわけではない。安全規制、経済性、サプライチェーン、人材、立地地域の理解、バックエンドなど解決すべき課題はある。しかし、課題があることと将来性がないことは別である。北海道でAIやロボットを使った高生産性産業を育て、データセンターや先端産業を呼び込み、厳冬期にも十分な電力を確保するなら、安定電源の価値はむしろ高まる。
上士幌町のバイオガスと将来のSMRに共通する発想は明快である。「足りないものを外から補い続ける」のではなく、「持っている資源と新しい技術から供給力をつくる」のである。 人口減少を単なる衰退として受け入れる必要はない。
3️⃣仏作って魂入れず――神社と祭りが伝える「自分たちは何者か」
ここまで人口、雇用、外国人材、AI、自動運転、エネルギーを見てきた。しかし、それらはすべて手段でもある。AIは「どう効率化するか」に答え、エネルギー技術は「どう供給力を確保するか」に答える。移住政策は「どう人を呼ぶか」、産業政策は「どう仕事をつくるか」に答える。
しかし、「なぜ、この土地を残すのか」という問いには、それだけでは答えられない。
そこで必要になるのが霊性の精神である。ただし、これは抽象的な精神論ではない。神社を守る。祭りを毎年続ける。墓地を維持する。開拓した先人の名と物語を伝える。地域の山や森、水を守る。子どもを地域の行事に参加させる。こうした具体的な営みを通じて、「自分たちは何者で、どこから来て、この土地を誰へ渡すのか」を確認することが霊性なのである。
その意味を、上士幌神社の由緒は鮮やかに物語っている。北海道神社庁によれば、上士幌開拓の祖とされる安村治高丸は1907年、富山県早星村から小作農家10余戸とともに移住した。そして1913年、小作人の高木太助を郷里へ遣わし、早星神社の御祭神「五百筒磐石神」の御分霊を迎えて奉斎した。これが上士幌神社の創祀とされている。北海道神社庁「上士幌神社」
| 上士幌神社の祭りを通じた地域伝承 AI生成画像 |
祭りも同じである。祭りは観光客を呼ぶイベントである前に、地域住民が毎年同じ時期に集まり、神社を掃除し、準備をし、神事や行事を行い、その役割を次の世代へ渡していく営みである。子どもにとって地域の歴史は、本の中だけにあるのではない。祭りに参加し、大人と一緒に準備し、地域の神社へ足を運ぶことで、「自分はこの土地につながっている」という実感になる。人口が減ったから祭りをやめ、担い手が減ったから神社を放置することを繰り返せば、AIや補助金では再建できない共同体の記憶まで失いかねない。
北海道百年記念塔の歩みも、別の角度から同じ問題を問い掛けている。同塔は北海道命名100年を記念して1968年に着工し、1970年に完成した。その後、北海道は専門家の意見や道民からの意見を踏まえ、老朽化、安全確保、将来世代への負担軽減を理由に解体を判断した。これは国ではなく北海道による決定である。北海道知事定例記者会見・北海道百年記念塔について 現在、北海道は跡地に設ける新たなモニュメントについて、「今日の北海道を築きあげてきた先人たちへの感謝と畏敬の念」を表すことをコンセプトに掲げている。北海道「モニュメントデザイン募集」
私は記念塔解体には反対だが、ここで問いたいのは、記念塔解体の賛否そのものではない。構造物を残すことと、記憶を継承することは同じではないということだ。なぜ塔を建てたのか。誰が北海道を築き、何を次代へ残そうとしたのか。その物語が継承されなければ、どれほど巨大な建造物でも、いつかは単なる構造物になり得る。
形をつくるだけで、魂まで残せるのか。
地方創生にも同じことが言える。AIを導入し、自動運転を走らせ、バイオガスや将来のSMRで供給力を高めても、それだけでは共同体は完成しない。神社を守り、祭りを続け、先人の記憶を語り、子どもへ地域の歴史を渡す。そのうえで新しい技術を使う。伝統と技術は対立するものではない。
何を守り、何を次代へ渡すために技術を使うのか。
そこが定まって初めて、最新技術は土地の歴史と暮らしを未来へ運ぶ道具になるのである。
結論――地方創生とは、土地の魂を未来へ渡すことである
人口減少時代の地方創生で問われるのは、人間を何人集めるかだけではない。少ない人口でも高い生産性を持ち、地域の供給力と国家資産を積み上げ、必要なエネルギーを確保し、そのうえで土地の歴史、文化、祭り、神社、そして霊性を次の世代へつないでいくことが重要である。
そして、その根に必要なのが郷土への矜持である。
自分たちの町には守る価値がある。先人が築いたものには意味がある。だから、より良い形にして次の世代へ渡したい。そう思える地域でなければ、人口が増えても共同体は長く続かない。
上士幌の開拓者たちが郷里の神を新天地へ迎えたことも、その一つの象徴だろう。彼らは過去にしがみついたのではない。自分たちがどこから来たのかを忘れず、その記憶を新しい土地へ持ち込み、そこから新しい共同体を築いたのである。
郷土への矜持とは、昔の姿をそのまま保存することではない。
守るべきものを知り、変えるべきものは変え、新しい技術も使いながら、より良い形で次代へ渡すことである。
技術は新しくてよい。産業も変わってよい。町の姿も変化してよい。大切なのは、それを何のために使うのかである。
新しい技術で未来を切り開きながら、自分たちは何者であるかを忘れず、郷土への矜持を持って土地の魂を未来へ渡す。
地方創生の本質は、そこにあるのではないか。
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