2025年6月15日日曜日

イスラエルのイラン攻撃:核開発阻止と中東の危機を読み解く

まとめ
  • イスラエルのイラン攻撃は核開発阻止と体制崩壊を狙い、分裂したイラン社会をシリアのような内戦状態に追い込む戦略だ。
  • ネタニヤフは1995年の著書でイランの脅威を予見し、「抵抗の枢軸」による攻撃や2024年のイラン直接攻撃を警告。
  • 2023年、当時の国防相はイスラエルは7地域で「多方面の戦争状態」にあルトの認識を公表、過去のサイバー攻撃や暗殺でイランの核開発を遅らせたが阻止は不完全。
  • 米国は2018年に核合意離脱、中国はイラン支援、ロシアは軍事協力と、大国間の動きが事態を複雑化。
  • イランの核開発は世界を危機にさらし、イスラエルと西側諸国が行動を起こす時間は限られている。
2024年12月8日アサド政権崩壊

イスラエルによるイランへの奇襲攻撃は、核開発計画を遅らせ、現体制を崩壊させる明確な狙いを持つ。核施設、ミサイル工場、軍の要人や核科学者を標的に、民間人の犠牲を抑えつつイラン国内の反体制運動を促す意図があった。しかし、イスラエルの真の目的は、民族や宗派、経済格差で分裂するイラン社会をさらに分断し、アサド政権崩壊前のシリアのような内戦状態に追い込むことだ。

ネタニヤフの予見とイランの脅威

ネタニヤフ首相は1995年の著書『テロリズムとはこう戦え』でイランの脅威を予見。イスラムテロ組織の反米動向を分析し、2001年の9・11テロを予告するような警告を発していた。同書では、国際テロが支援国家の「安全な避難所」なくして成り立たないと断じ、イランがヒズボラ、ハマス、フーシ派の「抵抗の枢軸」を通じてイスラエルを攻撃してきたと指摘。2024年、イランは4月と10月にドローンやミサイルでイスラエルを直接攻撃。ヒズボラの弱体化やシリアのアサド政権崩壊で「抵抗の枢軸」が揺らぐ中、イラン自身が直接対決に踏み切る危険性が浮上した。


ネタニヤフは、イランが核兵器を手に入れれば、都市全体を人質に取りかねないと警告。ナチズムを例に、ヒトラーが核を持っていたら文明は終焉していたと述べ、民主国家が時間を無駄にしてきたと訴える。「一刻の猶予もない」と力強く断言した。攻撃直後、ネタニヤフはヒズボラへの対応がレバノンやシリアの政権変動を招いたと主張し、イラン国民に「解放」の日が近いと呼びかけた。しかし、反イスラエル感情が根強いイランで体制崩壊は不透明だ。軍上層部の排除で体制を揺さぶる狙いはあるが、後継者が強硬姿勢を強める危険もある。米国なしでは核開発阻止は困難だ。

多方面の戦争とイランの抵抗

2023年、当時のガラント国防相は、ガザ、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸、イラク、イエメン、イランの7地域で攻撃を受ける「多方面の戦争状態」を認識。イランと「抵抗の枢軸」による攻撃で、2023年10月のハマス襲撃もイランの支援が背景にあった。イスラエルは2010年のスタックスネットウイルスや2020年の核科学者暗殺で核開発を遅らせたが、完全な阻止はできていない(国際原子力機関報告、2023年)。2022年のイラン国内抗議運動は体制への不満を示したが、治安部隊に鎮圧され、民衆蜂起は遠い。イランの分裂を加速させる戦略は、シリアのような混乱を招く可能性があるが、地域全体の不安定化はイスラエルにも跳ね返るリスクをはらむ。

大国間の駆け引きとイスラエルの孤立


イランをめぐる大国間の動きは事態を複雑にする。米国は2015年のイラン核合意から2018年に離脱し、経済制裁を強化(米国務省、2018年)。2025年6月、イスラエルの攻撃直前に核交渉が予定されたが、イランの報復脅威で米国はイラクから人員を避難させ、交渉は中止(ロイター、2025年6月)。トランプは核開発阻止を求め、軍事攻撃を示唆するが、直接対決は避けたい。一方、中国はイランの最大の石油輸入国として制裁回避を支え、2021年の25年戦略協定で軍事・経済協力を強化(中国外務省、2021年)。2025年3月の北京での三国協議で、核問題の外交解決を主張しつつ米国を非難(新華社、2025年3月)。

ロシアはウクライナ戦争でイランのドローン支援を受け、2025年1月に戦略パートナーシップを締結(ロシア外務省、2025年1月)。イランを政治的に後押しするが、軍事介入には慎重だ。イランは米国の圧力に対抗し、ロシア・中国との関係を深めるが、両国が米国との取引でイランを見限る可能性を警戒する。イスラエル国内では、ネタニヤフへの支持は揺らぎ、反政府デモも起きている。しかし、イランの脅威は世界的な問題だ。

作戦名「アム・ケラヴィ」(雌獅子のような民)は、聖書の民数記に由来し、イスラム革命前のイランのライオンを暗示するとの見方もある。特別非常事態宣言が続く中、作戦は数週間続く可能性がある。米国はイランのウラン濃縮加速を警告(国際原子力機関、2025年)。米国の関与縮小傾向の中、イスラエルは単独で立ち向かう。イランの核開発と地域の混乱は、世界を危機にさらす。イスラエルと米国を中心とする西側諸国が行動を起こす時間は限られている。

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