中国の海洋覇権の野望を打ち砕く:米国防長官のシャングリラ対話での力強い宣言
まとめ
- ヘッグセス米国防長官は2025年5月31日のシャングリラ対話で、中国の台湾侵攻や南シナ海での強硬姿勢を批判し、国際法違反と破滅的結果を警告した。
- 中国の海軍ロードマップは2020年までに第一・第二列島線の確保を目指したが、日米の軍事力と同盟網により未達に終わり、尖閣や南シナ海での実効支配は進んでいない。
- 日米の対潜水艦戦(ASW)能力、特に索敵能力の優位が中国の遅れの主因であり、米国のP-8Aや日本のP-1哨戒機が中国潜水艦を圧倒している。
- 索敵能力の向上には技術・訓練・連携が必要で、中国の進展は遅く、2030年以降も第一・第二列島線の確保は困難と予想される。
- 米国は同盟国との合同演習や武器供与を強化し、インド太平洋の抑止力再構築と防衛費増額を促し、中国の覇権を封じ込める決意を示した。
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米国防長官ヘッグセス |
南シナ海での中国の横暴—人工島の軍事基地化やフィリピン漁船への水砲攻撃—は国際法を踏みにじる行為だと断じた。さらに、軍事力に情報戦やサイバー攻撃を絡めた中国の「ハイブリッド戦争」や、グレーゾーンでの狡猾な挑発が地域の脅威だと訴えた。力強い口調で、ヘッグセスは中国の覇権拡大を許さない決意を明確に示した。
中国の海軍ロードマップは、2000年代からの「海洋強国」戦略に基づく野心的な計画である。2020年までに第一列島線(九州-沖縄-台湾-フィリピン)を押さえ、第二列島線(小笠原-グアム-パプアニューギニア)で制海権を握る目標を掲げた。
空母「遼寧」「山東」の運用、055型駆逐艦や095型原潜の開発、対艦弾道ミサイル(DF-21D、DF-26)の配備がその柱だ。しかし、この計画は未だ実現していない。尖閣諸島周辺では、2025年5月時点で中国海警船が187日連続で接続水域に侵入するも、米国の軍事力と日本・フィリピンとの同盟網が壁となり実効支配は遠い。
南シナ海では、2024年3月のフィリピン漁船への攻撃や同年10月のトリトン島へのレーダー設置で強硬姿勢を見せるが、米国の合同演習や武器供与が中国の動きを封じ込める。第二列島線では、中国海軍の遠洋展開能力が未熟で、グアムやAUKUS枠組みによる豪州の抑止力に阻まれている。
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MQ-4Cトライトン無人機 |
この停滞の最大の理由は、日米と中国の対潜水艦戦(ASW)能力、特に索敵能力の圧倒的な差である。米国はP-8Aポセイドン哨戒機やMQ-4Cトライトン無人機、海底音響センサー網(SOSUS)で太平洋全域を監視する。
日本もP-1哨戒機や「たいげい」級潜水艦で尖閣や南西諸島を固める。2024年の日米共同演習では、米国の最新ソノブイと日本の海底センサーが中国の093型潜水艦をリアルタイムで捕捉した(Defense News, 2024年11月)。一方、中国のY-8Q哨戒機やキロ級潜水艦は性能と経験で劣り、2023年の南シナ海演習で米潜水艦を探知できなかった(Jane’s Defence Weekly, 2024年2月)。中国は人工島や海底センサーを増やすが、日米の統合ASW網には及ばない。
索敵能力の向上は一朝一夕では成らぬ。高度なセンサー技術、データ解析、訓練の蓄積、国際連携が必要だ。米国は数十年の経験を持ち、日本も次世代哨戒機を2035年までに開発予定。AUKUSでの豪州の原潜導入(2030年代)も控える。対して中国の095型原潜や新型哨戒機は進むが、米国のバージニア級潜水艦やP-8Aに追いつけていない(CSIS報告, 2025年3月)。このギャップは埋まりそうにない。中国の艦艇数は増えたが、質と訓練の不足で、第一・第二列島線の確保は2030年以降も難しい。
ヘッグセスはこうした中国の足踏みを背景に、インド太平洋の抑止力を再構築する戦略を打ち出した。米軍の西太平洋展開を強化し、同盟国の防衛力を支援、防衛産業を立て直す。日本、フィリピン、台湾の第一列島線と、グアムを含む第二列島線で中国の覇権を封じ込めるのだ。NATOの防衛費GDP比5%引き上げを模範に、同盟国に防衛費増額を求めた。5月30日には東南アジアや豪州、シンガポール、フィリピンの国防相と会談し、対中抑止の連携を固めた。
米国はフィリピンとの2024年の合同演習「バリカタン」やF-35配備を加速させ、国際法と地域の安定を守る。ヘッグセスの演説は、中国の野望を挫くための団結と決意を高らかに宣言したものだ。
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