2025年6月18日水曜日

トランプのイラン強硬策:核危機と中東の命運を賭けた対決

まとめ

  • トランプの強硬策と攻撃検討:トランプはイランの核施設への攻撃を検討。米軍はイスラエル支援に徹するが、攻撃は方針転換となり、紛争激化のリスクを伴う。
  • イランの核と中東和平:イランの核保有は中東を不安定化。核開発阻止で和平の道が開くが、アブラハム合意の進展は遅い。
  • イラン国内の危機:イスラム原理主義と経済制裁で国民生活が悪化。2022年のマフサ・アミニさんの死で不満が高まる。
  • 米軍の攻撃可能性と中国との対峙:イランへの圧力は中国牽制の一環。中国の軍事支援を削ぐ狙いがあるが、国際経済への影響が課題。
  • 抵抗の枢軸の弱体化:2024年12月のアサド政権崩壊とイスラエルの攻撃で、イランの「抵抗の枢軸」が壊滅的打撃を受け、地域支配力と国内安定が揺らぐ。
トランプ大統領は、中東対処のためG7を中途退席

トランプ米大統領は2025年6月17日、イランの核問題とイスラエルとの交戦を巡り、国家安全保障会議をホワイトハウスのシチュエーション・ルームで1時間20分にわたり開催した。協議内容は明かされていないが、米ニュースサイト「アクシオス」は、トランプ氏がイランの核施設、特に中部フォルドゥのウラン濃縮施設への軍事攻撃を真剣に検討していると報じた。この施設を破壊するには地中貫通弾やB-2爆撃機が必要で、米軍の直接参戦を意味する。

現状、トランプ政権はイスラエルの防衛支援に徹し、紛争への関与を避けているが、攻撃に踏み切れば方針転換となる。ロイター通信によると、米軍は中東に戦闘機を追加配備し、備えを固めている。トランプ氏は同日、SNSでイランに「無条件の降伏」を突きつけ、最高指導者ハメネイ師を「容易な標的」と脅しつつ、殺害の意図はないと述べ、「我慢は限界に近い」と警告した。バンス副大統領もSNSで、イランの核兵器保有を許さないと強調し、さらなる措置の可能性を示唆した。

イランの核問題と中東和平の行方


イランが核保有国になれば、イスラエルやサウジアラビアへの影響力が増し、ホルムズ海峡での挑発やテロ支援を通じて中東は混迷を深める。核拡散が他国を刺激し、核軍拡競争が起きかねない。だが、イランの核開発が阻止され、外交で核計画が制限されれば、中東和平への道が開ける。イランとイスラエルやアラブ諸国の緊張が和らぎ、経済制裁の緩和でイラン国内の安定も期待できる。ただし、歴史的・宗派的な対立の解消には長い時間がかかる。

イラン国内は、イスラム原理主義の厳格な統治で悲惨な状況にある。1979年のイスラム革命以来、女性や少数派への抑圧が続き、2022年のマフサ・アミニさんの死は国民の怒りを引き起こした。言論の自由は奪われ、インターネット検閲や監視が日常だ。経済制裁でインフレと失業が国民を苦しめ、貧困層が拡大、医療や教育へのアクセスも悪化している。政権は核開発に固執し、国民の不満を抑えるためさらなる抑圧を重ねる。

2020年のアブラハム合意は、イスラエルとUAE、バーレーン、スーダン、モロッコの国交正常化を実現し、中東和平の大きな一歩となった。イランへの対抗を背景に、経済や安全保障の連携を深めた。2025年、トランプ政権はサウジアラビアなどとの正常化交渉を進めるが、イスラエル・パレスチナ問題が壁となり、進展は遅い。イランを孤立させる戦略の一環だが、イランの核開発や代理勢力の動きが和平を阻む。

米軍の攻撃可能性と中国との対峙

米軍のイラン攻撃の可能性は、複数の事実が示す。「アクシオス」は、トランプ氏がフォルドゥ施設への攻撃を検討中だと報じた。これは、IAEAが2023年以降、イランの高濃縮ウラン蓄積を確認しているためである。攻撃には高度な兵器が必要で、米軍の戦闘機追加配備は準備の兆候とも取れる。トランプ氏やバンス氏の発言は、軍事オプションを交渉の切り札とする意図をうかがわせる。

ソレイマ二氏

だが、2020年のイラン革命防衛隊司令官ソレイマ二氏暗殺後の報復合戦や、過去のトランプ政権が大規模衝突を避けた経緯から、攻撃は抑止力強化の「脅し」に留まる可能性もある。攻撃すれば、放射能汚染やイランの報復で地域紛争が激化し、欧州や中国からの批判は必至だ。国内の支持基盤へのアピールも背景にある。

トランプ氏のイランへの強硬姿勢は、中国との対峙の布石でもある。米国防総省の報告書は、中国がイランにドローンやミサイル技術を提供していると指摘。トランプ政権は、インド太平洋での軍事プレゼンス強化や対中関税継続で中国を牽制している。イランへの圧力は、中国の影響力を中東で抑え、エネルギーや地域覇権の競争で優位を保つ戦略だ。攻撃は中国の支援を受けたイランの軍事力を削ぐ狙いがあるが、国際経済への影響や中国の反応を慎重に計算する必要がある。

イランの弱体化と抵抗の枢軸の崩壊

イランの「抵抗の枢軸」は、2024年12月のシリアのアサド政権崩壊とイスラエルによる攻撃でかつてないほど弱体化した。シリアはイランの最重要同盟国で、ヒズボラへの武器供給の陸上ルートだったが、反体制派のハヤト・タハリール・シャームがダマスカスを制圧し、アサドがロシアに亡命した。イランはシリアに多額の資金を投じ、革命防衛隊やヒズボラが支えたが、イスラエルの空爆で司令官らが殺害され、ヒズボラ指導者ナスララも2024年9月に暗殺された。


ガザのハマスもイスラエルとの戦争で弱体化し、抵抗の枢軸は壊滅的な打撃を受けた。イランはシリアから撤退を余儀なくされ、核開発への投資を強める可能性が指摘されている。この弱体化は、イランの地域支配力と抑止力を大きく損ない、国内の不満を高める要因だ。

イランの反応は不明だが、過去の強硬姿勢から軍事・外交的対抗が予想される。米国の攻撃は中東の混乱を招き、国際社会の批判を浴びる。トランプ氏の強硬発言は国内や中国へのメッセージかもしれないが、軍事行動の可能性は不透明だ。イラン、国際社会、アブラハム合意の行方が中東の未来を左右する。

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