2023年11月30日木曜日

キッシンジャー元米国務長官が100歳で死去、米中国交樹立の立役者―【私の論評】外交の巨星がもたらした世界の変革と教訓

 キッシンジャー元米国務長官が100歳で死去、米中国交樹立の立役者

まとめ

  • 大統領補佐官として72年のニクソン大統領の電撃的な訪中を実現した
  • 冷戦下で旧ソ連とのデタントや戦略兵器制限条約の実現に貢献



 キッシンジャー氏は米国政権で大きな影響力を持ち、特にニクソン、フォード政権下でその力が顕著だった。彼の最も著名な業績の一つは、ニクソン大統領の中国訪問の実現であり、これが1979年の米中国交樹立の基盤を築くことにつながった。同様に、彼はベトナム戦争の終結に向けたパリ和平協定に尽力し、その功績により1973年にノーベル平和賞を受賞した。

 彼の経歴は卓越しており、ナチスの迫害から逃れて家族と共に1938年に渡米し、ハーバード大学で学び、政治の世界に進出した。彼の外交政策は冷戦時代の米ソ関係を緩和し、戦略兵器制限条約などに貢献したが、同時に彼の支持した政策は批判を受けた。彼の関与したベトナムやカンボジアへの大規模空爆、ピノチェト政権やその他の軍事政権の支援、そして東ティモールやバングラデシュなどでの大量虐殺への見過ごしに対して、批判があった。キッシンジャー氏の政治的遺産は、その複雑さと議論の余地がある点において、歴史的に注目されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細をご覧になりたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】外交の巨星がもたらした世界の変革と教訓

まとめ
  • キッシンジャーの外交政策は地政学的な変化をもたらし、中国との関係改善やベトナム戦争の終結を実現した。
  • 彼のアプローチは現実主義的で、大胆な戦略ビジョンを持ち、長期的な視点を持っていた。
  • 彼の政治手法はイデオロギーよりも実利に重きを置いており、世界政治における個人的な関係の重要性を理解していた。
  • 彼の中国との関係改善は米国の地政学的余裕を拡大し、多極的な秩序を形成することに貢献した。
  • キッシンジャーの遺産は、現代の指導者に大胆さ、ビジョン、外交における個人的な関係構築の重要性を示している。
ヘンリー・キッシンジャーは、米国の外交政策と外交において傑出した人物でした。中国の開放やベトナム戦争の終結など、彼の功績は何世代にもわたって地政学的な景観を形作りました。

彼の重要な功績がなければ、今日の世界はまったく違ったものになっていたでしょう。キッシンジャーは、中国のような敵対国を孤立させるのではなく、関与させることが米国の国益に最も貢献することを理解していました。

彼の現実主義的なアプローチは生産的なものでした。彼は長期的な視野に立ち、当時は物議を醸すと思われた大胆な行動も、先見の明を持って行う戦略的ビジョンを持っていました。中国との関係樹立は、数十年にわたり米国に国際舞台での影響力を与えた名手でした。

レーガン(左)とキッシンジャー(右)

現在は、彼のような政治家は不足しています。キッシンジャーの死は、米国が外交問題において自信に満ち、確かな足取りを持っていた時代の終焉といえるかもしれません。

今日の指導者たちは、キッシンジャーから学ぶべきことが多いです。短期的な思考ではなく、彼のような歴史感覚と現実政治への理解が必要なのです。

キッシンジャーは常に広い歴史的視野に立っていました。彼は、今日の政策や出来事が5年、10年、20年先の米国の利益にどのような影響を与えるかを考えていました。今日の指導者たちは、短期的な勝利や次の選挙サイクルに集中しすぎています。もっと戦略的に考えるべきです。

キッシンジャーはイデオローグに左右されない、プラグマティストでした。彼は硬直したイデオロギーではなく、現実的な解決策と米国の国益を重視しました。今日の指導者たちは、より現実的で、有意義な結果を得るために妥協することを厭わない必要があります。

キッシンジャーは、グローバルな舞台では理想主義には限界があることを理解していました。彼は現実政治を実践しました。理想だけでなく、現実的な力に基づいて他国と取引したのです。

今日の指導者は、理想主義と現実政治的な感覚を組み合わせる必要があります。道徳的な姿勢だけでは、ほとんど成果は上がりません。

キッシンジャーは、敵を孤立させることが逆効果であることを知っていました。関与と外交は、影響力を行使し、米国の利益を促進するためのより良い手段でした。

キッシンジャー(左)と周恩来(右)

もし、中国との関係正常化に失敗すれば、米国と世界にとって大きな問題となったでしょう。 -当時、中ソの分裂によって、キッシンジャーとニクソンは両方の共産主義大国の間にくさびを打ち込むことができました。中国との国交正常化がなければ、この楔はできなかったでしょう。その結果、統一共産圏がユーラシア大陸を支配することになったかもしれないです。

米国は孤立したままで、選択肢も限られていたでしょう。中国を開放することで、米国は地政学的により多くの余裕を得て、大国の間で三角関係を築き、自国の利益を高めることができるようになったのです。中国から孤立したままでは、米国の手腕は制約されたままだったでしょう。

米国の貿易と投資がなければ、中国はより長く停滞していたかもしれないです。米国の開放は中国の経済改革と成長を促しました。そうでなければ、中国経済は閉鎖的で低迷したままだったかもしれないです。そうなれば、やがてアジアはさらに不安定化していた恐れがあります。

そうなれば、世界のパワーバランスも変わっていたでしょう。米国は中国との関係を築くことで、数十年にわたって多極的な秩序を形成してきました。米国は中国と関係を持つことで、ソ連の力を牽制し、中国が台頭する隙を与えました。

もしこのリバランシングが行われていなければ、今日の世界は米国の利益に対してより敵対的なものになっていたでしょう。米国は中国の文化大革命の混乱期にアジアを安定させる重要な役割を果たしたといえます。

米中関係の強化はまた、台湾のような同盟国との危機を乗り切る上で、米国に影響力を与えたもいえます。キッシンジャーとニクソンの中国開放構想は、地政学的に莫大な利益をもたらし、現代世界をより良い方向へと形作ったといえます。そうして、なぜ米国のグローバルな関与と戦略的外交が重要なのかという教訓でもあるといえます。別の選択肢は、おそらく今日、はるかに危険で不安定で、米国の利益を寄せ付けない世界をもたらしたことでしょう。

今日、指導者はキッシンジャーに倣い、孤立政策を追求するのではなく、中国、ロシア、イランのようなライバルに関与すべきです。

キッシンジャーは、世界政治が極めて個人的なものであることを知っていました。彼は世界の指導者たちと親密な関係を築き、外交上の突破口を開きました。今日の指導者たちは、官僚主義や制度に頼りすぎているようです。外交政策の重要な目標を推進するためには、もっと個人的な関係を築く必要があるのです。

文化革命期の中国

キッシンジャーは、中国開放のような大きく大胆で歴史的なことを敢行しました。彼は世界における米国の役割について壮大なビジョンを持っていました。今日の指導者たちには、大胆さとビジョンが欠けており、米国人を奮い立たせることも、世界の出来事を重要な形で形作ることもできない、小手先の政策を追求しているようです。

いまこそキッシンジャーのような野心と可能性の感覚が必要といえます。キッシンジャーの知恵と世界観は、多くの教訓を与えてくれます。世界政治における彼の卓越した知識は、今日、そして次世代を担うリーダーたちの手本となるものです。

こうした原則を、中国の台頭や多極化する世界といった今日の課題に適用することを模索すべきです。キッシンジャーの米国外交と世界政治への多大な貢献は長く記憶に残るでしょう。

今日キッシンジャーを過去の政治家と評するむきもありますが、ウクライナ戦争によって疲弊したロシアが中国に接近するどころか、ジュニアパートナーとなる可能性があることをこのブログでも指摘しました。

そうなると、再び中国・ロシアによる統一共産圏がユーラシア大陸を支配する可能性もでてきたといえます。無論、キッシンジャーが活躍した時代は、ソ連が優勢、現在は中国が優勢という違いはありますが、現在の世界は、キッシンジャー流の知恵が必要とされる局面に近づきつつあるといえます。

ただ現在の我々は、米国と国交回復した中国がその後どのような国になったのかを知っています。こうした知見も活かすべきです。当時の国交回復は間違いではなかったと思うのですが、その後の歴代の政権、特に民主党政権は、中国対応を大きく間違えたと思います。

特に、2001年12月11日、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟に米国が尽力したのは大きな間違いでした。時のアメリカ大統領はビル・クリントンでした。

ヘンリー・キッシンジャーは中国のWTO加盟を強く支持していました。キッシンジャーは、中国のWTO加盟が中国をグローバル経済に統合し、この地域の安定を促進すると考えていました。キッシンジャーは、公の場での演説や中国の指導者たちとの私的な会合で自らの見解を表明しまた。

しかし、キッシンジャーは中国のWTO加盟がもたらす潜在的な影響についても懸念を抱いていました。キッシンジャーは、中国がWTOの規則や規制を十分に遵守せず、それが不公正な貿易慣行につながるのではないかと懸念しました。また、中国の経済成長は米国の経済的利益に対する挑戦となりうると考えていました。

中国のWTO加盟に対するキッシンジャーの立場は現実的でした。潜在的な利益はリスクを上回り、中国の加盟は中米双方にとってプラスになると考えていたようです。

キッシンジャーは、こうした一流の人物にありがちな毀誉褒貶も激しい人物ではありますが、公僕の真の姿を体現した人物でもあります。彼は、気品と知恵と手腕を兼ね備え、米国が重大な局面を迎えた時期に、その役割を果たしました。彼の遺産と時代を超えた教えは、後世の人々を導き続けることでしょう。一言で言えば、彼はなくてはならない人物でした。合掌。



【湯浅博の世界読解】「自滅する中国」という予言と漢民族独特の思い込み―【私の論評】すでに自滅した中国、その運命は変えようがない(゚д゚)!

2023年11月29日水曜日

日大アメフト部の廃部決定 競技スポーツ運営委が存続認めず 違法薬物事件で部員3人逮捕―【私の論評】日本大学のガバナンス危機:違法薬物問題で廃部決定、統治の課題と歴史的背景

日大アメフト部の廃部決定 競技スポーツ運営委が存続認めず 違法薬物事件で部員3人逮捕

まとめ
  • 日本大学のアメリカンフットボール部が違法薬物問題で廃部が決定された。
  • 複数の部員の逮捕や18年の悪質タックル問題から来季の降格は確定していたが、廃部となった。
  • アメフト部は名門であり、甲子園ボウルやライスボウルで優勝し、大学を代表する部活動だった。
  • 事件を巡り、部員の逮捕や関連する措置が重ねられ、関東学生連盟からも出場停止が科された。
  • 問題は経営陣の内紛や損害賠償訴訟にまで発展し、大学側は経緯や理由を部員に説明する方針を持っている。

沢田副学長(左)が林真理子理事長(右)を訴える事態にまで発展した日大の内紛

 日本大学のアメリカンフットボール部が違法薬物問題により深刻な状況に直面し、その結果、28日に部の廃部が確定したことが報じられました。大学本部は競技スポーツ運営委員会を開催し、部の存続を認めず廃止することを決定したと複数の関係者が伝えました。

 過去数ヶ月に渡り、警視庁薬物銃器対策課による逮捕や問題の発覚により、この部は厳しい状況に置かれていました。8月に寮での家宅捜索が行われた後、複数の部員が違法薬物の疑いで逮捕され、部全体の存続が危ぶまれていました。関東大学リーグ1部下位BIG8への降格は既に確定しており、廃部はそのさらなる深刻な結末となったのです。

 このアメリカンフットボール部は、日本大学を代表する歴史ある部活動であり、関東最多の21回の優勝を誇る甲子園ボウルなどで著名な成績を残してきました。しかし、18年の悪質タックル問題以来、部内での問題が表面化し、今回の廃部決定に至ったとされています。

 さらに、この問題は大学内部でも波紋を広げ、経営陣の辞任や損害賠償訴訟なども含まれる複雑な展開を見せています。大学側は今後、経緯や理由について部員たちに説明する方針を持っているようですが、これまでの経緯や部の歴史、そして問題の発端となった悪質タックル問題などが、このアメリカンフットボール部の複雑な状況を物語っています。

【私の論評】日本大学のガバナンス危機:違法薬物問題で廃部決定、統治の課題と歴史的背景

まとめ
  • 日大のガバナンス問題としして、理事長権限の過度、理事会の機能不全、監事の監視不足があげられる。
  • 問題発生の背景として、私大の内部運営のみで政府の監督を受けていなかったことがあると考えられる。
  • 理事長権限の制限、理事会・監事の強化で再発防止を図る
  • ガバナンスの強化には時間と関係者協力が不可欠
  • ガバナンスの定義をしっかり認識したうえで、ガバナンスの改善には統治と実行の分離は必要不可欠との認識でのぞむべき
日大アメフト部グラウンド

今回の一連の出来事に関して、日大のガバナンスに問題があったことは、明らかだと思います。

具体的には、以下の点が問題として指摘されています。
  • 理事長の権限が強すぎること
  • 理事会が機能していないこと
  • 監事の監視機能が働いていなかったこと
理事長の権限が強すぎると、理事会や監事などのチェック機能が働きにくくなり、理事長の独断専行や不正行為が起きやすくなります。また、理事会が機能していないと、大学運営に関する重要な意思決定が適切に行われなくなり、不祥事などのリスクが高まります。さらに、監事の監視機能が働いていないと、不正行為があっても発覚しにくくなります。

これらの問題は、日大が私立大学であり、大学の運営が理事会などの内部関係者のみで行われていることに起因しています。私立大学は、政府からの直接的な監督を受けないことから、ガバナンスの強化が求められています。

日大は、これらの問題を改善するために、以下の対策を講じています。理事長の権限を制限する
  • 理事会の機能を強化する
  • 監事の監視機能を強化する
これらの対策が効果的に行われれば、日大のガバナンスが改善し、再び不祥事などの問題が起きる可能性は低くなると考えられます。

しかし、ガバナンスの強化には、時間と労力が必要です。また、理事会や監事などの内部関係者だけでなく、学生や教職員、卒業生など、大学に関わるすべての人々が、ガバナンスの重要性を理解し、協力していくことが重要です。

そうして、そもそもガバナンスとは何なのかについて認識すべきです。この言葉くらい現在の日本で曖昧に使われている言葉はありません。ガバナンスとは日本語では「統治」です。これは政府の「統治」といわれるように、元々は政府のそれを意味していたのですが、今日の政府はあまりに巨大化して「政府の統治」は、それこそガバナンスの例としては良い事例とはいえなくなりました。

今日むしろ悪い事例であるといえます。特に、日本の政府は、世界の他の政府と比較すると統治と実行がほとんど分離されておらず、最悪の部類といえます。

「政府の統治」が民間企業の参考にされ、コーポレート・ガバナンスとして取り入れられたのは、昔のことです。リンカーンの政府は、通信士と閣僚含めて全部で7人だったとされています。昔の政府はいずれの政府もこのように非常に少ない人数で構成されていて、それでも現在からみれば、非常に優れていて、的確な統治をしていたのです。

政府は、少ない人数ながら、もっぱら統治に専念するというか、せざるを得ず、統治と実行は完璧に分離されていました。しかし、効率良く的確な統治ができていました。だかこそ、民間企業のお手本になりましたし、今日世界で「小さな政府」を希求する声が高まっているのです。このあたの状況については、以前のこのブログにも述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
森永卓郎氏 岸田首相が小学生に説いた権力論をチクリ「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」―【私の論評】政治家はなぜ卑小みえるのか?民間企業には、みられるガバナンスの欠如がその原因
岸田首相

この記事では、ガバナンス(統治)が民間企業に取り入れた経緯や、経営学の大家ドラッカー氏の統治(ガバナンス)の定義を掲載しました。

この記事に掲載したドラッカー氏による統治(ガバナンス)の定義を以下に再掲します。

"
経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないとしました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。 といいます。 

"

ガバナンスの定義について、それこそインターネットを検索すれば、山のようにでてきます。しかし、なかなかしっくりくるものはありません。わたしには、このドラッカーの定義が一番しっくりました。そうして、ガバナンスを語るときに、些末なことは認識しながらも、このような本筋を認識しないからこそ、混乱したり、本筋を離れた議論しかできないというのが実情ではないかと思います。

経営学の大家 ドラッカー氏

統治と実行を曖昧に行うことの弊害は、日大にも顕著にありました。

日大では、1962年から1982年まで、アメフト部の監督であった内田正人氏が、1965年から1982年まで、理事を務めていました。また、1988年から1992年まで、アメフト部の監督であった山本泰一郎氏が、1991年から1992年まで、理事長を務めていました。

内田氏は、日大のアメフト部を全国優勝に導いた名将として知られています。山本氏は、日大のアメフト部を再建に導いた功労者として知られています。

しかし、これらの事例は、日大のガバナンスに問題があったことを示すものとして、批判されています。アメフト部の監督は、運動部の部長という立場であり、大学の運営に直接関わる立場ではありません。そのため、理事や理事長を兼務することは、大学の運営と運動部の運営の両立が困難になるという指摘があります。

日大は、2018年に発生したアメフト部の悪質タックル問題を受け、ガバナンスの強化を図っています。その一環として、アメフト部の監督が理事や理事長を兼務することを禁止する規定を定めました。

ガバナンスについて十分認識されている組織においては、このようなことは絶対にあり得ません。このようなことを平気でする日大は、適切なガバナンスが行われていなかったのは、明らかです。

しかし、ガバナンスの歴史的背景や、その定義をしっかりと認識していなければ、日大のガバナンスを変えることはできません。

日大のガバナンスの問題は、以下の三点であることを先に示しました。
  • 理事長の権限が強すぎること
  • 理事会が機能していないこと
  • 監事の監視機能が働いていなかったこと
まず理事長の権限が強すぎるということは、理事長が統治だけではなく、実行にも大きく関わっていることを示していると考えられます。統治に関して理事長の権限は強くてしかるべきですが、実行には一切関わるべきではありません。

理事会も、統治に関わる部分だけの意思決定をすべきです。実行に関わる意思決定は関わらないようにするべきです。

監事の監視機能も統治と実行が曖昧になっている部分を正すという姿勢で行うべきなのです。統治と実行の区分が曖昧な部分もあるとは思いますが、少なくとも分離しようという認識のもとに組織や運営の仕方を考えて改善するべきです。それなしに、改善してもますます混乱するだけです。

このようなことを曖昧にしていて、人の資質や、能力や、モチベーション、それにコミュニケーションを改善しても、組織の機能不全は改善・改革できません。そうして、それは、日大にとどまらず、政府も含むありとあらゆる組織にあてはまる原則です。

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2023年11月28日火曜日

米軍、タンカー拿捕犯拘束 イエメン沖、海自が支援―【私の論評】日本の海洋安全保障へのコミットメント:日米協力でイエメン沖の海賊対処に成功

米軍、タンカー拿捕犯拘束 イエメン沖、海自が支援

まとめ
  • 米軍がイエメン沖でイスラエル関連の石油タンカーを拿捕した武装集団を捕らえ、タンカーは無事解放された。
  • 防衛省によれば、海上自衛隊の護衛艦とP-3C哨戒機が情報収集に当たり、米軍を支援した。
  • イエメン暫定政権はイスラエル敵視派が攻撃したと主張するも、フーシ派は否定。紅海での緊張は続く可能性がある。
イスラエル船籍のセントラルパーク号

 AP通信は27日までに、イエメン南部アデン沖でイスラエルが関係する石油タンカーを26日に拿捕した武装集団を、米軍が拘束したと伝えた。タンカーは無事に解放された。米軍によると、その前後にイエメン内陸部から弾道ミサイルが発射され、現場海域に展開していた米軍艦から約18・5キロ地点に着弾したという。

 防衛省によると、アデン湾の海賊対処行動に派遣している海上自衛隊の護衛艦「あけぼの」とP3C哨戒機が現場で情報収集に当たり、米軍を支援した。

 イエメン暫定政権は、イスラエルを敵視するイエメンの親イラン武装組織フーシ派が襲撃したと主張したが、フーシ派は認めていない。

 イスラエル関連の船舶を巡っては、イエメン近くの紅海で19日、フーシ派が日本郵船運航の貨物船を拿捕しており、緊張が続きそうだ。

 APによると、米海軍駆逐艦「メイソン」などがタンカー拿捕を受けて現場海域に展開し、武装集団にタンカーを解放するよう要求。集団がタンカーから下船し、小型ボートで逃走しようとしたところを取り押さえた。

【私の論評】日本の海洋安全保障へのコミットメント:日米協力でイエメン沖の海賊対処に成功

まとめ
  • 自衛隊が海賊に対処したのは2017年以来の事案で、日本の支援のもと米軍がイエメン沖で武装グループに乗っ取られたタンカーを救出し、拿捕犯を投降させた。
  • 日本と米国は緊密な同盟関係に基づき、日本はアデン湾での海賊対策を含む作戦で米軍を支援し、海洋安全保障の共通の利益を示した。
  • 防衛省によると、海上自衛隊の艦船と哨戒機が情報収集に当たり、米軍の海賊対処に協力し、攻撃(威嚇)成功に導いたとみられる。
  • タンカーは日本の所有ではなかったが、日本向けの石油を運んでおり、日本の作戦参加は船と積荷の安全を確保し、国民と企業の利益を守ることにつながった。
  • 日本の作戦参加はフーシ派を含む地域の海洋安全保障に対する脅威を抑止し、日米の共同行動はイランを牽制し、イスラエルを支援するWin-Winの関係を築いた。
上のニュース一言でまとめる、米海軍と日本の海上自衛隊の連携で乗っ取られたタンカーを拿捕、犯行グループも確保したということです。

防衛省によりますと、自衛隊が海賊に対処した事案としては2017年4月以来、およそ6年ぶりとなります。

米国防総省のライダー報道官

米国防総省のライダー報道官は記者会見で、中東のイエメン沖で26日、武装グループに乗っ取られたタンカーを、アメリカ海軍の駆逐艦が救難し、5人を投降させたと明らかにしました。

ライダー氏は投降した武装グループの5人はソマリア人で、「海賊行為に関連した事件であることは明らかだ」としています。

また、この海賊への対処は「同盟国の艦船とともに活動していた」として、海上自衛隊による支援があったことも認めています。

一方、海賊への対処中にイエメンの親イラン反政府武装組織「フーシ派」の支配地域から弾道ミサイル2発が発射され、駆逐艦などからおよそ18キロ離れた海域に着弾したが、被害はなかったとしています。

ライダー氏はミサイル発射が「何を標的にしたのかは不明」と述べ、調査を続けるとしています。

今回の拿捕犯拘束は、日米協同の快挙といえます。

日本が、イスラエル関連の石油タンカーを拿捕した武装集団を拘束する作戦で米軍を支援するという決定を下したのには、いくつかの要因があるようです。

まず、日本は、紅海とアデン湾の安定と安全の維持に強い関心を持っています。これらの重要なシーレーンは、日本のエネルギー輸入と貿易にとって極めて重要だからです。タンカーの拿捕とそれに続くミサイル攻撃は、海洋安全保障と法の支配に対する脅威です。

日本と米国は緊密な安全保障同盟を結んでおり、日本はアデン湾での海賊対策を含むさまざまな作戦で米軍と定期的に協力しています。この作戦で米国を支援することで、日本は同盟に対するコミットメントと、海洋安全保障の確保における米国との共通の利益を示したといえます。

また、米軍は、中東地域における他の軍事活動に優先的に兵力や装備を投入していたため、紅海・アデン湾地域での兵力や装備が不足していたことと、紅海・アデン湾地域での作戦経験が少なく、日本からの支援を必要としていたということも考えられるでしょう。

日本が護衛艦「あけぼの」とP3C哨戒機を派遣したことで、状況に関する貴重な情報を収集することができ、今後の海賊対処や海上安全保障活動における米軍との協力関係を強化することができたといえます。

海上自衛隊護衛艦「あけぼの」

具体的には、日本の哨戒機が、武装集団の船舶の捜索や追尾を支援し、米軍の攻撃(もしくは威嚇)を成功に導いたという可能性は十分にあります。また、日本の哨戒機が、武装集団の船舶の周囲を警戒し、米軍の人員や装備を支援したという可能性もあります。

タンカーは日本の所有船ではありませんでしたが、日本向けの石油を運んでいました。日本がこの作戦に関与することで、タンカーとその積荷の安全な航行を確保し、自国民と企業の利益を守ることができました。

この作戦に参加することで、日本はフーシ派を含む地域の海賊等に対し、海洋安全保障に対する脅威を容認せず、米国の同盟国と協力してそのような行動を抑止するという明確なメッセージを発信したといえます。

また、ガザでの戦闘のさなかに、イスラエル船籍のタンカーを日米が協同で守ったということは、象徴的な意味合いもあると思われます。

これはイスラエルの自衛権を支持するという重要なメッセージを送ることにもなったものと考えられます。フーシ派とハマスとは、隣国を支配しようとするシーア派とスンニ派の過激派であり、イランの支援を受けています。


フーシ派を阻止することで、イランを牽制、イスラエルを支援することで、ハマスの牽制につながります。これは日米にとってWin-Winの関係であり、日米の共同行動は軍事的にも外交的にも妙手だったといえます。このような抜け目のない行動をとった日米両政府に敬意を表したいです。

日本がこの作戦で米軍を支援した背景には、国際法と海洋安全保障へのコミットメント、米国との同盟関係、日本の国益の保護、地域のアクターへのメッセージの必要性、情報収集と協力強化の機会など、さまざまな要因が複合していたと考えられます。

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2023年11月27日月曜日

【動画】稲田朋美議員「“政治不信”の根底には国民のモラルの低下があるのではないか!?」―【私の論評】「国民のモラル低下」発言を検証! 経済対策の「バラマキ」は間違いなのか?

 【動画】稲田朋美議員「“政治不信”の根底には国民のモラルの低下があるのではないか!?」

本日は、ある方のツイートを掲載します。

今朝(ブログ管理人注:26日)、NHK日曜討論に出演された

自民党 稲田朋美幹事長代理
『政治不信の根底には国民のモラルの低下があるのではないか』

おいおい、それは違うだろ。

政治とカネ、政治と宗教など様々な問題を抱える自民党政治家のモラル低下こそが政治不信を招いているんだろ!

#日曜討論

【私の論評】国民のモラル低下」発言を検証! 経済対策の「バラマキ」は間違いなのか?

まとめ
  • 稲田朋美議員の「国民のモラルが低下した」発言は問題である
  • 経済対策は、需給ギャップを埋めるために行うものであり、減税か補助金かは二義的である
  • 経済対策では量が重要であり、その範囲の中で行うバラマキは正しい政策である
  • 稲田朋美議員や熊谷亮丸氏のような、国民を甘やかすと批判する政治家やアナリストこそ、モラルを喪失している
  • このような傲慢で思い上がった人たちは、経済に関わる分野から排除すべきである
国民のモラルが低下しているのではないでしょう。自民党の稲田朋美議員のような議員を、甘やかし続けてきた有権者が多くの国会議員のモラルを低下させたというのなら、まだ理解できますが、稲田氏のこの発言はかなり問題があります。

それに、国民とはいっても1億2千万人も存在します。その中には、モラルの低い人や高い人、普通の人など様々な人達がいるはずです。

そもそも、稲田朋美のように、過去の政府の経済対策などについてバラマキと明確な根拠もなく批判する人もいますが、こういう人に限って経済対策について誤った認識を持っています。

有効需要を喚起するためには、需給ギャップ(髙橋洋一氏等の試算によれば現在16兆円)を埋めなければならないのです。マクロ的には、経済対策はまずは量が重要なのであって、減税にするか、補助金にするかは二義的な問題に過ぎず、マクロ的に両方とも同じような効果があります。

髙橋洋一氏

標準的なマクロ経済学の教科書においては、有効需要を喚起するためには、需給ギャップを埋めなければならないと教えています。需給ギャップとは、潜在GDPと実際GDPの差であり、経済が潜在能力を十分に発揮できていない状態を指します。

経済対策は、この需給ギャップを埋めるために行われるものであり、その効果は、経済規模に占める割合(量)が重要であるとされています。つまり、同じ規模の経済対策であれば、減税でも補助金でも、マクロ的には同じような効果があると考えられます。

これに関して、かつて元FRB議長のノーベル経済学賞を受賞した、ベン・バーナンキ氏は「日銀はトマトケチャップを買え」と発言していました。非常にわかりやすいたとえだと思います。マクロ的に考えれば、量や方法を巡って考え込んで、実行を引き伸ばすよりも、適切な量で対策を素早く実行したほうが良いでのです。この点において、需給ギャップに相当する額のバラマキは正しい政策なのです。

ベン・バーナンキ氏は昨年ノーベル経済学賞を受賞

ただし、減税と補助金には、それぞれに異なる効果もあります。減税は、家計や企業の所得を増やすことで、消費や投資を促進する効果があります。一方、補助金は、特定の財やサービスを買うように誘導する効果があります。

したがって、経済対策の目的や対象によって、減税と補助金のどちらが適切かは変わってきます。例えば、消費を促進したい場合は、減税が有効です。その中でも、現状では消費税減税が特に有効です。一方、特定の産業を育成したい場合は、補助金が有効です。ただ、マクロ経済的な見方からは両者にさほど違いはありません。

しかし、需給ギャップを埋められるだけの、量がなければ、経済対策は効果をあげることできません。政府が行うべきまともな経済対策に関して、バラマキと語り、国民のモラルを低下させたと語る稲田氏のような政治家こそ、モラルを喪失しているのでないでしょうか。

それは、政治家に限らず、たとえば 熊谷 亮丸氏のようなアナリストは、さすがに「国民のモラルの低下を招いた」とまではいいませんでしたが、「国民を甘やかした」などと稲田氏と同じようなことを語っていました。

熊谷亮丸氏はかつて「消費税増税しても経済は悪くならない」と主張していました。しかし、現実には多くの人が予想したとおりに悪くなりました。かつては、テレビの報道番組などに頻繁にでていましたが、最近ではほとんどみかけなくなりました。

2023年11月26日現在の番組表を見ると、熊谷亮丸氏は、テレビ東京系列「ワールドビジネスサテライト」のレギュラー出演のみで、他にはテレビ出演の予定がありません。 他にも理由があるのかもしれませんが、さすがに、テレビ局も頻繁にテレビに出演させられなくなったのでしょう。


稲田氏もそのようなことになるかもしれません。いや、有権者がそうしなければなりません。もうこのような議員は日本に必要ありません。

「国民のモラルを下げる」「国民を甘やかす」などという考えの傲慢で思い上がった人は、何も稲田氏や熊谷氏だけではありません。政治家、官僚、マスコミ、財界人の中にも多いです。こういった人たちは、考えを改めさせるか、改まらないというのなら、経済に関わる分野や、経済に大きく影響を及ぼす立場等からは、排除すべきでしょう。

むろん、合法的にです。選挙なら有権者がそのような政治家には投票しないとか、企業ならそのようなアナリストは採用しないなどの方法です。

そうでないと、日本の経済はいつまでたっても、良くならず、日本人の賃金もいつまでも上がらないでしょう。

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2023年11月26日日曜日

台湾初の“国産”潜水艦が完成、戦略を見誤った中国の海軍膨張一本鎗のやぶ蛇―【私の論評】台湾が潜水艦建造国になったこと自体が、中国への強烈な政治・軍事的メッセージに!

台湾初の“国産”潜水艦が完成、戦略を見誤った中国の海軍膨張一本鎗のやぶ蛇

台湾有事で中国空母が撃沈されれば、習近平は権力の座から引きずり降ろされる

まとめ
  • 台湾初の国産潜水艦「海鯤」が進水式を行い、中国への牽制として注目されている。中国の台湾侵攻への脅威が、台湾をして潜水艦建造へと駆り立てたのだが、台湾の新型潜水艦は中国にとって台湾侵攻への大きな障害となるだろう。
  • 海鯤は高性能な装備を備え、中国にとって技術的脅威であり、静かで長時間潜航が可能なリチウムイオン電池が決定的な要素。2025年に実戦配備され、2027年までに最低2隻が就役し、10年以内には合計8隻が戦力化される予定。
  • 台湾が自主建造の潜水艦を完成させた後、「スタンド・オフ・ミサイル」を発射できる潜水艦の開発が話題。中国への対抗手段として、ミサイルを潜水艦に搭載する計画が進行中。
  • 台湾の技術的な限界やアメリカの通常型潜水艦製造能力の不足などが懸念されつつも、台湾は自前で潜水艦を製造する取り組みを進めており、これが中国にとっても重要な安全保障手段となる可能性がある。
  • 中国の習近平政権は台湾の武力統一に執着しているが、これが台湾が潜水艦を建造するこ要因となり、中国にとって台湾の武力統一への執着がやぶ蛇だった感を示すものとなった。

台湾初の国産潜水艦「海鯤」(かいこん/ハイクン:想像上の巨大魚)進水式

海自「たいげい」型より性能が上と噂の台湾「海鯤」

 台湾初の国産潜水艦「海鯤」(かいこん/ハイクン:想像上の巨大魚)型の1番艦が、高雄の造船所で進水式を行った。この自主建造計画は台湾総統の蔡英文が支持し、彼女は進水式で「我々は成し遂げた」と述べ、中国への牽制としても注目されている。メディアは中国の台湾侵攻を警戒する一方、中国にとって潜水艦は大きな脅威である。中国は装飾的で目立つ軍艦に力を入れる一方で、台湾の後ろ盾である日米に比べて対潜能力が劣るとみられる。

 台湾の技術や分析力は中国にとって脅威であり、中国は台湾の行動を過敏に反応して非難するものの、それは中国にとって深刻な問題である可能性がある。海鯤は通常動力型で、推定排水量2500~3000トン、全長70~80mで、日本のたいげい型と似た性能を持つがやや小さい。リチウムイオン電池や高性能な戦闘システムを搭載し、高性能の長距離誘導魚雷も装備する。特に「Mk48」魚雷は非常に優れた性能を持ち、世界最高峰の潜水艦の一つとされるたいげい型よりも性能が上だとの見方もある。

 これらの能力を生かし、海鯤はバシー海峡などで敵艦を待ち伏せる戦法も可能であり、静かで長時間潜航が可能なリチウムイオン電池が決定的な要素となる。海鯤は近い将来に台湾海軍に引き渡され、2025年に実戦配備される予定で、2027年までに最低2隻が就役し、10年以内には合計8隻が戦力化される見通しとなっている。

最大の後ろ盾・アメリカは通常型潜水艦が造れない

 台湾は現在、使える潜水艦が4隻あるものの、そのうち2隻は第二次世界大戦時の古い艦で、残りの2隻も40年以上前に建造された老朽艦。台湾は自分たちで潜水艦を造ろうとしているが、技術やノウハウがなく、アメリカを中心に7カ国が協力していると報じられている。ただ、現在のアメリカは、原潜を製造する能力はあるが、最新の通常型を製造する能力はない。

 台湾は国際的な立場が微妙であり、簡単に潜水艦を売ってくれる国はほとんどない。中国は台湾に武器を売ることを強く嫌い、制裁をかける可能性があるため、多くの国が中国と国交を持っている「一つの中国」原則に従って台湾に武器を輸出しない。

 ただし、アメリカは台湾関係法を盾にして台湾に武器を売り続けており、他の7カ国も中国の報復を恐れながらも台湾を支援している。台湾が自前で潜水艦を製造できるようになったことは中国にとって大きな衝撃であり、これが台湾にとっても重要な安全保障手段となる。

スタンド・オフ・ミサイル搭載型潜水艦の開発も視野

 台湾が自主建造の潜水艦を完成させた後、「スタンド・オフ・ミサイル」を発射できる潜水艦の開発が話題になっている。この新たな取り組みは、敵勢力の射程範囲外から攻撃が可能な巡航ミサイルを潜水艦に搭載する計画だ。このミサイルは敵の領域や拠点を狙うことができ、台湾は自身の防衛能力を強化するために積極的に研究開発を進めている。その背景には、中国の台湾への侵攻に備えるという意味がある。中国が台湾を侵攻した場合、相手の攻撃拠点や軍事施設を最初に撃破することが軍事上の基本戦略となる。台湾はそのような攻撃に対抗するため、自衛のための手段を確保しようとしている。  中国との緊張関係の中、台湾は自国の安全を確保するため、自主開発の対地巡航ミサイル「雄風2E」の生産を始め、さらに射程が広い改良型ミサイルの開発にも着手している。これらのミサイルは中国本土へと届く射程を持ち、主要港湾都市をはじめとする攻撃拠点を狙っている。また、中国が攻撃しにくい台湾の地理的に有利な山岳地帯の東側にもミサイルを配備している。しかしながら、巡航ミサイルは撃墜を避けるために飛行ルートを変えるため、全ての射程が有効とは限らない。台湾はそのようなリスクを少しでも減らすために移動式のミサイル発射装置を山岳地帯やトンネルに隠すとともに、移動できるようにしている。  今後、台湾は「スタンド・オフ・ミサイル」を潜水艦に搭載する計画を推進し、それによって中国の攻撃拠点や重要施設に対して有力な反撃手段を持つことを目指している。この潜水艦の開発は12〜24発のミサイルを搭載することが計画されており、これによって台湾は防衛力を一層高めることが期待されている。台湾の行動は中国の行動を抑制する可能性があり、台湾有事の際、中国の行動を制限する要因となる。

「台湾武力統一」に執着する中国・習近平政権

 中国の習近平政権は、台湾を武力で統一することに執着しているが、海軍力が伴っていない。フォークランド諸島紛争では、アルゼンチン海軍は満載排水量1万トン超の「ヘネラル・ベルグラーノ」巡洋艦を使ってイギリスに挑んだが、英海軍の原潜に撃沈され、300名以上の死者を出しました。その後、アルゼンチン海軍は主要な艦艇を洋上に出せなくなり、その威厳は損なわれ、敗北の大きな原因の一つとされた。

 専門家らは、台湾有事の場合、西側諸国の潜水艦が台湾を支援する可能性があると指摘している。台湾の潜水艦が中国の航空優勢を阻止すれば、中国の海洋展開は困難になるだろう。さらに、中国の潜水艦が撃沈された場合、潜水艦の行動は秘中の秘とされており、中国は公式にその事実を認めることができず、中国による台湾の海上封鎖というシナリオは機能しなくなる可能性が高い。

 台湾2027年までに5隻以上の潜水艦を量産する計画が議論されているという情報も西側諸国からでている。これは台湾をめぐる習近平政権の武力統一への執着が顕著になっている兆候とされています。

 少なくとも台湾を潜水艦建造に向かわせた、中国・習体制の「台湾武力統一」への執着がやぶ蛇だった感は否めないだろう。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】台湾が潜水艦建造国になったこと自体が、中国への強烈な政治・軍事的メッセージに!

まとめ
  • 台湾の最新潜水艦と舵の公開: 台湾の「海鯤(カイコン)」型潜水艦の進水式写真が公開され、舵が「Xウイング型」であることが注目された。写真から日本の「そうりゅう型」に似た特徴も見られる。
  • ドイツのダイムラー・ベンツ社が1970年代に開発したXウイング舵は、小型化と軽量化を実現し、操縦性を向上させる利点がある。
  • 日本の舵の進化: 現在の日本の潜水艦には、十字舵とX舵があり、X舵は操縦性の向上に貢献している。将来的に日本の潜水艦はX舵を採用し続ける見通し。中国の潜水艦にはX舵はみられない。
  • 台湾の進水式での情報公開は、従来の潜水艦情報の秘匿と対照的であり、中国に対する情報戦における一環と見られる。情報公開は台湾の軍事力を強調し、中国に対するメッセージとなる。
  •  日本や米国など他国も潜水艦を運用し、情報公開によって中国へのメッセージングや情報戦が展開されている。台湾の新型潜水艦は、今後情報戦における重要な要素となる。

上の記事に掲載された情報等は、過去にこのブログにほとんど掲載しており、このブログを読まれている方なら、ほぼ全部をご存知だと思います。ただ、この記事のようにコンパクトにはまとまっておらず、このブログでは記事がいくつかあり、さらにあちらこちらに分散されていたり、内容も重複するものもあり、相対的に理解しにくい面もあったため、上の記事を掲載させていただきました。皆様の理解がさらに深まれば、幸いです。

上の記事の進水式の写真(ブログ管理人挿入)は、台湾政府が公開したものですが「海鯤(カイコン)」の尾部にご注目ください。この写真は、スクリューは隠しているものの、舵は露出しています。この舵は真後ろからみればX状の形をしています。このような形状の潜水艦の舵を「Xウイング型」と呼びます。

さらに、写真を良く見ると、舵の他に安定板のようなものがみえます、これは日本の「そうりゅう型」潜水艦にかなり似ており、尾部だけをみていると日本の潜水艦のようにみえます。

進水式直前の「はくげい」 舵は「Xウイング型」になっていることがわかる

ドイツのダイムラー・ベンツ社は、1970年代にXウイング型の舵を開発しました。この舵は、従来の舵と比べて、小型化と軽量化が図れるというメリットがあります。また、操縦性も向上するという利点があります。しかし、この当時は、Xウイングの舵のメリットが十分に理解されておらず、さらに実際に操縦するのは当時の技術で難しく採用する潜水艦はありませんでした。

Xウイングの舵が本格的に採用されるようになったのは、1990年代以降です。この頃になると、コンピューター制御技術の進歩やコンピュータそのものの小型化により潜水艦に高性能なコンピュータを搭載することも可能になり、Xウイングの舵の操縦性が十分に確保できるようになったためです。

現在日本の潜水艦の舵には、十字舵とX舵があります。十字舵は制御が簡単ですが、細かい動きの制御が難しいため、X舵が主流になりつつあります。

X舵は4枚の舵がそれぞれ独立して動くことで、上下左右に動くことができます。しかし、4枚の舵を同時に制御するのが難しいため、コンピューター制御が必須です。

日本では、そうりゅう型潜水艦からX舵が採用されています。X舵の採用により、潜水艦の操縦性が向上し、より複雑な動きが可能になりました。

今後、日本の潜水艦はX舵になっていくと思われます。

台湾当局は、進水式において尾部の舵は露出させ、スクリューは隠すということで、潜水艦建造技術、特に工作技術においては未だ先進国の1990年代のレベルにとどまっているとみられる、中国に対して、台湾の潜水艦は中国の先をいっていることを示したものと思われます。

スクリューに関しては、新たな技術が用いられている可能性もあります。またスクリューの形状や大きさがわかると、潜水艦の性能をかなり類推することができます。だからこそ、隠しているのかもしれません。ただ、これは隠さなければならないほどの先端技術を用いたスクリューが用いられていることを暗に中国側に示したものかもしれません。

潜水艦の尾部について、長々と書いてしまいましたが、これは台湾をはじめ、西側諸国による中国に対する潜水艦に関する情報戦が始まっていることを示したかったからです。

基本的には昔から潜水艦の行動は秘中の秘とされ、潜水艦の情報は隠されるのが常でした。進水式の情報ですら隠されていたのです。

その理由は、潜水艦は海中を自由に移動できるため、敵国にとっても脅威となるからです。潜水艦の情報が敵国に知られてしまうと、潜水艦の行動を予測しやすくなり、攻撃の対象とされやすくなってしまいます。

そのため、潜水艦の建造は秘密裏に行われ、進水式も一般には公開されませんでした。進水式が公開されると、潜水艦の外観や性能が知られてしまうためです。

しかし、近年では、潜水艦の技術が進歩し、敵国による探知や攻撃が困難になってきています。そのため、潜水艦の情報も徐々に公開されるようになってきました。

日本では、1990年代以降、潜水艦の進水式が一般公開されるようになり、潜水艦の情報も積極的に公開されるようになりました。

2017年潜水艦「しょうりゅう」の進水式

ただし、現在でも、潜水艦の詳細な情報は依然として秘密にされています。具体的には、潜水艦の性能や搭載兵器、配備先などは、一般には公開されていません。

しかしながら、このブログで様々な台湾の潜水艦に関する情報を掲載できるようになったり、上の記事のように台湾の潜水艦に関する情報がかなり開示されていることをみると、これは中国の情報戦に対抗するための、情報戦の一環でもあるともみられます。

それも、台湾だけではなく、日米やその同盟国にとっても、情報戦の強力なツールになります。

台湾の最新の潜水艦に関する情報公開は、このような軍事開発を取り巻く典型的な秘密主義を考慮すれば、通常とは一線を画すものです。これを中国の情報戦に対抗するための情報戦の一環として、台湾の軍事力を誇示し、より広い意味で台湾の防衛態勢について台湾と台湾を守ろうとする国々が中国に対してメッセージを送るための有効な手段ともなるでしょう。

ただし、このメッセージは、以前このブログも掲載した中国の空母のような政治的メッセージに終止するものではありません。台湾が強力な最新型潜水艦を建造し、これからも建造し続けるということで、強力な軍事的メッセージを発信できるようになったのです。

これには、様々なことが考えられます。現在でも台湾を守ろうとする国々は、台湾付近に潜水艦を潜ませていることは間違い無いでしょう。これをある程度開示すれば、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Wafare)能力が、脆弱な中国にとっては、これは強力なメッセージとなります。

ASWの概念図

私は、尖閣付近にも日本の潜水艦が潜んでいると推測しています。これは、中国側も意識しており、様々な尖閣付近で様々な示威行動はするものの、尖閣上陸などのことは未だに実行しないことからも十分に予想がつきます。日本側がこれを多少でも開示すれば、これも強力なメッセージなるでしょう。

南シナ海にも、米国とその同盟国の潜水艦が潜んでいることでしょう。これもある程度開示すれば、強力なメッセージになります。

台湾は潜水艦を建造したばかりで、未だASWの能力は高いとはいえません。上の記事の元記事にもあるように、ASWの中でも、敵潜水艦の動向を探る地味な対潜水艦(対潜)哨戒能力は、台湾の“後ろ盾”である日米と比べてかなり劣ると見られます。高度な半導体技術と長年のノウハウの蓄積、そして得られたデータの分析力がモノを言う分野で、一朝一夕には力がつかないからです。

これをASWの能力が世界トップレベル日米が支援したり、訓練したり、演習を行うことも、中国に対する強力なメッセージとなります。

日米台だけではなく、他の国々も演習に参加すれば、これも強力なメッセージとなります。さらに、日米と台湾を支援する国々は、潜水艦を用いて、中国海軍に関する情報収集なども共同で行えるでしょう。

さらには、以上のようなことを元に、他の様々なメッセージを効果的に送ることができます。中国が台湾海峡で、何かをすれば、これに対して、すぐにメッセージを返すことができます。

今後習近平は、単に台湾の新型潜水艦というに軍事事実だけにとどまらず、台湾や台湾を守ろうとする国々からの、様々な政治的、軍事的メッセージに翻弄されることになるでしょう。まさに、台湾と台湾を守ろうとする国々とって、台湾が新型高性能潜水艦の建造国となったことによって、新たな情報戦のツールをも得たといえます。

日本も、日本の潜水艦隊や台湾の潜水艦、米国など同盟国の潜水艦やASW能力を巧みに用いた中国に対する情報戦を効率的に運用すべきです。

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2023年11月25日土曜日

米国が世界で失いつつある二つの力とは― 【私の論評】中東平和合意と国内価値観の変化がもたらした、米トランプ大統領の抑止力強化

 米国が世界で失いつつある二つの力とは

岡崎研究所

まとめ
  • ウォールストリート・ジャーナルの記事は、米国の抑止力喪失と戦略的後退に警鐘を鳴らす。
  • バイデン政権は中東の複雑な危機に直面し、イスラエルとハマスの緊張が高まっている。
  • 中国やロシアの挑発行動もあり、米国の抑止力の低下が懸念されている。
  • 問題は軍事力だけでなく、国内の価値観や公共意識の変化も影響している。
  • バイデン政権は軍事的な対応だけでなく、国内の価値観にも焦点を当てる必要があると指摘されている。

安倍晋三首相(当時)とミード氏(2016年)

 2023年10月19日付のウォールストリート・ジャーナル紙は、「米国が抑止力を失い、戦略的受動性に向かって次第に退却を始めると、世界はあるとき突然失速し、制御不能の錐もみ状態に陥る」という、ウォルター・ラッセル・ミードの警告記事を掲載している。

 この記事は、世界が抑止力を喪失し、戦略的な後退を経験する中で、国際情勢が混迷し、制御不能の状態に陥る危険性を警告している。この警告は、バイデン政権が中東で巨大で複雑な危機に直面していることを裏付けている。イスラエルとハマスの緊張が高まり、周辺のアラブとイスラム世界を巻き込んでいる。さらに、中国やロシアの挑発行動も顕在化しており、米国の抑止力が薄れつつあるとの指摘もある。


 この問題は、軍事力だけでなく、国内の価値観や意識の変化にも根差している。特に、前政権の大統領の行動やそれを支持する一部の米国民の態度、国内の社会的変化、そして抑止力における「ソフトウェア」とも言える価値観や公共意識の変化が問題視されている。

 このような状況が国際的な緊張を高め、地域的な軋轢をエスカレートさせる可能性がある。バイデン政権は、単に軍事的な対応だけでなく、国内の価値観や意識を巡る問題にも目を向ける必要がある。この議論は、今後の国際政治に大きな影響を与える可能性がある点で重要である。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプ大統領のリーダーシップ:中東平和合意と国内価値観の変化がもたらした米国の抑止力強化

まとめ
  • トランプ前大統領の政策が中東の地政学を変革し、イスラエルと複数のアラブ諸国の間で歴史的な合意であるアブラハム合意を実現させた。
  • アブラハム合意により、イスラエルとアラブ諸国の関係が正常化し、イランの侵略に対抗する重要な同盟が形成された。
  • ハマスやその過激なイスラム原理主義のイデオロギーはアブラハム合意によって打撃を受け、中東での憎しみと戦争からの脱却が可能となった。
  • トランプ大統領は国内では保守的価値観を重視し、国旗や国歌、法の支配を尊重し、キリスト教的価値観を公共の場に取り戻すことを推進した。
  • 急進左派の政策は米国を弱体化させるものであり、トランプ大統領のリーダーシップが米国の立場を強化したといえる。
上の記事の一部を以下に引用します。これは、ウォルター・ラッセル・ミード氏による見解ではなく、岡崎研究所のものとみられます。
 この問題は、軍事力だけでなく、国内の価値観や意識の変化にも根差している。特に、前政権の大統領の行動やそれを支持する一部の米国民の態度、国内の社会的変化、そして抑止力における「ソフトウェア」とも言える価値観や公共意識の変化が問題視されている。
これに関しては、抑止力は軍事力だけではなく「ソフトウェア」とも言える価値観や公共の意識の変化も重要であるという点には同意します。

しかし、「前政権の大統領の行動やそれを支持する一部の米国民の態度」を問題視するという指摘にはとうてい同意できません。特に、一部の米国民の態度を問題視するという、発言はとうてい容認できません。犯罪者や、詐欺師を支持するようなことは、問題ですが、いかなる国においても、誰が誰を支持しようと、いかなる政策を支持しようと、それは自由であるはずです。

トランプ氏の支持者

前大統領とは、もちろんトランプ大統領を意味するのでしょうが、トランプ大統領はあらゆる面で米国を強化しました。彼は軍を再建し、退役軍人の処遇を改善し、中東に平和をもたらし、ここ国内でも愛国的な価値観を広めました。トランプ大統領の登場で抑止力が弱まったというのは、民主党のプロパガンダに過ぎません。ミード氏が心配しているのは、むしろバイデン大統領でしょう。

トランプ大統領は、平和は宥和ではなく力のパランスによってもたらされることを理解していました。彼はISISやイランのような敵に戦いを挑み、イスラエルとアラブ近隣諸国との間にこれまで想像もできなかったような協力をもたらしました。

トランプ大統領の指導の下、イスラエルはアブラハム合意として知られる一連の歴史的合意において、いくつかのアラブ諸国との関係を正常化することができました。何十年もの間、ほとんどのアラブ諸国はイスラエルの生存権を認めることさえ拒否していました。

彼らは不倶戴天の敵だったのです。しかし、トランプ大統領はイスラエルを強力に支持しつつイランに対する強硬路線とも相まって、中東の地政学的な同盟関係を再編成しました。UAE、バーレーン、スーダン、モロッコといった国々は、イランの侵略に対抗するなど、イスラエルと重要な利害を共有していることに気づきました。

そこで彼らは、外交関係と協力関係を正式に結ぶことに合意しました。数年前には考えられなかったことです。しかし、トランプ大統領のイスラエルとの揺るぎない友好関係と、過去の誤ったイデオロギーに屈しない中東へのビジョンが、これを可能にしたのです。

初めてイスラエルの民間機がサウジアラビア領空を通過できるようになりました。イスラエル人と首長国は公然とビジネスを共にすることができるようになりました。何世代にもわたって立ちはだかってきた憎しみの壁は崩れ始めました。

イスラエルと複数のアラブ諸国との間でこれらの国交正常化協定を締結したことで、トランプ大統領は、それまでのどの大統領もなし得なかったことを成し遂げました。彼は世界で最も戦争が絶えない地域のひとつに、恒久的な平和の見通しをもたらしたのです。

アブラハム合意は最高の成果であり、トランプ大統領の就任が世界における米国の地位を強化に貢献しました。

以下は、ドナルド・J・トランプ大統領、バーレーンのアブドゥラティフ・ビン・ラシド・アル・ザヤニ外務大臣、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、アラブ首長国連邦のアブドゥッラー・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤニ外務大臣が、2020年9月15日(火)、ホワイトハウスの南芝生でアブラハム合意に署名した直後の写真です。


テロリスト集団のハマスは、アブラハム協定とイスラエルとアラブ諸国の協力関係の拡大に激怒したのです。これらの合意は、ハマスと彼らの過激なイスラム主義イデオロギーにとって存亡の危機です。何十年もの間、ハマスはパレスチナ人や他のアラブ人の間でイスラエルへの憎悪を煽ることによって、彼らの大義を主張してきました。

彼らはイスラエルを全イスラム教徒の不倶戴天の敵として描いてきました。しかし、アブラハム合意はその物語を粉々に吹き飛ばしたのです。アラブの指導者たちは、イスラエルが脅威なのではなく、イランとハマスのようなテロリストたちが真の脅威なのだと認識したのです。

だからハマスは、ロケット攻撃やその他の暴力でイスラエルを攻撃したのです。彼らは和平プロセスを頓挫させ、イスラエルを再び孤立させ、自らの存在感を保とうと必死なのです。彼らの力は、協力や協調ではなく、対立から生まれるものです。

アブラハム合意は、中東が憎しみと戦争から脱却しつつあることを示すものでした。今回のテロ攻撃は、アブラハム合意によってもたらされた脅威に対する反動なのです。ハマスが恐れているのは、イスラエルによる反撃よりも平和的な協調とそれによる繁栄です。

彼らのロケット弾攻撃は、アラブ人の多くがもはや望まない、必要としない戦争に火をつけようとする絶望的な試みといえるでしょう。しかし、ハマスが暴力と憎悪によって地政学的にガザを支配する時代は終わろうとしています。

だからこそ、彼らはますます絶望的で破壊的な行動をとっているのです。アブラハム合意は、地域全体のテロリストにとって戦略的敗北でした。アラブ諸国が和平プロセスに参加すればするほど、ハマスとその一派は暴れ続けるでしょう。

しかし、彼らの大義は失われました。日本ではほとんど報道されませんが、多くのパレスチナ人は絶え間ない戦争ではなく、協力と協調で繁栄する未来を望んでいます。だからこそ、和平合意はイスラエルにとっても、中東全域の平和を愛するアラブ人にとっても勝利だったのです。ハマスの暴力は長期的には無益なものです。アブラハム合意は、取り消すことのできない協力の力を解き放ったのです。

ガザを行進するハマス戦闘員

国内では、トランプ大統領は、国旗、国歌、法の支配を尊重しました。トランプ減税で、景気を抑止、雇用を生み出しました。彼はキリスト教的価値観を公共の場に呼び戻しました。ホワイトハウスの現職とは異なり、米国の強さは、道徳に裏打ちされた勇気と価値観から始まることを確信していました。「国内の価値観や態度」の変化が国家の安全保障に大きく影響するというのは、まったくその通りです。

トランプ大統領は、米保守派の伝統的な価値観である「信仰、家族、自由」を大切にすることこそが、米国を真に偉大な国にするものと信じていました。こうした原則を攻撃し、分断の種をまくことで抑止力を弱めようとするのが急進左派です。

彼らの政策は、米国を弱くするものであって、強くするものでありません。トランプ大統領のリーダーシップは、世界の舞台における米国の立場を強化しました。米民主党こそ、移民政策をはじめとするその悲惨な政策、米国の伝統的価値観に対する軽蔑、独善的なポリティカル・コレクトネスと全体的な戦略的消極性によって、米国の抑止力を脅かしているといえると思います。

米国の最近の国内の価値観や公共意識の変化による抑止力の低下は、トランプ前大統領が招いたのではなく、アフガン撤退にも失敗し、ロシアへのウクライナ侵攻直前の対応等にも失敗したバイデン大統領が招いたと言って良いと思います。

バイデン氏が今後すべきは、上の記事にもあるとおり、軍事的な対応だけでなく、国内の価値観や意識を巡る問題にも目を向けるべきです。

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2023年11月24日金曜日

森永卓郎氏 岸田首相が小学生に説いた権力論をチクリ「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」―【私の論評】政治家はなぜ卑小みえるのか?民間企業にはみられるガバナンスの欠如がその真の原因

森永卓郎氏 岸田首相が小学生に説いた権力論をチクリ「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」

まとめ
  • 森永卓郎氏が岸田文雄首相に対し、内閣支持率低迷と減税策への不満を指摘し、「ボケろ」とアドバイスした。
  • 岸田首相の責任転嫁姿勢を批判し、責任を取らない点を指摘。「減俸しない理由」についても皮肉を交えて述べた。
  • 過去の発言にも言及し、「見栄っ張りでなく素直になるべき」と岸田首相にアドバイス。
  • 森永氏は自身の逸話を交えつつ、「正直に行こうよ」という意図を明かした。
  • 司会者のツッコミにも笑いながら対応し、「正直さを大切に」というメッセージを述べた。

森永卓郎氏

 経済評論家の森永卓郎氏が22日、ニッポン放送のラジオ番組「垣花正あなたとハッピー!」に出演し、岸田文雄首相に対して内閣支持率低迷に関連して、「ボケろ」というアドバイスを送った。岸田内閣では、9月の内閣改造後に政務三役が相次いで辞任し、岸田首相の打ち出した減税策にも批判が高まっていた。

 この日の国会では、野党から岸田首相の人事に関して不適切との指摘があり、岸田首相は「人事は適材適所だが、政治は結果責任。責任を感じている」と答弁したことが取り上げられた。これに対し、森永氏は岸田首相の責任を取らない姿勢を批判し、「重く受け止めると言ってるけど、どう責任を取るかは一切言わない。減俸さえしない」と述べた。そして、「減俸しない理由はわかる。例えば1人辞めて3割減俸にしたら、今は3人辞めてるんで9割カットになっちゃう。4人目出ると、逆にその分を払わなくてはいけなくなってしまう」と皮肉を交えて指摘した。

 また、森永氏は岸田首相の過去の発言にも言及し、「今年3月の福島視察時に小学生から首相を目指した理由を聞かれて『日本で一番権限が大きい人なので首相を目指した』と答えたが、見栄っ張りなのは良くない。プライドを捨てて素直になるべきだ」とアドバイスした。

 司会者の垣花アナが森永氏のアドバイスをツッコむと、森永氏は「実は僕のことを〝増税くそメガネ〟って言う人がいて、それが気になって気になって…。みなさん見てください、メガネに付いた〝うんちくん〟をどうしても外したかったんで、給付金じゃなくて減税にしたかったんですよ、と言ったら伝わるじゃないですか!」と珍アドバイスを披露。垣花アナは笑いながらツッコんだが、森永氏は「言いたいのは、もっと正直に行こうよってことです」と真意を語った。

【私の論評】政治家はなぜ卑小にみえるのか?民間企業にみられるガバナンスの欠如がその真の原因

まとめ
  • 安倍晋三氏は統治に重点を置き、政策展開やリーダーシップを大きな枠組みで行い、国家戦略やビジョンを重視した。
  • 安倍氏の経済政策「アベノミクス」は、日本経済の活性化や国際競争力強化を俯瞰した大局的な政策であった。
  • 安全保障政策や外交政策も、地域情勢や国家の安全を大きな視点から見据えた政策展開を行っていた。
  • 彼の統治スタイルは、政治を身近に感じさせるユーモアを交えた演説や会見を通じても表現されていた。
  • 安倍氏の統治姿勢は、細かな点よりも大局的な視野を重視し、国家全体を俯瞰して政策を推し進めることに焦点を当てていた。岸田首相はこの点を見習うべき。
私は、岸田首相に関しては、どうしても首相在任期間が歴代で最長となった安倍首相と比較されるということで、最初から負い目を背負っているところがあると思います。

安倍晋三元首相は、日本憲政史上最も長い8年8カ月にわたって首相を務めました。

安倍元首相の在任期間は次のとおりです。
第1次安倍内閣(2006年9月26日~2007年9月26日)
第2次安倍内閣(2012年12月26日~2014年9月3日)
安倍元首相は、2022年7月8日に奈良県奈良市で選挙演説中に暗殺され死亡しました。

悲劇的な最期を遂げた安倍氏です。一部の、リベラル・左翼勢力などの奇人、変人などは、別にして、多くの日本人は故人の悪し様に語るようなことはしません。良かったことを語ります。

安倍元首相

20歳〜30歳台の若い世代の人にとっては、物心ついてからつい最近まで、成人してからつい最近まで、総理大臣といえば、安倍晋三氏です。

人の世の常として、安倍総理にも毀誉褒貶はありましたが、安倍総理を正統に評価する人々の心の中では悲劇的最期を迎えてしまった安倍晋三氏に関して語るとき「毀」「貶」より「誉」「褒」のほうが強くなってしまいます。

私もそうです。実は第一次安倍政権のときは、私は安倍首相をあまり評価していませんでしたが、第二次安倍政権になってから高く評価するようになりました。そうして、現在安倍晋三氏のことを語るとすれば、第二次安倍政権における安倍首相のことを語ります。

このような、安倍晋三氏と岸田氏はどうしても比較されてしまうというか、多くの人は安倍晋三氏を総理大臣のスタンダード(基準)として、岸田総理大臣を見るわけです。

そうなると、なぜか岸田首相をはじめとして多くの政治家が、卑小な存在見えてしまうのです。

岸田首相

ただし、安倍晋三氏をスタンダートとすると、他の政治家が卑小に見えてしまうのには、それなりの理由があります。

ここで、安倍晋三氏がどのような人だったかを振り返っておきます。

どなたかは、忘れてしまったのですが、安倍晋三氏は細かいチマチマしたことが大嫌いで、大きく物事を考えることを好んだという人がいます。私は、これは本当だと思います。

安倍晋三氏は、政治家としてのキャリアを通じて、大きなビジョンや国家戦略を重視する姿勢を示してきました。彼がリーダーシップを取った際に焦点を当てたのは、経済政策の改革や安全保障政策の強化、外交戦略の構築など、国家全体を俯瞰した大きな枠組みでした。

例えば、安倍氏は「アベノミクス」として知られる経済政策を推進しました。これは、日本の経済を活性化するための包括的な政策であり、金融緩和、財政出動、構造改革などを含んでいました。彼の焦点は国家全体の経済の活性化であり、それによって国際競争力を高め、日本経済を持続可能なものにすることにありました。

また、安全保障政策においても、日本の国家安全保障の強化に力を注ぎました。中国や北朝鮮などの地域情勢を鑑みつつ、アメリカとの同盟関係強化や安全保障法制の整備など、大きな視点から国家の安全を図る政策を進めました。

さらに、外交政策においても、アジア太平洋地域や国際社会での日本の役割強化に重点を置きました。経済外交や国際貢献、他国との協力関係構築など、大局的な視点で日本の地位向上を目指す政策を展開していました。

これらの事実は、安倍氏が大きな枠組みや国家全体の視点で政策を展開し、細かい点よりも大局的な視野を重視していたことを裏付けるものです。

一方で、安倍晋三氏は政治家として公の場で饒舌であり、時折ジョークを交えて話すことがありました。彼の演説や会見では、政策や重要なテーマに関しては真剣に語る一方で、軽い雰囲気を作るためにジョークを交えたり、会場の雰囲気を和ませることもありました。

一例として、彼は自身の政策を説明する際に比喩やイメージを使うことがあり、その中にはジョークの要素も含まれていることがありました。一般の人々に政治を身近に感じてもらうために、ユーモアを交えたアプローチをとることがあったようです。

実際、私はそのような場面にたちあったことがあります。私は、安倍首相の講演会や選挙演説に何度か立ち会ったことがあるのですが、確かに、気さくな人柄で、饒舌で、多くの人々が度々笑っていました。

それに加えて、安倍氏の人柄や人間味あふれる一面が多くの支持を集めた一因とも言われています。高橋洋一氏は、安倍氏は饒舌であり、ジョークを交えて人々を楽しませることがあったと述懐しています。

しかし安倍晋三氏と、他の政治家との違いを際立てさせたのは、何といっても大きな枠組みで物事を考えるという姿勢です。

これこそが「政治家に欠かせない」姿勢です。なぜなら、政府の役割は、統治すること(ガバナンス)だからです。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。
ただ事ではない財務省の惨状 同期ナンバーワン・ツー辞任 ちやほやされてねじ曲がり…―【私の論評】統治と実行は両立しない!政府は統治機能を財務省から奪取せよ(゚д゚)!

以下にこの記事から、統治に関わる部分を引用します。

"経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないとしました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。 といいます。 

ガバナンスや統治という言葉は、多くの人に曖昧な意味合いで使われていることが多いです。一昔前の、大企業は世界中でガバナンスなどあまり意識しないで、運営していましたが、多くの企業が機能不全にいたるようになりました。そのような中、一部の企業がガバナンスという考え方を導入し、組織を編成しなおすと、また急激に成長するようになりました。

世界で初めて、ガバナンスという概念を取り入れた企業は、オランダの東インド会社(Vereenigde Oost-Indische Compagnie、通称VOC)だといわれています。ご存知のように、西洋列強による植民地政策は、ほとんどが失敗し宗主国に利益をもたらすことはありませんでしたが、唯一オランダ東インド会社による植民地政策だけが例外で、宗主国オランダに利益をもたらしました。

VOCは、ガバナンスの概念をどこから導入したのかは、はっきりしていません。しかし、当時のオランダでは、共和国制が採用されており、政府の統治は、議会、行政、司法の三権分立によって行われていました。この三権分立の考え方は、VOC憲章にも取り入れられ、VOCの統治体制の根幹となりました。さらに、当時の行政府は現在と比較するとかなり規模が小さく、特に政府の規模は小さく、統治に専念していました。統治と実行は厳密に区分されていました。

また、VOCは、東インド貿易を通じて、アジア諸国の政治や経済を学ぶ機会にも恵まれました。これらの経験から、VOCは、ガバナンスの重要性を認識し、それを自社の統治体制に導入したと考えられます。

VOC憲章は、ガバナンスの概念を初めて企業に導入したものとして、世界史上重要な役割を果たしました。VOC憲章は、その後のヨーロッパの企業経営に大きな影響を与え、現代のコーポレートガバナンスの基礎を築いたのです。

イギリスのインド統治も、統治と実行の分離は劇的に功を奏しました。統治者は、インド総督とその補佐官たち(20人程度の若者たち)でした。彼らは、インドの行政、軍事、外交などの全体的な統治を担っていました。しかし、実行の細かい部分は、現地の官僚や軍人、警察官に委ねられていました。

統治と実行を分離したことで、インド総督とその補佐官たちは、インドという巨大な植民地を、わずかな人数で統治することが可能になったのです。

このことを学んだ大企業は今日世界中で、統治と実行を分離しています。多くの形式や様式がありながらも、本社(本部)と子会社(事業会社)に分離し、本部が統治をし、事業会社が実行をするのです。これを曖昧にしたまま、企業規模を大きくすると、統治も実行もその能力が麻痺してしまうのです。

一方、行政府のほうは世界中で年を追うごとに肥大化し、統治と実行の区分が曖昧になり、今日機能不全に至っています。これを是正すべきとして、「小さな政府」を望む声も上がったのですが、未だそれは実現されていません。

さて、話を元にもどさせていただきます。多くの小規模事業や、中小企業がある時点から成長しなくなるのは、統治と実行を分離しないままというのが大きな要因です。急速に成長するベンチャー企業等が、途中から駄目になってしまうのもこれを曖昧にしたままというのがほとんどです。

中小企業においても優れた経営者は、ある時期から実行部分からは手を引き、部下や親族にそれを任せて自らは統治に専念するようにします。実行部分にはほぼ口を出しませんが、ただし、統治の観点からずれた場合にだけ、それを是正させるためにだけ口を出すようにします。

そうして、名ばかりの取締役ではなく、本当の意味での統治ができる取締役を育てることができた企業だけが、さらなる成長ができるのです。

ただ、世界中の巨大化してしまった政府が、未だに統治と実行が明確に分離されていません。その中でも、日本は特に分離されていません。政府の統治部分と官公庁の実行部分が分離されておらず、両方とも統治と実行を同時に中途半端に行い、能力が麻痺しているのです。そのような観点からみると、現状の日本の政治が信じられないほど非生産的で非効率であることが良く理解できます。

その中にあって、安倍晋三氏は首相として、大きな枠組みでものごとを考え、他の政治家よりは、統治に注力できたのでしょう。

安倍首相のセキュリティダイヤモンド構想で言及された四カ国

岸田首相や現状の多くの政治家に欠けるのはこの部分なのかもしれません。私は、上の記事「見栄っ張り」「プライド捨てボケろ」というアドバイスには概ね賛成なのですが、ただ、「大きな枠組み」でものを考えると言う姿勢なしに、このアドバイスに従えば、ただの「ボケ」にしかならないと思います。

現在の政治の仕組みは、残念ながら政府が統治に専念できる仕組みにも、官公庁が実行に専念できる仕組みになっていません。そのため、双方とも能力が麻痺しています。マスコミや評論家は、この麻痺状態を報道したり、仔細に分析するのみです。

ありていにいえば、政治家も、官僚も本来できもしないことを、できるという幻想に浸って、日々摩耗しているといえるのではないでしょうか。マスコミ等も出来もしないことを、できるはずだといって、本質には触れず、人の資質などに原因を求め、見当違いの批判を続けているというのが実情です。だから、それを見ている視聴者も閉塞感に苛まされることになるのです。

そこに、大きな枠組みで物事を考える、既存の政治家からみると稀有な存在である、安倍晋三氏が登場して、様々な改革を行ったのてす。

ただ、国民とすれば、稀有な存在である安倍晋三氏のような人物がでてくるのをいつまでも待つわけにはいきません。

やはり、現在大企業が行っているように、政治組織の統治と実行は分離すべきなのです。そうして、双方の麻痺を取り払い、まともに機能するようにすべきなのです。これは、旧来の枠組みから一歩もはみ出ることのできない、既存の政治家などにはできないことです。自民党内の若い世代の政治家、日本保守党などのような新たな勢力がこうしたことを推進していただきたいです。

それになし、個別で経済、安保、外交などを推進したとしても、物事はうまくは進まず、その挙げ句の果てに、政権が変わったり、状況が変わってしまえば、なし崩しになってしまいかねません。

私は、最終的には政府の下部組織である、官公庁は、何らかの形で、政府の外に出すべきと思っています。そうして、政府は統治、政府の外の官公庁は実行に専念する形を取るべきと思います。官僚組織は、そのようになってはじめて有効に機能するようになります。

しかし、ここで完璧主義の罠に嵌ることは避けるべきとは思います。完璧でなくても、少しでも改善すれば、結構な成果をあげられます。改善するたび、齟齬がないかを検証しながら実行すべきでしょう。急激な改革は、大きな歪をもたし政治的混乱をもたらす可能性もあります。

しかし、この方式の正しさは、すでに大きな枠組みで物事を考える安倍首相の登場で、それまで停滞していた、経済、安保、外交が進んだことでも証明されたと思います。大きな枠組みで考える習慣こそが、安倍晋三首相をして、他の政治家と比較すれば、統治に注力させることになったのです。

現状においては、岸田首相には、こうした安倍首相の統治に力点を置く、姿勢を見習ってほしいです。無論、大きな枠組みで考えるとはいっても、安倍晋三氏のようにはできないかもしれません。しかし、自らの得意分野だけでも、そうすれば、それだけでも、随分と変わると思います。そうして、統治と実行を分離することを目指しつつ、現状でできうる範囲内で組織改革をすべきです。そうすれば、さらに政治の世界もす少しずつでも変わっていくでしょう。

多くの政治家が政治改革にこれまでも取り組んできました。しかし、あまり成功したためしはありません。それは、おそらく、政府は統治に専念すべきという原則を忘れていたからだと思います。それなしに、政府や各官公庁がたとえどんなに素晴らしい戦略・戦術案や企画を立案し、能力が高く素晴らしい政治家が、理想に燃えて、政策提言を行ったとしても、統治も実行も麻痺している現状では、何事もうまくいきません。当然の帰結なのです。

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「心は女」事件 稲田朋美氏見解に有本香氏が反論「逮捕されたからいい、では済まされない」

稲田朋美議員

 三重県桑名市の温泉施設で男性が女性風呂に入った事件が、LGBT理解増進法に関連する議論を巻き起こしている。この出来事を受け、自民党の稲田朋美議員は事件と法律の関連性を否定しているが、これに対しジャーナリストの有本香氏は疑問を投げかけている。有本氏は、このような問題が法制定時から予測されていたことを指摘し、稲田氏に対する説明責任を求めている。一方、厚生労働省は公衆浴場での男女の判断基準を身体的特徴に基づいていることを改めて確認し、LGBT理解増進法の実施に合わせて通知を発出した。

 稲田氏は、理解増進法法制定前後で変わらず、この行為が犯罪であることを主張しているが、有本氏は法律よりも上位に位置する法制度に注目すべきだと主張している。彼女は、公衆浴場側が利用を拒否した場合に差別として訴えられる可能性や、犯罪者に免罪符を与えることになる問題を指摘している。さらに、同様の事件が起きた際、稲田氏がどのように対応するか、そしてLGBTに対する偏見を助長しないための法改正の必要性について言及。

 一部からは、稲田氏に対して責任を求める声も上がっている。有森氏は、日本社会は性転換や女装を含め包括的な姿勢を取ってきたため、LGBTに関する法律は必要ないとしつつも、少なくとも法改正は不可欠だと主張している。同様の問題が続けば、LGBTに対する偏見が増幅され、理解増進とは逆の方向に進む可能性があると懸念されている。稲田氏には、誤りを認め、是正する姿勢が求められています。

 稲田朋美衆院議員の回答全文は次の通り。


「事案の詳細を承知しませんが、理解増進法とは関係ないようです。公衆浴場や温泉施設の利用に関して厚労省が管理要領を定めており、男女の判断基準は身体的特徴によるものとすることになっています。これは理解増進法が制定される前後で全く変更はありませんし、法制定前も後も犯罪であるということをX上などで繰り返し申し上げてきました。いずれにせよ犯罪行為に対して、引き続き厳正に対応していくことは当然です」

以上は、稲田議員の回答を除き、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】トランプ氏の影響力が日本政治にも?日本保守党の注目の動向

私には、有本氏の主張はもっともであり、稲田氏の回答は、無責任であり政治家としてあるまじきものだと思います。

そうして、従来はこのような政治家がいたとしても、犯罪でも犯さない限り辞めさせることはできず、多くの有権者はこれをどうすることもできず、我慢するしかなかったというのが実情でした。

無論選挙で票を投じないということで、有権者は意思表示はできるのですが、稲田氏のような世襲の有力政治家には、資産があり選挙運動資金は潤沢であり、地元で強力な支援団体が存在しており、政治家としては相応しいとか相応しくない、あるいは能力などに関係なく、比較的若いうちに政治家になり、当選回数を重ねると、自民党内で重要な役割を担ったり、閣僚になっていくというのが今までのスタイルでした。

多くの有権者は、数十年に一回に現れるか現れないかの、安倍晋三氏のような政治家が現れることを待つしかありませんでした。その安倍氏も暗殺されてしまいました。今後すぐに安倍氏のような政治家が現れることはないでしょう。

安倍晋三首相

そのため、多くの有権者は「どうせ」などと諦め、政治に無関心になっていくという傾向がさらに強くみられるようになりました。

しかし、この古い政治スタイルが破られる可能性がでてきました。何と「日本保守党」の事務総長を務める有本香氏が、22日放送のネットニュース番組「ニュース生放送 あさ8時!」において、福井県に近々訪れることを明らかにしました。

この県は稲田朋美元防衛相の地元であり、LGBT法を推進したことで保守派の一部から離反を招いていました。有本氏は、「年末の予定が変動していましたが、ようやく福井1区にお邪魔する機会が見えてきた」と述べ、この目的については、全国からの支持や立候補についての意向を探るためだと説明しています。

また、有本氏は直接の候補者指名には否定的で、「立候補するか否かは未定であり、情勢を踏まえた上で判断するが、現時点でははっきりとは決めていない」と述べています。国際政治学者の島田洋一名誉教授も番組に出演し、「保守派の支持を集める魅力的な候補が立てば、福井1区では充分に勝算がある」と励ましました。

一方で、日本保守党が直面する課題について有本氏は、「政党要件を満たさないため、比例代表への重複立候補ができない。候補者に対して『小選挙区1本での戦い』を促すしかないため、候補者を見つけることが難しい状況にある」と述べています。

おそらく、私は、日本保守党は当初はこのようなことを実施するだろとみていましたが、やはりそうかと、思いを新たにしました。

現在日本保守党は、小さな存在ですが、一流作家の代表百田氏が率い、共同代表の河村たかし氏は、選挙戦術と戦略に長けた人物としてい知られていますし、事務総長の有本香氏有本氏はジャーナリストとして活動し、その明確な根拠に基づく保守派としての舌鋒鋭い発言は、保守党の発信力を強化することでしょう。

私は日本保守党は、当面結党の精神を忘れリベラル化してしまった自民党にかつをいれることになるのではと期待しています。

そうして、日本保守党は、来年の大統領選挙で最も有力とみられる、トランプ氏の選挙戦術・戦略を参考にすると良いと思います。

日本保守党が見習うべきトランプ勝利の鍵はいくつかあります。 

まずは、国民を第一に考えるポピュリズム的政策に焦点を当てることです。ポビュリズムとは、政治変革を目指す勢力が、既成の権力構造やエリート層を批判し、国民に訴えて、その主張の実現を目指す運動のことです。日本では、ネガティブに受け取られがちですが、米国ではポジティブに受け取られることが多いです。ここでいうポビュリズムとは、無論良い意味のそれです。

トランプ大統領にとってこれは、貿易や移民などに関する「アメリカ・ファースト」の政策を意味するものです。日本保守党にとっては、文化的価値、経済、外交をめぐる、よりナショナリスト的な政策を意味するかもしれないです。そうして、日本保守党はすでにこれに関する、スローガンをあげています。それは、「日本を豊に、強く」です。

トランプ氏の「アメリカ・ファースト」はマスコミなどに曲解されましたが、これは米国の孤立主義を意味するものではなく「米国を豊に、強く」というのが元々の意味です。実際、トランプ氏は大統領のときに、米国孤立主義など実行しませんでした。



トランプ氏は「沼地(The Swamp)」と戦うアウトサイダーとして立候補しました。「沼地(The Swamp)」とは、ドナルド・トランプが大統領選挙キャンペーン中に腐敗している、あるいは利己的であると描いた、ポリティカル・コレクトネスに凝り固まった政治組織やエリートのことです。

トランプ氏は「沼の水を抜く」と公約することで、一般市民よりも政治家やロビイストに利益をもたらすように仕組まれた政府機関に対する多くの有権者の不安を取り除くことを約束したたのです。

より具体的に言えば、「沼」とは次のような意味です。 長年の政治家や政府関係者は、公共の利益のためというよりも、現状維持や自分たちの権力を守ることに関心がある。 政治におけるカネとロビイストの影響力により、有権者よりもむしろ自分たちの利益のために、強力な特別利益団体が政策や法案を形成することができる。 実力よりもコネや便宜、特権に基づいて動く政治的王朝や階層のことです。「沼の水を抜く」とは、こうした状況を一掃するという意味です。

「沼の水を抜く」をイメージ化したイラスト

日本保守党が、これらから「アウトサイダー」として売り込むことができる候補者は、ポピュリストにアピールできるでしょう。

 連邦政府の官僚主義が拡大し、規制の行き過ぎがお役所仕事とコンプライアンスに起因するコスト高でビジネスを阻害し、経済に損害を与えているとトランプは主張しました。

「沼」とは、有権者が政府や政治体制について腐敗している、利己的である、非効率的であると認識しているすべてのものの比喩なのです。このことが日本では、ほとんど報道されていません。こうした「沼の水を抜く」ことを誓うトランプのような候補者が大きな支持を得るのは当然のことだと思われます。

日本保守党は、ますます「リベラル化」していく自民党に対抗して、真の保守主義を代表する立場をはっきりとさせています。有権者は、いままでの枠内でものごとをすすめようとするのではなく、枠を破り現状を打破しようとする候補者に熱狂するでしょぅ。このようなことは、安倍首相の登場を除けば、久しくなかったことから、支持するなどの次元ではなく熱狂することになるでしょう。

トランプ氏のように、日本保守党のリーダーたちも、保守層の有権者の心に響くような直接的な表現ができます。有本氏の「明確な証拠」に基づく「舌鋒鋭い発言」は、より信憑性を求める多くの有権者の心をつかむことでしょう。

日本保守党は、より重要な問題に焦点を当てるべきです。トランプ氏にとっては、移民問題やNAFTA(北米貿易協定)のような貿易取引などがそれに当たります。日本保守党にとっては、LGBT問題、教育政策などがそれに当たるでしょう。特に自民党が保守の核となる価値観を「忘れてしまった」分野で強い姿勢を示せば、自民党の支持者を引き離すことができるでしょう。

トランプ氏、百田氏、河村氏、有本氏のような指導者のカリスマ的人格は、草の根の熱烈な支持を集めます。支援者の熱狂を活用し、ポピュリスト的な魅力とメディアに精通した候補者を中心とした「ムーブメント」を構築することが鍵となります。

街頭演説をする、左から河村氏、百田氏、有本氏

現状維持の体制に対する有権者の不満を利用したこの種の反乱キャンペーンは、本質的に反体制的です。保守党はまだ小規模ですが、コミュニケーション、価値観、パーソナリティをめぐるこうした戦略に注力することで、その知名度を大幅に高め、成長を加速させることができるでしょう。

今後日本では、米国でトランプ旋風が起こったような、日本保守党旋風が巻き起こる可能性もでてきました。ただ、それまでの道のりは長いです。しかし、保守派からすれば、どうしても容認できないような議員に対して、一矢を報いることができるようになる可能性は高まってきました。これが具体化すれば、有権者の関心は嫌が負うでも高まると考えられます。

自分では、日本保守党はトランプ氏を参考にすべきという記事を書いたつもりなのですが、百田氏としてはトランプ氏の戦術・戦略を最初から参考にしているように思えてきました。百田氏はトランプ氏に注目してきたのは明らかであり、そもそも日本保守党は日本でもトランプ旋風のようなことを起こせないかということが、結党の動機となっている部分があるのかもしれません。

世襲政治家の典型でありながら、稀有の安倍晋三氏の戦術・戦略は、百田氏には参考にしたくてもできません。しかし、トランプは違います。日米では政治風土は無論、国民性や文化などは異なるものの、トランプ氏のやり方は、百田氏に多いに参考になっているものと思います。

無論、日本ではトランプというとネガティブに捉えられがちですが、日米メディアともトランプ氏をあれだけネガティブに報道しながらも、現在トランプ氏が来年の大統領選の最有力候補になっていることを考えれば、多くの米国人はそうは思ってはいないようです。私もそう思います。

この動きが、有権者の政治への関心を高め、さらに日本の政治を変える原動力になれば、幸いです。

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