2020年10月24日土曜日

イスラエルとスーダン、国交正常化で合意 トランプ氏仲介3例目―【私の論評】米国の関与が減少しつつある現在、日本が中東で果たす役割はますます増える(゚д゚)!

 イスラエルとスーダン、国交正常化で合意 トランプ氏仲介3例目

23日、ホワイトハウスでスーダンのテロ支援国家指定を
解除する決定について電話で話すトランプ米大統領(手前)

 米ホワイトハウスは23日、イスラエルとアフリカ北東部のアラブ国家、スーダンが国交正常化に合意したと発表した。トランプ米大統領の仲介によるもので、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化で合意したのはアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンに続いて3カ国目となる。

 トランプ氏は11月3日に迫った大統領選を前に、自身の支持基盤でイスラエルへの支援を信仰の柱に据える福音派などキリスト教右派へのアピール材料として外交成果を誇示するとみられる。

 トランプ氏はホワイトハウスで記者団に対し「イスラエル、スーダンにとって信じられないほど素晴らしいディール(取引)だ」と強調した。

 今回の3カ国による共同声明は、「地域の安全保障を高め、スーダン、イスラエル、中東、アフリカの人々にとって新たな可能性を開く」と国交正常化の意義を訴えた。経済・貿易分野で関係構築を進める方針で、まずは農業分野での協力を実施する。

 またこれに先立ち、トランプ政権は23日、スーダンのテロ支援国家指定を解除すると議会に通告したことを明らかにした。

 ホワイトハウスによると、スーダンが米国のテロ犠牲者や家族に支払うための3億3500万ドル(約351億円)を米側に送金する手続きを行ったという。米国はスーダンに対し、テロ支援国家指定解除を条件にイスラエルとの国交正常化を迫っていたとされ、指定解除の前提として賠償金支払いを求めてきた。米国は1993年にスーダンをテロ支援国家に指定していた。

【私の論評】米国の関与が減少しつつある現在、日本が中東で果たす役割はますます増える(゚д゚)!

自民党参議院議員の佐藤正久氏は、過去に以下のような予測をしています。


スーダンは、アフリカのアラブ諸国の一つということで、この予測は当たっています。

その他、近いうちにイスラエルと和平を結ぶ国々としてオマーン、スーダン、モロッコ、クウェート、サウジの名が既に挙げられています。これは単なるイラン包囲網ではなく、イランを代表とする政治も生活も全部イスラム主導で行うというイデオロギーイスラム主義との決別と理解すべきです。

国交正常化に反対しているのはイスラム主義に固執する主体です。アラブ諸国の新世代はイスラエルに対して明らかに旧世代とは異なる感情を抱いているようです。



今回の合意は、米国主導の「イラン包囲網」がより強固になったことを意味します。イランは核開発を進め、周辺国の親イラン勢力への支援を通じて影響力を拡大させています。これを地域の脅威とする認識が中東各国に広がっていました。

今後さらにイランと敵対するアラブ諸国、他の湾岸諸国が今回の動きに追随し、中東の勢力図が変わる転換点となる可能性があります。日本は原油の9割を中東に依存します。事態の推移を注意深く見守るべきです。

留意すべきは、この動きが一方で、新たな不安定要因を生じさせたことです。最大の懸念は、イスラエルとの和平交渉が停滞しているパレスチナ問題です。

アラブ諸国では、「2国家共存」によるパレスチナ国家の樹立を条件にイスラエルと国交を結ぶことが共通認識でした。今回の一連の国交正常化はパレスチナの頭ごしになされた格好であり、自治政府は「パレスチナ人を裏切る行為」と強い抗議の声を上げています。

確かにイスラエルが入植地併合計画の停止を表明したのは合意の成果といえます。当面、中東の火種の一つがなくなったといえます。

しかしながら、そもそも占領地の自国領土への編入は国際法違反です。併合計画は世界の大半が反対し、撤回を求めていました。その中での合意によりパレスチナ和平交渉の停滞が固定化する恐れがあります。パレスチナの孤立が深まり、過激派の動きが活発化すれば、テロや衝突のリスクも高まります。

シリア、イエメンの内戦など、中東は数多くの困難を抱えています。今回の一連の合意はこうした状況を変えるものではないですが、安定に向かうきっかけとしたいところです。

トランプ米大統領は、これらの合意で、「米国が中東にいる必要はなくなりつつある」と考えているようです。これは、やはり中国との本格的対峙に備えてのことでしょう。ただ米国は、パレスチナ和平交渉の仲介者であることを銘記すべきです。当面は、軍を駐留させて治安の維持にあたらざるをえないでしょう。

2018年5月14日、イスラエルの建国70周年の記念日に、米国は、テルアビブにあった大使館を、米国がイスラエルの首都と認定する聖地エルサレムに移転しました。

これに先立ち、日本は、同年5月1日と2日、それぞれパレスチナとイスラエルの両当事者と首脳会談を行っています。

同年5月1日、安倍総理は、パレスチナのアッバース大統領と会談しました。その際、日本は二国家解決を支持し、大使館をエルサレムに移転する予定がないことを表明しました。日本は、エルサレム問題を含め、国連諸決議や当事者間の合意に基づき、中東和平問題が、平和的に解決されることを望んでいます。

安倍首相とパレスチナ・アッバースス大統領との会談

安倍総理は、また、米国の役割は大変重要で、米国から何らかの和平提案があれば、当事者が向き合って話し合い解決策を見出すことが大切だと述べました。日本は、同年4月24日に、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への追加1千万ドルの支援を決定し、更にガザ中央淡水化プラント建設計画や食糧への支援も行いました。

同年5月2日、安倍総理は、イスラエルのネタニヤフ首相と会談し、中東和平に関しては、二国間解決を支持するが、米国の関与が不可欠であることも述べました。

パレスチナ、イスラエルの首相の双方から、日本のイニシアティブとして評価されたのが、「平和と繁栄の回廊」構想です。この構想は、日本、パレスチナ、イスラエル及びヨルダンの4者が協力し、ヨルダン渓谷の社会経済開発を進め、パレスチナの経済的自立を促す中長期的取組で、2006年に始まりました。

同年4月29日、河野外務大臣は、訪問先のヨルダンで、「平和と繁栄の回廊」構想第6回四者閣僚級会合を開催しました。ヨルダンからはファーフーリー計画・国際協力大臣、イスラエルからコーヘン経済産業大臣、パレスチナからマーリキー外務庁長官がそれぞれ出席し、河野外務大臣が議長を務めました。会合では、本構想の旗艦事業であるジェリコ農産加工団地(JAIP)の発展を推進し、JAIPとアレンビー/キングフセイン橋間の物流環境を整備することが話し合われました。

「平和と繁栄の回廊」構想第6回四者閣僚級会合に先立ち
イスラエルのコーヘン経済産業相と握手する河野外務大臣

この時期に、パレスチナ、イスラエル双方の閣僚が集って、共同プロジェクトを語ることが出来たこと自体が、外交的には特筆すべきことです。その場所をヨルダンが提供し、そのアイデアを日本が出したと言うことです。

安倍総理は、JAIPからヨルダン国境までのアクセス道路建設への支援と、その早期着工への期待を、パレスチナ、イスラエルそれぞれの首脳に表明しました。

地味で道のりの長い「平和と繁栄の回廊」構想ですが、10年以上続く、この四者会談の場が、中東和平の当事者間の対話の機会を提供しているならば、それだけでも意義のあることです。あまりメディアでは報道されない所に、意外と重要な日本外交の役割があるのかもしれません。

西岸からヨルダン川を渡って湾岸諸国まで、人と物の行き来を活性化させることについて、それまでイスラエルはなかなか許可を出してくれませんでした。人と物の出入りが活性化すれば、それだけテロに対するアラートレベルが高くなるからでした。

しかし、今や日本はイスラエルにとって信頼できるパートナー国として認められています。近隣国ヨルダン・エジプトとも長年に亘る友好関係が実を結び、日本は信頼関係を築いています。「平和と繁栄の回廊」構想の実現には、パレスチナ国内外で超えるべき課題はまだまだ多いです。それでも、地域内の各国首脳が前向きに推進させようと合意している世界に誇れる平和に向けた活動ということができます。

米国の中東への関与が減少しつつある現在、日本が中東すべき役割は今後ますます増えていくものと思います。これにどのように取り組んでいくのか、菅政権の課題でもあります。

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