2020年10月30日金曜日

香港弾圧を「控えめ」にする中国共産党の「本音」―【私の論評】台湾を諦めざるを得ない習近平は、陸上の周辺諸国への侵攻をはじめるかもしれない(゚д゚)!

香港弾圧を「控えめ」にする中国共産党の「本音」

岡崎研究所

 10月8日付の英Economist誌が、「これまでのところ、香港の新しい国家安全法は控えめに適用されている。しかし民主化運動家は安心してはいけない」との解説記事を掲載し、国家安全法施行後の香港の情勢を報じている。


 エコノミスト誌の解説記事は国家安全法施行後の香港の状況をよく描写している。国家安全法の適用が控えめであるということは事実そうである。しかし、必要になればこの厳しい法律で広範な弾圧措置に中国共産党が出てくることは明らかであって、香港の民主活動家は安心していてはいけないとの記事の題名はその通りであろう。

 国家安全法が「一国二制度」の香港を打ち砕いた可能性があるとこの記事は書いているが、認識が甘すぎるだろう。打ち砕いた可能性があるのではなく、打ち砕いたのである。共産党はレーニンの教えに従い、1歩前進、2歩後退というように戦術的に柔軟に対応する。香港のメディア王で民主化運動の指導者であり、外国との共謀罪で告発されたJimmy Laiが言うように、北京は政治的都合にあうように彼の取り扱いも決めるということであり、法による保護はないということである。

 共産党には三権分立が良いものだという考えはない。三権分立の考え方は、フランスの哲学者モンテスキューなどが提起したが、要するに人間性悪説というかキリスト教の原罪論に基づくというか、権力者は悪いことをしかねないから、チェック・アンド・バランスを統治機構の中に組み込んでおくべしという考えである。アクトン卿の「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」との考えも同じ系譜にある。

 他方、共産党は人民のために良いことをする権力であり、これに制約を加えるなど、とんでもないという考えが共産主義者にはある。

 エコノミスト誌の記事の最後に、司法の独立が保たれれば少しは希望がある、というような記述があるが、共産党が主導する限り、そういうことにはならないだろう。それに、法律が悪ければ、司法判断は法の適用であるから、悪いものにならざるを得ない。

 今のところ国家安全法の適用が思ったよりも穏健だということで、物事の本質を見損なうことは避けるべきであると考える。香港のケースは、中国が国際法をあからさまに無視する国であることを示したものであり、それを踏まえてしっかり対応しないといけない。今回の香港は、ヒトラーのラインランド進駐と同じようなものとみられている。

【私の論評】台湾を諦めざるを得ない習近平は、陸上の周辺諸国への侵攻をはじめるかもしれない(゚д゚)!

中国と習近平政権は、何を恐れたのでしょうか。香港民主派があのまま勢力を伸ばせば、立法院の選挙で多数を占めるかもしれません。そうなると立法院と行政院が対立することになります。行政院への批判が高まります。こうなると収拾がむずかしくなります。民主派の声が中国国内に飛び火すると、なおやっかいです。

そうならないうちに、芽を摘んでしまえ。そう思ったのかもしれないです。国際社会は、一時期騒ぐだろうが、時間が経てば静かになるだろう。天安門事件のときもそうでした。そう、タカをくくっているのかもしれないです。しかし、それだけでしょうか。香港での強硬策は、台湾問題と連動している可能性もあります。

今回の件は、上の記事にもあるように、ヒトラーのラインラント進駐を思わせます。ラインラントは、ドイツの一部。フランス国境沿いです。しかし、ヴェルサイユ条約(第一次世界大戦の講和条約)で、非武装地帯にされていました。これを、ドイツの人びとは不満に思っていました。

再軍備を始めたヒトラー政権は、ドイツ軍をだしぬけにラインラントに進駐させました。これは明白な条約違反でした。どうなるか。皆が固唾をのみました。

黄色の部分がラインラント

結局英仏軍は反撃せず、進駐は黙認されました。ヒトラーのドイツ国内での人気は高まりました。実はヒトラーは、反撃されたらどうしようと、びくびくだったといいます。あのとき英仏軍が反撃していれば、そのあとのナチス・ドイツの膨張もなく、第二次世界大戦もなかったかもしれません。

中国は、台湾統一をを宿願にしています。1978年に改正した憲法に以下のような条文があります。
台湾は中国の神聖な領土である。われわれは台湾を解放し、祖国統一の大業をかんせいしなければならない。
(序言)1983年に改正された憲法にはこうあります。
台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部分である。祖国統一を完成する大業は、台湾同法を含む中国人民の神聖な職責である。(序言)
2018年に改正された憲法も、この部分は変わっていない。1978年憲法では「解放」だったのが、そのあと「統一」になった。武力解放は控えて、平和統一を表に出した、とも読めます。

米国は、「中国はひとつ」の主張を認めています。そして、台湾(中華民国)と関係を断ちました。ただし同時に、台湾問題は「平和的に解決するように」とクギを差したはずです。米軍は強力で、中国も台湾に手出しできませんでした。

中国では改革開放が進み、台湾では民主化が進みました。国民党の独裁が終わり、民進党が現れて、選挙で政権が交替するようになりました。自由と民主主義が根づきました。

1999年ごろ、米国では、「2010年問題」が盛んに議論されていました。中国軍が、2010年には台湾を実力で解放できるようになる、どうしようというものです。今は2020年です。

当時この問題である米国の専門家が語っていました。中国が軍事力で台湾に手出しすれば、米国は黙っていないでしょう。でも、台湾の人びとが、中国に合流しようと民主的に決めたら、米国は邪魔しますか。答えは、それはどうしようもないです。と語っていました。なんと腰がひけているのだろうと思いました。

中国は、この可能性を、ずっと探っていました。

台湾に親中政権ができて、平和統一の合意ができないものか。香港の一国二制度がうまく行っているとみせることも、作戦の一部でした。でも台湾で、親中政権ができる見込みはなさそうです。それなら、香港の一国二制度はもうどうでも良いと考えたのかもしれません。台湾の武力統一を考え始めた、というサインかもしれません。

中国はその足元をみて、台湾を屈伏させ、既成事実をつくってしまえば、何とかなると思っているかもしれないです。

日本は昔、蒋介石の国民党政権と戦ういっぽう、親日の汪兆銘政権をつくりました。ヒトラーはフランスを軍事的に屈伏させたあと、親独のペタン政権をつくりました。まして中国は、「台湾は中国の一部」としています。親中政権をつくるまでもないです。直接統治してしまえば良いのです。

香港の一国二制度が50年を待たずに、なかったことになりました。国際社会は、無論抗議や批判はしましたが、直接的な軍事制裁や、それ以外の厳しい措置はほとんどしていませんでした。これでは、結局黙認したとみられても仕方ありません。そうなると、中国はさらにエスカレートするかもしれないです。

かつてヒトラーが、ラインラント進駐で味をしめ、オーストリアやチェコに手を伸ばしたのと同じです。台湾を攻める前に、尖閣を奪取して、米国がどこまで本気で反撃するか、試す可能性もあります。

中国が、台湾に侵攻するのは確実だ、と言うのではありません。ありうるシナリオのひとつだ、と言いたいです。そうして、対応を誤ると、その可能性が高まってしまう、と言いたいのです。とはいいつつ、香港は中国と地続きですから、中国も与し易いですが、台湾距離が近いとはいつつ、海峡があります。この海峡を超えて台湾に軍隊を送り、戦うということは、陸上国の中国にとってはかなりの困難が伴うのも事実です。




「深センの香港化、広東の深セン化、全国の広東化」。香港が中国に返還された頃、このようなフレーズがよく語られました。返還後は香港の影響が隣接する深セン、広東省へと及び、最終的には中国全体を変える触媒になるともみられていしました。

1990年代には、そんな楽観的な期待がありました。中国の内地も50年の過渡期が終わる頃には、経済システムだけでなく、政治システムの面でも体制転換が進むのではないかとみられていました。

つまり一国二制度とは、社会主義から資本主義へ過渡期だというわけです。しかし、23年を経た現在、われわれの目前には真逆の状況が現れています。一国二制度は内地同様の社会主義という一制度へ向かって収斂し始めているのです。

国家安全法はそれを確定的なものとしたように見られます。 中国は本法の施行により、香港でも社会主義という名の一党支配体制を実施することを世界に宣言しました。これは世界中に少なからぬ衝撃と落胆を与えてました。

一党支配の権威主義体制を中国の外へも拡大しようとする動きは、一帯一路構想、戦狼外交などにも現れていたところですが、香港での挙動はこれを一層明瞭に裏付けることになりました。 

元来、経済発展に陰りが見えてきたこともあり、経済力にものを言わせた強引な外交は、曲がり角に差し掛かっていました。本法の施行、さらに新型コロナパンデミックの源となったことで、国際社会は中共政権の本質をようやく覚るに至りました。

これを見た各国の中国に対する姿勢に加速度的な変化が生じつつあります。 台湾では今年1月の総統選挙で、中国との統一を拒否する民進党の蔡英文氏が圧勝しました。一国二制度とは社会主義という共産党一党独裁へと進む過渡期に過ぎなかったことを見せつけられた台湾の有権者は、中国が一国二制度ではない別バージョンを打ち出さない限り、今後も中国との統一を支持する可能性はないでしょう。

 中共は、香港版国家安全法により一国二制度に終止符を打ち、自由、人権、民主主義、法の支配といった国際社会で普遍的とされる諸価値を公然と踏みにじってしまいました。国際社会から批判を受けると、それは内政干渉であると強く開き直る姿は、一層グロテスクです。 中共は、引き返し不能な地点に自ら陥ってしまったようです。

ここで、日米豪印の国々が結局なにもしなければ、かつてのナチスドイツのように台湾にも職種を伸ばすことでしょう。

ただ、中国は現在のところは、このブログでも何度か解説させていただいたように、潜水艦隊の能力や対潜哨戒能力ではかなり遅れをとっているので、海洋の戦いでは日米には太刀打ちできません。

仮に、中国が台湾を武力で奪取しようと、多数の艦艇や航空機を送ったとすれば、台湾に橋頭堡を築く前に、ほとんどが撃沈、撃墜されてしまうことになります。

そのことを知っているからこそ、中国は海軍のロードマップては、今年確保することになっている第二列島線はおろか、尖閣諸島を含む第1列島線すら確保できないでいるのです。それが、中国海軍の実力です。


日米はこの優位を崩さないように、潜水艦隊の運用能力や対潜哨戒能力のイノベーションにこれからもつとめていくべきです。

これに対して日本はかなり貢献していると思います。今年の3月に進水した、最新鋭潜水艦「たいげい」は、リチュウム電池駆動で、静寂性をさらに向上させ、潜水時間が長くなっています。静寂性の向上によって、中国側はますますこれを発見することができなくなっています。

防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」では平成22年以降、中国の海洋進出を念頭に日本が保有する潜水艦を16隻から22隻に増強する目標を掲げてきました。「たいげい」が部隊に投入されると、22隻体制が実現することになります。

一方米国の原潜の攻撃力はかなりのものです。空母に匹敵するほどです。原潜は構造上どうしてもある程度の騒音が出るので、中国側もこれを発見できるのですが、米国の対潜哨戒能力は世界一なので、やはり潜水艦隊の運用では米国のほうがはるかに中国よりも勝っています。

この優位がある限り、中国は台湾を武力で奪取することはできないでしょう。仮に奪取しても、潜水艦隊で包囲されてしまえば、補給ができずに、陸上部隊はお手上げになるだけです。

それに最近米国は、台湾にトランプ政権の高官を派遣したり、台湾に武器を提供することを決めたりしました。これは、米国は台湾を守り抜くとの意思表示です。

では、どうなるかといえば、やはり中印国境や中露国境、さらには隣接する中央アジアの国々や、ベトナム、ミャンマーなどの国々が脅威にさらされることになるでしょう。これは、ドイツがラインラントに進駐したのと同じことで、これらの国を侵略しても、当時のように反撃を受けなければ、さらに拡張するかもしれません。

陸上国である中国は、海洋に進出しても、その戦略があまりにお粗末で資源を奪われるだけで、何ら益を得ることはありません。実際、南シナ海の環礁を埋め立てて作った中国軍の基地は、食料・水、燃料などの補給など中国本土から様々な膨大な物資を投入しないと成り立ちません。海水に日々浸潤される人工の陸地は、補修にも膨大な経費がかかります。

ところが、この基地は、何の利益も生みません。沖合にある人工島は、国際法的には恒久的な港湾工作物とは見なされず、領海の画定に影響を及ぼしません。ただし、それは中国には通じないかもしれですが・・・・・。

さらには、軍事的には象徴的な意味しかなく、米国の戦略家ルトワック氏は米軍ならこれを5分で吹き飛ばせるとしています。環礁を埋め立てて基地をつくるというような戦略は何の益も生みません。だからこそ、かつてどの国もこのような戦略はとらなかったのです。

海洋進出にあたって、このようなアイディアを思いつくという事自体が、中国の海洋戦略のお粗末さを物語っています。これでは、中国の海洋進出はこれからも失敗し続けることになり、いずれコスト的にも成り立たなくなります。

世界の国々は、まずは海洋の戦いでは、中国を完璧に包囲するとともに、中国周辺諸国への目配りをすべきです。

台湾を諦めざるをえない、習近平は地続きの近隣の国々への干渉や、圧力をかけたりあるいは侵攻して台湾ではあげられない成果をこちらのほうであげようとするかもしれません。陸上国ナチスドイツがラインラントやチェコに侵攻したのと同じです。私は、そちらのほうが本当の脅威だと思います。

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