2020年10月16日金曜日

モンロー主義を改めて示す、初のIDB米国人総裁選出―【私の論評】中南米にも浸透する中国に対抗する米国(゚д゚)!

 モンロー主義を改めて示す、初のIDB米国人総裁選出

岡崎研究所

クラベルカロネ氏

 創設以来南米出身者が占めてきた米州開発銀行(IDB)総裁の座にトランプ政権の高官(米国家安全保障会議のクラベルカロネ上級部長)が選出された。9月12日に行われたIDB総裁選挙では、加盟国48か国中、域内加盟国23か国を含む30か国がクラベルカロネを支持し、出資比率においても圧勝したといえる。

 当初、「総裁はラテンアメリカ出身者」という不文律を破ったことに対する反発は強く、元コスタリカ大統領など有力候補もいたにもかかわらず、ブラジルやコロンビアが米国支持を表明するなどラテンアメリカ諸国の足並みは乱れ、投票延期論も支持を得られず、結局対立候補も辞退する結果となった。

 トランプ再選の可能性を考慮すれば、この段階で米国と事を構えることは得策でないとの判断もあったのであろう。

 9月17日付の英Economist誌は、このモンロー主義が戻ってきたような事態は弱い分裂した南米の敗北を意味する、と評している。ただ、同記事は、今回のIDB総裁選挙の事例をもってモンロー主義の復活を改めて認識しているようであるが、いささか焦点がぼけているようにも感じられる。トランプには、選挙戦中からモンロー主義的傾向があり、2018年11月の国連総会演説でもそのような立場を明らかにしており、同時期のボルトンの「暴政のトロイカ」演説でも確認されていたことである。

 IDB総裁人事に関する米国の強硬な対応の背景には、ラテンアメリカ地域に対する中国の影響力拡大への懸念がある。昨年3月に中国で開催される予定であったIDB総会が開催1週間前にキャンセルされたが、その理由は中国がベネズエラのグアイド暫定大統領の代表の出席を認めない方針を変えなかったことにあった。

 国際機関の会議の開催地は事務局を通じて調整されるのが通常なので、このような事態は予想できたにもかかわらず中国での開催を進めたモレノ総裁に対し米国が不信感を持ったことは想像に難くない。後任者に中国に宥和的な人物を排除し、IDBを中国に対抗する手段として効果的に活用するには、米国人を総裁に据えるしかないと判断したのであろう。

 冷戦時代には、ラテンアメリカ諸国は西側陣営に組み込まれ、米国が積極的な介入を行った歴史がある。経済的ライバルでもある中国は東西冷戦期のソ連よりはるかに手強いのであるから、米中冷戦時代にモンロー主義が復活するのは自然の成り行きであるともいえよう。従って、仮にバイデンが大統領となったとしても直ちにクラベルカロネが退任することにはならず、加盟国の立場から総裁をコントロールしようとすることになる可能性もあるのではないかと思われる。

 急速に存在感が高まっている中国の経済支援には「債務の罠」的な問題もあり、支援対象国も政治的に偏りが見られるであろう。IDBの新型コロナ対策や経済支援の観点から、より適正で譲許性の高い資金供給を行う役割は、ラテンアメリカ諸国にとっても重要である。新総裁が域内諸国との融和にも努め、そのような自覚をもって取り組むことを期待したい。

【私の論評】中南米にも浸透する中国に対抗する米国(゚д゚)!

米州開発銀行本部(米ワシントン)

米州開発銀行(IDB)は中南米・カリブ(LAC)加盟諸国の経済・社会発展に貢献することを目的として、1959年に設立されました。IDBの活動を補完しLAC加盟諸国の民間企業に対する投融資を通じて域内経済の発展に寄与することを目的とする米州投資公社(IIC)、民間投資を促進するため技術協力や零細・中小企業育成等を行うため設立された多数国間投資基金(MIF)と合わせて、米州開発銀行グループと呼びます。

初のIDB米国人総裁選出の背景にあるのは中国の存在です。中南米は米国の「裏庭」とも呼ばれてきましたが、近年は貿易や投融資で中国が影響力を強めてききました。仮に、中国と関係が近い国から総裁が選ばれれば、IDBでの米国の力が下がる可能性があると警戒したと見られます。

中国はIDBに2009年に加盟しました。IDBは19年3月に中国・成都で年次総会を開く予定をたて、米国が反対して延期したこともあります。

60年に業務を始めたIDBは中南米の経済発展を支援してきました。05年から総裁を務めるコロンビア出身のモレノ氏の任期は9月末で満了します。

ラテンアメリカは地理的に米国に近く、歴史的に米国の影響範囲内にあります。ラテンアメリカでは20世紀半ばに共産主義が横行し、社会主義政権がいくつか誕生しましたが、米国に脅威をもたらすほどにはなりませんでした。

しかし近年ラテンアメリカに広がる中国共産党の浸透は、米国にとって深刻な脅威です。中国共産党は中国の市場、投資、軍事援助に依存する国家の政策を左右し、米国と対立させることも可能です。

     トランプ政権初期のラテン・アメリカ政策は「米国第一」で
     敵・味方を峻別 中露の影響力増大に懸念もあがっていた

中国共産党が建設した運河、港湾、鉄道、通信インフラは、すべてグローバルな覇者となるために将来利用する重要な道具なのです。

 一方 米国の対中南米関与は、トランプ大統領による、ブラジル、メキシコ、コロンビアなど 特定の国との個別外交に留まっています。その結果、中南米諸国の間で分断が引き起こさ れています。

例えばOECDへの加盟支持を巡って、米国がアルゼンチンからブラジルに鞍替 えしたことによって両国の分断を招きました。米州開発銀行(IDB)の総裁選挙でも、中南米諸国の分断が顕著となりました。

先にも掲載したように、 トランプ政権は、これまで中南米諸国出身者が務めてきた同ポストにトランプ政権高官を擁立しまし た。域内28カ国のうち、ブラジルやコロンビアを含む23カ国が米候補を支持した一方で、 アルゼンチンなど5カ国はコロナ禍を理由に総裁選の延期を主張し、分断された中南米 諸国は対抗馬の擁立に至りませんでした。

クラベルカロネ新総裁は、IDBの融資拡大によっ て中国の域内進出の動きを阻むと発言している。 一方で中国は、米国がもたらした中南米諸国の分断化の隙間を埋めつつあります。中国外相 はメキシコ外相と共に7月22日、新型コロナウイルス対応を巡る中国と中南米諸国のビ デオ会議を開催し、アルゼンチン、チリ、コロンビアを含む域内13カ国の外相が参加し ました。

中国政府は、自国で開発されたワクチンを中南米諸国が入手しやすくなるよう10億 ドルの融資を提供する計画を発表し、域内諸国との友好な関係構築を印象付けました。 中国は二国間でも、マスクや医薬品の供与、ワクチン開発協力によって影響力を拡大しています。

ブラジルでは現在、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が最終 治験段階で最も進んでおり、サンパウロ州知事によると早ければ12月中に実用化し、 2021年2月末までに6,000万回分の投与が可能とります。

ボルソナーロ大統領の息子エドゥ アルド下院議員は3月、新型コロナウイルスの感染拡大を中国の陰謀だとSNS上で発言。 これに対し副大統領や下院議長が批判した他、現地主要紙も否定的に取り上げるなど、 世論は中国に肯定的な動きを見せています。

米州開発銀行(IDB)新総裁クラベル カロネ氏は来月1日付で総裁(任期5年)に就任することが決まる一方、同氏はすでに1期しか務めな い方針を明らかにしており、異例の形でIDBの運営が行われることになるります。

他方、同氏はこれまでア ジアに生産拠点を構える米企業に対して、米国や中南米、カリブ地域への移転を促す『米州への回帰』 を促すイニシアティブを主張してきたほか、その実現に向けて企業に対する融資を強化する考えをみせ てきましたが、今後はIDBがそうした政策の『旗振り役』となることも予想されます。

 昨年6月G20での米トランプ、ブラジル ボアソナロ両大統領の会談


また、米トランプ政 権がIDB総裁人事に触手を伸ばした背景には、上述のようにIDBを通じて中国が中南米諸国に対す る影響力を強めてきた上、中国とブラジルが加盟する新開発銀行(NDB:いわゆるBRICS銀行)、 多数の中南米諸国が加盟するアジアインフラ投資銀行(AIIB)などを通じて中南米諸国への支援を 活発化させてきたことが影響しています。

こうしたなか、米トランプ政権としてはIDBに資源を集中さ せることで中南米諸国への影響力を強化させることを狙ったとみられる一方、11 月に米国では次期大統 領選が予定されており、仮にトランプ大統領が再選を果たせなかった場合にトランプ大統領との距離が 極めて近しいクラベルカロネ次期総裁の立場が如何なる状況になるかは見通せません。

その意味では、中 南米諸国に対する米国の『トランプ流外交』は一段と強まることで同地での米中対立の激化が予想され る一方、その行く末については大統領選の行方がカギを握る展開が続くでしょう。

これ以上のことは、大統領選挙次第ということで、大統領選挙が終了した段階で、また論じてみようと思います。

ただ一ついえるのは、中国共産党は世界中で浸透工作をしていますが、それには莫大な経費と時間がかかります。このようなことは、永遠には続けられないでしょう。旧ソ連も世界中で存在感を増そうとして、浸透しましたが、米国も似たようなことをしていましたが、結局経済的にも軍事的にもはるかにまさる米国に敗北しました。

それを考えると、やはり米国の最優先順位はやはり、現在では中国でありアジアということに変わりはないでしょう。米国としては、中国の脅威が中南米でこれ以上高まらないように対処するということになるでしょう。積極的に中南米に強力に関与することにはならないでしょう。これは、次に誰が大統領になろうと変わることはないでしょう。

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