2020年10月9日金曜日

立場の違いが明確に、埋められないEUと中国の溝―【私の論評】EUは、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与すべき(゚д゚)!

 立場の違いが明確に、埋められないEUと中国の溝

EUが対中包囲網に加わる流れが濃厚に

EU首脳と習近平・中国国家主席の間で行われたビデオ会議(2020年9月14日)


(澁谷 司:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長)

 今年(2020年)9月14日、習近平主席は、メルケル・ドイツ首相や他の欧州連合(以下、EU)首脳らとビデオサミットを開催した。メルケル首相に加えて、ウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(ドイツキリスト教民主同盟所属)とシャルル・イヴ・ジャン・ギスレーヌ・ミシェル欧州理事会議長(元ベルギー首相)も出席した。

 このサミットでは、中国とEUの立場の違いが鮮明になっている。周知の如く、中国は米国との関係が悪化した。そこで、北京はEUとの良好な関係維持を模索している。他方、EUは中国の香港やウイグル等での人権抑圧を批判しながらも、同国との経済関係維持を望んでいた。

人権問題に関して異なる見解

 アメリカの国営放送局のサイト『美国之音(VOA:ボイス・オブ・アメリカ)』(2020年9月15日付)に掲載された趙婉成の「EU-中国首脳会議は多くの困難な問題に直面」という記事が興味深いので紹介したい。

 同会議前、参加各国は相手国の輸出品を保護するため、地理的表示が明らかな食品・飲料に関する協定に署名した。

 例えば、スパークリングワインについて、中国はフランス・旧シャンパーニュ地方産のみ、その名の使用を許可する。協定で保護された他の製品には、アイリッシュウイスキー、イタリアのパルメザンハム、ギリシャのフィタチーズ、中国四川省成都市郫都区の豆板醤(とうばんじゃん)、同浙江省湖州市安吉県の白茶、同遼寧省盤錦市の米などがある。

 昨2019年、中国はEU内で第3位の農産物・食品輸出国だった。その輸出額は145億ユーロ(約1.8兆円)に達する。

 今回の会談では、人権問題が最も扱いにくいテーマだった。目下、香港・新疆等をめぐり、中国と欧州の見解の相違が日増しに深まっている。そのため、EU諸国の北京への対応が強硬になった。

 例えば、今年8月26日、EUは香港の警察が林卓廷(Lam Cheuk Ting)民主党議員など民主活動家数十人を逮捕したことを指弾した。また、EUは新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する中国の弾圧に抗議している。

 他方、中国は世界最大の温室効果ガス排出国である。そこで、EUは中国が温室効果ガス削減に関して、さらに大きな国際公約を宣言し、遵守することを望んだ。

 なお、EU委員会は今年6月に発表した報告書では、新型インフルエンザが武漢で発生した際、中国共産党がソーシャルメディアを利用して嘘の情報を流したと論難した。確かに、習近平政権は、偽情報で中国のイメージを改善しようと試みている。

 以上が概要である。

 農産品については、中国とEUともに、一定の成果を上げたと考えられよう。しかし、人権問題に関しては、両者の溝が埋まることはなかった。

EUが米中間で中立を維持することは不可能

 次に、同じく『美国之音(VOA)』に掲載された樊冬寧の「話題の対話:習近平の“連欧で米を制す”に対し、トランプは中東カードを使用か?」(2020年9月18日付)という記事も面白いので、紹介しよう。

 まず、上海の復旦大学中国研究所研究員、宋魯鄭は「中国はEUにとって軍事的脅威とはなり得ないので、双方に地政学的な対立はないだろう。もしEUが中立を維持すれば、米国と中国の両方から利益を得ることができる」と主張した。

 一方、政治評論家の陳破空は、今度の中国・EU首脳会議は北京政府にとって思惑通りに事が運ばなかったと指摘している。EUの指導者たちは北京に対し、人権・ウイグル・香港問題などを非難した。だが、習近平主席はEUにとって肯定的な反応を示さなかったのである。

 また、陳はEUが米中の間で中立を維持することは不可能だと喝破した。同首脳会議では人権問題以外、他の主要議題でも、EUと米国の立場が一致している。

 例えば、市場アクセス、市場開放など、欧州は中国商品に常に門戸を開いているが、中国は欧州の資金と商品に制限を設けている、と陳は指摘した。

 さらに、陳は、欧州は会談直後、新疆とチベットの問題を取り上げた。ドイツの外相らは、米国と類似した方式で、「ドイツ版インテリジェンス戦略」を提示したと述べた。

 以上が概略の一部である。

さらに深まったEUと中国の溝

 今回のビデオサミットで、習近平主席はEUを利用して中国の“四面楚歌”状況を打破したいという狙いがあった。けれども、香港を含む中国国内の人権問題で、中国とEUは鋭く対立し、両者の溝はさらに深まった観がある。

 「新型コロナ」後、習近平政権は「戦狼外交」を展開したが、外交的手詰まり状態に陥った。そこで、今年9月下旬から10月初めにかけ、王毅外相が外交的突破口を開くため、欧州5カ国を訪問した。だが、王が香港での市民弾圧やウイグルの人権抑圧等で仏独から弾劾されている。

 今後、習近平政権が人権問題で政策転換をしなければ、EU諸国は、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与するに違いない。

[筆者プロフィール] 澁谷 司(しぶや・つかさ)
 1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。2020年3月まで同大学海外事情研究所教授。現在、JFSS政策提言委員、アジア太平洋交流学会会長。
 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

【私の論評】EUは、米国が仕掛けた“対中包囲網”に深く関与すべき(゚д゚)!

中国との対決をずっと拒否し政治的に無作為だった欧州の指導者たちが、ついに立ち上がり始めたようです。ここ数年、ニュースの見出しを飾ってきたのは圧倒的にトランプ大統領と米中貿易戦争でした。

しかし、世界最大の貿易ブロックである欧州連合(EU)も米国と同様、中国には数々の不満を抱いており、欧州のモノやサービスに対して中国は非常にねじ曲がった貿易慣行や制限を課しています。新型コロナウイルスで欧州諸国が高い犠牲を払っていること、そして中国が欧州の不運につけ入り利益を得ようしていることが、多数の欧州指導者に行動を促すきっかけとなりました。

在中国の欧州企業関係者にとって、中国市場の競争条件の不公平さは周知のことで、企業グループやシンクタンクによる多くの報告書は何度となくこの問題を強調してきたのですが、欧州は従来、米国と比べて対決的な役割はあまり演じない道を選んできました。

EUは昨年から中国を「体制上のライバル」と呼び始めましたが、積極的な反発は限られたものでした。

その理由の一つは、EUのガバナンス構造に内在する弱点にあります。欧州は国ではなく地理上の圏域であり、EUも国家ではなく、英国離脱前は28、現在は27の加盟国をまとめている超国家的な組織です。

何事も全加盟国のコンセンサスがなければ実効性を持たないのです。共通通貨ユーロを使わない国もまだあります。全加盟国に国境を開放する国もあれば、そうでない国もあります。経済的に重要であることは確かですが、意見が一致した組織ではなく、実際のところ中国に関しては一致していませんでした。

中国については、積年の経済問題や市場アクセスに加えて、政府による人権侵害の拡大が欧州にとって無視できないほど深刻になってきています。チベットおよび東トルキスタンとして知られる新疆ウイグル自治区での文化的虐殺、台湾を国際舞台で孤立させようとする理不尽な要求、香港での厳しい弾圧と国家安全維持法の導入は目に余るものとなり、欧州の指導者たちは声を上げるようにりました。

これらの懸念に加えて、欧州の政策の中心である気候変動や持続可能なエネルギーの分野でも、かつて重要なパートナーと思われていた中国は約束を守らず、国内外で石炭ベースのエネルギー生産を拡大し続けています。

そして、最近の出来事により欧州の対中認識が一段と硬化しました。欧州の中国に対する政策が徐々に米国に歩み寄る中で、この8月には中国の王毅外相が欧州各地を歴訪して、「ご機嫌取り」の攻勢をかけ、一定の親善関係を形成しようとしたためです。

王毅氏は、ご機嫌を取ることには失敗したのですが、その攻勢は非常に強力でした。王毅氏のやり方は、意に沿わないことに直面するとホスト国を脅すことでした。ノルウェーでは、香港に関連した抗議活動家や抗議グループへのノーベル平和賞の授与が脅しの対象になりましたた。

中国の王毅外相は欧州5カ国を歴訪し、ノルウェーのスールアイデ外相(右女性)らと会談

ドイツではハイコ・マース外相との共同記者会見で、チェコ上院議長の台湾訪問について、チェコは「高い代償」を払うことになると語りました。これは即座にマース氏の非難を招き、マース氏は王毅氏に対し、「脅しはここにふさわしくない」と述べ、欧州では国家間の関係についてそのような振る舞いはしないと指摘しました。

フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース最高経営責任者が、新疆ウイグル自治区の収容所について知らないと発言した18か月前とは様変わりです。こうした欧州の新しい雰囲気は新鮮な息吹です。

これまで欧州の指導者たちが政治面や経済面で中国に対抗しようとしたときでさえ、足並みの乱れがあったため、その内容は限られていました。EUの枠組みの性格上、中国はドイツの産業界の首脳らにエネルギーを集中しました。

これは昨日もこのブログに掲載したばかりですが、ドイツも対中輸出への依存度が高く、最大の顧客である中国を批判することには消極的でした。中国はまた、中・東欧17か国と中国からなる経済協力の枠組み である「17+1」 のような、より小さな欧州諸国グループの同盟を構築しようとしています。

このグループは最近ギリシャを加えて拡大されましたが、ギリシャへの大規模な港湾投資以外は投資や大規模プロジェクトに関してこれといった見るべきものはありません。しかし、こうした諸国へのアプローチが友人を増やし、ハンガリーとギリシャの両国は中国を批判しようとしたEUの声明の表現を弱めさせる役割に回りました。

しかし、そのような「友情」ははかないものかもしれないです。これらの欧州諸国は、中国への真の親近感からというより、EU主要国による扱われ方への不満を示す手段として中国を見ている可能性がありまか。

欧州内部の足並みを乱す上での中国の最大の成果は、中国流のグローバリゼーションである「一帯一路構想」にイタリアが参加したことです。イタリアはEUの創設メンバーであり、「一帯一路構想」に参加した唯一の欧州先進国であることからみれば、確かに中国にとっては成功ではあります。しかし長続きはしないでしょう。

欧州の指導者は「体制上のライバル」である中国の脅威への対処は遅れたかもしれないです。しかし、イタリアの「一帯一路構想」への参加や、ギリシャの海運と港湾インフラへの大規模な投資、それに今年の新型コロナウイルス発生後の誤った情報やあからさまな嘘によって、欧州は中国と対処するに当たって疑念を抱かざるを得なくなりました。

英国のEUからの離脱も、中国対欧州の構図の上で複雑な問題です。10年前、英国のデービッド・キャメロン首相とジョージ・オズボーン財務相は経済と投資を中国政策の中心に据え、中英関係の黄金時代の幕開けを両国は歓迎しました。

EU離脱派の見解は異なりますが、現実には英国はEU内において特に単一市場確立の推進役であり、EU内部の議論の際には多くの国、特に北欧諸国が英国によって追い詰められました。英国はもはやEUのメンバーではなく政策に直接影響を与えることもできないです、今は中国に対して批判の急先鋒です。

英国 ボリス・ジョンソン首相

5G導入を巡るファーウェイに対する英国の態度の急変は中国にショックを与えましたが、それだけでなく英国は香港の保護についても驚くほど強硬な立場を取りました。300万人にも上るかもしれない香港市民に英国市民権の道を開こうとする英国の姿勢は、中国を激怒させています。

欧州が対中行動に消極的なのは、多くの欧州人、特に政治エリートがドナルド・トランプ氏を嫌っているからです。中国に関して欧州と米国は共通の不満を抱えているが、「アメリカ・ファースト」の政策は、欧州にもトランプ大統領の怒りの矛先が向いていることを意味します。

中国に対抗しようとすれば、トランプ大統領やポンペオ国務長官の側についたとみなされがちで、これはほとんどの欧州指導者が望んでいませんでした。彼らは国家レベルの懸念は理解していたものの、トランプ氏のアプローチのレトリックと態度が不愉快だったのです。

欧州の指導者は、訪欧したポンペオ国務長官から自国ネットワークでのファーウェイ使用を禁止しないなら米国の情報・軍事の協力から外されると言われた際に、脅しに応じて動いたと思われたくはなかったのです。たとえファーウェイを巡る安全保障上の懸念に加え、競合関係にある欧州のエリクソンやノキアの中国市場へのアクセスが非常に制限されていることは認めるにしてもです。

米国とEU(英国を含む)の対中政策が近づきつつある中で、両者にはなお大きく相違する部分があります。米中の第1段階の貿易合意で欧州は動揺しました。合意は開かれた自由貿易の考え方に逆行し、米国が中国の膨大な需要を囲い込むことにより、欧州の企業や産業にとって不利になると受け止めたからです。

これと同様に重要なことがある。米中間のいかなる貿易合意とも矛盾しているように見えるものですが、それは両国経済を切り離すデカップリングの問題です。

王毅外相の訪欧は、ここ数か月にわたる欧州での中国への反発を受けて、親善関係を回復するとともに、中国共産党の習近平総書記とEU議長国であるドイツのアンゲラ・メルケル首相とのオンライン形式の会議を前に、その土台づくりをするのが狙いでした。

メルケル首相の6か月間の輪番制EU議長国職は間もなく任期が終わります。習氏はまた、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長や欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長ともビデオ会談をしました。習氏は王毅氏のように反感を引き起こすことはありませんでしたが、ほとんど成果はありませんでした。

貿易と投資環境の改善を重視したい人たちもいますが、長期にわたって未決着の包括的投資協定(CAI)については、中国側になすべき大きな課題があります。中国は経済の在り方を根本的に変える必要がありますが、それが実現すると考えている人はまずいないでしょう。

 習氏の厳格な支配の下で、国家と党は経済のあらゆる分野にその力を押し付けてきました。これに関して習氏の立場を変えるものは何もありません。彼は相互利益や共有された未来などについて立派な発言をするかもしれないいですが、実態は何も変わらないでしょう。

習氏は国際社会が望んだものを何も提供できないですが、彼は、世界は変化しており、その変化は中国にとって好ましい方向でないことを知っておかなければならないです。欧州は、中国による国際規範を踏みにじる行為についてようやく口にし始めましたが、言葉の変化は始まりにすぎないです。

昨年末に就任したばかりのジョセフ・ボレルEU外務・安全保障上級代表は、世界で独裁的な政権が増えている中、米国とEUの対話の必要性と、同じ志を持つ民主主義国と協力する必要性を提案しています。ボレル氏はロシア、トルコ、中国に明示的に言及しています。

ジョセフ・ボレルEU外務・安全保障上級代表

問題は、EUがそのようなグループをつくり、大統領であるトランプ氏とともに意味のある政策を策定できるかどうかです。 それとも、中国に対するEUと米国の姿勢の歩み寄りは、欧州指導者の個人的な好みにより近いバイデン氏の大統領就任にかかっているのでしょうか。

 今の段階では誰にも分かりません。 欧州が直面している問題は、中国との対決の必要性はあと4年も待っていられないということです。欧州は早急に行動を起こす必要があり、米国と行動を共にすべきです。

新型コロナウイルスの世界的大流行は、今後何年にもわたって経済的、政治的ショックをもたらすでしょう。志を同じくする民主主義諸国の協力が不可欠です。中国はもはや欧州で自由に振る舞えず歓迎もされないでしょう。時代は変わったのです。

しかし、特定の取引や個別の発言を制限したり、国際社会での悪弊を非難したりすることは、世界最大の貿易ブロックにふさわしい対中政策ではありません。欧州は中国に関してこれまでとは異なるスタイルで関わったり対抗したりできるはずですが、現状はそうした動きとほど遠いです。

欧州はボレル氏の提案を実行に移し、米国との間で分断ではなく一層の団結を実現しなければならないです。特に中国の台頭に対応するためにはそれが必要です。

特にEU内でも、ドイツ、フランス等にとっては、中国は大きな脅威にはならないかもしれないです。きっと自ら防ぐことができるでしょう。しかし一方で、中国は欧州の東欧や中欧等の比較的経済に恵まれない国々の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は経済・軍時的にも弱く、市民社会も比較的弱く、他国に介入されやすいからです。それこそがEUにおける大きな危機です。

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