2020年10月6日火曜日

アゼルバイジャンとアルメニアで因縁の戦いが再燃した訳―【私の論評】周辺諸国や米国がこの紛争に中途半端に介入し続ければ、混乱を増すだけ(゚д゚)!

 アゼルバイジャンとアルメニアで因縁の戦いが再燃した訳

A War Reheats in the Caucasus

<ナゴルノカラバフの帰属をめぐる長年の紛争が解決されぬまま暴発を繰り返す背景と歴史>

9月下旬に始まった軍事衝突は沈静化の糸口が見えない(写真は29日、砲撃するアルメニア軍)

アルメニアが実効支配するアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州で両国の軍隊が衝突し、にわかに緊張が高まっている。

両国はいずれも旧ソ連の共和国だが、ナゴルノカラバフの帰属をめぐってソ連崩壊前から対立。ここ数年も小競り合いが多発していた。ただ、今回の衝突は1990年代のような全面戦争に発展しかねない。詳しい背景を探った。

過去の全面戦争とは?

同自治州の独立宣言に伴い、1992年から94年まで続いたナゴルノカラバフ戦争のことだ。欧米ではあまり知られていないが、この戦争では民族浄化の嵐が吹き荒れ、約3万人の死者と100万人の難民が出た。うちざっと7割はアルメニアの占領地から逃れたアゼルバイジャン人だ。


ナゴルノカラバフは現地語で「山岳地帯の黒い庭」を意味する。その名のとおり美しい高原地帯で、アルメニア人、アゼルバイジャン人双方がこの地に愛着を抱いている。

アルメニア人がこの地域の住民の多数を占めるが、ロシア革命後、後にソ連共産党となるボリシェビキがこの地域をアゼルバイジャン共和国に編入した。アルメニアとアゼルバイジャンがソ連の共和国だった時代には、そのことはあまり問題にならなかった。アゼルバイジャン共和国内には多くのアルメニア人が住み、逆にアルメニア共和国にも多くのアゼルバイジャン人が住んでいたからだ。

アルメニア人の多くはキリスト教の正教徒で、アゼルバイジャン人の多くはイスラム教シーア派だが、ソ連時代には宗教は公認されていなかったため、信仰の違いもさほど問題にならなかった。だが1980年代にソ連の統制が緩むと、ナゴルノカラバフにいるアルメニア人がアゼルバイジャンの支配に抗議の声を上げ、アルメニアへの編入を求めるようになった。

1988年には民族的な対立が激化。アゼルバイジャンの首都バクー北部の都市スムガイトでアゼルバイジャン人がアルメニア人を襲撃し、多数の死者が出る事件も起きた。

1991年にソ連が崩壊すると、ナゴルノカラバフは一方的にアゼルバイジャンからの独立を宣言。アゼルバイジャン、アルメニア共にこの地域の領有権を主張して譲らず、世論は主戦論にあおられ、戦争突入は不可避の事態となった。

悲惨を極めた戦争は時には喜劇の様相も見せた。ソ連軍が解体されたため、膨大な数のロシア人の傭兵が生まれ、アゼルバイジャン側とアルメニア側に分かれて戦った。一夜にして敵側に寝返る者もいた。

当初は劣勢だったアルメニアが終盤で優位に立ち、1994年にロシアの仲介で停戦が成立。ナゴルノカラバフはアルメニアの実効支配下に置かれた。

アゼルバイジャンはすんなり負けを認めたのか

その逆だ。敗戦は深いトラウマを残した。自治州を失い、そこに住んでいた同胞がアルメニア軍に追い出されたからだけではない。アゼルバイジャンの人口はアルメニアの約3倍。国の大きさでも国力でも格下の相手に負けたのは耐え難い屈辱だった。

そのためさまざまな陰謀論が飛び交い、アメリカがひそかにアルメニアを支援したという説まで流れた。実際には、徴集された兵士から成るアゼルバイジャン軍は志願兵で構成されたアルメニア軍に比べ士気が低かったことが大きな敗因だ。加えてロシアもアルメニア側へのテコ入れを強め、武器を提供し、軍事訓練を行っていた。

アゼルバイジャン人の遺恨の深さを物語る悪名高い事件がある。2004年にNATOがハンガリーの首都ブダペストに非加盟国の将校を集めて英語訓練セミナーを行った。アルメニアとアゼルバイジャンもこれに参加。夜に参加者が宿舎で寝ているとき、アゼルバイジャンの将校ラミル・サファロフがアルメニアの将校をおので殺し、ほかのアルメニア人も殺そうとした。

これだけなら常軌を逸した個人の犯行にすぎなかっただろう。だがアゼルバイジャンはハンガリーで終身刑になったサファロフの身柄引き渡しを要求。8年後に連れ戻すと大統領が即座に恩赦を与え、少佐に昇格させて住居と未払いの給与を与えた。アゼルバイジャン大統領府の外交部トップはサファロフを「母国の名誉と国民の尊厳を守って投獄された」英雄とたたえた。

なぜ何も解決しないのか?

交渉でより強い立場を維持して、武力侵攻という疑惑をかわすために、アルメニアはナゴルノカラバフを自国の領土に組み込むのではなく、名目上の独立共和国としてきた。ただし、「アルツァフ共和国」を名乗る傀儡国家は、国際的にほとんど承認されていない。

アメリカとロシアは、恒久的な解決策を探る上で重要な役割を演じてきたが、長年の努力も無益なままだ。アメリカに関しては、アルメニア系アメリカ人のロビー団体がそれなりに影響力を持っているが、アゼルバイジャンもアメリカの石油会社との関係に多額の投資をしている。

公式には、2000年代半ばから「マドリード原則」に基づく交渉が進んでいる。アルメニアが占領地を放棄して、難民は故郷に戻り、紛争地域の住民の権利が保障されて、最終的に領土の帰属問題が解決されることを目指す。

ただし、双方とも主張を曲げるつもりはない。特に、いずれの国も指導者が権力を維持する上でナショナリズムが非常に重要な役割を果たしており、妥協には国民が強く反対している。

「アルツァフ共和国」の首都ステパナケルトのシェルター

今年に入って事態が悪化した原因は?

具体的な要素はいくつかある。夏から国境付近で小競り合いが続き、互いに相手が先に仕掛けてきたと非難している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で社会のストレスが高まり、経済は破綻しかけていて、政治家はいつも以上に愛国心を前面に押し出している。

新たな戦争が起きれば事態は変わるのか?

アゼルバイジャンがナゴルノカラバフを奪還することはなさそうだ。最初の交戦では双方に犠牲者が出たが、アルメニアが発表した映像を信じるなら、物理的な破壊の被害はアゼルバイジャンのほうがはるかに大きい。

独立機関の評価では、アゼルバイジャンの軍備はいまだに貧弱だ。兵士の士気は低く、腐敗し、非効率的で、脱走率は20%近くに達する。

2008~14年は石油収入で新しい装備に巨額の資金を投入したが、原油価格が暴落。政治の混乱と残忍な弾圧が続くなか、アゼルバイジャンは財政的な苦境に立たされている。

アゼルバイジャンが予想外の猛攻撃に出ても、ロシアによる直接的な介入を招き、短期間で停戦を余儀なくされる可能性が高い。ロシアと、両国と国境を接するイランなどは仲介を申し出ている。

一方で、紛争の拡大も懸念される。特に、トルコはアゼルバイジャンを強く支持している。トルコ人はアゼルバイジャン人と文化や経済など結び付きが強く、アルメニア人とは長年対立してきた。1915年にオスマン帝国で起きたアルメニア人のジェノサイド(大量虐殺)をトルコは今なお否定しており、両国の関係は険悪だ。

当初の紛争に見られた宗教的側面は、民族主義的な熱狂に比べると控えめで、ナゴルノカラバフがチェチェンのようなジハード(聖戦)の大義になったことはない。過去には約2000人の元ムジャヒディン(アフガニスタンのイスラム・ゲリラ組織)がアゼルバイジャン側で戦ったが、主に経済的な理由からだった。しかし、それも今回は変わるかもしれない。

とはいえ、最も可能性が高いのは、小規模かつ痛みを伴う戦争の後に、未解決の停戦状態が続く筋書きだろう。今回の戦闘の犠牲者の大半は、紛争が始まったときは生まれてさえいなかったのだが。

From Foreign Policy Magazine

【私の論評】周辺諸国や米国がこの紛争に中途半端に介入し続ければ、混乱を増すだけ(゚д゚)!

アゼルバイジャンとアルメニアはともにコーカサス地域に属する国々です。日本にいると、コーカサス地域のニュースを聞く機会はめったにないです。「コーカサス」で思いつくのはジョージア出身の力士や、長寿にいいと言われるヨーグルトなど、ごく限られたものではないでしょうか。


ところが、陸路でアジアからヨーロッパをつなぐ要衝にあるコーカサスの3か国には近年、日本も関与を深めています。アゼルバイジャンのエネルギー開発には日本企業も投資しているほか、アゼルバイジャンからジョージアを通り黒海に抜ける約460㎞の国際幹線道路の整備事業にも日本が参加しています。


コーカサス地方


2018年には河野太郎外相がコーカサス3か国を歴訪、「コーカサス・イニシアチブ」を発表して人材育成やインフラ整備分野での支援を促進する方針を表明しました。


中国が広域経済圏構想「一帯一路」を推進するべくコーカサスでの存在感を増している中、この地域で歴史的に負の遺産を持たない日本は、いずれの国からも信頼できる友として歓迎され、良好な関係を保っています。


これら3か国との友好関係の深化は、ユーラシア全体の平和と安定にも影響するため、日本の存在感を示す好機にもなります。


また、日本のエネルギー自給率は1割程度にとどまっています。石油、天然ガス、石炭の化石燃料が全体の8割を占めており、エネルギーの安定供給が喫緊の課題です。エネルギー安全保障に必要な供給源の多角化の観点からも、この地域の重要性は無視できません。


ナゴルノ・カラバフ紛争の和平に関与してきた米露両国は、今回の交戦を受け、即座に停戦を呼びかけましたた。米国が懸念しているのは、二か国間の緊張やエネルギー資源そのものよりも、EUにおいてロシアの影響力が拡大することです。

EUの天然ガス総輸入量の約4割はロシアからです。ロシアのエネルギー輸出は、「純粋なビジネス」という見方もある一方で、米国は「エネルギーの政治利用」を強調します。コーカサスの緊張でこの地が不安定化し、パイプラインのオペレーションにも悪影響が出れば、EUのさらなるロシア依存を招きかねないという強い懸念があります。

当のEUは、米国と異なり、地理的にも歴史的にも関係の深いロシアをEU経済から排除することはできないのが現実です。特にドイツでは、脱原発に向け安価なガスの供給源確保が課題となっており、現に、ロシアからの天然ガスをバルト海経由でドイツに運ぶパイプラインの完成が間近に迫っています。

米国はこうした動きに対し、2017年に成立した対露制裁法に基づき、段階的に制裁を発動。今回の武力衝突と時を同じくし、ポンペオ米国務長官は「米欧の安全保障の脅威に対し、我々はあらゆる措置を講じる」と述べ、同パイプライン計画への更なる制裁強化を警告しました。ロシアへのけん制とEUへの圧力と取れますが、その裏には、米国内でだぶついている液化天然ガスをEUに輸出したい思惑もあるようです。

アゼルバイジャン人はトルコ系で言葉が通じ、ソ連崩壊後、関係を強化してきました。最近も7~8月、アゼルバイジャンでトルコ軍は合同演習を行っていました。9月27日の開戦直後からトルコはアルメニアを非難しており、アゼルバイジャンを背後から支援しているとみられています。

ロシアとトルコはすでに、シリアとリビアの内戦で対立する立場を取っており、アゼルバイジャンとアルメニアが本格的な紛争に巻き込まれれば、コーカサス地方で新たな代理戦争が起きる可能性も排除できません。

イスラエルは、最大の敵であるイランを封じ込めるためにアゼルバイジャンとの良好な関係を維持したがっています。

同じ理由で、米国は2016~17年の約300万ドルだったアゼルバイジャンへの安全保障関連投資を、2018~19年には約1億ドルに引き上げた。アルメニアが2018会計年度にアメリカから受け取った安全保障支援金は420万ドルだけです。

そのため、ナゴルノ・カラバフの状況は、アメリカとイランの対立に関わってきます。イラン政府は冷静さを求め、和平交渉の仲介役を申し出ました。イスラエルと米国があらゆる手を使ってイランの外交的影響力を弱体化しようとしているなか、イランにしてみればこの紛争は、自国の影響力を拡大する格好の手段となるでしょう。

このように、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争には、米国や近隣諸国の様々な思惑がからんでいるのです。

以前述べたように、ロシアのGDPは今や東京都なみであり、米国抜きのEUとも本格的に対峙することはできません。しかし、コーカサス地域は、経済的に豊かな国はなく、ロシアにとっては比較的に関与しやすいです。ただし、本格的な介入はできないでしょう。その上、現在の米国は中国との対峙を最優先しているので、この地域にはあまり関わりたくはないでしょう。

現在の米国、ロシア、トルコ、イスラエルなどがこの紛争に関われば、中途半端な介入しかできません。それを継続すれば、以前もこのブログに掲載したように、この地域の混乱を増すばかりになります。

【関連記事】

0 件のコメント:

「バイデンはウクライナを邪魔するな」ロシア製油所へのドローン攻撃に対する停止要求は不当―【私の論評】バイデン路線の致命的失敗 、ウクライナ放置とエネルギー政策の無策で同盟国は大混乱

 「バイデンはウクライナを邪魔するな」ロシア製油所へのドローン攻撃に対する停止要求は不当 岡崎研究所 まとめ ウクライナがロシアの主要な製油所を自国のドローンで攻撃し、ロシアの戦争遂行能力を10~14%破壊した。 バイデン政権がウクライナにこうした製油所攻撃の停止を求め、石油価格...