2020年9月26日土曜日

“忍者ミサイル”で過激派幹部を暗殺、米特殊作戦軍、アルカイダを標的―【私の論評】中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつある(゚д゚)!

 “忍者ミサイル”で過激派幹部を暗殺、米特殊作戦軍、アルカイダを標的

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 ニューヨーク・タイムズ(9月24日付)などによると、米統合特殊作戦軍はこのほど、国際テロ組織アルカイダのシリア分派「フラス・アルディン」の幹部をドローン搭載の通称“忍者ミサイル”で暗殺した。このミサイルは爆弾の代わりに長い回転刃で標的を切り刻むという特殊兵器。米軍はテロリストとの「影の戦争」に新兵器を本格投入し始めた。

ドローン リッパー

6枚の回転刃を放出

 同紙の報道について、国防総省スポークスマンは攻撃が9月14日にシリア北西部イドリブ近くで実施されたことを確認した。米国の対テロ当局者や現地の人権監視団体などによると、殺害されたのは「フラス・アルディン」幹部のサイヤフ・チュンシというチュニジア出身のテロリストで、西側への攻撃計画の首謀者とされる。

 米軍のドローン「リーパー(死神)」が「R9X」と命名されたヘルファイア・ミサイルを発射し、殺害した。通常のヘルファイア・ミサイルには弾頭に約9キロの爆薬が装着されているが、「R9X」は弾頭を爆発させる代わりに、6枚の回転刃が付いた金属物体を放出、これによって標的はズタズタに切り刻まれる仕組みだ。

 この兵器はほぼ10年前に開発され、今回は最近の3カ月間で2度目の使用。1度目は6月に同組織の事実上の指導者だったハリド・アルアルリをシリアで殺害した。この他、これまでに統合特殊作戦軍と中央情報局(CIA)がイエメンやシリアで過激派の暗殺に使ったが、実戦に投入された回数は6度ほどにとどまっている。

 残虐とも思われるこの兵器は米軍の過激派攻撃で民間人の死傷者が増えたため、オバマ前大統領が民間人の巻き添えを最小限に食い止める兵器の開発を指示して生まれた。一般的に多数の過激派を一挙に掃討する場合は通常のヘルファイア・ミサイルが使われ、少数を標的にするケースに通称“忍者ミサイル”の「R9X」が使用されるという。

 統合特殊作戦軍は今後も、シリア、アフガニスタン、イエメン、イラクなどの過激派殺害に「R9X」を使用すると見られているが、最近アフリカ軍がケニアでのドローン攻撃を容認するよう、国防長官とトランプ大統領に要求していると伝えられており、同ミサイルの使用頻度が増える可能性がある。ケニアには隣国のアルカイダ系過激派「アルシャバーブ」が越境テロを繰り返し、1月には米国人3人が殺害された。

西側テロを画策する最凶組織

 殺害された幹部が属している「フラス・アルディン」は米国が最凶のテロ組織として狙い続けてきたグループだ。同組織は元々、アフガニスタンに潜伏していると見られるアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリが西側権益を攻撃させるためシリアに設置させたもので、当初は「ホラサン・グループ」と呼ばれた。

 シリアのアルカイダ分派だった旧ヌスラ戦線(現シリア解放委員会)がアルカイダと決別宣言した後、過激な思想を持つ面々が集まって2018年、「ホラサン・グループ」の後継組織として「フラス・アルディン」を立ち上げた。その後、米国の空爆によって大きな打撃を受けたものの、現在はイドリブ県に約2000人の戦闘員が残っているといわれる。シリア北西部はロシアが制空権を握っているため、米国の空爆に抑制が掛かったおかげで生き延びたようだ。

 同組織の存在が知られるところとなったのは昨年10月、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者だったバグダディが米軍の急襲によりイドリブ県で殺害された時だ。バグダディに隠れ家を提供していたのが「フラス・アルディン」の司令官だったからだ。ISとは犬猿の仲だっただけに、バグダディから用心棒代を受け取って匿っていたことに、世界中のテロ専門家らが仰天した。

 イドリブ県はシリア内戦で残った反体制派の最後の拠点だ。現在は全土制圧を目指すアサド・シリア政権軍がロシア軍機の支援で、同県への攻勢の機会をうかがっているが、トルコ軍がシリアに侵攻し、にらみを利かせているためアサド政権、ロシア、トルコが三すくみのような膠着状態が続いている。

 県内に立てこもる最大勢力はアルカイダとの関係を切ったと主張する「シリア解放委員会」で、その勢力は約3万人。またトルコが支援する反体制派「国家解放戦線」も同程度の勢力規模だといわれる。「シリア解放委員会」は自分たちの占領地域をISと同様に「国家」と呼び、同県の支配体制の強化を図っている。最近では、外国人の過激派追放に乗り出し、「フラス・アルディン」との間で交戦に発展、緊張が高まっている。

 シリアでは、内戦で家を失った難民が人口の半分以上の1400万人にも達し、イドリブ県の住民300万人のうち、100万人が難民化している悲惨な状況だ。だが、各勢力がそれぞれの権益確保に狂奔している現状では和平の展望は暗い。なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい。

【私の論評】中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつある(゚д゚)!

今回の「R9X」は、ドローンそのものではなくドローンから発射されるミサイルです。以下にわかりやすいイメージを掲載します。

ドローンの翼の下に装着された「R9X」

「RX9X」のイメージ  6ft.は6フィートで、約180cm
このミサイルの全長は身長180cmの人の肩辺りまでです

さて、冒頭の記事では、結論部分で「なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい」と締めくくっていますが、この考えはどうなのでしょうか。

私自身は、この考えは正しいようで間違いでもあると思います。現時点では、いずれが正しいかははっきりとはいえません。ただいえるのは、米国が中途半端に中東に関与するのは、決して良い結果をうまないであろうということです。

米国の戦略家ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』平和と戦争について以下のよう語っています。
平和な時代には人々は戦略問題を軽視し、近隣諸国の不穏な動きにも敏感に反応せず、日常の道徳観や習慣の方を戦略課題よりも優先してしまう。このために戦争のリスクが一気に高まる。また、戦争が始まると男達は戦争に野心やロマンを見出し、嬉々としてこれに参加しようとする。

しかし、戦争が一旦始まり、膨大な量の血と物資の消耗が始まると、最初の野心は疲弊と倦怠感に取って代わり、戦う気力はどんどんと失われていく。人々は遺恨や憎しみよりも平和を希求するようになるというわけだ。 
あるいは抗争中のどちらかの勢力が圧倒的な勝利を収めた際も戦争は終結する。破れた側に闘う力が残されていないためだ。戦争を本当の意味で終結させるのは膨大な犠牲を待たねばならない。つまり戦争が平和を生むのだ。

特に欧米の先進国が行う中途半端な人道支援という介入は戦争で疲弊する前に戦闘状態を一時的に終わらせてしまう。つまり両勢力が戦いに倦む前に戦争状態を凍結してしまう。この状態では遺恨や野心が疲弊に取って代わる事が無く、いつまでも紛争国の人々間で燻り続け、本当の意味での戦後復興も行われない。

そのためにかえって状態の不安定化や長期間の小さな衝突と流血が続いてしまう。朝鮮半島やサラエボなどがその格好の事例だ。特にユーゴスラビアではドイツが何の責任も引き受けることなく内戦に介入した。米国も無責任な軍事介入を繰り返した。

国連やNGOの難民支援をそうである。歴史的に見て戦火から逃れた難民の多くは大変な苦労を経験しつつも、逃れた先で土着化しその国の民として同化していく。そうする事で難民達は新たな人生のページを開き、子や孫の世代にまで紛争を引き継ぐ必要がなくなるのだ。個人的に見ても、戦略的に見てもその方が安定と平和を得る事ができる。

これと逆の行いをしているのが国連パレスチナ難民救済事業機関だ。彼らはパレスチナ難民をイスラエル国境近くに人工的に留め置き、二度と帰れる可能性の無い故郷に、いつか帰れるのではという希望を与えている。

若い難民達の殆どは難民キャンプで生まれそこで育っている。これは結局のところ難民の永続化である。彼らの一部は国連パレスチナ難民救済機関の食料を食べて育ち、イスラエルへの敵意をみなぎらせ、一度も見たことの無い故郷を取り戻すためにハマスのメンバーとなり、新たな紛争の火種となっている。
日常を生きる私たちは、戦争で血を流す人々を見れば、同情したくなるし、血を流す当事者も苦痛に満ちた思いをする。これを国際社会の介入で終わらせようとするのは当然の感情かもしれない。しかし、中途半端な介入は悲劇を招くだけだ。

この考えは、多くの日本人には受け入れらないところがあるかもしれません。しかし、現実は現実です。現状の米国はどうなかというと、最大の火種は中国です。現在の米国は、中国との冷戦、場合によっては部分的な熱戦(戦争)も覚悟しなければならないからです。

それを考えると、米国の中東への関与は、どうしても中途半端になります。であれば、米国は中東からの関与をやめるのが妥当です。

ただし、すぐに全面的に手を引けば、さらに混乱が高まるおそれがあります。そのため、現実的な観点から徐々に、手をひきつつあるようです。 

実際、今年8月半ばには、アラブ首長国連邦(UAE)がイスラエルとの国交正常化に合意しました。

米国のドナルド・トランプ大統領は今月11日、イスラエルと中東バーレーンが国交正常化に合意したと発表しました。

これらの合意は、米国の仲介があったことは間違いないです。

トランプ大統領はツイッターに、「過去30日間でイスラエルと和平合意した2番目のアラブ国だ」と書きました。

中東諸国は何十年もの間、パレスチナ問題が解決するまではイスラエルと国交を樹立しない姿勢を貫いてきましたが、これが米国の仲介によって、変わりつつあるのです。

これらは、マスコミでは「大統領選挙目当て」などと批判するむきもありますが、中東和平に結びつくのは間違いないです。トランプ大統領としては、(イラン)対(アラブ諸国+イスラエル)という対立軸を作ろうとしているようですが、これがうまく拮抗すれば、従来の大混乱よりははるかにましです。

トランプとしては、このような対立軸ができた後には、米中央軍を大幅に削減して、アジアに移す心づもりなのだと思います。

ただ、トランプの足を引っ張る勢力もあります。それは、中国であり、ロシアです。両国とも中東に足場を築きつつあります。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍が中東に基地を構える日――中国は「第二のアメリカ」になるか— 【私の論評】中共が力を分散すれば、対中勢力にとってますます有利になる!(◎_◎;)

訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、最近の中国の動きをこの記事から引用します。
  • 中国は中東イランのキーシュ島を25年間租借する権利を得て、ここに軍事基地を構えようとしていると報じられている
  • 事実なら、中国はアジア、中東、アフリカを結ぶ海上ルートを確立しつつあるといえる
  • ただし、イランに軍事基地を構えた場合、中国自身も大きなリスクを背負うことになる
以下にこの記事の結論部分を掲載します。
これからも、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとし、それだけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。今のままだと、中国も同じ運命を辿りそうです。

中国の力の分散は、日米にとっては歓迎すべきことかもしれませんが、米国と本格的に対峙しようとしている中国が中途半端に中東に関与すれば、さらに中東情勢を混乱させるだけです

ロシアの中東関与についても、このブログに掲載したことがあります。

【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!
年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領=昨年12月19日、モスクワ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分だけ引用します。
米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が国内外には見られますが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得ないです。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ない等身大のロシア像だと思います。

近年ロシアは中東でプレゼンス高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきだと思います。
現在のロシアのGDPは、日本の東京都なみです。東京都が軍備をして、中東で何かをしようとしても限界があるのは目に見えています。ロシアにできることには限界があり、中東に関与すれば中途半端にならざるを得ず、関与し続ければ必ず中東に混乱をもたらします。

ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』で、関わるなら正規軍を50年くらいは派遣して、秩序をつくりかえるくらいの気構えが必要であって、中途半端に関わるのは混乱を増すだけだと言っています。

中東に関しては、米国は徐々に関与を無くす方向ですすんでいますが、中国とロシアは中途半端に関与しようとしています。

中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつあるといえます。中東の石油に依存する日本にとっては、この動きは望ましいものではありません。

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