2020年1月22日水曜日

中東で、中国が米国に取って代わることはできない―【私の論評】中国は中東への危険な一歩を歩みだした(゚д゚)!

中東で、中国が米国に取って代わることはできない

宮本アジア研究所代表






イランのザリフ外相(左)と中国の王毅外相
第2次世界大戦後に作り上げられた国際的な仕組みは現在、大きく動揺している。国際秩序の動揺と言ってもよいだろう。

 このように言うと、自由貿易に代表される自由な経済秩序や、国連、世界貿易機関(WTO)に代表される多国間主義といったグローバルな政治と経済のメカニズムの動揺に目が行きがちだ。だが、地域情勢も不安定化し始めている。最も顕著なのが、これまで中東と呼ばれてきた地域である。

 第2次世界大戦後、地域の安定は大国同士の関係でほぼ決まった。米ソ冷戦が終わり、米国が唯一の超大国となり、一見したところ米国は圧倒的な存在となった。だが実際には、米国の相対的な力は一貫して低下してきていた。特にトランプ政権となり、外交上のミスを連発し、米国の影響力は急速に低下している。

 その「力の空白」を埋めるように、中東においてイランとトルコが影響力を強めている。どちらも歴史において大帝国を張ったことのある国である。米国を取り去ると、この2国が浮上してくる。歴史を生き抜いてきた伝統の力は大したものだと、つい納得したりする。

 加えて、中東において中国とロシアの存在感が増大しているという。イラン危機は米中覇権戦争の一環だという見方まで現れている。果たしてそうであろうか?

中東進出は、危険を抱え込むこと

 ロシアはロシア帝国とソ連の後継であり、ロマノフ王朝時代から中東と深い関係にある。ソ連時代も中東において米国と覇を競った。土地勘もあり、やり方も知っている。しかし今日のロシアは、依然として強大な軍事力を誇っているものの、英国際戦略研究所(IISS)によれば2017年の軍事支出は日本より少ない。GDP(国内総生産)は韓国より小さく日本の3分の1にまで縮んでいる。総合国力において昔の面影はもはやない。影響力においても限りがあるということだ。

 中国はどうか。国力を急速につけてきているが、歴史上、中東と全く関わってこなかった。中国の経験と知識には限界がある。

 中国の一帯一路構想が、世界制覇に向けた中国のグランドデザインのように喧伝(けんでん)されている。しかし中国の現場から伝わってくる感触は、それとはほど遠い。大きなスローガンを次々に打ち出すものの、それを支え実行する理念、原則、ルール、実施の仕組みは、現場に近づけば近づくほど中身が見えなくなるのだ。

 それに進出地域における経験と知識の不足という壁が立ちはだかる。これが中国の実態と言ってよい。

 中国の中東への進出は、中国が新たに大きな危険を抱え込むということでもある。

 一帯一路構想を、中国を中心にかつて存在した朝貢貿易システムの再現と捉える人もいる。だが昔は、マルコポーロの例から分かるように、中国に来る人たちが道中のリスクをすべて負担した。しかし今度は中国が自ら出かける。リスクは中国が負わなければならない。中国が中東に積極的に関与するということは、宗教や民族など様々な理由から怨念が渦巻き、複雑で、世界一危険とみられる場所に足を突っ込むということなのだ。

【私の論評】中国は中東への危険な一歩を歩みだした(゚д゚)!

米中間の覇権争いが激化する中、米国の中東での最大の同盟国であるイスラエルが2020年にも中国との間で自由貿易協定(FTA)を締結する見通しになりました。関係者が明らかにしました。実現すれば、中国が中東・欧州で影響力を拡大するための一歩となります。シリア駐留軍撤収で米国の存在感が薄れる中、中東での米中の勢力図も変化しそうです。

中国とイスラエルのFTA交渉は2016年から続いており、最新の交渉は約1カ月前に行われました。両国のFTA締結に向けた動きは、両国の蜜月関係を浮き彫りにしています。

ブルームバーグのまとめによると、米国はイスラエルとの貿易総額で中国をなお上回っているものの、イスラエルからの対米輸出は15年以来、年々減少。この一方、同期のイスラエルからの対中輸出は7割近く増加しました。

中国は巨大経済圏構想「一帯一路」を進める上で中東を欧州・アフリカ市場進出のための足掛かりとして重視しています。中東との関係強化の軸足を経済に置いており、今や中東最大の投資国です。米中対立が激化する中、アラブ首長国連邦(UAE)など中東の親米国が中国と敵対関係になることを避ける狙いもあります。


中国の習近平国家主席は昨年9月下旬、北京を訪問していたイラクのアブドルマハディ首相と会談し、緊張が続くイラン情勢について、「関係当事国は行動を自制し、平和的に問題を解決しなければならず、必要に応じて中国はすべての関係各国と協議を行う用意がある」と表明しました。

また、アブドルマハディ首相は、中国が進める経済圏構想「一帯一路」に新たに参加することを表明しました。昨年の両国間の貿易額は300億ドルを超えるなど、近年両国間の経済関係は深まっています。今後、イラク再建に向け、経済や社会インフラ、文化や治安など多方面での中国からの支援が加速するといいます。

イラクというと、冷戦以降、常に米国による戦争の最前線でした。政治的な米国の関与のイメージがどうしても強いですが、今後、中国とイラクの関係が米国の政策にどう影響を与えるのかが注目されまする。

中国はアラブの盟主であるサウジアラビアとの結びつきも強めています。習近平氏は昨年2月、北京を訪問したサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談し、経済分野での連携をさらに強化することで一致しました。

ムハンマド(左)と習近平(右)

具体的には、中国の一帯一路構想と、ムハンマド皇太子が主導する2030年までにサウジを近代国家にするための国家目標「ビジョン2030」とのコラボレーションを緊密にし、中国が製油所の建設などでサウジアラムコに100億ドルを投資することなどが決定されました。昨年には、中国にとってサウジアラビアは最大の石油供給国となりました。

また、サウジアラビアは9月下旬、日本や中国など約50ヶ国に対する観光ビザの発給を開始しました。ムハンマド皇太子のもと、サウジアラビアは「脱石油」政策と経済の多角化を進めており、観光業を含み、今後いっそう両国の経済関係が深まることが予想されます。

ただし、中国は同地域の米国の軍事活動を阻害しないよう配慮しています。シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)はリポートで「中国は米国が主導する中東での安全保障構造へ挑戦することや、同地域の政治で主要な役割を果たすことに対して強い意欲を示していない」と指摘しました。

それでも米国は中国の動きを警戒しており、中国、イスラエル間の経済関係強化は波紋を広げることになりそうです。米国はイスラエルが中国の投資に対して十分な調査を行っているかどうか、第5世代(5G)移動通信システムのインフラ整備をめぐる中国の影響を抑制しているかについて神経をとがらせています。

また、米国海軍第6艦隊が寄港することのあるハイファ港をめぐり、中国国営企業が同港に関与することについて懸念を表明しています。

米中の板挟みとなるイスラエルは難しい対応を迫られています。テルアビブ大学の国家安全保障研究所のイスラエル・中国プログラムの責任者であるアサフ・オリオン氏は「中国との貿易を続ける一方で、米国との同盟関係を裏切ることがないよう、適切な線引きをしなければならない」と説明しました。

米国の圧力を受け、イスラエルは安全保障の観点から外国企業による投資の可否を審査する諮問委員会を設置したばかりです。しかし、その一方で中国とのFTA締結に動いている事実は、米国と安全保障をめぐる懸念を共有しつつも、中国との通商関係を強化するというバランス取りに苦慮している姿勢を浮き彫りしています。

こうした中でイスラエルが計画通り対中FTAを締結できるかどうかは予断を許さないです。イスラエル経済産業省のコーエン外国貿易局長は「対中交渉はいわば“ハーフタイム”にあり、米中双方との市場アクセス拡大に注力している。わが国は象同士のけんかを見ているネズミのようなものだ」と話したとされています。

一帯一路構想によって中国と中東諸国の経済的な結びつきが強まれば、今後何が生じるのでしょうか。

一つに、中国の中東接近によって、中東地域における米中摩擦が増えるかもしれないです。中東は地理的にアジア、欧州、アフリカの真ん中に位置し、中国が進めるシルクロード経済ベルト上にあります。中国による展開が進めば進むほど、米中摩擦の可能性は高まるでしょう。中国は、表立って米国との政治的対立は避けようとするでしょうが、今後の中東情勢において大きな利害関係者になるかもしれないです。

それにしても、やはり中国の中東における経験と知識の不足という壁が立ちはだかったいます。これが中国の実態です。中国の中東への進出は、中国が新たに大きな危険を抱え込むということでもあります。

そもそも、イスラム教の本質など中国人の多くはほとんど理解していないのではないでしょうか。私達の先進国の人間が、想定する平和とは、戦争のない状態です。少なくとも、中国でもこの考えは、先進国と変わらないかもしれません。

ところがイスラム教の想定する平和は、これとは随分違います。いくら戦争がなくてもイスラム教が世界を支配していない場合は平和ではなく、だからその平和を実現するために戦い続けなければならないというのがイスラムの考えで、これをジハードというのです。私達から見るとテロでも彼らから見ると宗教的な義務なのです。そういう観点からすると、イスラム教は平和の宗教ではありません。

テロも宗教的な義務

これは、意外と習近平の考えと会い通ずるところがあるかもしれません。なぜなら習近平も世界の新たな秩序、それにも中国の価値観でそれをつくりあげようとしているからです。

ただし、中国の国内のようなやり方で、中東でもゴリ押しすると、とんでもないしっぺ返しを食らうかもしれません。東南アジアでやっているように、多額の借款で中東諸国の港や、施設などを取り上げる等のことをすれば、それこそテロの標的になるということも十分考えられます。

さらに、先日もこのブログでも解説したように、これだけ困難な地域であるにもかかわらず、それに対する見返りとしては、石油だけということができます。そもそも、中東で一番豊かな国ともみられているサウジアラビアですら、そのGDPは日本の福岡県と同程度です。

中東全部をあわせても、GDPということでは、九州全体にも満たないのです。私自身は、米国がこの地域への関与を弱めることが大正解だと思います。無論、トランプ氏にとって大きな選挙基盤でもある、米国福音派は、イスラエルを守ることは米国の義務であると考えているようで、そのためトランプ氏はすぐに中東からの関与をやめてしまうということはないです。

ただし、日本としては石油の大部分をこの地域から輸入しているわけですから、米国とは事情が異なります。日本が普通の国であれば、米国よりもさらに、中東に関与を深めていたかもしれません。それこそ、今頃米国にとって変わろうとしていたかもしれません。ただし、イスラエルと米国の関係は日本も無視はできません。

しかし、そのイスラエルが中国との関係を強化しようとしているのですから、これはトランプ大統領にとっても、中東からの関与を減少させることに間する良い言い訳にもなるかもしれません。

中国やロシアが中東に拘泥して、体力を消耗させるようにもっていき、トランプ大統領は、やはり中国との対峙に再優先順位を置き、中国の体制変換を促すか、それが不可能であれば、中国の経済が衰退して、他国に影響を及ぼせなくなるくらいまで、冷戦を継続すべきです。

中国は中東への危険な一歩を踏み出したようです。本当は、一帯一路のため中東がどうのこうのなどということなどは捨て置き、冷戦に対する備えをすることを最優先すべきです。習近平は未だ、米中冷戦はいずれ終焉し、米中は元通りなるという甘い幻想を捨てきれないようです。

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