2020年1月11日土曜日

【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!


年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領=昨年12月19日、モスクワ

イランの米国への報復攻撃後、両国の全面対決が回避される見通しとなり、ロシアは安堵(あんど)している。イランと米国が開戦に至った場合、ロシアは、米国やイラン、他の中東諸国との関係上、イランを支持するかどうかで進退に窮する恐れがあったためだ。一方、今回の事態はロシアに「漁夫の利」をもたらすとの見方も出ている。

 露上院のコサチョフ国際問題委員長は9日、フェイスブック上で「戦争は回避された。安堵の息を吐ける」との見解を示した。

 ロシアは米国のシリア撤兵や、米国とトルコやサウジアラビアとの関係悪化などを背景に、中東での米国の影響力を排除しつつ自身の勢力圏を拡大する戦略を進めてきた。こうした中でロシアは、地域の主導権争いなど潜在的対立を抱えるイランとも、「米国の覇権への対抗」という旗印の下で共同歩調を取ってきた。

 両国はシリア内戦でアサド政権を支援。イランのウラン濃縮再開問題でも、ロシアは「米国がイランを追い詰めた」と同情を示した。昨年12月には、両国は中国とともにオマーン湾などで海上合同演習を実施。周辺海域で「有志連合」を主導する米国を牽制(けんせい)した。

 ただ、ロシアは、非欧米的な価値観を持つ諸国の“盟主”として影響力を確保することを狙う一方、国力上、米国との決定的な対立は避けたいのが本音だ。

 米国とイランが開戦していた場合、ロシアはイランを支持しなければ、イランとの関係ばかりか、米国に拒否感を持つ各国からの求心力も失いかねなかった。

首脳会談に臨むイランのロウハニ大統領(左)とロシアのプーチン大統領

 しかし、イランを支持すれば、対米関係の決定的な悪化は避けられない。さらにロシアは、イランと敵対するサウジやイスラエルとも協調関係を築いている。イランを支持した場合、これらの国々との関係も損なわれた可能性が高い。

 こうした立場にあったロシアには開戦の回避は最善の結果となった。また、一連の事態でロシアが利益を得るとの見方も出ている。

 コサチョフ氏は「米国の行動に批判的な立場を取った欧州やイラクと、米国との溝が深まった」と指摘。米国とは対照的に、ロシアは中東各国と良好な関係を維持しつつ、米国・イラン双方に自制を求めて存在感を高めたと評価した。

 イタル・タス通信も9日、「米国は今後、報復テロの危険や国際的信頼・評価の喪失など、戦略的な損失を受ける」とする欧州の政治学者の見方を伝えた。

【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!

従来、中東の対立軸と言えば、イスラエル対アラブの対立が主で、「中東和平」は、イスラエルとパレスチナ(PLO:パレスチナ解放機構)の和平合意を意味しました。

ところが、近年、「アラブの春」以降、中東諸国の様相が劇的に変化すると、中東力学の構図も大きく変化しました。特に、中東の大国の一つイラクが、サダム・フセイン後、安定した統治が出来ず、ISISの台頭を許し弱体化した後、隣国のもう一つの大国イランが、中東地域で存在感を増すようになりました。

イランには、かねてから核兵器開発の疑惑もあり、中東の核兵器保有国と言われているイスラエルは、その優位性を失うことに神経を尖らせています。

そんな中東地域の中でも、レバノン、シリア、イラクでは、長く内戦が続き、安定した統治が行われていません。それら諸国において、実は、イスラエルとイランの対決が深まっています。レバノン、シリア、イラクは国家が正統な力の行使を独占しておらず、国家の体をなしておらず、この 3か国がイラン=イスラエルの「戦争」の舞台になっているのです。このイランとイスラエルとの国家間の紛争には、イスラエル軍やイランの革命防衛隊も関わり、もはや「戦争状態」と言っても良い状況になっています。

イスラエル対イラン

イランとイスラエルの国家間対立がますます深まっていくというのが最もありうるシナリオです。この対立では、今のところ、イスラエルの軍事能力がイランを圧倒しているのですが、戦略的には、攻勢に出ているのはイランであり、イランの方が明確な目的を持っているので、イランがますます強くなる可能性があります。

いまの状況を改善していくためには、レバノンとイラクについては、現在の政府が主権国家としての実質を備えるように努力することを助けていくということでしょう。シリアについては、アサド政権の下での国家再建を支援する気に西側諸国がなることはあり得ません。

アサド政権の生き残りを可能にしたイランとロシアが何とかすべきですが、彼らは今の状況が続くことをそれほど問題とは思っていない節があります。

そうなると、シリアにおけるイランとイスラエルとの紛争は止みにくいでしょう。また、広大なイラクを治めるのに、シーア派、スンニ派、クルド族との共存も欠かせないですが、民主主義で最大の人口を有するシーア派は、同じシーア派が大多数を占めるイランに親近感を持つし、イランの革命防衛隊や情報機関も、これらシーア派にアプローチしています。

一方、スンニ派は、サダム・フセイン時代のエリート達であり、なかなか現イラク政権の中枢を占めるシーア派と上手くやって行けるかわからないです。また、中東では、イランに対して、スンニ派の大国サウジの影響力もあります。

レバノンについては、宗派間のバランスをとって統治しているところ、イランが支援する武装勢力ヒズボラが、レバノン国内のシーア派に影響力を与え、スンニ派のハリーリ率いる政権を脅かしています。

こうした複雑化した中東地域では、暫く、イスラエルとイランの国家間対立を含む紛争は続くとみておくべきです。

さて、上の記事で今回ロシアが、米国とイランが本格的戦争になることを回避したことで、漁夫の利を得る可能性もあるとしていますが、本当にそうなるのでしょうか。結論からいうと、得られたにしても、大きなものにはなりえないです。

確かに、シリアにおいてイランとイスラエルが直接衝突する事態はなんとしても避けなければならないものでした。そこでロシアは、両者の間に入って衝突を避けようとする動きを盛んに見せていました。

たとえば、イスラエルが一昨年5月にシリア領内のイラン革命防衛隊を空爆したのち、ロシアのラヴロフ外相は、「シリア南部にはシリア共和国軍の部隊だけが展開すべきである」と述べ、イラン革命防衛隊の撤退が望ましいことを示唆したことがあります。ただし、ラヴロフ外相は「これは双方向の措置でなければならない」として、イスラエルによる空爆も暗に非難しました。

また、この日、レバノン上空でロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機がイスラエル空軍のF-16戦闘機に接近したと報じられています。イスラエル側の報道によると、ロシアは5月初めからレバノン上空に軍用機を侵入させ始めていたとされ、レバノンを拠点とするイスラエルのシリア領内での活動(偵察及び爆撃)をけん制する狙いがあったと見られます。

このラヴロフ発言に続き、英国に本拠を置くシリア人権監視団は、イラン革命防衛隊及びヒズボラはゴラン高原から撤退する用意があるようだと述べており、ロシアの調停による兵力の引き離しが実を結ぶかに見えました。

しかし、現実にはロシアの調停が機能しているとは言い難いものでした。結局、ロシアのけん制にもかかわらずイラン革命防衛隊はシリア南部から撤退していないと見られており、イスラエルによるシリア領内での空爆も継続されました。

一昨年7月16日にフィンランドのヘルシンキで開催された米露首脳会談でもシリア問題は大きく取り上げられたようです。ボルトン米安保補佐官(当時)によると、この際、イランをシリアから撤退させるべきであるとの見解で両国首脳は一致したものの、現実的には難しいという結論に達したといいます。

さらに同年同月23日、イスラエルを訪問したラヴロフ外相が、ゴラン高原のイスラエル国境から100km以内にイラン部隊を立ち入らせないようにするとの提案を行ったのですが、イスラエルは不十分であるとして拒絶したとも報じられました。

ラブロフ ロシア外相

イランが一度固めたシリア領内の地歩を完全に放棄させることはロシアにとっても困難であり、かといって部分的撤退ではイスラエルも納得しないという状況が見て取れました。

それでも、ロシアとしてはシリアにおけるイラン・イスラエル対立を放置することはできません。こうした中で一昨年8月、ロシアは、国連平和維持部隊の一部としてゴラン高原にロシア軍憲兵隊を展開させ始めました。

同国南部において反体制派の掃討が進み、同地域にイラン革命防衛隊が展開してくることを懸念するイスラエルを宥める意図があると見られました。ロシア軍の哨所は最終的に8カ所が設置される予定とされ、ロシアによるゴラン高原への展開としては過去にない大規模なものとなる見込みでした。

とはいえ、ラヴロフ外相の訪露で提案されたシリア南部からのイラン部隊撤退が「不十分」とされたことからも明らかなように、ロシアの措置はイスラエルの対イラン脅威認識を抜本的に払拭するものとはならないでしょう。

以上のように、ロシアは中東において圧倒的な力を持つ「調停者」として振舞うことはできておらず、近い将来にそのような振る舞いが可能となる見込みは薄いです。煎じ詰めるならば、これはロシアが中東において発揮しうる力の限界に帰結できるでしょう。秩序を乱す者に対して受け入れがたい懲罰をもたらす存在でなければ「調停者」になることはできません。

確かにロシアは旧ソ連近隣地域(ロシアが「勢力圏」とみなす地域)においては圧倒的な軍事大国であり、政治的にも経済的にも強い影響力を発揮し得るのですが、中東はその限りではないです。

もともと外征軍ではない米軍の持つ巨大な空輸・海上輸送力を欠いているロシア軍が中東に展開できる軍事力には限りがあり、そのような大規模作戦を支える経済力となるとさらに小さいです。米CNNテレビ(電子版)によると、ロシア軍の艦船が9日、アラビア海北部で活動中の米駆逐艦に異常接近しました。米海軍が10日、明らかにしたといいます。

CNNは国防総省の当局者の話として、アラビア海において、ロシア艦は米駆逐艦「ファラガット」に約55メートルの距離まで接近した後、針路を変えたと伝えました。ファラガットは空母「ハリー・S・トルーマン」を中心とする艦隊の一部。敵の艦船の接近を阻止する役割を担っています。

ロシア国防省は同日、危険な動きをしたのはファラガットの方だと主張しました。これは、ロシア側による中東に展開する米海軍対する偵察と、牽制を兼ねた行動であると考えられますが、牽制としてはあまりにスケールが小さすぎます。かつて、経済的にも大国だった当時のソ連ならば、もっと大掛かりな行動をしたことでしょう。

ちなみに、現在のロシアのGDPは、世界10位にすら入っておらず、東京都と同レベルです。仮に、東京都が中東で何かしようと企てることができたとしても、できることは本当に限られたものになるでしょう。とはいいつつも、ロシアはソ連の核兵器と軍事技術の継承者であり、その点は無論侮ることはできません。しかし、明らかに限界はあります。

エネルギーや経済をテコとしてイスラエルやイランを従わせるというオプションもロシアにはありません。2015年のシリア介入以降、ロシアが中東情勢における影響力をかつてなく高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきです。

同じことは、中東全体の秩序についても言えます。米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が国内外には見られますが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得ないです。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ない等身大のロシア像だと思います。

近年ロシアは中東でプレゼンス高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきだと思います。

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