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2020年5月2日土曜日

ロシア、政権求心力に懸念 コロナ感染11万人超え 陣頭指揮の首相「陽性」―【私の論評】中国ウイルスで衰退するロシアと、北方領土交渉が今までで最も実施しやすくなる(゚д゚)!

ロシア、政権求心力に懸念 コロナ感染11万人超え 陣頭指揮の首相「陽性」

4月30日、モスクワ郊外の公邸に滞在中のプーチン・ロシア大統領(左)に新型コロナウイルス
感染をオンラインで報告するミシュスチン首相(画面)=ロシア大統領府提供

ロシアの新型コロナウイルス感染者数が急速に拡大している。一日には十一万四千人余に達し、対策で陣頭指揮を執っていたミシュスチン首相(54)の陽性も確認された。早期に中国との国境を封鎖するなど厳しい予防措置にもかかわらず、ここ数日、五千~八千人の感染者が出る日が続き、世界ワースト八位に。地方でもデモが相次ぐなど、市民は不満を募らせている。

ミシュスチン氏から陽性の報告を受けたプーチン大統領は三十日夜、「あなた抜きで重要な政策決定は行われない」と述べ、今後もテレワークで会議に参加するよう指示した。だが一部報道ではミシュスチン氏は医療施設で自主隔離後、高熱に見舞われているという。首相代行にはベロウソフ第一副首相が就いた。

ミシュスチン氏は一月に内閣総辞職したメドベージェフ前首相の後任で、コロナ対策本部を指揮。感染がまん延していた中国からの入国を西欧諸国より早く、二月二十日から禁止し、三月からは外国人の入国を止めた。外出禁止や商店の強制休業などでも徹底した隔離措置を断行してきた。

ロシアは検査を積極的に行い、累計で三百七十万件と米国に次ぐ規模。死者も約1%の千百人超と他国と比べると少ない。感染者の洗い出しと隔離による「封じ込め作戦」が進んでいるとの見方もあるが、拡大に歯止めがかかっていない。プーチン氏も四月二十八日、「ピークはこれからで危険な状態だ」と指摘した。

これに対し、モスクワなど都市部ではネット上で政権批判をしたり、シベリアでは鉱山労働者らによるデモが発生。独立系世論調査機関「レバダ・センター」が三十日に公表した調査では、市民の48%が政権に対してコロナ対策で不満を表明した。

このため、二〇二四年に任期が満了するプーチン氏の続投を可能にする憲法改正の全国投票についても、政権批判票を封じるため、コロナ禍が落ち着くと予想される冬まで先延ばしにするとの報道も出ている。政権は経済活動の維持と感染食い止めを巡り、難しいかじ取りを求められている状態だ。


【私の論評】中国ウイルスで衰退するロシアと、北方領土交渉が今までで最も実施しやすくなる(゚д゚)!

ロシアでは、各地の軍施設や医療機関にも広がっています。1日から連休が始まり、外出の増加が予想されることから、当局は警戒を強めています。

ロシアは、中国ウイルス禍の最中他国に対して、フェイクニュースを流すなどの工作活動を行ってきました。

ガーディアン(3月18日)はEEASが3月に出したレポートをもとに、ロシア政府系メディアが西側諸国の中国ウイルス危機を悪化させる目的でデマを拡散していたと指摘しています。

同紙によると、1月半ばから3月半ばまでの2カ月間に、ロシアが発信源のデマが80件確認されたといいます。内容は「新型ウイルスは中国、アメリカ、イギリスの生物兵器」「感染の発生源は移民」「製薬会社の陰謀」「中国ウイルス自体がデマ」などでした。

ガーディアンが指摘するフェイク情報の拡散は、ロシア政府系メディアのスプートニク、RIA-FAN通信、レン・テレビ(REN TV)などでみられたましたが、その多くは米国の陰謀論サイトや中国、イランのネット上にある陰謀論的書き込みをシェアする形で行われました。

「リトアニアで米軍兵士が感染した」とのデマもSNS経由で拡散されましたが、その引用元として多かったのは、ロシア政府系メディアのRT(ロシア・トゥデイ)スペイン語版でした。

このように政府系メディアとSNSの相互引用で情報発信源を隠しつつ、信ぴょう性を持たせてデマを拡散する手法はロシア情報機関の得意技で「メディア・ミラージュ」と呼ばれます。イランでも同様の手法で「アメリカの生物兵器」「イスラエルの生物兵器」といったデマが拡散されました。

ニューヨーク・タイムズ(3月28日)は、ロシアと中国とイランのデマ拡散工作が互いに連動して、アメリカ社会の分断と弱体化が促されていると指摘しています。

同記事によれば、今回はとりわけ中国が積極的だといいます。これまで中国は、台湾や香港、チベット問題などに関する政治的プロパガンダには積極的に資金を投入してきましたが、陰謀論の拡散にはあまり関与してきませんでした。

にもかかわらず、今回は「ウイルスの発生源は米国」「ウイルス封じ込めに成功した中国共産党のシステムは優れている」といった言説を、発信源を隠して拡散しています。中国ウイルス問題で責任の矢面に立つきわめて不利な立場に追い込まれたことで、ロシアの情報戦略の有効性を認識し、模倣を始めたということでしょう。

そのためか、中国がデマ情報拡散に活用しているサイトは、カナダの親ロシア系陰謀論サイト「グローバル・リサーチ」や、親イラン・ロシア反米系の陰謀論サイト「ベテランズ・トゥデイ」など、もともとロシアが陰謀論を拡散するのに利用してきたところが多いようです。

最後に、ロシアや中国が意図的に拡散したフェイク情報を、EEASレポートから紹介しておきます。

▽「牛乳がCOVID-19に効く」説(presentnews.biz.ua、ウクライナ語)

▽「そもそも中国ウイルス感染は起きていない」説(Der Fehlende Part、ドイツ語、動画)



▽「大手製薬会社の金儲けが目的のアメリカ製人工ウイルス」説(NewsFront、スペイン語)

▽「ビル・ゲイツとロックフェラーによる人口削減の陰謀」説(Journal of New Eastern Outlook、英語)

▽「手洗いは効かない」説(RT、ドイツ語)

▽「亜鉛が中国ウイルスに効く」説(RT、アラビア語)

▽「大手製薬会社と手を組んだ欧米メディアは、中国でビタミンCによる治療に成功したことを無視している」(South Front、英語)

▽「パンデミックは誇張された陰謀。ファシスト国家を作るのが目的」(スプートニク、ドイツ語版)

また、中国の一連のデマ拡散工作について、各所からの分析報告を紹介しておきます。

▽「中国の国営メディアが新型中国ウイルスのパンデミックに関して、国際的な認識に影響を与えようとしている」(Recorded Future)

▽「中国はどのようにツイッターによるプロパガンダの仕組みを構築し、中国ウイルスを解き放ったか」(プロパブリカ)

▽「中国がトランプ非難のプロパガンダ広告~国営メディアは中国のパンデミックへの対応を称賛し、アメリカの過ちを攻撃する広告を多数購入」(テレグラフ)

中露は、世界の中国ウイルス危機に乗じて、これだけの工作を実施しているのです。日本国内でも当然様々な工作を行っているでしょう。日本のマスコミにもいろいろ、直接的間接的に働きかけているでしょうし、政治家などにも働きかけているでしょう。当然SNSでも工作をしているとみるべきです。

彼らの目的は、日本国内を分断させること、アジア内の分断、日豪分断、日欧分断、日米同盟の分断など様々です。私達は、これらに騙されないように中国ウイルス報道や、SNSなどの内容には十分気をつける必要があります。

日本では、脳内がお花畑的な人が多く、こうした中露の工作があるなどとはつゆほども疑わない人も多いようで、特にマスコミで中露の「メディアミラージュ」を取り上げているところはありません。

ロシアがこのような「メディア・ミラージュ」をチャンス到来として、各国に対して工作しているうちに、ロシア自体の感染者が増え、抜き差しならぬ状態になったのは皮肉です。

感染したとされる、ミシュスチン首相といえば、今年の1月に、就任したばかりです。これについては、このブログでも掲載しています。この記事では、プーチンがミシュスチンを首相に据えたのには、それなりの背景があることを掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
プーチン院政への布石か 経済低迷のロシア、政治経験ゼロのミシュースチンが首相に―【私の論評】プーチン院政は、将来の中国との本格的な対峙に備えるため(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
プーチンはロシアがこのまま中国の属国になってしまうことを、潔しとはしていないはずです。 ただし、中国はつい最近人口が14億人を超えましたが、ロシアの人口は1億4千万人に過ぎません。経済に関しては、現在のロシアは東京都なみのGDPしかありません。 
だからこそ、ロシアは中国に対する不満はあるものの、属国的地位に甘んずるしかないのです。そうして、プーチン自身も自分の目の黒いうちは、この状況は変わらないと考えていたでしょう。 
しかし、昨年あたりからこの状況は大きく変わってきました。そうです。米国による対中国冷戦が過激さを増してきたのです。もはや米国内では、トランプ政権等とは別にして、米国議会が超党派で中国に対峙する体制を固めています。だから、トランプ氏が大統領をいずれ辞任したとしても、米国の中国に対する姿勢は変わりません。
プーチン(左)と習近平(右)
そうして、どうやら米国は中国が現在の中国共産党独裁体制を変えるか、それができなければ他国に影響力を行使できないように、徹底的に中国の経済を破壊しようとしているようです。そうして、これは最早貿易戦争の域を超えて、価値観の対立にまでなっています。 
中国は独裁体制をおそらく変えられないでしょう。なぜなら、それを実行すれば、中共は統治の正当性を失い、崩壊するからです。となると、米国は中共が経済的に衰え他国に影響力が行使できない程に中国の経済を破壊するまで、制裁を続けるでしょう。 
こうした状況をみたプーチン氏は、自分の目が黒いうち(短くてここ数年、長くて10年くらい)に、ロシアが中国の属国的地位から脱する見込みがでてきたと判断したに違いありません。そうして、ロシアがうまく立ち回ることによって、中共の崩壊を加速することも視野に入れているに違いありません。 
だかこそ、自らは中国との対峙に専念し、国内政治は信頼できる人物にまかせ、自らは他国に伍して中国の崩壊に際して、ロシアの権益を最大限に拡張すべきとの結論に至ったのでしょう。 
さて、中国がある程度経済的にも疲弊した頃には、かつての中ソ対立のように、中露の対立が激しくなってくると予想されます。 
その時がまさに、日本にとっては北方領土交渉がやりやすくなるのです。戦後70年以上が過ぎた今、世界でもっとも危険な国は中国です。この唯物論・無神論を国是とした軍事独裁国家を封じ込めるためには、ロシアは日米と平和条約を結び、協力しなければならなくなります。そうでないと、ロシアは中国の属国とみなされ中国の道連れにされるかもしれません。
今回の中国ウイルス禍では、ロシアは中国ウイルス感染そのもので相当疲弊するはずです。特に、ロシアの最大の主要産業は、 鉱業(石油,天然ガス,石炭,金,ダイヤモンド等)であり、これらは、中国ウイルス禍によってかなり価格が下がっています。

中国ウイルス禍で、経済が疲弊するのは確実ですが、それによる失業や生活困窮などに、対処するのは今日のロシアにとっては困難です。

そもそも、ロシアの人口は1億4千万人で、日本より、2千万人多いのですが、GDPは国でいえば、韓国と同等、日本国内の都市でいえば、東京都なみです。ロシアと日本は人口は大差はないですが、中国ウイルス感染者数5月1日現在では、ロシアは12.4万人です。死者は、1,222人です。日本は同時で、感染者数1.4万人、死者数は493人です。ロシアの被害が酷いことがわかります。

日本全体の経済が東京都なみだとしたら、どうなるか想像してみてください。現在政府は、国民一人あたり10万円の給付を決めました、休業補償については財務省が渋ってはいますが、日本の経済力(そもそも財務省の言う、国民一人当たりの借金が1000万円であるとは、財務省の大嘘)であれば、やろうと思えば実行可能です。

しかし、ロシアは違います。日本の東京都と同等の経済のロシアの軍事力は米国に次いで、世界第二位です。宇宙開発も手広く行っています。そうなると、国民の雇用や、困窮者に対する補助するための資金を捻出するのはかなり難しいです。

そうなると、プーチン政権の求心力はかなり落ちることになります。そうなると、プーチンの夢でもある、ロシアが中国の属国的地位から脱するという目論見は水疱に帰し、ロシアはますます中国の属国的な立場から逃れなくなります。

それは、プーチンとしては潔しとしないでしょう。これを解決するには、日本に北方領土を返還し、手厚い経済協力を得るしか方法はないかもしれません。

かつて、丸山穂高衆院議員は、北方領土問題について「戦争をしないとどうしようもなくないか」「(戦争をしないと)取り返せない」などと発言してトラブルになりました。

しかし、戦争で取られたものは、戦争で取り返すしかないというのは、厳然たる事実です。これが、国際社会の現実です。

ところが、現在ロシアで起こっている中国ウイルス禍はまさに、戦争と匹敵するほどの非常事態です。

今のロシアは、どこまでも疲弊し、これも沈みつつある中国の属国的地位から、真の属国に成り下がるか、あるいは、日本の支援を受けてロシアが中国の属国的地位から脱するかのいずれか一つです。

このような大きな取引は、残念なが米国とはできないでしょう。米露には、北方領土のような大きな懸案事項はないからです。日本としては、素早く中国ウイルス禍から脱却して、世界情勢も国内情勢も疎く、省益のためだけに突っ走る財務省の干渉を押さえつけて、経済を急速に回復して、ロシアに見せつけるときです。

その時こそ、北方領土交渉は今まで一番やりやすくなります。このようなことを言うと、嫌がる人もいるかもしれませんが、かつてのソ連は日ソ不可侵条約を一方的に破り、日本領に侵攻して、北方領土を掠め取ったのです。それどころか、何の法的根拠もないのに、シベリアに多数の日本人を抑留し、多数の死亡者がでました。占守島の戦いで、日本軍が奮戦しなければ、北海道もソ連領になっていたかもしれません。

検索結果

ウェブ検索結果占守島の戦い

我々日本人は、それを忘れるべきではありません。日本としては、中国ウイルスが終息すれば、すぐにでも北方領土交渉を再開すべきです。そうして、北方領土を返還させるだけでなく、ロシアを中国に対峙する日米側に取り込むべきです。

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2020年1月17日金曜日

プーチン院政への布石か 経済低迷のロシア、政治経験ゼロのミシュースチンが首相に―【私の論評】プーチン院政は、将来の中国との本格的な対峙に備えるため(゚д゚)!


   ロシア下院は16日、内閣総辞職したメドベージェフ首相の後任としてプーチン大統領が指名した
   ミシュースチン連邦税務局長官(左)を賛成多数で承認した。2017年4月撮影

ロシア下院は16日、内閣総辞職したメドベージェフ首相の後任としてプーチン大統領が指名したミシュスチン連邦税務局長官(53)を賛成多数で承認した。これを受けプーチン氏はミシュスチン氏を正式に首相に任命した。

投票結果は、賛成383票、棄権41票。反対票はなかった。

ミシュスチン氏は連邦税務局のトップを務めた経験があるが、政治経験はほとんどない。首相に抜てきされるまで知名度は低かった。同氏は近く新内閣の組閣人事を発表すると明らかにした。

プーチン氏は15日、首相を含む政府の要職選定の権限を議会下院に移管することなどを柱とした「政治制度の大幅な改革」を表明、議会の権限強化に向け憲法改正を提案した。

新首相の任命を含め、今回の一連の改革は20年来政治を支配してきたプーチン氏が2024年の任期満了後も影響力を保持するための布石とみられる。

こうした中、ロシアの有力紙コメルサントは16日、プーチン氏の改革を「1月革命」と評した上で、今後さらに多くの変革が続くとの見通しを示した。

突然の内閣総辞職からわずか1日で新首相が誕生したことで、プーチン氏は、数年にわたる緊縮財政措置や年金受給年齢の引き上げなどに対する国民の不満に耳を傾けているということをアピールできる。

欧米諸国による制裁や原油価格の下落で国内経済が低迷するなか、国民の批判の矛先は2012年から首相を務めていたメドベージェフ氏に向かっていた。

実質賃金はここ5年下落し続け、政権支持率も落ち込む中、プーチン氏の支持率にも影響が出るとの懸念が浮上していたと専門家は分析する。

【私の論評】プーチン院政は、将来の中国との本格的な対峙に備えるため(゚д゚)!

プーチンは何のために、院政をするのでしょうか。それは、外交は全くの素人であり実績のないミシュースチン氏を首相に据えたとということで、予測することができると思います。

1966年生まれのミシュスチン氏はシステム工学を学んだ後、経済学の分野で博士号を取得した。税制改革には手堅い実績のある人物です。

プーチン氏は国内政治に関しては、ミスチュスチン氏にまかせて、様々な改革を実現させようとしているのです。さらに、ミスチュチン氏は仮に改革に失敗したとしても、面倒な後ろ盾等もなく、容易に取り替えが聞く人物でもあるのでしょう。

そうして、プーチンは院政を敷いて、自らは国際政治を主に担当しようとしているとみて間違いないでしょう。その国際政治の最優先順位は無論隣国の中国でしょう。

はやい話が、将来本格化する中国との対峙に備えて、それに取り組みやすい最善の体制を築いたのです。

中露の関係は、現在まるでロシアが中国の属国であるかのような状況になっています。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 エリツィンは、プーチンを改革者であると考えて後継者に選び、自分の家族を訴追などから守ってくれることを期待した。
 プーチンは、後者の役割は義理堅く果たしたが、ユーラシア主義者として欧米に対抗する路線をとった。そういう経緯で、プーチンは必然的に中国に近づいた。それが今の中露の蜜月関係につながっている。 
 しかし、プーチン後は、この蜜月関係が続く可能性よりも、ロシアの指導者が欧米重視主義者になり、この蜜月は続かない可能性の方が高いと思われる。 
 プーチン政権の上記のような傾向にもかかわらず、中露間にくさびを打つという人がいるが、プーチンがいる限り、そういうことを試みてもうまくいかないだろう。北方領土で日本が妥協して、中露間にくさびを打つことを語る人もいたが、ピント外れである。

 7月27日付の英エコノミスト誌は、ロシアが中国の属国になってきていると指摘している。その指摘は正しい。ロシアがそれから脱したいと思う日は来るだろう。そうなったときには、ロシアとの関係を考える時であろう。
プーチンはロシアがこのまま中国の属国になってしまうことを、潔しとはしていないはずです。 ただし、中国はつい最近人口が14億人を超えましたが、ロシアの人口は1億4千万人に過ぎません。経済に関しては、現在のロシアは東京都なみのGDPしかありません。

だからこそ、ロシアは中国に対する不満はあるものの、属国的地位に甘んずるしかないのです。そうして、プーチン自身も自分の目の黒いうちは、この状況は変わらないと考えていたでしょう。

しかし、昨年あたりからこの状況は大きく変わってきました。そうです。米国による対中国冷戦が過激さを増してきたのです。もはや米国内では、トランプ政権等とは別にして、米国議会が超党派で中国に対峙する体制を固めています。だから、トランプ氏が大統領をいずれ辞任したとしても、米国の中国に対する姿勢は変わりません。

プーチン(左)と習近平(右)

そうして、どうやら米国は中国が現在の中国共産党独裁体制を変えるか、それができなければ他国に影響力を行使できないように、徹底的に中国の経済を破壊しようとしているようです。そうして、これは最早貿易戦争の域を超えて、価値観の対立にまでなっています。

中国は独裁体制をおそらく変えられないでしょう。なぜなら、それを実行すれば、中共は統治の正当性を失い、崩壊するからです。となると、米国は中共が経済的に衰え他国に影響力が行使できない程に中国の経済を破壊するまで、制裁を続けるでしょう。

こうした状況をみたプーチン氏は、自分の目が黒いうち(短くてここ数年、長くて10年くらい)に、ロシアが中国の属国的地位から脱する見込みがでてきたと判断したに違いありません。そうして、ロシアがうまく立ち回ることによって、中共の崩壊を加速することも視野に入れているに違いありません。

だかこそ、自らは中国との対峙に専念し、国内政治は信頼できる人物にまかせ、自らは他国に伍して中国の崩壊に際して、ロシアの権益を最大限に拡張すべきとの結論に至ったのでしょう。

さて、中国がある程度経済的にも疲弊した頃には、かつての中ソ対立のように、中露の対立が激しくなってくると予想されます。

その時がまさに、日本にとっては北方領土交渉がやりやすくなるのです。戦後70年以上が過ぎた今、世界でもっとも危険な国は中国です。この唯物論・無神論を国是とした軍事独裁国家を封じ込めるためには、ロシアは日米と平和条約を結び、協力しなければならなくなります。そうでないと、ロシアは中国の属国とみなされ中国の道連れにされるかもしれません。

北方領土

それはプーチンとしては、是が非でも避けたいところでしょう。日米とも手を結び、中国の属国的地位からの脱却を望むに違いありません。

その時こそが、まさに北方領土が我が国に返還される可能性が最大限に高まるのです。我が国としても、今後のロシアの動きに最大限に注意を払い、その機会を逃すべきではありません。

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ロシア統一地方選の結果をいかに見るべきか―【私の論評】日本が本気で北方領土返還を狙うというなら、今は中国弱体化に勤しむべき(゚д゚)!

2020年1月11日土曜日

【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!


年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領=昨年12月19日、モスクワ

イランの米国への報復攻撃後、両国の全面対決が回避される見通しとなり、ロシアは安堵(あんど)している。イランと米国が開戦に至った場合、ロシアは、米国やイラン、他の中東諸国との関係上、イランを支持するかどうかで進退に窮する恐れがあったためだ。一方、今回の事態はロシアに「漁夫の利」をもたらすとの見方も出ている。

 露上院のコサチョフ国際問題委員長は9日、フェイスブック上で「戦争は回避された。安堵の息を吐ける」との見解を示した。

 ロシアは米国のシリア撤兵や、米国とトルコやサウジアラビアとの関係悪化などを背景に、中東での米国の影響力を排除しつつ自身の勢力圏を拡大する戦略を進めてきた。こうした中でロシアは、地域の主導権争いなど潜在的対立を抱えるイランとも、「米国の覇権への対抗」という旗印の下で共同歩調を取ってきた。

 両国はシリア内戦でアサド政権を支援。イランのウラン濃縮再開問題でも、ロシアは「米国がイランを追い詰めた」と同情を示した。昨年12月には、両国は中国とともにオマーン湾などで海上合同演習を実施。周辺海域で「有志連合」を主導する米国を牽制(けんせい)した。

 ただ、ロシアは、非欧米的な価値観を持つ諸国の“盟主”として影響力を確保することを狙う一方、国力上、米国との決定的な対立は避けたいのが本音だ。

 米国とイランが開戦していた場合、ロシアはイランを支持しなければ、イランとの関係ばかりか、米国に拒否感を持つ各国からの求心力も失いかねなかった。

首脳会談に臨むイランのロウハニ大統領(左)とロシアのプーチン大統領

 しかし、イランを支持すれば、対米関係の決定的な悪化は避けられない。さらにロシアは、イランと敵対するサウジやイスラエルとも協調関係を築いている。イランを支持した場合、これらの国々との関係も損なわれた可能性が高い。

 こうした立場にあったロシアには開戦の回避は最善の結果となった。また、一連の事態でロシアが利益を得るとの見方も出ている。

 コサチョフ氏は「米国の行動に批判的な立場を取った欧州やイラクと、米国との溝が深まった」と指摘。米国とは対照的に、ロシアは中東各国と良好な関係を維持しつつ、米国・イラン双方に自制を求めて存在感を高めたと評価した。

 イタル・タス通信も9日、「米国は今後、報復テロの危険や国際的信頼・評価の喪失など、戦略的な損失を受ける」とする欧州の政治学者の見方を伝えた。

【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!

従来、中東の対立軸と言えば、イスラエル対アラブの対立が主で、「中東和平」は、イスラエルとパレスチナ(PLO:パレスチナ解放機構)の和平合意を意味しました。

ところが、近年、「アラブの春」以降、中東諸国の様相が劇的に変化すると、中東力学の構図も大きく変化しました。特に、中東の大国の一つイラクが、サダム・フセイン後、安定した統治が出来ず、ISISの台頭を許し弱体化した後、隣国のもう一つの大国イランが、中東地域で存在感を増すようになりました。

イランには、かねてから核兵器開発の疑惑もあり、中東の核兵器保有国と言われているイスラエルは、その優位性を失うことに神経を尖らせています。

そんな中東地域の中でも、レバノン、シリア、イラクでは、長く内戦が続き、安定した統治が行われていません。それら諸国において、実は、イスラエルとイランの対決が深まっています。レバノン、シリア、イラクは国家が正統な力の行使を独占しておらず、国家の体をなしておらず、この 3か国がイラン=イスラエルの「戦争」の舞台になっているのです。このイランとイスラエルとの国家間の紛争には、イスラエル軍やイランの革命防衛隊も関わり、もはや「戦争状態」と言っても良い状況になっています。

イスラエル対イラン

イランとイスラエルの国家間対立がますます深まっていくというのが最もありうるシナリオです。この対立では、今のところ、イスラエルの軍事能力がイランを圧倒しているのですが、戦略的には、攻勢に出ているのはイランであり、イランの方が明確な目的を持っているので、イランがますます強くなる可能性があります。

いまの状況を改善していくためには、レバノンとイラクについては、現在の政府が主権国家としての実質を備えるように努力することを助けていくということでしょう。シリアについては、アサド政権の下での国家再建を支援する気に西側諸国がなることはあり得ません。

アサド政権の生き残りを可能にしたイランとロシアが何とかすべきですが、彼らは今の状況が続くことをそれほど問題とは思っていない節があります。

そうなると、シリアにおけるイランとイスラエルとの紛争は止みにくいでしょう。また、広大なイラクを治めるのに、シーア派、スンニ派、クルド族との共存も欠かせないですが、民主主義で最大の人口を有するシーア派は、同じシーア派が大多数を占めるイランに親近感を持つし、イランの革命防衛隊や情報機関も、これらシーア派にアプローチしています。

一方、スンニ派は、サダム・フセイン時代のエリート達であり、なかなか現イラク政権の中枢を占めるシーア派と上手くやって行けるかわからないです。また、中東では、イランに対して、スンニ派の大国サウジの影響力もあります。

レバノンについては、宗派間のバランスをとって統治しているところ、イランが支援する武装勢力ヒズボラが、レバノン国内のシーア派に影響力を与え、スンニ派のハリーリ率いる政権を脅かしています。

こうした複雑化した中東地域では、暫く、イスラエルとイランの国家間対立を含む紛争は続くとみておくべきです。

さて、上の記事で今回ロシアが、米国とイランが本格的戦争になることを回避したことで、漁夫の利を得る可能性もあるとしていますが、本当にそうなるのでしょうか。結論からいうと、得られたにしても、大きなものにはなりえないです。

確かに、シリアにおいてイランとイスラエルが直接衝突する事態はなんとしても避けなければならないものでした。そこでロシアは、両者の間に入って衝突を避けようとする動きを盛んに見せていました。

たとえば、イスラエルが一昨年5月にシリア領内のイラン革命防衛隊を空爆したのち、ロシアのラヴロフ外相は、「シリア南部にはシリア共和国軍の部隊だけが展開すべきである」と述べ、イラン革命防衛隊の撤退が望ましいことを示唆したことがあります。ただし、ラヴロフ外相は「これは双方向の措置でなければならない」として、イスラエルによる空爆も暗に非難しました。

また、この日、レバノン上空でロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機がイスラエル空軍のF-16戦闘機に接近したと報じられています。イスラエル側の報道によると、ロシアは5月初めからレバノン上空に軍用機を侵入させ始めていたとされ、レバノンを拠点とするイスラエルのシリア領内での活動(偵察及び爆撃)をけん制する狙いがあったと見られます。

このラヴロフ発言に続き、英国に本拠を置くシリア人権監視団は、イラン革命防衛隊及びヒズボラはゴラン高原から撤退する用意があるようだと述べており、ロシアの調停による兵力の引き離しが実を結ぶかに見えました。

しかし、現実にはロシアの調停が機能しているとは言い難いものでした。結局、ロシアのけん制にもかかわらずイラン革命防衛隊はシリア南部から撤退していないと見られており、イスラエルによるシリア領内での空爆も継続されました。

一昨年7月16日にフィンランドのヘルシンキで開催された米露首脳会談でもシリア問題は大きく取り上げられたようです。ボルトン米安保補佐官(当時)によると、この際、イランをシリアから撤退させるべきであるとの見解で両国首脳は一致したものの、現実的には難しいという結論に達したといいます。

さらに同年同月23日、イスラエルを訪問したラヴロフ外相が、ゴラン高原のイスラエル国境から100km以内にイラン部隊を立ち入らせないようにするとの提案を行ったのですが、イスラエルは不十分であるとして拒絶したとも報じられました。

ラブロフ ロシア外相

イランが一度固めたシリア領内の地歩を完全に放棄させることはロシアにとっても困難であり、かといって部分的撤退ではイスラエルも納得しないという状況が見て取れました。

それでも、ロシアとしてはシリアにおけるイラン・イスラエル対立を放置することはできません。こうした中で一昨年8月、ロシアは、国連平和維持部隊の一部としてゴラン高原にロシア軍憲兵隊を展開させ始めました。

同国南部において反体制派の掃討が進み、同地域にイラン革命防衛隊が展開してくることを懸念するイスラエルを宥める意図があると見られました。ロシア軍の哨所は最終的に8カ所が設置される予定とされ、ロシアによるゴラン高原への展開としては過去にない大規模なものとなる見込みでした。

とはいえ、ラヴロフ外相の訪露で提案されたシリア南部からのイラン部隊撤退が「不十分」とされたことからも明らかなように、ロシアの措置はイスラエルの対イラン脅威認識を抜本的に払拭するものとはならないでしょう。

以上のように、ロシアは中東において圧倒的な力を持つ「調停者」として振舞うことはできておらず、近い将来にそのような振る舞いが可能となる見込みは薄いです。煎じ詰めるならば、これはロシアが中東において発揮しうる力の限界に帰結できるでしょう。秩序を乱す者に対して受け入れがたい懲罰をもたらす存在でなければ「調停者」になることはできません。

確かにロシアは旧ソ連近隣地域(ロシアが「勢力圏」とみなす地域)においては圧倒的な軍事大国であり、政治的にも経済的にも強い影響力を発揮し得るのですが、中東はその限りではないです。

もともと外征軍ではない米軍の持つ巨大な空輸・海上輸送力を欠いているロシア軍が中東に展開できる軍事力には限りがあり、そのような大規模作戦を支える経済力となるとさらに小さいです。米CNNテレビ(電子版)によると、ロシア軍の艦船が9日、アラビア海北部で活動中の米駆逐艦に異常接近しました。米海軍が10日、明らかにしたといいます。

CNNは国防総省の当局者の話として、アラビア海において、ロシア艦は米駆逐艦「ファラガット」に約55メートルの距離まで接近した後、針路を変えたと伝えました。ファラガットは空母「ハリー・S・トルーマン」を中心とする艦隊の一部。敵の艦船の接近を阻止する役割を担っています。

ロシア国防省は同日、危険な動きをしたのはファラガットの方だと主張しました。これは、ロシア側による中東に展開する米海軍対する偵察と、牽制を兼ねた行動であると考えられますが、牽制としてはあまりにスケールが小さすぎます。かつて、経済的にも大国だった当時のソ連ならば、もっと大掛かりな行動をしたことでしょう。

ちなみに、現在のロシアのGDPは、世界10位にすら入っておらず、東京都と同レベルです。仮に、東京都が中東で何かしようと企てることができたとしても、できることは本当に限られたものになるでしょう。とはいいつつも、ロシアはソ連の核兵器と軍事技術の継承者であり、その点は無論侮ることはできません。しかし、明らかに限界はあります。

エネルギーや経済をテコとしてイスラエルやイランを従わせるというオプションもロシアにはありません。2015年のシリア介入以降、ロシアが中東情勢における影響力をかつてなく高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきです。

同じことは、中東全体の秩序についても言えます。米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が国内外には見られますが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得ないです。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ない等身大のロシア像だと思います。

近年ロシアは中東でプレゼンス高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきだと思います。

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2019年11月13日水曜日

【国家の流儀】韓国と連動して中国、ロシア、北朝鮮による「日本海」争奪戦が始まる…安倍政権はどう対応するか―【私の論評】二正面作戦不能の現在の米軍では、日本を守りきれないという現実にどう向き合うか(゚д゚)!


海自のイージス艦「あたご」

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、数年前から日本の防衛費を上回る軍拡を推進しており、このままだと対馬海峡をめぐって日韓「紛争」が起こることになりかねない。

 もちろん、同盟国・米国は、韓国の「暴走」を必死で押さえ込もうとしている。日韓が紛争を引き起こせば、北朝鮮や中国、ロシアを喜ばせるだけだからだ。

 しかし、残念ながら文政権は、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定するなど、米韓同盟を空洞化させる方向に進んでいる。しかも厄介なことに、この文政権の背後には中国共産党政権がいる。

 2017年12月に訪中した文氏は、習近平国家主席から、(1)米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の追加配備はするな(2)米国のミサイル防衛に参加するな(3)日米韓の安保協力を軍事同盟に発展させるな-の「3つのNO」(三不の誓い)を突き付けられた。この指示通りに、文政権は「離米・反日」を強化しているわけだ。

 この韓国と連動して、今年に入って中国、ロシア、北朝鮮による「日本海」争奪戦が始まった。

 日本海の「大和堆(たい)」という豊かな漁場で違法操業を続けている北朝鮮は、日本の排他的経済水域(EEZ)周辺に連続してミサイルを発射しているが、日本政府は「遺憾の意」を示すだけだ。そうした弱腰に付け込んで、中国やロシアも日本海での活動を活発化させており、7月には中ロ両国の爆撃機が空中集合したうえで、対馬海峡を抜けて東シナ海まで編隊飛行する合同パトロールを実施した。

 東シナ海では、沖縄県・尖閣諸島を含む南西諸島沖に連続で60日以上にわたって、中国海軍の軍艦や海警局の巡視船が出没し、領海「侵入」事件が続いている。中国軍機による挑発行為も深刻で、自衛隊機によるスクランブル発進は過去最多になりそうだ。

 私が知る米軍関係者も「日中両国は、東シナ海で事実上の『戦争状態』にある」と憂慮を隠さない。そうした危機感を背景に、マイク・ペンス米副大統領も10月24日、「米中関係の将来」と題する演説で、東シナ海における「親密な同盟国である日本」に対する中国の軍事的挑発を激しく非難した。

 安倍晋三政権は、海上保安庁第11管区海上保安本部の定員を大幅に増員し、600人を超える「尖閣警備専従部隊」を創設するなど、尖閣を含む東シナ海を必死で守ろうとしているが、劣勢だ。しかも、「紛争」は今年に入って、日本海にも波及しつつあるが、自衛隊と海上保安庁の現有能力で対応できるとはとても思えない。

 南シナ海が奪われ、東シナ海も風前の灯、そして、今度は日本海だ。中国、ロシア、韓国、そして北朝鮮による連携「攻勢」にどう対応するか。大局を見据えた国家戦略の見直しが急務だ。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。他の著書に『天皇家 百五十年の戦い』(ビジネス社)、『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』(PHP新書)など多数。

【私の論評】二正面作戦不能の現在の米軍では、日本を守りきれないという現実にどう向き合うか(゚д゚)!

冒頭の記事で、江崎氏が指摘するように、日本海の争奪戦がはじまるかもしれない可能性は確かにありますが、ではすぐにそれが実行されるかといえば、すぐにはないというのが正解だと思います。なぜなら、日本には現在世界で唯一の超大国である、米軍が駐留しているからです。

韓国、中国、ロシア、北朝鮮等が日本海をいずれ我がものしようとしても、米軍が駐留している日本に対しては、挑発くらいしかできません。本格的に奪うことなどできません。

しかし、争奪戦が始まり実際に奪われる可能性も、否定できません。それはどのような場合かといえば、このブログでも以前指摘させていただいたように、中東などで大規模な戦争がはじまり、それに米軍が介入したときなどです。

現在の米軍は、残念ながら世界の警察官として、大規模な二正面、三正面作戦などできません。米国も関与する本格的な戦争が世界で、一箇所にとどまらず二箇所、三箇所と起こってしまえば、米軍は一箇所だけを優先的に選択して戦争するしかなくなります。

米軍の海外配置の状況(グァムは米国領なので含まず)

中東などで米軍が大規模な作戦を遂行しているときに、日本海で同時大規模な作戦を遂行する能力は今の米軍にはありません。

これについては、以前のブログにも掲載したことですが、最近米国のシンクタンクが、これについて研究した結果を発表しています。

中露や中東の軍事的脅威に対応する米軍の能力が「限界」にあるという厳しい評価が下されたのです。これは、米軍事専門シンクタンクによるもので、「現在の姿勢では、米軍は重要な国益を守るとの要求に、わずかしか応えられない」と強調しています。

問題なのは、特に海軍において、この相対的弱体化に即効性のある解決策がないことです。「世界最強」のはずの米軍に何が起こっているのでしょうか。

評価は著名な米保守系シンクタンクのヘリテージ財団によるものです。同財団が10月末に発表した「2020年 米軍の軍事力指標」と題する年次報告書は、米陸海空軍と海兵隊の軍事的対処能力を、非常に強い▽強い▽限界▽弱い▽非常に弱い-の5段階で評価しています。ただ、基準は「2つの主要な戦争を処理する能力」などとしており、2正面作戦を行うにおいての評価であるあたりが超大国米国らしいです。

とはいえ、中東ではイランの核開発、南シナ海では中国の軍事的膨張、さらに北朝鮮の核ミサイル開発と、地域紛争が偶発的に発生しかねない「火薬庫候補」は複数あり、2正面を基準にするのは米国としては当然の条件です。

この5段階で「限界」とは、乱暴な言い方をすれば「戦争になっても勝てるとは言えず、苦い引き分けで終わりかねない」、あるいは「軍事的目標を達成するのは容易ではない」ということです。

同報告書では欧州や中東、アジアの3地域での軍事的環境を分析。例えば中国については「米国が直面する最も包括的な脅威であり、その挑発的な行動は積極的なままであり、軍事的近代化と増強が継続している」などと、それぞれの地域の脅威を明らかにしたうえで、対応する陸海空軍などの米軍の能力を個別評価しています。ところが驚くことに、その内容は、「限界」ばかりなのです。


米陸軍女性兵士

まず陸軍は、昨年に引き続き「限界」のまま。訓練や教育など多大な努力により旅団戦闘団(BCT)の77%が任務に投入できる状態となった点は高く評価されたのですが、兵力を48万人から50万人に増強する過渡期にあり、その準備や訓練に加え、陸軍全体の近代化が課題となっています。

米海軍女性兵士 ネイビー・シールズ隊員

さらに問題なのは海軍です。前年同様「限界」ですが、内容は厳しいです。まず艦艇の数で、「中国海軍300隻と(海軍同様の装備を持つ)175隻の中国沿岸警備隊」(米国海軍協会)に対し米海軍は290隻。トランプ政権は「2030年代までに海軍の保有艦艇を355隻に増やす」との構想を持っています。一部には予算面から、この構想の無謀さを指摘する声があるのですが、本当の問題は355という数字をクリアすることではなく、艦艇の運用面、いわばクリアした後にあるのです。

海軍艦艇は整備と修理や改修、耐用年数延長工事や性能アップのため、定期的にドック入りして「改善」を行う必要があります。一般的に、全艦艇の3分の1はこうした「整備中」にあり、訓練中も含めれば、即時に戦闘行動に投入できるのは半数程度とされます。

ところが米海軍には、大型艦艇に対応するドックが足りないのです。全長300メートルを超える原子力空母ともなれば、ドック入りしなければならないのに他の艦船が入渠(にゅうきょ)しているため、順番待ちが生じている状態なのです。

米国海軍協会などによると、米海軍原子力空母11隻のうち現在、任務として展開しているのはロナルド・レーガン▽ジョン・C・ステニス▽エイブラハム・リンカーン-の3隻のみ。ニミッツをはじめほか8隻はドックで整備や部分故障の対応中といった状態なのです。

しかも空母に限らず米海軍艦艇がドック入りした際の整備の工期は、予定を大幅に超える事態が頻発しているというのです。

過去のオバマ政権時の軍事予算削減が響き、ドックも足りず、整備できる人間の数も足りないのです。このような状況でなお艦艇数を増やしても、整備や修理待ちの列が長くなるだけです。また原子力空母の多くが建造後20年が経つということに代表される、各種艦艇の老朽化、さらには新型艦の不足も海軍を悩ませています。

報告書では「資金不足と利用可能な造船所の一般的な不足により、艦艇のメンテナンスが大幅に滞り、配備可能な船舶と乗組員に追加の負担がかかっている」と指摘されています。

確かに、このような状態で中東と南シナ海、あるいは朝鮮半島で緊迫した事態が発生したらと考えると「限界」の評価はうなずけます。ベトナム戦争の際、米海軍はベトナム近海に常時数隻の空母を展開していたのですが、現状の3隻、訓練中を含めても5~6隻の稼働では「2正面の展開」は困難です。

米空軍女性パイロット

一方で空軍は前年の「弱い」から「限界」にランクアップという、とても素直には喜べない状態です。

戦闘機と攻撃機の数が必要数の8割にとどまっているほか、パイロットの不足などをこの評価の理由にあげています。また海兵隊も「限界」で、近接支援を行う武装ヘリなど海兵隊配備の航空機の維持や保守要員の不足などがマイナスとなりましたた。

報告書は「(米軍は)現在の作戦と準備レベルの維持に人的・物的資源が振り向けられているため、近代化プログラムは苦戦している」としたうえで、「現在の姿勢では、米軍は重要な国益を守るとの要求に、わずかしか応えられない」と結んでいます。

なかでも海軍には「水平線の向こうに警告を示す不吉な雲が見えている」との表現で、“進路”を変えるなら今だとの警鐘を鳴らしていますが、まずはドックから作らねばというのは、「おいしいおにぎりを食べたいから、まず水田を作ろうや」という状態ともとれます。トランプ米大統領が北大西洋条約機構(NATO)や日本に軍事的対処能力の向上を求めるのも当然といえば当然なのです。

このようなお寒い状況では、確かに米軍大規模な二正面作戦などできません。中東で米軍が大規模作戦を実行し始めた場合、日本海で大規模な侵略があった場合、米国はこレに十分に対処できない可能性が大です。

かといって、米国ではシェール・オイルの採掘によって、石油は自国で賄えるようになったため、米軍が中東から引き揚げ、現在中国の台頭に悩まされているアジアに主力を置くようにすれば、日本にとっては一見良いようにみえるかもしれません。それで、今まで通り、日本は米国に守ってもらえると安堵するかもしれません。

しかしそれだけでは、日本自体は、安全が確保されるかもしれません。しかし、米軍が引き揚げた中東は不安定化するでしょう。原油の輸入を頼っている日本とししては、これは死活問題です。中東に原油を頼る、他先進国とも協調しつつ、中東に大規模な軍隊を派遣して、中東の安全保障を確保しなくてはならなくなります。

いずれにしても、日本の安全保障は今のままでは、脅威にさらされることになります。まずは、現行の憲法や法律でできることはすべて実行するべきです。防衛予算は、現行のままでも増やすことはできます。無意味な1%枠など捨て去り、少なくとも2%に増額して、同盟国である米国等とも協調しつつ、アジアと中東の安全を確保すべきです。

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2019年10月9日水曜日

中国より日本のほうがマシなことに気づいたロシア―【私の論評】日米にはいずれ中露にくさびを打ち込める時が訪れる(゚д゚)!


岡崎研究所

 ロシアの独立系評論家イノゼムツェフが、4月24日付 Moskovsky Komsomolets紙掲載の論説で、ロシアにとって中国は頼りにならず日本の方がましであるとして、これまでの対中関係の見直しを提唱しています。論説の要旨は次の通りです。

イノゼムツェフ氏

 これまで、ロシアは中国との提携を重視して米国に対抗してきた。しかし、今回の米中首脳会談では、中国にとってはロシアより米国の方がはるかに重要であることが明白となった。中国は、対米経済関係を守るためなら、米国の言うことでも聞くのだ。

 中国はロシアを資源供給国と見下げ、製造業に投資しない。ロシアの企業の株を買い占めるだけである。

 カラガーノフとその一派(代表的オピニオン・リーダー。政権に近い)は中ロの蜜月は不変だと繰り返しているが、中国はロシアを支えることに対して、いつも恩着せがましく対価を要求する。

 日本はサハリンの石油ガス資源を開発してくれたし、トヨタ、日産は工場も建てた。日本は経済成長を支えている海洋諸国家への出口でもある。また「東」でありながら、西側の一部でもある。

出典:Vladislav Inozemtsev,‘Pundit sees Japan as better bet for Russia than China’(Moskovsky Komsomolets, April 24, 2017)

中ロ間に走った亀裂

 この1、2カ月、中ロ間にかすかな亀裂が走った感があります。それは、この論調が指摘するように、3月の米中首脳会談以後、中国が米国に協力的な態度を目立たせていることに起因します。国連安保理では、シリアの化学兵器、北朝鮮非難の双方で、中国が米国寄り、あるいは棄権の態度を取り、米国のイニシアチブをつぶそうとするロシアを孤立させました。

 これはおそらくプーチンの反発を呼んだのでしょう。習近平は4月26日に自らの最側近、共産党中央弁公庁主任の栗戦書に自分のメッセージを持たせて訪ロさせ、プーチンはこれと会談しています。クレムリンのホームページには、栗が「中国のロシアに対する関係には何の変化もない」ことを習近平のメッセージとして繰り返した旨、記載されています。中国は5月14、15日に北京で「シルクロード首脳会議」を開きましたが、プーチンに欠席されるようなことがあれば、面子丸つぶれになっていたところです。

 プーチンは、そのような中国を尻目に、ロシアの国際的立場維持のための措置を立て続けにとりました。5月初め、メルケル・ドイツ首相、エルドアン・トルコ大統領と相次いで会談、トランプ大統領に電話して同大統領との関係を維持、シリア情勢平定化に向けて立場をすり合わせると同時に、北朝鮮については話し合いによる解決を慫慂するなど、ロシアを世界政治の舞台にしっかりと位置付けて見せました。

 この10年余、中ロは提携を強めて米国による干渉を防ぎ、2008年金融危機以降は「米国の時代は去った。これからは多極化世界の時代だ」との宣伝を行ってきましたが、上記の経緯が示すように、最近、ものごとは再び米国を軸に動き始めた感があります。そして、中ロの間では、以前から指摘されてきた摩擦要因が頭をもたげてくる可能性があります。北朝鮮情勢で中国が陸軍の重要性を再認識し、これまで海軍・空軍に重点配布してきた国防費を陸軍に回すようになれば、中国の関心はこれまでの海洋から内陸部に向き、それはロシアとの摩擦を大きくするでしょう。

 本件論調は日本にとって歓迎するべきものではありますが、筆者のイノゼムツェフは政権側の人物ではありません。論調がどこまで政権内部の動きを反映したものかは分かりません。

【私の論評】日米にはいずれ中露にくさびを打ち込める時が訪れる(゚д゚)!
中国を支配したモンゴル帝国による13世紀のロシア支配(いわゆる「タタールのくびき」)や、19世紀のロシアによる清朝からの領土(現在の露極東沿海地方)の強引な割譲など、長大な国境線を有する両国には歴史上、侵略や領土紛争が絶えませんでした。

そうした対立は、両国が共産主義体制を敷いた現代に入っても続きました。旧ソ連時代には、共産陣営内での主導権争いや領土をめぐって大規模戦争が起きる寸前に至ったこともありました

しかし冷戦終結やソ連崩壊などを経て、互いの技術や資本を欲した両国の関係は改善。2001年には両国間で善隣友好協力条約が締結されました。その後もアムール川(中国名・黒竜江)の中州の領有権をめぐる長年の紛争が解決され、両国の国境が画定されました。

さらに現在は、両国にとって“共通の敵”である米国の存在もあり、ロシアと中国の関係は一般的に良好とされています。実際、昨今の中露両国は共同歩調が目立ちます。

習近平・中国国家主席による今年6月5~7日のロシア訪問は、5月下旬のトランプ米大統領の訪日を思わせる手厚い歓待でした。

サンクトペテルブルク大学名誉博士号を授与される習近平

中露は昨年、露極東で大規模な合同軍事演習を行うなど、軍事面でも関係を深めています。プーチン氏は首脳会談で「両国の戦略的パートナーシップは、かつてないほどの高水準に達している」と強調しました。

両首脳は、イランや北朝鮮といった問題はもちろん、第5世代(5G)移動通信システムの分野でも連携することで合意。プーチン氏は、米国が排除に動く中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)について、「前代未聞のやり方で世界市場から排除されようとしている」と中国の肩を持ちました。

中露首脳は、14日にキルギスで行われた上海協力機構(SCO)首脳会議のほか、大阪で行われた20カ国・地域(G20)首脳会議でも顔を合わせました。

中露両国についてはこれまで、米国に対抗するための「政略結婚」にすぎず、「蜜月」は長続きしない-との見方が語られてきました。

しかし、米中対立の深まりとともに、中国はロシアを自陣営に抱き込む動きを強めています。中国にとって、豊富な地下資源と軍事力を擁する隣国はありがたい存在です。ロシアも、米国の「一極支配」を打破し、国際舞台での影響力を高める上で中国と組むのが得策だと考えているようです。

ただし、ロシアには、4千キロもの国境を接する中国に対して潜在的な警戒心があります。

ロシア極東で中国と4千キロもの国境を接する

ソ連時代とは立場が逆転し、今や中国の経済規模はロシアの8倍以上もあります。対して、現在のロシアの経済は韓国並です。

広大なロシア極東部の人口が600万人にすぎないのに対し、隣接する東北3省には1億3千万人が住む。うかうかしていれば、中国の人とカネに国土を席巻されかねないのです。

だからこそロシアにとって、中国との関係は死活的に重要なのです。ウクライナ介入で米欧に対露制裁を科されている状況では、なおさら中国に依存せざるを得ないです。ロシアとしては、自国の「裏庭」と考える中央アジア諸国が、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」にのみこまれるのを抑制する必要もあります。

ロシアは、国際政治の「極」の一つでありたいと望んでおり、中国の弟分として埋没したくはないようです。将来的に、ロシアが対中関係を改める可能性は十分にあります。しかし、その機はまだ全く熟しておらず、日本が中露にくさびを打ち込めると考えるのは楽観的にすぎるでしょう。

最近、インドのモディ政権が日露両国に対し、経済を中心に3カ国で協力する枠組みを提案していることが判明しました。関係国の複数の外交筋が明かしました。


米国と中露との対立が先鋭化する中、インドはこの対立軸とは異なる新たな枠組みを持つことで両陣営の間でバランスを保ち、外交や経済活動の選択肢を広げる狙いがあります。ロシアは提案を前向きに受け止めていますが、日本は対米関係にも配慮し慎重に検討していく構えです。

以前からこのブログに掲載しているように、米国がさらに対中国冷戦を継続しつつ強化すれば、中国経済は弱体化し、そのときにはロシアの中国に対する不満が爆発し、ロシアが中国との関係を改めることは十分にありえます。

さらに、中露の対立が激化したときには、日米が中露にくさびを打ち込み、ロシアを対中国冷戦の一角に据えることも可能になるかもしれません。

さらに、中露対決が激化すれば、その時こそ日本にとつて、北方領土交渉かかなり有利なるのは間違いありません。

現在日本は、そのことも考え合わせ、対中冷戦に加担すべきなのです。来年、習近平を国賓待遇で迎えいれるなど、とんでもないです。

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プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体―【私の論評】将来の北方領土交渉を有利に進めるためにも、日本人はもっとロシアの実体を知るべき(゚д゚)!





2019年10月3日木曜日

プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体―【私の論評】将来の北方領土交渉を有利に進めるためにも、日本人はもっとロシアの実体を知るべき(゚д゚)!

プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体

外交官の万華鏡河東哲夫


こわもてで鳴らすプーチンだが、実は「愉快な」人かも

<独裁者が君臨するこわもてロシアの素顔は実は「ずっこけ」――この国に振り回されず、うまく付き合う方法は?>

ロシアと言うとすぐ「おそロシア」とか、もろ肌脱いだこわもてのウラジーミル・プーチン大統領といった話になるが、まじめくさった議論はもう飽きた。実はこの国の人たちはかなりずっこけた「ざんねんな」存在。ロシアを知る者には、それがまたたまらない味なのだ。

世界を席巻する人工知能(AI)やロボット技術について、プーチンの腹心である元財務相アレクセイ・クドリンは、「この開発に遅れれば、ロシアは永遠に遅れることになる」と決まり文句のように言う。奇想天外なことを考えるのが好きなロシア人だから、AIやロボットの開発には向いている。だが経営・技術要員の致命的な不足や製造技術、品質管理、サプライチェーンの遅れによって、多くはアイデア倒れに終わってしまう。

2013年には角速度センサーを逆向きに付けたため、ロケットが発射直後に反転して地上に激突した。開発中のロボットが研究所から迷い出て、大通りの真ん中でバッテリー切れになったこともあった。プーチンは「原子力で長期間、空中待機する巡航ミサイル」を造ると豪語していたが(簡単に撃墜されると思うのだが)、今年8月にはそれが開発中に爆発して技術者を5人も殺し、放射能をまき散らした。

プーチンはじめロシア政府のお歴々は口をそろえて、「いつまでも経済・財政を石油に依存していてはいけない。製造業を何とかしないとロシアはやっていけない」と言うのだが、製造業はロシアのアキレス腱であり続ける。数年前、プーチンは友人の実業家が開発した国産乗用車の試乗会に招待された。ハンドルを握る友人の隣に乗り込むプーチンは冗談半分、「おい、君。大丈夫だよね。この車バラバラにならないよね」と聞いたのだった。

プーチンは独裁者にあらず

ロシア人は契約や規則より、まず自分の都合を優先する。きちんと仕事をしてもらいたかったら、いつも電話で友情を確認し、月に1度は飲みに行くくらいでないといけない。

知識層の地金は西欧のリベラリズムだが、人間の常でロシア人も汚いところは、どうしようもなく汚い。例えばモスクワの墓地は利権の塊だ。「いい場所」は、顧客から袖の下を巻き上げる黄金の小づちでもある。今年6月には、警察幹部が絡む墓地利権の調査をしていた新聞記者が警官からポケットに麻薬を突っ込まれ、麻薬密売未遂の容疑で逮捕される事件があった。非難の声が巻き起こり、事件を仕組んだ警察幹部2人が懲戒免職になっている。

12年前のある日、ビクトル・ズプコフ首相は閣議で部下を叱り飛ばした。「サハリンの地震復興予算は既に送金したはずなのに、現地からはまだ届いていないと言ってくる。調査して是正しろ」。ところが、2カ月たっても問題は解決されなかった。どうも予算は送金の途中で、何者かによって「運用に回されて」しまうらしい。

この国では悪い意味での「個人主義」がはびこっていて、国や国民、会社や社員全体のことまで考える幹部は数えるほどもいない。多くの者にとって公共物は、自分の生活を良くするために悪用・流用するものだ。

そんなわけだから、14年3月、介入開始からわずか2週間ほどでクリミア併合の手続きが完了したとき、プーチンは冗談半分で部下に言った。「本当かい、君たち。これ本当に、われわれがやったのかね?」

プーチンはこのようなロシアにまたがる騎手のような存在だ。公安機関という強力な手綱はあるが、馬が暴れだせば簡単に放り出される。「独裁者」とは違うのだ。ドナルド・トランプ米大統領と同じく、(まがいものの)ニンジンで馬をなだめているポピュリストの指導者なのだ。

そして18年10月、年金支給年齢を5年も引き上げる法案に署名したことで、プーチンは国民の信頼を裏切った。男性の平均寿命が67歳のロシアで、年金支給を65歳から(女性は60歳から)にするというのだから無理もない。

それから1年がたち、プーチンの顔色は冴えない。老いの疲れも見える。ロシアの国威を回復しようと、家庭も犠牲にして20年間頑張ってきたのに、できたことはボリス・エリツィン時代の大混乱を収拾し、ソ連時代のようなけだるい安定を取り戻しただけ。プーチンが政権を握った00年当時に比べると、モスクワは見違えるほど美しく清潔になり、スマートフォンを活用した利便性は東京を上回るほどだ。だが、ロシアに上向きの勢いはない。24年にプーチン時代は終わるので、彼の周辺は利権と地位の確保を狙ってうごめき始めている。

2つの「ソ連」を生きる人々

プーチンはロシアを復活させるに当たって、西側の影響を受けたいわゆる「リベラル」分子を政権から遠ざけた。そのため彼の時代には、エリツィン時代に冷や飯を食わされたソ連的なエリートが復活した。彼らは昔の共産党さながらの万年与党「統一ロシア」に糾合され、その硬直した官僚主義と腐敗は国民の反発を買っている。

政権の柱である公安機関と軍も利権あさりが目に余る。今年4月には、連邦保安局(FSB)の銀行担当の複数の幹部が拘束された。銀行から賄賂を受け取って、中央銀行による免許停止措置を免れさせていたためだ。

7月にモスクワで起きた民主化要求デモをきっかけに、プーチンは公安機関への依存を強めている。約1カ月半の間に全国で3000人が一時拘束され、首謀者の自宅には深夜に公安が踏み込んで逮捕する。まるでスターリン時代のような取り締まりだ。


ロシアは高齢者が少なく、35歳以下の若い世代が人口の約半数を占める。彼らの多くは自由な西側文化に染まり、強い権利意識と上層部の汚職に対する厳しい意見を持ち、SNSの呼び掛けで集会・デモを繰り広げる。何ともちぐはぐだが、現在のロシアでは上層部と政府依存体質の大衆が「ネオ・ソ連時代」を、知識人層は「ネオ・ペレストロイカ時代」を生きている。

ロシアの歴史は繰り返す。支配と富の分配構造が固まって70年もたつと、ひずみと不満が増大して暴力的な革命が起きる。1917年のロシア革命、そして1991年のソ連崩壊がそれだ。ソ連崩壊の結果生まれた現在の構造は、今また破断する定めなのかもしれない。ただロシアの場合、革命は進歩をもたらさない。特権階級が交代するだけだ。

このような国とは、「適当」に付き合うべきだ。極東ロシアは政治・経済両面で日本にとって大きな意味を持たない。極東ロシア軍は人員、装備とも手薄で、日本の脅威ではない。北方領土は当面返さないだろうから、この問題でこちらから譲歩することは避ける。諦めて平和条約を結んでも、見返りに得られるものはない。

ロシアに反日感情はない。むしろ自らの対極とも言える日本文化、日本人に憧れている面もある。きちんとしていないロシア人に振り回されないように気を付けさえすれば、ロシアは「愉快な」相手なのだ。

<ニューズウィーク日本版2019年10月01日号:特集「2020サバイバル日本戦略」より>

【私の論評】将来の北方領土交渉を有利に進めるためにも日本人はもっとロシアの実体を知るべき(゚д゚)!

日本では、ロシアを未だにに超大国と見るむきも少なくないですが、やはり等身大にみるべきでしょう。このブログでは過去に、ロシアの実体を何度か掲載してきたことがあります。

ロシアの経済力は、現状では韓国と同程度です。韓国と同程度とは、どのくらいなのかということになりますが、詳しくはGDPを調べていただくもとして、大体東京都と同じくらいです。

東京都のGDPは日本全体の1/3くらいです。ロシアの経済の現状はこの程度です。この程度の国ができることは、経済的にも軍事的にも限られています。

さらに、人口は1億4千万人程度と、あの広大な領土に比較すると、人口では日本よりもわずかに2千万人しか多くないのです。人口密度がいかに低いのか、よく理解できると思います。

中国と国境を接する極東では、さらに人口密度が低いので、中露国境をまたいで、著しい人口密度の差があります。

この人口密度の極端な違いから、多くの中国人が国境を越境して、物販はもとより様々なビジネスを行い、まるで国境がなきがごとくの状態になっています。これを国境溶解と呼ぶ人もいるくらいです。

ただし、最近では変化も見られます。最近では、ロシア人も中国に出稼ぎにでかけるといいます。情勢は驚くほどに変化しているのです。ただ、国境溶解がより鮮明になっていることは確かです。

このように、現在のロシアは、中国ともまともに対峙できる状況ではありません。かつての中ソ国境紛争など信じられないくらいです。

とはいいながら、ロシアはソ連の核兵器と、軍事技術の直接の継承者であり、あなどることはできません。

特にICBM、SLBMなど、これは軍事技術的にはすでに米露では、数十年前から、成熟した技術であり、両国とも40年も前の核兵器が今でも現役です。

たとえば、米国防総省によると初期のフロッピーディスク規格となる8インチフロッピーディスクが未だに現役だといいます。大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機、空中給油・支援機など一連の核兵器を運用、調整する指揮統制系統だとしており、現場では今から40年前に発売された1976年「IBMシリーズ/1」や当時普及し始めていた8インチフロッピーディスクが運用に用いられているといいます(2017年現在)。

弾道ミサイル発射管制センターで撮影された写真。8インチフロッピーディスクが使用されている

ロシアでも同じ状況です。ソ連時代に開発された、核兵器が未だに現役なのです。それを考えると、確かに軍事的には未だにロシアは侮れない相手であるのは確かです。

とは、いいながら、ICBMやSLBMなどは、実際にはなかなか使用できない兵器であるのも確かです。しかし、ソ連時代の軍事技術を継承したロシアはいまでも、軍事的には侮れないことは確かですが、経済的には見る影もありません。

考えてみてください、仮に東京都が日本から独立して、軍事国家に豹変したとして、世界に向かってどの程度のことができるでしょうか。米国あたりが本気になれば、あっという間に潰されます。さらに、将来的にも経済が伸びる要素はほとんどありません。今のロシアはまさにそのような状況なのです。

経済的にみても、プーチンの国ロシアは、まさに「ざんねんな」国なのです。この、ずっこけた「ざんねんな」ロシアと付き合うには、たしかにもっと鷹揚に構えたほうが良いのかもしれません。

日本では目を疑う熊の散歩もロシアでは日常風景の一つ

北方領土交渉についても、このブログにも過去に掲載しているように、現在帰ってこないからといって、慌てる必要は全くないと思います。

中国が経済的に弱体化してくれば、今は表面化していない、ロシアの中国に対する不満が爆発します。そうなると、過去の中ソ対立のように、中露対決が再現することになります。

経済的に弱体化した中露が激しく対立すれば、ますますロシアの経済力は落ち込みます。そのときこそ、日本は北方領土交渉を強力に推し進めるべきなのです。今は鷹揚にかまえるべきです。とはいいながら、北方領土に関しては、ロシアに一切譲歩すべきではありません。

日本としては対ロシアでは、北方領土が最重要ですが、その他では、経済的にも技術的にもロシアに頼ることはないです。北方領土以外はもっと鷹揚に構えてつきあって行くべきと思います。

ただし、ロシアというと、日本人は強面の「おそロシア」を思い浮かべたり、ロシアマフイアの凄惨さを思い浮かべたり、第二次世界大戦末期や、その後の日本に対する卑劣極まる振る舞いが忘れられない面もあります。確かに、ロシアにはそういう一面はあります。かといつて、それが全部というわけでもありません。

北方領土交渉を将来日本に有利にすすめるためにも、日本人はもっとロシアの実体を知るべきと思います。少なくとも、かつてのソ連時代の超大国のイメージは早々に捨て去るべきです。

北方領土は、一昔前なら戦争して取り返すしかありませんでした。しかし、現在では戦争に変わる方法もありますが、一昔前の戦争と同じくらいの、気構えと機知がないと到底叶うものではありません。それを実行するためにも、現在のロシアを熟知する必要があるのです。

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2019年8月27日火曜日

米国に対峙する中ロ提携強化は本物か?―【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!


岡崎研究所

 7月23日、中国とロシアは日本海と東シナ海で空軍共同軍事演習を行い、韓国と日本の防空体制を試した。この際、韓国空軍が、同国が不法占拠している竹島(韓国名:独島)の領空をロシア軍機が侵犯したとして300発以上の警告射撃を行ったことで、日本でも大きなニュースとなった。


 この中ロ空軍共同演習を契機に、中ロの提携強化に注目が集まった。米国の論壇では、米国防省の掲げる「米国の主敵は中国とロシア」というラインに沿ったものが多く見られた。例えば、米バード大学のWalter Russell Mead教授が7月29日付でウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した論説‘Why Russia and China Are Joining Forces’は、今回の共同演習について「この数年強化されてきた中ロ間の提携の一例に過ぎない」と指摘するとともに、「世界の秩序を乱しているのはトランプよりも、中ロの2大国が力を増し、IT技術の進歩を悪用しつつ、自らの影響力を世界中で拡大しようとしていることにある」と言っている。

 現実の米ロ関係はどうか。7月2日の中距離核戦力全廃条約(INF条約)失効にもかかわらず、現在、トランプ大統領はロシアへの宥和的姿勢を徐々に強化しつつあるように見える。これまで「トランプはロシアと"ぐる"になって、大統領選で勝利した」ことを証明しようとしてきた民主党の作戦が、モラー特別捜査官の議会証言で最終的に破綻したことも一因であろう。

 ベネズエラでの米ロ対立がすっかり影を潜めた一方、米国はなぜか「ロシア産原油」の輸入を急増させている。米国がマドゥーロ政権制裁のために、ベネズエラ原油の輸入を停止したこととの関連が疑われる。更に、米国はイランに対するロシアの影響力を活用しようとしており、6月24日にはエルサレムでボルトン大統領安全保障問題特別補佐官とパトルシェフ・ロシア国家安全保障会議書記が、ネタニヤフ・イスラエル首相及び同首相の安全保障問題担当補佐官を含めて三者会談している。

 プーチンの側も、対米関係の好転を願っているものと思われる。西側の制裁はロシアに直接の大きな作用を及ぼしているわけではないが、長期的には先端技術及び資金の流入縮小を通じて、ロシアの経済に深刻なダメージを与える。制裁で沈んだ経済成長率は2018年上昇傾向を示したが(2.3%)、本年の第1四半期には1.2%に沈む等、再び停滞傾向を強めている。対米関係を何とかしない限り、ロシアはお先真っ暗である。従って、米ロ関係には、改善に向かう潜在的要因が存在していると見られる。

 中ロ関係については、必ずしも連携が強化する一方というわけではなく、関係が進んでいる面もあれば、競り合っている面もある。進んでいると見せかけて、実際には中身がないものも多い。中身があるのは、ロシアの中国への原油と天然ガスの輸出である。他方、「両国間貿易の決済ではドルではなく、双方の通貨を使おう」ということは長年叫ばれ、6月5日には協定も署名されたが、実効は上がっていないものと見られる。

 中ロの競合は、第一に中央アジアに見られる。例えばタジキスタンで中国が共同軍事演習を繰り返しているような例である。経済力を欠くロシアにとっては、防衛面での支援は対中央アジア外交の重要な手段であるのに(タジキスタンにはロシア軍1個師団が常駐)、中国がこれを侵食しつつある。

 東アジアでも中ロが必ずしも足並みをそろえていない例がある。ロシアは、中国とは微妙な関係にあるベトナムに潜水艦を売却したし、南シナ海を睥睨するカムラン湾の基地には軍艦を時々寄港させている。ロシア海軍が日本の海上自衛隊と合同訓練をすることもあるし、米国主宰のRIMPAC演習に参加したこともある(2012年)。つまり、ロシアは、中国を絶対的な提携相手としているわけはない。そして極東におけるロシアの戦力は、原子力潜水艦を除けば大したものではない。従って、「中ロ連携強化」には、こちらが過剰反応する必要はない。

 中ロ関係強化は自己目的ではなく、ロシアと中国が対米関係で用いる脅し道具という側面が強い。中ロのいずれかが対米関係改善に成功すると、しばらくお蔵入りになるものである。今後、米ロ関係が好転するようなことがあれば、ロシアにとって中国の重要性は低下する。ただし、極東部の脆弱性をよく心得ているロシアは、中国と敵対することは避けようとするだろう。ロシアを引き込んで対中牽制に使う、という論もあるが、なかなか成り立ちがたいと思われる。

【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!

2017年5月14~15日に、中国が推進している現代版シルクロード経済圏構想である「一帯一路」の国際会議が中国の首都・北京で開催されました。同会議には、全世界の計130カ国の1500人、そして29カ国の首脳が参加しました。
「一帯一路」は中国が長い年月をかけて推進してきたものですが、このような会議が行われるのはこの時が初めてであり、中国は大国の威信をかけてこの会議に臨みました。この会議は、中国の当時の外交政策の成否のメルクマールとなり、また今後の「一帯一路」の発展を展望するうえでも重要な一歩とみなされていたのです。
そのため、中国の同会議に対する思い入れは極めて強く、参加国との連帯を強めていくために手を尽くし、そして、自由貿易の重要性を盛り込んだ首脳会合の共同声明も採択されました。
そして、同会議ではやはり中露関係の緊密さが顕著に見られました。米国でロシアによるサイバー攻撃とそれによる影響やドナルド・トランプ政権関係者とロシアの関係が米国政治の焦点となっていた中で、米露関係が冷戦後最低レベルに落ち込んだとすら言われる中、米国への対抗軸で共通の利害関係を持つ中国とロシアが関係を緊密にするのは自然な流れでした。
また、中露は、中国が推進する「一帯一路」構想とロシアが主導し、旧ソ連の5カ国が参加する「ユーラシア経済連合」の連携協定を2015年に結び、「一帯一路」の成功が中露両国にとって有益であると国民にも訴えつつ関係深化を進めてきました。
会議においても、ロシアのウラディーミル・プーチン大統領は一番の賓客として扱われ、スピーチの機会も習近平国家主席の次に設けられました。プーチンはその場を利用し、ロシアが主導している「ユーラシア経済同盟(EEU)」と「一帯一路」の類似点を強調し、中露の計画は相互補完関係にあるとした上で、これらのメガプロジェクトに代表されるユーラシア統合を「未来に向けた文明的プロジェクト」だと述べました。
ユーラシア経済同盟の加盟国

そして、ロシアは「一帯一路」との連携をさらに進め、ポジティブな成果を出す必要に迫られていました。特に、2014年後半からの原油安やウクライナ危機によって欧米が発動している対露経済制裁によって、ロシアのみならず、ロシアと深い経済関係を持つ旧ソ連諸国の多くが経済的ダメージを受けていることも重要な背景でした。
たとえば、ユーラシア経済連合の域内貿易額が、昨年には2014年と比して30%も減少したことは、その一例でした。旧ソ連諸国の経済パフォーマンスに当面期待できず、ユーラシア経済同盟加盟国の間でも失望感が広がっている状況では、数年前と比べれば随分勢いは衰えたとはいえ、まだまだ力がある中国経済による好影響を期待するほかなく、また巨大経済圏構想の可能性を見せつけることで、大国としての存在感も示すことができたのです。
そして、会議の期間中、中露間の大型プロジェクトが多数成立しました。

まず、中露両国がロシア極東及び中国北東部の開発支援のために、総額100億人民元(約145億ドル)の共同地域開発協力投資ファンドを設立するという計画が発表されました。

加えて、ロシア石油最大手ロスネフチと中国石油天然ガス集団(CNPC)は両者間の協力の効率化向上を目指すための合同調整委員会の設立に関する取り決めに調印したことが発表されました。

また、ロシア天然ガス最大手ガスプロムのミレル社長とCNPCの王会長は、地下ガス貯蔵、電気産業、道路インフラなどの分野での協力深化に関する文書に調印しました。

このように、中露関係のプロジェクトは、地域発展を目指すものやエネルギー関連の協力強化が主軸となっており、経済規模も大きいものでした。

その一方で、両国のメガプロジェクトの連携に関し、ロシアの期待が裏切られているのもまた事実でした。

前述の通り、プーチンは度々中露のメガプロジェクトの連携が有益であると国内外に訴え続けてきましたが、実際のところ、プーチンが本気でそう思っているとは考えづらいです。

プーチンの連携を高く評価する発言の背景には、むしろ、連携からの恩恵が少ない現実への批判を避けるためだとも考えられます。実は、ロシア側が「一帯一路」との連携に期待していたものと実態はかけ離れており、プーチンをはじめとした当局やオリガルヒ(財閥)の懐疑心は強まっていると言われていました。

そのような疑念を高めているのが、「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携を象徴するプロジェクトとして発足したモスクワ・カザン高速鉄道計画におけるロシアの失望でした。



この鉄道計画は、いずれモスクワと北京が鉄道で結ばれるとされる高速鉄道の基礎となるとされ、最初の了解覚書では、同鉄道はシベリア地域を通るとされていました。しかし、のちに同鉄道の線路はロシアのほとんどの地域を通過せず、カザフスタンの首都アスタナから新疆を通過して、所要時間が3分の2になるように変えられたのです。中露協力のモデル計画とされていたプロジェクトの結果がこのような惨憺たるものであることは、ロシアにとって大きな痛手でした。

しかも、これのみならず、中国と欧州を結ぶインフラの多くはロシアを全く通らず、中央アジアと南コーカサス地域を通過しており、ロシアは陸運の利益を得られないのです。さらに、そもそも陸路よりも海路での運輸の方が50%以上安価になるため、所要時間は陸路の方が早くなるとはいえ、経済合理性の観点から、中国・欧州間の貨物輸送で陸路経由が占める割合は1%以下となっています。このことから、ロシアが陸の現代版「シルクロード」計画から得られる利益はほとんど想定できないのです。

このような状況に鑑み、ロシアの研究者の中には、「一帯一路」構想は達成指標がないが故に、中国が軽微なものも含むあらゆる結果を「一帯一路」の成果として喧伝していることから、「一帯一路」そのものの意味に疑問を呈するものもいます。「一帯一路」がそもそも大した成果が上がっていないものなら、「ユーラシア経済連合」との連携で良い成果が出ないのは当たり前だという議論です。

確かに、「一帯一路」の経済パフォーマンスは決して良いとはいえないです。たとえば、中国の投資家は融資するプロジェクトをかなり選り好みして決めるため、実際の融資額は期待を下回っており、2017年には中国の「一帯一路」」関係の投資額は、3年ぶりに減少しました。

そして、中国の投資家からすると、ロシアが提案するプロジェクトはあまり魅力的に感じられず、結果、対露投資のパフォーマンスは悪くなるのです。そのため、ロシアの専門家の中には、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合」は素晴らしいが、中国が自国の経済利益のみを考慮する利己的な行動をとるが故に、連携においてはロシアの実入りが小さいのだという議論を提示するものもいます。

さらにロシアの重要な「勢力圏」であり、中国が経済的に台頭してくるまではロシアが政治・経済の影響力を独占的に維持してきた中央アジア諸国が、ロシアよりむしろ中国との関係を深めていることもまたロシアにとっては許容しがたい問題です。

「一帯一路」の国際会議でも、中国と中央アジアの関係強化は顕著に見られました。習主席はカザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタンの各国首脳と会談し、中央アジア諸国との関係強化を強調しました。

これら会談の中で、例えば、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、カザフスタン鉄道がカザフスタンと中国の国境にあるコルゴスの輸送拠点の49%を譲り受けるという合意に調印しました。

これはカザフスタンが重要物流拠点として高い戦略性を持つと見なされるようになったことの証左です。また、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領も中国との経済関係の強化を強く求めており、当時の会談では最大200億ドルの協力協定も締結しました。

中国は、ウズベキスタン東部のフェルガナ盆地と、残りのウズベキスタンを結ぶ最初の唯一の鉄道に対する共同出資をすることを約束しました。この連携は中国製品を中央アジアに輸出するために極めて重要です。

その鉄道が完成した現在、中国は戦略的に1億7500万ドル相当の高速道路プロジェクトにも取り組んでいます。

このように中国とロシアの「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携への期待は高いとはいえ、実際にはあまり良い結果が出ておらず、また、地域覇権を維持したいロシアにとっては中国の勢力拡張は決して望ましくない状況です。

米国への対抗軸という揺るがない共通利益を持っていることを背景に、中露関係が緊密であることは間違いないとはいえ、両国のメガプロジェクトにおける連携は、ロシアの期待とそれに応えていない中国という図式、ロシアの「勢力圏」に迫る中国の影響力など、両国関係の判断も単純ではありません。

プーチンと習近平

ただし、旧ソ連の核兵器と、軍事技術を継承しているということで決して侮ることはできないのですが、経済力が落ちているロシア(GDPは、東京都や韓国と同程度)は中国に対して強気に出られないというのが実情です。

このままだと、ロシアの中国に対する不満は高まるばかりです。現在、米国の対中国冷戦により、中国は経済的に弱りつつあります。

現状では、経済的にかなり中国に差をつけられたことと、ロシアは極東で中国と国境を接していること、しかもかなり長距離わたって接していることと、ロシアよりも中国のほうが圧倒的に人口が多く、特にロシア極東の中国との国境ではそれが顕著です。そうして、中ロ国境を多くの中国人が越境しているという特殊事情があるので、米国やEUから制裁を受けている現状で、中国と対立するのは得策ではないと考えているようですが、中国経済がかなり疲弊したときには、確実に中国と対立することになるでしょう。

米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのはまだ早すぎます。ただし、中国が経済的に疲弊した場合は、その限りではありません。その時、ロシアは対中国という観点から米国の有力なパートナーとなるかもしれません。

先日はこのブログで、長期的にはロシアの憤怒のマグマが蓄積して、いずれそのマグマはは中国に向かって吹き出すという趣旨の内容を掲載しました。「ユーラシア経済連合」のからみで、ロシアは中国に憤りを感じていることから、やはり短期的にも、中露提携強化ということはないとみておいたほうが良いと思います。これは、みせかけだけのものでしょう。ただし、いまのところは、まだロシアは中国と本格的に、対立するつもりはないとみておくべきです。

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