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2019年8月27日火曜日

米国に対峙する中ロ提携強化は本物か?―【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!


岡崎研究所

 7月23日、中国とロシアは日本海と東シナ海で空軍共同軍事演習を行い、韓国と日本の防空体制を試した。この際、韓国空軍が、同国が不法占拠している竹島(韓国名:独島)の領空をロシア軍機が侵犯したとして300発以上の警告射撃を行ったことで、日本でも大きなニュースとなった。


 この中ロ空軍共同演習を契機に、中ロの提携強化に注目が集まった。米国の論壇では、米国防省の掲げる「米国の主敵は中国とロシア」というラインに沿ったものが多く見られた。例えば、米バード大学のWalter Russell Mead教授が7月29日付でウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した論説‘Why Russia and China Are Joining Forces’は、今回の共同演習について「この数年強化されてきた中ロ間の提携の一例に過ぎない」と指摘するとともに、「世界の秩序を乱しているのはトランプよりも、中ロの2大国が力を増し、IT技術の進歩を悪用しつつ、自らの影響力を世界中で拡大しようとしていることにある」と言っている。

 現実の米ロ関係はどうか。7月2日の中距離核戦力全廃条約(INF条約)失効にもかかわらず、現在、トランプ大統領はロシアへの宥和的姿勢を徐々に強化しつつあるように見える。これまで「トランプはロシアと"ぐる"になって、大統領選で勝利した」ことを証明しようとしてきた民主党の作戦が、モラー特別捜査官の議会証言で最終的に破綻したことも一因であろう。

 ベネズエラでの米ロ対立がすっかり影を潜めた一方、米国はなぜか「ロシア産原油」の輸入を急増させている。米国がマドゥーロ政権制裁のために、ベネズエラ原油の輸入を停止したこととの関連が疑われる。更に、米国はイランに対するロシアの影響力を活用しようとしており、6月24日にはエルサレムでボルトン大統領安全保障問題特別補佐官とパトルシェフ・ロシア国家安全保障会議書記が、ネタニヤフ・イスラエル首相及び同首相の安全保障問題担当補佐官を含めて三者会談している。

 プーチンの側も、対米関係の好転を願っているものと思われる。西側の制裁はロシアに直接の大きな作用を及ぼしているわけではないが、長期的には先端技術及び資金の流入縮小を通じて、ロシアの経済に深刻なダメージを与える。制裁で沈んだ経済成長率は2018年上昇傾向を示したが(2.3%)、本年の第1四半期には1.2%に沈む等、再び停滞傾向を強めている。対米関係を何とかしない限り、ロシアはお先真っ暗である。従って、米ロ関係には、改善に向かう潜在的要因が存在していると見られる。

 中ロ関係については、必ずしも連携が強化する一方というわけではなく、関係が進んでいる面もあれば、競り合っている面もある。進んでいると見せかけて、実際には中身がないものも多い。中身があるのは、ロシアの中国への原油と天然ガスの輸出である。他方、「両国間貿易の決済ではドルではなく、双方の通貨を使おう」ということは長年叫ばれ、6月5日には協定も署名されたが、実効は上がっていないものと見られる。

 中ロの競合は、第一に中央アジアに見られる。例えばタジキスタンで中国が共同軍事演習を繰り返しているような例である。経済力を欠くロシアにとっては、防衛面での支援は対中央アジア外交の重要な手段であるのに(タジキスタンにはロシア軍1個師団が常駐)、中国がこれを侵食しつつある。

 東アジアでも中ロが必ずしも足並みをそろえていない例がある。ロシアは、中国とは微妙な関係にあるベトナムに潜水艦を売却したし、南シナ海を睥睨するカムラン湾の基地には軍艦を時々寄港させている。ロシア海軍が日本の海上自衛隊と合同訓練をすることもあるし、米国主宰のRIMPAC演習に参加したこともある(2012年)。つまり、ロシアは、中国を絶対的な提携相手としているわけはない。そして極東におけるロシアの戦力は、原子力潜水艦を除けば大したものではない。従って、「中ロ連携強化」には、こちらが過剰反応する必要はない。

 中ロ関係強化は自己目的ではなく、ロシアと中国が対米関係で用いる脅し道具という側面が強い。中ロのいずれかが対米関係改善に成功すると、しばらくお蔵入りになるものである。今後、米ロ関係が好転するようなことがあれば、ロシアにとって中国の重要性は低下する。ただし、極東部の脆弱性をよく心得ているロシアは、中国と敵対することは避けようとするだろう。ロシアを引き込んで対中牽制に使う、という論もあるが、なかなか成り立ちがたいと思われる。

【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!

2017年5月14~15日に、中国が推進している現代版シルクロード経済圏構想である「一帯一路」の国際会議が中国の首都・北京で開催されました。同会議には、全世界の計130カ国の1500人、そして29カ国の首脳が参加しました。
「一帯一路」は中国が長い年月をかけて推進してきたものですが、このような会議が行われるのはこの時が初めてであり、中国は大国の威信をかけてこの会議に臨みました。この会議は、中国の当時の外交政策の成否のメルクマールとなり、また今後の「一帯一路」の発展を展望するうえでも重要な一歩とみなされていたのです。
そのため、中国の同会議に対する思い入れは極めて強く、参加国との連帯を強めていくために手を尽くし、そして、自由貿易の重要性を盛り込んだ首脳会合の共同声明も採択されました。
そして、同会議ではやはり中露関係の緊密さが顕著に見られました。米国でロシアによるサイバー攻撃とそれによる影響やドナルド・トランプ政権関係者とロシアの関係が米国政治の焦点となっていた中で、米露関係が冷戦後最低レベルに落ち込んだとすら言われる中、米国への対抗軸で共通の利害関係を持つ中国とロシアが関係を緊密にするのは自然な流れでした。
また、中露は、中国が推進する「一帯一路」構想とロシアが主導し、旧ソ連の5カ国が参加する「ユーラシア経済連合」の連携協定を2015年に結び、「一帯一路」の成功が中露両国にとって有益であると国民にも訴えつつ関係深化を進めてきました。
会議においても、ロシアのウラディーミル・プーチン大統領は一番の賓客として扱われ、スピーチの機会も習近平国家主席の次に設けられました。プーチンはその場を利用し、ロシアが主導している「ユーラシア経済同盟(EEU)」と「一帯一路」の類似点を強調し、中露の計画は相互補完関係にあるとした上で、これらのメガプロジェクトに代表されるユーラシア統合を「未来に向けた文明的プロジェクト」だと述べました。
ユーラシア経済同盟の加盟国

そして、ロシアは「一帯一路」との連携をさらに進め、ポジティブな成果を出す必要に迫られていました。特に、2014年後半からの原油安やウクライナ危機によって欧米が発動している対露経済制裁によって、ロシアのみならず、ロシアと深い経済関係を持つ旧ソ連諸国の多くが経済的ダメージを受けていることも重要な背景でした。
たとえば、ユーラシア経済連合の域内貿易額が、昨年には2014年と比して30%も減少したことは、その一例でした。旧ソ連諸国の経済パフォーマンスに当面期待できず、ユーラシア経済同盟加盟国の間でも失望感が広がっている状況では、数年前と比べれば随分勢いは衰えたとはいえ、まだまだ力がある中国経済による好影響を期待するほかなく、また巨大経済圏構想の可能性を見せつけることで、大国としての存在感も示すことができたのです。
そして、会議の期間中、中露間の大型プロジェクトが多数成立しました。

まず、中露両国がロシア極東及び中国北東部の開発支援のために、総額100億人民元(約145億ドル)の共同地域開発協力投資ファンドを設立するという計画が発表されました。

加えて、ロシア石油最大手ロスネフチと中国石油天然ガス集団(CNPC)は両者間の協力の効率化向上を目指すための合同調整委員会の設立に関する取り決めに調印したことが発表されました。

また、ロシア天然ガス最大手ガスプロムのミレル社長とCNPCの王会長は、地下ガス貯蔵、電気産業、道路インフラなどの分野での協力深化に関する文書に調印しました。

このように、中露関係のプロジェクトは、地域発展を目指すものやエネルギー関連の協力強化が主軸となっており、経済規模も大きいものでした。

その一方で、両国のメガプロジェクトの連携に関し、ロシアの期待が裏切られているのもまた事実でした。

前述の通り、プーチンは度々中露のメガプロジェクトの連携が有益であると国内外に訴え続けてきましたが、実際のところ、プーチンが本気でそう思っているとは考えづらいです。

プーチンの連携を高く評価する発言の背景には、むしろ、連携からの恩恵が少ない現実への批判を避けるためだとも考えられます。実は、ロシア側が「一帯一路」との連携に期待していたものと実態はかけ離れており、プーチンをはじめとした当局やオリガルヒ(財閥)の懐疑心は強まっていると言われていました。

そのような疑念を高めているのが、「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携を象徴するプロジェクトとして発足したモスクワ・カザン高速鉄道計画におけるロシアの失望でした。



この鉄道計画は、いずれモスクワと北京が鉄道で結ばれるとされる高速鉄道の基礎となるとされ、最初の了解覚書では、同鉄道はシベリア地域を通るとされていました。しかし、のちに同鉄道の線路はロシアのほとんどの地域を通過せず、カザフスタンの首都アスタナから新疆を通過して、所要時間が3分の2になるように変えられたのです。中露協力のモデル計画とされていたプロジェクトの結果がこのような惨憺たるものであることは、ロシアにとって大きな痛手でした。

しかも、これのみならず、中国と欧州を結ぶインフラの多くはロシアを全く通らず、中央アジアと南コーカサス地域を通過しており、ロシアは陸運の利益を得られないのです。さらに、そもそも陸路よりも海路での運輸の方が50%以上安価になるため、所要時間は陸路の方が早くなるとはいえ、経済合理性の観点から、中国・欧州間の貨物輸送で陸路経由が占める割合は1%以下となっています。このことから、ロシアが陸の現代版「シルクロード」計画から得られる利益はほとんど想定できないのです。

このような状況に鑑み、ロシアの研究者の中には、「一帯一路」構想は達成指標がないが故に、中国が軽微なものも含むあらゆる結果を「一帯一路」の成果として喧伝していることから、「一帯一路」そのものの意味に疑問を呈するものもいます。「一帯一路」がそもそも大した成果が上がっていないものなら、「ユーラシア経済連合」との連携で良い成果が出ないのは当たり前だという議論です。

確かに、「一帯一路」の経済パフォーマンスは決して良いとはいえないです。たとえば、中国の投資家は融資するプロジェクトをかなり選り好みして決めるため、実際の融資額は期待を下回っており、2017年には中国の「一帯一路」」関係の投資額は、3年ぶりに減少しました。

そして、中国の投資家からすると、ロシアが提案するプロジェクトはあまり魅力的に感じられず、結果、対露投資のパフォーマンスは悪くなるのです。そのため、ロシアの専門家の中には、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合」は素晴らしいが、中国が自国の経済利益のみを考慮する利己的な行動をとるが故に、連携においてはロシアの実入りが小さいのだという議論を提示するものもいます。

さらにロシアの重要な「勢力圏」であり、中国が経済的に台頭してくるまではロシアが政治・経済の影響力を独占的に維持してきた中央アジア諸国が、ロシアよりむしろ中国との関係を深めていることもまたロシアにとっては許容しがたい問題です。

「一帯一路」の国際会議でも、中国と中央アジアの関係強化は顕著に見られました。習主席はカザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタンの各国首脳と会談し、中央アジア諸国との関係強化を強調しました。

これら会談の中で、例えば、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、カザフスタン鉄道がカザフスタンと中国の国境にあるコルゴスの輸送拠点の49%を譲り受けるという合意に調印しました。

これはカザフスタンが重要物流拠点として高い戦略性を持つと見なされるようになったことの証左です。また、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領も中国との経済関係の強化を強く求めており、当時の会談では最大200億ドルの協力協定も締結しました。

中国は、ウズベキスタン東部のフェルガナ盆地と、残りのウズベキスタンを結ぶ最初の唯一の鉄道に対する共同出資をすることを約束しました。この連携は中国製品を中央アジアに輸出するために極めて重要です。

その鉄道が完成した現在、中国は戦略的に1億7500万ドル相当の高速道路プロジェクトにも取り組んでいます。

このように中国とロシアの「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携への期待は高いとはいえ、実際にはあまり良い結果が出ておらず、また、地域覇権を維持したいロシアにとっては中国の勢力拡張は決して望ましくない状況です。

米国への対抗軸という揺るがない共通利益を持っていることを背景に、中露関係が緊密であることは間違いないとはいえ、両国のメガプロジェクトにおける連携は、ロシアの期待とそれに応えていない中国という図式、ロシアの「勢力圏」に迫る中国の影響力など、両国関係の判断も単純ではありません。

プーチンと習近平

ただし、旧ソ連の核兵器と、軍事技術を継承しているということで決して侮ることはできないのですが、経済力が落ちているロシア(GDPは、東京都や韓国と同程度)は中国に対して強気に出られないというのが実情です。

このままだと、ロシアの中国に対する不満は高まるばかりです。現在、米国の対中国冷戦により、中国は経済的に弱りつつあります。

現状では、経済的にかなり中国に差をつけられたことと、ロシアは極東で中国と国境を接していること、しかもかなり長距離わたって接していることと、ロシアよりも中国のほうが圧倒的に人口が多く、特にロシア極東の中国との国境ではそれが顕著です。そうして、中ロ国境を多くの中国人が越境しているという特殊事情があるので、米国やEUから制裁を受けている現状で、中国と対立するのは得策ではないと考えているようですが、中国経済がかなり疲弊したときには、確実に中国と対立することになるでしょう。

米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのはまだ早すぎます。ただし、中国が経済的に疲弊した場合は、その限りではありません。その時、ロシアは対中国という観点から米国の有力なパートナーとなるかもしれません。

先日はこのブログで、長期的にはロシアの憤怒のマグマが蓄積して、いずれそのマグマはは中国に向かって吹き出すという趣旨の内容を掲載しました。「ユーラシア経済連合」のからみで、ロシアは中国に憤りを感じていることから、やはり短期的にも、中露提携強化ということはないとみておいたほうが良いと思います。これは、みせかけだけのものでしょう。ただし、いまのところは、まだロシアは中国と本格的に、対立するつもりはないとみておくべきです。

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