2019年7月22日月曜日

ロシアからの武器購入で自らの立場を複雑にするトルコ―【私の論評】日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいる(゚д゚)!

岡崎研究所

 米国の外交・軍当局はまたもやトランプ大統領に梯子を外されたらしい。

トルコ国旗柄のビキニ

 6月29日、G20サミットに参加するために大阪を訪れていたトルコのエルドアン大統領は、米国のトランプ大統領と会談した。その会談の前、および同日の記者会見でトランプ大統領が述べたことを要約すれば、次の通りとなる。すなわち、「状況は複雑である。エルドアン大統領はパトリオット・ミサイルを買おうとした。ところがオバマ政権は売ろうとしなかった。そこで彼はS-400を買った。多額のカネを払った。買った後になって米国はパトリオットはどうだと言い出した。手遅れである。彼には最早どうしようもない。商売はそういう風には進まない。その間、エルドアン大統領は100機以上のF-35を買った。とてつもない額のカネを払った。ところが、S-400とは両立し得ないと言われている。しかし、エルドアンは不公正に扱われて来たのだ。状況は大混乱である(It’s a mess)。しかし、エルドアン大統領のせいではない。問題であることは確かだが、(制裁を発動するのかと問われて)別の解決策を模索している(We’re looking at different solutions)。エルドアン大統領はタフな男だが、自分は巧くやっている」。

 大阪G20サミットより前の6月26日、ブラッセルでNATO国防相会議が開催された。米国防長官代行に就任したばかりのマーク・エスパーは、その機会に、S-400とF-35は両立し得ず、トルコが双方を持つことは認め得ないとトルコの国防相に警告したばかりであった。

 エルドアン大統領は、S-400の購入について米国が制裁を課すことはないとの保証をトランプ大統領から得たと主張している。トランプ大統領の発言振りに照らせば、エルドアン大統領がそう主張しても不思議ではない。これではS-400の配備は止められない。トランプは別の解決策と言うが、何を考えているのかは分からない。トランプ大統領は問題の責任はオバマ政権にあるとしているが、その辺りの事情は詳らかにしていない。

 いずれにせよ、問題は三つある。一つは、トルコに S-400が配備された状況で米国はどう対応するかの問題である。そういう状況でF-35の引渡しを米国議会が認めるとは思われない。議会が制裁発動に動くことも十分あり得ることであろう。

 二つ目は、NATOとしてどう対応するかの問題である。加盟国にロシア製の兵器が導入されるという異常事態に対し、米国だけの措置で事足りるということにはなり得ないであろう。行き過ぎの措置に走って、ロシアのプーチン大統領を喜ばせるだけに終わるのはよろしくないが、同盟の原則に沿って筋を通す必要がある。仮に、トランプ大統領が、その流儀によって責任をオバマ政権に押し付け、問題を糊塗しようとするのであれば、欧州の同盟国の胆力が試されることとなろう。

 最後三つ目の問題は、トルコ自身の立ち位置の問題である。そもそも、この複雑なトルコの立ち位置には、シリア問題とクルド問題、さらにはISISが絡んでいる。もともとトルコは、シリアの反アサド政権ということでは、米国やフランス等NATO諸国と同じ側にある。その意味では、アサド政権を支持、支援しているロシアやイランとは立場を異にする。しかし、ISISに対する掃討作戦で、米国がクルド勢力を支援しているのに対し、エルドアン政権はクルドに対して厳しい態度を取っている。エルドアンがクルドを攻撃する際には、シリアやロシアの協力も必要となる。7月13日、トルコのアカル国防相は、米国のエスパー国防長官代行と電話で協議し、S-400やシリア問題を話し合ったが、トルコのS-400導入の意思は固かったようだ。アジアと欧州の間に位置するトルコは、東西の懸け橋とも言われるが、不安定なシリア、イラク、イランとも国境を接し、それら諸国にまたがって住むクルド民族問題も抱え、地政学的に複雑である。トランプ政権が、いかに交渉して、NATOの同盟国らしくトルコに振舞ってもらうかは、至難の業となりそうである。

【私の論評】日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいる(゚д゚)!

米国は先に、トルコがS400の導入を開始したのを受け、最新鋭ステルス戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除すると発表しました。F35計画からのトルコの排除は、2020年3月末までに完了します。


チャブシオール外相はテレビ局TGRTの番組で「米国が制裁を科した場合、我々は必要な報復措置を取る。インジルリク空軍基地に関する措置が講じられるかもしれない。これは脅迫やおどしではない。こうした状況では自然なものだ」と述べました。

また外相は「トルコは独自の武器製造に真剣に取り組んでいる。我々は独自の戦闘機の製造を望んでいる。だがF35は新技術であるため、同計画のパートナーとなり、14億ドルを支払った。しかし、すべてが悪いシナリオに従って進んでおり、我々にF35は与えられない。つまりトルコの最も自然な権利は、我々が行ったように、S400を購入して不足を補うことだ。我々は自分たちの利益のためにもっぱら行動し、他の代わりを探す」と述べた。

先にトルコのアカル国防相は、米国の戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除することで、NATO(北大西洋条約機構)の南部方面は弱体化するとの見方を表しました。

今月18日、ホワイトハウスは、F35開発計画からトルコを排除すると発表しました。 

トルコのNATO加盟は1952年。東西冷戦が激しさを増す中で南下政策を志向するソ連を封じ込める米欧諸国の狙いが背景にありました。ソ連崩壊で冷戦は終結しましたが、後継国ロシアのプーチン政権は米欧との関係が冷え込む中、トルコを切り崩す手を打ってきました。

2015年に起きたトルコ軍によるロシア戦闘機撃墜事件の後、プーチン氏は1年とたたぬうちにトルコとの関係を修復。ロシアは18年、トルコ南部アックユで同国初の原発建設に着手したほか、両国を結ぶ天然ガスパイプラインの黒海海底部への敷設も完了しました。

ロシアが資源に乏しいトルコに取り入る狙いは鮮明で、S400の供与と重ね合わると、「兵器とエネルギー」をセットで売り込み自陣に招き寄せるロシアの典型的な手法といえます。

他方、NATOにとりトルコは中東を見渡す前線基地の役割を果たしてきました。南部のインジルリク空軍基地には米軍が駐留し、シリア内戦でイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に空爆を行う拠点となりました。アフガニスタン駐留米軍の後方支援拠点としても使われています。

トルコはトランプ政権が軍事、経済面から圧力を加えるイスラム教シーア派大国のイランに加え、シーア派人口が国内最大のイラク、内戦が続くシリアと国境を接しており、地政学的にも重要な位置にあります。近年は関係がぎくしゃくしているとはいえ、欧州からみれば「安定の防波堤」ともいうべき存在です。

エルドアン政権はイスラム色の濃い政策を打ち出していますが、もともとは世俗主義がトルコ建国以来の国是で欧米の価値観に一定の理解を示してきました。トルコの「NATO離れ」は計り知れぬ激震となる恐れがあります。

トルコと米国とロシアの関係、きな臭さがでてきました。こういうときにこそ、トルコは親日国ということから、日本のできることがあるのではないかと思います。

トルコと日本の間では歴史の中で様々な関わりがありましたが、今回はその中から特に有名な出来事を4つピックアップしてトルコと日本が絆を深めた理由をご紹介したいと思います。

①親日の始まり「エルトゥールル号遭難事件」

1890年日本からの帰途、強風にあおられたエルトゥールル号は紀伊大島の樫野崎に連なる岩礁に激突し、機関部が浸水してしまい水蒸気爆発を起こします。そのとき600名もの人が海に投げ出されたそうです。

エルトゥール号

生存者は数十メートルの断崖を這い上り灯台守に遭難を知らせ助けを求めました。通報を受けた大島村(現在の串本町)の住民は総出で救助と介抱に当ります。台風で大島村の住民も漁に出られずに蓄えが僅かだったのにもかかわらず、非常食や衣類を提供し献身的に救護を務めました。

この事件は死亡・行方不明者587名という大惨事でしたが、大島村の住民たちのおかげで69名の方が生還することができました。

②日露戦争の日本海海戦の勝利

大国ロシアに、当時開国をして50年ほどしか経っていないアジアの小さな新進国の日本が勝てるわけがないというのが世界各国の見方でした。しかし、その予想を覆し東郷平八郎率いる連合艦隊がロシア・バルチック艦隊を撃沈し、海戦史上最も圧倒的とされる一方的な勝利を掴みとります。これに歓喜したのは日本だけでなくトルコもそうでした。

ロシアに近いトルコは常にロシアからの脅威に曝されていましたが、強国に敵うわけもなく八方ふさがりのような状態でした。
そこに舞い込んできたのが日本の勝利の報、トルコは政治的な面はもちろん、アジアの国が大国に打ち勝つという快挙に感銘を受けました。

また、この戦いにおいて捕虜になったロシア兵たちを手厚く介抱し、更には自国での軍法会議を恐れたロシア士官を日本に留まらせる自由を与えるなど、戦時国際法を徹底した日本の姿勢は世界から賞賛を受けました。

③トルコ共和国は明治維新に倣って改革を行った

日本が大国ロシアに勝利した最たるきっかけとなったのが明治維新です。日本海海戦後、アジア諸国には「アジア人も西洋の模倣をすれば世界と戦える」という考えを浸透させました。

トルコも明治維新に倣って改革を行います。トルコ共和国・建国の父、初代大統領ケマル・アタテュルクは、明治天皇をこよなく崇拝し、陛下の写真を自分の机に飾っていたという逸話もあります。
④イラン・イラク戦争時のトルコからの恩返し

イラン・イラク戦争中の1985年3月、大統領サダム・フセインは「今から40時間後をタイムリミットとしてこれ以降終戦までの間イラン上空を飛ぶ航空機は軍用機であろうと民間航空機であろうといかなる国の機体であろうとすべて撃墜する」という布告をしました。

世界各国は自国民を救出するために救援機を出し自国へと退避させましたが、日本政府だけ素早い決定ができなかったた為に216名の日本人が空港に取り残されてしまいました。
イラン大使館の大使は日頃から親交のあったトルコ大使館の大使に窮状を訴えます。トルコは即座にトルコ航空をイランに派遣し、タイムリミット僅かの1時間15分前にトルコ領空へ216名の日本人全てを退避させました。

この良好な両国の関係は今もかわりません。東京オリンピック誘致が決まる直前、安倍総理は次のようにトルコによびかけています。

「もしトルコが五輪を射止めることに成功すれば、私は世界で一番最初にお祝いを申し上げたい。しかし、もし日本が五輪を射止めることに成功したら、どうかエルドアン首相、世界で一番最初に祝っていただきたい」。

安倍総理の呼びかけに応え、いち早く
 祝福してくれたトルコのエルドアン首相 

ロシアについては以前このブログで掲載したように、今やGDPは韓国並みにすぎません、日本で言えば東京都と同レベルです。とはいいながら、ロシアは旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承していることから、決して侮れるような相手ではありません。

ただ一ついえるのは、経済的に脆弱なロシアにできることは限られています。それを考慮するとトルコは米国の同盟国であったほうがより良いことだと思います。

東南アジア、インドなどには現在でも米国に敵対的な勢力は多く、米国インド太平洋戦略を実現するにおいて、安倍首相は米国とインド太平洋地域の仲介者として大きな働きをしました。

私は、トルコに対しても、このような仲介ができるのではないかと期待しています。というより、現在日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいると言っても過言ではないと思います。

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