2019年7月21日日曜日

イラン革命防衛隊、英タンカー拿捕の映像公開―【私の論評】イランと英国の対立も制限なきチキンレースになることはなく、いずれ収束する(゚д゚)!

イラン革命防衛隊、英タンカー拿捕の映像公開

イラン革命防衛隊がへりコプターから英タンカーに降下し、拿捕する様子

イラン革命防衛隊は、中東・ホルムズ海峡で、イギリスのタンカーを拿捕した際に撮影したとする映像を公開しました。

ヘリコプターからおろされたロープを伝い、タンカーの甲板に次々と人が下りていきます。ヘリコプター内部から撮影された映像には、覆面姿の兵士が複数映りこみ、腕にはイランの国旗が確認できます。この映像は、イラン革命防衛隊が20日、国営テレビを通じて公開したもので、イギリスのタンカー「ステナ・インペロ」を拿捕した際に撮影されたものとみられます。

国営イラン通信によりますと、イラン側は「イギリスのタンカーはイランの漁船と衝突したうえ、救難信号に応えなかった」と主張。ただ、実際に衝突事故があったのかどうかは明らかになっていません。

また、ロイター通信によりますと、イランの港湾関係者は「タンカーの乗組員23人はイラン側が調査をする間、船内に残ることになる」と説明しているということです。

「ザリフ外相との会話やイランの声明からは、今回の件を、ジブラルタルでのタンカー拿捕の報復とみていることが明白にわかる」(イギリス ハント外相)

こうしたなか、イギリスのハント外相は20日午後、イランのザリフ外相と電話会談をし、「先週は事態を鎮静化させたいと言っていたのに、イランがその真逆の行動に出たのは非常に残念だ」と伝えたということです。ハント外相は、ジブラルタル沖でイランの原油を積んだタンカー「グレース1」を拿捕したのはEUの制裁に違反している疑いがあったからだと改めて強調した上で、“『ステナ・インペロ』はオマーン領海にいたところを強制的にイランに連れていかれた、これは国際法に明らかに違反している”と主張して、タンカーの解放を求めました。

イギリスのテレグラフ紙は、イギリス政府が資産凍結などの対抗措置を検討していると報じています。ハント外相は「イラン核合意は引き続き順守する」としていますが、これまでアメリカとは一線を画した対応してきたイギリス・ドイツ・フランスの核合意当事国が今回の拿捕をきっかけに方針を変化させるかどうかも1つの焦点です。(21日08:51)
【私の論評】イランと英国の対立も制限なきチキンレースになることはなく、いずれ収束する(゚д゚)!


イランがホルムズ海峡で英船籍タンカーを拿捕(だほ)した問題を受け、欧州連合(EU)とドイツ、フランスは20日、それぞれ声明を出し、一斉にイランを非難しました。タンカーと乗組員の速やかな解放を要求し、独仏は英国との連帯姿勢を鮮明にしました。

EUの報道官は声明で、拿捕に「深い懸念」を示し、「緊迫した状況をさらに悪化させる恐れがあり、解決の道を探ろうとする取り組みを台無しにしてしまう」と批判。「船と乗組員の即時解放を要求し、自制を求める」と訴えました。

独外務省はイランを「最大限に非難する」とした上で、「民間海運への正当化できない攻撃だ」と指摘。状況悪化への懸念を示し、「英国と協力し合う」と強調しました。仏外務省も「地域の緊張緩和を妨害する行為を断固として非難する」とし、英国との「完全な連帯」を表明しました。

イランと英国の対立の深まりは、欧州が存続を目指すイラン核合意をめぐる問題にも影響を与える可能性があります。

今日のイラン危機は、ペルシャ湾岸国だけではなく全世界に教訓を示しています。

イラン危機の現状をみて、ロシアや中国といった国は、西側がハイブリッド戦争(軍事力と政治的効果を狙った市民活動など各種手法を組み合わせた戦争)に対する答えを持っていないという自分たちの考えが正しかったと確信するでしょう。

イラン海軍の軍事力は非常に弱く、軍事作戦が展開されれば、バーレーンを拠点とする米海軍第5艦隊に粉砕されることでしょう。

そのためイランは代わりに、ハードパワーがあまり問われないハイブリッド戦争を展開しています。これにより、西側がいかにハイブリッド戦争に対する準備をしていないかが浮き彫りになっています。

ハイブリッド戦争は、在来型・非在来型軍事手段と偽情報、名誉毀損(きそん)、経済、ソーシャルメディアの操作、宗教やその他政府が関連する活動の利用などの手段を組み合わせ、「伝統的」戦争を行うことなく敵を弱体化させることを目的としています。

現在進行しているイラン危機は、ロシアや中国が被害を被ることなく、いかに西側のハードパワーに対抗するかということをみる試金石だともいえそうです。

ハイブリッド戦争の提案者らは西側と「戦わない」ことを選びましたが、これは賢明な判断であり、堅実な軍事戦略です。

イラン、ロシア、そして最近では中国も、伝統的軍事力と深く結びついた自由民主主義が築き上げた構造を破壊することに非常にたけています。英議員ボブ・シーリー氏は「これらの国は以前に比べ、慣習にとらわれない考え方をするようになっている」と警告しています。
ボブ・シーリー氏

英国はイランへの経済制裁について、政治的には欧州連合(EU)を支持する一方、軍事的には米国と緊密な関係を保とうとしている。「英国は戦略的に苦境に陥っている」とシーリー氏は話す。

イランは自分たちの苦境にできる限り外交的関心を集めたいと考えており、それを実現するためには中東の安定性を損なうこともするだろう。米国もしくは英国が軍事行動を起こせば、イランはそれを可能な限り迅速に国際問題化する可能性がある。

イランの政治は唯一の階層的構造があるわけではなく、対抗する勢力が複数存在している。「代理戦争や非対称戦争についてやり取りする時、必ずしもイラン議会と交渉するとは限らない。むしろ政権とは距離を置くイラン革命防衛隊を相手にすることになる」とシーリー氏は説明する。

英国防参謀総長を務めたことがあるデビッド・リチャーズ氏は、これらはすべて、ブレグジット後の大規模戦略を策定する必要があることを示していると指摘する。「英国は種々の危険や危機に見舞われ揺れており、自らが取るべき世界的な戦略や目的を誰も実際には理解していない」

リチャーズ氏はペルシャ湾もしくはそれ以外の地域における問題で「意図されたものかどうかにかかわらず、新首相は今後半年間、試されることになるだろう」と語った。
「大部分(の政治家)が、そのような試練に対する準備をまったくしていないことを懸念している」
イランは結局のところ、米国ではない英国などにテロを仕掛けて様子を見ているるというのが正しい見方だと思います。

米国とイランの対立は果てしないチキンゲームになることはありません。それは、両者とも理解していることでしょう。それについては、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
際限なきチキンゲームに、イラン、相次ぐ核合意破り―【私の論評】チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えている(゚д゚)!
ウラン濃縮度引き上げを発表 するイラン政府高官
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
このままイランが制裁破りをすれば、米国は武力行使の以前の段階で、種々の金融制裁を実施し、さらに最終的には米国の「ドル使用禁止」という切り札により、イランが崩壊して終わることになります。
これは、中国、北朝鮮とて同じことです。ドル決済ができなければ、お手上げになります。古代ですら、イランは海外との取引をしていたはずです。そのイランが、現代では海外と取引がほとんどできなくなれば、古代以前の石器時代に戻るしかなくなります。勝負は最初から決まっています。

古代からのイランの輸出品「ペルシャ絨毯」
ただし、米国が一足飛びにイランに対して本格的な金融制裁をしてしまえば、イラン側も必死になり、それこそ破れかぶれで、テロ攻撃、イスラエル攻撃などを実施することも考えられます。だから、米国としてはそれをする前の様子見をしているというところでしょう。イランはイランで、どこまで制裁破りをすれば、米国がどのような挙動に出るのか見極めるために、いろいろ実施しているというところでしょう。 
現状の制裁でも、時間が経てば、イランはかなり疲弊します。そこで、最後の手段として本格的金融制裁をするかしないかを決定するでしょう。これは、中国に対しても全く同じです。チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えているのです。
「ドル使用禁止」という制裁は、米国ドルが基軸通貨である現在、世間で一般に思われている以上に厳しい制裁です。これが、日本のような国であれば、「ドル使用禁止」になったにしても、GDPの殆どが内需で占められ、貿易依存度が低い国では、確かに相当苦しいですが、何とかはできます。ちなみに日本の貿易依存度は27%です。

しかし、イランのような国ではそのようなわけにはいきません。イランは貿易依存度が41%です。 このような国では、「ドル使用禁止」されると、その制裁の効果は破滅的なものになります。

そのため、イランも対立が長引けば、いずれ「ドル使用禁止」をされて、破滅することは最初から理解していることでしょう。この破滅的な政策にあっては、いくらイランがハイブリット戦争を仕掛けたにしても、太刀打ちできないです。

ただし、そうはいってもどこまで米国がハイブリット戦争や、テロなどを仕掛けられれば、「ドル使用禁止」などで対抗してくるかを探っているとみるべきでしょう。

これは、米国だけではなく、米国の同盟国である英国も同じことです。場合によっては、我が国に仕掛けてくるということも十分に考えられます。

そうして、イランは米国や英国に対しても、ハイブリッド戦争やテロを仕掛けて自らに有利なのはどの程度なのかということを探り、その範囲内でいろいろ仕掛けてみずらにとっても有利なところはどこなのか探りを入れているのでしょう。

これは、かつての中国もそうでした。南シナ海で海洋進出してみたり、その他世界でいろいろなことを仕掛けてみました。その結果オバマはさしたる反撃もしなかったため、調子に乗ってやりすぎたところをトランプに貿易戦争を挑まれました。

米国としては、どこまでイランや中国、そしてロシアのような国々にハイブリット戦争や、テロを挑まれた場合許容できる点と、そうではない点をある程度明確にしているでしょう。

ある地点を超えた場合、何のためらいもなく「ドル使用禁止」「資産の凍結」などを実行することでしょぅ。そうして、その場合は、軍事的報復なども計算に入れているでしょう。

だから、英国も同盟国の米国の戦略まで含めてみれば、英国がハイブリット戦争に対して全く準備していないということはないのです。

シティ・オブ・ロンドン

英国のポンドは基軸通貨ではなくなったものの、ロンドンの金融街であるシティは未だに数々の特権を認められた自治都市を形成しています。これは米国のウォール街がニューヨーク市のいち区画に過ぎないのとは異なります。

英国の中央銀行である、イングランド銀行を筆頭に、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備銀行)の株式の大多数をシティーの金融街が握っており、英国(シティー)が今でも米国対して大きな影響力を持っているのです。

シティーが米国に作ったのがCFR(外交問題評議会)です。金融ばかりでなく米国の政治、経済、軍事も対してもシティが大きな影響力を行使することができるのです。その権力の中央に位置するのがイングランド銀行なのです。

イランがこの実体を知らないまま、英国に対してハイブリット戦争をなどを仕掛け続ければ、米国から痛い目に合わせられる日がくるのは必定です。ただ、米国とてすぐに厳しい措置をとれば、イラン側がどのような行動をするか、確かめながら実行しなけば、かえって被害を被る可能性も否定しきれません。

そのため、イランと英国の対立も制限なきチキンゲームになることはなく、いずれどこかの点で収束することでしょう。

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