ニューズウィーク日本版
ロバート・ファーリー
韓国経済界の代表と会見する文在寅大統領 |
<中国の政治的な不確実性、産業スパイの懸念などから今後も韓国の脱・中国の流れは続きそう>
アメリカのトランプ政権はいささか強引過ぎるやり方で、友好国の企業に中国との「縁切り」を迫っているが、韓国は一足先に脱・中国を開始した可能性がある(写真は韓国経済界の代表と会見する文在寅〔ムン・ジェイン〕大統領)。
香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストによると、韓国企業はここ数年、中国市場への関与を減らし、ベトナムへの投資とサプライチェーンの多様化を推進している。ロッテグループやサムスンなどの企業がこのような意思決定に至った理由は、中国の政治的な不確実性、産業スパイの懸念、アメリカによる制裁の恐れなどだ。
例えば韓国へのTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に対する中国の反発は、韓国企業に中国投資の安全性への疑念を抱かせた。中国では中央政府と地方で規制がばらばらなため、企業は統一的な経営戦略が立てづらい。さらに、韓国企業は中国市場における現地企業との競争で優位性を失いつつある。
ベトナムにも中国と同様の問題はあるが、中国に比べて資本の集積度が低く、欧米に敵対的ではなく、国内市場の競争も激しくない。将来的には他の国々も韓国に続く可能性がある。
日本による半導体素材などの韓国への輸出管理強化の影響はまだ不明。代替品を探す韓国が中国に目を向ける可能性はあるが、全体としては今後も韓国の脱・中国の流れは続きそうだ。
トランプ政権にとっては願ったりかなったりだろう。中国を世界経済から排除することは現時点ではまず不可能だが、一部の企業(外国企業も含む)が自主的に中国離れを進めれば、さまざまな政策手段を動員して「中国外し」を加速させることが可能になるかもしれない。
もっとも、多くの面で中国企業が韓国勢に追い付いてきたことを考えれば、韓国の脱・中国は遅きに失した感もあるが......。
【私の論評】中国凋落による変化はすでに避けられない、ならば変化の先頭に立つべき(゚д゚)!
上の記事からは、韓国が比較的はやく中国離れしつつあることを述べていますが、政府レベルではそうなのかもしれませんが、市場レベルではすでに世界は中国から離れつつありました。特に2016年あたりの、中国を巡る変化は、多くの人々が注目すべきでした。以下に2016年当時の中国について回想します。
この当時から国際通貨としては程遠かった中国人民元 |
この当時から、自国に有利な人民元経済圏を形成するという中国の目論見は崩れ去り、中国を待つのは通貨暴落・国家崩壊だとみられていました。
その理由は、人民元の対ドル為替の下落であり、中国経済の衰退への不安がありました。当時から中国では外貨準備高の減少が問題となっており、中国政府は外貨送金などについて、規制をかけ始めていました。外貨準備高の減少は、人民元決済の代わりに外貨決済が増えていることが一因でした。
そして2016年時点ですでに、中国人自身が、人民元の暴落を恐れて外貨預金口座の開設を急増させていました。同年1~11月にかけて、中国の筧が保有している外貨預金は32%も増加したといわれています。
加えて、外貨建ての理財商品が飛ぶように売れていました。しかも利率は気にせず、元安に備えるために買っていました。同年11月に中国の銀行が販売した外貨建ての理財商品は、前月比で49%増になったとも報じられていました。
問題は、中国が為替介入をするほど外貨が流出しますから、それをヘッジファンド筋に狙われれば、中国通貨当局が支えられなくなって人民元が大暴落する可能性が高まっているたということです。加えて、ドナルド・トランプ氏は中国を為替操作国に認定すると公言していましたから、露骨な為替介入は難しい状況でした。
ドイツ銀行は同年10月のレポートで、今後2年間に人民元が対ドルで17%下落するというレポートを発表しました。これはトランプ氏が次期大統領に決まる前の予測ですから、現実には下落幅はさらに広がりました。
しかもトランプ氏は中国の産品に対して高い関税をかけるとも主張していました。通常は通貨の価値が下がれば輸出競争力が高まりますが、関税をかけられれば、そのメリットを享受できなくなります。中国にとって米国は最大の輸出国ですが、その米国が中国品をもう受け付けないとしたわけです。
中国との貿易戦争はトランプ氏の大統領選挙での公約 |
そうなれば、輸出が落ち込む一方で、輸入コストが大幅に上がるという、負の面しかなくなることが予想できました。すでに食糧輸入国に転落していた中国にとって、これは死活問題でした。
当時米国とEUに加えて日本が中国をWTO(世界貿易機関)協定上の市場経済国地位を認定しないことを決めました。過剰生産された鉄鋼などを世界に対して不当廉売してきたことが理由でした。これに対して中国は猛反発しました。人民日報は「中国の市場経済地位認定を拒否する西側は代償を払うことになる」という記事を書いて欧米日を批判していました。それだけ後がないということの現れでもありました。
これらの状況をみていれば、中国離れは当時から当然の帰結でした。中国企業が韓国勢に追い付いてきたことなどとは全く別にして、韓国はこの当時から中国から離れることを検討すべきでした。
この時代には、文在寅大統領はまだ誕生しておらず、朴槿恵大統領でしたが、その朴槿恵大統領が中国寄りの外交をしてました。ご存知のようにこの時期には、すで朴槿恵大統領はすでにレイムダック化していました。2017年5月になって文政権が登場しましたが、文大統領は中国に従属しようとする姿勢は変えませんでした。
朴槿恵(左)と習近平(右) |
今頃になって、中国から離れる姿勢をみせたのはやはり、遅きに失したと言わざるを得ません。本来ならば、大統領になったばかりの時点で、中国から離れる姿勢をみせるべきでした。
トランプ大統領としては、現在韓国が中国から離れる姿勢を見せたことを喜んでいるのではなく、いつまでも中国に従属する姿勢をやめなかった韓国ですら、とうとう中国から離れる姿勢を見せたことを喜んでいるに違いありません。
とはいいながら、世界には未だ中国幻想に酔っている人間が大勢います。すでに米国では、議会においては超党派で中国に対峙する姿勢をみせていますが、民主党の政治家の中には、未だ中国幻想に酔っているものも多数存在するでしょう。ただし、大勢はすでに挙国一致で中国に対峙しようとしているわけですから、そのようなことはおくびにも出せないだけです。
そのような人々は、EU内にも多数存在するでしょう。だから、世界の中には未だ、中国に期待する声は絶えないのです。
そうして、我が国にも、野党は無論のこと、与党の中にすら、親中派、媚中派の政治家も大勢いて、安倍総理としても政権運営のためには、これらの人々を無視するわけにもいかず、習近平に対して来春の国賓としての再来日を要請するなどという事態に至っています。
2016年あたりの、市場の動きや、その後の米国の中国に対する出方などをみていれば、韓国のように今更中国から離れる姿勢をみせるには、遅きに失したと言わざるを得ないのですが、世の中には時代の変化に追いついていけない人は大勢います。
国も、人でも、そのようなことにはならないように、気をつけるべきです。
「変化はコントロールできない。できるのは変化の先頭に立つことだけである」とドラッカー氏は語っています。しかし、この変化の時代を乗り越える唯一の方法が、あえて変化の先頭に立ち、変化の生み手になることだといいます。
恐怖は、後方の席に深々と腰を落ち着かせたとき、高まるのです。変化は、最前列で腰を浮かせハンドルを握るとき、初めてコントロールできるのです。
いわんや今日の乱気流下の悪路にレールはないのです。自らハンドルを握ることなく、転覆を避けることはできないのです。急激な構造変化の時代を生き残るのは、チェンジ・リーダーとなる者だけであるとドラッカーは語っています。
そして、そのチェンジ・リーダーになるための方法が、変化を脅威でなく、チャンスとしてとらえることだといいます。進んで変化を探し、本物の変化を見分け、それら本物の変化を利用することです。
「みずから未来をつくることにはリスクがともなう。しかし、みずから未来をつくろうとしないことのほうがリスクは大きい」(『ドラッカー 365の金言』)
中国の凋落という避けられない変化に対して、トランプ氏はまさに変化の先頭に立っているではありませんか。オバマ氏は、この変化の先頭には立とうとはしませんでした。クリントン氏ももし大統領になったとして、どうしたかは疑問符がつきます。
私は、日本や安倍総理は無論この変化の先頭に立っている部分はあると思います。それでも未だ完璧ではないと思います。ぜひとも、先頭にたっていただきたいものです。
韓国はこの変化の先頭に立つことに出遅れましたが、それでも重い腰をあげました。今は、政府や個人だけではなく、企業もこの変化の先頭に立つべき時なのです。
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