2018年5月13日日曜日

イラン・イスラエル戦争が始まる? 核合意離脱で一気に不安定化する中東―【私の論評】北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなる(゚д゚)!

イラン・イスラエル戦争が始まる? 核合意離脱で一気に不安定化する中東


クリスティナ・マザ

イスラエル軍のダマスカスへのミサイル攻撃(5月10日)


<トランプ政権のイラン核合意離脱を受けて、イランがイスラエルへの攻撃を開始。この軍事衝突は戦争へと発展するのか>
シリア国内に展開するイランの革命防衛隊が、ゴラン高原を占領するイスラエル軍拠点をロケット弾で攻撃した。これに対してイスラエル軍はシリア領内のイランの軍事拠点数十カ所を報復攻撃した。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

ドナルド・トランプ米大統領がイラン核合意からの離脱を表明して以降、これがイランとイスラエルの間の最初の軍事衝突となる。イランと敵対するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、トランプの核合意離脱を強く支持していた。ホワイトハウスは10日に出した声明で、イラン側のロケット弾攻撃は非難したが、イスラエル側からの報復攻撃については言及しなかった。

「アメリカはイラン政府によるシリア領内からのイスラエル市民に対する挑発的なロケット攻撃を非難し、イスラエルの自衛行動を強く支持する。イラン政府による、イスラエル攻撃を目的としたロケット弾、ミサイルシステムの配備は、中東地域全体にとって受け入れ難く、極めて危険な状況だ」と声明は述べている。

「イランの革命防衛隊には、今回の無謀な行動の結果の全ての責任がある。アメリカは革命防衛隊と(シーア派武装組織の)ヒズボラなど関連の軍事組織に対してこれ以上の挑発行動に出ないことを要求する」

イスラエル軍によると、10日未明に革命防衛隊が約20発のロケット弾でゴラン高原のイスラエル軍拠点を攻撃。イスラエルのミサイル防衛システムがそのうち何発かを撃ち落としたが、何発かは軍事施設にも着弾して被害が出た。イスラエル側での負傷者は報告されていない。

これに対してイスラエルのアビグドール・リーベルマン国防相は、2011年のシリア内戦勃発以降、最大規模の攻撃をシリア領内で実施し、シリア国内のイランの「ほとんどすべて」の軍事拠点を攻撃したと語っている。

人権団体の「シリア人権監視団」は、イスラエル軍の攻撃によってシリア全土でシリア兵士ら少なくとも23人が死亡したとしている。しかしシリア軍は、イスラエルのミサイル攻撃はほとんど迎撃され、攻撃による死亡者は3人だけだったと発表した。

中東情勢の専門家は、米トランプ政権がイラン核合意からの離脱を決めたことで、イスラエルと軍事衝突しても失なうものは少ないと感じたイラン側が攻撃に出たと見ている。

アメリカの核合意離脱には、イランの反米強硬派も反発している。強硬派の指導者からは、他の締結国が合意を継続しなければ核開発を再開するという発言も出ている。

イランが核合意の条件を破棄すれば、1年以内に核兵器を保有することが可能だと専門家は見る。

イスラエルはこの数カ月間、シリアに展開するイランの軍事拠点への攻撃を行っている。4月にはシリア軍基地でアサド政権への軍事支援を行っていたイラン軍兵士らが攻撃を受けて死亡し、両国の緊張が高まっていた。10日のイラン側からのロケット攻撃は、シリア領内の軍事拠点への攻撃に対するイラン側からの最初の報復攻撃となる。

軍事専門家は、両国間の軍事衝突が今後どこまでエスカレートするか注視している。

【私の論評】北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなる(゚д゚)!

5月8日、トランプ大統領は公約通り、2015年にイギリス、フランス、ドイツ、そしてロシアも参加してイランと締結した核合意からの離脱を発表しました。IAEA(国際原子力機関)による度重なる査察によって、イランの核兵器開発の事実がないとされていましたが、トランプ政権は、イランがいまだに核兵器開発を秘密裏に行っているとして、核合意から一方的に離脱しました。そして、最大限の制裁をイランに課すとしています。


本来、これは5月12日には発表されるとしていましたが、4日も前倒しで行われました。

この発表とまさにタイミングを合わせるように、イスラエルによる攻撃が一斉に始まりました。まず、8日にシリアの首都、ダマスカス南部のキズワにあるイラン革命防衛隊も使っている基地が攻撃され、イラン人8名を含む15名が死亡しました。兵器を輸送しているイラン革命防衛隊が標的にされたようです。

また、シリア北西部の都市、イドリブ西部でも大きな爆発があったことが確認されています。そして、ダマスカス西部のアル・カスラでも攻撃がありました。ダマスカス南部のジャバール・アルマネーでも同様の攻撃があった模様です。

4月13日のトマホークによる攻撃を実質的に撃退したシリア政府軍やイラン革命防衛隊が攻撃されているのは、イスラエル空軍機がアメリカ軍機のトランスポンダーを偽造し、アメリカ軍機のように見せかけて攻撃しているからだと見られています。

いまシリアでは、反政府勢力を支援するアメリカ軍と、シリア政府軍を支援するロシア軍とは同じ空域を飛行しています。

両軍は、それぞれの軍機を識別するトランスポンダーという信号を使い、両軍が戦闘状態になることを回避しています。アメリカ軍機のトランスポンダーであれば、シリア政府軍もロシア軍も攻撃を控えています。

イスラエルは今回この取り決めを悪用し、アメリカ軍のトランスポンダーを偽造して飛行しています。そのため、シリア政府軍やイラン革命防衛隊の防空システムが作動できないようにしているのです。

また、レバノン上空では、アメリカ軍にエスコートされたイスラエル軍機によるシリアの偵察飛行が増加しています。これは、イスラエルによるシリアの大規模な攻撃が近い可能性を示唆しています。

そして、イスラエル軍が偵察しているレバノンの同じ空域では、ロシア軍の戦闘機がイスラエル軍機を牽制するかのようにジグザグに飛行しているのが記録されています。また、イスラエル軍のF15戦闘機に給油するための空中給油機も待機していることが確認されました。

さらに、シリア南部のシリア領で、イスラエルが実行支配しているゴラン高原では、イスラエル軍の予備役召集が開始されました。この命令はいまのところゴラン高原だけですが、イスラエル全土に拡大される可能性もあります。

また、ゴラン高原の防空シェルターにいつでも住民が避難できるように、シェルターの扉の開放が指示されました。そして、シリアと国境を接するイスラエル北部のすべての病院には、戦争警戒体制でもっとも水準の高い「レベルC」が発動されました。

選挙の応援集会で気勢を上げるヒズボラ支持者ら

これらの動きは、イスラエルがイランによる報復を想定し、それに準備していることを示しています。またイスラエルは、シリアではなく先頃選挙で圧勝したヒズボラが支配するレバノンを先に攻撃し、レバノンのヒズボラの拠点の壊滅を狙う可能性も指摘されています。

そして5月9日、シリア領でイスラエルが実行支配しているゴラン高原に、シリア側のイラン系武装勢力の基地から、20発のミサイルが打ち込まれました。イスラエルがこれに報復したものの、どちらの攻撃でも死傷者はいなかった模様です。このためもあってか、戦闘は限定的なものに止まり、拡大する気配はいまのところないようです。

イスラエルが実効支配するゴラン高原

このような状況は4月13日に行われたアメリカ、フランス、イギリスによるシリア攻撃のときよりももっと悪い状況ではないかとする見方も多いです。

それというのも、4月13日の攻撃では、事前にロシアはアメリカに、シリア領内で攻撃してはならないロシア軍の軍事施設を事前に通知し、アメリカ軍がこれを攻撃しない限り自制する構えでした。

それに対し、イスラエルが主導する今回の攻撃では、そうした事前の取り決めがないので、ロシア軍が活発に動いていることです。最悪な状況では、ロシア軍機とイスラエル軍機、またはアメリカ軍機がシリアの空域で戦闘状態になる可能性もあります。

いずれかの軍に死者が出た場合、これがもっと大きな戦争の引き金になる可能性は否定できない状況になるかもしれません。

このような中、アメリカ軍の地上部隊も動いています。すでに4月から4000名のアメリカ軍がヨルダンのシリア国境付近に展開しています。これはヨルダン軍との共同軍事演習のためだと説明されていましたが、演習が終了しても撤退する気配はありません。これは、これから始まるイランの報復に対応するための展開なのではないかともいわれています。

ところで、現在海外にいる4万4000名ほどのアメリカ軍部隊の所在が明らかにされていません。米国外に展開していることは間違いないようですが、具体的な場所は公表されていません。もしかしたら、やはりこれから始まる可能性のあるイランの反撃に備えるために、ヨルダンのシリア国境周辺に配備されている可能性もあると見られています。

無論、対北朝鮮のために韓国に配置されている可能性もあります。あるいは、韓国とシリア国境付近の両方に配置されているかもしれません。

このように、現在は、非常に緊張した状態です。レバノンやイスラエルのシリア国境付近で、いきなり大きな戦闘が始まる可能性が次第に高くなっています。

こうした動きを見ると、明らかにイスラエルはイランを挑発しており、イランによる報復を誘発しようとしています。イランがなんらかの報復攻撃に出ると、イスラエルはこれを口実に、一気にシリア領内のイラン関連軍事施設の全面的な壊滅を目指した大規模な攻撃に踏み切るはずです。

また将来万が一でも、イランが核合意から離脱した場合、核兵器の開発の疑惑を口実に、イラン本土を標的にした攻撃さえも、イスラエルは辞さない可能性もあります。

このような動きは、イスラエルの基本政策である中東流動化計画が過激に遂行されており、それをトランプ政権のアメリカが全面的に支援している状況と関連があるようです。

トランプ政権にとって、イスラエルの安全保障のための中東流動化計画の実現のほうが、北朝鮮の問題よりも優先順位がずっと高いと見てよいでしょう。

しかし、イランを弱体化させ、中東流動化計画を推進するためには、実は北朝鮮の非核化を推進し、アメリカが北朝鮮との敵対的な関係を終わらせることが前提条件になります。

この意味で、北朝鮮とイランの情勢は深く連動しています。北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなると見てよいでしょう。

イランのローハーニー大統領が、北朝鮮のキム・ヨンナム
最高人民会議常任委員会委員長と会談  2016年9月18日

このように北朝鮮とイランの情勢が連動している理由は、北朝鮮のイスラエルとイランとの関係を見ると明らかです。

まず北朝鮮とイスラエルとの関係ですが、歴史的に北朝鮮はイスラエルと敵対的な関係にあり、イスラエルを国家として承認していはいません。北朝鮮はイスラエルと対立するアラブ諸国側を長年支援してきました。そして、イスラエルと北朝鮮の戦闘機が激突した歴史まであります。

1973年10月、エジプトやシリアなどのアラブ諸国が1967年の6日間戦争でイスラエルに占領された領土の奪還を目的に、イスラエルを攻撃しました。第4次中東戦争の開始です。

このとき、北朝鮮はアラブ諸国を軍事的に支援し、20名のパイロットとともに、MIG21戦闘機の編隊をエジプト南部の基地に派遣しました。この戦闘部隊はエジプト上空で、イスラエルのF4ファントム戦闘機と交戦しています。

第4次中東戦争はオイルショックを引き起こしながらも、エジプトとシリアは占領された領土の奪還に失敗し、イスラエルの実質的な勝利で終結しました。

その後、1979年にはエジプトのサダト大統領がイスラエルとの歴史的な和平に応じたため、イスラエルが占領していたシナイ半島をエジプトに返還し、両国の敵対関係は終了しました。

しかし、その後も北朝鮮のアラブ諸国支援は継続しました。

北朝鮮は第4次中東戦争後も、エジプトやシリアに軍需工場を建設し、両国との友好を大切にしました。

そうした支援は、北朝鮮からの一方通行ではありませんでした。エジプトはパイロット派兵の見返りとして、北朝鮮にソ連製弾道ミサイルである「スカッドB」(ソ連名はR-17E)を引き渡したことが韓国国防部によって確認されています。いわゆるノドンやテポドンなどの北朝鮮の弾道ミサイル開発は、ここから始まったと考えられています。


ただし、北朝鮮は最初から弾道ミサイルの引き渡しを求めて派兵したわけではなかったようです。当時の参謀総長であったシャーズィリーによると、北朝鮮の空軍部隊がエジプトに到着したのは1973年6月であったのですが、ソ連の弾道ミサイル旅団がR-17Eとともに初めてエジプトに到着したのは同年7月末のことでした。北朝鮮が派兵を決定した時には、エジプトにはまだ弾道ミサイルがなかったのです。

北朝鮮でミサイル部隊が創設されたのは、エジプト派兵から間もなくと考えられます。974年8月に金日成が、後に戦略ロケット司令部と呼ばれるようになる第639軍部隊を訪問した記録があるからです。

エジプトがいつ、北朝鮮に弾道ミサイルを渡したのかは分かっていません。ただ、エジプトにR-17Eが導入された1973年7月から、金日成が第639軍部隊を訪問した1974年8月までの間であったろうと推定されます。ここから北朝鮮の弾道ミサイル開発が始まり、第639軍部隊が戦略ロケット司令部として対外的に公にされるのは約40年後のことです。

シリアも、ハーフィズ・アル=アサド大統領(バッシャール・アル=アサド現大統領の父)が1974年9月28日から10月3日に北朝鮮を訪問し、朝鮮半島で再び戦争が起これば支援軍を送ることを約束しました。

シリアは現政権においても北朝鮮との友好関係を維持しています。アサド政権と北朝鮮の間には数々の軍事協力があったはずですが、まだ全容は明らかになっていません。

「アラブの春」によってシリアは内戦状態に入り、アサド政権は以前と比べて弱体化しています。それでも、北朝鮮は「イスラーム国(ISIL)」や自由シリア軍、ヌスラ戦線、クルド人勢力などのシリア国内の他の勢力に加担せず、アサド政権を支持し続けています。

アサド政権もまた北朝鮮を支持し続けています。アサド政権はアメリカや韓国と国交を締結していません。さらには対北朝鮮制裁にも反対しており、国連加盟国に要請されている制裁状況の報告にも一切応じていません。

また、2005年12月以来の国連人権委員会や国連総会における北朝鮮人権状況決議でも、アサド政権は一貫して反対票を投じてきました。アサド政権によるシリア国内の人権状況が問題にされていることも原因かもしれませんが、北朝鮮への支持が現在に至るまで変化していないのも事実です。

イランは、イラン・イラク戦争中の80年代半ばに北朝鮮からスカッドミサイルを入手し、独自開発を本格化。イラン指導部の親衛隊的性格を持つ革命防衛隊は2006年、同国は外国の協力なしでミサイル開発を進められるレベルに達していると宣言しました。

両国間の直接的な協力を示す証拠は表面化していないですが、専門家の間では、北朝鮮の経済危機が深刻化すれば、現金や石油獲得のために核実験のデータなどがイランに売り渡される恐れがあるとの声も出ています。

このような歴史からみても、北朝鮮とイラン情勢は深く連動していることがご理解いただけるものと思います。北朝鮮との和平に向けた動きが加速すればするほど、イラン攻撃が近くなると見てよいでしょう。

トランプ政権としては、まずは北朝鮮に核を放棄させるとともに、北朝鮮とイラン、シリアなどの中東諸国との関係を絶たせ、北と和平を結ぶか和平交渉のテーブルにつかせ、その後にイスラエルを支援し、イスラエルがイラン・シリアを攻撃し、様子を見て介入すべきと判断した場合は介入することでしょう。

トランプ大統領は、何としてもオバマ前大統領の「戦略的忍耐」を正す腹でしょう。

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