2018年5月15日火曜日

”マレーシア・ファースト”で脱中国依存鮮明に―【私の論評】一帯一路は最初から失敗すると見抜いたマハティール新首相(゚д゚)!

”マレーシア・ファースト”で脱中国依存鮮明に

外資誘致で市場開放も、最優先は国内産業保護

初の閣僚会議後、記者会見するマハティール新首相。”マレーシア・ファースト”の外交経済ビジョンの
行く末は、寄り合い所帯の野党連合の結束にかかっている(12日、クアラルンプール近郊)。

 「マレーシアにとって、国益にかなっているかどうか、再検討する」――。

 61年ぶりに政権交代を果たしたマレーシアのマハティール新首相は12日、クアラルンプール郊外で記者会見を開き、筆者の次のような質問に対して、そう答えた。

 「マレーシアには中国の一帯一路の下、約40の関連プロジェクトがある。特に、東海岸鉄道計画(ECRL)やマレーシア-シンガポール間の高速鉄道計画(HRL)に代表されるような大規模プロジェクトなどを押し進めますか。マレーシアにとって有益でしょうか」

 それに対してマハティール新首相は、「世界のあらゆる国と同等で、フレンドリーな外交関係を構築したい。特定の国を利することはないだろう」とバランス感覚のある外交を展開すると前置きした上で、

 「外資による事業全般の調査を行い、再検討する」とECRLや HRLの計画を見直すことを新政権発足後、初めて公式に表明した。

ECRLの車両と鉄路の予想図  写真・チャートはブログ管理人挿入 以下同じ

 マレーシアは「一帯一路」関連で、中国から約135億ドル(約1兆4400億円)規模のインフラ整備事業を受け入れており、アジア域内で中国最大の投資先となっている。

 選挙戦でも、ナジブ前政権の中国一辺倒の外交経済政策の是非が争点になっていた。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52796政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア、http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52715マレーシア総選挙に中国の陰 民主化遠く)

 マハティール新首相は中国主導による大規模開発事業への懸念を示しており、筆者との単独インタビューで(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53065マハティールの野党勝利 61年ぶりにマレーシア政権交代へ)「一帯一路は否定はしない」としたものの、「協力事項は、個別で交渉する必要がある」と強調していた。

 日本が最も興味があるのは、HRL(今年末入札、来年9月受注先決定予定)の取り扱いだが、ECRLに関しても重要で、本コラムでも以前、問題点を指摘してきた。

 ECRLは、シンガポールを封鎖された場合のマレー半島の優位性を説く「マラッカ・ジレンマ」において、HRLの計画と同様、地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込む上で、中国の習近平国家主席提唱の経済構想「一帯一路」の生命線。

 マハティール元首相(当時)が率いる野党が政権交代を実現すれば、マレーシアにおける中国の一帯一路戦略は見直しされるだろう、と予測していたが、“脱中国依存”の方向性を政権発足後早くも打ち出した。

 さらに、12日の記者会見の後、マハティール新首相は国営テレビの単独インタビューに応じ、“マレーシア・ファースト”の経済ビジョンを打ち出した。

 会見の中でマハティール新首相は「ビジネスフレンドリーな環境の中、外資(FDI=外国直接投資=など)を積極的に誘致したい。規制緩和も促進する」と強調。

 しかしながら、「インフラ整備や不動産開発などの受注契約事業は、マレーシアの企業や事業者に最優先に委託されることが望まれる」とした上、「FDIは、ファンドや技術を提供できるものに限る。工場建設や製造業などで、国内市場向けか輸出目的のものだ」とした。

 また、「マレーシアの企業は、(インフラ、不動産を含めた)土地開発事業ではすでに国際競争力がある。国民のための国づくり(都市開発建設など)やそれに必要不可欠なことは、自分たちで構築することができる」

 その上で、「これらのすべての機会は、地元企業に開かれるものだ。仮に、大規模なインフラプロジェクトがあれば、外資参入は、地元企業にその技術や能力がない場合に限る」と強調し、ナジブ前政権下での「中国との蜜月政策」からの離脱を表明。

 前述の東海岸鉄道プロジェクトだけでなく、クアラルンプールの新国際金融地区「TRX」 に建築予定の超高層タワーやダイヤモンド・シティ、さらにはイスカンダル地帯に建設される大規模開発、それらすべてが一帯一路に関連する中国の大手企業による開発だ。

 中でも、 4つの人工島を建設して、約70万人が居住する大型高級住宅街、教育施設、オフィスを構える都市開発計画「フォレスト・シテイ」は、中国の大手不動産「碧桂園」が開発中で、 2035年の完成を目指す。

フォレスト・シティーの立体パース

 建設にあたり租税恩典も与えられ、買い手の約90%が中国本土からの「大陸人」だといわれ、マハティール首相が最も懸念を抱く外資、とりわけ中国主導によるプロジェクトだ。

 マハティール新首相は、「チャイナマネーの大量流入で、国内企業は衰退。マレーシアで最も価値ある土地が外国人に専有され、外国の土地になってしまう」と懸念している。

 中国投資の見直しで諸外国の外資を誘致する新政権が打ち出す“マレーシア・ファースト”は、一方で支持基盤強化のための国内産業保護優先と、懸念の声も上がりそうだ。

 さらに、新政権のアキレス腱は、5つの野党(サバ州のワリサン党含)から成る”寄り合い所帯“だということ。

 これまでは、「打倒ナジブ政権」で一致団結してきたが、元々、政策だけでなく、多民族国家のマレーシアを象徴するように支持基盤となる民族や宗教は全く違う。

 その懸念が12日の会見でも露になった。

 新しい閣僚を10人(首相と副首相はすでに選出)公表するはずが、マハティール新首相は「様々な考え方や価値観の違い、さらには民族、宗教の違いが絡み、今日は新たに3人の閣僚(内務相、財務相、防衛相)を発表するとどまった」と、その船出が安易でないことを率直に認めた(なお、13日、財務相に指名された華人系の民主行動党=DAP=事務総長のリム・グアン・イエン氏は係争中につき、国王による大臣承認が延期された)。

 新政権の船出を歓迎するものの、寄り合い所帯の野党連合率いるマレーシアの新政府への舵取りを懸念する動きも払拭できない。

マハティール元首相率いる野党連合・希望連盟は、国民戦線の地方票に切り込み、

1957以来政権を握ってきた与党連合を破ったが?


 筆者が入手したマレーシア最大級の証券会社「TA Securities」の内部資料には、総選挙を統括し、次のような内容の声明が証券トレーダーなどに配布された。

 「腐敗汚職改革を掲げるマハティール新首相の就任でマレーシアの株式は期待感を含む一方で、野党連合が足並みを揃えらるか、未知数が多い」とした上、

 当面、「株式市場を静観する上、顧客にはめぼしい株は売って、政権が安定したところで再び買い戻すことをアドバイスするよう」と、書かれている。

 そうした世間の不安を払拭しようと、マハティール新首相は12日の記者会見で、政権発足から100日間限定で、経済政策などの指針を仰ぐ国内のベテラン専門家を集めた「上級専門家会合」を設立したことも発表。

 メンバーは、マハティール新首相がかつて自身の政権の経済政策の要と信頼してきたマレーシア政界の重鎮、ダイム元財務相をトップに、アジア華人財界の大御所で、砂糖精製業などで財を成し“シュガー・キング”と別の異名を持つロバート・クオック(香港在住。マレーシア国籍)、かつてはIMF(国際通貨基金)の専務理事の候補でもあったゼティ・アジズ(元マレーシア中央銀行総裁)ら5人だ。

 さっそく昨日、ダイム元財務相がマレーシア航空などを所有する政府系投資会社「カザナ」などの各政府系投資機関のトップと面会。

 公開入札によるビジネス受注や契約における透明性を重視し、さらには、政治的や外部圧力による腐敗や汚職を厳しく禁止するとともに、ラクヤット(マレー語で「民衆」)の最大限の利益を最優先するよう指示した。

 本来、マレーシアでは外国諸国との経済協力は経済企画庁(EPU)が直接の担当省だが、一帯一路プロジェクトに関しては、ナジブ前首相直属の総理府がイニシアティブを取り、中国との随意契約で結ばれ、その契約プロセスなどの不透明さも問題になっていた。

 マレーシア-シンガポール両国間を結ぶ高速鉄道の受注に中国と火花を散らす日本にとって、マハティール新政権の“マレーシア・ファースト”の経済政策は、外資誘致を図り、「ファンドや技術を歓迎する」という観点では、日本企業にとってハイテク分野、製造業など様々な分野で朗報かもしれない。

 しかし、高速鉄道に関しては、今年の4月、入札締め切りが6月から12月末に延期された。2026年末の開業予定に変更はないが、事業者決定も2019年9月頃にずれ込むとされている。

 これまで、同高速鉄道受注では、中国が優勢と伝えられきた。それは、いわゆるシンガポールやマレーシアが東南アジアきっての「華人社会」だということだけではない。

 実は、親米のシンガポールは中国の影響を警戒し、技術や安全性の高い日本式新幹線を支持している。

 問題は、マレーシアだ。中国の高速鉄道受注のための「マレーシア国内鉄道占有戦略」は着々と進み、在来線でも、中国の一強状態だ。

 例えば、マレーシア国鉄(KTM)が運行するクアラルンプール近郊の通勤列車「KTMコミューター」は、マレーシア運輸省が中国中車と「随意契約」。中国中車の新型車両が投入され、しかも修理点検などのメンテナンスでも中国中車が一手に引き受けている。

 高速化でも3年前から、中国中車に日系商社主導だったものが、あっさり切り替えられた。

 高速鉄道受注の肝心な国内在来線の足場は、すでに中国に“外堀から”固められているのが現状だ。

 筆者の取材したKTMの関係者は「中国とナジブ前政権が交わした契約はすべてが密室の随意契約。技術的、安全性、価格においても優位勢は見られない」と前政権の暗躍したレガシーを批判する。

 今回のマハティール新首相の「高速鉄道見直し発言」で、日本勢が受注を有利に運べるか。筆者との単独インタビューでも「高速鉄道より在来線での刷新が必要」と言及している。

 膨大な借金を抱えるマレーシアに、魅力的なファンドと技術を提供できるか。ルックイーストの時代は終わり、日本にとっては、脱中国依存で絶好の投資チャンスである一方、正念場の時代に突入したともいえるのではないか――。

(取材・文 末永 恵)

【私の論評】一帯一路は最初から失敗すると見抜いたマハティール新首相(゚д゚)!

まず最初にはっきりさせておかなければならないことは、一帯一路など妄想にすぎないということです。共産主義の計画経済は大失敗しました。一帯一路も計画経済と同じ運命をたどることでしょう。

中国での共産主義体制における計画経済は失敗し、現在の中国は共産主義を捨て、国家資本主義体制に変わっています。今の中国はうわべは、資本主義のような形式をとっていますが、その実民主化されておらず、政治と経済の分離も行われ手おらず、法治国家化も不十分です。

一帯一路は中国の計画経済を中国内で行うのではなく、世界規模で実行しようとするようなものです。そもそも計画経済には、競争という概念がありません。

資本主義経済は、民間企業が互いに競争あって切磋琢磨して、より良いサービス、より効率の良いサービスを生み出すことを前提としています。港や、空港、道路、鉄道もそのような競争があってはじめてより良いサービスが実現します。それを最初から中国が中国の都合により、計画を立案して実行しても、うまくいくとう到底考えられません。


そもそも、世界のインフラを中国が主導してつくるにしても、中国にはそのノウハウはありません。中国が国内で、インフラをつくるにおいては、かなり乱暴なやり方で実行しても可能ですが、それを外国で実行しようとしてもできるものではありません。

さらに、設立したインフラが中国が目論通りの経済効果を生み出すとは限らないどころか、失敗する可能性のほうが多いです、実際中国には鬼城と呼ばれる、最初から人の住まないゴーストタウンが多く存在します。

国内でこのようなことをしている中国が、一帯一路のインフラづくりには成功するなどとは、にわかに信じがたいです。

建築されても誰も住まない中国の鬼城

一帯一路が最初から失敗するブロジェクトであることは、前にもこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の「一帯一路」がピンチ?大型プロジェクト取り消す国が相次ぐ―米華字メディア―【私の論評】"一帯一路"は過去の経済発展モデル継続のための幻想に過ぎない(゚д゚)!
大航海時代以来、古代のシルクロードは完全に競争力を失いとうの昔に荒廃

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを掲載します。
現在の中国は、かつてのインフラ整備により、鬼城や過剰な設備、過剰な鉄鋼生産など負の遺産が蓄積しています。中国はこれを"一対一路"で外国で繰り返そうとしてるだけです。これでは、"一対一路"を推進すれば、外国においていずれ負の遺産を蓄積するだけになります。 
これは、いわゆる共産主義国家による計画経済と何ら変わりありません。中国の官僚が考えた"一帯一路"という計画経済が機能するはずもありません。頭の良い設計主任が、計画経済を立案して、その通りに遂行すれば、経済がうまくいくという考えは、すでに過去に大失敗して、この世から共産主義は消えています。今の中国は共産主義ではなく、国家資本主義といっても良い状況にあります。 
結局この巨大プロジェクトは、所詮中国の過去の経済発展のモデルを継続するための幻想に過ぎないということです。
実際に、一帯一路は負の遺産を蓄積しつつあります。その厳しい現実を産経新聞が伝えています。

「一帯一路」で援助を受けていたはずが、巨額の借金を抱えた上でインフラも奪われるということが現実に起こっています。中国が推し進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」が生み出す巨額債務への警戒感がここに来て急速に広がっています。米シンクタンクは、債務返済が困難となる恐れがある8つの国を指摘しました。債務と金利が重くのしかかる、一帯一路の負の側面が浮かびます。


巨額の債務による“代償”を背負う形となった代表例が、スリランカです。

スリランカ南部ハンバントタ港は2010年、親中派ラジャパクサ政権下で建設が始まり、建設費約13億ドル(約1421億円)の多くを中国からの融資でまかないました。

だが、スリランカに重荷となったのが、中国側が設定した最高で年6・3%という金利です。そもそも財政に余裕があるとは言えず、当初から返済に窮するようになりました。最終的に昨年12月、港の株式の80%を中国国営企業に貸与し、リース料として11億2千万ドル(約1224億円)を受け取ることで合意しました。

リースという形を取ってはいますが、貸与期間は99年間で事実上の売却といえます。スリランカ側からすれば、いつのまにか港が中国の手に渡った格好です。

このような債務リスクがあっても、中国としては別に気にもしないでしょう。結局スリランカから、港をとったようなものであり、中国としては損はありません。中国としてはこの港を最大限に利用して、儲けるだけの話です。

ただし、この港が国際的な取引に本当に使われるようになるかどうかは、未知数です。

シンガポール港

ハンバントタ港の近くには、シンガポール港があります。この港は、貿易港湾取扱貨物量アジア第1位の上海港に次ぐ、アジア最大級のハブ港です。上海が第1位なのは、単純に中国の人口が多いからです。しかし、シンガポールの取引が多いのには、わけがあります。

シンガポールは、1980年代後半から世界に先がけて港湾業務のITインフラ化を進め、ハブ港(海上運送の中継拠点となる港)として利便性の高い港づくりに力を入れたため、港で取り扱う貨物の8割は周辺諸国への積み替え貨物であるといわれています。

要するに、シンガポール自体は小さな国であり、自国に輸入する分は2割しかなく、それ意外は周辺諸国の積み替え貨物であるということです。

これは、シンガポールが他の港と競争して、利便性、効率性、価格の面で努力した結果です。スリランカ南部ハンバントタ港がそのような港になるかどうかははなはだ疑問です。

中国が運営するのでしょうから、どうなるのかわかったものではありません。そのうち、鬼城のような、船舶があまり寄港もしない港になってしまうかもしれません。

マハティール新首相は、このような「一帯一路」の本質を見抜いたからこそ、見直しを宣言したのです。

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