まとめ
- 安倍のインド太平洋戦略は米・豪・印との協力で中国抑止を現実化し、米国に採用された国際秩序の柱となった。
- 石破の「インド洋–アフリカ経済圏」構想は戦略的裏付けを欠き、外交資源を分散させインド太平洋戦略を弱めかねない。
- 安倍は「安全保障のダイヤモンド」でQuadを実現したが、石破には国際的な知的発信の実績がない。
- 外交には優先順位が不可欠であり、課題を並列処理すれば「モグラ叩き」に終わる。
- 日本にとって最優先は中国抑止であり、インド太平洋戦略に注力すれば他の課題も整理される。
🔳石破政権の「インド洋–アフリカ経済圏」構想の危うさ
石破首相が打ち出した「インド洋–アフリカ経済圏」構想は、一見すれば新たな国際ビジョンのように映る。しかし実態は戦略的裏付けを欠いた空虚なスローガンにすぎない。むしろアフリカに重点を移すことで外交資源を分散させ、インド太平洋戦略の比重を意図的に薄めようとしている可能性すらある。
現実には、アフリカはすでに中国の「一帯一路」に深く浸透されている。日本が後追いで経済圏を打ち出しても大勢を覆すことは困難だ。結果として、東アジアでの抑止力を弱め、米国・インド・豪州との連携を緩める危険すらある。
🔳安倍晋三氏「安全保障のダイヤモンド」との比較
project Sydicateでは安倍氏のインド太平洋戦略に関する功績を解説している |
決定的な差は、戦略の知的基盤にある。安倍晋三氏は2012年、国際論壇「Project Syndicate」に寄稿した論文「Asia’s Democratic Security Diamond(安全保障のダイヤモンド)」で、日本・米国・インド・オーストラリアの連携こそが海洋の自由と安定を守る要であると訴えた。
この論文はやがてクアッド(Quad)の枠組みへと結実し、米国が採用するインド太平洋戦略の布石となった。世界の世論を動かす力を持ち、自由主義陣営の安全保障の礎を築いたといえる。
石破氏にはこうした知的発信の実績が見られない。彼が「Project Syndicate」や国際論壇に寄稿し、世界の知識層を動かした事実は確認されていない。理念を掲げても国際的裏付けを欠けば、それは単なる看板倒れに終わる。安倍と石破の差はここに尽きる。
🔳安全保障上のリスクと優先順位の原則
外交・安全保障政策において最も恐ろしいのは、課題を無秩序に並べ、同時に処理しようとする姿勢だ。それはモグラ叩きに似ており、結局どの課題も解決しない。
最優先課題に集中し、これを突破すれば、二番目・三番目の課題も自動的に片付くことが多い。現状を見れば、日本にとって最優先すべきはインド太平洋戦略であり、中国の拡張を抑えることである。ここに全力を注げば、他の地域での問題も自然と整理されていく。
インド洋やアフリカへの関与を否定するものではない。実際インド太平洋戦略においても、アフリカを無視しているわけではない。それは、上のイメージでも明らかである。しかし、それは中国抑止の次に来るべき課題である。そのことを安倍ははっきりと示した。優先順位を誤れば、資源は浪費され、抑止力は失われ、同盟国の信頼も揺らぐだろう。外交の道は、スローガンを競うことではなく、現実の優先順位を見極め、そこに国家資源を集中させることに尽きる。
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