まとめ
- 2025年8月15日、政府は閣議で答弁書を決定し、日本が「スパイ天国」と呼ばれているとの見方を否定した。
- れいわ新選組の山本太郎代表が提出した質問主意書に対し、政府は「情報収集・分析体制の強化」や「違法行為の取り締まり」を理由に挙げた。
- しかし、日本に存在するのは特定秘密保護法や国家公務員法などの守秘義務を課す法律にとどまり、外国のスパイ活動そのものを処罰する法律は存在しない。
- そのため、政府が答弁で強調した「違法行為の取り締まり」は実際には空虚であり、スパイ活動の未然防止や摘発はほとんど不可能な状態が続いている。
- 英国や米国、ドイツ、フランス、オーストラリアではスパイ行為を明確に犯罪化し、外国勢力の影響活動についても登録や監視の制度を導入しているのに比べ、日本は法的に無防備であり、早急に実効性あるスパイ防止法を整える必要がある。
山本氏の質問主意書は、国会の公式文書として参議院のサイトに公開されている。件名は「『日本はスパイ天国』という評価及び『スパイ防止法』制定に関する質問主意書」。令和七年八月一日に提出され、同月十五日に答弁書が出された。本文では、国会でたびたび指摘されてきた「スパイ天国」という言葉や「抑止力が全くない」との発言を引用し、政府の認識とその根拠を問う内容となっている。
🔳「違法行為の取り締まり」は空文にすぎない
閣議に臨む石破首相 |
確かに日本はここ十年、防衛省や警察庁を中心にインテリジェンス体制を拡充してきた。その点をもって「情報収集・分析体制の強化」は事実と言える。しかし問題は「違法行為の取り締まり」である。政府はあたかもスパイ行為を取り締まる法が存在するかのように答弁しているが、実際にはその根拠法は存在しない。
日本にあるのは、国家公務員法や自衛隊法による守秘義務、そして特定秘密保護法といった「秘密を守らせる」法律だけだ。外国の指示で情報を収集する行為そのものは、犯罪として規定されていない。したがって逮捕や勾留の根拠がなく、現行法では重大な既遂事態、たとえば外患誘致や国家転覆に至らなければ動けない。これは取り締まりとは言えず、事後処罰にすぎない。
🔳他国の制度との圧倒的な差
こうした現実を踏まえれば、「日本にはスパイ防止法は不要」という見解は完全に的外れである。秘密を守る法はあっても、スパイを捕まえる法が欠けているのだから抑止力など生まれない。だからこそ、外国スパイにとって日本は格好の活動拠点となっているのである。
英国の対外諜報機関である秘密情報部(Secret Intelligence Service、SIS)通称MI6の建物 |
他国はどうか。英国は2023年の国家安全保障法で、スパイ行為や外国勢力の干渉を包括的に犯罪化し、外国影響活動の登録制度を導入した。米国は1917年のスパイ防止法を基盤に経済スパイ法や外国代理人登録法を重ね、刑罰と透明化の両面で抑止を強めている。ドイツは刑法で外国情報機関の活動を独立の犯罪として規定し、国外犯にも管轄を及ぼす。フランスは「国家の基本的利益」を守る概念を中核に据え、平時からスパイ行為を広く処罰できる。オーストラリアは2018年の改正で準備行為まで処罰対象とし、外国影響活動を登録させる仕組みも導入した。いずれも犯罪化と透明化、そして監視体制を組み合わせている。
🔳日本が直視すべき現実
かつて日本に滞在し米国に亡命したレクチェンコ氏は日本をスパイ天国と証言(写真はレクチェンコの外国記者証) |
これに比べれば、日本はあまりに無防備だ。山本氏の質問主意書は、その空白を浮き彫りにした。政府は「スパイ天国ではない」と強弁するが、根拠法が欠けている以上、言葉遊びにすぎない。必要なのは、スパイ行為そのものを定義し、準備段階から処罰できる刑事法制である。加えて、外国勢力の影響活動を登録させる透明化の仕組みを整え、同時に乱用を防ぐため司法審査や国会報告、公益目的の活動に対する明確な除外規定を置くことが欠かせない。
要するに、日本には「秘密を守る法」はあるが「スパイを捕まえる法」がない。この核心的な欠陥を放置したままでは、同盟国との信頼も揺らぎ、わが国は諜報戦の時代に取り残される。山本太郎氏の質問主意書は、その事実を突きつけたのである。今必要なのは、答弁の言葉ではなく、実効性あるスパイ防止法を一刻も早く整備することだ。
要するに、日本には「秘密を守る法」はあるが「スパイを捕まえる法」がない。この核心的な欠陥を放置したままでは、同盟国との信頼も揺らぎ、わが国は諜報戦の時代に取り残される。山本太郎氏の質問主意書は、その事実を突きつけたのである。今必要なのは、答弁の言葉ではなく、実効性あるスパイ防止法を一刻も早く整備することだ。
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