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2020年2月7日金曜日

【有本香の以読制毒】新型肺炎、中国の感染者は「10万人超」か 安倍首相「渡航制限の拡大を躊躇なく行う」に安堵も…政府は果断な対応を―【私の論評】中国の都市封鎖という壮大な社会実験は共産主義と同じく失敗する(゚д゚)!

【有本香の以読制毒】新型肺炎、中国の感染者は「10万人超」か 安倍首相「渡航制限の拡大を躊躇なく行う」に安堵も…政府は果断な対応を

中国発「新型肺炎」

日本の防疫体制は大丈夫か=成田空港

3週連続ではあるが、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスについて今週も寄稿したい。

 5日現在、わが国での感染者は35人。一方、中国の保健当局、国家衛生健康委員会が5日発表したところでは、中国本土の患者数が2万4324人となったという。前日の発表から新たに3887人増えている。この増え方だけを見ても収束が程遠いことは明白だが、世界の研究者からは、さらに憂慮すべき数字が示されている。

 日本の北海道大学医学研究院で、理論疫学(流行データの分析)を専門とする西浦博教授は4日、「現時点で中国の感染者は10万人に上る」との推計を明らかにした。

 脅かすわけではないが、さらに恐ろしい別の数字も紹介すると、先月24日、英米2カ国の大学の研究者からなるチームは、2月4日までに武漢市だけで感染者数が25万人以上、最大で35万人に達する可能性がある-と警告していた。

 これらを見るだけでも、新型コロナウイルスについては依然、未知の部分が大きいことに加え、中国政府の発表が真実とかけ離れたものであろうことが分かる。

 これに関連し、筆者には一つ引っかかることがある。西浦教授の会見内容を報じた日本の特定メディアのある論調だ。

 「中国での感染者10万人」という衝撃的な数字を見出しやリードに取るマスメディアが多いなか、なぜか毎日新聞(ネット版)はこの数字を本文でも一切伝えていない。何処への忖度(そんたく)か、「恐れるに足らず」の論調が際立っていた。

 西浦教授の発表に話を戻すと、教授は感染者数の他にも、次の推計を公表している。

 (1)一般的な潜伏期は5日間(2)平均1人の患者が潜伏期間中に1人、発症後に1人に感染させている(3)感染者の半数は最後まで症状が表れない「無症候性感染」の可能性あり(=無症候性でも他人に感染させるかは不明)(4)感染者全体の死亡率は現時点で0・3~0・6%。これはSARS(重症急性呼吸器症候群)の約10%と比べると大幅に低いが、季節性インフルエンザと比べると10倍以上だという。

 結論として、西浦教授は「健康な成人なら適切な治療を受ければ亡くなる人はほぼいないと考えられる致死率だ。基礎疾患があるなどリスクの高い人への対応が必要になってくる」と延べている。

 日本政府には西浦教授の推計含む、国内外の研究者らからの膨大な情報が上がっているだろうが、それらをもって適切な判断を下すのが政治家の仕事。ただし、この際に重要となるのがスピードだ。情報に振り回されタイミングが遅れれば、「良き決断」も水の泡となる。

 安倍晋三首相は5日午後、「渡航制限の拡大を躊躇(ちゅうちょ)なく行う」と衆院予算委員会で言明した。筆者は「ようやく」という安堵(あんど)の思いを抱きながら、同日午後、同じくこの答弁に胸をなで下ろしている一人のインフルエンサーを訪ねた。

 夕刊フジでもコラム「Yes! 高須のこれはNo!だぜ」(月曜掲載)を連載中の高須クリニック院長、高須克弥氏だ。

 高須氏は先月、中国政府が武漢市を封鎖する前から自身のツイッターで、「渡航制限を」と懸命に訴えてきた。医療関係者を名乗る匿名アカウントから慎重論が多く出ていたこともあり、高須氏には誹謗(ひぼう)中傷も寄せられた。しかし、氏は意気軒高そのもの、翌朝にがんの手術を控えているとは思えない「元気」な様子で語った。

 「古いことわざで、『上医は国を医し、中医は人を医し、下医は病を医す』と言うでしょう。政治家の皆さんには『国を治す』という意識、防疫は国防だという視点で動いてもらいたい」と切り出し、日本の行政に苦言を呈した。

 「僕は国を守ることを訴え続けたんだけど、残念なことに全然動いてもらえなかった。『広がる前に早く』と必死に訴えたけど。動きが遅いよね」

 まったく同感だ。

 一方、高須氏は安倍首相の「躊躇なく行う」との発言を評価し応援するともツイートした。果たして今後、日本政府が、前例にとらわれ過ぎない果断な対応を見せるか。筆者も期待半分で厳しく見つめてまいりたい。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】中国の都市封鎖という壮大な社会実験は共産主義と同じく失敗する(゚д゚)!

中国の新コロナウィルスの猛威は依然、強まるばかりです。台湾紙「自由時報」(6日付)などによると、中国では現在、浙江省杭州や、河南省鄭州、江蘇省南京などで住民の移動を制限する「封鎖式管理」が実施されており、少なくとも34都市に上るという。

 中国の各都市の正確な人口を把握するのは難しいですが、メディアや金融機関の資料をもとに加算すると、計約1億5695万人(推計)となりました。日本の総人口(約1億2600万人)より多いです。ロシアの人口は約1億4000万人ですから、ロシアの人口よりも多いです。

中国の人口は約14億人(中国国家統計局調べ)だけに、約11%が封じ込められていることになります。

新型ウイルスの潜伏期間は最長2週間とみられていることですから、これまでに類を見ない大規模な隔離が奏功したのか、それともひそかに感染が広がり、さらなる拡大を引き起こすかが間もなく分かる見通しです。

人口1100万人の湖北省武漢市の移動規制は1月23日に始まり、同市発着の国内便の運航や列車の運行、バスや地下鉄などの公共交通機関も停止しました。

英国のシンクタンク、王立国際問題研究所の世界保健安全保障センター長、デービッド・ヘイマン氏は4日、ロンドンでの記者会見で、「中国は国内外の感染拡大を阻止できるかどうかを試す壮大な実験を行っている」とした上で、「状況を監視・評価するシステムを設け、有効かどうかを見極める必要がある」と語りました。

現在の封鎖された都市のある省は、下の赤く塗られた省です。


以下に、新型肺炎により封鎖された封鎖都市と人口をまとめた表を掲載します。


伝染病に対処するための、都市封鎖は過去に例をみません。まさに、これは中国の壮大な実験です。共産主義そのものが、壮大な社会実験だっともいわれています。

そもそも何故、レーニンが唱えた共産主義が成功しなかったか、という根源的な問題を考えてみると、それは、資産の平等化という経済的観点ではなく、個人の権力志向、他人への優越感、エゴ、妬みなど、理性ではなく情念が社会制度とは無関係にいつも社会を混乱に陥れる原因となっていたことです。

社会主義の70年にわたる実運用は何十億人もの人間を巻き込んだ壮大な社会実験であり、結果的に人間の卑しい情念がある限り、社会は本質的に変わらないことが分かったに過ぎません。しかし一面では、この情念こそが人を駆り立て、社会や経済を発展させる原動力でもあるのも事実です。

共産主義の失敗は明らかに成り、現在の中国の体制は国家資本主義という全体主義体制です。現在共産主義体制の国はこの世界にはなくなりました。しかし、どのように体裁を繕ってみても、中国の体制は共産党1党独裁の全体主義体制です。

さて、封鎖措置について、北京の医療関係者は「人道的には問題があるが、感染拡大阻止の面では効果がある」と期待を示しています。一方でサウスチャイナ紙は「予防策としてはすでに遅すぎるかもしれない」という伝染病専門家の見方を伝えています。

今回の中国共産党による都市封じ込めの壮大な社会実験は、吉とでるのでしようか、それとも凶とでるのでしょうか。

封鎖された武漢市

私としては、凶とでる確率のほうが高いのではないかと思います。武漢市の封鎖は1月23日10時から始まったのですが、通告時刻は同日午前2時5分でした。その間数十万の武漢市民が脱出しました。多くの自覚症状のない保菌者が脱出したとみられます。この時点で、この実験は失敗している可能性が高いです。

さらに、最初にこの新型肺炎が発見されたのが、昨年の12月ということも災いしていると思います。この時点で中国当局が最初の手を打たなかったことで、新型コロナウィルスがすでに多くの人を媒介に全国に伝播しているはずです。

このような状況になってから、都市を封鎖したとしても、その後の二次感染、三次感染を防ぐことはできません。

結局全体主義体制による、隠蔽などの初動のまずさが、その後いくら都市封鎖などという全体主義ならではの、とてつもない大胆なことを実行しても失敗することを、示すだけに終わるのではないでしょか。その時には、現体制の中国は崩壊することになるでしょう。

そうなれば、共産主義に続き、全体主義体制も結局失敗することが実証されることになります。

私達は、まさに生きているうちに、全体主義の失敗過程を見た歴史の生き証人になるかもしれません。

ただし、これは杞憂に終われば良いとは思います。多くの人々が病に倒れることがないことを祈ります。私自身は、全体主義は新型肺炎などとは関係なく、現在では結局滅ぶと思っているからです。

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2020年1月11日土曜日

【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!


年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領=昨年12月19日、モスクワ

イランの米国への報復攻撃後、両国の全面対決が回避される見通しとなり、ロシアは安堵(あんど)している。イランと米国が開戦に至った場合、ロシアは、米国やイラン、他の中東諸国との関係上、イランを支持するかどうかで進退に窮する恐れがあったためだ。一方、今回の事態はロシアに「漁夫の利」をもたらすとの見方も出ている。

 露上院のコサチョフ国際問題委員長は9日、フェイスブック上で「戦争は回避された。安堵の息を吐ける」との見解を示した。

 ロシアは米国のシリア撤兵や、米国とトルコやサウジアラビアとの関係悪化などを背景に、中東での米国の影響力を排除しつつ自身の勢力圏を拡大する戦略を進めてきた。こうした中でロシアは、地域の主導権争いなど潜在的対立を抱えるイランとも、「米国の覇権への対抗」という旗印の下で共同歩調を取ってきた。

 両国はシリア内戦でアサド政権を支援。イランのウラン濃縮再開問題でも、ロシアは「米国がイランを追い詰めた」と同情を示した。昨年12月には、両国は中国とともにオマーン湾などで海上合同演習を実施。周辺海域で「有志連合」を主導する米国を牽制(けんせい)した。

 ただ、ロシアは、非欧米的な価値観を持つ諸国の“盟主”として影響力を確保することを狙う一方、国力上、米国との決定的な対立は避けたいのが本音だ。

 米国とイランが開戦していた場合、ロシアはイランを支持しなければ、イランとの関係ばかりか、米国に拒否感を持つ各国からの求心力も失いかねなかった。

首脳会談に臨むイランのロウハニ大統領(左)とロシアのプーチン大統領

 しかし、イランを支持すれば、対米関係の決定的な悪化は避けられない。さらにロシアは、イランと敵対するサウジやイスラエルとも協調関係を築いている。イランを支持した場合、これらの国々との関係も損なわれた可能性が高い。

 こうした立場にあったロシアには開戦の回避は最善の結果となった。また、一連の事態でロシアが利益を得るとの見方も出ている。

 コサチョフ氏は「米国の行動に批判的な立場を取った欧州やイラクと、米国との溝が深まった」と指摘。米国とは対照的に、ロシアは中東各国と良好な関係を維持しつつ、米国・イラン双方に自制を求めて存在感を高めたと評価した。

 イタル・タス通信も9日、「米国は今後、報復テロの危険や国際的信頼・評価の喪失など、戦略的な損失を受ける」とする欧州の政治学者の見方を伝えた。

【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!

従来、中東の対立軸と言えば、イスラエル対アラブの対立が主で、「中東和平」は、イスラエルとパレスチナ(PLO:パレスチナ解放機構)の和平合意を意味しました。

ところが、近年、「アラブの春」以降、中東諸国の様相が劇的に変化すると、中東力学の構図も大きく変化しました。特に、中東の大国の一つイラクが、サダム・フセイン後、安定した統治が出来ず、ISISの台頭を許し弱体化した後、隣国のもう一つの大国イランが、中東地域で存在感を増すようになりました。

イランには、かねてから核兵器開発の疑惑もあり、中東の核兵器保有国と言われているイスラエルは、その優位性を失うことに神経を尖らせています。

そんな中東地域の中でも、レバノン、シリア、イラクでは、長く内戦が続き、安定した統治が行われていません。それら諸国において、実は、イスラエルとイランの対決が深まっています。レバノン、シリア、イラクは国家が正統な力の行使を独占しておらず、国家の体をなしておらず、この 3か国がイラン=イスラエルの「戦争」の舞台になっているのです。このイランとイスラエルとの国家間の紛争には、イスラエル軍やイランの革命防衛隊も関わり、もはや「戦争状態」と言っても良い状況になっています。

イスラエル対イラン

イランとイスラエルの国家間対立がますます深まっていくというのが最もありうるシナリオです。この対立では、今のところ、イスラエルの軍事能力がイランを圧倒しているのですが、戦略的には、攻勢に出ているのはイランであり、イランの方が明確な目的を持っているので、イランがますます強くなる可能性があります。

いまの状況を改善していくためには、レバノンとイラクについては、現在の政府が主権国家としての実質を備えるように努力することを助けていくということでしょう。シリアについては、アサド政権の下での国家再建を支援する気に西側諸国がなることはあり得ません。

アサド政権の生き残りを可能にしたイランとロシアが何とかすべきですが、彼らは今の状況が続くことをそれほど問題とは思っていない節があります。

そうなると、シリアにおけるイランとイスラエルとの紛争は止みにくいでしょう。また、広大なイラクを治めるのに、シーア派、スンニ派、クルド族との共存も欠かせないですが、民主主義で最大の人口を有するシーア派は、同じシーア派が大多数を占めるイランに親近感を持つし、イランの革命防衛隊や情報機関も、これらシーア派にアプローチしています。

一方、スンニ派は、サダム・フセイン時代のエリート達であり、なかなか現イラク政権の中枢を占めるシーア派と上手くやって行けるかわからないです。また、中東では、イランに対して、スンニ派の大国サウジの影響力もあります。

レバノンについては、宗派間のバランスをとって統治しているところ、イランが支援する武装勢力ヒズボラが、レバノン国内のシーア派に影響力を与え、スンニ派のハリーリ率いる政権を脅かしています。

こうした複雑化した中東地域では、暫く、イスラエルとイランの国家間対立を含む紛争は続くとみておくべきです。

さて、上の記事で今回ロシアが、米国とイランが本格的戦争になることを回避したことで、漁夫の利を得る可能性もあるとしていますが、本当にそうなるのでしょうか。結論からいうと、得られたにしても、大きなものにはなりえないです。

確かに、シリアにおいてイランとイスラエルが直接衝突する事態はなんとしても避けなければならないものでした。そこでロシアは、両者の間に入って衝突を避けようとする動きを盛んに見せていました。

たとえば、イスラエルが一昨年5月にシリア領内のイラン革命防衛隊を空爆したのち、ロシアのラヴロフ外相は、「シリア南部にはシリア共和国軍の部隊だけが展開すべきである」と述べ、イラン革命防衛隊の撤退が望ましいことを示唆したことがあります。ただし、ラヴロフ外相は「これは双方向の措置でなければならない」として、イスラエルによる空爆も暗に非難しました。

また、この日、レバノン上空でロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機がイスラエル空軍のF-16戦闘機に接近したと報じられています。イスラエル側の報道によると、ロシアは5月初めからレバノン上空に軍用機を侵入させ始めていたとされ、レバノンを拠点とするイスラエルのシリア領内での活動(偵察及び爆撃)をけん制する狙いがあったと見られます。

このラヴロフ発言に続き、英国に本拠を置くシリア人権監視団は、イラン革命防衛隊及びヒズボラはゴラン高原から撤退する用意があるようだと述べており、ロシアの調停による兵力の引き離しが実を結ぶかに見えました。

しかし、現実にはロシアの調停が機能しているとは言い難いものでした。結局、ロシアのけん制にもかかわらずイラン革命防衛隊はシリア南部から撤退していないと見られており、イスラエルによるシリア領内での空爆も継続されました。

一昨年7月16日にフィンランドのヘルシンキで開催された米露首脳会談でもシリア問題は大きく取り上げられたようです。ボルトン米安保補佐官(当時)によると、この際、イランをシリアから撤退させるべきであるとの見解で両国首脳は一致したものの、現実的には難しいという結論に達したといいます。

さらに同年同月23日、イスラエルを訪問したラヴロフ外相が、ゴラン高原のイスラエル国境から100km以内にイラン部隊を立ち入らせないようにするとの提案を行ったのですが、イスラエルは不十分であるとして拒絶したとも報じられました。

ラブロフ ロシア外相

イランが一度固めたシリア領内の地歩を完全に放棄させることはロシアにとっても困難であり、かといって部分的撤退ではイスラエルも納得しないという状況が見て取れました。

それでも、ロシアとしてはシリアにおけるイラン・イスラエル対立を放置することはできません。こうした中で一昨年8月、ロシアは、国連平和維持部隊の一部としてゴラン高原にロシア軍憲兵隊を展開させ始めました。

同国南部において反体制派の掃討が進み、同地域にイラン革命防衛隊が展開してくることを懸念するイスラエルを宥める意図があると見られました。ロシア軍の哨所は最終的に8カ所が設置される予定とされ、ロシアによるゴラン高原への展開としては過去にない大規模なものとなる見込みでした。

とはいえ、ラヴロフ外相の訪露で提案されたシリア南部からのイラン部隊撤退が「不十分」とされたことからも明らかなように、ロシアの措置はイスラエルの対イラン脅威認識を抜本的に払拭するものとはならないでしょう。

以上のように、ロシアは中東において圧倒的な力を持つ「調停者」として振舞うことはできておらず、近い将来にそのような振る舞いが可能となる見込みは薄いです。煎じ詰めるならば、これはロシアが中東において発揮しうる力の限界に帰結できるでしょう。秩序を乱す者に対して受け入れがたい懲罰をもたらす存在でなければ「調停者」になることはできません。

確かにロシアは旧ソ連近隣地域(ロシアが「勢力圏」とみなす地域)においては圧倒的な軍事大国であり、政治的にも経済的にも強い影響力を発揮し得るのですが、中東はその限りではないです。

もともと外征軍ではない米軍の持つ巨大な空輸・海上輸送力を欠いているロシア軍が中東に展開できる軍事力には限りがあり、そのような大規模作戦を支える経済力となるとさらに小さいです。米CNNテレビ(電子版)によると、ロシア軍の艦船が9日、アラビア海北部で活動中の米駆逐艦に異常接近しました。米海軍が10日、明らかにしたといいます。

CNNは国防総省の当局者の話として、アラビア海において、ロシア艦は米駆逐艦「ファラガット」に約55メートルの距離まで接近した後、針路を変えたと伝えました。ファラガットは空母「ハリー・S・トルーマン」を中心とする艦隊の一部。敵の艦船の接近を阻止する役割を担っています。

ロシア国防省は同日、危険な動きをしたのはファラガットの方だと主張しました。これは、ロシア側による中東に展開する米海軍対する偵察と、牽制を兼ねた行動であると考えられますが、牽制としてはあまりにスケールが小さすぎます。かつて、経済的にも大国だった当時のソ連ならば、もっと大掛かりな行動をしたことでしょう。

ちなみに、現在のロシアのGDPは、世界10位にすら入っておらず、東京都と同レベルです。仮に、東京都が中東で何かしようと企てることができたとしても、できることは本当に限られたものになるでしょう。とはいいつつも、ロシアはソ連の核兵器と軍事技術の継承者であり、その点は無論侮ることはできません。しかし、明らかに限界はあります。

エネルギーや経済をテコとしてイスラエルやイランを従わせるというオプションもロシアにはありません。2015年のシリア介入以降、ロシアが中東情勢における影響力をかつてなく高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきです。

同じことは、中東全体の秩序についても言えます。米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が国内外には見られますが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得ないです。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ない等身大のロシア像だと思います。

近年ロシアは中東でプレゼンス高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきだと思います。

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