2020年1月9日木曜日

再選意識!?トランプ大統領、イランと“手打ち”の真相 世界最強米軍への太刀打ちはやっぱり無理…あえて人的被害ない場所を標的にしたイラン―【私の論評】米国は中国への最後通牒の準備のため、イランとの係争を長引かせたくなかった(゚д゚)!




ドナルド・トランプ米大統領は8日午前(日本時間9日未明)、イランによる米軍が拠点とするイラク駐留基地へのミサイル攻撃を受けて、演説した。米軍将兵に死者がいなかったことを明言し、イランに厳しい追加経済制裁を科すと表明した。ただ、軍事的報復は否定した。今後も、民兵組織との散発的な戦闘はありそうだが、ひとまず国家と国家による全面戦争は回避された。背景には、国内向けに強硬姿勢を示すものの、世界最強の米軍との戦争は避けたいイラン指導部と、大統領再選を意識して、好調な米国経済へのダメージを避けたいトランプ氏の意向があるようだ。


 「わが国の兵士は全員、無事で、われわれの軍事基地での被害は最小限にとどまった」「イランは今のところ、身を引いているようだ。これは全当事者にとって、いいことだ」

 トランプ氏は8日、ホワイトハウスで、マイク・ペンス副大統領や、こわもてのマーク・ミリー統合参謀本部議長らを引き連れ、こう演説した。

 米軍が、「テロの首謀者」としてイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のガーセム・ソレイマニ司令官を殺害したことを受け、イランは喪が明けた7日(日本時間8日午前)、報復攻撃に出た。作戦名は「殉教者ソレイマニ」だった。

 米FOXニュースなどによると、イラン側は米軍が駐留するイラクの基地に弾道ミサイルを計15発発射し、中西部アンバル州のアル・アサド空軍基地に10発、北部アルビルの基地に1発が着弾した。

 国営イラン放送は一連の報復攻撃で、米側の多数の無人機やヘリコプターを破壊し、米国人に80人の死者が出たと伝えた。

 最高指導者のアリ・ハメネイ師は首都テヘランで演説し、「われわれは彼ら(米国)の顔に、平手打ちを食らわせた」と述べた。

 表向き強硬なイランだが、実は事前に攻撃を通告していた。

 イラクのアーディル・アブドルマハディ暫定首相は、イラン側から口頭で攻撃を知らされていた。この情報を米国側に伝えた結果、米兵や軍用機などはミサイルが着弾する前に安全な場所に逃れ、死者はなかった。

 ミサイル攻撃で破壊されたのは軍用機の格納庫などで、イランが米軍に人的被害が出ないように、あえて標的を選んだとの指摘もある。

 さらに、イランは攻撃直後、米国の利益代表を務めるスイスを通じて、「(米国が)反撃しなければ、対米攻撃は続けない」との書簡も送っていた。

 背景には、世界最強の米軍の存在と、経済制裁で全面戦争などできないイランの事情がある。

 米軍は、インド洋のほぼ中央に浮かび、イランにも近いディエゴガルシア島の米軍基地に、「死の鳥」の異名を取る戦略爆撃機B52「ストラトフォートレス」6機の派遣を決定した。同機は、全長約49メートルで、全幅は約56メートルと巨大で、核兵器や巡航ミサイル、空対地ミサイルなどを大量に搭載できる。

 イラク戦争でも活躍した米原子力空母「エイブラハム・リンカーン」を中心とする空母打撃群も、中東海域に展開しているとみられる。空母の艦載機だけでなく、イージス艦や原子力潜水艦などで構成される最強の軍事ユニットに、イランはとても太刀打ちできない。


 ■トランプ「再選」意識

 米国にも事情がある。

 トランプ氏は大統領再選を目指しており、好調な米国経済を維持したい。米国は中東の原油に依存していないが、中東で本格戦争が起これば、世界経済は甚大なダメージを受ける。

 双方の思惑もあり、対立のエスカレーションは避けられた。いわゆる、国際政治上の「プロレス」だったともいえそうだ。

 ただ、国家と国家の戦争は避けられても、中東には、イランの支援する「反米」の民兵勢力が暗躍している。今後、散発的な戦闘が起きる可能性は捨てきれない。

 現に、イラクの首都バグダッドでは8日夜(日本時間午前)、米国など各国大使館などがある「グリーンゾーン」と呼ばれる地区に複数回にわたり、ロケット弾が撃ち込まれた。ロイター通信は、イラク治安当局の話として「爆発で火災は起きたが、死傷者は出ていない」という。

 今後、中東情勢はどうなるのか。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「ソレイマニ氏殺害で、米・イラン間では一時的に緊張が高まったが、いずれ関係修復に向かうだろう。イラン指導部の中にも、数々のテロを起こすソレイマニ氏を排除して、米国と手打ちをしたいと考える勢力がある。米国は『(ソレイマニ氏殺害によって)イランからの大規模な報復はない』と先読みしていたのではないか。報復の形をとらせ、イランのメンツを立てた。今後、第3次世界大戦は起きることはないだろう」と語っている。

【私の論評】米国は中国への最後通牒の準備のため、イランとの係争を長引かせたくなかった(゚д゚)!

イランと米国の対立は、やはり早期に終了しそうです。この背景には、上の記事では、トランプ氏の「再選」意識として世界経済のことが述べられていますが、それだけではないでしょう。

まずは、トランプ大統領の支持基盤である、米国福音派の存在が大きいでしょう。米国福音派は、米国にはイスラエルを守る使命があると韓変えているようですから、トランプ氏が増長するイランをそのままにしておけば、信頼を失う可能性もありましたが、本年年初からイランへの攻勢を実行したトランプ氏に対する信頼は絶大なものになったことでしょう。

米フロリダ州マイアミにある教会、キング・ジーザス・インターナショナル・ミニストリーで
ドナルド・トランプ米大統領(中央)に祈りを捧げる宗教指導者たち(2020年1月3日撮影)。
さらに、以前にもこのブログに述べたように、中国に対する最終警告として、北朝鮮への軍事攻撃を準備するため、イランとの全面戦争は極力避けたいということもあると思います。

昨年の米中貿易協議の第一段階目では、中国は米国に対して全面的な譲歩をしたことはこのブログにも掲載しました。この中国に対して協議内容を守らせることも、トランプ氏の再選には必要不可欠です。さらに、イラクよりも中国のほうが、米国にとって経済的にも安全保障にとってもはるかに脅威です。

この協議では7つの合意事項があります。この7つの合意事項のうち、7つ目は、わかりやすくいうと、6つの合意事項を中国が実施するか否かを米国が監視するというものです。これには、期限があります。協議してより3ヶ月以内です。3月中に中国は米国側に対して、中国が協議内容を履行しつつあることを米国に納得させなければなりません。

なかなか進展しなかった米中貿易協議だったが…… 
米国は、この履行が不十分であれば、中国に対してさらに制裁を強化することになるでしょう。それでも、中国が履行しなかった場合には、さらに制裁を強化することになるでしょう。

最後の最後に、どうしても、中国が履行する姿勢を見せない場合、米国としてはさらに厳しく、場合よっては軍事行動に出る場合もあるでしょう。

ただし、それは直接中国に対するものではなく、北朝鮮に対する軍事攻撃です。これについては、すでにこのブログにも掲載しているのですが、再度掲載します。

北朝鮮の金正恩の本当の望みは、金王朝の存続です。そのためには、核を手放すことはないでしょう。皮肉なことにこれが、結果として中国の朝鮮半島全体への浸透を防いでいます。

金正恩は、中国の干渉を極度に嫌っています。なぜなら、共産中国の北への浸透が強まれば、金王朝の存続が危うくなるからです。このことは、彼が実の兄金正男氏や実の叔父張成沢を殺害していることでも、良く理解できます。彼らは、中国と親しい関係にあり、金正恩は、彼らが中国の支援のもとに北朝鮮に新体制を築こうと目論んでいるという疑念を抱いていたようです。

このように、北が中国の朝鮮半島全体への浸透を結果として阻んでいるうちは、38度線も動くことなく、現状維持が継続される可能性が高いです。北朝鮮のミサイルは、日本や韓国や米国だけを狙っているのではなく、中国も標的にしているのは間違いないです。だからこそ、トランプ大統領も、北が短中距離ミサイルを発射しても、あまり問題にしなかったようです。

しかし最近の韓国の動きなどは、北と中国に接近して、現状維持を崩す動きに出ていますから、これはトランプ氏としては到底許容できないものでしょう。もしも、こうした動きに呼応して、中国・北朝鮮・韓国が協同する動きを見せた場合、現状が崩れてしまう可能性が大きいです。

そうなった場合、米国としては、北は無論のこと、韓国や中国に対して厳しい制裁を課すことになるでしょう。それでも、中北韓国がその動きを止めない場合は、米国は北朝鮮に軍事攻撃を加える可能性は否定できません。

《目の前で見た米国の「ドローン斬首作戦」…「金正恩委員長は衝撃大きいはず」》

韓国・中央日報(日本語版)は6日、こんなタイトルの記事を掲載しました。

トランプ氏の命令を受けた米軍が、中東で数々のテロを引き起こしてきたソレイマニ氏を、ドローン(小型無人機)攻撃で「除去(殺害)」したことで、北朝鮮の対米外交が変化しそうだと分析・解説した記事です。

韓国政府当局者は「米国は、外交的に解決しなければ軍事的オプションを使用する可能性があることを明確に示した」「北朝鮮は自国にも似た状況が発生する可能性がないか懸念しているはず」と語っています。記事では、正恩氏の身辺警護が強化され、当面、公の場から姿をくらますことにも言及しました。

韓国・朝鮮日報(同)も同日、《米国の斬首作戦に沈黙する北、金正恩委員長は5日間外出せず》との記事を掲載しました。

確かに、北朝鮮の反応は異様といえます。

朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、ソレイマニ氏の殺害について、発生から4日後の6日、やっと報ました。

通常なら、米国の行動に罵詈(ばり)雑言を浴びせるのでしょうが、中国の王毅外相と、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相の電話会談を報じるなかで、「中ロ外相が(米国の)攻撃は違法行為で、中東の地域情勢が著しく悪化したことへの憂慮を表明した」と伝えるだけでした。直接、トランプ氏や米軍を批判・論評することは避けました。

正恩氏は昨年末の党中央委員会総会で、米国の対北政策を批判したうえで、「世界は遠からず、共和国(北朝鮮)が保有することになる新たな戦略兵器を目撃するだろう」と強がっていました。8日の誕生日に合わせた挑発行為も警戒されていたのですが、あの勢いとは大違いです。

北朝鮮メディアが7日に報じた中部の肥料工場の建設現場を視察した金正恩

米国はかつて、北朝鮮とイラン、イラクを「悪の枢軸」と呼び、唾棄してきました。歴代米政権が、正恩氏や、父の金正日(キム・ジョンイル)総書記の「斬首作戦」を立案・検討してきたのは周知の事実です。

トランプ氏の言動にも変化が見られます。

昨年末まで、トランプ氏は「彼(正恩氏)は非核化の合意文書に署名した。約束を守る男だ」と擁護してきたが、大統領専用機内で5日、「正恩氏は私との約束を破らないと思うが、破るかもしれない」と語ったのです。

正恩氏や朝鮮人民軍の動向を監視するためか、米空軍の偵察機RC135Wが6日、韓国上空を飛行したと、朝鮮日報が民間の航空追跡サイト「エアクラフト・スポット」の情報として報じました。

実は、トランプ政権が、北朝鮮が非核化に応じない場合の極秘作戦を準備していたという指摘もあります。

このように、米軍によるソレイマニ殺害は、北にとっは米国による大きな牽制となっているようです。この警告が、功を奏して、年内に中国・北朝鮮・韓国が不穏な動きをみせなければ、米国は軍事的な手を打つことはないでしょうが、なにか動けば、米国が北に対して軍事行動をとることになると思います。

これが実行され、北朝鮮の金正恩ならびに幹部の殺害ということになれば、中国や韓国は大パニックに至ることは必定です。

ただし、軍事攻撃とはいっても、米国が北を攻めて、陸上部隊も大量に派遣して、完璧に滅ぼすまでのことはしないでしょう。あくまで、長距離ミサイルと中距離ミサイルの一部を破壊し、後は金正恩と幹部を殺害することになると思います。その後は北に体制変換を促すことになるでしょう。

これは、中国に対する米国による、最終警告になるものと思います。

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