2025年7月10日木曜日

米国原潜アイスランドへ歴史的初寄港:北極海の新時代と日本の安全保障への波及

まとめ
  • 歴史的寄港:2025年7月9日、米海軍の原潜「USS Newport News」がアイスランドのグンダルタンギに初停泊し、米国とNATOの北極海での安全保障強化を示した。
  • 戦略的背景:ロシアと中国の北極海活動増加に対抗し、GIUK海峡の監視を強化。アイスランドはNATO加盟国として戦略的要衝の役割を担う。
  • 日本の安全保障との関連:直接的影響はないが、米国のグローバル戦略が日本の安全保障環境を安定させ、北極海の経済・安全保障的関心とつながる。
  • 環境と地元反応:地元住民や環境団体は海洋生態系や放射能リスクを懸念。米国は核兵器非搭載を明言し、安全対策を強調する。
  • 今後の展望:日本は北極海航路やケーブルプロジェクトを活用し、米国との同盟を強化。環境問題と安全保障のバランスが課題となる。
アイスランドのグンダルタンギに寄港した米海軍のロサンゼルス型攻撃原潜(USS Newport News)

2025年7月9日、米海軍のロサンゼルス型攻撃原潜(USS Newport News)がアイスランドのグンダルタンギに寄港した。これはアイスランドの岸壁に米国の原潜が初めて停泊した歴史的な出来事であり、北極海の安全保障を強化し、米国とNATOの結束を示す動きだ。潜水艦は乗員約143名で、トマホークミサイルやMK-48魚雷を装備するが、核兵器は搭載していない。この寄港は、ロシアや中国の北極海での活動増加に対抗する米国とアイスランドの戦略的協力の象徴であり、日本の安全保障にも間接的に影響を与える可能性がある。以下、この出来事の背景、意義、そして日本との関連を詳しく解説する。

寄港の背景と北極海の戦略的意味


アイスランドはNATO加盟国であり、北大西洋の戦略的要衝として冷戦時代から重要な役割を担ってきた。近年、気候変動による海氷の減少で北極海の商業航路や資源開発が活発化し、ロシアが軍事基地を拡張し、中国が「極地シルクロード」構想を進める中、GIUK(グリーンランド、アイスランド、英国)海峡の監視が一層重要になっている。2023年初頭、アイスランドは米国の核動力潜水艦の訪問を許可し、今回の寄港はその7回目にあたる。米国海軍のムンス提督は、この寄港が「同盟国へのコミットメントと対抗勢力への抑止力」を示すと強調した。アイスランド政府も、監視能力の強化や水中インフラの保護に寄与すると評価している。

しかし、地元では議論も起きている。一部の住民や環境団体は、原潜の寄港が海洋生態系や放射能リスクを高めると懸念し、アイスランドの核兵器非保有方針にも注目が集まる。米国は核兵器非搭載を明言し、安全対策を強調するが、北極の軍事化に対する不安は根強い。過去には2023年4月にUSS San Juanがアイスランド沖で補給を行ったが、岸壁での停泊は今回が初であり、米国とアイスランドの協力が新たな段階に入ったことを示している。

日本の安全保障とのつながり

日本の安全保障は、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍事拡張への対応に重点を置いており、2022年に策定された国家安全保障戦略(NSS)は、ミサイル防衛、サイバーセキュリティ、国際協力を強化している。アイスランドへの原潜寄港は直接的に日本に影響しないが、米国のグローバルな安全保障戦略を通じて間接的な関連がある。まず、米国が北極海でロシアの活動を牽制することで、グローバルな安全保障環境が安定し、日本を含む同盟国に利益をもたらす。特に、北朝鮮や中国の脅威に対抗する米国のプレゼンスは、日本にとって重要な後ろ盾だ。

ロシア太平洋艦隊旗艦 ミサイル巡洋艦「ワリャグ」

さらに、日本は北極海に戦略的関心を持つ。2015年の「日本の北極圏政策」では、気候変動、航路活用、資源開発、安全保障を重視し、北極海経由の海底ケーブルプロジェクトも進行中だ。このケーブルはアイスランドと日本を結ぶもので、経済的・安全保障上の協力を強化する可能性がある。たとえば、2022年に報じられたプロジェクトは、データ通信の高速化とサイバーセキュリティの向上を目指している(出典: Reykjavik Grapevine, 2022年7月13日)。

また、冷戦期に日本は北太平洋で対ソ連の潜水艦監視に協力した経験があり、現在の米国の行動はこれと類似の戦略的枠組みと見なせる。NATOとの関係も重要だ。日本はNATOのパートナー国であり、アイスランドでの米国とNATOの活動は、日本の安全保障に間接的に寄与する。たとえば、2025年8月の大阪万博でのNATO参加は、日米同盟とNATOの連携強化を示す(出典: NATO公式サイト, 2025年7月)。米国のアイスランドでの行動は、こうしたグローバルな協力網を強化し、日本の安全保障環境を安定させる一助となる。

今後の展望と日本の対応

この寄港は、北極海の地政学的競争が激化する中、米国とNATOのプレゼンス強化を示す。ロシアはこれをNATOの拡張と批判し、中国も対抗措置を取る可能性がある。一方、日本は北極海の安全保障や経済的機会を注視し、米国との同盟を基盤に戦略を進める必要がある。たとえば、北極海航路の活用は日本のエネルギー安全保障や貿易に影響し、米国の活動はこれを支える基盤となる。しかし、環境や地元住民の懸念も無視できない。日本も海洋環境保護に取り組んでおり、アイスランドでの議論は日本の政策に教訓を与える。米国との協力深化は、日本の安全保障を強化するが、同時に北極海の軍事化や環境問題へのバランスが求められる。日本は、サイバーセキュリティやミサイル防衛の強化に加え、北極海での国際協力を通じて、グローバルな安全保障に積極的に関与すべきだ。

オホーツク海上を飛行する日本のP3C哨戒機

2025年7月9日のUSS Newport Newsのアイスランド寄港は、北極海の安全保障を強化し、米国とNATOの結束を示す歴史的な出来事だ。日本には直接的影響はないが、米国のグローバル戦略や北極海の経済・安全保障的関心を通じて、日本の安全保障に間接的に寄与する。ロシアや中国の動向、環境問題への対応を注視しつつ、日本は米国との同盟を強化し、北極海での協力を深めるべきだ。この寄港は、変わりゆく世界の安全保障環境の中で、日本が新たな役割を模索するきっかけとなるだろう。

参照
  • Reykjavik Grapevine: Submarine Cable Will Give Iceland Direct Telecommunications Access to Japan, 2022年7月13日
    https://grapevine.is/news/2022/07/13/submarine-cable-will-give-iceland-direct-telecommunications-access-to-japan/
  • Reykjavik Grapevine: US Nuclear Submarine Docks In Hvalfjörður, 2025年7月9日
    https://grapevine.is/news/2025/07/09/us-nuclear-submarine-docks-in-hvalfjordur/
  • Submarine Cable Map, 2025年
    https://www.submarinecablemap.com/
  • The Diplomat: Taiwan’s Subsea Cable Security and China’s Growing Regional Influence, 2023年3月
    https://thediplomat.com/2023/03/taiwans-subsea-cable-security-and-chinas-growing-regional-influence/
  • The Arctic Institute: Japan Steps Up Its Arctic Engagement, 2025年
    https://www.thearcticinstitute.org/japan-steps-up-arctic-engagement/
  • Stimson Center: Back to the Future? The Implications of Growing Strategic Competition in the Arctic for the US-Japan Alliance, 2025年
    https://www.stimson.org/2025/implications-strategic-competition-arctic-us-japan-alliance/
  • NATO: NATO to participate at World Expo 2025 in Osaka, Japan, 2025年7月
    https://www.nato.int/cps/en/natohq/news_236850.htm
  • 【関連記事】

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    2025年1月10日

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    グリーンランドの防衛費拡大へ トランプ氏の「購入」に反発―【私の論評】中露の北極圏覇権と米国の安全保障: グリーンランドの重要性と未来 2024年12月26日

    北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW―【私の論評】ロシアが北方領土で軍事演習を行っても日本に全く影響なし(゚д゚)! 2023年4月17日

    2025年7月9日水曜日

    参政党・神谷宗幣の安全保障論:在日米軍依存の減少は現実的か?暴かれるドローンの落とし穴

    まとめ

    • 神谷宗幣の発言と参政党の政策は、在日米軍依存の減少を目指す点で一致。
    • 私が指摘する神谷の盲点は、ドローンやAIに偏重し、索敵能力や情報統合能力を見落としていること。
    • ウクライナの「蜘蛛の巣」作戦やイスラエルの対イラン攻撃は、索敵と情報統合が現代戦の鍵であることを示す。
    • 高橋洋一は神谷の安全保障理解を「幼稚園レベル」と批判し、党首の資質に疑問を投げかける。
    • 神谷の専門性欠如は、参政党の信頼性と選挙での支持に影響を与える可能性がある。

    参政党の神谷宗幣代表

    参政党の神谷宗幣代表が打ち出す安全保障論は、日本の自主防衛を掲げ、在日米軍への依存を減らす大胆なビジョンだ。しかし、その主張には私のような一般人でも気づく致命的な穴がある。2025年参院選を前に、この問題は党の信頼性や神谷の指導力を揺さぶっている。以下で、その核心を明らかにする。

    神谷の主張と参政党の政策:米軍依存からの脱却

    2025年7月6日、ニコニコ動画の「ネット党首討論 参院選2025」で、神谷は日本の国防が在日米軍に頼りすぎていると問題視した。段階的な米軍撤退と日米地位協定の見直しを訴え、軍事費増強には慎重な姿勢を示した。高額な外国製武器購入を批判し、サイバー戦争対策、スパイ防止法、AIやドローンの活用を優先すべきだと力説した。特に、プロゲーマーを起用したドローン部隊の創設や国産兵器の開発を提案し、専守防衛を前提に内需拡大につながる軍拡なら支持すると述べた。

    ヘグセス米国防長官(右)と中谷防衛相(3月30日)

    この発言は、日米集団防衛体制を揺さぶるものと受け止められる可能性がある。参政党の改定憲法草案に「外国軍の駐留や基地設置を禁止する方針が明記されている」という情報は、2025年初頭の情報源(例:Wikipedia, 2025-07-03)やX上の投稿(例@kogurenob, 2025-07-07)で確認されていた。しかし、最新の調査(2025年7月9日時点)では、参政党の公式サイト(参政党公式サイト)や最新の政策カタログ(参政党政策カタログ)にこの記述は見当たらない。Xの投稿(例:@tohgafujita, 2025-07-07)によると、この方針が選挙戦での批判や外交上の現実的配慮により削除された可能性が指摘されている。ただし、削除の公式発表や理由は不明であり、党の公式見解を確認する必要がある。神谷の発言は引き続き米軍依存の脱却を訴えており、過去の草案と一致していた時期があったことは事実と見なせる。これは、日本の安全保障はもとより、アジア太平洋地域、いや世界の安全保障から言ってもあり得ない認識と言わざるを得ない。

    神谷の盲点:ドローン偏重の落とし穴

    神谷はドローンやAIの軍事活用を声高に叫ぶが、現代戦の核心である索敵能力(人的・電波など・公式資料からの情報収集能力)や情報統合能力には一切触れていない。私のような一般人でも、この見落としは明らかだ。ウクライナの「蜘蛛の巣」作戦は、ドローン攻撃の成功例だが、ウクライナ軍と米軍の高度な索敵能力と情報統合能力が支えた。

    イスラエルによる対イラン攻撃も、精密な索敵と情報統合が鍵だった。敵を見つけられなければ、どんなドローンや兵器も無力だ。索敵能力があっても、情報が統合されなければ軍事力は機能しない。神谷がこの基本を見落としているのは、彼の安全保障論が表面的である証拠だ。ドローンは軍事的には、道具にすぎない。

    専門家の批判と選挙への影響:信頼性の危機

    高橋洋一チャンネル

    経済学者で安全保障に詳しい高橋洋一氏は、YouTube動画(高橋洋一チャンネル)で、神谷の主張を「幼稚園レベル」「安全保障0点」「国際舞台に立てない」 「政党の代表どころか、議員としても相応しくない」と一刀両断した。高橋氏の批判は、私が感じた神谷の知識不足を裏付ける。安全保障は国家の命運を握る。党代表が基本を見誤るのは、党の信頼を揺さぶる。神谷のビジョンは情熱的だが、情熱だけでは足りない。私が気づくようなドローンの落とし穴を放置し、専門家からもその安全保障感を批判されるようでは、参政党の未来は危うい。日本は米国との同盟を基盤に安全保障を構築している。米軍撤退は地域の安定を崩しかねない。選挙戦で有権者がどう判断するか、注目が集まる。 【関連記事】

    トランプの関税圧力と日本の参院選:日米貿易交渉の行方を握る自民党内の攻防 2025年7月8日
    日本の未来は、参院選の結果と自民党内の力のせめぎ合いに懸かっている。トランプの強硬策にどう立ち向かうか。日本は今、試されている。

    トランプ関税30~35%の衝撃:日本経済と参院選で自民党を襲う危機 2025年7月3日
    日本の防衛費増への消極姿勢や中国寄りの経済協力が、トランプの不満を煽り、交渉を複雑化させる。歴史的傾向、現在の政治的脆弱性、選挙直前のタイミングを考えれば、支持率低下は確実だ。

    トランプの「公平」に挑む英国の勝利と日本の危機:石破退陣でTPPを世界ルールに! 2025年7月2日
    日本は関税の危機を跳ね返し、自由貿易の旗手として世界に立つ。トランプ氏の「公平」を逆手に取れ。日本にその力はある。

    保守派も含めた有権者の政治への熱が、今回の選挙戦をさらに激化させるだろう。

    2025年東京都議選の衝撃結果と参院選への影響 2025年6月23日
    東京都議選の結果は、来るべき参院選への重要な示唆を与える。国会での与野党の力関係が拮抗すれば、より活発な政策議論が期待され、国民にとってより良い政治環境が整うだろう。

    2025年7月8日火曜日

    トランプの関税圧力と日本の参院選:日米貿易交渉の行方を握る自民党内の攻防

    まとめ
    • トランプ大統領は2025年7月7日、日本に25%の関税を課す書簡を石破総理大臣に送り、貿易赤字是正と米国内製造促進を狙う。
    • 日本の参院選(7月20日)は交渉に影響を与え、米国財務長官が選挙を「日本の制約」と指摘。
    • 自民党内の農業保護派は農産物譲歩に反対し、参院選敗北で主導権を握れば交渉が難航する。
    • 「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が主導すれば、自由貿易を推進し、米国に外交的対抗を試みる。
    • 参院選結果と自民党内の力学が交渉の行方を左右し、日本は日米同盟と国内バランスの間で試される。
    トランプの関税通知と日本の動向

    記者会見で、トランプ米大統領から石破茂首相への関税に関する書簡を示すレビット報道官

    2025年7月7日、トランプ米大統領は日本の石破茂首相に書簡を送り、8月1日から日本製品に25%の関税を課すと宣言した。この書簡は、米国が抱える対日貿易赤字を叩き潰し、米国内の製造業を復活させるための強烈な一撃だ。書簡はTruth Socialで公開され、韓国の李在明大統領にもほぼ同じ内容が送られた。以下はその全文だ。(日本語訳はこの記事一番最後「続きを読む」に掲載します)

    Letter to Prime Minister Shigeru Ishiba of Japan
    Dear Prime Minister Ishiba, 
    For many years, the United States has experienced a long-term, and very persistent, Trade Deficit with Japan. Starting on August 1, 2025, we will charge Japan a Tariff of only 25% on any and all Japanese products sent into the United States, separate from all Sectoral Tariffs. Goods transshipped to evade a higher Tariff will be subject to that higher Tariff. If for any reason you decide to raise your Tariffs, then, whatever the number you choose to raise them by, will be added onto the 25% that we charge. There will be no Tariff if Japan, or companies within your Country, decide to build or manufacture product within the United States and, in fact, we will do everything possible to get approvals quickly, professionally, and routinely – In other words, in a matter of weeks.
    We look forward to working with you as a Trading Partner for many years to come. If you wish to open your heretofore closed Trading Markets to the United States, and eliminate your Tariff, and Non Tariff, Policies and Trade Barriers, we will, perhaps, consider an adjustment to this letter. Please understand this 25% number is far less than what is needed to eliminate the Trade Deficit disparity we have with your Country. These Tariffs may be modified, upward or downward, depending on our relationship with your Country. You will never be disappointed with The United States of America.
    Sincerely, Donald J. Trump President of the United States

    この書簡は、米国の2024年対日貿易赤字(約685億ドル)を背景にしている。トランプは「America First」を掲げ、米国内の雇用と産業を守るため、関税を武器に日本に圧力をかける。書簡の言葉は直接的で、まるでビジネスの取引を持ちかけるような調子だ。「25%は控えめだ」と言いながら、報復関税にはさらに上乗せすると警告し、日本に市場開放や米国での工場建設を迫る。「数週間で承認する」と約束する一方、日本の市場を「閉鎖的」と批判する強烈な言葉も飛び出す。最後の「アメリカに失望することはない」という一文は、米国の力を誇示し、国内の支持者を鼓舞するパフォーマンスだ。

    経済的には、この関税は日本の対米輸出(2024年で約1,480億ドル)に大打撃を与える。自動車や電子機器の価格が上がり、企業は利益を失うだろう。米国での工場建設を促す狙いはあるが、そんなものは一朝一夕にできるものではない。米国側でも、物価上昇や日本の報復関税(例えば米国の農産物に対する関税)のリスクがちらつく。政治的には、日米同盟にひびが入る危険があり、日本は交渉、報復、WTO提訴の三択を迫られる。だが、同盟の重みを考えると、慎重な対応を選ぶだろう。書簡の前提である「貿易赤字は悪」「関税で解決できる」という論理には、経済学者から疑問の声が上がる。サプライチェーンの混乱や国際貿易の停滞を招くリスクも見逃せない。

    参院選と日本の交渉姿勢


    2025年7月20日、日本の参院選が迫る。この選挙は日米貿易交渉に影を落とす。米国財務長官スコット・ベッセントは「選挙が日本の交渉を縛っている」と語り、トランプ政権が日本の国内政治を交渉の障害と見ていることを示した(出典:NHK WORLD-JAPAN News)。自民党の支持率は低下し、東京都議選での敗北が響く。農業界は自民党の強力な支持基盤だ。米国との交渉で農産物の市場を開けば、有権者の反発は避けられない。石破首相は板挟みだ。

    自民党内部では、農業保護を主張する勢力が強い。森山裕委員長の「食料安全保障強化本部」は、米国からの米の輸入拡大に反対する決議を出し、小野寺五典政策調査会長も国内産業を守る必要性を訴える(出典:The Japan NewsThe Japan News)。もし参院選で自民党が敗れ、石破政権が弱体化すれば、農業保護派が交渉の主導権を握る可能性がある。そうなれば、農産物に関する譲歩はさらに難しくなる。

    食料安全保障強化本部で挨拶する森山裕自民幹事長

    一方で、「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」(FOIP本部)が別の道を提示する。麻生太郎最高顧問が本部長を務め、高市早苗や茂木敏充ら約60人の議員が参加するこの本部は、2025年5月14日に再始動し、自由貿易と地域の安定を掲げる(出典:自民党NHK)。FOIP本部が主導権を握れば、自由貿易を推し進め、トランプの関税に外交的な反撃を試みるだろう。

    CPTPPやRCEPといった多国間貿易枠組みを強調し、米国に自由貿易の価値を訴える可能性がある。だが、国内の農業保護派との対立は避けられない。麻生はトランプとの過去の対話経験を生かし、強気な交渉を展開するかもしれないが、農業界の反発を抑えるため、農業分野の譲歩は最小限にとどめる巧みなバランスを取るだろう。

    自民党内の力学と交渉の行方

    自民党の派閥は政治資金スキャンダルで解散したが、影響力は消えていない。安倍派、森山派、岸田派、二階派が名目上解散しても、非公式なネットワークは生きている(出典:The Mainichi)。農業保護派の森山や小野寺は、農業界の声を背に強硬な姿勢を崩さない。対して、FOIP本部は自由貿易と国際協力を重視し、日米同盟を地域戦略の基盤と見る。参院選の結果がこの力学を左右する。自民党が敗北し、農業保護派が勢いづいた場合、交渉は硬直する。一方、FOIP本部が主導権を握れば、自由貿易を軸にした柔軟な交渉が期待できる。

    自民「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の初会合で挨拶する麻生最高顧問(5月14日、党本部)

    FOIP本部が主導した場合、日本は単なる受け身の姿勢を脱し、積極的に日本のビジョンを打ち出すだろう。麻生の外交手腕、高市の経済安全保障の知見、茂木の貿易交渉の経験が活かされ、米国に自由貿易の重要性を訴える。だが、国内の農業保護派との衝突は避けられず、譲歩の範囲を巡る綱引きが続く。

    結論:日本の選択と未来

    トランプの関税は、日本に厳しい選択を迫る。経済的には輸出産業が苦しみ、政治的には日米同盟に亀裂が入る危険がある。参院選は日本の交渉姿勢を大きく左右する。ただ、現状では自民党が参院選で大敗しようがしまいが、米国との貿易交渉は当面自公政権が担うことになるだろう。自民党内の農業保護派が主導すれば、農産物の市場開放は進まず、交涉は難航する。一方、FOIP本部が主導すれば、自由貿易を掲げ、米国に堂々と対峙するだろう。だが、国内のバランスを無視すれば、政権はさらなる危機に瀕する。日本の未来は、参院選の結果と自民党内の力のせめぎ合いに懸かっている。トランプの強硬策にどう立ち向かうか。日本は今、試されている。

    【関連記事】

    トランプ関税30~35%の衝撃:日本経済と参院選で自民党を襲う危機 2025年7月3日

    トランプの「公平」に挑む英国の勝利と日本の危機:石破退陣でTPPを世界ルールに! 2025年7月2日

    中国フェンタニル問題:米国を襲う危機と日本の脅威 2025年7月1日

    〈提言〉トランプ関税にどう対応すべきか?日本として必要な2つの分野にもっと支出を!—【私の論評】トランプ関税ショックの危機をチャンスに!日本の柔軟な対応策と米日協力の未来 2025年4月21日

    高橋洋一氏 中国がわなにハマった 米相互関税90日間停止 日本は「高みの見物」がいい―【私の論評】トランプの関税戦略は天才か大胆不敵か? 中国との経済戦を読み解く 2025年4月15日


    2025年7月7日月曜日

    石破首相のNATO欠席が招く日本の危機:中国脅威と国際的孤立の代償

     まとめ

    • 石破首相のNATO欠席: 2025年6月、NATO首脳会議を石破茂首相が欠席。自衛隊幹部は失望。理由は米国のイラン攻撃、トランプ不参加、防衛費圧力回避か。党内やXで「外交音痴」と批判。
    • 中国脅威の機会喪失: 中国空母「遼寧」「山東」が太平洋で挑発、尖閣領空侵犯も。NATOで脅威共有できず、首脳宣言に中国言及なし。
    • 核問題と曖昧な態度: 北朝鮮の核脅威がある中、石破氏はイラン攻撃でイスラエル非難、米国には曖昧。NATOでの核議論を逸した。
    • 国際社会の懸念: トランプの防衛費増額要求(GDP比5%)承認。日本の不在は貢献不足と映る。EUは日本中国接近を懸念。
    • 過去と矛盾: 2003年イラク駐留人道支援自衛隊部隊の視察拒否。「アジア版NATO」提唱者なのに欠席は矛盾。日本の地位を揺るがす。
    中国の脅威と逸した機会


    石破茂首相が2025年6月のNATO首脳会議を欠席。自衛隊幹部は失望と怒りを隠さない。理由は曖昧で、米国のイラン核施設攻撃、トランプ大統領の不参加、防衛費増額の圧力回避、国内政治の配慮が推測されるが、明確な説明はない。

    自民党内では「外交音痴」、Xでは「国難」との声(産経新聞)。日本は2022年からNATO首脳会議に参加し、「ウクライナは明日の東アジア」と訴え、インド太平洋の安全保障を強調してきた。


    今回は中国の脅威を共有する機会を失った。2025年5月、中国海警船のヘリが尖閣諸島の領空を侵犯。6月には空母「遼寧」「山東」が太平洋で挑発行動。「遼寧」は南鳥島周辺で500回超の艦載機発着、「山東」の戦闘機は海自P3C哨戒機に45メートルまで異常接近(防衛省)。

    中国の米中二分割戦略が露骨だ。NATO首脳宣言に中国への言及はなく、日本の主張は届かなかった。

    核問題と曖昧な態度の代償


    北朝鮮の核脅威が続く中、石破氏はイラン核施設攻撃でイスラエルを非難する一方、米国の攻撃には「法的評価は困難」と曖昧。ダブルスタンダードとの批判が上がる(産経新聞)。

    NATO会議は核拡散防止を議論する場だった。1993~94年の北朝鮮核危機で米国の融和策が失敗し、北朝鮮は核兵器とミサイルを開発。日本は今もその脅威に苦しむ。
    石破氏の欠席は、核の脅威を訴える機会を自ら放棄。国際社会の目は冷たい。トランプ政権はNATOにGDP比5%の防衛費増額を求め、2025年会議で承認(NATO公式)。
    日本の不在は同盟強化への貢献不足と映り、NATO事務総長マーク・ルッテは欧州の防衛費増額を「トランプの勝利」と称賛。EUは日本の欠席を民主主義陣営の離脱とみなし、中国接近を懸念(EU対外行動庁)。

    過去の失望と「アジア版NATO」の矛盾

    サマワで人道支援にあった自衛隊

    石破氏への失望は繰り返される。2003年、防衛庁長官としてイラク復興支援に自衛隊5500人を派遣。サマワで人道支援に従事したが、テロリスクや「違憲」批判を理由に現地視察を拒否。

    米英高官が自国軍を激励する中、この回避は自衛隊に失望を刻んだ(防衛省)。後任の大野功統氏、額賀福志郎氏は即座にイラク訪問。

    2025年6月30日の自衛隊幹部会同で、石破氏はイラク派遣を「終生忘れない」と語るが、視察拒否の矛盾が不信を深める。「アジア版NATO」を提唱し、日米豪印やASEANとの安全保障枠組みを唱える石破氏が、NATO欠席でその基盤を自ら弱めた。

    中国の太平洋進出と米中対立が激化する今、国内政治に縛られた石破政権の及び腰は、日本の安全保障と国際的地位を大きく揺るがす。

    【関連記事】

    中国の異常接近:日本の対潜水艦戦能力の圧倒的強さを封じようとする試みか 2025年6月13日

    中国ヘリ発艦で引き返す  尖閣周辺で飛行の民間機  機長、当時の状況証言—【私の論評】尖閣の危機:中国の領空侵犯と日本の防衛の限界を暴く 2025年5月7日

    “制服組自衛官を国会答弁に”追及の所属議員を厳重注意 国民―【私の論評】法と実績が示す制服組の証言の重要性、沈黙の国会に未来なし 2025年2月7日

    吉村府知事vsヒゲの隊長 “自衛隊便利屋”に反論―【私の論評】「自衛隊は便利屋ではない」発言は、平時というぬるま湯に長年浸かってきた日本人への警告でもある 2020年12月8日

    石破氏、自民党内でこれだけ嫌われるワケ 「後ろから鉄砲を撃つ」「裏切り者」「言行不一致」―【私の論評】石破氏だけは、絶対に日本の総理大臣にしてはいけないその理由 
    2020年9月1日

    2025年7月6日日曜日

    参政党の急躍進と日本保守党の台頭:2025年参院選で保守層の選択肢が激変

    まとめ
    • 参政党の急成長: 2020年結成の参政党は、2022年参院選で177万票、2024年衆院選で3議席、2025年東京都議選で3議席を獲得。支持率5~7%で、参院選の台風の目。「日本人ファースト」やリベラル政策で保守層や無党派層に支持拡大。
    • 地道な活動の成果: 地方議員150人、資金20億円(4億3000万円をパーティー等で確保)。街頭演説や「神谷カフェ」で有権者と対話し、ネット戦略と「メディア不信」で熱狂的な支持を集める(総務省, X)。
    • 日本保守党の台頭と課題: 2023年結成、2024年衆院選で3議席獲得。百田尚樹氏と有本香氏が結成、河村たかし氏が合流。支持率は参政党に及ばず、内部対立や保守系雑誌の批判が課題だが、成長の余地あり(coki.jp, bunshun.jp)。
    • 保守層の選択肢拡大: 自民党への不満から参政党や日本保守党に保守層が流れ、Xで「自民離れの受け皿」と比較。両党の政策多様化が政治議論を活性化(X)。
    • 高まる政治関心: 神奈川選挙区の95.0%が参院選に高い関心を示し、10代100%、全世代9割超え。参政党や日本保守党の台頭と自民党不満が背景(神奈川新聞)。
    参政党の急躍進とその背景

    参政党代表 神谷宗幣氏

    2025年7月3日公示の参院選で、参政党が旋風を巻き起こしている。2020年4月、神谷宗幣氏を中心に結成されたこの党は、YouTube視聴者を含む約3000人の党員から始まった。反ワクチンやナショナリズムを掲げ、保守層の心をつかんだが、内部対立も経験した。

    2022年参院選で177万票を獲得し神谷氏が比例区で当選。2024年衆院選で3議席、2025年東京都議選では世田谷区、練馬区、大田区で4候補中3人が当選するなど、勢いは止まらない。世論調査では自民党、立憲民主党に次ぐ支持率5~7%を記録。参院選の台風の目だ。

    「日本人ファースト」を旗印に、外国人による土地購入規制や医療保険の明確化を訴える。一方、フリースクール推進やオーガニック給食でリベラル層にも食い込む。神谷氏の街頭演説には元航空幕僚長の田母神俊雄氏らが駆keつけ、支持者は外国人トラブルへの対応や自民党、国民民主党への失望から共感を寄せる。

    世田谷区では立憲候補を上回り、維新の会やれいわ新選組の支持層にも影響を与える。神谷氏の過去の発言―コロナ陰謀論、反ワクチン、沖縄戦関連―は批判を浴びたが、支持者は意に介さない。YouTubeやXでの発信と「メディア不信」を煽る戦略で、熱狂的な支持を広げる。


    北海道や福岡など複数人区での候補者擁立も注目され、自民や立憲を脅かす情勢だ。参政党の躍進は、地道な活動の積み重ねによる。地方議員を増やし、2025年6月時点で150人に拡大。全国の選挙区に候補者を擁立し、街頭演説や「神谷カフェ」などのイベントで有権者と直接対話。

    2023年の政治資金収支報告書では、資金20億円のうち政治資金パーティーやグッズ販売で4億3000万円を確保し、草の根の支援を固めた([総務省 政治資金収支報告書](https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/))。Xでは「地道に根を張る戦略」と評価され、演説に人が少なくても票を獲得する力強さが指摘される(Xでの関連投稿)。 

    日本保守党の台頭と課題

    日本保守党、右から有本氏、河村氏、百田氏

    2023年10月に百田尚樹氏と有本香氏が結成した日本保守党は、河村たかし氏が後に共同代表として合流。2024年衆院選で3議席を獲得し、結党から1年で国政政党となった。参政党が2年3カ月かかったのに対し、その速さに驚く。だが、2025年6月時点で支持率は参政党に及ばず、認知度不足が課題だ。

    参政党は5年で地方議員150人、国会議員5人に拡大。ネット戦略と保守層の取り込みが鍵だった。日本保守党も保守政策とSNSで支持を集めるが、参政党のように幅広い層に訴求できれば、参院選での議席増が期待できる。Xのフォロワー33万人超や党員4万6000人超の基盤は、参政党の初期に似る。

    しかし、保守系雑誌「WiLL」や「月刊Hanada」は、LGBT理解増進法への姿勢や党運営を「偽善的」と批判。元候補者・飯山陽氏の党幹部批判や百田氏と河村氏の「ペットボトル事件」で内部対立が表面化している。それでも、参政党が地方議員を増やし議席を拡大したように、日本保守党もネット戦略や保守層の取り込みを強化すれば、参院選での成長が期待できる。

    保守層の選択肢拡大と高まる政治熱

    保守層にとって選択肢が増えた意義は大きい。自民党のスキャンダルや経済政策への不満から、保守層の一部が参政党や日本保守党に流れている。Xでは「自民離れの受け皿」として両党が比較される。参政党は全国での候補者擁立と生活者目線の政策で支持を拡大。日本保守党は消費税ゼロなど保守の強さを訴え、組織力で勝負する。


    こうした選択肢の多様化は、保守派が自身の価値観に合う政党を選びやすくなり、政治の議論を熱くする。この動きは有権者の関心を高めている。共同通信社が7月3~4日に実施した参院選序盤情勢調査によると、神奈川選挙区の95.0%が「大いに関心がある」(70.0%)または「ある程度関心がある」(25.0%)と回答。過去6回の調査で最高だ。

    10代が100%、50代が97.4%、30代でも90.2%と全世代で9割超え。前回の男女差5ポイント以上が1.7ポイントに縮まり、男性95.4%、女性93.7%と関心が急上昇(神奈川新聞)。この高揚は、参政党や日本保守党の台頭と自民党への不満が背景にある。保守派も含めた有権者の政治への熱が、選挙戦をさらに激化させるだろう。

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    保守分裂の危機:トランプ敗北から日本保守党の対立まで、外部勢力が狙う日本の未来 2025年6月6日
    保守は、事実に基づく対話で亀裂を修復し、外国勢力や左翼の介入を防がねばならない。内部の争いに執着すれば、リベラル左翼、中国共産党を喜ばせるだけだ。

    2025年7月5日土曜日

    トランプの移民政策が米国労働者を大復活! 雇用統計が証明、日本は米国の過去の過ちを繰り返すべきではない

    まとめ
    • トランプ政権の移民政策が2025年7月4日の雇用統計で、米国内生まれの労働者数を150万人増やし過去最高に押し上げ、外国生まれの労働者(特に不法移民)を100万人減らした。
    • 2019年以降のトレンドが2025年に逆転し、雇用が米国人に戻った歴史的変化が確認される。
    • 不法移民減少による正規雇用の拡大が賃金上昇や経済安定に寄与し、国民の期待を高めている。
    • 長期的な影響には労働不足やインフレリスクがあり、2025年以降のデータで判断が必要とされるが、米国人労働者が増えたことは社会を立て直すための大きな勝利だ。
    • 日本は過去の米国のような移民政策の失敗を避け、独自の道を模索すべき。
    2025年7月4日、最新米国雇用統計が公表された。トランプ政権の移民政策が、米国内生まれの労働者(ネイティブボーン・ワーカー)を過去最高に押し上げ、外国生まれの労働者(特に不法移民)を一気に叩き落としたのだ。この大胆な変化は、以下グラフを見れば明らかだ。

    クリックすると拡大します

    トランプは2025年1月の再就任後、不法移民の取り締まりを鉄腕で進め、移民法をガッチリ固めた。さらに、米国生まれの労働者や正規就労者を最優先する経済戦略を打ち出し、雇用市場を根底から揺さぶった。この一連の動きが雇用統計に火をつけ、米国の労働力を新生させた。
     
    雇用が米国人に帰ってきた!データが物語る力 


    まず飛び込むのは、米国内生まれの労働者数の大躍進だ。トランプ就任後、150万人もの増加を記録し、過去最高に達した。グラフの緑の線がその勢いを雄弁に語る。2025年に入り急上昇し、国内労働力が息を吹き返した証拠だ。正規の仕事が米国人に流れ込み、経済が息づき始めた。この変化は数字以上の意味を持ち、国の未来を支える力を呼び覚ました。
     
    対して、外国生まれの労働者数は100万人も減った。グラフの紫の線がその急落をはっきり示す。2019年以降増え続けた不法移民が、2020年代後半に一気に後退。トランプの強硬策と不法就労の取り締まりが効を奏した。特に2025年の落ち込みは、彼の意志が貫かれた証だ。
     
    グラフを深掘りすれば、緑の線は2000年代初頭から2025年までの流れを描き、外国生まれの労働者が増える中、米国生まれの労働者が停滞していた時代を映し出す。だが2025年、その流れが大逆転。紫の線のバーグラフがそれを裏付け、緑のバーが跳ね上がり、赤のバーが沈む瞬間が続く。雇用が米国人に戻った歴史的瞬間だ。
     
    この成果は、正規雇用の爆発的拡大に表れる。不法移民が減った分、企業が米国生まれの労働者を積極採用し、賃金上昇や労働条件の向上が見えてきた。雇用統計の好転は経済の安定や消費力アップに直結し、ポストのコメント欄で「正規雇用が増えれば賃金が上がる」との声が上がる。政治的にもトランプ支持の声が炸裂し、日本との比較が議論を熱くしている。
     
    未来への道と日本の教訓 

    だが、ここで油断は禁物だ。短期の勝利は大きいが、長期の見通しは不透明だ。アメリカ生まれの労働者の増加が続けば、労働力の安定や国内産業の息吹が期待できる。だが、労働供給の減少が企業の人手不足や生産性低下を招く恐れもある。不法移民の減りが農業や建設でコスト高やサービス低下を引き起こすリスクも捨てきれない。他の経済指標とも絡む。失業率は今低いものの、労働需給が崩れれば賃金インフレや失業率上昇が待っているかもしれない。米国移民データベースによると、不法移民追放がGDP成長を最大7%落とす恐れもある。インフレも頭を悩ませ、2025年以降のデータが勝負を分ける。


    ここで日本の移民政策に目を転じる。労働力不足を補うため外国人を増やしてきたが、支援不足や言語教育の弱さで失敗の危険が高い。MPI(移民政策研究所)の記事によれば、米国の国内優先策が示唆する道は参考になる。だが、日本が同じ轍を踏む必要はない。日本が過去の米国のように不法移民を放置し結果として、低賃金層の賃金を抑えるようなことがあってはならない。それに何も増して、移民の増加は社会不安につながることを忘れてはならない。米国も含めて、世界で移民の受け入れに成功した国はない。
     
     米国人労働者の復活を讃えよう

    先には、米国生まれの労働者数と、外国人労働者数に焦点を当ててきたが、雇用統計全体ではどのようなことが言えるか振り返っておこう。

    NFPは非農業部門雇用者数

    失業率は2023年の高さ(約4.4%)から2025年6月に4.1%まで低下し、トランプ政権の政策が雇用に影響を与えた可能性がある。非農業部門雇用者数(NFP)は2024年以降回復し、2025年6月に14.7万人増。労働参加率は図に明示がないが、失業率低下と連動。賃金は年率4.3%上昇。移民政策が雇用を増やした一方、労働力減少や業界課題が残る。さらなるデータで検証が必要だ。

    結論だ。この雇用統計のネガティブな部分にだけ注目すべきではない。米国人労働者が増えたのは、それまで失業していた人々が雇用されたということだ。それは社会を立て直すための大きなな勝利であり、トランプの政策が点けた希望の光だ。見過ごされていた国内労働者の力を引き出し、経済に再び力を与えた意義は計り知れない。米国は労働市場の健全性を取り戻しつつある。日本は、米国の過去の過ちを繰り返すべきではない。

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    2025年7月4日金曜日

    米国陸軍急増、日本自衛隊危機:国を守る誇りと軍事力の真実

     まとめ

    • 米国陸軍の志願者急増: 2026会計年度の募集目標61,000人を2025年6月に達成。トランプ政権の「強いアメリカ」政策とDEI政策撤回が寄与。
    • 日本の自衛隊の危機: 2023年度の新規採用は目標の51%(9,959人)。少子高齢化、民間企業との競争、ハラスメント問題が原因。
    • 日本に敬意不足: 2015年Gallup調査で「国を守るために戦う」日本人は11%、米国は44%。平和憲法が影響か。
    • 軍事力の必要性: 軍事力なく独立は維持できない。米国独立宣言やインドの例が証明。軍を持たない国は他国に依存。
    • 日本の課題と解決策: 給与改善、AI導入、国民の意識改革が必要。保守の誇りを取り戻し、自衛隊を日本の魂にすべき。
     米陸軍では志願者が急増

    米国陸軍の志願者が急増し、日本の自衛隊が定員割れに喘ぐ。なぜこの差が生まれるのか。米国は「強いアメリカ」を掲げ、軍を誇りに変えた。日本は国を守る者への敬意が薄く、若者の心を掴めない。軍事力なくして国家の独立はない。

    米国陸軍の志願者急増と日本の危機

    米国陸軍は2026会計年度(2025年10月1日開始)の募集目標61,000人を2025年6月初旬に達成した。締め切りより4か月早く、2014年以来11年ぶりの快挙だ。前年度の目標55,000人を上回り、6,000人増の目標を軽々とクリアした。トランプ政権の「強いアメリカ」「力による平和」のスローガンが若者を鼓舞し、前政権の多様性・公平性・包括性(DEI)政策の撤回が軍の規律を高めたとされる(参照:Japan Strategic Research Forum)。募集効率化や就職難も後押しした(参照:Military.comFox Business)。


    対して、日本の自衛隊は危機に瀕している。2023年度の新規採用は目標19,598人に対し9,959人、達成率51%で過去最低だ(参照:Nippon.com)。2022年度の総人員は228,000人で、目標247,000人に19,000人足りない(参照:The Asahi Shimbun)。少子高齢化で若者が減り、民間企業との競争、ハラスメント問題、過酷な勤務条件が若者を遠ざける(参照:The Japan TimesThe Japan News)。2025年度予算で給与や住宅改善に409.7億円を投じるが、効果は乏しい(参照:The Japan TimesIndo-Pacific Defense Forum)。

    日本の敬意不足と軍事力の必要性

    日本は国を守る者への敬意を失っている。2015年のGallup調査で、「国を守るために戦う」と答えた日本人はわずか11%。米国は44%、世界平均は61%だ(参照:Japan Today)。憲法第9条の平和主義が軍事への抵抗感を生み、2019年のKyodo調査で56%が自衛隊の憲法明記に反対した(参照:The Japan Times)。米国では軍人が敬われ、2022年のRAND調査で61%が若者に軍務を勧めると答えた(参照:RAND)。以下は、2021年の調査。


    軍事力なくして独立はない。米国の独立宣言は自由を守る軍事力を求める(参照:Declaration of Independence)。インドは1947年の独立後、軍で領土を統合した。軍を持たないアイスランドやコスタリカはNATOや米国に依存する(参照:Wikipedia)。ポーランドやウクライナは軍事力不足で侵略を受けた(参照:BBC)。自国軍か同盟国か、軍事力は国家の命綱だ。

    日本が目指す未来と結論

    日本は自衛隊を立て直さなければならない。給与と住宅を改善し、退職後の支援を強化する。2025年度予算の409.7億円はその一歩だ。災害救助や国際協力を通じ、自衛隊の役割を国民に伝え、ハラスメントを根絶する。AIや自動化で若者を引きつけ、学校や地域で自衛隊の意義を訴える(参照:Reuters)。だが、核心は国を守る者への敬意だ。米国のように、軍人を誇れる存在に変える必要がある。

    大統領選でのトランプ氏

    米国は「強いアメリカ」で志願者を増やした。日本は定員割れと敬意不足に沈む。歴史は軍事力なくして独立はないと告げる。日本よ、目を覚ませ。平和ボケを脱し、国を守る誇りを若者に植え付けろ。自衛隊を日本の魂の柱に据え、祖国の歴史と伝統を背負う気概を取り戻せ。それが日本を真に独立した強い国にする道だ。

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    2025年7月3日木曜日

    トランプ関税30~35%の衝撃:日本経済と参院選で自民党を襲う危機

    まとめ

    • トランプの関税引き上げ脅威:2025年4月に24%の「相互関税」を提案、7月9日までに合意がない場合30~35%に引き上げ。日本の貿易黒字(約8兆円)、農産物輸入制限、消費税への不満が背景。
    • 経済的影響:GDP成長率0.8%低下、自動車・鉄鋼産業に打撃。消費者物価上昇や失業増が予想され、6.3兆円の経済対策も長期化には不十分。
    • 参院選への影響:7月20日の参院選で自民党に逆風。少数与党で支持率低迷、交渉力不足が批判され、野党が攻勢。地方や農村部の支持離反リスク大。
    • 日本の姿勢と複雑化:EUと対照的に防衛費増に消極的、トランプの要求(3.5%)に及ばず。中国との経済協力(RCEPなど)が交渉を難航させ、不信感増幅。
    • 結論:関税発動なら自民党の議席減少確実。交渉成功や他の争点で逆風緩和の可能性もわずかにあるが、経済・外交への不信感が危機を高める。
    ドナルド・トランプ米大統領が2025年に日本へ突きつけた30~35%の関税引き上げの脅威は、日本経済を揺さぶり、7月20日の参院選で自民党に強烈な逆風を吹かせる可能性がある。日本の現政権がEUと比べて防衛費増に消極的で、中国との経済協力を優先する姿勢が、トランプの不満を増幅し、交渉をさらに難しくしている。この問題は、単なる経済の話ではない。国民の生活と自民党の政治的命運を左右する火種だ。以下、関税問題の背景、経済と国民生活への影響、政治的波及効果を分析し、参院選への影響を明らかにする。


    関税問題の背景とトランプの狙い

    トランプ大統領は2025年4月、米国の貿易赤字を是正し、国内製造業を守るため「解放の日」に24%の「相互関税」を日本を含む主要貿易相手国に突きつけた。7月9日までに日米貿易協定がまとまらなければ、関税を30~35%に引き上げるという。日本との貿易黒字は約8兆円。トランプは日本の農産物、特に米の輸入制限や、消費税を「関税」とみなす主張で圧力を強める。自動車(すでに25%の関税)、鉄鋼・アルミニウム(50%)が主な標的だが、スマートフォンや半導体は現時点で除外されている。国際緊急経済権限法を盾に、トランプは貿易赤字を「国家緊急事態」と位置づけ、関税を交渉の武器とする。


    地政学的な背景も見逃せない。トランプは貿易と安全保障を絡め、日本に米軍駐留経費の増額や米国製兵器の購入を要求。さらに、日本の対中経済協力、例えばRCEPや日中韓FTAの推進を「中国寄り」とみなし、牽制する意図がある。EU諸国がNATOを通じて防衛費をGDP比2%以上に引き上げ、米国製兵器購入を積極化する一方、日本の防衛費は2023年度でGDP比1.3%にとどまる。2027年までに2%を目指す計画も、トランプの要求する3.5%には遠く及ばない。この消極姿勢が交渉を複雑化させ、トランプの不満を煽っている。

    経済と国民生活への打撃

    石破首相と面会し、自動車産業支援を申し出る湯崎広島県知事

    関税30~35%が発動されれば、日本経済は深刻な打撃を受ける。日本銀行は2025年の経済成長率予測を0.5%に下方修正し、関税の影響を見越して金利引き上げを見送った。石破茂首相はこれを「国家危機」と呼び、特に自動車産業など輸出依存型の経済への影響を懸念する。経済分析では、関税によりGDP成長率が0.8%低下し、企業収益の悪化、消費者物価の上昇、失業率の上昇が予想される(ブルッキングス研究所)。政府は6.3兆円の経済対策を打ち出し、中小企業支援や消費者保護を強化したが、関税が長期化すれば効果は限定的だ。特に地方経済や中小企業は影響を受けやすく、失業や収入減が国民生活を直撃する。

    国民の不満はすでに高まっている。Xでは、トランプの関税を「脅迫」と非難する声や、消費税廃止を求める意見が飛び交う。しかし、日本のメディアは詳細な分析を怠り、芸能ニュースに埋もれがちだ。国民の関心が低いまま、経済的打撃が現実化すれば、自民党への怒りが一気に噴出するだろう。

    参院選への政治的影響と自民党の危機

    関税問題は、7月20日の参院選で自民党に強烈な逆風を吹かせる。自民党は2024年の衆院選で過半数を失い、少数与党として脆弱な立場にある。世論調査では、経済政策への不信感や民主主義への不満が広がり、石破首相の支持率は低迷している(ピュー研究所)。関税30~35%が発動されれば、政府の交渉力不足や外交失敗として批判が集中し、立憲民主党や日本維新の会がこれを攻撃材料に支持層を広げるだろう。特に、7月9日の関税期限が参院選直前であるため、国民の関心が高まり、経済的打撃が投票行動に直結する可能性が高い。

    日本の選挙史を見ると、経済問題は与党の命取りだ。2009年の衆院選では、経済危機が自民党の政権交代を招いた。2024年の衆院選でも、経済政策への不満が野党支持を増やし、自民党は議席を失った(IISS)。関税による打撃は、地方有権者や農村部の支持基盤を直撃し、農業保護や物価上昇への懸念から離反が加速するだろう。日本の防衛費増への消極姿勢や中国寄りの経済協力が、トランプとの交渉を難航させ、国民の目には政府の弱腰外交として映る。これが自民党への不信感をさらに煽る。


    ただし、逆風には限界もある。7月9日までに交渉が成功し、関税引き上げが回避されれば、石破首相の外交手腕が評価され、支持率が回復する可能性がある(CNN)。また、参院選で憲法改正や社会保障、防衛政策が関税問題を上回れば、自民党は影響を抑えられるかもしれない。しかし、トランプの強硬姿勢、日本の農業保護方針、防衛費増への消極姿勢、中国との経済協力による地政学的緊張が交渉を難しくしている。政府は生産拠点の多角化や国内経済強化を模索するが、インフレに苦しむ日本経済では報復関税は現実的ではない。国際的には、中国(最大145%の関税)、カナダ、メキシコ、EUも標的となり、貿易戦争のリスクが高まる。

    関税30~35%が発動されれば、参院選での自民党への逆風は避けられない。経済的打撃と国民の不満が選挙結果に直結し、野党の攻勢で自民党の議席減少が予想される。日本の防衛費増への消極姿勢や中国寄りの経済協力が、トランプの不満を煽り、交渉を複雑化させる。歴史的傾向、現在の政治的脆弱性、選挙直前のタイミングを考えれば、支持率低下は確実だ。ただし、交渉成功や他の争点が浮上すれば、逆風は和らぐ可能性もある。しかし現時点では、経済と外交の失敗への国民の不信感が、自民党にとって最大の危機となる。

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