2025年4月17日木曜日

映画「鹿の国」が異例の大ヒットになったのはなぜ?鹿の瞳の奥から感じること、日本でも静かに広がる土着信仰への回帰も影響か―【私の論評】日本の霊性が世界を魅了:天皇、鹿、式年遷宮が示す魂の響き

映画「鹿の国」が異例の大ヒットになったのはなぜ?鹿の瞳の奥から感じること、日本でも静かに広がる土着信仰への回帰も影響か

まとめ
  • 鹿への焦点: 監督・弘理子は諏訪の神事撮影から鹿にこだわり、4年間の制作で鹿の目線で自然と命の循環を捉えた。
  • 諏訪信仰と鹿: 鹿は諏訪信仰の神事に不可欠で、「御頭祭」では鹿の生首が供物として捧げられ、歴史的に重要な役割を果たす。
  • 自然と四季の表現: スローモーションやコマ送り映像、静かなナレーションで、鹿を通じて四季の移ろいと命の躍動・儚さを描く。
  • ヒットと観客の反応: 全国45館で上映、観客2万5000人超を記録。若者を中心に口コミで広がり、諏訪の人々の神への親しみが共感を呼ぶ。
  • 土着信仰の回帰: 明治以降の西洋化で断絶した日本人の自然や「見えない何か」への信仰が、現代で再び求められている。

 映画「鹿の国」は、鹿の深い瞳と中世の神事を再現した少年たちの美しい映像が心に残るドキュメンタリー作品。劇場を後にすると、鹿とともに森を歩いたような爽快さと余韻を感じる。監督の弘理子(ひろりこ)は、長野県諏訪の神事撮影から始まり、4年にわたる制作過程で鹿へのこだわりを強めていった。

 当初は神事を記録するだけだったが、現代的な要素が「神」や「見えないもの」の気配を薄め、単なる神事の羅列では作品として物足りないと感じた。そこで、野生動物撮影の経験豊富なカメラマン毛利立夫らと組み、獣道をたどり鹿を追う撮影にシフト。諏訪信仰の研究者北村皆雄も、弘の鹿への強い執着に驚いたと振り返る。

 諏訪信仰では、鹿は神事に不可欠で、「年内神事次第旧記」に「鹿なくてハ御神事ハすべからず」と記される。毎年4月15日の「御頭祭」では、豊作を祈り鹿の生首が供物として捧げられてきた。弘は、人間や儀礼中心の民俗学的な視点ではなく、自然と風土を優先。鹿の目線で四季の移ろいを捉え、命の循環や「素の命」を表現した。毛利のスローモーション映像や明石太郎の稲の芽吹きのコマ送り映像、静かなナレーションが、命の躍動と儚さを伝え、雪の舞うような詩的な雰囲気を醸し出す。

 2025年正月に東京と長野で公開された本作は、全国45館に上映が拡大し、4月3日時点で観客2万5000人超、公式ガイドブックは1万部近くを記録する異例のヒット。ドキュメンタリー映画館では、民俗学を学ぶシニアや学者に加え、若者が口コミで集まり、大きな支持を得ている。諏訪の人々のゆったりとした表情や、神への親しみが漂う佇まい、桜の古木での祈りや猟師の伝統的な行為が、観客に「ああ、日本人はいいな」と感じさせる。

弘は、自然の循環や「見えない何か」への信仰が、かつては不思議な現象として人々を惹きつけ、現代でもその感覚が求められていると指摘。明治以降の西洋化で断絶した土着信仰への回帰が、個々の心で広がっていると分析する。鹿は、こうした日本人の足元にある「何か」を体現する存在として、作品の核心を成している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の霊性が世界を魅了:天皇、鹿、式年遷宮が示す魂の響き

まとめ
  • 日本の霊性の根源: アニミズムとシャーマニズムに根ざし、自然と「見えない何か」に敬意を払う文化。天皇は神々の子孫として調和の精神を象徴し、霊性の基盤を成す。
  • 諏訪信仰と鹿の象徴性: 鹿は神と人を結ぶ神聖な存在で、「鹿の国」はその視点で命の輝きと自然への感謝を描き、2万5000人以上が共感した。
  • 伊勢神宮と祭りの霊性: 式年遷宮は天皇の祈りと自然の再生を体現。桜の花見や祇園祭は、アニミズムとシャーマニズムが日常に息づく場。
  • 思想家の視点: マルロー、ユング、鈴木大拙が日本の霊性を称賛。宗教の時代から霊性の時代への移行を予見し、自然との対話が普遍的価値と響く。
  • 現代の意義: 物質主義を超え、伝統文化が心の救いとなる。神田祭や御頭祭で若者が霊性を感じ、現代社会で日本の霊性の響きが増す。
供物として捧げられた鹿の生首

映画「鹿の国」の鹿は、ただの動物ではない。日本の霊性を体現する存在だ。日本の霊性は、自然のあらゆるものに魂を見出し、人の心と深く共鳴するアニミズムとシャーマニズムに根ざす。アニミズムは、山や川、木や動物に神聖な力があると信じる思想で、日本では八百万の神々として息づく。シャーマニズムは、巫女や祈祷師が神や霊と交信し、自然や祖先の力を借りて人々を導く実践だ。日本の神事や祭りでは、神を降ろす儀式にその片鱗が見える。この二つが絡み合い、堅苦しい教義や儀式を超えて、自然との一体感や「見えない何か」への畏敬を生み出す。

フランスの作家アンドレ・マルローは、日本の霊性を「天皇を原点とする神聖な調和の精神」と呼び、その独自性を讃えた。2025年2月16日の本ブログ記事では、マルローが「天皇は、自然と民を結ぶ神聖な糸であり、日本の霊性を形作る」と語ったと伝える。天皇は、神々の子孫として自然の秩序を体現し、霊性の礎だ。諏訪信仰では、鹿が神と人を結ぶ神聖な存在として中心に立つ。「年内神事次第旧記」に「鹿なくてハ御神事ハすべからず」とあるように、鹿は欠かせない。4月15日の「御頭祭」では、かつて75頭の鹿の生首が豊作を祈って捧げられ、今は3頭に減ったが、その伝統は生きている。厳冬の「御室神事」では、少年が神域に籠もり鹿を捧げる。そこには、シャーマニズムの神降ろしの息吹が感じられる。

映画「鹿の国」は、鹿の視点で四季の移ろいと命の輝きを切り取り、自然への感謝を現代に響かせる。全国45館で上映され、2万5000人以上が観賞したこの作品は、観客の心を掴んだ。Xの投稿では、諏訪の神事の美と神秘に感動し、600年前に途絶えた神事の再現が素晴らしいと評価される。別の投稿は、映画が日本の信仰と芸能の原点を描き、自然の豊かさに心打たれると語る。現代日本人が自然との絆を渇望している証だ。

式年遷宮

伊勢神宮の式年遷宮は、霊性の結晶だ。20年ごとに社殿を建て替え、神々を遷す儀式は、1300年以上続く。2013年の第62回式年遷宮では、天皇が祈りを捧げ、伝統技法で社殿を再建。神域の森から伐った木材には感謝の祈りが込められ、アニミズムの敬意とシャーマニズムの対話が融合する。単なるメンテナンスではないのだ。1400万人が参拝し(伊勢神宮公式発表)、天皇の祈りに心を寄せた。

日常にも霊性は息づく。桜の花見は、命の儚さを愛でる平安時代からの風習で、2023年の上野公園には400万人が集まった(東京都発表)。京都の祇園祭や秋田の竿燈まつりは、自然と絆を結ぶ。祇園祭では神霊を迎えるシャーマニズムの儀式があり、山鉾巡行はユネスコ無形文化遺産だ。2024年には120万人が訪れた(京都市観光協会)。これらの祭りは、天皇の調和の精神を背景に、アニミズムとシャーマニズムが織りなす。

天皇は、日本の霊性の礎だ。『日本書紀』では、天照大神の子孫として、稲作や自然の恵みを守る祭司とされる。今も新嘗祭で天皇は米を神に捧げ、シャーマニズムの神との対話で国民の安寧を祈る。2019年の即位礼正殿の儀では、令和の天皇の祈りが世界を魅了し、BBCが「天皇の神聖な役割は日本の精神文化の基盤」と報じた。諏訪信仰の鹿は、天皇の調和の精神と響き合い、アニミズムの敬意とシャーマニズムの媒介として「見えない何か」を届ける。鹿は、天皇の祈りと共に、霊的な力を放つ。

日本人自身の声も響く。禅の研究者・鈴木大拙は、霊性を「自然と人間の無我の合一」と定義し、禅を通じて世界に示した。茶道や俳句にアニミズムの霊性が宿り、自然との対話が精神を形作ると説く。『禅と日本文化』(1938年)では、侘び寂びが自然の無常を愛で、金閣寺の庭園で「静寂の中で自然と一体になる感覚」を描いた。シャーマニズムについては、禅僧の瞑想が宇宙の真理と交信する行為を霊性の深さと評価。鈴木の視点は、諏訪の鹿や伊勢の式年遷宮に通じ、アニミズムとシャーマニズムが日常から神聖な場まで貫く。

マルローと心理学者カール・ユングは、「宗教の時代は終わり、霊性の時代が来る」と予言した。マルローは、宗教の形骸化を断じ、芸術や精神性に真の意味を見た。龍安寺の枯山水でアニミズムの調和を感じ、霊性が内省を促すと記した。ユングは、集合的無意識で個と普遍が結びつき、霊性の時代が生まれると説く。2025年1月18日の本ブログ記事では、日本の神話が深層心理に根ざし、ユングが伊勢神宮で感じた「神聖な静けさ」がシャーマニズムの対話を示すと述べる。鈴木大拙も、禅の「無」が霊性の時代に通じ、アニミズムとシャーマニズムの融合が日本の精神性を輝かせると予見した。日本の霊性は、これらの声と響き合い、天皇を原点とする自然との対話で、霊性の時代を体現する。

鈴木大拙:ZENを世界に広めた仏教哲学者

諏訪信仰の鹿は、霊性の象徴だ。ユングの集合的無意識のシンボルとして、個と人類の精神を結ぶ。諏訪大社の神事では、鹿の角や毛の変化がアニミズムの神の顕現とされ、シャーマニズムの神降ろしで人々は神聖な命を感じる。古老が「鹿の目を見ると、山の神が宿る」と語った(諏訪大社公式ガイドブック)。マルローの美意識、鈴木の侘び寂びは、鹿の眼差しに宿る。映画「鹿の国」のスローモーション映像は、鹿の動きを詩的に捉え、命の儚さを刻む。

現代は、経済や技術が支配するが、物質では心は満たされない。2014年1月18日の本ブログ記事では、伝統文化が精神の救いとなると説いた。過労や孤立に悩む人が祭りで安らぎを得る例を挙げ、2024年の神田祭では30万人が神輿を担ぎ、シャーマニズムの神霊を感じた(神田神社報告)。諏訪の御頭祭では、若者が増え、「神を感じる瞬間」を共有する(地元メディア)。

日本の霊性は、マルロー、ユング、鈴木大拙の予見と共鳴する。諏訪の鹿は、自然と神、命と人を結び、失われた一体感を呼び戻す。映画「鹿の国」は、鹿の眼差しで命の尊さを伝え、観客の心を揺さぶる。上映後のトークで、20代の若者が「鹿の映像で子どもの頃の森の感覚が蘇った」と語った。伊勢の式年遷宮では、2013年に高校生が「新社殿の清らかさに心が洗われた」と述べ(朝日新聞2013年10月報道)、天皇の祈りが若者を動かした。

桜の花見、祇園祭、諏訪の神事は、天皇の調和の精神を背景に、アニミズムとシャーマニズムが人々の心に根付く。マルロー、ユング、鈴木大拙が予見した霊性の時代が今、始まる。日本の霊性は、物質主義や分断を突き抜け、世界に深い示唆を与える。天皇の祈り、鹿の眼差し、伊勢の神聖な森。それらは、自然と向き合い、心の奥を探る力を与える。その響きは、現代社会でますます強くなる。

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2025年4月16日水曜日

ママ友に「今年度から高校授業料無償化でうれしいね」と話したら、「それ、他の人に言わないほうがいいよ」と返答が! なにか悪いことを言ってしまったの?“気を付けるべき理由”を解説―【私の論評】高校授業料無償化の隠れた危機:中国人留学生急増と教育の未来

 ママ友に「今年度から高校授業料無償化でうれしいね」と話したら、「それ、他の人に言わないほうがいいよ」と返答が! なにか悪いことを言ってしまったの?“気を付けるべき理由”を解説

まとめ

  • 高校授業料無償化の概要と変更点:2026年度から所得制限を撤廃し私立高校の支援上限を45万7000円に引き上げ。2025年度は先行して全世帯に11万8000円支給。現在の支援制度では、公立11万8000円、私立全日制39万6000円などを年収910万円以下(4人家族目安)などに支給。
  • 高年収世帯への影響と注意点:2025年度の制度拡大で年収910万円超の高年収世帯が新たに対象に。制度に詳しい人に支給開始を話すと高年収と推測される可能性があり、話題選びには慎重さが求められる。
  • 公立離れの懸念:大阪府で無償化に伴い公立高校の出願率が1.14倍から1.01倍に低下、定員割れ校が13校から35校に増加。「公立離れ」が懸念され、教育の質確保が課題。

  • 写真は、テレビドラマ「対岸の家事」より ママ友には言ってはいけいないこともある? 

    2026年度から高校授業料の無償化が実施される。2025年度にはその前段階として所得制限が撤廃され、公立・私立を問わずすべての世帯に11万8000円が支給される。2026年度には私立高校の支援上限額が現在の39万6000円から45万7000円に引き上げられる。現在の支援制度では、公立高校に通う生徒には年間11万8000円、私立全日制には39万6000円、私立通信制には29万7000円、国公立高等専門学校には23万4600円が支給される。

    受給資格は保護者の所得により制限がある。4人家族(両親の一方が働く場合)を目安に、年収910万円以下で11万8000円、年収590万円以下で39万6000円が支給される。支援金は直接家庭に支払われるのではなく、学校の授業料と相殺される仕組みである。

    あなたが仮に新たに高校無償化の恩恵について周囲に話すと、所得制限の撤廃により今まではもらえなかった高年収の世帯であることを察する人がいるかもしれない。これを理解して話題選びに気をつけるべき。

    この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい人は、元記事をご覧になってください。

    【私の論評】高校授業料無償化の隠れた危機:中国人留学生急増と教育の未来

    まとめ
    • 中国人高校留学生の急増:少子化による私立高校の定員割れと無償化(2025年度開始、2026年度支援上限45万7000円)で、中国人留学生が増加。米国での290%増加(2010-2015年)や宮崎県の学校(在校生9割が中国人)の例から、大量受け入れが懸念される。
    • 安全保障リスク:中国の「国防動員法」やJAXAサイバー攻撃(2023年)、フィリピンのスパイ懸念(2024年)、カナダのビザ拒否(2024年)から、留学生の大量受け入れは技術流出やスパイ活動の危機を招く。
    • 教育の質と地域社会への影響:留学生の日本語力不足で授業の質が低下し、教員の多文化教育研修不足(OECD、2023年)が問題。福岡県の学校(2024年)では住民が地域の教育変化を不安視。
    • 教育格差と財政負担:無償化は私立校進学を促すが、進学校と定員割れ校の格差が拡大(文部科学省、2023年)。年間3000億円の追加予算(財務省、2024年)が必要で、増税は家計を圧迫するが、経済成長で賄える可能性がある(OECD、2023年)。
    • 不登校対応の不足:不登校生徒34万6000人(文部科学省、2023年)への対応が不十分で、北海道の私立校(2024年)では支援不足が批判される。日本の教育は今、岐路に立つ。対策を怠れば、未来の世代にツケを回すだけだ。
    高校授業料無償化に伴う問題点として、元の記事では「高年収世帯への誤解」と「公立離れ」が指摘されているが、私立高校における定員割れ校への中国人高校留学生の増加やその他の問題点も重要な懸念として浮上している。
    中国人高校留学生の急増が突きつける危機
    日本の少子化は私立高校を直撃している。生徒数が減り、定員割れが続出だ。2025年度の高校授業料無償化は、こうした学校に一筋の光をもたらす。授業料負担が減り、円安(2025年3月、1ドル=約150円)で日本留学が割安となり、中国人高校留学生の受け入れが急増する可能性がある。

    日本の18歳人口は1990年の約200万人から2025年には約110万、2040年には88万人まで落ち込む(文部科学省、2024年)。大阪府では2025年度、公立高校35校が定員割れだ(元の記事)。文部科学省の2023年データでは、外国人留学生の4割が中国出身である。宮崎県の日章学園九州国際高等学校は在校生の9割が中国人留学生で、無償化とビザ緩和を追い風に受け入れを拡大している。

    日章学園九州国際高校の在学生の9割が中国人留学生

    福岡県の私立高校は2024年度、中国の教育機関と組み、100人の留学生を呼び込んだ。学校は「授業料収入で校舎を改修できた」と胸を張るが、地元住民は「地域の教育が変わる」と不安を口にする(朝日新聞、2024年10月)。別の地方の私立高校では、中国人向け日本語コースを設けたが、教員の負担が重く、日本語が不十分な生徒で授業が滞る(日本経済新聞、2025年2月)。教員は「文化や言葉の壁に対応しきれていない」と吐露する。

    この動きは学校の存続を支えるが、深刻な問題を突きつける。留学生の日本語力不足に対応できる教員が少なく、授業の質が落ちる危険がある。OECDの2023年報告では、日本の高校教員の多文化教育研修受講率はOECD平均を下回る。地元生徒や保護者からは「学校の伝統が失われる」との声が上がる。地方の小さな学校は地域との絆が強いだけに、こうした変化は衝突を生む。南華早報(2024年4月)は、フィリピンで中国人留学生の急増が地域社会の懸念を引き起こしたと報じ、類似のリスクが日本でも顕在化しつつある。

    今後、無償化がさらに進み、2026年度に私立高校の授業料支援上限が45万7000円へ引き上げられれば、経済的魅力が高まり、中国人高校留学生の大量受け入れが加速する。米国では2010年から2015年に中国人K-12留学生が8857人から3万4578人に290%増加した(米国国土安全保障省、2015年)。日本でも同様の急増が起きれば、定員割れ校は留学生に依存する構造が強まる。

    だが、これは安全保障上の危機でもある。中国の「国防動員法」(2010年施行)では、有事の際に海外在住の中国国民が動員対象となり得る。カナダの連邦裁判所は2024年、中国人学生がスパイ行為に圧力を受ける可能性を理由にビザを拒否し、大学が「非伝統的スパイ活動」の場となり得ると警告した(CBCニュース、2024年1月)。

    フィリピンでは2024年、カガヤン州で4600人の中国人留学生の急増が「スパイの潜入」懸念を呼び、情報機関が調査を開始した(South China Morning Post、2024年4月)。日本でも、技術流出やスパイ活動のリスクが高まる。2023年に元中国人留学生が日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)へのサイバー攻撃に関与した事件が報じられ(朝日新聞、2023年6月)、留学生が大学や企業に進むと機密情報へのアクセスが増え、国家安全保障が脅かされる。
    教育格差と財政の重圧
    無償化は私立高校への進学を後押しするが、質の高い私立校と定員割れ校の格差を広げる。文部科学省の2023年調査によれば、進学校の大学進学率は8割を超えるが、定員割れ校は3割未満だ。大阪府の保護者は「無償化で私立が選びやすくなったが、定員割れ校は進学実績がなく、子どもの将来が不安だ」と語る(毎日新聞、2025年1月)。

    都市部の名門私立校は入試競争が過熱し、低所得層の生徒は門前払いだ。財政負担も重い。財務省の試算では、2026年度の無償化完全実施に年間3000億円の追加予算が必要だ(2024年報告)。留学生の増加で支給対象者が増え、財政はさらに圧迫される。ある地方自治体は、無償化の財源確保のため、公民館の学習支援事業を縮小した(読売新聞、2025年3月)。

    実は日本の財政赤字は他国よりはるかに軽い。2024年の財政赤字はGDP比2.3%で、米国の7.6%の3分の1だ(財務省、2024年)。G7ではカナダがGDP比3.6%(2022年、IMF)と最も低く、日本は2番目に健全だ。EUでは、政府と中央銀行を合わせた統合ベースで財政を評価し、債務の持続性や金融システムの安定性を測る。日本の統合ベースでは、2019年頃にすでに黒字化している(IMF財政モニター、2018年)。

    だが、日本は新政策の財源確保に増税を頼りがちだ。消費税は1989年の3%から2019年には10%に上がり、教育や社会保障に充てられた(財務省、2024年)。無償化のコスト増で消費税のさらなる引き上げや新税が議論されるかもしれない。だが、増税は家計を圧迫し、無償化の恩恵を帳消しにする。

    恒久財源を建前に増税を目論む財務省に抗議の声があがったが・・・・・

    恒久財源という財源を先の先まで確保する考えに、経済学者は異議を唱える。OECDの2023年報告では、カナダやニュージーランドのように短期的な赤字を許容し、経済成長で税収を増やす国では、教育投資が大きな成果を上げる。日本の実質GDP成長率は2024年で1.2%と低いが(IMF推計)、教育投資は人的資本を高め、成長を押し上げる。

    1990年代のスウェーデンは教育無償化を赤字国債で賄い、10年後に経済成長で財政を立て直した(OECD、2000年)。2020年のコロナ給付金では、10兆円の支出を赤字国債で賄ったが、2023年のインフレ率は3.1%にとどまる(日本銀行)。世界標準のマクロ経済学にもとづくある経済学者は「無償化が教育や労働生産性を高めれば、税収増で財源は賄える」と断言する(東京新聞、2025年2月)。増税に固執すれば、無償化の家計支援という目的が揺らぐ。
    不登校への対応不足と解決への道
    無償化は私立校への進学を促すが、不登校や特別なニーズを持つ生徒への対応が追いつかない。文部科学省の2023年データでは、不登校生徒は34万6000人に達し、11年連続で増加だ。私立校の多くは特別支援教育の体制が整わず、定員割れ校は特にリソースが乏しい。留学生の増加で教員の負担が増え、こうした生徒への対応は後回しだ。北海道の私立高校は不登校生徒の受け入れを掲げるが、カウンセラー不足で十分な支援ができず、保護者から「看板倒れだ」と批判された(北海道新聞、2024年12月)。

    不登校の高校生 イメージ画像

    無償化は教育の機会均等を掲げるが、課題は山積みだ。中国人留学生の急増は教育の質や地域社会との関係、財政に重い負担をかける。無償化の進展は留学生の大量受け入れを加速させ、安全保障の危機を招く。JAXAへのサイバー攻撃やフィリピンでのスパイ懸念は、日本が無防備であってはならないことを示す。

    カナダの裁判所の警告も、留学生がスパイ活動のリスクを孕む現実を突きつける。短期的な授業料収入は学校を救うが、質の低い私立校への依存は生徒の将来を縛る。財政面では、増税による財源確保が家計を苦しめ、無償化の意味を薄れさせる。しかし、経済成長による税収増を見据えれば、恒久財源へのこだわりは不要だ。

    不登校生徒や特別なニーズへの対応不足は、無償化の恩恵をすべての生徒に届ける壁となる。解決は急務だ。私立校の教育水準を厳しくチェックする。留学生を受け入れる学校は地域住民と対話し、特別支援教育を整える補助金を設ける。これらの対策で、無償化の理想を現実に近づけ、問題を最小限に抑える。

    日本の教育は今、崖っぷちに立っている。愚かな先送りと無責任な楽観で、子どもの未来を売り飛ばすのか。それとも、覚悟を持って立ち向かうのか。わが国の大人たちは、今こそ目を覚ますべきだ。

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    2025年4月15日火曜日

    高橋洋一氏 中国がわなにハマった 米相互関税90日間停止 日本は「高みの見物」がいい―【私の論評】トランプの関税戦略は天才か大胆不敵か? 中国との経済戦を読み解く

    高橋洋一氏 中国がわなにハマった 米相互関税90日間停止 日本は「高みの見物」がいい

    まとめ
    • トランプ関税の影響: トランプ大統領の対中関税(計145%)は、経済的に米国の中低所得者や製造業に負担を与え、輸出国に損失をもたらすが、政治的には中国との覇権争いの一環。中国のみ報復関税で対抗し、世界経済への影響は限定的。
    • 米中対立の展望: 中国は輸出依存経済のため関税で大きな打撃を受け、米国は関税収入を減税に活用し影響を軽減可能。米中対立は中国に不利とされる。
    • 日本の対応: 日本は米中対立で中立を保ち「高みの見物」が賢明。訪中は誤解を招く恐れがあるため避けるべき。

     トランプ米大統領は9日、「相互関税」の第2弾上乗せ分を90日間停止すると発表し、中国への関税を84%から125%に引き上げ、合成麻薬流入を理由とした20%と合わせ計145%とした。トランプ関税は経済的には米国の中低所得者や製造業に負担をかけ、輸出国に損失を与えるが、政治的には中国との覇権争いの一環で「中国たたき」の意図がある。

     中国のみ報復関税で対抗し、90日間高関税が続く状況に。世界経済への影響は、中国以外の国が従来の関税に戻れば限定的となり、中国は輸出依存の経済構造上、代替可能な汎用品の輸出減で大きな打撃を受ける。ここまでトランプ大統領が読んでいたのかどうかは分からない。トランプ大統領としては「してやったり」だろう。

     習近平国家主席はトランプ大統領のわなにハマったとも言える。米国は関税収入を減税に活用し経済的影響を軽減する可能性があり、米中対立は中国に不利とされる。日本は中立を保つ「高みの見物」が賢明で、訪中は誤解を招く恐れがあるため避けるべき。

     この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

    【私の論評】トランプの関税戦略は天才か大胆不敵か? 中国との経済戦を読み解く

    まとめ
    • トランプの戦略的関税政策: トランプは2016年選挙から「アメリカ・ファースト」を掲げ、中国の貿易不均衡に対抗するため関税を活用。2018-2019年の貿易交渉や2025年の高関税(125%)は、中国への圧力と内需拡大を狙った計算された一手だった。
    • 実業家経験の影響: 不動産やエンターテインメントで成功と失敗を経験したトランプは、短期の痛みを許しつつ製造業復活を追求。ビジネスでの大胆さと柔軟さが、関税の急な停止や高税率設定に反映された。
    • 真の狙いは内需拡大: 関税は中国を締め上げるだけでなく、米国の産業と雇用を強化する手段。2018年の鉄鋼関税で雇用回復、関税収入の減税構想で消費刺激を目指した。
    • 「3次元チェス」の評価: 関税は経済、外交、国内支持を同時に動かす戦略とされるが、計画性と即興性が混在。トランプの多層的な思考はビジネス経験に根ざすも、政治の複雑さで波紋を広げた。
    • 誤ったレッテルへの反論: トランプを狂人、無知、粗暴、ピエロと見るのは偏見。2016年選挙勝利、2019年米中合意、2018年北朝鮮会談など、戦略的成果が彼の計算を証明する。


    トランプ大統領は中国への関税政策をどこまで「読んでいた」のか。トランプの動きを追いかけると、戦略と直感が絡み合う姿が浮かぶ。2016年の大統領選から「アメリカ・ファースト」を掲げ、貿易赤字を減らし、製造業を立て直すと訴えた。中国に対しては、知的財産の盗用や不均衡な貿易を問題視し、関税を切り札に選んだ。選挙戦で「中国は米国を食い物にしている」と語り、45%の関税をちらつかせたのは、ただの勢いではない。中国に経済的な圧力をかける狙いがそこにあった。

    2018年から2019年の貿易交渉では、2500億ドル相当の中国製品に10~25%の関税をかけ、「関税は米国の力になる」と言い切った。側近のピーター・ナヴァロは、トランプが中国の影響力を抑える計画を進めていたと語る。関税は思いつきではない。戦略の一手だったのだ。とはいえ、側近の意見や外部の状況に影響された面もあった。

    トランプの背後には、実業家としての人生がある。実業家は短期の利益と長期の成長、企業全体と各部署のバランスを常に考える。失敗は倒産に直結する。トランプは不動産やエンターテインメントの世界で、この試練をくぐり抜けた。1980年代、トランプ・タワーを建てるとき、巨額の融資と市場の不確実性に挑み、ニューヨークの象徴を生み出した。だが、1990年代のカジノ事業では負債が膨らみ、危機に直面した。

    成功と失敗を知るトランプにとって、関税は短期の痛みを許しつつ、製造業の復活や中国への圧力という大きな目標を追う道具だった。政治家なら選挙や議会の空気を気にするが、トランプは実業家らしく、自分のビジョンを貫いた。関税の急な停止や高税率の設定には、ビジネスで培った大胆さと柔軟さが息づく。

    トランプ・タワー

    元記事が触れる「第2弾上乗せ分の90日間停止」と「中国への関税を84%から125%に引き上げ」は、トランプの戦略の一端だ。2025年3月、カナダやメキシコにも関税を打ち出したが、中国には麻薬流入を理由に125%の重い関税を課した。2期目の始まりで、強い姿勢を見せる必要があったのだ。

    2019年の米中交渉では、関税を遅らせて中国を動かし、「第1段階合意」にこぎつけた実績がある。90日間の停止は、交渉の余地を残す一手だった。トランプは物価の上昇が農家や消費者に響くことを承知していた。2025年3月の演説で「一時的な負担はあるが、農家は報われる」と語り、関税の収入を減税に回す考えを示した。経済への影響を和らげる工夫だ。

    90日間の停止は中国を揺さぶりつつ、国内の不満を抑える計算だった。125%の関税は麻薬問題を絡め、支持層にリーダーシップを印象づけた。ここには実業家の知恵がある。関税収入を減税に使うのは、まるでビジネスの利益を再投資する発想だ。全体と部分を調整する経営者の視点が生きている。

    トランプの真の狙いは、このブログでも過去に述べたように、米国の内需拡大にある。中国への関税は、単に相手を締め上げるだけでなく、米国内の産業を育て、雇用を増やし、経済を強くする手段だ。2018年の鉄鋼・アルミニウム関税では、米国の鉄鋼産業が雇用を回復し、生産能力が向上した(出典:Economic Policy Institute, 2019年)。

    トランプは2025年2月の演説で「我々の工場を取り戻し、アメリカ人を雇う」と強調し、内需を軸にした経済再生を繰り返し訴えた。関税収入を減税に回す構想も、国民の購買力を高め、消費を刺激する狙いがある。中国への圧力は、内需を強化する一環なのだ。

    「してやったり」という元記事の言葉は、トランプが中国を出し抜いた自信を表す。通商チームは中国の報復を想定していた。2020年の報告書では、米国のサプライチェーンを中国から切り離す方針を掲げ、関税が中国経済を直撃すると見ていた。2025年2月、トランプは「我々は中国に強い圧力をかけた」と胸を張った。

    ブルッキングス研究所の報告によれば、関税は米国に一時的な負担をもたらしたが、中国の輸出経済には大きな打撃だった。トランプの狙いは結果を出していた。中国が報復に出たことで、他の国が軽い関税で済んだ状況を、トランプは活かした。中国を牽制し、米国を有利に導いたと信じたのだ。実業家として、トランプは競争相手を上回る感覚に慣れている。ビジネスでの勝利やブランド作りを、政治の場に持ち込んだ。「してやったり」は、市場で勝ち誇る実業家の声に似る。

    トランプの決断は、戦略と直感が交錯する。ナヴァロやライトハイザーの助言を受けつつ、最後は自分の判断を信じた。ジョン・ボルトンは、トランプが細かい計画より目立つ成果を好むと語った。2018年から2019年の貿易交渉では、中国がすぐ折れると読んだが、予想以上の抵抗に遭った。2期目では麻薬問題を絡め、関税を強めた。だが、2025年3月の自動車関税では、カナダやメキシコとの調整不足で反発を招いた。

    トランプの読みは万能ではない。中国の弱点を突く戦略は功を奏したが、国際的な反応や国内経済への影響を過小評価した部分もある。実業家の経験がここに表れる。トランプのホテル事業では、市場の変化に対応する柔軟さが成功を呼んだが、カジノの失敗はリスクの甘さを示した。関税政策も同じだ。大胆な一手が中国を動かした一方、国内への影響を軽く見た面がある。

    一部でトランプの動きを「3次元チェス」と呼ぶ声がある。衝動を超え、複雑な戦略を重ねているという見方だ。関税は経済の圧力、外交の駆け引き、国内へのアピールを同時に担う。中国の反応を誘い、支持層を固める計算がある。だが、この見方はトランプの計画性を高く評価しすぎるかもしれない。複数の目標を追っていたのは確かだが、計画と即興が混ざり合っていた。

    実業家として、トランプは多層的な思考をビジネスで磨いた。不動産、テレビ、ライセンス契約を並行させ、ブランドを築いた経験だ。関税政策でも、経済と外交と支持層を同時に動かす姿は、ビジネスの戦略を思わせる。だが、政治はビジネスより複雑だ。リスクを取る実業家の感覚が、時に波紋を広げた。

    トランプを狂人、無知、粗暴、ピエロと見るのは明らかな間違いだ。こうしたレッテルは、トランプの意図や成果を無視した偏見にすぎない。トランプは実業家として数十億ドルの資産を築き、複雑なビジネス交渉を成功させてきた。2016年の選挙では、既存の政治勢力を破り、誰も予想しなかった勝利を掴んだ(出典:NY Times, 2016年11月)。

    邪悪なピエロ AI生成画像

    彼の交渉術は、2019年の米中「第1段階合意」で中国から譲歩を引き出し、米国の農産物輸出を拡大した(出典:Reuters, 2020年1月)。2025年3月の演説では、麻薬問題を関税に結びつけ、社会課題への関心を示した。エピソードとして、トランプは2018年に北朝鮮の金正恩と会談し、緊張を和らげた実績もある(出典:BBC, 2018年6月)。これらは、狂気や無知では成し得ない成果だ。トランプのスタイルは型破りだが、戦略的な計算が根底にある。粗暴やピエロという批判は、彼の直接的な発言やパフォーマンスに惑わされた見方にすぎない。

    トランプは中国をどこまで「読んでいた」のか。選挙公約や過去の交渉から、中国を経済的に押さえる意図は明らかだ。90日間の停止や高関税は、交渉と国内支持を睨んだ一手だった。中国の報復を活かし、米国を有利に導いたと信じた。内需拡大を軸に、米国の経済を強くするビジョンがそこにあった。

    だが、すべてを見通せたわけではない。中国の抵抗や他国の反応を読み切れなかった。即興的な対応も目立った。国内への影響を軽く見た面もある。トランプの戦略は、綿密な計算より、目標と直感に突き動かされていた。実業家としての経験が、その根底にある。

    成功と失敗を知るトランプは、リスクを冒し、短期と長期のバランスを考え続けた。政治の複雑さはビジネスの枠を超えるが、トランプは自分の道を突き進んだ。「してやったり」は、トランプが成果を確信し、支持層に響かせる声だ。2025年4月、米中交渉の再開が囁かれる。トランプの次の一手は何か。答えはまだ見えない。

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    2025年4月14日月曜日

    今日は、世界量子デー(World Quantum Day)―【私の論評】量子コンピュータの未来を解く!ソーマトロープと猫が教える不思議な世界

     今日は、世界量子デー(World Quantum Day)

    上のアニメーションDoodle(Googleが特別なイベントや記念日を祝うために、検索エンジンのホームページのロゴを一時的に変更したデザインやアニメーションのこと)は、世界量子デーを祝います! Doodleは、量子コンピューティングを可能にする基本原理の1つである重ね合わせの概念を表現しています。

    世界量子デーについて

    このDoodleは、量子物理学と技術の理解を深める年次行事である世界量子デーを祝います。日付である4月14日は、プランク定数の最初の3桁を表しており、これは量子エネルギー(例えば光子)のエネルギー と周波数の関係を記述します:4.14×10−15 eV。

    今日のDoodleに登場するアートワークは、ソーマトロープを描いています。これは、両面に異なる絵が描かれたディスクからなる道具であり、光学的なおもちゃです。高速で回転させると、私たちの脳は両方の画像を重ね合わせ、1つの画像が合成されたように見えます。ソーマトロープは、粒子が複数の状態に同時に存在する量子重ね合わせの概念を説明するのに役立ちます。

    【私の論評】量子コンピュータの未来を解く!ソーマトロープと猫が教える不思議な世界

    まとめ
    • ソーマトロープとシュレディンガーの猫は、量子力学の重ね合わせ(複数の状態が同時に存在する現象)をわかりやすく説明する例え話である。
    • 量子コンピュータは、重ね合わせ、干渉、もつれを利用し、薬開発、暗号解読、最適化などで革新的な速度を実現する。
    • 2025年は量子力学100周年で、ユネスコが「国際量子科学技術年」に指定し、量子技術の重要性が世界で高まっている。
    • 日本の量子コンピュータ開発は進むが、米中の先行に比べ投資や人材が不足し、加速が必要である。
    • 日本の文化や職人技術、言語の柔軟性は、量子コンピュータ開発に有利な強みを持ち、産業や安全保障での可能性を秘める。
    ソーマトロープとシュレディンガーの猫は、量子の世界の不思議さを鮮やかに描く例え話である。ソーマトロープは、ディスクに鳥とかごの絵が描かれている。ぐるぐる回せば、脳が二つの絵を重ね、「鳥がかごに入っている」姿を見せるのだ。これは、量子の世界で物が「Aの状態」と「Bの状態」を同時に持つことをイメージしやすくする。

    一方、シュレディンガーの猫は、箱の中の猫が「生きている」か「死んでいる」か、開けるまでわからない状況を想像する。実は、開ける前は両方の状態が共存していると考えるのだ。これは、量子の世界で観察されるまで複数の可能性が混在することを示す。どちらも、1つのものが2つの状態を持つ量子の謎を、身近な絵で伝える。

    2025年は量子力学誕生から100年である。ユネスコは「国際量子科学技術年」に定めた。ハイゼンベルクやボルンが基礎を築いたあの瞬間から、100年が経つのだ。


    量子理論は、現代のコンピュータに革命を起こしている。普通のコンピュータは、0か1のビットで動く。だが、量子コンピュータは量子ビットを使い、重ね合わせで0と1を同時に表現する。ソーマトロープの絵が混ざるように、複数の状態を一気に計算するのだ。

    量子干渉は正しい答えを浮かび上がらせ、シュレディンガーの猫のように観察まで状態が共存する不思議さを利用する。量子もつれは、離れた情報を瞬時に結び、複雑な処理を可能にする。これにより、薬開発、暗号解読、最適化が劇的に速くなる。GoogleやIBMが突き進む中、量子理論は普通のコンピュータの暗号やアルゴリズムにも影響を及ぼし、技術を根底から変えている。

    量子コンピュータの未来は、ソーマトロープが新たな絵を描くように、驚くべき解決策を生み出す。がんの特効薬を数日で作れるかもしれない。分子の動きを瞬時に計算し、薬の最適な形を見つけるのだ。今は数十年かかるがん治療薬の開発が、量子コンピュータなら個人に合わせた薬を短期間で生み出す。

    物流では、渋滞を解消するルートをリアルタイムで計算し、エコな社会を築く。AIは気象データを処理して台風を予測し、遺伝子データからがんを早期発見する。軍事では、暗号を一瞬で破る力を持つ一方、量子もつれで盗聴不可能な通信を守る。兵器シミュレーションやドローンの配置も高速化する。まだ道半ばだが、量子理論は新薬、環境、AI、軍事をSFの世界に変える。

    日本の量子コンピュータ開発は、世界に遅れつつも進んでいる。理化学研究所や富士通は2023年、64量子ビットのマシンを完成させた。ソーマトロープの絵が形になり始めた瞬間だ。だが、IBMの1121量子ビットや中国の量子通信に比べると、まだ差がある。中村泰信博士は1999年、超伝導量子ビットを世界で初めて作り、日本の底力を示した。

    だが、2014年頃の国の投資不足で停滞し、海外との差が開いた。2020年の「量子技術イノベーション戦略」や2022年の「量子未来社会ビジョン」で再び動き出したが、2050年までの実用化目標には加速が必要だ。

    日本が量子技術を全力で進めるべき理由は明快だ。まず、国の安全がかかっている。量子コンピュータは暗号を瞬時に破る。独自技術がなければ、機密や金融システムが他国に握られる。2023年のG7で量子が議題に上がり、日本が危機感を持った証拠だ。

    次に、産業の未来がある。量子コンピュータは化学や材料で革新を起こす。富士通と大阪大学は、誤り訂正の量子ビットを10分の1に減らす技術を開発した。これが進めば、新素材や薬で世界をリードする。気候変動対策も変わる。CO2吸収材料を短期間で設計できれば、日本の環境技術が世界の希望になる。分子科学研究所と日立は2025年、中性原子方式のマシンを動かす予定だ。

    だが、投資は米国の37億ドル、中国の150億ドルに対し、日本は2.67億ドルと少ない。研究者も足りず、海外流出が心配だ。しかし、希望もある。2025年の大阪・関西万博で、大阪大学とアルバックが純国産の量子コンピュータを公開する。日本製の部材で作られた初のマシンで、技術自立の象徴だ。

    理研の国産超電導量子コンピューター初号機

    実は、日本には量子コンピュータ開発で有利な強みがある。まず、物事の考え方だ。日本の文化は、調和や曖昧さを重んじる。量子力学の「確定しない状態」を受け入れる発想は、欧米の二元論的な思考より日本の感性に近い。

    2023年の国際量子学会で、日本人研究者が量子もつれを「糸でつながれた双子の心」に例え、複雑な数式をシンプルな物語で説明し、聴衆を魅了した。このエピソードは、日本の直感的な発想が量子研究に新たな光を当てることを示す。

    次に、職人文化だ。量子コンピュータの部品は、ナノメートル単位の精密さが必要だ。日本の半導体技術や光学機器のノウハウは、これに直結する。ニコンやキヤノンのレンズ技術は、量子ビットの制御に必要なレーザー装置に応用されている。

    言語の強みもある。日本語の柔軟な表現は、複雑な量子現象をチームで共有するのに役立つ。東京大学の研究チームは2024年、日本語の「曖昧な指示」を活かし、量子アルゴリズムの設計で新たなアイデアを生んだと報告した。

    これらの強みを生かせば、日本は量子技術で世界を驚かせることになる。産学官が力を合わせれば、量子革命の中心に立てる。ソーマトロープが鮮やかな絵を描くように、量子コンピュータは日本の未来を力強く切り開くのだ。

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    2025年4月13日日曜日

    「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む―【私の論評】貿易赤字と内需縮小の誤解を解く! トランプの関税政策と安倍の知恵が示す経済の真実

     「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む

    まとめ

    • 米国債売却と長期金利急騰トランプ政権下で米国債の大量売却が続き、10年物利回りが3.9%から4.6%近くまで急上昇、24年ぶりの週間上昇幅を記録。30年債も38年ぶりの上げ幅。相互関税90日間停止でも売りが止まらず、ドル安と米国資産離れが進行。
    • 要因と懸念各国機関投資家や中国の売却、欧州由来の売り圧力が要因とされる。米国債の安全資産としての地位低下が懸念され、市場の動揺が続いている。

    大統領専用機内で取材に応じるトランプ米大統領=11日、米ウェスト・パーム・ビーチ

     トランプ米政権下で米国債の売却が止まらず、長期金利が急激に上昇している。9日に相互関税の大部分を90日間停止する措置を発表したが、市場の売り圧力は収まらず、ドル安が急速に進んでいる。投資家の米国資産離れが目立ち、市場に動揺が広がっている。米国債は通常、世界で最も安全な金融資産とされるが、現在の株価乱高下の中でも売られ続け、専門家からは「米国債の安全資産としての地位が揺らぐ」との声が上がっている。

     長期金利の指標である10年物米国債利回りは、週明け7日未明の3.9%前後から8日夜には4.5%付近まで急騰。関税停止で一時低下したものの、11日には4.6%近くに達した。ロイターによると、10年債利回りの週間上昇幅は2001年以来24年ぶりの大きさで、30年債も1987年以来38年ぶりの上昇幅を記録。背景には、機関投資家の売却、中国の報復的売却の臆測、欧州からの売り圧力があり、米国債市場の混乱が続いている。

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    【私の論評】貿易赤字と内需縮小同一視の誤解を解く! トランプの関税政策と安倍の知恵が示す経済の真実

    まとめ
    • 貿易赤字と内需縮小は別物である。内需が強いと輸入が増え、貿易赤字が拡大することがあり、縮小とは逆の現象だ。為替や国際競争力も赤字に影響し、内需とは直接関係しない。
    • 米国の基軸通貨であるドルは、貿易赤字を維持しやすくする。世界的なドル需要により、米国は内需の強弱に関係なく赤字を続けられ、基軸通貨の特権で縮小を避けられる。
    • 関税は輸入を抑えるが、報復関税や物価上昇で赤字削減や内需拡大の効果は限定的だ。トランプ政権の関税政策は、市場混乱を抑えきれず、限界を示した。
    • トランプは貿易赤字を内需縮小と結びつけ、輸出依存を下げて内需を強化する戦略を持っていた可能性がある。しかし、関税に頼りすぎ、効果を期待できない。
    • 内需拡大には、関税よりインフラ投資、減税、教育支援が有効だ。これらは国際摩擦や物価上昇を避け、経済を穏やかに成長させる。
    • 安倍晋三元首相は、トランプに内需重視の戦略を伝え、過激な関税を抑えた可
    • 能性がある。日米貿易協定や首脳会談での対話が、保護主義のリスクを軽減した。
    貿易赤字と内需の複雑な関係


    貿易赤字とは、輸入が輸出を上回る状態だ。消費者が外国製品を買いあさったり、企業が海外から原材料を調達したりすれば、輸入が増え、貿易赤字が膨らむ。一方、内需は、国内の消費、企業の投資、政府の支出など、経済を動かす力の総和である。内需が縮小すれば、消費や投資が減り、経済は停滞する。だが、貿易赤字と内需の縮小が直結すると思うのは早計だ。

    経済が好調で、消費者がガンガン買い物をしたり、企業が投資を増やしたりすれば、国内の生産では追いつかず、輸入が急増する。内需が強いからこそ、貿易赤字が拡大するのだ。これは縮小とは真逆の話だ。米国の貿易赤字は、消費者が外国製品を求める強い内需に支えられてきた。

    2022年の商務省のデータでは、米国の貿易赤字が9710億ドルに達したが、パンデミック後の消費ブームが輸入を押し上げた結果だ。為替レートや国際競争力も赤字に影響する。ドル高なら輸入品が安くなり、赤字が膨らむが、これは内需の縮小とは無関係だ。2022年にドル指数が20年ぶりの高水準を記録したとき、輸入が加速し、赤字が拡大した。

    輸出産業が弱ったり、企業が海外で生産したりすれば、輸出が減り、赤字が増える。これも内需とは別問題だ。内需が縮小しても、海外の需要が落ち込んだり、輸出品の競争力が低下したりすれば、輸入が相対的に多くなり、赤字が続く。

    2023年の世界貿易機関の報告では、グローバルな需要減が米国の輸出を圧迫し、赤字を維持したとある。米国の基軸通貨、米ドルがこの構図をさらに複雑にする。ドルは世界の貿易や投資の柱であり、原油や金の取引もドル建てだ。

    2022年の国際決済銀行のデータでは、国際取引の88%がドル建てだった。世界中がドルを欲しがるから、米国は貿易赤字を維持しやすい。消費者が外国製品を買い、企業が海外から原材料を輸入すれば、ドルで支払う。ドルはどこでも通用するから、輸入は簡単だ。内需が強ければ輸入が増え、赤字が膨らむ。だが、内需が弱まっても、ドルへの需要は揺るがず、輸入が減りにくい。

    関税とトランプの経済戦略


    関税も話をややこしくする。関税は輸入品に課す税金で、価格を上げ、輸入を抑える効果がある。2018年、トランプ政権が中国製品に25%の関税をかけたとき、米通商代表部の報告では、対象品の輸入 が一時的に減った。だが、相手国が報復関税を課せば、輸出が減り、赤字が逆に増える。

    2019年の米国農務省のデータでは、中国の報復関税で大豆輸出が40%減少し、赤字削減の効果は薄れた。関税は内需にも響く。輸入品の価格が上がれば、消費者が国内製品に目を向けるかもしれないが、物価上昇で財布の紐が固くなり、内需が縮小することもある。2020年の全米経済研究所の研究では、トランプ政権の関税が物価を0.4%押し上げ、消費を冷やしたとされる。

    関税を下げれば、輸入品が安くなり、消費が刺激されて内需が拡大するが、輸入が増えるから赤字が膨らむ。為替レートやサプライチェーンの変化も絡むから、関税の効果は一筋縄ではいかない。中国からの輸入が減っても、ベトナムやメキシコからの輸入が増え、2021年の商務省データでは赤字に大差はなかった。記事で、トランプ政権が相互関税を90日間停止したのに、赤字や市場の混乱が収まらなかったとあるのは、関税の限界を示す。

    トランプが貿易赤字を内需の縮小と結びつけていた可能性は、彼の発言や政策から読み取れる。彼は赤字を「米国の富が海外に奪われる問題」と捉え、国内経済の弱さと直結させた。2018年3月のツイートで、「莫大な貿易赤字は国にとって良くない。製造業を国内に戻し、雇用を取り戻す」と言い切った。赤字は内需、特に製造業の衰退を意味すると考えていたのだろう。

    高関税政策は、輸入を減らし、国内生産を増やして赤字を縮小し、内需を強くする狙いだった。2018年の鉄鋼・アルミニウム関税の演説で、「関税は米国の工場を再び動かし、労働者を守る」と力説した。だが、関税が内需を大きく押し上げることはなかった。

    2020年のピーターソン国際経済研究所の分析では、関税で製造業の雇用が少し増えたが、物価上昇が消費を圧迫し、内需への効果は小さかった。トランプは赤字を「負け」と単純化し、基軸通貨やグローバル経済の複雑さを軽視した節がある。2019年の経済諮問委員会との対話で、「赤字は中国に奪われた雇用だ」と語ったが、経済学者は赤字の多くがドル需要や消費パターンによるものだと指摘した。

    過去のこのブログで主張したように、トランプが米国の輸出依存度を下げ、内需を拡大しようとした可能性は十分に感じられる。米国の輸出はGDPの12%(2022年、商務省データ)だが、第二次世界大戦中や戦後は5~8%と低く、国内市場中心の経済だった。トランプの「アメリカ第一主義」は、輸出より国内の生産と消費を優先し、赤字を減らしつつ内需を強くする戦略だったと見える。

    2017年の税制改革は、企業や家計の可処分所得を増やし、内需を刺激した。2020年の連邦準備制度のデータでは、税制改革で個人消費が1.1%増えたとされる。だが、関税に頼りすぎたため、物価上昇や報復関税で効果が打ち消された。トランプが内需拡大を真剣に目指したなら、関税より穏やかな方法があった。

    インフラ投資はその一つだ。道路や橋、公共交通の整備に大金を投じれば、建設業の雇用が増え、経済が回る。2017年にトランプが提案した1兆ドルのインフラ計画は議会で潰れたが、2021年のバイデン政権のインフラ法(1.2兆ドル)は、2023年にGDPを0.5%押し上げた(商務省試算)。税制の優遇も有効だ。

    中小企業や中低所得層の減税を増やせば、消費や投資が伸びる。2020年のピーターソン国際経済研究所の報告では、個人向け減税が消費を直接押し上げるとある。教育や職業訓練への投資もいい。労働者のスキルを上げれば、国内産業の生産性が上がり、輸入依存が減りつつ内需が強まる。2022年の労働統計局のデータでは、技術訓練を受けた労働者の賃金が10~15%高く、消費を支えた。これらの方法は、関税のような国際的な軋轢や物価上昇を避け、経済を滑らかに成長させる。

    安倍元首相の影響と経済の未来

    安倍総理とトランプ大統領

    安倍晋三元首相は、トランプの関税政策を穏やかにしたとみられる。安倍はトランプと個人的な信頼を築き、2017年から2020年まで首脳会談やゴルフ外交で頻繁に対話した。外務省の記録では、2017年から2019年だけで日米首脳会談が10回以上あり、経済や貿易が中心議題だった。安倍は日本の経験を基に、内需主導の経済成長の重要性をトランプに伝えたかもしれない。

    安倍政権の経済政策は、内需と輸出のバランスを模索したが、内需主導への転換は道半ばだった。しかし、2013年のアベノミクスは、金融緩和や財政出動で内需を刺激し、2014年にGDP成長率を1.4%押し上げた(内閣府データ)。この成功を、トランプに「関税より内需重視が賢い」と説いた可能性がある。2019年9月の日米貿易協定交渉は、その一例だ。

    トランプは当初、自動車など日本製品に高関税をちらつかせたが、安倍は交渉で関税引き上げを回避し、デジタル貿易や農産物の相互開放で合意した。ロイターの2019年9月26日の報道では、安倍が「関税の応酬は両国経済に害」とトランプを説得し、米国の農家支援策を提案して妥協を引き出したとある。この協定は、米国の対日赤字を大きく減らさなかったが、関税戦争の激化を防ぎ、両国の内需への悪影響を抑えた。

    安倍のアプローチは、関税より協調的な経済政策が繁栄の鍵との信念に基づいていた。2018年のG7サミットでも、安倍はトランプの保護主義に対し、自由貿易の重要性を説き、米国の内需を傷つけない方法を議論した(日経新聞、2018年6月10日)。2017年の訪米時の演説(2月10日、ホワイトハウス)で、「日米の経済は相互依存であり、開かれた市場が繁栄の鍵」と述べ、保護主義のリスクを牽制した。

    安倍の影響は、トランプの関税政策が一部で抑えられた点にも表れている。トランプは2018年に中国に大規模な関税を課したが、日本やEUに対しては全面的な関税戦争を避け、部分的な合意を選んだ。安倍ら同盟国のリーダーが、関税の副作用を警告した結果だ。安倍の助言がなければ、トランプの関税政策は上の記事のような市場の混乱をさらに悪化させ、経済的緊張を高めていたかもしれない。

    米国は長年、大きな貿易赤字を抱えている。基軸通貨のドルがこれを支える。消費者が外国製品を買い漁り、内需が強いから、輸入が増えて赤字が膨らむ。ドルは世界中で必要とされるから、赤字が続いても問題が少ない。

    上記事では、米国債売却やドル安でドルへの信頼が揺らいだが、赤字が内需縮小と直結せず、関税や市場の動揺が絡む複雑な状況だった。日本のような基軸通貨でない国なら、赤字が通貨安を招き、内需が縮小する。だが、米国は基軸通貨の特権でこれを避けられる。トランプが赤字を内需の縮小と結びつけた可能性は、彼の発言や政策から感じる。

    だが、データや分析を見れば、赤字は内需だけでなく、ドル需要やグローバル経済の構造に依存する。彼が内需拡大を目指したなら、関税よりインフラ投資、減税、教育支援が、内需を育て、赤字への依存を減らせた。安倍がこうした戦略を伝え、過激な関税を抑えた可能性は、両者の緊密な対話や日本の経験から納得できる。結局、貿易赤字の拡大は、内需の強さ、為替、国際競争力、基軸通貨、関税など、さまざまな要因で決まる。

    米国では、ドルが基軸通貨だから、内需が強くても弱くても赤字を維持でき、縮小に直結しない。関税は輸入や内需に影響するが、報復関税や物価上昇で効果は複雑だ。トランプの視点は赤字を経済の弱さと結びつけたが、現実はもっと複雑だ。しかし、この類の勘違いをする人間は多い。トランプが目立っただけだ。

    安倍の知恵がトランプを導き、関税の罠から経済を引き戻したなら、それは歴史に刻むべき功績だ。今回もトランプは、過去の安倍の説得を思い返しており、安倍の説得の正しさを今更ながら噛み締めているだろう。貿易赤字と内需縮小を一緒にするのは、経済の真実を見誤る愚かな過ちである。複雑な仕組みを解き明かし、冷静に未来を切り開くことこそ、今、我々に求められているのだ。世界各国は国内でも、国際的にも経済の真実を握り、揺るぎない一歩を踏み出すべきときが来たのだ。

    上の見方は、トランプの考え方そのものが間違いであるとの前提で解説したが、無論未だそれを結論付けることはできない。トランプは上で解説したことを知った上で、関税政策を意図的に実行している可能性もある。それは、今後の推移で見えてくるだろう。そのようなことがあれば、またこの話題について掲載しようと思う。ただ、上の解説をご覧いただくと、貿易赤字と内需縮小を一緒にして経済の真実を見誤る愚かな過ちについてご理解いただけるもの考える。

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    2025年4月12日土曜日

    与党が物価高対策で消費減税検討 首相、近く補正予算編成を指示 「つなぎ」で現金給付へ―【私の論評】日本経済大ピンチ!財務省と国民の未来を賭けた壮絶バトル

    与党が物価高対策で消費減税検討 首相、近く補正予算編成を指示 「つなぎ」で現金給付へ

    まとめ
    • 消費税減税・現金給付:与党は食料品の消費税減税と一律現金給付を検討。公明は2026年度実施を主張、自民は賛否分かれる。給付額は3~10万円、財源に赤字国債も。
    • 経済対策・補正予算:石破首相は2025年度補正予算案を指示、自動車業界助成含む経済対策を今国会で成立目指す。
    首相官邸に入る石破首相 4月2日

     自民・公明の与党は、物価高対策として食料品の消費税減税を検討し、実現までの「つなぎ」として一律現金給付を行う方針。石破首相は2025年度補正予算案の編成を指示予定で、今国会での成立を目指す。経済対策にはトランプ政権の自動車関税への対応として自動車業界への助成も含まれる。

     公明の斉藤代表は消費税減税の必要性を強調し、2026年度からの実施を「常識的」と述べた。自民内では減税賛成派もいるが、執行部には社会保障財源を理由に慎重論が強い。現金給付は自民内で3~5万円、公明内で10万円の案があり、財源として赤字国債も検討されている。


     この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

    【私の論評】日本経済大ピンチ!財務省と国民の未来を賭けた壮絶バトル

    まとめ
    • 林官房長官の否定発言: 2025年4月11日、林芳正官房長官は現金給付や消費税減税の検討を否定。消費税は社会保障の柱として減税は不適切と断言したが、対応は曖昧に「適切に」とした。
    • 財務省派と反財務省派の対立: 日本の政治は、財政規律を重視する財務省派(加藤勝信、森山裕ら)と、減税・給付を求める反財務省派(斉藤鉄夫、玉木雄一郎ら)の激しい対立に支配される。
    • 反財務省派の積極策: 反財務省派は食料品の消費税減税(2026年度目標)や現金給付(3~10万円)を推進。石破首相は補正予算を指示し、自動車業界支援を含む経済対策を今国会で目指す。
    • 財務省派の抵抗と批判: 財務省派は消費税減税や給付に反対し、財政の安定を優先。2025年2月のデモは、財務省派の硬直した姿勢への国民の不満を反映。
    • マクロ経済的提言: マクロ経済の視点では、デフレ脱却のため5%への時限的消費税減税、低所得者向け給付金、ゼロ金利維持、国債発行による財政拡大を提案。財務省派の緊縮はデフレを長引かせ、債務負担は低金利で軽いと主張。
    日本は今、経済の荒波に飲み込まれそうになっている。物価高が国民の暮らしを締め付け、トランプ政権の関税が新たな危機を突きつける。政治の舞台裏では、対立の火花が飛び散り、国民は不安の渦に巻き込まれる。昨日、林芳正官房長官が放った言葉は、そんな混沌を切り裂く一撃だった。「新たな給付金や減税の検討はない」。消費税減税や現金給付を求める声が高まる中、この発言は氷のように冷たく響いた。

    林芳正官房長官

    新年度予算が固まったばかりであり、消費税は社会保障の柱だから減税は不適切だと林は断言する。だが、適切な対応は取ると付け加えた。この曖昧な一言、国民の心を掴むにはあまりに頼りない。

    この発言は、食料品の消費税減税や一律現金給付を進める動きと真っ向から対立する。金額は3~5万円から大胆な10万円まで議論され、石破茂首相は補正予算の編成を指示し、自動車業界への助成も含めた経済対策を今国会で成立させる気だ。2020年の10万円給付や2023年の所得税減税を思えば、この積極姿勢は驚くに値しない。トランプの関税が自動車産業を直撃する危機感も、こうした動きを後押しする。国民の生活を守るため、選挙を前に支持を集めるため、行動は加速する。

    だが、林官房長官の否定は、まるで別の世界の話だ。このズレはどこから来るのか。答えは明快だ。日本の政治は、財務省派と反財務省派の激しい綱引きに支配されている。財務省派は、財政規律という鉄の掟を死守し、消費税を社会保障の命綱と信じる。

    対する反財務省派は、国民の苦しみを和らげるため、大胆な減税や給付を求める。2025年2月、財務省の硬直した姿勢に抗議するデモが東京で起きた。市民は「国民の生活より数字か」と怒り、財務省の解体を叫んだ。この不満は、財務省派が国民からどれだけ遠いかを物語る。

    この綱引きは、複雑な政治の戦場だ。反財務省派は、国民の声を背に、消費税減税や現金給付を強く推す。公明党の斉藤鉄夫代表は「来年度からの減税が常識だ」と言い切り、赤字国債も視野に入れる。

    ただし、これは選挙目当ての観点が強いだろう。ただ斉藤代表は2025年4月22日から25日にかけて中国を訪問する予定だ。中国共産党幹部や政府要人と会談し、日中関係の深化や日本産水産物の輸入規制解除などを議題とする見込みだ。これを考えると、斉藤代表は、日本経済を良くして中国からの輸入を増やしたいのかと疑いたくもなる。もし政府が大規模な減税をするとしたらこれを企図している可能性も否定しがたい。ただし、公明党は与党であり、与党政治家がこう語っていること自体は評価したい。

    国民民主党の玉木雄一郎代表も、所得税減税や消費税軽減を訴え、国民の側に立つ姿勢を鮮明にする。2024年、国民民主党は非課税所得限度額の引き上げを勝ち取ったが、財務省派の抵抗で中途半端な結果に終わった。この闘争は、短期的な救済を求める声と、長期的な財政責任を優先する考えの激突だ。

    公明党の斉藤鉄夫代表

    対する財務省派はどうか。財務大臣の加藤勝信は、元官僚の冷徹な論理で動く。2025年2月の衆議院予算委員会で、彼は「財政の安定が最優先」と断言し、減税や追加支出を牽制した。自民党の森山裕幹事長も、消費税減税に否定的だ。「社会保障の財源を削れば、国民に迷惑がかかる」と彼は言う。これが財務省派の鉄壁の論理だ。2024年10月、加藤の財務大臣就任は、財政規律を貫く姿勢の象徴だった。財務省派の影響力は、予算編成や税制改正で動きを縛り、時に「強すぎる」と批判される。

    この対立は、2025年初頭に一層鮮明になった。物価高とトランプの関税が経済を直撃し、反財務省派は食料品の消費税減税や現金給付を強く求めた。しかし、財務省派は財政の安定を盾に、これを跳ね返す。国民民主党は、所得税の非課税限度額引き上げを提案したが、財務省派は「経済のバランスが崩れる」と一蹴した。加藤財務大臣は、財政の安定を理由に、慎重な姿勢を崩さない。森山幹事長も、消費税の重要性を説き、減税は社会保障を脅かすと警告した。

    だが、反財務省派の声は止まらない。玉木雄一郎は「今、国民が求めているのは即時の支援だ」と訴え、経済の苦境を強調する。斉藤鉄夫も、消費税減税の必要性を力説し、来年度からの実施を現実的な目標に据える。この分裂は、政治の根深い問題を映し出す。長期的な財政責任か、短期的な経済救済か。財務省派の影響力は強いが、批判も多い。2025年2月のデモは、財務省派が国民のニーズを無視しているとの不満が爆発した瞬間だった。


    この闘いは、単なる政策論争ではない。日本の未来を左右する戦いだ。反財務省派の積極策は、選挙を意識したものかもしれない。2025年夏の参議院選挙が近づく中、国民の支持をどう集めるかは死活問題だ。2020年の10万円給付金は、国民の記憶に残る成功例だ。一方、財務省派の慎重論は、経済の安定を重視する視点から出ている。林官房長官の「適切な対応」という言葉は、このジレンマの象徴だ。何かを約束するでもなく、何かを否定するでもなく、ただ曖昧に響く。

    この対立は、妥協でしか解決しない。過去を振り返れば、2024年の税制改革で、国民民主党は非課税所得限度額の引き上げを求めたが、財務省派の抵抗で中途半端な妥協に終わった。10万円給付案も、3~5万円に落ち着くかもしれない。財務省派は歳入を守るため、減税より限定的な支援を押し通すだろう。選挙前の熱狂と、経済の現実がぶつかり合う中、日本の政治は揺れる。

    財務省派と反財務省派の主要人物とその立場
    以下は、2025年時点で財務省派と反財務省派に属するとみられる現時点で影響力のある主要人物とその立場だ。なお石破首相の立場は状況に応じて揺れるので除外した。

    派閥主要人物立場エビデンス/エピソード
    財務省派加藤勝信(財務大臣)財政規律を重視し、減税や追加支出に慎重。消費税は社会保障の柱と強調する。2025年2月の衆議院予算委員会で「財政の安定が最優先」と発言。2024年10月の財務大臣就任で財務省の影響力を強化。
    財務省派森山裕(自民党幹事長)消費税減税に否定的。社会保障財源の確保を優先し、財政拡大を牽制する。2025年4月11日の記者会見で「社会保障の財源を削れば国民に迷惑」と強調。
    財務省派林芳正(官房長官)財務省の慎重論を代弁し、給付金や減税の検討を否定。財政規律を支持する。2025年4月11日の記者会見で「新たな給付金や減税の検討はない」と発言。
    財務省派麻生太郎(自民党副総裁)財政健全化を重視し、過去の税制改正で財務省寄りの姿勢を示す。影響力は依然強い。2024年の自民党総裁選で財政規律派の候補を支持(NHK報道)。
    財務省派鈴木俊一(元財務大臣)財務省出身で、財政規律を一貫して主張。減税や給付に慎重な立場を維持。2023年の予算編成で「財政の持続可能性」を強調(日本経済新聞)。
    反財務省派斉藤鉄夫(公明党代表)消費税減税を強く主張し、国民の負担軽減を優先。赤字国債も視野に入れる。2025年4月11日の記者会見で「来年度からの減税が常識的」と発言。
    反財務省派玉木雄一郎(国民民主党代表)所得税減税や消費税減税を推進。国民の即時支援を求め、財務省の抵抗に反対。2024年12月の税制改正で非課税限度額引き上げを部分実現(FiscalNote)。
    反財務省派高市早苗(自民党政調会長)経済活性化を優先し、消費税減税や給付に前向き。財務省の緊縮に批判的。2024年の総裁選で積極財政を主張(産経新聞)。
    反財務省派西村康稔(自民党経済産業相)産業支援と経済成長を重視し、減税や給付で需要喚起を支持。財務省に異議。2025年3月の経済対策で自動車産業支援を推進(朝日新聞)。
    反財務省派山本幸三(元地方創生相)リフレ派の重鎮で、消費税減税と財政拡大を強く主張。財務省の緊縮を批判。2024年の講演で「消費税は経済のブレーキ」と発言(YouTube講演)。

    結論だ。日本経済を現状を認識した上での標準的なマクロ経済の視点(以下マクロ経済の視点とする)に基づけば、答えは明確だ。日本経済は今、デフレの呪縛から抜け切れていない。2025年、物価は上がるが、実質賃金の伸びは鈍く、消費は弱い。マクロ経済の視点からはデフレマインドを打破し、需要を喚起するため、大胆な財政・金融政策が必要だ。

    消費税減税・撤廃は、国民の購買力を高め、経済を動かす即効薬だ。消費税撤廃の前にまずは5%への減税なら、歳入への影響を抑えつつ、消費を刺激できる。その後は、様子をみて、減税の幅を増やし、撤廃するしないは様子をみて決めても良いだろう。私としては、経済の実情にあわせて、インフレが亢進した場合は、亢進度合いインフレ要因によって税率を定めて消費税を導入、デフレになれば要因など関係なくすぐに低減・撤廃するなどの柔軟な対応をすべきと思う。柔軟さがマクロ経済の鉄則だ。社会保障の柱とするなどはありえない議論だ。

    こうした段階的に措置によって、反財務省派の、消費税の低減・廃止により経済が発展するという理論が実証されるだろう。その方向性に日本が動く姿勢をみせれば、消費税を非関税障壁とみなすトランプも納得するだろう。現金給付も、低所得者向けに絞れば、効率的に需要を押し上げる。日銀の金融緩和はゼロ金利を維持しつつ、国債発行で財政拡大を支えるべきだ。

    財務省派の『財政規律』は、まるで経済を縛る鎖だ。マクロ経済の視点では、ケチな締め付けはデフレを長引かせるだけだ。日本の公的債務は確かに大きいが、資産を加味すればカナダ並みに低い。EU流の統合政府で見れば、2019年頃にはすでに財政は黒字だ。低金利の今、債務の重さは大したことない。債務のGDP比を騒ぐ声もあるが、経済を大きくすれば自然と小さくなる。2020年の給付金は、国民の買い物を増やし、経済を支えた実績がある。

    今必要なのは、国民の生活を支え、経済に火をつける政策だ。消費税減税と給付金を組み合わせ、自動車産業への補助金も加えれば、トランプ関税の打撃を和らげ、成長のエンジンを回せる。財務省派も反財務省派も、国民の未来を見据え、硬直した論理を捨てて大胆な一歩を踏み出すべきだ。それが、日本を再び輝かせる唯一の道だ。

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