2025年11月28日金曜日

EUの老獪な規範支配を読み解く──鰻・鯨・AI・中国政策・移民危機から見える日本の戦略

まとめ

  • EUは“規範による支配”で世界を縛ろうとしており、鰻・鯨からAIまで、自らに都合の良いルールを国際基準として押しつけている。
  • 鰻規制案否決は、日本が科学的根拠とアフリカ諸国との外交努力により、EUの規範攻勢を退けた成功例である。
  • フランスの戦後外交やEUの対中政策が象徴するように、欧州は自国の利益のためなら“物語をいつでも書き換える老獪さ”を持つ一方、移民問題では理想主義が裏目に出て脆さも露呈している。
  • 中国は悪辣な手段で影響力を拡大しており、リベラル派の理想主義ではEUの老獪さにも中国の浸透にも対抗できない。
  • 日本は高市政権のような現実主義の下、科学的根拠・アジア・アフリカとの票ブロック・日米協力という“三本柱”で国益を守り、規範戦争を主導する側に立つべきである。
1️⃣鰻と鯨に仕掛けられた“規範の罠”


近ごろ、スーパーの鰻が高いと感じる人は多いはずだ。種類や時期で差はあるが、国産鰻が長期的に高値で推移しているのは事実である。

その鰻をめぐり、日本は今、国際政治の渦中にいる。ウズベキスタンで開かれたワシントン条約(CITES)締約国会議で、ニホンウナギを含むウナギ属全種を輸出入規制に加える案が出されたからだ。可決されれば日本の食文化は大きな痛手を受けていた。

結果は、反対が賛成を大きく上回る否決だった。日本が「科学的根拠がない」と訴え、TICADでアフリカ諸国の支持を固めたことが決め手になった。木原官房長官は「ニホンウナギは絶滅の恐れなし」と明言し、鈴木農水相も日本の粘り強い外交が功を奏したと語った。

しかし根本問題は、なぜここまで欧州が絡んでくるのかにある。
答えは明快だ。
EUが“規範による支配”で世界を縛ろうとしているからである。

ヨーロッパウナギは附属書Ⅱに登録され、EU域外への輸出は禁止されている。つまりEUは鰻の世界流通を握っている。建前は自然保護だが、実際は自分たちの基準を世界に押しつける政治である。

鯨も同じだ。捕鯨の議論はIWCが主役だが、産業を窒息させたのはCITES附属書Ⅰだ。捕っても売れなければ産業が死ぬ。この二重封鎖を仕掛けたのが、EUと英国の巨大投票ブロックである。
 
2️⃣フランスの厚顔無恥とEUの手のひら返し外交

5月8日はフランスの戦勝記念日。この日にはフランス国内の各地で戦勝記念パレードが行われるが・・・

欧州の老獪さを象徴するのがフランスである。本来フランスは第二次大戦でドイツに敗れた敗戦国だ。それにもかかわらず、戦後の国際秩序で堂々と“戦勝国ヅラ”をし、国連安保理常任理事国の座までねじ込んだ。この図太さと狡知こそ、いまのフランスの影響力の源である。

EUの対中外交も同じだ。中国が巨大市場として成長していた時期、EUは理想論では人権を語りつつも中国との経済関係を深め、利益を優先した。ドイツは自動車産業保護のため中国依存を強め、フランスも商売のため北京へ笑顔で向かった。

しかし中国の台頭が欧州自身の産業と安全保障を脅かし始めると、EUは途端に手のひらを返した。「体制的ライバル」「脱中国依存」──昨日まで持ち上げていた中国を、翌日には“警戒すべき相手”に変える。自国利益のためには物語をいくらでも書き換える。これが欧州の本性である。

ただしEUは万能ではない。
むしろ構造的な弱点がある。移民問題だ。

2015年、ドイツのメルケル首相は理想主義を掲げ国境を開き、100万超の難民を受け入れた。結果、治安悪化、社会統合の崩壊、反移民政党の急伸、欧州各地のテロ頻発につながった。スウェーデンではギャング犯罪が国家危機となり、フランスでは移民二世の不満が暴動として噴出した。

つまり、
EUは外に対して老獪だが、内では理想主義に足をすくわれ、脆くなる。

しかもEU内部は利害で真っ二つだ。
ドイツは中国依存が深く強硬策に慎重。
フランスは自国の“栄光”外交が最優先。
東欧は反中・反露の歴史的背景を抱え強硬。
南欧は経済難から中国資本を歓迎する。

EUは一枚岩どころか、寄せ木細工のような矛盾の集合体である。
ここに日本が入り込む余地がある。
 
3️⃣お花畑では国は守れない──高市政権と“日本の三本柱”

ここで一つ、はっきり言っておくべきことがある。
リベラル・左派のお花畑では、EUの老獪さにも、悪辣な中国にも対抗できない。

「話し合えばわかる」「国際社会が助けてくれる」──
そんな夢物語が通用する世界ではない。

欧州が中国を持ち上げ、利用し、脅威になれば裏切ったように態度を変える姿を見れば、世界が理念で動いていないことは一目瞭然だ。動かしているのは、力と国益である。

中国は海洋侵出、サイバー攻撃、世論操作など、あらゆる手段で日本を揺さぶってくる。
その行動原理は“悪辣”であり、国際ルールも道義も通じない。
こうした相手に、お花畑で勝てるはずがない。

衆院本会議で就任後初めての所信表明演説をする高市首相


だからこそ、
高市政権の成立は、日本にとって望ましい。

高市氏は経済安全保障、技術、情報戦、サイバー防衛の重要性を早くから訴え、中国の脅威を真正面から指摘してきた政治家だ。EUの規範攻勢にも、感情ではなく科学と技術で対抗する姿勢を持つ。

いま日本が必要としているのは、この現実主義である。

では、取るべき戦略は何か。

第一に、科学的根拠を武器に国際ルールを主導する。
今回のウナギ規制案否決は、その有効性を証明した。

第二に、アジア・アフリカとの票ブロックを固める。
EUの巨大票田に対抗するには、多数国と連携するほかない。

第三に、米国との協力を第三の柱とする。
米国は科学に基づく基準を重視し、EUの規制過剰に警戒している。
日米が連携し、アジア・アフリカを巻き込めば、欧州票ブロックに対抗できる。

世界は善意では動かない。
鰻も、鯨も、AIも、中国政策も──
背景には、国益と力の衝突がある。

日本は、EUの罠にも、悪辣な中国の圧力にも屈してはならない。
主導権を握る側に立つ覚悟が必要だ。

そのためには、お花畑を捨て、現実を見る政治が不可欠である。
高市政権のような現実主義のリーダーシップの下、
科学・外交・同盟の三本柱で、
老獪なEUと悪辣な中国に立ち向かっていくしかない。

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まとめ EUは“規範による支配”で世界を縛ろうとしており、鰻・鯨からAIまで、自らに都合の良いルールを国際基準として押しつけている。 鰻規制案否決は、日本が科学的根拠とアフリカ諸国との外交努力により、EUの規範攻勢を退けた成功例である。 フランスの戦後外交やEUの対中政策が象徴す...